JP4059637B2 - 自動車用燃料噴射部品の液相拡散による組立接合方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、拡散接合技術を用いて製造した自動車用燃料噴射部品に関し、特に、従来、素材から切削、削りだし、穿孔、型抜き等の機械加工、或いは直接溶融金属から鋳造、または鍛造等で環状ないし中空形状を有する機械部品の加工に代わる液相拡散接合により製造した自動車用燃料噴射部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、環状或いは中空形状を有し、特に耐磨耗性、耐食性、耐疲労性の諸特性を個々に、或いは同時に、かつ長時間にわたって要求される機械部品、例えば、回転部品を軸受け、ベアリング、シリンダーの摺動管などは、要求品質を満足するために、比較的合金比率が高い、例えば、JIS−SUJに代表される軸受け鋼ではC:1%、Cr:1%に加え、更にMn,Moを含有した鋼材を使用しているが、部品同士を溶接等により組み立てることは困難である場合が多い。そのために、複雑な形状を有する機械部品については塊状の鋼塊から削りだし、或いは熱間鍛造や穿孔によって概略成形し、更に仕上げ加工を施した後、要求仕様に応じて球状化処理、浸炭処理を行なって製造している。従って、原材料の鋼塊価格よりも寧ろ製造工程における各種加工工程コストが製品価格の大半を占めている。一方で、自動車をはじめとする信頼性の要求される精密機械部品では、同時に長時間の耐久性が要求され、長期間での仕様コスト低減を指向している。従って、例え高価であっても塊状金属から従来の製造方法で製造したこれら精密機械部品が多用され、多くの部品価格、牽いては最終製品価格の上昇を引き起こしている。
【0003】
また、通常金属材料を加工して任意の形状とする方法のうち、最も量産性が高く、低コストの方法として熱間圧延、プレス成型が採用されているが、これらの技術は単一の形状、多くの場合は板などの簡単な形状を有しており大量生産に好適であるも、中空形状の機械部品、環状部品を上述の圧延やプレス成型で歩留まりよく直接製造することはその形状の制約から難しく、現在では全く工業化されていない実情にある。従って、環状或いは中空形状を有する複雑な精密自動車用燃料噴射部品を効率よく大量生産する技術は工業的に確率されている状況になく、一方コスト低減の観点からも従来とは全く異なる製造プロセスの開発が切望されている。
【0004】
一方、最近においては液相拡散接合の技術が脚光を浴びている。この液相拡散接合技術は、接合しようとする材料の接合面、すなわち開先間に、被接合材料に比較して低い融点を有する合金、例えば、結晶構造の50%以上が実質的に非晶質であり、かつ拡散律速の等温凝固過程を経て継ぎ手を形成能を有する元素、例えばB,P,Ni,Feなどの多元合金を介在させ、継ぎ手を挿入した低融点合金の融点以上の温度に加熱保持し、等温凝固過程で継ぎ手を形成する技術である。
【0005】
この液相拡散接合技術は、通常の溶接技術と異なり、溶接残留応力が殆どないこと、或いは溶接のような余盛りを発生しない平滑かつ精密な継ぎ手を形成できるなどの特徴を有している。しかもこの技術は面接合であるため接合面の面積によらず接合時間が一定で、かつ比較的短時間で接合が完了する利点を有し、従来の溶接とは全く異なる接合技術である。従って、開先さえ挿入して低融点金属以上の温度に所定時間保持できれば、開先形状を選ばず面同士の接合を実現できる。また、一方では、従来の非酸化性雰囲気でのみ実現可能な液相拡散接合について、酸化性雰囲気下でも適用可能な液相拡散接合用合金箔が知られている。(特許第1891618号、同第1891619号、同第1837572号公報)。しかしながら、現状では、この液相拡散接合技術は、接合面の面積が比較的大きい部材の接合にのみ適用され精密自動車用燃料噴射部品の接合には用いられていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、環状或いは中空形状を有する耐磨耗性、耐食性、耐疲労性の諸特性を同時に満足する複雑な自動車用燃料噴射部品を高効率で、かつ低コストで大量生産可能な拡散接合機械部品を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その要旨は、内部に複数の管路を有し、該管路の軸方向に平行な面で、少なくとも2つ以上に分割された自動車用燃料噴射部品を液相拡散接合で接合して組立てるに際し、分割面を100μm以下の表面粗度に仕上げ、かつ前記表面粗度を有する分割面同士の突き合わせ間隙を接合面全域において1mm以下として組み立て後、液相拡散接合することを特徴とする自動車用燃料噴射部品の液相拡散による組立接合方法である。また、本発明は、上記液相拡散接合が酸化雰囲気中で行われることを特徴とする自動車用燃料噴射部品の液相拡散による組立接合方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明を実施するに当たり、対象とする自動車用燃料噴射部品の材質は特に限定しない。液相拡散接合ができると考えられる金属材料は全て本発明の技術を適用することができる。例えば、通常の炭素鋼、高炭素鋼、低炭素鋼など通常の溶接が適用困難な材質であっても液相拡散接合は接合継ぎ手を実現可能である。また、Cr或いはNiを種々の割合で含有するステンレス鋼、高耐食合金鋼、Niを基材とするNi基合金やその他の合金および非鉄材料であるAl,Ti,Znおよびその他の実用金属などもそれらに適した接合用合金を用いれば全て液相拡散接合が可能となる。また、液相拡散接合を実現する非晶質合金組成としてもとくだんの制限がなく、米国特許第4,144,058号公報に記載の合金を始め、特開昭49−91014号公報に記載のP,B,C等を拡散原子として含有する液相拡散接合用合金を使用することができる。
【0009】
本発明では、上述したような被接合材料と液相拡散接合用合金を用いて、内部に流体運搬用、重量軽減用、或いは摺動部品通過のため等の目的を有する管路を備えた、元来一体成型で製造していた精密自動車用燃料噴射部品を、最初に管路を含む面で複数に分割した部品毎に、例えば、プレス成型或いは圧延、研削、研磨など従来の一体成型と機械加工の組み合わせに対して安価な製造工程を経て製造し、それらを液相拡散接合用合金を介して組み立て、液相拡散接合によって一体化する工程を経ることが必要である。
【0010】
このときの分割すべき部品は、最終形状との対比で、内部に存在する管路を通過する面で分割してあることが必要で、これによって各部品をプレス成形などの安価でかつ簡便な方法で製造可能ならしめる。また、この分割は2以上であれば幾つでも可能であって、製造が簡易化し、かつ製造工程な煩雑或いは多数となる結果、従来製造工程に対して高価とならない範囲で適宜選択すればよい。また、分割面は平面でも曲面でも、連続或いは不連続の多面ないしは曲面であってもよく、その形状は分割することで各部品の製造が容易になるように適宜選択すればよい。なお、最終形状の部品が内部に有する管路は連続した一つの経路でも、複数の独立した経路でもよく、管路自体の形状は自由で、単に組み立て時に接合する面が対応すればよく、特に制限はない。管路は外表面に対して開口していても、いなくても組み立ては可能である。なお、被接合材料と液相拡散接合用合金の組み合わせで接合部の特性は種々に変化する。
【0011】
本発明においては、上述したような内部に管路を有する複数に分割された精密自動車用燃料噴射部品、例えば、図1に示すようなCr:1.0%、Mo:0.5%を含有する高炭素鋼からなる自動車用燃料噴射部品の管路に平行な面で2分割した分割面、即ち、接合面を熱間または冷間鍛造、或いはプレス加工によって分割面の表面粗度を100μm以下、好ましくは50μm以下に仕上げるものである。液相拡散接合において、接合面の表面粗度と接合強度は一定の関係があり、鏡面に近いほど被接合材料と拡散接合用合金との間の拡散が円滑に促進される。しかし、接合面を鏡面状態に仕上げることは手間とコスト面から採算がとれない。ところが、実質的には液相拡散接合時に負荷する接合応力による熱間塑性変形および接合金属による被接合材の溶融によって接合面の突合せ精度が改善されるため、精密な鏡面加工を施さずとも接合が可能で、かつ継手は実用に耐えることを本発明者らは研究の結果見い出した。
【0012】
一方、被接合材料が拡散接合用合金を挟んで完全に密着した状態で液相拡散処理を行うことが最も好ましい状態であるが、実際には接合される自動車用燃料噴射部品を上下から押さえ治具等で一定の接合応力を負荷して一定時間保持する場合、熱間においては被接合材料が製品の許容寸法を超えて変形してしまうため、これを防止するには接合応力を被接合材料の高温強度に応じて減ずる必要のある場合がある。しかし、その場合でも、このような接合応力負荷状態で得られる接合面同士の間隙は僅かであり、好ましくは接合面の至る所で1mm以下であれば円滑な拡散接合処理が行え、かつ必要な拡散接合強度が得られることが判明した。
【0013】
このような状態にセットした接合面を予めNi基液相拡散接合用合金を介して突合せ、固相線以上の温度に加熱し、1000〜1300℃の温度で、加熱開始から1000℃までの昇温時間を含めて90〜120秒の間、接合面に2MPa以上の一定の接合応力を負荷し続け、その後、接合応力を減じて2MPa未満ないし無負荷として1分以上保持して液相拡散接合する。この液相拡散接合により、健全な接合部を有する自動車用燃料噴射部品が得られることになる。
【0014】
なお、液相拡散接合を行うに際しては、酸素0.01質量%以上を含む酸化性雰囲気、好ましくは大気中で、N2 或いはArを被接合材料の内外面表面に吹きつけて接合作業を行うことが好ましい。
以上のような接合面粗さと接合条件との関係は以下のような実験に基づいて決定した。
【0015】
図2には、各種接合押力を負荷した場合の接合継手強さを、接合前の継ぎ手表面粗さとの対比で示した。ここで図中の点線は、押力によらず、各表面粗さごとの最低値で示したものである。何れの場合も押力は2MPa以上である。これ以下の押力では液相拡散接合が完了しない場合があり、継手の正確な強さを測定できない場合があった。
【0016】
接合試験および引張試験に供した材料は、0.3%C−1%Cr−0.5%Moの組成を有する低合金鋼であり、接合後の継ぎ手は1℃/分の速度で冷却し、ここから6mm直径の円形断面を有する引張試験片を採取し、室温で引張強さを測定した。また、当該材料が、実使用時に接合部に負荷される接合応力は最大180MPaであることが判明しているため、ここでは継ぎ手に必要な目標強さを180MPaと仮定し、その値を図中に示してある。この図から、目標値である180MPaを達成するためには、接合面の表面粗さを100μm以下に制御する必要があることがわかる。
【0017】
なお、本発明における「表面粗さ」の表記は、通常の接触式表面粗さ計、あるいはレーザーを応用した3次元形状測定装置、さらには表面起伏測定装置などによって測定される、工業的な「最大粗さ」に相当するもので、一般にRmaxで表記される値である。
また、図2の評価においては、接合に用いた接合金属の化学成分は、Ni基についてはSi=3%、B=3.5%、V=3%であり、Fe基についてはSi=4.5%、B=3.0%、V=5.0%である。質量%で同等なPをBの代わりに含有する箔を用いた場合も図2と全く同様な傾向を示した。
【0018】
上述した液相拡散接合処理により得られた被接合材料の組織が低温変態生成組織に分類される、マルテンサイトあるいはベイナイトであり、かつ接合金属内に前記接合金属と被接合材料金属との融合によって生成された合金化により、被接合材料と同一の低温変態生成組織を一部または全部に有する組織が得られれば同様に強固な接合面が得られることになる。
【0019】
また、本発明においては、適用する自動車用燃料噴射部品の仕様によって接合面の特性を自由に変えることができ、接合継ぎ手としての特性は特に制限がない。継ぎ手効率は1である必要はなく、かつ組織的にも完全に均質化している必要がない。勿論、継ぎ手効率が1で完全均質体であることは自動車用燃料噴射部品の特性上好ましいが、部品の製造コストに応じて決定することができる。また、組み立て終了後に自動車用燃料噴射部品に対して種々の熱処理、化成処理、加工を施すことが可能であり、例えば、鋼材であれば焼き入れ、焼き戻し、焼準、焼鈍などの熱処理工程を単独で、或いは複合で、場合によっては繰り返し施すことも、部品としての特性を向上させるのに有効であって、本発明の効果を何ら妨げない。また、浸炭処理、窒化処理、メッキ、或いは塗装、粉末などの吹きつけ処理、ショットブラストなどの表面加工も有効である。
【0020】
【実施例】
<実施例1>
本発明においては、内部に燃料供給用管路を有する自動車燃料噴射部品の製造について述べる。この自動車燃料噴射部品は、図1に示すようなCr:1.0%、Mo:0.5%を含有する高炭素鋼からなる鍛造にて管路に平行な面で2分割した半割り部品の分割面1,2の接合面3,4をそれぞれ機械研磨して80μmの表面粗度に仕上げ、これら部品同士の間に厚さ30μmのB:3%、Si:4%、或いはP:2%、Si:3%の組成を有するNi基の非晶質合金からなる液相拡散接合用合金を挟み、前記部品同士の間隙を最大0.5mmに維持して突合せ、前記部品を外部上下面から押さえ治具で押さえ、次いで、部品全体を、高周波誘導加熱コイルを有する雰囲気制御可能な高周波誘導加熱炉中で液相拡散接合温:1000℃〜1300℃で液相拡散接合した。その後、接合応力を1MPaに減じて2分〜10分間保持後冷却し、被接合材料の組織がマルテンサイト変態或いはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで急冷し、続いて焼き割れを防止するために放冷して変態が終了するまでこの放冷を継続し、その後水中急冷した。このような処理を行なうことによって、被接合材料の組織が低温変態生成組織に分類される、マルテンサイトあるいはベイナイトであり、かつ接合金属内に前記接合金属と被接合材料金属との融合によって拡散接合された部位においては、被接合材料と同一の低温変態生成組織を一部または全部に有していた。このようにして得た拡散接合面の強度は被接合材料強度と同等もしくはそれ以上の強度を有していた。その後、最終の外形に仕上げて自動車用燃料噴射部品とした。これを実際の自動車部品として組み込んで性能を評価したところ、従来の機械加工した自動車用燃料噴射部品と同一の使用性能が得られ、高温耐酸化特性、耐磨耗性、流体圧力に対する接合面強度において何ら遜色のない値が得られた。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、元来一体成型によって製造する、内部に複雑かつ精密な管路を有する自動車用燃料噴射部品のような精密機械部品の製造を、簡易に製造可能な分割部品から、それらを液相拡散接合技術によって貼り合わせる工程を採用することで、金属製精密自動車用燃料噴射部品を安価かつ効率的に製造することを可能にしうるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一体成型によって製造する自動車用燃料噴射部品を、その内部に有する管路を通過する面で分割した場合の分割部品形状を示す図で、特に流体噴射部品の例を示す図。
【図2】 液相拡散接合における接合面の表面粗度と接合継手の強度(最低接合強度)との関係を示す図。
Claims (2)
- 内部に複数の管路を有し、該管路の軸方向に平行な面で、少なくとも2つ以上に分割された自動車用燃料噴射部品を液相拡散接合で接合して組立てるに際し、分割面を100μm以下の表面粗度に仕上げ、かつ前記表面粗度を有する分割面同士を、予めNi基液相拡散接合用合金を介して、接合応力を加えて、間隙が、接合面全域において1mm以下となるように組み立てた後、該接合用合金の固相線以上の温度に加熱し、1000〜1300℃の温度で、加熱開始から1000℃までの昇温時間を含めて90〜120秒の間、接合面に2MPa以上の一定の接合応力を負荷し続け、その後、接合応力を減じて2MPa未満ないし無負荷として1分以上保持して液相拡散接合することを特徴とする自動車用燃料噴射部品の液相拡散による組立接合方法。
- 前記液相拡散接合が酸化雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1記載の自動車用燃料噴射部品の液相拡散による組立接合方法。
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