JP4054943B2 - 水性セルロースゲル及びその製造方法 - Google Patents

水性セルロースゲル及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品、医薬品、化粧品、水性塗料、インキ、糊料等の分散安定剤、粘度調節剤などとして好適に使用される低置換度セルロースエーテルの水性ゲル及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、微結晶セルロースを主成分とする水性セルロースゲルが知られている。このものはゲル形成成分としての微結晶セルロースが水中で網目構造を形成し、水不溶性物質や気体を安定にゲル中に取り込むため、各種ペースト状或いはゲル状の食品、医薬品、化粧品等の添加物、さらには水性塗料、インキ、糊料等の分散安定剤、粘度調節剤、流動性改善剤、泡安定剤等の目的で使用されている。
【0003】
しかしながら、微結晶セルロースから作られたゲル状物は、単独で保水或いは増粘効果が不十分であり、このためにカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を増粘補助剤として併用添加することが多く、また原料微結晶セルロースにあらかじめCMC−Na粉末を配合することも行われている。
【0004】
これに対し、特公昭56−54292号公報、特公昭62−61041号公報、特公平6−49768号公報には、低置換度セルロースエーテル粉末を水に分散させ、これを剪断摩砕することを特徴とする水性ゲルの製造方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述の技術では、粉砕された固体粉末の低置換度セルロースエーテルを水系溶媒に分散させてこれを剪断摩砕する。しかし、この方法は、これにより一定の効果は得られるものの、粘性が不足していたり、強い剪断力を必要とするため実生産レベルでの製造が困難なこと、また分散後、比較的短時間で粒子沈降や離水が認められ、さらに皮膚への適用を考慮した場合に触感が劣るなどの問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高粘性であり、安定で触感もよく、実生産スケールでも製造可能な水性セルロースゲル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、セルロースエーテルの粉末を水に分散させるのではなく、セルロースエーテルを一度アルカリに溶解させて中和した液を剪断摩砕するか、又は徐々に中和しながら剪断摩砕すれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、水には溶解しないがアルカリに溶解する置換度0.05〜1.0である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをアルカリ水溶液に溶解後、酸を加えて中和しながら又は中和した液を剪断磨砕することを特徴とする水性セルロースゲルの製造方法及びこれによって得られた水性セルロースゲルを提供する。
【0009】
本発明は低置換度セルロースエーテルの粉末を水に単純に分散して剪断摩砕するといったこれまでの技術とは異なり、かならずアルカリに溶解させることを特徴とする。セルロースエーテルのアルカリ性溶液を中和した液は高分子の塊が析出しており、この点から、粉末製品をそのまま水に入れて剪断摩砕するのと効果が変わらないことが考えられたが、予想に反し、中和した液に析出して存在する高分子の塊は乾燥粉砕過程を通った粉末の水分散液に比べ低い剪断力で粘度が高くより安定なゲルとなることを本発明者は知見したものである。
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の水性セルロースゲルの製造方法において、原料としては低置換度セルロースエーテルを使用する。
【0011】
本発明における低置換度セルロースエーテルは、水には溶解しないがアルカリ溶液に溶解する性質をもつものである。一般にセルロースは水に不溶であるが、セルロースを構成しているグルコース環の水酸基の水素原子をアルキル基やヒドロキシアルキル基で置換すると、その置換の程度によって水溶性を持つようになる。しかしながら、置換の程度が低いものは水への溶解性は見られず、その代わりにアルカリ溶液には溶解する性質をもつことが多い。
【0012】
多くの場合、低置換度セルロースエーテルの粉末は水中に分散されると、その一部が膨潤した状態となる。置換度が高くなると水溶性のものとなり、また逆にアルカリに溶解する性質を失う。そのような水溶性セルロースエーテルを使用することでは本発明の水性ゲル状物を得ることはできない。
【0013】
本発明で使用される低置換度セルロースエーテルの主なものについて望ましい置換度は0.05〜1.0であり、望ましい置換基の重量%の範囲を示せば次の通りである。
低置換度メチルセルロース:メトキシル基 3〜15%
低置換度ヒドロキシエチルセルロース:ヒドロキシエトキシル基 3〜15%
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:ヒドロキシプロポキシル基 4〜20%
低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース:
メトキシル基3〜12%、ヒドロキシプロポキシル基 4〜20%
低置換度カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩:
カルボキシメチル基 3〜15%
【0014】
このような低置換度セルロースエーテルは水には不溶であるがアルカリ水溶液には溶解し、また吸水して膨潤する性質を持つ。さらに典型的な例として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられ、この物質は信越化学工業(株)よりL−HPCの商品名で現在市販されており、日本薬局方に収載され、特に医薬材料分野で錠剤に配合される崩壊剤として汎用されているものである。
【0015】
これらの低置換度セルロースエーテルの製造法は公知であり、例えば特公昭57−53100号公報において説明されている。製造するためには、まずアルカリセルロースの調製が必要となる。これは出発原料であるパルプのシート状のものをアルカリ水溶液、例えば苛性ソーダに浸せきするか、又はパルプを粉砕したものをそのままアルカリ溶液と混合したり、パルプ粉末を有機溶剤中に分散させたあとでアルカリを加えるなどして調製される。次にアルカリセルロースを反応器に仕込み、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドなどのエーテル化剤を添加したあと加熱して反応させるとセルロースエーテルとなる。反応終了後の粗セルロースエーテルを別のタンクに移し、アルカリを酸で中和して固形物を洗浄、乾燥、粉砕して粉末として最終製品とする。或いは、反応直後の粗セルロースエーテルを水に完全溶解又は部分溶解させたあとで中和し、析出する高分子を分取して洗浄、乾燥、粉砕する方法を取る場合もある。
【0016】
本発明による水性セルロースゲルの製造方法では、低置換度セルロースエーテルをアルカリ水溶液に溶解後、中和しながら、又は中和した後でこれに剪断摩砕をかけることによるが、ここで、前述の方法で一度最終製品とされた低置換度セルロースエーテル粉末をアルカリ水溶液に溶かしても、反応直後の段階で粗セルロースエーテルを水に溶解しても結果的には同様の効果が得られる。後者の場合は粗セルロースエーテルがアルカリを含んでいるため、溶かす溶媒は水のみでもよいが、溶解を確実にするためにアルカリを追加する場合もある。いずれの方法も本発明に包含される。
【0017】
溶解に使用するアルカリは、苛性カリ、苛性ソーダなどがあげられ、その濃度は使用するセルロースエーテルの置換基の種類と置換度により異なるので適宜決定するが、通常2〜25%(重量%、以下同じ)、特に3〜15%である。典型的な例としては、置換度0.2の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは10%の苛性ソーダに溶解する。なお、置換基の分布の違いにより、透明な溶液となる場合と完全に透明でない場合がある。後者の場合、明らかに粘性が上昇している時はこれを溶解しているものと見なす。
【0018】
アルカリ溶液の中和は当量の塩酸、硫酸、酢酸などを用いればよい。アルカリ溶液を剪断摩砕機にかけ、徐々に酸を加えて中和を進めながら摩砕するか、又は先に当量の酸を加えて中和し、析出した高分子が存在する液をそのまま剪断摩砕する。
【0019】
剪断摩砕の方法は、適当な濃度のセルロースエーテルのアルカリ性溶液又はそれを中和した液を振動ボールミル、コロイドミル、プロペラ式ホモジナイザー、ゴーリン社製高圧ホモジナイザーなどの装置で摩砕する。このとき、アルカリ性溶液の場合はこれに塩酸、硫酸、酢酸などの酸を徐々に加えながら摩砕を進める。剪断摩砕条件は、特に限定されないが、例えばプロペラ式ホモジナイザーであれば3,000〜15,000rpm、特に10,000〜15,000rpm、高圧ホモジナイザーであれば、圧力100〜2,000kg/cm2、特に200〜2,000kg/cm2が好ましい。
【0020】
剪断摩砕する時の溶液中のセルロースエーテル濃度は0.01〜20重量%、特に0.1〜1重量%とすることが好ましい。これより濃度が高くなると、粘性が過度に上昇し、摩砕が困難になるおそれがある。
【0021】
調製されたゲルの中には中和により生じた塩が存在するので所望によりこれを遠心分離又は透析などの手法で取り除く。
【0022】
また、本発明により得られる水性セルロースゲルには所望により他の添加物、たとえば非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤、香料、矯味剤、増粘剤、皮膜形成剤などを加えることもでき、必要に応じてアルコールなどの水溶性の有機溶媒が加えられる場合もある。
【0023】
本発明の方法により得られる水性ゲル中のセルロースエーテルの粒子径は概ね100μm以下、好ましくは50μm以下である。なお、その下限は特に制限されないが、通常1μm以上、特に5μm以上である。粒子径は剪断力により変化するが、粒子径が過度に大きいと安定性が悪くなり、触感も低下する。なお、平均粒子径は湿式レーザー回折法により測定できる。但し、従来法により調製された水性ゲルとの比較においては粒子径の大小はあまり意味をなさない。一般には粒子径が小さくなるほど分散系の安定性が高いと考えられるが、驚くべきことに本発明による水性ゲル中の平均粒子径は従来の方法によるものよりも大きいことにもかかわらずより安定なことが認められた。これは安定性が単に粒子径のみならず粒子の水による膨潤性の違いにも影響されるためではないかと思われる。このことから本発明は従来の方法よりも粒子の大小に関係なく安定であることがわかる。
【0024】
【実施例】
次に、実施例及び比較例をあげるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、%は重量%を示す。
【0025】
[実施例1]
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末(信越化学工業製 L−HPC、置換度0.2)7.5gを6.3%NaOH水溶液425gに溶解した。これに塩酸を加えて中和した液をホモジナイザー(日本精機製作所AM−10型)を用いて10,000rpmで10分間剪断摩砕した。得られたゲルを5,000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿物に固形分濃度が3%となるように新たな純水を加えて再分散した。得られた水性ゲルの物性を表1に示す。
【0026】
なお、水性ゲルの物性評価は、以下のように行なった。
1)粘度は、B型粘度計を使用して20℃で測定した値である。セルロースエーテルの濃度はすべて3重量%である。
2)安定性はバイアル瓶に入れて室温で放置(最高1ヶ月)しておいたものの目視観察結果である。
3)平均粒子径は湿式レーザー回折法(堀場LA−700型)で測定した。
4)触感は、適量を皮膚に塗布して感触を評価した。
【0027】
[実施例2]
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末(信越化学工業製 L−HPC、置換度0.2、平均粒径100μm)7.5gを6.3%NaOH水溶液425gに溶解した。この溶液をホモジナイザー(日本精機製作所AM−10型)を用いて5,000rpmで剪断摩砕しながら容器の小さな孔より中和当量の酢酸を5分にわたり滴下した。中和後、さらに10,000rpmで10分間剪断摩砕を続けた。得られたゲルを10,000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿物に固形分濃度が3%となるように新たな純水を加えて再分散した。得られた水性ゲルの物性を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
パルプシートを49%NaOHに浸せきしてアルカリセルロースとし、これを1cm×1cmのチップ状にカットした。このもの100gを反応器に仕込み、プロピレンオキサイド11gを添加した。反応器を窒素置換して密封し、撹拌しながら60℃で5時間加熱した。反応物を少量サンプリングし、中和洗浄、乾燥後の置換度測定値は0.2であった。別に反応生成物7gを水400gに溶解し、これを上記と同形式のホモジナイザーを用い、5,000rpmで回転させながらチャンバーの小孔から酢酸を5分間にわたり徐々に加えて中和した。中和後さらに10,000rpmで5分剪断摩砕を続けた。得られた水性ゲルを10,000rpmで10分間遠心分離したあと上清を取り除き、新たに純水350gを加えて再分散し、再び遠心分離して上清を取り除いた。もう一度同様の操作を繰り返し、ゲルを精製した。さらにセルロースエーテルの濃度が3%となるように水を加えて濃度調整を行った。得られた水性ゲルの物性を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
実施例1と同様のL−HPC15gを10%NaOH水溶液1000gに溶解した。これをゴーリン社製高圧ホモジナイザー(15M8TA)を用い、圧力250kg/cm2で15分間液を循環させ、このとき中和当量の酢酸を徐々に加えた。得られたゲルの物性を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
実施例1と同様の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース15gを水1000gに分散させた。これをゴーリン社製高圧ホモジナイザー(15M8TA)を用いて圧力250kg/cm2で15分間液を循環させた。得られたゲルの物性を表1に示す。
【0032】
[比較例2]
圧力500kg/cm2とした以外はすべて比較例1と同様におこなった。得られたゲルの物性を表1に示す。他の比較例よりも安定なゲルが得られたが、使用した圧力は本実験機の最高レベルであり、実生産機では困難が予想される。
【0033】
[比較例3]
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース微粉末(信越化学工業社製L−HPC、LH−31、置換度0.2、平均粒径17μm)を用い、比較例2と同様な方法でゲルを調製した。得られたゲルの物性を表1に示す。
【0034】
[比較例4]
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース超微粉末(置換度0.2、平均粒径2μm)を用い、比較例2と同様な方法でゲルを調製した。得られたゲルの物性を表1に示す。
【0035】
【表1】
Figure 0004054943
【0036】
【発明の効果】
本発明による水性セルロースゲルは、粘性、安定性や触感において先行技術のものより優れているものであり、ペースト状、ゲル状の食品、医薬品、化粧品、或いは水系塗料、インキ、糊料などに使用した場合、これらの保水性、分散安定性、増粘作用において優れた効果を有する。また、簡単な機構の摩砕装置でも調製可能であり、実生産にも対応可能である。

Claims (5)

  1. 置換度0.05〜1.0である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをアルカリ水溶液に溶解後、酸を加えて中和しながら又は中和した液を剪断磨砕することを特徴とする水性セルロースゲルの製造方法。
  2. 低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが、パルプシートをアルカリ溶液に浸漬して、パルプ粉砕物をアルカリ溶液と混合して、又は有機溶剤中に分散させたパルプ粉末にアルカリを加えてアルカリセルロースとし、これをプロピレンオキサイドと反応させて得られたものである請求項1記載の水性セルロースゲルの製造方法。
  3. 剪断磨砕する方法が、振動ボールミル、コロイドミル、プロペラ式ホモジナイザー又は高圧ホモジナイザーを用いる方法である請求項1又は2記載の水性セルロースゲルの製造方法
  4. 請求項1、2又は3に記載の製造方法により得られた水性セルロースゲル。
  5. 水性セルロースゲル中の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粒子径が1〜100μmである請求項4記載の水性セルロースゲル
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