JP4052846B2 - 光学フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学用途や液晶ディスプレー用途などに用いられる光学フィルムの製造方法に関し、より詳細には、溶融押出成形により得られ、光学歪みの極めて小さい光学フィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学用途や液晶ディスプレー用途においては、透明性に優れ、且つ、残留位相差の小さい光学フィルムが求められている。しかしながら、溶融押出によりフィルムを製造した場合、成膜時の変形により応力歪みが発生し、光学歪みが残留するという問題があった。光学歪みが大きいとフィルムの位相差が大きくなり、これを液晶ディスプレーに用いた場合に大きな問題となる。
【0003】
非晶性熱可塑性樹脂として知られるノルボルネン系樹脂も耐熱性及び透明性に優れており、固有複屈折率が低くかつ光弾性係数が低いという利点を有するため、近年、光学フィルムとしての研究が盛んになってきたが、上記したような問題点を抱える理由から、専ら溶液キャストフィルムを使用せざるを得ないのが実情である。
【0004】
上記のような問題を解決するため、特開平4−275129号公報には、ポリカーボネート樹脂を、樹脂温度300〜330℃、エアギャップを80〜100mmとし、かつ冷却ロールの温度を100〜140℃として押出成形することにより光学フィルムを得る方法が開示されている。該公報によれば、押出に際しての剪断歪みとフィルムの冷却収縮力とがバランスされ、それによって光学歪みが5×10-5以下のフィルムが得られるとされている。
【0005】
また、特開2000−280268号公報には、厚さ0.1〜2mm及び残留位相差10nm以下のシートの製造方法として、シートを構成する樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、押出成形用ベルト及びロールの温度をTg〜Tg+50℃として押出成形する方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平4−275129号公報に記載の製造方法では、ポリカーボネート以外の樹脂に適用しようとした場合、例えばノルボルネン系樹脂などのように樹脂の劣化温度が比較的低い場合には、樹脂温度が高くなり過ぎフィルムが劣化する恐れがあった。
また、特開2000−280268号公報に記載の方法では、100μm未満の薄い光学フィルムを得ようとしても、ベルトからフィルムを剥離する際にフィルムが伸びてしまい光学歪みが大きくなる恐れがあった。この歪みを有するフィルムを光が通過すると位相差を生じるため、特に光学用途や液晶ディスプレー用途では大きな問題となる。
【0007】
一般に、ガラス転移温度以上で樹脂を変形させた場合に発生する残留位相差は、樹脂温度と変形時の応力の大きさに依存するが、変形量が同じ場合には樹脂の温度によって発生する応力の大きさが異なることが知られている。
押出成形法によりフィルムを得る場合、ダイスから押し出された樹脂がエアギャップにおいて目標のフィルム厚さとなるように引き落とされるが、通常はこの際に樹脂温度が低下することとなり、樹脂温度が低いほど変形時に大きな応力が発生し、該応力に基づく歪みが残留位相差としてフィルムに残留することになる。
【0008】
一方、光学用途や液晶ディスプレー用途に用いられるフィルムにおいて、重要な品質として光軸ずれのないこと、換言すれば光軸の向きが一定方向に揃っていることが求められる。しかしながら、光軸ずれが問題となるのは特定大きさの位相差が現れる場合であって、残留位相差が1nm近傍を下回る場合には殆ど考慮する必要はない。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、最早光軸のばらつきが問題となることのない、残留位相差が極めて小さい、非晶性熱可塑性樹脂からなる光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
【0011】
残留位相差が10nm以下のフィルムは、光ディスクや液晶ディスプレーなどの光学用途に好適である。特に、液晶ディスプレーに組み込まれる偏光板における偏光子を保護するために用いられるフィルムでは、可及的ゼロに近い低位相差であることが求められており、本発明で得られる光学フィルムは残留位相差が1nm以下と極めて小さいため、このような用途に効果的に用いられる。
【0012】
また、残留位相差が1nm以下であるため、従来の残留位相差が1nmを超えるようなフィルムを光学用途に用いた場合に問題となる光軸ずれが無視できるものとなる。これは、光軸を揃えるという従来の製造プロセスにおける煩雑な制御操作を格段に簡略化できることを意味するだけでなく、従来存在した光軸ずれに起因する欠陥が皆無になるため、製品の歩留り向上に大きく貢献し、ひいては検査工程そのものを必要としなくなるなど、画期的な光学フィルムを提供することを可能とするものである。
【0013】
更に、厚さが100μm未満であるため、これら光学素子の軽薄化を図ることができ、ひいては光学素子を搭載する液晶ディスプレーなどの小型化にも寄与することになる。
【0014】
本発明の特定の局面では、非晶性熱可塑性樹脂としてノルボルネン系樹脂が用いられ、それによって耐熱性及び透明性に優れ、固有複屈折率が低くかつ光弾性係数が低いノルボルネン系樹脂の長所を活かした、使用中も位相差変化の少ない光学フィルムを提供することができる。
【0015】
上記光学フィルムは、以下の発明に係る製造方法に従って製造することができる。即ち、発明に係る光学フィルムの製造方法は、押出機に取り付けられたダイスからフィルム状に押し出された非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムを冷却ロールに密着する際に、ダイス出口直後の樹脂温度をTg+130℃以上とし、ダイス出口からフィルムが冷却ロールに接触する直前までのフィルム温度がTg+100℃を下回らないように保持するとともに、ダイス出口直後並びに冷却ロールに接触する直前のフィルムの幅方向の温度バラツキを10℃以内とすることにより、厚さが100μm未満であり、残留位相差が1nm以下である光学フィルムを得ることを特徴とする。
【0016】
ダイス出口直後の樹脂温度をTg+130℃以上とするとともに、冷却ロールに接する直前までフィルム温度をTg+100℃以上に保つことにより、この状態で非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムが変形されたとしても、樹脂に蓄えられる応力は小さくなるとともに、フィルムの幅方向の温度バラツキを10℃以内とすることで、応力が局所的に集中することを避けることが可能となり、その結果、フィルム中に応力が残存することが殆どなく、残存応力に伴う残留位相差を極めて小さくすることができる。
【0017】
本発明において、ダイス出口直後における樹脂温度をTg+130℃以上とする具体的な方法については、例えば金型の温度を制御する方法が考えられる。この場合、金型温度を上げ過ぎると樹脂によっては熱劣化する恐れが高くなるが、熱劣化しない程度の温度条件を採用することにより、光学歪みの小さい光学フィルムを得ることが可能である。また、エアギャップを狭めることで樹脂出口の放熱現象を極力抑えることも有効である。
【0018】
一方、冷却ロールとの接点直前におけるフィルム温度をTg+100℃以上にするには、エアギャップにおける放熱による温度低下を見込んで予め金型温度を高く設定する方法や上記した如くエアギャップを狭める方法、更にはエアギャップを保温したり、積極的に加温する方法により樹脂温度の低下を抑制する方法が挙げられる。このような方法を達成するためには、エアギャップの周囲をボックスで囲ったり、エアギャップのフィルムのそばにヒータを設置したりすればよいがこれらに限定されるものではない。この際、エアギャップの距離は特に制限されるものではないが、製膜品質上、また保温効率的に30〜150mm程度とするのが好ましい。
【0019】
また、フィルムの幅方向の温度バラツキを10℃以内に保つ方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金型温度の精度を上げたり、エアギャップにおいて、幅方向に出力可変のヒーターを用いて幅方向の樹脂温度を均一に保つ方法や、保温ボックス等で囲って外乱を防ぐ方法などが考えられる。
【0020】
発明に係る光学フィルムの製造方法の特定の局面では、押出機に取り付けられたダイスからフィルム状に押し出された非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムが冷却ロールに密着される際に、前記ダイス出口から冷却ロールとフィルムとの接点の直前までのエアギャップによりフィルムが保温される。
【0021】
即ち、上記冷却ロールとフィルムとの接点の直前までのフィルム温度の制御が、エアギャップにおいてフィルムを保温することにより行われる。この場合には、金型温度を変更する方法に比べ、高精度に温度制御を行うことができ、特にノルボルネン系樹脂のような温度制御を高精度に行うことが求められる樹脂に効果的である。また、金型温度を過度に上昇させる必要がないため、樹脂の劣化を抑制するメリットもある。上記エアギャップにおける保温手段は特に限定されず、ダイスやエアギャップ条件を変えることなく、エアギャップにおいて、ヒータや保温ボックスのような適宜の保温装置を取り付ければよい。
【0022】
本発明において、冷却ロールの温度については樹脂の種類や特性の違いを考慮して個々に設定する必要があるが、総じて樹脂のTg〜Tg−100℃の範囲となされればよい。
【0023】
本発明において用いられる非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリサルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、環状ポリオレフィン等が挙げられるが、透明性に優れる上、固有複屈折率や光弾性係数の小さい環状ポリオレフィンであるノルボルネン系樹脂が好適に用いられる。特に、溶融押出に伴う耐熱性を考慮すると、飽和タイプのノルボルネン系樹脂が好ましい。
【0024】
ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマー単独もしくはノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加型重合体並びにこれらの変性物が挙げられる。開環重合体の場合は必然的に分子中にC=C二重結合が残存することになり、重合体を得た後、水素添加反応により飽和度を挙げることが望ましく、95%以上、より好適には98%以上の飽和度とされる。
【0025】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン(ノルボルネン)や、6−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5,6−ジメチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、1−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−エチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−n−ブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−イソブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、7−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エンなどのノルボルネンやそのアルキル置換体が具体的に例示できるが、これらに限定されず、3環体以上のノルボルネン系モノマーやその置換体であってもよい。また、これらのノルボルネン系モノマーには各種性能を付与するために、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性原子或いは極性基が導入されていてもよい。
【0026】
上記ノルボルネン系モノマーの開環重合体とは、上記ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環重合させたものであり、ノルボルネン系モノマーの単独重合体であってもよく、異種のノルボルネン系モノマーの組合せによる共重合体であってもよい。
【0027】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加重合体としては、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10のα−オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセンなどが挙げられる。中でも、エチレンが共重合性が高いため好ましく、他のα−オレフィンをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合にも、エチレンが存在している方が共重合性が高められる。
【0028】
本発明において、非晶性熱可塑性樹脂には公知の酸化防止剤などを添加することによって樹脂の安定化を図ることができる。また、加工性を向上するために滑剤などを添加してもよく、その他諸性能を発揮するために必要な添加剤を配合することも任意である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0030】
製造装置としては次のものを使用した。
・押出機:内径50mm、L/D=28の単軸押出機、押出温度を270〜320℃の範囲で調整
・ダイス:幅500mmのコートハンガータイプのTダイ
・冷却ロール:140℃に温度設定、エッジピニング取り付け
【0031】
上記装置を用いて、以下の実施例及び比較例により、幅430mm、厚さ40μmのフィルムを製造し、得られたフィルムの幅方向両端部分をそれぞれ幅方向寸法の10%切除したものについて、王子計測機器社製「KOBRA−21ADH」を用いて590nm波長の光で位相差値を測定した。なお、測定点は、幅方向には50mmピッチで7点、流れ方向(押出方向)には1mピッチで3点の21点とし、計測した位相差値の平均値を残留位相差とした。
【0032】
(実施例1)
非晶性熱可塑性樹脂として飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア1600」、Tg=168℃)を使用し、予備乾燥した後、金型温度300℃及びエアギャップ70mm、エアギャップにおいてフィルムから30mmの距離に幅400mmのヒータを設置して、フィルムを保温しながら押し出したところ、ダイス出口直後の樹脂温度は298〜303℃であり、冷却ロールとの接点直前のフィルム温度は270〜274℃であった。なお、フィルム温度は放射温度計を用いて測定した。
また、得られたフィルムの残留位相差は平均0.85nm(最大値0.90nm)であった。
【0033】
(実施例2)
非晶性熱可塑性樹脂としてポリサルホン樹脂(帝人アモコエンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーデル3500」、Tg=193℃)を使用し、金型温度を325℃としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを押し出した。このときダイス出口直後の樹脂温度は331〜334℃であり、冷却ロールとの接点直前のフィルム温度は300〜306℃であった。
また、得られたフィルムの残留位相差は平均0.89nm(最大値0.95nm)であった。
【0034】
(比較例1)
金型温度を280℃としたこと以外は実施例1同様にしてフィルムを押し出した。このときダイス出口直後の樹脂温度は285〜291℃(温度範囲記載下さい)であり、冷却ロールとの接点直前のフィルム温度は258〜265℃であった。
また、得られたフィルムの残留位相差は平均2.05nmであった。
【0035】
(比較例2)
実施例2で用いた樹脂を使用して、実施例1と同様の条件で押し出した。その際、ダイス出口直後の樹脂温度が303〜321℃となるよう敢えてダイスの温度をばらつかせたところ、冷却ロールとの接点直前のフィルム温度は270〜281℃であった。
また、得られたフィルムの残留位相差は平均0.91nmであったが、1nmを超える箇所が存在した。
【0036】
【発明の効果】
本発明では、得られる光学フィルムは、厚さが100μm未満であり、残留位相差が1nm以下であるため、従来の残留位相差が1nmを超えるようなフィルムを光学用途に用いた場合に問題となる光軸ずれが無視できるものとなり、光軸を揃えるという従来の製造プロセスを格段に簡略化できるとともに、光軸ずれに起因する欠陥の解消、製品の歩留り向上、ひいては検査工程の廃止など、画期的な光学フィルムを提供することが可能となる。また、フィルム厚さが100μmを下回るものであるため、これが組み込まれる製品の軽薄短小化にも有効である。
具体的には、光学歪みの非常に小さなフィルムは、CD、DVD等の光ディスクや液晶ディスプレーなどの光学用途に極めて好適に使用することができる。
更に、本発明に係る製造方法に従って得られる光学フィルムは、また、その光学歪みが小さいことにより、これを原反フィルムとして一軸もしくは二軸に或いは斜め方向に延伸配向させてなる各種位相差補償用フィルムにも好適に採用され得る。

Claims (3)

  1. 非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、押出機に取り付けられたダイスからフィルム状に押し出された非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムを冷却ロールに密着する際に、ダイス出口直後の樹脂温度をTg+130℃以上とし、ダイス出口からフィルムが冷却ロールに接触する直前までのフィルム温度がTg+100℃を下回らないように保持するとともに、ダイス出口直後並びに冷却ロールに接触する直前のフィルムの幅方向の温度バラツキを10℃以内とすることにより、厚さが100μm未満であり、残留位相差が1nm以下である光学フィルムを得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
  2. 押出機に取り付けられたダイスからフィルム状に押し出された非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムが冷却ロールに密着される際に、前記ダイス出口から冷却ロールとフィルムとの接点の直前までのエアギャップにおいてフィルムを保温することを特徴とする請求項に記載の光学フィルムの製造方法。
  3. 非晶性熱可塑性樹脂として飽和ノルボルネン系樹脂を用いる請求項またはに記載の光学フィルムの製造方法。
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