JP4051652B2 - 環境協調型防波堤 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、港湾内の環境の保全および創造に寄与する環境協調型防波堤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境の保全および創造を目指した港湾の整備が推し進められており、防波堤についても、この観点から種々の見直しが行なわれている。そして従来、環境保全(水質保全)を目指した防波堤としては、堤本体としてのケーソンを透過型として港湾内・外の海水を交換可能とし、必要に応じてケーソン内部に浄化材を配設したものが既に提案され(例えば、特開平11−50424号公報、特開平11−158837号公報等参照)、また、環境の創造を目指した防波堤としては、堤本体の背後に、藻付着部を有する箱形格子状天端ブロックを敷設してなる人工磯根(消波構造物)を配したものが既に提案されている(特開平9−51737号公報)。このうち、後者の防波堤は、堤本体を、前記透過型ケーソンで構成し、あるいはテトラポットを積み重ねた透過構造とすることで、堤本体を通過した新鮮な海水が消波構造物に流れ込み、水質保全はもとより藻場、魚介類の繁殖場として有用となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した透過型の堤本体の背後に消波構造物を配する防波堤によれば、防波堤としての本来的な機能を損なわないようにするには、堤本体の透過面積を無制限に大きくすることはできず、その上、透過孔内で海水の澱みが生じ易いこともあって、それほどの海水流通は期待できず、背後水域への新鮮な海水の供給量が不足して、水質保全および環境創造の両面で、大きな効果を期待できないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、防波機能を損なうことなく背後海域へ新鮮な海水を大量に供給できるようにし、もって港湾内の水質保全と環境創造とに大きく寄与する環境協調型防波堤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、堤本体の天端高さを最高潮位よりは高いが標準の設計高さよりも低い高さに設定し、該堤本体の背後に造成した裏込層の天端に没水透過型消波構造物を配置し、かつ前記堤本体と前記消波構造物との間に、遊水部を設けたことを特徴とする。
このように構成した環境協調型防波堤においては、海水が堤本体を越波して背後の消波構造物へ大量に流れ込むが、消波構造物がその波動エネルギーを吸収して波を消散させる。しかも、消波構造物は没水透過型となっているので、その内部は藻や魚介類の生息域として提供される。さらに、堤本体と消波構造物との間に、遊水部を設けることで、越波が、一旦この遊水部に落ち込んだ後、消波構造物へ流動するので、消波構造物にかかる衝撃が緩和される。
【0006】
本発明において、上記堤本体の形式は任意であるが、水深が深く、来襲波浪の大きい海域には、安定性に優れたケーソン形式とする。この場合、ケーソンとしては、消波機構を前面に有する直立消波型ケーソンを用いるのが望ましく、これにより消波効果のより高い防波堤を提供できる。
また、上記消波構造物は、透過型消波ブロックを構成要素とするのが望ましい。このような構造形式の消波ブロックは、優れた消波効果を奏するばかりか、その内部に広い中空部を確保できて水生生物の生息に好適となる。
【0007】
本発明は、上記消波構造物の陸側端部の上に、鉛直壁を設ける構成とすることができ、このような鉛直壁を設けることで、消波効果がより一層高まり、消波構造物の幅を可及的に狭く設定することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態としての環境協調型防波堤を示したもので、海底に造成した基礎マウンド1上に据付けられた堤本体2と、堤本体2の背後海域Aの海底に造成された裏込層3と、この裏込層3の天端に配置された没水透過型消波構造物4とから概略構成されている。
【0009】
基礎マウンド1は、ここでは捨石マウンドからなっており、その天端は平坦に均され、また、その、沖合海域Bに対向する法面とこれに続く天端は大型の被覆石5により保護されている。
基礎マウンド1上の堤本体2は、ここでは直立消波型ケーソンからなっている。この直立消波型ケーソンは、内部に中詰め材を充填してなるケーソン本体6とこのケーソン本体6の、沖合海域B側に一体に設けられた消波機構7とからなっている。消波機構7は、例えば多数のスリット8aを有する前壁8の背後に遊水室9を設けた箱形状をなしており、その前壁8のスリット8aを通して遊水室9に海水を出入りさせる際、波動エネルギーを吸収して大きな消波効果を発揮するものとなる。しかして、この堤本体2は、最高潮位H.W.L よりは高いが、後述する標準の設計高さよりも十分に低くなるように天端高さが設定されており、したがって、沖合海域Bから比較的大きな波浪が来襲する場合は、該堤本体2を越波して大量の海水が背後の消波構造物4へ流れ込むようになる。
【0010】
裏込層3は、基礎マウンド1との間に適宜の距離をおいて造成された土留めマウンド10と、堤本体2を含む基礎マウンド1との間に設けられている。土留めマウンド10は、ここでは基礎マウンド1と同様に捨石マウンドからなっており、その天端は、最低潮位L.W.L よりも低いが基礎マウンド1よりはかなり高くなるように設定されている。この裏込層3は、浚渫土、石、土砂、建設廃材等の埋立材を投棄することにより造成されたもので、その天端は、土留めマウンド10の天端よりもわずか低くなるように平坦に均され、必要によりその天端には、大型の被覆石12が敷設されている。なお、裏込層3の造成に浚渫土を用いる場合は、基礎マウンド1や土留めマウンド10からの土砂の流出を防止するため、両マウンドの相対向する法面1aおよび10aに防砂シート(図示略)を予め敷設するのが望ましい。
【0011】
上記消波構造物4は、ここでは図2に示すような透過型消波ブロック13を、上記裏込層3の天端(場合によっては、被覆石12の上面)に密に配列することにより構築されており、その天端は、常時没水するようになっている。
この消波構造物4を構成する透過型消波ブロック13は、特開平8−3965号公報に開示されたものと同じもので、側面と底面とに大きな開口14を有する直方体状のブロック本体15の上面に複数の通水孔16を設けており、その内部は広い遊水部17として提供されている。この透過型消波ブロック13は、その遊水部17に通水孔16を通して海水が出入りする際、波動エネルギーを吸収し、大きな消波効果を発揮するものとなる。
【0012】
本第1の実施の形態において、上記消波構造物4は、堤本体2に対して間隔を開けて敷設されており、この消波構造物4と堤本体2との間は遊水部(水叩き部)18として提供されている(図1)。この遊水部18の底面は、前記被覆石12をそのまま露出させてもよいが、図示のようにコンクリート層19で覆ってもよい。なお、コンクリート層19で覆う場合は、水中コンクリートを場所打ちしても、別途工場製作したコンクリート版を敷いてもよい。
【0013】
上記のように構成した環境協調型防波堤においては、沖合海域Bから来襲する波浪がそれほど大きくない場合は、波浪の大部分が堤本体2に前面に衝突し、その波動エネルギーの大部分が消波機構7により吸収されて波が消失する。一方、沖合海域Bから比較的大きな波浪が来襲すると、堤本体2を越波して大量の海水が背後の消波構造物4へ流れ込む。この時、堤本体2を越波した海水は、先ず堤本体2の直後の遊水部18に落下し、一次的に波動エネルギーが減衰された後、消波構造物4に流れ込む。消波構造物4は、前記したように透過型消波ブロック13を構成要素としており、海水は、各透過型消波ブロック13の上面の通水孔16を出入りする間に次第にその波動エネルギーを弱め、静穏でかつ新鮮な海水が港湾内に向かう。しかも、各消波構造物4は、常時没水して透過型消波ブロック13の内部を広い遊水部17として提供しているので、堤本体2の背後に水生生物の生息環境が創造され、消波構造物4に魚介類や藻が繁殖するようになる。なお、本防波堤によれば、堤本体2とその背後の消波構造物4とが一体となって来襲波浪を消散させるので、堤本体2はそれほど大断面積とする必要はなく、その分、堤本体1自体の製作並びに基礎マウンド1の造成が簡単となり、その上、基礎マウンド1上への堤本体2の据付けも簡単となる。
【0014】
ここで、上記のごとき環境調和型防波堤と標準の防波堤との断面比較を行うと、下記のとおりとなっている。
すなわち、防波堤を越波する波の伝達率Kは、防波堤の設計潮位(DL=±0m)からの天端高さをR,来襲波浪の高さをH1/3 とすると、下記(1) で与えられることが知られている。
K=0.3 ×( 1.1−R/H1/3 ) …(1)
ここで、許容伝達率Kt として0.1 の値を採用し、来襲波浪の大きさをH1/3 =12m(周期T1/3 =14sec )とすると、上記(1) は下記(2) 式のようになり、これより、防波堤の標準の天端高さRは、+9.2 mとなる。
Kt =0.3 ×( 1.1−R/12)=0.1 …(2)
【0015】
一方、上記実施の形態の環境調和型防波堤における堤本体2の天端高さRを4mと仮定してその伝達率Kt1を求めると、上記(1) は下記(3) 式のようになって、堤本体2の伝達率Kt1は0.23となり、これより、越波により発生する波の高さは、12×0.23=2.8 mとなる。
Kt1=0.3 ×( 1.1−4/12)=0.23 …(3)
また、上記消波構造物4の伝達率をKt2とし、この伝達率Kt2と前記堤本体2の伝達率Kt1とを掛け合せた値を、下記(4) 式のように前記標準の許容伝達率Kt と一致させる。
Kt =Kt1×Kt2 …(4)
この場合、前記したようにKt =0.1 ,Kt1=0.23であるので、上記(4) 式より消波構造物4の伝達率Kt2としては、0.43が必要となる。
【0016】
また、消波構造物4の幅Bと伝達波の波長L0 との間には、実験によれば下記(5) 式の相関がある。
B/L0 =0.2 …(5)
ここで、消波構造物4の上面高さを−3mと仮定する.越波により発生する波の周期は来襲波と同じT1/3 =14sec とみることができ、伝達波の波長はL0 =306 mとなる。すなわち、この波長L0 を(5) 式に代入することにより消波構造物4の幅Bは、B=0.2 ×306 =61.2mとなり、消波構造物4としては、約60mの幅が必要になることが分かる。
【0017】
図3は、本発明の第2の実施の形態としての環境協調型防波堤を示したものである。本第2の実施の形態の特徴とするところは、堤本体2の背後の裏込層20を捨石マウンドから形成して前記土留めマウンド10(図1)を省略し、また、消波構造物21は、より大型の透過型消波ブロック22を用いて構築して、その陸側端部の透過型消波ブロック22の上に鉛直壁23を立設した点にある。なお、他の構成要素は、前出図1に示したもの同じであるので、ここでは、同一要素に同一符号を付している。
本第2の実施の形態において、上記鉛直壁23は、最高潮位H.W.L と最低潮位L.W.L との中間位置に天端が位置するようにその高さが設定されており、この鉛直壁22の存在によって消波効果がより一層高まり、上記第1の実施の形態における消波構造物4と同じ伝達率を得ようとする場合は、該消波構造物21の幅を、前記消波構造物4の幅の1/2 〜1/3 とすれば足り、その分、裏込層20および消波構造物21の構築は容易となる。
【0018】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明に係る環境協調型防波堤によれば、越波を許容する堤本体とその背後の没水透過型消波構造物とを組合せることで、防波機能を損なうことなく背後水域へ新鮮な海水を大量に供給できるようになり、港湾内の水質保全と水生生物の生息域の創造とに大きく寄与する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての環境協調型防波堤の全体構造を示す断面図である。
【図2】本環境協調型防波堤における消波構造物を構成する透過型消波ブロックの構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態としての環境協調型防波堤の全体構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基礎マウンド
2 堤本体
3,20 裏込層
4,21 消波構造物
6 ケーソン
7 消波機構
10 土留めマウンド
12 被覆石
13 透過型消波ブロック
18 堤本体背後の遊水部
23 鉛直壁
Claims (5)
- 堤本体の天端高さを最高潮位よりは高いが標準の設計高さよりも低い高さに設定し、該堤本体の背後に造成した裏込層の天端に没水透過型消波構造物を配置し、かつ前記堤本体と前記消波構造物との間に、遊水部を設けたことを特徴とする環境協調型防波堤。
- 堤本体が、ケーソンからなることを特徴とする請求項1に記載の環境協調型防波堤。
- ケーソンが、消波機構を前面に有する直立消波ケーソンであることを特徴とする請求項2に記載の環境協調型防波堤。
- 消波構造物が、透過型消波ブロックを構成要素としていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の環境協調型防波堤。
- 消波構造物の陸側端部の上に、鉛直壁を設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の環境協調型防波堤。
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