JP4051529B2 - 化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法並びに構造体及びその製造方法 - Google Patents

化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法並びに構造体及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、化粧面(製品の外面として用いられ、最終的に外部から視認されうる面)を構成する板材を有する部材同士を摩擦攪拌接合する方法に関する。また、該方法を用いた構造体の製造方法及び該方法により製造された構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
化粧面を有する板材同士を突き合わせ、その突合せ部を摩擦攪拌接合する従来技術として、特許第3152420号公報に開示されたものがある。これは、第一の板材と第二の板材とを突き合わせて配置した上で、両板材の一方の面のみから回転ツールを挿入して突合せ部を摩擦攪拌接合し、両板材の他方の面を化粧面とする方法である。摩擦攪拌接合では一般に、回転ツールを挿入する側の板材表面に回転ツールのショルダー部の押圧に起因する凹みやバリなどが不可避的に生じてしまうが、上記方法によれば、回転ツールを挿入する側の板材表面を非化粧面(化粧面の裏面であって、最終的に外部から視認されない面)として用い、回転ツールを挿入しない側の板材表面を化粧面として用いるので、その逆の場合よりも製品の見栄えをよくすることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法では、回転ツールを挿入しない面側(化粧面側)において突合せ部が未接合のまま残ってしまうことがある。したがって、両板材の突合せラインが化粧面にスジ状に現れて、化粧面の見栄えが悪化してしまう。また、未接合部が残ることによって、板材同士の充分な接合強度が得られなくなってしまう。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑み、化粧面の見栄えがよく、接合強度も充分に確保できる、化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法(以下、単に「摩擦攪拌接合方法」という。)等を提案するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、化粧面を構成する板材を有する第一の部材と化粧面を構成する板材を有する第二の部材とを、前記両板材の端部同士で突き合わせて、前記板材の化粧面側から突合せ部に回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合した後、前記板材の化粧面側に裏当てを配置し、化粧面側に形成された摩擦攪拌部を包含する摩擦攪拌部が形成されるように前記板材の化粧面側の面の裏面である非化粧面側から前記突合せ部に回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合することにより、前記板材の前記突合せ部の化粧面側を実質的に平坦にする、ことを特徴とする化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法である。
【0006】
かかる摩擦攪拌接合方法は、非化粧面側からだけでなく化粧面側からも突合せ部を摩擦攪拌接合するので、突合せ部の化粧面側も完全に接合される。したがって、突合せ部の化粧面側にスジ状の突合せラインが残ることはなく、また充分な接合強度が得られる。
また、化粧面側から摩擦攪拌接合した後に非化粧面側から摩擦攪拌接合するので、化粧面側から摩擦攪拌接合したために生じた突合せ部の凹みの周囲のメタルを、非化粧面側からの摩擦攪拌接合時に高温化して攪拌流動させるとともに回転ツールで押圧することによって、該凹みを埋めることができる。したがって、突合せ部の化粧面側表面を実質的に平坦に矯正して、見栄えのよい化粧面とすることができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法において、化粧面側から摩擦攪拌接合した後、非化粧面側から摩擦攪拌接合する前に、突合せ部の化粧面側に生じたバリを切除する、ことを特徴とする。
【0008】
かかる摩擦攪拌接合方法は、非化粧面側から摩擦攪拌接合する前に、化粧面側から摩擦攪拌接合したために生じたバリを切除することにより、非化粧面側からの摩擦攪拌接合時に、化粧面側で生じたバリが埋没した状態で残ることをなくし、化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の摩擦攪拌接合方法において、裏当てが両板材よりも熱伝導度の小さい材質である、ことを特徴とする。
【0010】
かかる摩擦攪拌接合方法は、両板材よりも熱伝導度の小さい材質の裏当てを化粧面側に配置して非化粧面側から摩擦攪拌接合することによって、非化粧面側からの摩擦攪拌接合時に、裏当て接触部の局所的な温度低下を防止することができる。したがって、非化粧面側からの摩擦攪拌接合による化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができ、また、回転ツールの突合せラインに沿う方向の移動速度を大きくして効率的に接合することができる。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法において、非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの回転ツールを、進行方向を指向するように後方に傾ける、ことを特徴とする。
【0012】
かかる摩擦攪拌接合方法は、非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの回転ツールを進行方向を指向するように後方に傾けることによって、該回転ツールのショルダー部の接合方向後方部が非化粧面に強く押圧されるので、非化粧面側からの摩擦攪拌接合による化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができ、また突合せ部の化粧面側に空洞等の欠陥を生じにくくすることができる。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法による構造体の製造方法であり、請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法による車両構体の製造方法である。
【0014】
かかる構造体ないし車両構体の製造方法によれば、見栄えがよく板材同士の接合強度の高い構造体ないし車両構体を低コストで効率的に製造することができる。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法によって製造された構造体あり、請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法によって製造された車両構体である。
【0016】
かかる構造体ないし車両構体は、見栄えがよく、板材同士の接合強度が高く、低コストで効率的に製造可能である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略するものとする。
【0018】
図1は本発明に係る摩擦攪拌接合方法の一実施形態を表す手順説明図であり、図2は図1に続く手順説明図である。
本摩擦攪拌接合方法では、まず図1(a)に示すように、第一の部材である板材S1の端部と第二の部材である板材S2の端部とを突き合わせて、両板材S1,S2の化粧面S1a,S2a側から突合せ部Tに回転ツール1を挿入して摩擦攪拌接合する。
【0019】
ここで、板材S1,S2はいずれもアルミニウム合金からなり、それぞれの化粧面S1a,S2aを上に、非化粧面S1b,S2bを下にして、裏当て2の上で固定される。回転ツール1は、径大のツール本体1aと、このツール本体1aの先端面から同軸で突出する径小の攪拌ピン1bとを備えており、ツール本体1aの先端面周囲にはショルダー部1cが形成されている。
そして、板材S1,S2の化粧面S1a,S2a側から突合せ部Tに対して、中心軸まわりに高速回転する回転ツール1の攪拌ピン1bを挿入するとともにショルダー部1cを化粧面S1a,S2aに若干押圧した状態で、板材S1,S2の突合せラインに沿って回転ツール1を紙面直交方向に移動させることによって、板材S1,S2の化粧面S1a,S2a側から突合せ部Tを摩擦攪拌接合する。したがって、板材S1,S2の突合せ部Tの化粧面S1a,S2a側は完全に接合されて突合わせラインが生じなくなる。なお、攪拌ピン1bの長さは、少なくとも板材S1,S2の化粧面S1a,S2a側を接合するのに十分であればよい。
【0020】
このとき図3(a)に示すように、回転ツール1は、進行方向を指向するように後方にθだけ(たとえば約3°)傾斜させる。つまり、回転ツール1の中心軸CLが板材S1,S2の化粧面S1a,S2aの直交軸Pに対して後方に約3°傾いた状態で、回転ツール1を突合せ部Tに沿って移動させる。このようにすれば、回転ツール1のショルダー部1cの後方部が化粧面S1a,S2aに強く押し付けられ、攪拌流動する板材S1,S2のメタルが適正に押さえ込まれるので、突合せ部Tの化粧面S1a,S2a側に空洞等の欠陥が生じにくくなる。
【0021】
このようにして化粧面S1a,S2a側から突合せ部Tに回転ツール1を挿入して摩擦攪拌接合した後の状態を図1(b)に示す。同図中の符号Kaは、回転ツール1によって板材S1,S2のメタルが摩擦攪拌された摩擦攪拌部である。摩擦攪拌部Kaは、回転ツール1の攪拌ピン1b及びショルダー部1cの周囲の領域に形成される。また、板材S1,S2の突合せ部Tの化粧面S1a,S2a側には、回転ツール1のショルダー部1cの押圧に起因する凹みHaが不可避的に生じ、凹みHaの両側にはバリBa,Baが生じる。なお、突合せ部Tの非化粧面S1b,S2b側は未接合のままの状態である。
【0022】
続いて、板材S1,S2の化粧面S1a,S2a側に生じたバリBa,Baを切除する。切除は、エンドミルやボールエンドミル、ステンレスブラシ等の適宜の工具を用いて行い、図1(c)に示すように、凹みHaがなだらかな溝状となるように処理する。
【0023】
次に、図2(a)に示すように、化粧面S1a,S2aが下に、非化粧面S1b,S2bが上になるように板材S1,S2を上下反転して配置し、裏当て4の上で固定する。そして、非化粧面S1b,S2b側から突合せ部Tを回転ツール3で摩擦攪拌接合する。
【0024】
このとき、回転ツール3の攪拌ピン3bの径w2は、回転ツール1のショルダー部1cの径w1の0.5倍よりも大きくなっている(w2>0.5w1)。このとき、回転ツール1によって摩擦攪拌された摩擦攪拌部Kaは、回転ツール3によって摩擦攪拌される摩擦攪拌部Kbにほぼ包含される。その結果、非化粧面S1b,S2b側から突合せ部Tを回転ツール3で摩擦攪拌接合するときの、攪拌ピン3b及びショルダー部3cによるメタルの摩擦攪拌作用とショルダー部3cによる非化粧面S1b,S2bへの押圧作用とによって、突合せ部Tのメタルが充分に攪拌流動し、凹みHaが埋められて化粧面S1a,S2aが実質的に平坦になる。なお、非化粧面S1b,S2b側から突合せ部Tを摩擦攪拌接合するときには、回転ツール3の攪拌ピン3bが特に凹みHaに近接するため、回転ツール3の攪拌ピン3bの径w2を回転ツール1のショルダー部1cの径w1よりも大きく(w2>w1)すれば、メタルの攪拌流動がより一層促進されて凹みHaの矯正効果が高まる。
【0025】
また、この凹みHaの矯正効果は、裏当て4の熱伝導度によっても影響を受ける。
たとえば、板材S1,S2の熱伝導度(アルミニウムの20℃下での熱伝導度:0.31〜0.52(cal/℃・cm・sec))よりも大きな熱伝導度の材質(たとえば熱伝導度約0.93の銅)からなる裏当て4を用いたときには、回転ツール3による摩擦攪拌接合時の摩擦熱が裏当て4を経由して逃げやすいため、回転ツール3の突合せ部Tに沿う方向の移動速度が大きいと、突合せ部Tのメタルの攪拌流動が不充分となってしまう。したがって、この場合には、回転ツール3の突合せ部Tに沿う方向の移動速度を比較的小さくする必要がある。
一方、板材S1,S2の熱伝導度よりも小さな熱伝導度の材質(たとえば熱伝導度0.04〜0.17の鉄)からなる裏当て4を用いたときには、回転ツール3による摩擦攪拌接合時の摩擦熱が裏当て4を経由して逃げにくくなっているため、凹みHaの周囲のメタルが比較的長時間高温に保持されることになる。したがって、回転ツール3の突合せ部Tに沿う方向の移動速度が大きくても、突合せ部Tのメタルが充分に攪拌流動され、凹みHaの矯正効果が高まるのであり、逆に言えば、回転ツール3の突合せ部Tに沿う方向の移動速度を大きくして高速で効率的に摩擦攪拌接合することが可能となる。
【0026】
また、回転ツール3は、図3(b)に示すように、進行方向を指向するように後方にθだけ(たとえば約3°)傾ける。つまり、回転ツール3の中心軸CLが、板材S1,S2の非化粧面S1b,S2bの直交軸Pに対して後方に約3°傾いた状態で、回転ツール3を突合せ部Tに沿って移動させる。このようにすれば、回転ツール3のショルダー部3cの後方部が非化粧面S1b,S2bに強く押し付けられ、攪拌流動する板材S1,S2のメタルが適正に押さえ込まれ、突合せ部Tの非化粧面S1b,S2b側に空洞等の欠陥が生じにくくなる。
【0027】
以上のようにして非化粧面S1b,S2b側から突合せ部Tに回転ツール3を挿入して摩擦攪拌接合した後の状態を図2(b)に示す。同図に示すように、非化粧面S1b,S2b側からの摩擦攪拌接合によって凹みHaは埋められ、化粧面S1a,S2aは実質的に平坦に矯正される。また、化粧面S1a,S2aには従来のようなスジ状の突合せラインが生じておらず、外観美麗であり、また突合せ部Tの化粧面S1a,S2a側も完全に接合されているため、接合強度も高い。したがって、化粧面S1a,S2aを様々な構造体の外面に向けて配置するように使用すると好適である。なお、突合せ部Tの非化粧面S1b,S2b側には、回転ツール3のショルダー部3cの押圧に起因する凹みHbやバリBb,Bbが生じるが、外部から視認されない非化粧面であるがゆえに製品への使用には問題とならない。
【0028】
なお、図1(c)に示したようなバリBa,Baの切除工程を省略した場合には、除去せずに存置したバリBa,Baの部分のメタルが非化粧面S1b,S2b側からの摩擦攪拌接合時に攪拌流動せず、非化粧面S1b,S2b側からの摩擦攪拌接合時の回転ツール3のショルダー部3cの押圧作用によって、図4に示すようにバリBa,Baが化粧面S1a,S2aにめり込んだ溝状欠陥部Mが形成されてしまい、製品として使用に適しないものとなってしまうことがある。
【0029】
なお、以上のような摩擦攪拌接合方法は、様々な製品に応用可能である。たとえば、図5に示す鉄道車両構体は、アルミニウム合金製の板材S3とS4、S5とS6、S7とS8がそれぞれ本発明の摩擦攪拌接合方法によって接合されて製造されたものである。本発明の摩擦攪拌接合方法によれば、このように見栄えがよく板材同士の接合強度が高い車両構体を、低コストで効率的に製造することができる。もちろん、本発明の摩擦攪拌接合方法は車両構体に限らず、他のあらゆる構造体に適用可能である。
【0030】
なお、以上の説明では、摩擦攪拌接合の対象となる第一の部材と第二の部材は、ともに全体が板状となっていたが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明における第一の部材、第二の部材は、少なくとも摩擦攪拌接合を施す部位が、化粧面を構成する板材となっているものであればよい。
【0031】
たとえば、図6に示す例では、第一の部材S9は、化粧面を構成する板材S9’を有するダブルスキン構造のパネルであり、第二の部材S10は、化粧面を構成する板材S10’を有するダブルスキン構造のパネルである。第一の部材S9において板材S9’と対向配置された板材S9”、第二の部材S10において板材S10’と対向配置された板材S10”は、化粧面を構成しない板材である。このような第一の部材S9と第二の部材S10との摩擦攪拌接合も、既に説明した方法と同様に行われる。つまり、まず図6(a)に示すように、第一の部材S9の板材S9’の端部と第二の部材S10の板材S10’の端部とを突き合わせて、板材S9’,S10’の化粧面S9a,S10a側から突合せ部Tに回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合する。次に、図6(b)に示すように、第一の部材S9及び第二の部材S10を上下反転させて板材S9’,S10’の化粧面S9a,S10a側に裏当て4を配置し、板材S9’,S10’の非化粧面S9b,S10b側から突合せ部Tに回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合することにより、板材S9’,S10’の突合せ部Tの化粧面S9a,S10a側を実質的に平坦にすればよい。
なお、ここでは第一の部材S9の板材S9”の端部と第二の部材S10の板材S10”の端部とを、板材S9’,S10’の非化粧面S9b,S10b側からの摩擦攪拌接合と同時に摩擦攪拌接合しているが、板材S9’,S10’の非化粧面S9b,S10b側からの摩擦攪拌接合の前又は後に摩擦攪拌接合又は溶接してもよい。
【0032】
また、図7に示す例は、第一の部材S9の板材S9’の端部と第二の部材S10の板材S10’の端部がそれぞれ板材S9”,S10”の端部よりも長く突き出ている点で、図6の例と異なっているが、その他は図6の例と同様である。
この場合、第一の部材S9の板材S9”の端部と第二の部材S10の板材S10”の端部とは接合されない。そして、まず図7(a)に示すように、第一の部材S9の板材S9’の端部と第二の部材S10の板材S10’の端部とを突き合わせて、板材S9’,S10’の化粧面S9a,S10a側から突合せ部Tに回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合し、その後、図7(b)に示すように、第一の部材S9及び第二の部材S10を上下反転させて板材S9’,S10’の化粧面S9a,S10a側に裏当て4を配置し、板材S9’,S10’の非化粧面S9b,S10b側から突合せ部Tに回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合することにより、板材S9’,S10’の突合せ部Tの化粧面S9a,S10a側を実質的に平坦にすればよい。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨に応じた適宜の変更を加えて実施されるべきものであることは言うまでもない。
【0034】
【実施例】
<実施例1>
化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの形状、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの形状、非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当ての材質の相互関係を考察するため、これらを様々に組み合わせて実際に摩擦攪拌接合を行った。
供試材(板材)には、板厚4mm、幅200mm、長さ2000mmのアルミニウム合金6N01−T5を用いた。また、化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの攪拌ピンの径を2.5mm、長さを1.5mmに設定し、回転ツールを中心軸まわりに3600rpmで回転させつつ、突合せ部に沿って1000mm/minの速度で移動させた。一方、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールのショルダー部の径を15mm、攪拌ピンの長さを3.5mmに設定し、回転ツールを中心軸まわりに2800rpmで回転させつつ、突合せ部に沿って400mm/minの速度で移動させた。
結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
Figure 0004051529
【0036】
表1から、以下のことが明らかになった。
(1)非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当てを、板材の熱伝導度よりも大きな熱伝導度の材質(Cu)としたときには、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの攪拌ピンの径を、化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールのショルダー径よりも大きくすれば、化粧面側の凹みを平坦に矯正できる。
(2)非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当てを、板材の熱伝導度よりも小さな熱伝導度の材質(Fe)としたときには、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの攪拌ピンの径を、化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールのショルダー径の0.5倍よりも大きくすれば、化粧面側の凹みを平坦に矯正できる。
(3)非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当てを、板材の熱伝導度よりも大きな熱伝導度の材質(Cu)としたときよりも、板材の熱伝導度よりも小さな熱伝導度の材質(Fe)としたときのほうが、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの攪拌ピンの径を小さくできる。これは、既に説明したように、板材よりも小さな熱伝導度の材質の裏当てを用いれば、摩擦攪拌部を比較的長時間高温に保つことができるので、凹みの周囲のメタルの攪拌流動作用が高まり、凹みの矯正効果が高まるためであると考えられる。
【0037】
<実施例2>
非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当ての材質と、回転ツールの接合速度との関係を考察するため、これらを様々に組み合わせて実際に摩擦攪拌接合を行った。
供試材(板材)には、板厚4mm、幅200mm、長さ2000mmのアルミニウム合金6N01−T5を用いた。また、化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールのショルダー部の径を6mm、攪拌ピンの径を2.5mm、長さを1.5mmに設定し、回転ツールを中心軸まわりに3600rpmで回転させつつ、突合せ部に沿って1000mm/minの速度で移動させた。一方、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールのショルダー部の径を15mm、攪拌ピンの径を6mm、長さを3.5mmに設定した。
結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
Figure 0004051529
【0039】
表2からは、非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの裏当てを、板材の熱伝導度よりも大きな熱伝導度の材質(Cu)としたときよりも、板材の熱伝導度よりも小さな熱伝導度の材質(Fe)としたときのほうが、非化粧面側から摩擦攪拌接合する回転ツールの突合せ部に沿う方向の移動速度を大きくできることが分かる。これは、既に説明したように、板材よりも小さな熱伝導度の材質の裏当てを用いれば、摩擦攪拌部を比較的長時間高温に保つことができるので、凹みの周囲のメタルの攪拌流動作用が高まり、凹みの矯正効果が高まるためであると考えられる。
【0040】
【発明の効果】
以上のように、請求項1に係る発明によれば、突合せ部の化粧面側も完全に接合されてスジ状の突合せラインが残ることがなく、また充分な接合強度が得られる。また、化粧面側から摩擦攪拌接合したために生じた突合せ部の凹みは、非化粧面側から摩擦攪拌接合することによって埋められるので、見栄えのよい化粧面とすることができる。
【0041】
請求項2に係る発明によれば、非化粧面側からの摩擦攪拌接合による突合せ部の化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができる。
【0042】
請求項3に係る発明によれば、非化粧面側からの摩擦攪拌接合による突合せ部の化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができ、また、回転ツールの突合せラインに沿う方向の移動速度を大きくして効率的に接合することができる。
【0043】
請求項4に係る発明によれば、非化粧面側からの摩擦攪拌接合による突合せ部の化粧面側の凹みの矯正効果を高めることができ、また突合せ部の化粧面側に空洞等の欠陥が生じにくくなる。
【0044】
請求項5乃至請求項8に係る発明によれば、見栄えがよく板材同士の接合強度の高い構造体ないし車両構体を低コストで効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る摩擦攪拌接合方法の一実施形態を表す手順説明図である。
【図2】図1に続く手順説明図である。
【図3】(a)は図1(a)の側面図、(b)は図2(a)の側面図である。
【図4】図1(c)のバリ切除工程を省略した場合における図2(b)に相当する図である。
【図5】本発明に係る摩擦攪拌接合方法によって製造した車両構体の一実施形態を表す斜視図である。
【図6】本発明に係る摩擦攪拌接合方法の別の実施形態を説明するための断面図である。
【図7】本発明に係る摩擦攪拌接合方法の別の実施形態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
1 … 回転ツール
1a … ツール本体
1b … 攪拌ピン
1c … ショルダー部
2 … 裏当て
3 … 回転ツール
3b … 攪拌ピン
3c … ショルダー部
4 … 裏当て
Ba,Bb … バリ
Ha,Hb … 凹み
Ka,Kb … 摩擦攪拌部
M … 溝状欠陥部
S1,S2 … 板材
S1a,S2a … 化粧面
S1b,S2b … 非化粧面
T … 突合せ部

Claims (8)

  1. 化粧面を構成する板材を有する第一の部材と化粧面を構成する板材を有する第二の部材とを、前記両板材の端部同士で突き合わせて、前記板材の化粧面側から突合せ部に回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合した後、前記板材の化粧面側に裏当てを配置し、化粧面側に形成された摩擦攪拌部を包含する摩擦攪拌部が形成されるように前記板材の化粧面側の面の裏面である非化粧面側から前記突合せ部に回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合することにより、前記板材の前記突合せ部の化粧面側を実質的に平坦にする、ことを特徴とする化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法。
  2. 前記化粧面側から摩擦攪拌接合した後、前記非化粧面側から摩擦攪拌接合する前に、前記突合せ部の化粧面側に生じたバリを切除する、
    ことを特徴とする請求項1に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法。
  3. 前記裏当てが前記両板材よりも熱伝導度の小さい材質である、
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法。
  4. 前記非化粧面側から摩擦攪拌接合するときの回転ツールを、進行方向を指向するように後方に傾ける、
    ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法による構造体の製造方法。
  6. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法による車両構体の製造方法。
  7. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法によって製造された構造体。
  8. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の化粧面を有する部材の摩擦攪拌接合方法によって製造された車両構体。
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