JP4046329B2 - スラグカット用スラグダーツ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スラグカット用スラグダーツに関し、特に、転炉型反応容器の出鋼孔に挿入するダーツ本体の各部の比重及び寸法を選択することにより、ダーツ本体の投入時の転倒を防止し、確実なスラグカットを行うための新規な改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的な鋼の製造プロセスは、溶銑、または溶銑・スクラップを転炉型反応容器内で脱炭、または脱炭・脱りんの粗精錬を行った後、転炉型反応容器を傾動させてこの反応容器に設けられた出鋼孔から取鍋へ出鋼し、2次精錬工程で取鍋内の溶鋼の成分調整を行い、鋳造工程へと進むものである。粗精錬工程では、溶鋼の他、主副原料や耐火材に由来した副産物、即ちスラグが必然的に発生し、出鋼時には溶鋼と共に、スラグの一部が取鍋内へ流出する。
【0003】
取鍋内へ流出したスラグ(以下、取鍋スラグと称する)はCaO,SiO2,P2O5,MgOの他、FetOやMnO等の酸化物を含有しており、特にFetOやMnOは成分調整時に脱酸剤であるAlと反応してAl2O3を生じさせる。このAl2O3が溶鋼内に懸濁したまま鋳造された場合は圧延後に疵となり、製品歩留を低下させる。
【0004】
取鍋スラグによる溶鋼汚染を抑制する方法として、例えば取鍋内にフラックスを添加しFetOやMnO濃度を低減させるスラグ改質法(特許文献1参照)、出鋼時にスラグ流出量を低減させ、取鍋スラグ中のFetO・MnO量を低減させるスラグカット法(特許文献2参照)、およびスラグ改質法とスラグカット法の複合法が実施されている。
【0005】
本発明が対象とするダーツ式スラグカット法はスラグカット法の一種であり、スラグAと溶鋼Bの比重差を利用し出鋼終了後のスラグ流出を自動的に遮断する方法である。具体的には、図3のように予め比重を調整したスラグダーツ1を、スラグダーツ投入装置2を用いて転炉型反応容器3内の出鋼孔4付近へ出鋼中に投入する。スラグダーツは図4のような形状をしており、耐火材と比重調整用金属で作成したヘッド部5、金属を耐火材で被覆した脚部6、および把持部7から構成されるもので、スラグと溶鋼の比重差、および出鋼流によって出鋼孔4付近のスラグ/溶鋼界面に浮遊し、出鋼終了と同時に出鋼孔4に栓をして出鋼末期にスラグAが取鍋8に流出するのを防止するものである。
【0006】
ダーツ式スラグカット法は前述の原理により元来スラグカット的中率が高い方法であるが、実際には出鋼孔の形状変化、投入装置の機械的な位置精度、または出鋼中の渦流等によるスラグ/溶鋼表面の変動によってダーツが転倒し、スラグカット不的中となる場合がある。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−178634号公報
【特許文献2】
特開平6−235017号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来のスラグカット用スラグダーツは、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、スラグダーツが転倒してスラグカット不的中となった場合は多量にスラグが流出し溶鋼の清浄性を低下させるため、スラグ/溶鋼流動や位置精度の影響を受けにくくして転倒を防止することが重要である。そのため、ダーツの比重を調整する方法は、「特開2001−152230」のようにヘッドの一部に鉄系材料を使用する方法が知られている。この方法では、比重の増加にしたがって芯材方向の重心が把持部側へ移動していく。即ち脚部の方がヘッド部よりも軽量であるためにスラグ/溶鋼表面の変動の影響を受けやすくなり、ダーツ投入時に転倒しやすくなってしまう。
【0009】
一方「特開2000−160225」においては、脚部の所定位置に突起を設け、出鋼流へ強制的に追従させる方法が発明されている。この突起は出鋼孔径の10〜80%の寸法であり、耐火材で作成されていると考えられる。この方法においては、ダーツ投入後に芯材方向に固定させる効果があるものの、追従させる効果を高めるために突起寸法を増加させた場合にはスラグ/溶鋼表面方向への力も大きくなり不安定になる。ここで、出鋼孔径に対しダーツ脚部径が過度に大きい場合、投入位置の機械的精度が高くなければ逆に的中率が低下してしまう。また脚部の投影面積が大きい程出鋼流を妨げることになり、出鋼所要時間増加に伴う生産能力の低下、熱ロスの増加が懸念される。
【0010】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、特に、スラグカットを確実に実施して清浄性の高い溶鋼を製造することを最終目的とし、ダーツ式スラグカット法においてスラグ/溶鋼流動や投入装置の位置精度の影響を受けにくくして転倒を防止し得る条件を有するスラグカット用スラグダーツを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によるスラグカット用スラグダーツは、転炉型反応容器で溶銑、または溶銑とスクラップを脱炭・脱りんした溶鋼を前記転炉型反応容器の底部の出鋼孔から取鍋へ出鋼する際にスラグのカット用として用いられ脚部、ヘッド部及び把持部からなるダーツ本体で構成されるスラグカット用スラグダーツにおいて、前記ダーツ本体全体の比重を前記スラグより大きくかつ溶鋼より小さい2〜8の範囲とするとともに、前記ダーツ本体内に設けられた金属製芯材の前記脚部側を先端として、前記金属製芯材の前記先端から長手方向に沿う重心までの距離(G)を前記先端から前記ヘッド部までの距離(H)以下(G≦H)とする構成であり、また、前記ヘッド部は比重2〜5の耐火材と比重6〜8の金属材料よりなり、前記把持部は比重6〜8の金属材料よりなり、前記脚部が複数の径の異なる直径部を有し比重6〜8の金属棒よりなると共に前記金属棒全体が比重2〜5の耐火材で被覆されている構成であり、また、前記脚部の最大径(D)が前記転炉型反応容器の出鋼孔の孔径(D0)の1/3以内(D≦1/3×D0)とする構成である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面と共に本発明によるスラグカット用スラグダーツの好適な実施の形態について説明する。尚、従来例と同一又は同等部分には同一符号を用いて説明する。
尚、スラグダーツ1が用いられる転炉型反応容器3と取鍋8の図3の構成は、本発明において援用するものとする。
図1において符号1で示されるものは転炉型反応容器3の出鋼孔4に挿入されるスラグダーツであり、このスラグダーツ1は、金属棒20の外周に脚部被覆用耐火材21が設けられた脚部6と、前記金属棒20と一体の金属製芯材24に比重調整用金属23が設けられ、この比重調整用金属23の外側にヘッド部用耐火材22が形成されたヘッド部5と、このヘッド部5の上部に形成された把持部7とからなるダーツ本体10によって構成されている。
【0013】
前記ヘッド部5の材質はMgOやCr2O3、Al2O3等の耐火材に比重調整用金属23を埋め込んだもので、芯材は鉄筋に溶損防止用にヘッド部と同様の耐火材で被覆する。ダーツ本体10全体の比重は、スラグ/溶鋼界面付近を浮遊するようスラグ比重より大きく、かつ溶鋼比重より小さく構成されている。脚部6と把持部7の芯材方向の長さは、転炉型反応容器3内の溶鋼量と投入装置の位置により決定する。このダーツ本体10の製造方法は、型枠に金属製芯材24を固定して耐火材を流し込み、脚部6被覆部とヘッド部5を製作する。
尚、ここで述べる溶鋼は、転炉型反応容器3で溶銑、または、溶銑とスクラップを脱炭、または脱炭・脱りんしたものである。
【0014】
ここで、前記ダーツ本体10内に設けられた金属製芯材24の前記脚部6側を先端24aとする。前記金属製芯材24の先端24aから長手方向に沿う重心までの距離(G)が前記先端24aからヘッド部5までの距離(H)以下(G≦H)の場合はそのまま使用が可で、G>Hの場合は、全体または脚部6のみ太径の鉄筋を使用するか、または脚部6に複数の径の異なる直径部の鉄筋を使用すればよい。ここで、投入後脚部6溶損に伴う重心移動を防止するため、脚部6芯材の全体を脚部被覆用耐火材21で被覆する必要がある。ただし、被覆を含めた脚部6の最大径(D)は出鋼孔4径(D0)の1/3以内、すなわち(D≦1/3×D0)とする。脚部6の形状については、芯材方向の投影断面積が最小となるよう、段付き形状ではなく脚部径一定の直線状が好ましい。
【0015】
スラグダーツ1の使用方法は次の通りである。予め投入装置の位置を転炉型反応容器3の出鋼孔4に合わせ、把持部7を投入装置2先端で把持しておく。この反応容器3での粗精錬が終了し反応容器3を傾動し出鋼工程となり、所定のタイミングで投入装置2を反応容器3内へ挿入しスラグダーツ1を投入する。投入後のスラグダーツ1はスラグA/溶鋼B界面付近を浮遊し、溶鋼Bの流出が終了するとヘッド部5が出鋼孔4に栓をするため、スラグ流出を自動的に防止することができる。
【0016】
ここで、脚部6径(D)は出鋼孔径(D0)の1/3以下であるため、投入位置が出鋼孔中心に対し±Dの範囲でずれた場合でも脚部6は出鋼孔4の範囲に収めることができる。これは出鋼孔4の形状が変化した場合でも同様の効果となる。また、投入後のスラグダーツ1はスラグA、溶鋼B、スラグダーツ1の比重差によって、ヘッド部5がスラグ/溶鋼界面付近に位置している。このためスラグ/溶鋼が流動している状況では、スラグダーツ1はヘッド部5を中心に揺れている状態となる。ここでスラグダーツ1の芯材方向の重心は、ヘッド部5よりも脚部6先端側に存在していることで、いわゆる「起き上がりこぼし」のようにスラグダーツ1の揺れを吸収し、揺れが大きな場合でも転倒を防止できる。投入後脚部6は溶鋼Bと接触しているため、脚部6に耐火材の被覆がない場合は脚部6が溶損し、重心位置はヘッド部5より脚部6先端側から把持部7側へ移動し、揺れに対する転倒防止効果は消失する。脚部6の被覆により溶損、重心移動を防止し、転倒防止効果を維持することが可能になる。
【0017】
実施例
スラグダーツ1の重心位置と脚部径による効果を確認するため、表1の第1表に示す(1)〜(5)の5種類を用意し、実機調査を行った。ヘッド部5は金属製芯材24方向の長さ185mm、芯材と垂直方向の長さが265mmの碗状で、芯材方向の寸法は把持部310mm、脚部長さH=805mmである。重心位置と比重は、ヘッド部5内または直上の金属製おもり、および径の異なる鉄筋を溶接して調整している。総重量は全て23kgで、重心位置を表わす指標G/Hは1.18〜0.94とした。また脚部径Dについては、出鋼孔径D0=Φ160mmに対して、被覆材を含め25%、32%、38%とした。ただし(2)については、脚部先端の一部は被覆なしとした。
上記設計に基づき、脚部径に沿った型枠に金属製芯材24を固定し、Al2O3を含有した被覆用耐火材を流し込む。続いてヘッド部用型枠を脚部型枠へ組み付け、比重調整用金属を取り付けた後にMgO、Cr2O3を含有したヘッド部用耐火材を装填する。耐火材の乾燥終了後、型枠を外してスラグダーツの製造は完了する。
【0018】
【表1】
【0019】
上記(1)〜(5)のダーツを各10〜20個作成し、上底吹転炉による粗精錬後の出鋼時に投入した。精錬後の溶鋼量は185トン、スラグは50〜100kg/tで、上記転炉を傾動し出鋼を開始する。スラグダーツ1を投入装置先端で把持し、出鋼終了の約2分前に投入装置を転炉内に挿入してダーツ投入し、投入後の状況を観察した。スラグカット的中は、溶鋼終了と同時に出鋼流量が急激に低下し、スラグがほとんど流出しないことから目視判断が可能である。的中した場合の取鍋スラグ量はおよそ5〜13kg/t、不的中時は5〜25kg/tであった。スラグの流出形態は、出鍋開始直後、出鍋中のスラグ巻込、および出鍋終了後の3種類がある。ダーツ式スラグカット法は出鍋終了後のスラグ流出を遮断する方法から、的中によるスラグカット量はおよそ10kg/t程度であった。
【0020】
スラグダーツ1形状毎のスラグカット的中率について、G/Hで整理した結果を図2に示す。スラグカット的中率は、{的中回数/投入回数×100}で定義し、図中の×、★、☆、□、●、○はそれぞれダーツ(1)〜(5)に対応するG/Hとスラグカット的中率である。図2の結果から、芯材方向の重心位置が脚部先端側である。すなわちG/Hが小さい程的中率は向上した。実際の観察結果においても、投入後ダーツの転倒が少なく、また転倒しそうになった場合でも速やかに戻る状況が観察されており、転倒防止効果を確認することができた。特に、重心位置がヘッド部よりも脚部先端側に存在するG/H≦1のダーツは的中率80%以上を確保できるため、G/H≦1の条件に基づくダーツであれば十分にスラグカットを実施可能であることを確認した。
【0021】
一方、スラグダーツ(2)はG/H=1.11、的中率=58.3%となり、ダーツ(1)のG/H=1.18、的中率=64.0%より劣る結果となった。ダーツ(2)的中時の状況を観察したところ、脚部の耐火材被覆がない部分は消失していた。脚部の溶損・消失を考慮して重心位置を再計算したところ、G/Hは投入前の1.11から、図2の☆で示す1.22となり、溶損・消失によって重心が把持部側へ移動していることがわかった。従って重心を下げたスラグダーツ1であっても、脚部6を耐火材で被覆しなければ効果を期待することはできない。
【0022】
また、スラグダーツ(3)とスラグダーツ(4)は、G/H=0.96で同程度であるが、的中率はスラグダーツ(5)=80.0%に対しスラグダーツ(3)=71.4%で約10%低下した。投入位置がずれていたケースが生じていたことから、出鋼孔径、投入装置の精度に対して脚部径が過度に大きいことがわかった。この結果より、脚部径(D)が出鋼孔径(D0)に対し1/3を超えている場合、投入装置の機械的精度により位置ずれの影響を受け不的中となるため、脚部径(D)は出鋼孔径(D0)の1/3以内にすることで十分にスラグカット実施可能であることを確認した。
【0023】
【発明の効果】
本発明によるスラグカット用スラグダーツは、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、ダーツ本体全体の比重をスラグより大きくかつ溶鋼より小さい2〜8の範囲とするとともに、金属製芯材の前記脚部側を先端として、金属製芯材の先端から長手方向に沿う重心までの距離(G)を先端からヘッド部までの距離以下とした本発明の条件に基づいた形状のダーツを用いることにより、スラグ/溶鋼流動や投入装置の機械的位置精度の影響が緩和されて投入後の転倒を防止でき、確実なスラグカットが可能になる。すなわち取鍋内へのスラグ流出を確実に抑制可能になり、清浄性の高い鋼を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるスラグダーツを示す断面図である。
【図2】 5種類のスラグダーツについて、重心位置G/Hとスラグカット的中率の関係で整理したグラフである。
【図3】 本発明及び従来のダーツ式スラグカット方法を示す構成図である。
【図4】 本発明によるスラグダーツの基本形状を示す図である。
【符号の説明】
1 スラグダーツ
A スラグ
B 溶鋼
3 転炉型反応容器
4 出鋼孔
5 ヘッド部
6 脚部
7 把持部
10 ダーツ本体
24 金属製芯材
24a 先端
Claims (3)
- 転炉型反応容器(3)で溶銑、または溶銑とスクラップを脱炭・脱りんした溶鋼(B)を前記転炉型反応容器(3)の底部の出鋼孔(4)から取鍋(8)へ出鋼する際にスラグ(A)のカット用として用いられ脚部(6)、ヘッド部(5)及び把持部(7)からなるダーツ本体(10)で構成されるスラグカット用スラグダーツにおいて、前記ダーツ本体(10)全体の比重を前記スラグ(A)より大きくかつ溶鋼(B)より小さい2〜8の範囲とするとともに、前記ダーツ本体(10)内に設けられた金属製芯材(24)の前記脚部 (6) 側を先端 (24a) として、前記金属製芯材 (24) の前記先端(24a)から長手方向に沿う重心までの距離(G)を前記先端(24a)から前記ヘッド部(5)までの距離(H)以下(G≦H)とすることを特徴とするスラグカット用スラグダーツ。
- 前記ヘッド部(5)は比重2〜5の耐火材と比重6〜8の金属材料よりなり、前記把持部(7)は比重6〜8の金属材料よりなり、前記脚部(6)が複数の径の異なる直径部を有し比重6〜8の金属棒よりなると共に前記金属棒全体が比重2〜5の耐火材で被覆されていることを特徴とする請求項1記載のスラグカット用スラグダーツ。
- 前記脚部(6)の最大径(D)が前記転炉型反応容器(3)の出鋼孔(4)の孔径(DO)の1/3以内(D≦1/3×D0)とすることを特徴とする請求項1又は2記載のスラグカット用スラグダーツ。
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