JP4043393B2 - パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、エネルギー損失を防止するための流量制御弁を備えたパワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エネルギー損失を防止するための流量制御弁を備えたパワーステアリング装置として、本願出願人が特開2001−260917(特許文献1)として既に開示したものがある。
この従来の装置は、図16に示すように、上記流量制御弁Vのスプール1の一端を一方のパイロット室2に臨ませ、スプール1の他端を他方のパイロット室3に臨ませている。
上記一方のパイロット室2には、ポンプポート4を介してポンプPを常時連通させている。また、この一方のパイロット室2は、流路6→可変オリフィスa→流路7を経由して、パワーシリンダ8を制御するステアリングバルブ9の流入側に連通している。
【0003】
一方、上記他方のパイロット室3には、スプリング5を介在させるとともに、流路10および流路7を介してステアリングバルブ9の流入側に連通している。そのため、上記両パイロット室2,3は、流路6→可変オリフィスa→流路7→流路10を介して連通することになり、可変オリフィスaの上流側の圧力が一方のパイロット室2に作用し、下流側の圧力が他方のパイロット室3に作用することになる。なお、上記可変オリフィスaの開度は、ソレノイドSOLに対するソレノイド電流指令値SIによって制御するようにしている。
【0004】
上記スプール1は、一方のパイロット室2の作用力と、他方のパイロット室3の作用力およびスプリング5のバネ力とがバランスした位置を保つが、そのバランスした位置において、タンクポート11の開度が決められる。
例えば、エンジン等のポンプ駆動源12の作動によって、ポンプPを駆動させると、ポンプポート4に圧油が供給されて、可変オリフィスaに流れが生じる。このように可変オリフィスaに流れが生じると、その前後に差圧が発生し、この差圧によって両パイロット室2,3に圧力差が発生する。そして、この圧力差によってスプール1が図示するノーマル位置からスプリング5に抗して上記バランスする位置に移動する。
【0005】
このようにしてスプール1がノーマル位置から移動すると、タンクポート11の開度が大きくなるが、このときのタンクポート11の開度に応じてポンプPからステアリングバルブ9側に導かれる制御流量QPと、タンクTあるいはポンプPに還流される戻り流量QTとの分配比が決まる。言い換えれば、タンクポート11の開度に応じて制御流量QPが決まることになる。
【0006】
このように制御流量QPがタンクポート11の開度に応じて制御されるということは、結局、可変オリフィスaの開度に応じてこの制御流量QPは決まることになる。なぜなら、タンクポート11の開度を決めるスプール1の移動位置は、両パイロット室2,3の圧力差で決まり、この圧力差を決めているのが可変オリフィスaの開度だからである。
【0007】
したがって、車速や操舵状況に応じて、制御流量QPを制御するためには、可変オリフィスaの開度、すなわちソレノイドSOLに対するソレノイド電流指令値SIを制御すればよいことになる。なぜなら、可変オリフィスaは、ソレノイドSOLの励磁電流の大きさによって、その開度を最大から最小まで任意に制御できるようにしているからである。
【0008】
一方、上記制御流量QPが導かれるステアリングバルブ9は、図示していないステアリングホィールの入力トルク(操舵トルク)に応じて、パワーシリンダ8への供給量を制御する。例えば、操舵トルクが大きければ、ステアリングバルブ9の切り換え量を大きくして、パワーシリンダ8への供給量を増やし、逆に操舵トルクが小さければ、ステアリングバルブ9の切り換え量を小さくして、パワーシリンダ8への供給量を少なくするようにしている。そして、パワーシリンダ8は、圧油の供給量が多いほど大きいアシスト力を発揮し、供給量が少ないほどアシスト力を小さくする。
なお、操舵トルクとステアリングバルブ9の切り換え量は、図示していないトーションバーなどのねじれ反力によって設定している。
【0009】
上記のようにしてパワーシリンダ8に供給される要求流量QMは、ステアリングバルブ9によって制御されているが、このステアリングバルブ9に供給される制御流量QPは、上記したように流量制御弁Vによって制御されている。ここで、パワーシリンダ8が必要とする要求流量QMと、流量制御弁Vで決められる制御流量QPとをなるべく等しくすれば、ポンプP側のエネルギー損失を低く抑えることができる。なぜなら、ポンプP側のエネルギー損失は、制御流量QPとパワーシリンダ8の要求流量QMとの差によって発生するからである。
そこで、制御流量QPをパワーシリンダ8の要求流量QMにできるだけ近づけて、エネルギー損失を防止するために、この従来例では、可変オリフィスaの開度を制御するようにしている。この可変オリフィスaの開度は、上記したようにソレノイドSOLに対する励磁電流で決まるが、この励磁電流を制御するのが以下に説明するコントローラCである。
【0010】
このコントローラCには、操舵角センサ14と車速センサ15とを接続している。このコントローラCは、図17に示すように、操舵角センサ14によって検出した操舵角に基づいて電流指令値I1を特定し、また、操舵角を微分して算出した操舵角速度に基づいて電流指令値I2を特定する。
なお、上記操舵角と電流指令値I1とは、その操舵角と制御流量QPとの関係がリニアな特性になる理論値に基づいて決めている。また、操舵角速度と電流指令値I2との関係も、操舵角速度と制御流量QPとの関係がリニアな特性になる理論値に基づいて決めている。ただし、これら電流指令値I1および電流指令値I2は、操舵角および操舵角速度がある設定値以上にならなければ、いずれもゼロを出力するようにしている。つまり、ステアリングホィールが中立あるいはその近傍にあるときに、上記電流指令値I1もI2もゼロにすることによって、中立近傍を不感帯域としている。
【0011】
また、コントローラCは、車速センサ15の検出値に基づいて、操舵角用電流指令値I3と操舵角速度用電流指令値I4とを出力するようにしている。
上記操舵角用電流指令値I3は、低速域で1を出力し、最高速域で例えば0.6を出力するようにしている。また、上記操舵角速度用電流指令値I4は、低速域で1を出力し、最高速域で例えば0.8を出力するようにしている。つまり、低速域から最高速域でのゲインは、1〜0.6の範囲で制御する操舵角用電流指令値I3の方が、1〜0.8の範囲で制御する操舵角速度用電流指令値I4よりも大きくなるようにしている。
【0012】
そして、上記操舵角用電流指令値I3を、操舵角による電流指令値I1に掛け合わせるようにしている。そのため、この乗算結果である操舵角系の電流指令値I5は、高速になればなるほど小さくなる。しかも、操舵角用電流指令値I3のゲインを、操舵角速度用電流指令値I4のゲインよりも大きく設定しているので、高速になればなるほどその減少率が大きくなる。つまり、低速域では応答性を高く保ち、高速域になると応答性を下げるようにしている。このように車速に応じて応答性を変化させるのは、一般に、高速走行中においては、それほど高い応答性を必要とせず、高い応答性を必要とするのは、ほとんどの場合低速域だからである。
【0013】
一方、操舵角速度による電流指令値I2には、操舵角速度用電流指令値I4を限界値として、操舵角速度系の電流指令値I6を出力させるようにしている。この電流指令値I6も、車速に応じて減少させるようにしている。ただし、操舵角速度用電流指令値I4のゲインは、操舵角用電流指令値I3よりも小さくしているので、電流指令値I6の減少率は、電流指令値I5の場合よりも小さい。
このように車速に応じて限界値を設定したのは、高速走行中に過剰なアシスト力が発揮されることを主に防止するためである。
【0014】
上記のようにして出力された操舵角系の電流指令値I5と操舵角速度系の電流指令値I6との大小を比較し、大きな方の値を採用するようにしている。
例えば、高速走行時には、ステアリングを急操作することはほとんどないので、操舵角系の電流指令値I5の方が、操舵角速度系の電流指令値I6よりも大きくなるのが通常である。そのため、高速走行時には、ほとんどの場合、操舵角系の電流指令値I5が選択される。そして、このときのステアリング操作の安全性・安定性を高めるために、電流指令値I5のゲインを大きくしている。つまり、走行速度が速くなればなるほど、制御流量QPを少なくする比率を高めて、走行時の安全性・安定性を高めるようにしている。
【0015】
一方、低速走行時には、ステアリングを急操作することが多くなるので、多くの場合に操舵角速度の方が大きくなる。そのため、低速走行時には、ほとんど操舵角速度系の電流指令値I6が選択される。そして、このように操舵角速度が大きい場合には、応答性が重視される。
したがって、低速走行時には、ステアリング操作の操作性すなわち応答性を高めるために、操舵角速度を基準にしながら、その操舵角速度系の電流指令値I6のゲインを小さくしている。言い換えれば、走行速度がある程度速くなっても、ステアリングを急操作したときには、制御流量QPを十分に確保することによって、応答性を確保するようにしている。
【0016】
上記のようにして選択された電流指令値I5あるいはI6には、スタンバイ用電流指令値I7を加算する。そして、このスタンバイ用電流指令値I7を加算した値を、ソレノイド電流指令値SIとして駆動装置16に出力する。
【0017】
このようにスタンバイ用の電流指令値I7を加算しているので、ソレノイド電流指令値SIは、操舵角、操舵角速度および車速に基づく電流指令値が全てゼロの場合でも、所定の大きさを保っている。そのため、所定の流量がステアリングバルブ9側に常に供給されることになる。エネルギー損失を防止するという観点からすれば、パワーシリンダ8およびステアリングバルブ9側の要求流量QMがゼロなら、流量制御弁Vの制御流量QPもゼロにするのが理想的である。つまり、制御流量QPをゼロにするということは、ポンプPの吐出量全量をタンクポート11からポンプPまたはタンクTに還流させることを意味する。そして、タンクポート11からポンプPまたはタンクTに還流する流路は、本体B内にあって非常に短いので、その圧力損失がほとんどない。圧力損失がほとんどないので、ポンプPの駆動トルクも最小に抑えられ、その分、省エネにつながることになる。このような意味から、要求流量QMがゼロのときに、制御流量QPもゼロにするのが、エネルギー損失を防止するという観点からは有利になる。
【0018】
それにもかかわらず、要求流量QMがゼロのときでもスタンバイ用電流指令値I7からなるスタンバイ流量QSを確保しているのは、以下の理由からである。
第1に、装置の焼き付きを防止するためである。すなわち、スタンバイ流量QSを装置に循環させることによって、冷却効果が期待できるからである。
第2に、応答性を確保するためである。すなわち、上記のようにスタンバイ流量QSを確保しておけば、それが全然ないときよりも、目的の制御流量QPに到達する時間が短くてすむ。この時間差が応答性になるので、結局、スタンバイ流量QSを確保した方が、応答性を向上させることができる。
【0019】
第3に、キックバック等の外乱やセルフアライニングトルクに対抗するためでもある。すなわち、タイヤに外乱やセルフアライニングトルク等による抗力が作用すると、それがパワーシリンダ8のロッドに作用する。もし、スタンバイ流量QSを確保しておかなければ、この外乱やセルフアライニングトルクによる抗力で、タイヤがふらついてしまう。しかし、スタンバイ流量を確保しておけば、上記のような抗力が作用したとしても、タイヤがふらついたりしない。すなわち、上記パワーシリンダ8のロッドには、ステアリングバルブ9を切り換えるためのピニオン等がかみ合っているので、上記抗力が作用すると、ステアリングバルブ9も切り換わって、その抗力に対抗する方向にスタンバイ流量QSを供給することになる。したがって、スタンバイ流量QSを確保しておけば、上記キックバックによる外乱やセルフアライニングトルクに対抗できることになる。
【0020】
次に、この従来例の作用を説明する。
車両の走行中には、操舵角によるソレノイド電流指令値I1と操舵角用電流指令値I3との乗算値である操舵角系の電流指令値I5が出力される。それとともに、操舵角速度系の電流指令値I6が出力される。この電流指令値I6は、操舵角速度によるソレノイド電流指令値I2の、操舵角速度用電流指令値I4を限界値としたものである。
そして、操舵角系の電流指令値I5と操舵角速度系の電流指令値I6との大小が判定されるとともに、その大きい方の電流指令値I5あるいはI6に、スタンバイ用電流指令値I7が加算され、そのときのソレノイド電流指令値SIが決められる。このソレノイド電流指令値SIは、車両の高速走行時には、主に操舵角系の電流指令値I5が基準となり、車両の低速走行時には、主に操舵角速度系の電流指令値I6が基準となる。
【0021】
なお、スプール1の先端には、スリット13を形成している。このスリット13は、スプール1が図示するノーマル位置にあるときでも、一方のパイロット室2と可変オリフィスaとを連通させるものである。すなわち、スプール1がノーマル位置にあるときでも、ポンプポート4から一方のパイロット室2に供給された圧油を、上記スリット13→流路6→可変オリフィスa→流路7を介してステアリングバルブ9側に供給することによって、装置の焼き付きの防止、キックバック等の外乱の防止、および応答性を確保するようにしている。
また、図中符号17,18は絞りであり、符号19はリリーフ弁である。
【0022】
【特許文献1】
特開2001−260917号公報(第3頁〜第7頁、図1,図2)
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のパワーステアリング装置では、ドライバーが例えばステアリングホィールを一方向に60deg操舵した状態から他方向に60deg操舵すると、図18に示すように、操舵角系および操舵角速度系の電流指令値I1、I2は、中立位置付近において一旦0まで下がった後、再び復帰する。すなわち、電流指令値I1,I2が中立位置付近でV字を描き、この電流指令値I1,I2が急激に変化する。このような電流指令値I1、I2が、ソレノイド電流指令値SIとしてそのまま出力されると、ステアリングバルブ9への制御流量QPも急激に変化する。そして、このようにステアリングバルブ9への制御流量QPが急激に変化すると、ドライバーが必要とする操舵トルクも急激に変化するため、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。
【0024】
また、ステアリングホィールを大舵角域で止めた場合には、操舵角に応じた電流指令値が出力されるため、制御流量の急激な減少はほとんど生じないが、大舵角域にあるステアリングホィールを小舵角域で止めた場合には、操舵角に応じた電流指令値が減少するだけでなく、それまで出力されていた操舵角速度用の電流指令値も出力されなくなるので、電流指令値の急激な減少が生じる。このように電流指令値が急激に減少すると、制御流量QPが急激に減少するために、必要とする操舵トルクの急増によって、結果的にドライバーに違和感を与えるという問題があった。
この発明の目的は、入力される電流指令値が急激に減少した場合でも、ドライバーに違和感を与えることのないパワーステアリング装置を提供することである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
この発明は、パワーシリンダを制御するステアリングバルブと、このステアリングバルブの上流側に設けた可変オリフィスと、この可変オリフィスの開度を制御するソレノイドと、このソレノイドを駆動するソレノイド電流指令値SIを制御するコントローラと、このコントローラに接続するとともに操舵角や操舵角速度などの操舵状況を検出する操舵状況検出センサと、ポンプから供給される圧油を上記可変オリフィスの開度に応じてステアリングバルブ側とタンク又はポンプ側とに分配する流量制御弁とを備え、上記コントローラが、操舵状況検出センサからの各種信号に対応する電流指令値に基づいて、ソレノイド電流指令値SIを特定するパワーステアリング装置を前提とする。
【0026】
第1の発明は、上記発明を前提にしつつ、コントローラには、電流指令値特性記憶部と、遅れ制御特性記憶部と、実行部とを備え、上記電流指令値特性記憶部が操舵状況検出センサからの操舵角信号に基づく実際の電流指令値Ibを記憶し、上記遅れ制御特性記憶部が基準電流指令値Iaを特定する基準減少率Δaを記憶し、上記実行部が電流指令値Ibの単位時間当たりの減少率Δbを算出するとともに、この算出した減少率Δbと基準減少率Δaとの大小を比較して、Δa≧Δbのときに実際の電流指令値Ibを出力し、Δa<Δbのときに基準減少率Δaに基づく基準電流指令値Iaを出力する。そして、この電流指令値Iaが出力された場合には、ステアリングバルブに対する供給流量の減少率を、小さくする方向に制御することができる。
【0027】
第2の発明は、上記第1の発明を前提にしつつ、遅れ制御特性の基準減少率Δaを、車速が低速域にあるとき最小値を保ち、中速域においては車速の増加に応じて増加し、高速域においては最高値を保つ構成にしたことを特徴とする。
【0028】
第3の発明は、上記第1の発明を前提としつつ、遅れ制御特性の基準減少率Δaを、操舵角速度が小範囲にあるとき最高値を保ち、中範囲においては車速の増加に応じて減少し、大範囲においては最小値を保つ構成にしたことを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
図1〜図5に、この発明の第1実施形態を示すが、図16に示したコントローラC以外の構成については、前記従来例と全く同じでなので、以下ではコントローラCについてのみ説明する。
【0030】
図1に示すように、コントローラCは、操舵角センサ14によって検出した操舵角に基づいて電流指令値I1を特定し、また、操舵角を微分して算出した操舵角速度に基づいて電流指令値I2を特定する。ただし、操舵角速度センサを別に設けて、この操舵角速度センサによって検出した操舵角速度に基づいて上記電流指令値I2を特定してもよい。
上記操舵角と電流指令値I1とは、その操舵角と制御流量QPとの関係がリニアな特性になる理論値に基づいて決めている。また、操舵角速度と電流指令値I2との関係も、操舵角速度と制御流量QPとの関係がリニアな特性になる理論値に基づいて決めている。
【0031】
また、コントローラCは、車速センサ15の検出値に基づいて、操舵角用の電流指令値I3と操舵角速度用の電流指令値I4とを出力するようにしている。上記電流指令値I3は、車速がゼロまたは極微速域にあるときに小さくなり、一定の速度以上になると1を出力する。また、上記電流指令値I4は、車速がゼロまたは極微速域にあるときに1より大きな値を出力し、一定の速度以上になると1を出力する。これら電流指令値のうち、電流指令値I3を上記操舵角系の電流指令値I1に乗算し、電流指令値I4を上記操舵角速度系の電流指令値I2に乗算するようにしている。
【0032】
上記のように車速に基づく電流指令値I3を乗算するのは、ステアリングホィールを切った状態で、車両が停止していたり極微速域にあったりする場合のエネルギー損失を防止するためである。例えば、車庫入れのときに、ステアリングホィールを切った状態でしばらくエンジンをかけて停止していることがあるが、このような場合でも、操舵角に応じた電流指令値I1がソレノイド電流指令値SIとして出力されていると、無駄な流量がステアリングバルブ9側に供給されることになる。このような無駄を防止するために、車速が0または極微速域にあるときに、電流指令値I3を乗算し、操舵角系の電流指令値I1を小さくするようにしている。
ただし、上記のようにして電流指令値I3を小さくすると、ステアリングホィールを保舵した状態から切り始めるときの応答性が悪くなるので、車速0または極微速域で大きな値を出力する電流指令値I4を、操舵角速度系の電流指令値I2に乗算して、応答性を確保するようにしている。
【0033】
上記車速に基づく電流指令値I3を乗算したら、この乗算後の電流指令値(I1×I3)に遅れ制御部において遅れ制御をかけて、さらにこの遅れ制御後の電流指令値に、車速に基づいて設定した電流指令値I5を乗算する。なお、上記遅れ制御部の機能については後で詳しく説明する。
また、操舵角速度系の電流指令値I2×I4にも、車速に基づいて設定した電流指令値I6を乗算する。
【0034】
上記電流指令値I5,I6は、低速域で1を出力し、最高速域では1以下の小数点の値を出力するようにしている。そのため、低速域では入力値をそのまま出力するが、高速になればなるほど出力値が小さくなる。つまり、低速域では応答性を高く保ち、高速域になると応答性を下げるようにしている。このように車速に応じて応答性を変化させるのは、一般に、高速走行中においては、それほど高い応答性を必要とせず、高い応答性を必要とするのは、ほとんどの場合低速域だからである。
【0035】
上記乗算後の各電流指令値は、車速に基づいて設定した電流指令値I7,I8を限界値として出力される。すなわち、乗算後の値が、そのときの車速に応じた電流指令値I7,I8を超えている場合には、この超えた分をカットして、限界値内の電流指令値をそれぞれ出力させるようにしている。このように車速に基づく限界値を設定したのは、高速走行中に過剰なアシスト力が発揮されることを防止するためである。
なお、上記電流指令値I7,I8も、車速に応じて減少させるようにしているが、そのゲインは上記電流指令値I5,I6のゲインよりも小さく設定している。
【0036】
次に、上記のように限界値内に抑えられた操舵角系の電流指令値と操舵角速度系の電流指令値との大小を比較して、大きい方の値を採用する。そして、この大きい方の電流指令値が基本電流指令値Idとなる。
このようにして基本電流指令値Idを求めたら、この基本電流指令値Idにスタンバイ用の電流指令値Isを加算する。ただし、スタンバイ用の電流指令値Isをそのまま加算するのではなく、スタンバイ用の電流指令値Isに、車速に基づいて設定した電流指令値I9を乗算した値を加算する。
【0037】
上記車速に基づく電流指令値I9は、低速域では1を出力しているが、中速域では車速が高くなるにつれてその値が徐々に小さくなる。そして、高速域になると最小値を保つようにしている。したがって、この車速に基づく電流指令値I9とスタンバイ用の電流指令値Isとを乗算した値は、低速域ではそのまま出力され、中速域から高速域にかけて次第に小さくなる。そして、高速域では、最小値を保つことになる。高速域でスタンバイ用の電流指令値を小さくすれば、高速域におけるスタンバイ流量の無駄を防止することができる。
なお、高速域でも、電流指令値I9と電流指令値Isとを乗算した値がゼロにならないように設定している。
【0038】
上記のように基本電流指令値Idにスタンバイ用の電流指令値(Is×I9)を加算したら、その加算後の値をソレノイド電流指令値SIとして駆動装置16(図16参照)に出力する。そして、この駆動装置16が、ソレノイド電流指令値SIに対応した励磁電流をソレノイドSOLに出力することになる。
【0039】
以上のようにして、ソレノイド電流指令値SIを制御しているが、例えば、図2に示すように、ステアリングホィールを左側に操舵している状態から中立位置を超えて右側に操舵する場合、遅れ制御がない従来例では、電流指令値が図3の実線で示すようにほぼV字を描く。仮に、この電流指令値のみに基づいてソレノイド電流指令値SIが制御されたとすると、パワーシリンダ8によるアシスト力は、一旦急激に減少した後、再び急激に増加することになる。このようにアシスト力が急激に変化すると、ドライバーがステアリングホィールを操舵するのに必要とする操舵トルクも、図4の実線で示すように大きく変化する。そして、このように操舵トルクが大きく変化することによって、ドライバーに違和感を与えることになる。
【0040】
そこで、この違和感の原因となるソレノイド電流指令値SIの急激な変化を防止するために、遅れ制御部がその機能を発揮するが、この遅れ制御部について以下に説明する。
上記遅れ制御部は、電流指令値特性記憶部と、遅れ制御特性記憶部と、遅れ制御を実行する実行部とを備えている。
上記電流指令値特性記憶部は、乗算後の電流指令値(I1×I3)を記憶する機能を有している。なお、この乗算後の電流指令値(I1×I3)のことを、以下では「実際の電流指令値Ib」と呼ぶ。
また、上記遅れ制御特性記憶部は、基準減少率Δaを記憶している。この基準減少率Δaは、図3の破線で示す基準電流指令値Iaを特定するための値であって、実験などによって決めている。
【0041】
上記のようにした遅れ制御部は、図5に示すように、まずステップ0において、基準減少率Δaを取り込んで、遅れ制御特性記憶部に記憶する。
次に、ステップ1において、時間t1における実際の電流指令値Ib(t1)を検出して、ステップ2で時間t1と検出値を記憶する。
ステップ3では、一定時間経過後の時間t2における実際の電流指令値Ib(t2)を検出する。そして、ステップ4で、この時間t2と検出した電流指令値Ib(t2)とを記憶する。
ステップ5では、上記電流指令値Ib(t1)と電流指令値Ib(t2)とを比較する。そして、電流指令値Ib(t2)の方が小さい場合、すなわち電流指令値が減少したと判断した場合にはステップ6に移り、実際の電流指令値Ibの単位時間当たりの減少率Δbを算出する。
【0042】
ステップ7では、上記減少率Δbと予め記憶した基準減少率Δaとを比較する。そして、基準減少率Δaの方が実際の減少率Δbよりも小さいと判断した場合にはステップ8に移り、基準減少率Δaに基づく基準電流指令値Iaを出力する。このように基準電流指令値Iaが出力されると、図3に示すように、実際の電流指令値Ibよりも大きな値が出力されることになる。
【0043】
ステップ9では、電流指令値Iaと実際の電流指令値Ib(t2)とを比較する。そして、電流指令値Iaが電流指令値Ib(t2)よりも大きい場合にはステップ8に戻り、引き続き基準減少率Δaに基づいた基準電流指令値Iaを出力し続ける。
一方、電流指令値Iaが実際の電流指令値Ib(t2)よりも小さくなった場合にはステップ10に移り、実際の電流指令値Ib(t2)で制御することになる。
なお、ステップ11では、t2をt1に置き換えるとともに、Ib(t2)をIb(t1)に置き換える。そして、再びステップ2に戻り、上記手順を繰り返すことになる。
【0044】
一方、上記ステップ5において、Ib(t1)よりもIb(t2)の方が大きいと判断した場合、すなわち電流指令値が増加している場合には、ステップ10に移り、実際の電流指令値Ib(t2)を出力する。
また、上記ステップ7において、基準減少率Δaよりも実際の減少率Δbの方が小さいと判断した場合にもステップ10に移り、実際の電流指令値Ib(t2)を出力する。つまり、電流指令値は減少しているが、それほど急激に減少していない場合には、実際の電流指令値Ib(t2)で制御する。
【0045】
以上のように、この第1実施形態によれば、実際の電流指令値Ibが減少している場合であって、しかも、その減少率Δbが基準減少率Δaよりも大きいと判断した場合に限り、基準減少率Δaに基づく基準電流指令値Iaを出力するようにしている。このようにすれば、図4の破線で示すように、ドライバーが必要とする操舵トルクも緩やかに減少するので、実際の電流指令値Ibに基づいた操舵トルクよりも変化量を少なく抑えることができる。したがって、操舵トルクの急激な変化によって生じる違和感を防止することができる。
【0046】
一方、図6〜図10に示した第2実施形態は、遅れ制御部における基準電流指令値Iaを、車速に応じて可変にしたものである。すなわち、この第2実施形態では、図10の制御フローに示すように、ステップ1からステップ6までの手順については上記第1実施形態と同じであるが、ステップ7において車速vを検出し、ステップ8では車速vに対応した基準減少率Δaを設定している。
なお、ステップ9からステップ13の手順は、第1実施形態のステップ7からステップ11の手順に対応するものであり、その内容は同じである。
【0047】
上記ステップ8においては、図6に示すように、車速に応じて決まる係数K1を基準減少率Δaにかけあわせている。この車速に応じて決まる係数K1は、車両が低速域にあれば、1未満の一定値となるが、中速域になると車速の増加に応じて増加する。そして、高速域になると、係数K1は1となる。
したがって、図7に示すように、ステアリングホィールを左側から右側に操舵する場合、基準減少率Δaによって決まる基準電流指令値Iaは、図8の破線で示すように、車速が低速域にあればIa1となり、高速域にあればIa2となる。そして、車速が中速域にあれば、上記電流指令値Ia1とIa2との間の電流指令値Ia3となる。
【0048】
車速が低速域にある場合の基準減少率Δaを小さくすれば、出力される電流指令値の変化が小さくなるので、図9に示すように、低速域における操舵トルクの急激な増加を抑制することができる。したがって、車両が低速域にある場合の操舵をスムーズに行うことができる。
一方、車速が中速域から高速域になると、それに応じて基準減少率Δaも大きくなるので、出力される電流指令値の変化も大きくなるが、高速域においては、電流指令値の変化によってハンドルの中立感がでてくるので、その分、操縦安定性が向上する。
つまり、この第2実施形態によれば、基準減少率Δaを、車速が低速域にあるとき最小値を保ち、中速域においては車速の増加に応じて増加し、高速域においては最高値を保つ構成にしたので、実際の走行状態に適したより細かい制御が可能となる。
【0049】
図11〜図15に示した第3実施形態は、遅れ制御部における基準電流指令値Iaを、操舵角速度に応じて可変にしたものである。すなわち、図15の制御フローに示すように、ステップ1からステップ6までの手順は、上記第1実施形態と同じであるが、ステップ7では操舵角速度を検出し、ステップ8では操舵角速度に対応した基準減少率Δaを設定している。
なお、ステップ9からステップ13の手順は、上記第1実施形態のステップ7からステップ11の手順に対応するものであり、その内容は同じである。
【0050】
上記ステップ8においては、図11に示すように、操舵角速度に応じて決まる係数K2を基準減少率Δaにかけあわせている。この操舵角速度に応じて決まる係数K2は、操舵角速度が小さい範囲にあれば、1の値となるが、操舵角速度がある程度大きくなると、操舵角速度の増加に応じて減少する。そして、操舵角速度がある大きさ以上になると、係数K2は1未満となる。
したがって、図12に示すように、ステアリングホィールを左側から右側に操舵する場合、基準減少率Δaによって決まる基準電流指令値Iaは、図13の破線で示すように、操舵角速度が小さい範囲にあればIa1となり、ある大きさ以上であればIa2となる。そして、中間の大きさの範囲にあれば、電流指令値Ia3は上記Ia1とIa2との間となる。
【0051】
操舵角速度が大きい場合の基準減少率Δaを小さくすれば、出力される電流指令値の変化が小さくなるので、図14に示すように、操舵角速度が大きい場合における操舵トルクの急激な増加を抑制することができる。操舵角速度が大きい場合というのは、車両が低速である場合がほとんどである。そのため、操舵角速度が大きい場合に基準減少率Δaを小さくすることによって、車両が低速域にある場合の操舵をスムーズに行うことができる。
【0052】
一方、操舵角速度が小さくなるにつれて基準減少率Δaが大きくなると、電流指令値の変化も大きくなるため、ハンドルの中立感がでてくるが、操舵角速度が小さくなるということは、車両が高速域になる傾向にあるということが推測できる。したがって、操舵角速度が小さくなるにつれて基準減少率Δaを大きくすることによって、車両が高速域にあるときの操縦安定性を向上させることができる。
以上のように、この第3実施形態によれば、基準減少率Δaを、操舵角速度が小範囲にあるとき最高値を保ち、中範囲においては車速の増加に応じて減少し、大範囲においては最小値を保つ構成にしたので、実際の走行状態に応じたより細かい制御が可能となる。
【0053】
ところで、上記第2,第3実施形態では、基準減少率Δaを可変に制御するために、係数K1または係数K2をかけあわせているが、係数をかけあわせる代わりに、予め記憶したテーブル値に基づいて基準減少率Δaを可変に制御するようにしてもよい。
【0054】
なお、上記第1〜第3実施形態では、電流指令値I5,I6をゲインとして乗じた直後に、電流指令値I7,I8を限界値とするリミッターを個別に設定しているが、個別にリミッターを設定する代わりに、スタンバイ用の電流指令値を加算した後の値に、車速に応じた電流指令値を限界値とするリミッターを一律に設定してもよい。
また、車速に基づく電流指令値I5,I6を個別に乗じる代わりに、大小判定後の値に、車速に基づく電流指令値をゲインとして一律に乗じてもよい。
さらに、スタンバイ用の電流指令値を加算した後の値に、車速に応じた電流指令値を限界値とするリミッターを一律に設定してもよいし、大小判定後の値に、車速に基づく電流指令値をゲインとして一律に乗じてもよい。
【0055】
一方、上記第1〜第3実施形態では、流量制御弁Vの可変オリフィスaの開度をコントローラCで制御することで、制御流量QPに無駄が生じないようにしているが、この制御流量QPというのは、図16に示したように、タンクポート11の開度を調節することによって制御している。すなわち、ポンプPの吐出油のうち、不要な流量をタンクポート11を介してタンクTに環流させることによって、制御流量QPを制御している。そして、ポンプPの吐出油をタンクポート11に導く流路というのは、本体Bの内部にあるために非常に短い。したがって、この環流させる流路において、圧力損失がほとんど生じないため、油温の上昇もほとんどない。つまり、上記第1〜第3実施形態では、流量制御弁Vが、制御流量QP以外の流量をタンクポート11を介してタンクTに環流させる構成にしているので、油温の上昇を抑えるという効果も得ることができる。
【0056】
【発明の効果】
第1の発明によれば、入力される電流指令値が急激に減少した場合でも、遅れ制御をかけることによって、出力される電流指令値の急激な変動が緩和されるので、ステアリングバルブに対する供給流量の減少率も小さくする方向に制御することができる。したがって、必要とする操舵トルクの急激な変化が原因で従来生じていた違和感も防止することができる。
【0057】
第2の発明によれば、車速に応じて基準減少率を可変に制御する構成にしたので、実際の走行状態に適した細かい制御ができる。
【0058】
第3の発明によれば、操舵角速度に応じて基準減少率を可変に制御する構成にしたので、実際の走行状態に適した細かい制御ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態のコントローラCの制御ブロック図である。
【図2】操舵角と時間との関係を示す説明図である。
【図3】電流指令値と時間との関係を示す説明図である。
【図4】必要とする操舵トルクと時間との関係を示す説明図である。
【図5】第1実施形態のコントローラCの制御フロー図である。
【図6】第2実施形態のコントローラCの制御ブロック図である。
【図7】操舵角と時間との関係を示す説明図である。
【図8】電流指令値と時間との関係を示す説明図である。
【図9】必要とする操舵トルクと時間との関係を示す説明図である。
【図10】第2実施形態のコントローラCの制御フロー図である。
【図11】第3実施形態のコントローラCの制御ブロック図である。
【図12】操舵角と時間との関係を示す説明図である。
【図13】電流指令値と時間との関係を示す説明図である。
【図14】必要とする操舵トルクと時間との関係を示す説明図である。
【図15】第3実施形態のコントローラCの制御フロー図である。
【図16】従来の装置の全体図である。
【図17】従来のコントローラCの制御ブロック図である。
【図18】従来の操舵時の電流指令値の変化を示したグラフである。
【符号の説明】
V 流量制御弁
P ポンプ
SOL ソレノイド
T タンク
a 可変オリフィス
8 パワーシリンダ
9 ステアリングバルブ
C コントローラ
14 操舵角センサ
15 車速センサ
SI ソレノイド電流指令値
Is スタンバイ用の電流指令値
Claims (3)
- パワーシリンダを制御するステアリングバルブと、このステアリングバルブの上流側に設けた可変オリフィスと、この可変オリフィスの開度を制御するソレノイドと、このソレノイドを駆動するソレノイド電流指令値SIを制御するコントローラと、このコントローラに接続するとともに操舵角や操舵角速度などの操舵状況を検出する操舵状況検出センサと、ポンプから供給される圧油を上記可変オリフィスの開度に応じてステアリングバルブ側とタンク又はポンプ側とに分配する流量制御弁とを備え、上記コントローラが、操舵状況検出センサからの各種信号に対応する電流指令値に基づいて、ソレノイド電流指令値を特定するパワーステアリング装置において、上記コントローラには、電流指令値特性記憶部と、遅れ制御特性記憶部と、実行部とを備え、上記電流指令値特性記憶部が操舵状況検出センサからの操舵角信号に基づく実際の電流指令値Ibを記憶し、上記遅れ制御特性記憶部が基準電流指令値Iaを特定する基準減少率Δaを記憶し、上記実行部が電流指令値Ibの単位時間当たりの減少率Δbを算出するとともに、この算出した減少率Δbと基準減少率Δaとの大小を比較して、Δa≧Δbのときに実際の電流指令値Ibを出力し、Δa<Δbのときに基準減少率Δaに基づく基準電流指令値Iaを出力することを特徴とするパワーステアリング装置。
- 遅れ制御特性の基準減少率Δaは、車速が低速域にあるとき最小値を保ち、中速域においては車速の増加に応じて増加し、高速域においては最高値を保つ構成にしたことを特徴とする請求項1記載のパワーステアリング装置。
- 遅れ制御特性の基準減少率Δaは、操舵角速度が小範囲にあるとき最高値を保ち、中範囲においては車速の増加に応じて減少し、大範囲においては最小値を保つ構成にしたことを特徴とする請求項1記載のパワーステアリング装置。
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