JP4042276B2 - Pb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気的及び/又は光学的性質により各種の誘電体デバイスへの応用が期待できるPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を、ゾルゲル法等により形成するための方法に係り、特に金属酸化物の結晶化温度が低く、低温成膜が可能なPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属酸化物薄膜、特にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)及びそれにランタンをドープした(PLZT:PbxLa1−x(ZryTi1−y)1−X/4O3)はその高い誘電率、優れた強誘電特性から種々の誘電体デバイスへの応用が期待されている。これらの金属酸化物薄膜の成膜法としては、スパッタリング法、MOCVD法などがあるが、比較的安価で簡便に薄膜を作製する手法として、有機金属溶液を基板に塗布するゾルゲル法がある。
【0003】
ゾルゲル法は、原料となる各成分金属の加水分解性の化合物、その部分加水分解物及び/又はその部分重縮合物を含有する原料溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥させた後、例えば空気中で約400℃に加熱して金属酸化物の膜を形成し、さらにその金属酸化物の結晶化温度以上で焼成して膜を結晶化させることにより強誘電体薄膜を成膜する方法である。
【0004】
このゾルゲル法に似た方法として、有機金属分解(MOD)法がある。MOD法では、熱分解性の有機金属化合物、例えば、金属のβ−ジケトン錯体(例えば、金属アセチルアセトネート)やカルボン酸塩(例えば、酢酸塩)を含有する原料溶液を基板に塗布し、例えば空気中又は含酸素雰囲気中等で加熱して、塗膜中の溶媒の蒸発及び金属化合物の熱分解を生じさせて金属酸化物の膜を形成し、さらに結晶化温度以上で焼成して膜を結晶化させる。従って、原料化合物の種類が異なるだけで、成膜操作はゾルゲル法とほぼ同様である。
【0005】
このようにゾルゲル法とMOD法は成膜操作が同じであるので、両者を併用した方法も可能である。即ち、原料溶液が加水分解性の金属化合物と熱分解性の金属化合物の両方を含有していてもよく、その場合には塗膜の加熱中に原料化合物の加水分解と熱分解が起こり、金属酸化物が生成する。
【0006】
従って、以下において、ゾルゲル法、MOD法、及びこれらを併用した方法を包含して「ゾルゲル法等」と称す。
【0007】
ゾルゲル法等は、安価かつ簡便で量産に適しているという利点に加えて、膜の組成制御が容易で、成膜厚みが比較的均一であるという優れた特長を有する。従って、比較的平坦な基板上に強誘電体薄膜を形成するのには最も有利な成膜法であると言える。
【0008】
なお、従来のゾルゲル法では、原料溶液を基板に塗布して乾燥させた後仮焼し、所望の膜厚が得られるまでこの塗布、乾燥及び仮焼を繰り返し行い、最後の金属酸化物の結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させることにより成膜が行われている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ゾルゲル法等によるPZT薄膜の形成には、結晶化のための焼成に一般的に650℃以上の高い加熱温度が必要とされる。
【0010】
一方で、このような強誘電体薄膜を利用したメモリーにおいては、デバイスチップの小型化に伴い、加熱処理によるデバイスのトランジスタ及びその周辺回路等への悪影響が問題視されるようになってきており、Pb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜形成時の結晶化温度を低減させることが必要不可欠となっている。また、強誘電体メモリー以外の用途においても、成膜時の結晶化温度を低減することは、従来の結晶化温度では成膜が困難であったガラス基板等への成膜を可能とし、強誘電体や圧電体、集電体等の応用範囲の拡大を図ることが期待されることから、結晶化温度の低減が強く望まれている。
【0011】
従来、PZT薄膜の結晶化温度の低減技術として、Pb及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布後、Pb、Zr及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して結晶化させる方法が提案されている(Journal of the European Ceramic Society 19(1999)1397-1401等)。この方法では、結晶化温度の低いPT層がまず結晶化し、それを核にしてPZT層が低温で結晶化してゆくことにより、PZT薄膜の結晶化の活性化エネルギーが低減されることになり、結晶化温度の低減が図れる。この方法はPTシーディング(PT seeding)と称され、結晶化温度の低減にある程度有効ではあるが、未だ十分であるとは言えず、更なる改良が望まれている。
【0012】
本発明は上記従来の問題点を解決し、ゾルゲル法等によりPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成するに当り、450℃以下の低温でも結晶化を行うことが可能なPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1のPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法は、基板にPb、Zr及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して塗膜を形成した後、加熱することにより該金属酸化物を結晶化させてPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成する方法において、1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さが結晶化後の膜厚で30nm以下となるように塗膜を形成させた後、結晶化工程を行い、この塗膜形成と結晶化工程を2回以上行う方法であり、少なくとも最初の結晶化工程において、基板にPb及びTiからなる金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して下地膜を形成した後、該下地膜上にPb、Zr及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して前記塗膜を形成することを特徴とする。
【0014】
このように1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さが結晶化後の膜厚で30nm以下となるようにすることにより、金属酸化物の結晶化温度を低下させることができる。この理由の詳細は明らかではないが、塗布後の仮焼時にカーボンが分解しやすくなる効果、膜厚が非常に薄いために基板と未結晶層の界面から核生成した後の結晶成長が途中で中断されず表面まで結晶化される効果等によるものと推定される。即ち、従来法のように、結晶化後の膜厚が30nm以上となるようにして450℃程度の比較的低温で焼成して結晶化すると、薄膜の途中でペロブスカイト酸化物の結晶成長が中断され表面まで結晶化されず、また表面には微細なパイロクロア層が生じる。これに対して、結晶化後の膜厚が30nm以下となるようにして450℃程度の比較的低温で焼成して結晶化すると、完全に結晶化が行われる。
【0015】
本発明においては、このように1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さが結晶化後の膜厚で30nm以下となるように、結晶化工程を2回以上行うと共に、PTシーディングを併用する。これにより、上記結晶化温度の低減化効果と相俟ってより一層の結晶化温度の低減を図ることが可能となり、450℃以下の低温でも結晶化が促進され、高品質のPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成することができる。
【0016】
このような本発明のPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法により形成されたPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜は、低温焼成により、低コストにて高品質の誘電体デバイスを実現する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明で成膜するPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜としては、PbとZr及びTiとからなるペロブスカイト型酸化物薄膜、特にチタン酸ジルコン酸鉛:PZT薄膜が挙げられる。
【0019】
この酸化物材料には、微量のドープ元素を含有させることができる。ドープ元素の例としては、Ca、Sr、Ba、Hf、Sn、Th、Y、Sm、Dy、Ce、Bi、Sb、Nb、Ta、W、Mo、Cr、Co、Ni、Fe、Cu、Si、Ge、U、Sc、V、Pr、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Laなどが挙げられ、その含有量は薄膜中の金属原子の原子分率で0.1以下とするのが好ましい。
【0020】
本発明で用いる金属酸化物薄膜形成用原料溶液は、有機溶媒に原料金属化合物を溶解させたものであり、ここで用いる有機溶媒としては、アルコール、カルボン酸、エステル、ケトン、エーテル、シクロアルカン、芳香族系溶媒などが挙げられ、このうち、アルコールとしては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノールなどのアルカノール類、シクロヘキサノールといったシクロアルカノール類、ならびに2−メトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノールといったアルコキシアルコール類が使用できる。
【0021】
また、カルボン酸溶媒の例としては、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0022】
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルなどが挙げられる。
【0023】
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルエトン、メチルイソブチルケトンが挙げられ、エーテル系溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルといった鎖式エーテル、並びにテトラヒドロフラン、ジオキサンといった環式エーテルが挙げられる。また、シクロアルカン系溶媒としては、シクロヘプタン、シクロヘキサンなどが挙げられ、芳香族系溶媒としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明においては、原料溶液中に安定化剤としてβ−ジケトン類を配合するのが好ましく、安定化剤の配合により、原料溶液の加速分解速度、重縮合速度が抑えられ、その保存安定性が改善される。この場合、安定化剤としてのβ−ジケトン類の添加量は、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数に対するβ−ジケトン類の分子数で0.1〜5倍の量が好ましく、より好ましくは0.2〜3倍である。β−ジケトン類は添加量が多すぎると安定性の低下が危惧され、少なすぎるとβ−ジケトン類の効果が十分に得られない。使用するβ−ジケトン類としては、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルアセトン、ジイソブチルメタン、ジピバロイルメタン、3−メチルペンタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルペンタン−3,5−ジオン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン等が挙げられるが、これらの中でも特に経済性、膜の緻密性、ハロゲン化物を含まない等の観点からアセチルアセトンが望ましい。
【0025】
安定化剤としてのβ−ジケトン類は、原料溶液の製造工程のどの段階で添加しても良いが、後述する共沸蒸留を行う場合には、この蒸留後に添加することが好ましい。また、金属アルコキシドの部分加水分解を行う場合には、その前にβ−ジケトン類を添加しておく方が、加水分解速度の制御が容易となることから好ましい。なお、β−ジケトン類を添加した場合には、塗布後の加水分解を促進させるために、原料溶液に少量の水を添加しても良い。
【0026】
原料金属化合物としては、各成分金属又は2以上の成分金属を含む金属化合物、その部分加水分解物並びにその部分重縮合物を用いることができるが、特に好ましい金属化合物は、加水分解性又は熱分解性の有機金属化合物である。例えば、アルコキシド、有機酸塩、β−ジケトン錯体などが代表例であるが、金属錯体については、アミン錯体をはじめとして、各種の他の錯体も利用できる。ここでβ−ジケトンとしては、アセチルアセトン(=2,4−ペンタンジオン)、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトンなどが挙げられる。
【0027】
原料として好適な有機金属化合物の具体例を示すと、鉛化合物及びランタン化合物としては酢酸塩(酢酸鉛、酢酸ランタン)などの有機酸塩並びにジイソプロポキシ鉛などのアルコキシドが挙げられる。チタン化合物としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラi−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、ジメトキシジイソプロポキシチタンなどのアルコキシドが好ましいが、有機酸塩又は有機金属錯体も使用できる。ジルコニウム化合物は上記チタン化合物と同様である。
【0028】
なお、原料の金属化合物は、上述したような1種類の金属を含有する化合物の他に、2種以上の成分金属を含有する複合化した金属化合物であってもよい。かかる複合化金属化合物の例としては、PbO2〔Ti(OC3H7)3〕2、PbO2〔Zr(OC4H9)3〕2などが挙げられる。
【0029】
本発明では、特に、Ti原料化合物としてチタンアルコキシドを、Zr原料化合物としてジルコニウムアルコキシドを、また、Pb原料化合物として酢酸鉛3水和物及び/又は酢酸鉛無水物をそれぞれ用いることが好ましい。
【0030】
本発明では、これらの各成分金属の原料として使用する金属化合物を、前述の有機溶媒に溶解し、好ましくは、安定化剤としてβ−ジケトン類を添加して、形成するPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の複合金属酸化物(2以上の金属を含有する酸化物)の前駆体を含有する原料溶液を調製する。
【0031】
原料溶液中に含有させる各金属化合物の割合は、成膜しようとするPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の金属原子比とほぼ同じでよい。但し、一般に鉛化合物は揮発性が高く、金属酸化物に変化させるための加熱中又は結晶化のための焼成中に蒸発による鉛の欠損が起こることがある。そのため、この欠損を見越して、鉛をやや過剰(例えば、2〜30%過剰)に存在させても良い。この鉛の欠損の程度は、鉛化合物の種類や成膜条件によって異なり、予め実験により求めることができる。
【0032】
なお、原料溶液の金属化合物濃度は特に制限されず、利用する塗布法や部分加水分解の有無によっても異なるが、一般に金属酸化物換算の合計金属含有量として0.1〜20重量%の範囲が好ましい。
【0033】
金属化合物を有機溶媒中に溶解させた溶液は、そのまま原料溶液としてゾルゲル法等による成膜に使用することができる。或いは、成膜を促進させるため、この溶液を加熱して、加水分解性の金属化合物(例えば、アルコキシド)を部分加水分解ないし部分重縮合させて成膜に使用してもよい。即ち、この場合には、原料溶液は、少なくとも一部の金属化合物については、その部分加水分解物及び/又は部分重縮合物を含有することになる。
【0034】
部分加水分解のための加熱は、温度や時間を制御して、完全に加水分解が進行しないようにする。完全に加水分解すると、原料溶液の安定性が著しく低下し、ゲル化し易くなる上、均一な成膜も困難となる。加熱条件としては、温度80〜200℃で、0.5〜50時間程度が適当である。加水分解中に、加水分解物が−M−O−結合(M=金属)により部分的に重縮合することがあるが、このような重縮合は部分的であれば許容される。
【0035】
原料溶液が、金属アルコキシドと金属カルボン酸塩の両者を含有する場合には、金属アルコキシドと混合する前に、金属カルボン酸塩に付随する結晶水を除去しておくことが好ましい。この結晶水の除去は、金属カルボン酸だけをまず溶媒に溶解させ、この溶液を蒸留して溶媒との共沸蒸留により脱水することにより実施できる。従って、この場合の溶媒は水と共沸蒸留可能なものを使用する。金属カルボン酸塩の結晶水を除去せずに金属アルコキシドと混合すると、金属アルコキシドの加水分解が進行しすぎたり、その制御が困難となることがあり、部分加水分解後に沈殿を生ずることがある。
【0036】
本発明では、このようにして調製される金属酸化物薄膜形成用原料溶液を用いて、下記(1)及び(2)の条件を採用して成膜を行うこと以外は、従来のゾルゲル法等と同様にして、次のような手順に従ってPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を成膜することができる。
【0037】
(1) 1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さが結晶化後の膜厚で30nm以下となるように、結晶化工程を2回以上行う。なお、この場合、1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さは、薄ければ薄い程、結晶化温度の低減に有利であるが、過度に薄くすることは成膜効率の低下につながるため、1回の結晶化で形成される金属酸化物薄膜の厚さは5〜30nmとなるようにするのが好ましい。
【0038】
(2) Pb原料化合物とTi原料化合物からなる金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜上にPb原料化合物、Zr原料化合物及びTi原料化合物を含む金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して塗膜を形成する。好ましくは基板上にPb原料化合物とTi原料化合物からなる金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜上にPb原料化合物、Zr原料化合物及びTi原料化合物を含む金属酸化物薄膜形成用原料溶液を複数回塗布して塗膜を積層形成する。
【0039】
まず、金属酸化物薄膜形成用原料溶液を基板上に塗布する。塗布は、スピンコーティングにより行うのが一般的であるが、ロール塗布、噴霧、浸漬、カーテンフローコート、ドクターブレードなど他の塗布法も適用可能である。塗布後、塗膜を乾燥させ、溶媒を除去する。この乾燥温度は溶媒の種類によっても異なるが、通常は80〜200℃程度であり、好ましくは100〜180℃の範囲でよい。但し、原料溶液中の金属化合物を金属酸化物に転化させるための次工程の加熱の際の昇温中に、溶媒は除去されるので、塗膜の乾燥工程は必ずしも必要とされない。
【0040】
その後、仮焼工程として、塗布した基板を加熱し、有機金属化合物を完全に加水分解又は熱分解させて金属酸化物に転化させ、金属酸化物からなる膜を形成する。この加熱は、一般に加水分解の必要なゾルゲル法では水蒸気を含んでいる雰囲気、例えば、空気又は含水蒸気雰囲気(例えば、水蒸気を含有する窒素雰囲気)中で行われ、熱分解させるMOD法では含酸素雰囲気中で行われる。加熱温度は、金属酸化物の種類によっても異なるが、通常は150〜450℃の範囲であり、好ましくは、200〜400℃である。加熱時間は、加水分解及び熱分解が完全に進行するように選択するが、通常は1分ないし2時間程度である。
【0041】
ゾルゲル法等の場合は、1回の塗布で、Pb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜に必要な膜厚とすることは難しい場合が多いので、必要に応じて、上記の塗布と(乾燥と)仮焼を繰返して、所望の膜厚の金属酸化物の膜を得る。こうして得られた膜は、非晶質であるか、結晶質であっても結晶性が不十分であるので、分極性が低く、強誘電体薄膜として利用できない。そのため、最後に結晶化アニール工程として、その金属酸化物の結晶化温度以上の温度で焼成して、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ結晶質の金属酸化物薄膜とする。
【0042】
前記▲2▼の条件を採用する場合には、結晶化のための焼成は、1回の焼成で得られる結晶化膜の膜厚が30nm以下となるように適宜、塗布、乾燥、仮焼及び焼成の工程を繰り返し行って、或いは、塗布、乾燥及び仮焼の工程を繰り返した後焼成を行う工程を繰り返し行って、所望の膜厚のPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を成膜する。
【0043】
本発明においては、前記(1)及び(2)の条件を採用することにより、この結晶化のための温度を450℃以下、例えば、420〜450℃程度に低減することができる。
【0044】
従って、基板としては、この焼成温度に耐える程度の耐熱性を有するものを使用すれば良い。結晶化のための焼成(アニール)時間は、通常は1分から2時間程度であり、焼成雰囲気は特に制限されないが、通常は空気又は酸素である。
【0045】
このようなPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成に用いられる耐熱性の基板材料としては、シリコン(単結晶又は多結晶)、白金、ニッケルなどの金属類、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)又はコバルト酸ランタンストロンチウム((LaXSr1−X)CoO3)などのぺロブスカイト型導電性酸化物など、石英、窒化アルミニウム、酸化チタンなどの無機化合物が挙げられる。キャパシター膜の場合には、基板は下部電極であり、下部電極としては、例えば、Pt、Pt/Ti、Pt/Ta、Ru、RuO2、Ru/RuO2、RuO2/Ru、Ir、IrO2、Ir/IrO2、Pt/Ir、Pt/IrO2、SrRuO3又は(LaXSr1−X)CoO3などのぺロブスカイト型導電性酸化物などとすることができる(なお、「/」を用いた2層構造のものは「上層/下層」として示してある。)。
【0046】
このようにして成膜されたPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の膜厚は、誘導体デバイスの用途によっても異なるが、通常は50〜400nm程度が好ましく、得られた強誘電体薄膜は、各種の誘導体デバイスに有用である。
【0047】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
なお実施例及び比較例で用いた原料金属化合物は次の通りであり、Pb-Ti系金属酸化物薄膜形成用原料溶液及びPb-La-Zr-Ti系金属酸化物薄膜形成用原料溶液はそれぞれ、下記の方法で製造した。
【0049】
Pb原料化合物:酢酸鉛3水和物
La原料化合物:酢酸ランタン1.5水和物
Ti原料化合物:チタンテトライソプロポキシド
Zr原料化合物:ジルコニウムテトラn−ブトキシド
【0050】
[Pb−Ti系金属酸化物薄膜形成用原料溶液の製造方法]
反応容器にチタンテトライソプロポキシドと安定化剤としてのアセチルアセトンをチタンテトライソプロポキシドの2モル倍添加して、150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した。次いで、酢酸鉛3水和物を添加し、主溶媒としてアルコール(プロピレングリコール)を酢酸鉛3水和物に対して5モル倍添加して150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した。その後、150℃で減圧蒸留して副生成物を除去し、更にプロピレングリコールを添加して濃度調整することにより、酸化物換算で30重量%濃度の金属化合物を含有する液を得た。この液を更に150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した後撹拌下放冷し、希釈アルコール(n−プロパノール)を添加して濃度調整することにより、Pb:Ti=125:100(原子比)で、酸化物換算で1重量%濃度の金属化合物を含有するゾルゲル液(以下「PTゾルゲル液」と称す。)を得た。
【0051】
[Pb−La−Zr−Ti系金属酸化物薄膜形成用原料溶液の製造方法]
反応容器にジルコニウムテトラn−ブトキシドと、安定化剤としてのアセチルアセトンをジルコニウムテトラn−ブトキシドの2モル倍添加して150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した。これにチタンテトライソプロポキシドと安定化剤としてのアセチルアセトンをチタンテトライソプロポキシドの2モル倍添加して、更に150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した。次いで、酢酸鉛3水和物と酢酸ランタン1.5水和物を添加し、主溶媒としてアルコール(プロピレングリコール)を酢酸鉛3水和物と酢酸ランタン1.5水和物の合計に対して5モル倍添加して150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した。その後、150℃で減圧蒸留して副生成物を除去し、更にプロピレングリコールを添加して濃度調整することにより、酸化物換算で30重量%濃度の金属化合物を含有する液を得た。この液を更に150℃で3時間窒素雰囲気中で還流した後撹拌下放冷し、希釈アルコール(n−プロパノール)を添加して濃度調整することにより、Pb:La:Zr:Ti=125:1:40:60(原子比)で、酸化物換算で5重量%濃度の金属化合物を含有するゾルゲル液(以下「PLZTゾルゲル液」と称す。)を得た。
【0052】
実施例1
Pt(2000Å)/SiO2(5000Å)/Si(100)ウェーハの基板上にスピンコート法によりまずPTゾルゲル液を塗布し(3000rpm、15秒)、150℃で1分間、空気中(ホットプレート)で乾燥した。次いで、この乾燥膜上にPLZTゾルゲル液をスピンコート法により塗布し(3000rpm、15秒)、上記と同様にして乾燥した後、400℃で1分間空気中(ホットプレート)で仮焼した。その後、430℃で10分間空気中(ホットプレート)で焼成して結晶化させた。
【0053】
更に、上記と同様のPLZTゾルゲル液の塗布、乾燥、仮焼及び焼成の工程を5回繰り返して行い、膜厚150nmのPLZT薄膜を形成した。
【0054】
得られたPLZT薄膜について表面のSEM写真から結晶相を観察した。また、X線回折によりペロブスカイトのピークの有無を調べると共に、電圧を印加してヒステリシス特性の有無を調べ、結果を表1、図1及び図3に示した。
【0055】
比較例1
Pt(2000Å)/SiO2(5000Å)/Si(100)ウェーハの基板上にスピンコート法によりまずPTゾルゲル液を塗布し(3000rpm、15秒)、150℃で1分間、空気中(ホットプレート)で乾燥した。次いで、この乾燥膜上にPLZTゾルゲル液をスピンコート法により塗布し(3000rpm、15秒)、上記と同様にして乾燥した後、400℃で1分間空気中(ホットプレート)で仮焼した。このPLZTゾルゲル液の塗布、乾燥及び仮焼の工程を更に5回繰り返した後、430℃で50分間空気中(ホットプレート)で焼成して結晶化させて、膜厚150nmのPLZT薄膜を形成した。
【0056】
得られたPLZT薄膜について表面のSEM写真から結晶相を観察した。また、X線回折によりペロブスカイトのピークの有無を調べると共に、電圧を印加してヒステリシス特性の有無を調べ、効果を表1、図2及び図4に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
以上の結果から、1回当たりの結晶化において、結晶化される膜厚が結晶化後に30nm以下となるように、酸化物薄膜形用原料溶液を塗布する際に、まずPb及びTiを含む原料溶液を塗布し、その後にPb、Zr及びTiを含む原料溶液を塗布して結晶化させる工程を、少なくとも1回以上行うことにより、450℃以下の低温でも結晶化が促進され、高品質なPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成することができることがわかる。
【0059】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明のPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法によれば、ゾルゲル法等によりPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成するに当り、結晶化温度の低減を図ることができるため、低温焼成にて完全なるペロブスカイト結晶の高品質Pb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成することが可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で成膜された金属酸化物薄膜のX線回折線図である。
【図2】比較例1で成膜された金属酸化物薄膜のX線回折線図である。
【図3】実施例1で成膜された金属酸化物薄膜の電圧−分極曲線を示すグラフである。
【図4】比較例1で成膜された金属酸化物薄膜の電圧−分極曲線を示すグラフである。
Claims (3)
- 基板にPb、Zr及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して塗膜を形成した後、加熱することにより該金属酸化物を結晶化させてPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜を形成する方法において、
1回の結晶化工程で形成される金属酸化物薄膜の厚さが結晶化後の膜厚で30nm以下となるように塗膜を形成させた後、結晶化工程を行い、この塗膜形成と結晶化工程を2回以上行う方法であり、
少なくとも最初の結晶化工程において、基板にPb及びTiからなる金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して下地膜を形成した後、該下地膜上にPb、Zr及びTiを含有する金属酸化物薄膜形成用原料溶液を塗布して前記塗膜を形成することを特徴とするPb、Zr及びTiを含むPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法。 - 請求項1の方法において、結晶化のための加熱温度が450℃以下であることを特徴とするPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法。
- 請求項1の方法において、結晶化のための加熱温度が420℃以上430℃以下であることを特徴とするPb系ペロブスカイト型金属酸化物薄膜の形成方法。
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