JP4039791B2 - 潤滑性樹脂組成物およびシールリング - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、シールリングなどに適用される潤滑性樹脂組成物およびこれを用いたシールリングに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車の自動変速機、連続無段可変変速機を代表例とする油圧機器には、シールリング等のシール部材が用いられている。このようなシール部材は、使用する環境によって鋳鉄または合成樹脂を主成分としたものが選択して使用され、オイルシール性などの密封性と共に、低摩擦特性、耐摩耗性、摺接する相手金属に対する非損傷性、軸へ装着する作業の容易性(ハンドリング)等が要求される部材である。
【0003】
シール部材の代表例としてシールリングが挙げられるが、円環の一箇所が切断された円弧状の形態のものが取り扱いやすいものである。このようなシールリングは、素材の弾性力によって円弧の両端(合い口部)を密接するように重ねるか、または突き合わされて閉じた状態でシール性を発揮し、軸に取り付けるときには合口部を弾性力に抗して広げることにより簡易に取り付けできるものである。
【0004】
ところで、鋳鉄製のシール部材は耐摩耗性に優れているが、シール効率が悪くこれを用いた油圧機器には流量の大きいオイルポンプが必要となる。また、鋳鉄製のシール部材は、合成樹脂より弾性率が高くて靭性がないので、取り付け作業が容易でなく、例えば、外径寸法が20mm以下で開環可能な合口部を有する鋳鉄製のオイルシールリングは、これを軸に取り付けるときに、合口部が許容弾性変形量を超えて広がって破断しやすい。
【0005】
一方、四フッ化エチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、芳香族熱可塑性ポリイミド樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂等の合成樹脂を成分とし、さらに種々の充填材が配合された成形体からなるシールリングは、鋳鉄と比較して弾性率が低くて合口部を広げても破断し難く、しかもシール性に優れたものである。
【0006】
このうち芳香族ポリエーテルケトン樹脂製のシールリングは、適度な弾性率を有して靭性があるため、合口部を広げても破断し難く、しかも優れたシール性および取扱いの容易性があり、100℃を越える高温で高速に摺動する使用状態でも低摩擦特性であり耐摩耗性にも優れたものである。
【0007】
このような芳香族ポリエーテルケトン樹脂製シール部材においても、摺接する相手金属に応じて適当な充填材が配合されており、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、黒鉛、マイカ、タルク、四フッ化エチレン樹脂などがそのような充填材の代表として挙げられる。
【0008】
例えば、機械的特性や耐摩耗性を向上させるためには、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ等の繊維状充填材または黒鉛、マイカ、タルク等の鱗片状充填材が添加され、低摩擦特性を付与するために四フッ化エチレン樹脂、黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤が添加されている。
【0009】
ところが、このような充填材を配合すると、耐摩耗性、低摩擦特性は向上するが、合口部を広げ難くなるという欠点がある。因みに、合口部を広げ易いか、否かという取り扱い容易性は、充填材の種類とその添加量に大きく影響される。
【0010】
充填材の種類別にみると、黒鉛、マイカといった鱗片状のものは、添加量が多いほど取り扱いの容易性を低下させやすいため、このような充填材を利用して外径寸法が20mm以下の小型の合成樹脂製のシールリングに所要の低摩擦特性、耐摩耗性および取り扱いの容易性等の全てを満足させることは困難であった。
【0011】
すなわち、外径寸法が20mm以下の合成樹脂製のシールリングの合口部を広げ易くするために、充填材の添加量を減らすと、耐摩耗性が低下して充分なシール性が得られない。また、このようなシールリングを用いてアルミニウム合金製シール面をシールする場合には、炭素繊維がアルミニウム合金を損傷し、シールリングが異常摩耗するという問題が起こる。
【0012】
チタン酸カリウムウィスカと固体潤滑剤をともに添加したシール部材は、100℃を越える高温雰囲気で高速摺動する使用条件でチタン酸カリウムウィスカの補強効果が不充分になり、摩耗量が多くなる(特公平1−29379、特開平2−175793)。また、摺接するシール面がアルミニウム合金の場合には、これを損傷して充分なシール性が得られない。
【0013】
アルミニウム合金製シール面の損傷を防ぐために、粒状、鱗片状の充填材もしくは固体潤滑剤のいずれかを添加したシール部材は、耐摩耗性が劣り、またシール面の損傷を軽減させる程度が不充分である(特開平8−159292、特開平10−53700)。
【0014】
そして、炭素繊維、粒状または鱗片状の充填材および固体潤滑剤を併用して添加しても、アルミニウム合金製シール面の非損傷性は充分に満足できる程度にならない。
【0015】
特に、アルミニウム合金製シール面の損傷を軽減するために、鱗片状の充填材を多量に添加すると、合口部を広げ難くなりシールリングの取り扱い性が悪化する。
【0016】
ところで、シールリングのようなシール部材を装着した油圧機器などの装置類は、装置全体の小型化や高性能化などの要請があり、高圧の条件下でも良好に摺動できる特性が要求されるようになってきた。また、装置の小型化に伴ってシールリングの外径寸法を小さくする必要が生じ、小径でも合口部を広げ易く取り扱いの容易なシールリングが要望されている。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来の芳香族ポリエーテルケトン樹脂組成物からなるシールリング等のシール部材は、100℃を越える高温雰囲気での高速摺動条件下での耐摩耗性が不充分であり、充分なシール性を発揮させることはできなかった。また、外径寸法が20mm以下のシールリングにおいて充填材を減らせば、合口部は広げ易くなるが、耐摩耗性は所要特性を満たさない場合があった。
【0018】
シールリングの取扱い容易性は、樹脂組成物の曲げ歪みと大きな関わりがあり、曲げ歪みが大きいほど取り扱いやすくなり、外径寸法の小さなシールリングを製造することができる。
【0019】
また、軸やシリンダに対する通常のシール構造では、軸またはシリンダのいずれかをアルミニウム合金で形成して切削加工性および軽量化を図っているが、このようなシールを油圧シリンダやピストンなどに装着すると、潤滑油に接して摺動するアルミニウム合金製のシール面は、潤滑油に接しない乾燥摩擦条件で摺動する場合より損傷しやすくなる。その原因は、高速高面圧の摺動条件で摺動面に潤滑油が充分に供給されなくなり、または何らかの理由で摺動面に非常に薄い油膜が形成される場合があり、このような場合に通常の乾燥摩擦面においては当然に起こる芳香族ポリエーテルケトン樹脂組成物から摺動相手材へ潤滑物質の移着が起こらず、すなわち、摺動面に固体潤滑剤または液体潤滑剤のいずれもが供給されず、シール面は摩耗損傷しやすくなると考えられる。
【0020】
そこで、本願の潤滑性樹脂組成物に係る発明の課題は、上記した問題点を解決し、耐摩耗性およびシール性に優れた摺動部品を成形可能な潤滑性樹脂組成物であって、潤滑油が充分に供給されない条件でもアルミニウム合金製シール面を摩耗損傷しない潤滑性樹脂組成物とすることである。
【0021】
特定の摺動条件における課題としては、100℃を越える高温および高速摺動の条件で、耐摩耗性およびシール性に優れ、しかもアルミニウム合金からなるシール面に対して1MPa以上の面圧で摺接する際にシール面を損傷しない潤滑性樹脂組成物とすることである。
【0022】
また、本願のシールリングに係る発明は、上記の課題を解決する特性を有すると共に、耐摩耗性、シール性およびアルミニウム合金製シール面を損傷しないシールリングとすることであり、特に外径寸法が20mm以下の小型のシールリングについて、その開環用に形成した合口部を広げて軸に容易に取り付けできる取り扱いやすいシールリングとすることである。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本願の潤滑性樹脂組成物に係る発明において、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、炭素繊維、モース硬度3以下の無機化合物および四フッ化エチレン樹脂を必須成分として配合してなる潤滑性樹脂組成物としたのである。または芳香族ポリエーテルケトン樹脂50〜90体積%、炭素繊維5〜30体積%、モース硬度3以下の無機化合物2〜30体積%および四フッ化エチレン樹脂2〜30体積%を配合してなる潤滑性樹脂組成物としたのである。
【0024】
上記の潤滑性樹脂組成物の発明では、補強材として、炭素繊維および所定硬度の無機化合物を併用することにより、炭素繊維は芳香族ポリエーテルケトン樹脂の全体をマクロ的に補強し、無機化合物は前記繊維間をミクロ的に補強し、これら2種類の繊維補強材が互いの弱点を補うように作用して、組成物の耐摩耗性を相乗的に向上させる。
【0025】
前記のモース硬度3以下の無機化合物は、硫酸マグネシウムまたは硫酸カルシウムであることが好ましく、またモース硬度3以下の無機化合物は、繊維状または粒状の無機化合物であるものを採用することができる。特に、モース硬度3以下の無機化合物が、繊維状のものを採用する場合にはウィスカを採用すれば好ましい結果がより確実に得られる。
【0026】
そして、これらの2種類の補強材を所定量だけ配合することにより、耐摩耗性、シール性およびアルミニウム合金製シール面を摩耗損傷しないという複数の課題を一挙に解決できる。
【0027】
また、固体潤滑剤として四フッ化エチレン樹脂が添加されていることにより、この潤滑性樹脂組成物には所要の低摩擦特性が付与されている。上述した潤滑性樹脂組成物は、シール用潤滑性樹脂組成物とすることができる。
【0028】
また、本願のシールリングに係る発明においては、前記の課題を解決するために、上記潤滑性樹脂組成物をリング状に形成すると共に、このリングに開環用合口部を形成したシールリングとし、または上記の潤滑性樹脂組成物を、曲げ歪み(ASTM D790)が3%以上で外径20mm以下のリング状に形成し、このリングに開環用合口部を形成したシールリングとしたのである。このようなシールリングは、特にアルミニウム合金面摺接用のシールリングに適用できるものになる。
【0029】
本願のシールリングに係る発明では、その成形材料として前記した潤滑性樹脂組成物を採用したので、耐摩耗性、シール性およびアルミニウム合金製シール面を摩耗損傷しないという複数の課題を一挙に解決できる。そして、前記2種類の補強材を所定量配合することにより、曲げ弾性率が向上し、比較的大きな曲げ歪みを許容できるようになるので、外径寸法が20mm以下の小型のシールリングについて、その開環用合口部を広げて容易に軸に取り付けできるものになる。
【0030】
【発明の実施の形態】
この発明に用いる芳香族ポリエーテルケトン樹脂(以下、PEKと略記する。)は、下記の化1の式にそれぞれ示した繰り返し単位からなる重合体、またはそのような繰り返し単位と共に、例えば下記の化2の式にそれぞれ示した繰り返し単位をPEK本来の特性を失わないように重合させた共重合体である。
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
【0033】
PEKの市販品としては、下記の化3の式で表される重合体からなるビクトレックス(VICTREX)社製:PEEK、下記の化4の式で表される重合体からなるビクトレックス(VICTREX)社製:PEK、または、下記の化5の式で表される重合体からなるBASF社製:Ultrapek(PEKEKK)が挙げられる。これらは、上記した市販品のほか、特開昭54−90296号公報などに記載された周知の方法に従って製造することができる。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
【化5】
【0037】
この発明に用いる炭素繊維は、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれのものも使用可能であるが、好ましくはPAN系炭素繊維を用いる。炭素繊維は、その焼成温度を特に限定したものではなく、1000℃、2000℃またはそれ以上の高温で焼成された炭素繊維であってもよい。また、混練性、分散性、PEK樹脂との接着性等を改良するために、エポキシ基等を含む処理剤で表面処理した炭素繊維を採用してもよい。
【0038】
炭素繊維の繊維径は20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは5〜10μmである。前記した範囲を越える太い炭素繊維では、シール面のアルミニウム合金を摩耗損傷する可能性が高くなって好ましくない。炭素繊維は、チョップドファイバー、ミルドファイバーのいずれであってもよく、その繊維長は特に限定されないが、充分な補強効果を得るために0.05mm以上の繊維長であるものが好ましい。
【0039】
この発明に使用可能な市販の炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維として、呉羽化学社製:クレカ M−101S、同M−107S、同M−101F、同M−201S、同M−207S、同M−2007S、同C−103S、同C−106S、同C−203Sまたは大阪ガスケミカル社製:ドナカーボン S241、同S244、同SG241、同SG241、同SG244などがある。また、同様のPAN系炭素繊維として、東邦レーヨン社製:ベスファイト HTA−CMF0160−0H、同HTA−CMF0070−0H、同HTA−CMF0040−0H、同HTA−C6、同HTA−C6−Sまたは東レ社製:トレカ MLD−30、同MLD−100、同MLD−300、同T008、同T010などがある。
【0040】
次に、この発明に用いるモース硬度3以下の無機化合物は、例えば水酸化マグネシウム(モース硬度2〜3)、二硫化モリブデン(モース硬度1〜2)、三酸化タングステン(モース硬度2.5)、二硫化タングステン(モース硬度1〜2)、硫酸カルシウム(モース硬度2〜3)、硫酸マグネシウム(モース硬度2.5)等が挙げられるが、好ましくは硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウムである。
【0041】
このような無機化合物の形状は、特に限定する必要はなく、例えばウィスカその他の繊維状物または粒状物のいずれであってもよい。また、無機化合物の大きさは、繊維状物の場合は、50μm前後であることが好ましく、粒状物である場合は、平均粒径100μm以下、好ましくは10〜50μmであり、繊維状物および粒状物のいずれのものも必須成分である炭素繊維の大きさより小さいものを採用することが好ましい。なお、繊維状物または粒状物のいずれのものでも1μm未満の大きさのものは、これを配合した潤滑性樹脂組成物に充分な耐摩耗性が備わらないので好ましくない。
【0042】
また、この発明に用いるウィスカとしては、硫酸マグネシウムウィスカ、硫酸カルシウムウィスカが挙げられる。ウィスカの繊維長は前記した炭素繊維より適度に短い50μm前後であることが好ましく、極端に短いウィスカでは組成物に充分な耐摩耗性が備わらない。
【0043】
モース硬度3以下のウィスカの具体例としては、硫酸カルシウムウィスカの無水塩型のもの、または半水塩型のものが挙げられるが、好ましいウィスカは無水塩型のものである。市販のウィスカを列記すると、以下の通りである。
この発明に用いる粒状無機化合物の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムの無水塩型のもの、または半水塩型のものが挙げられるが、好ましくは無水塩型の硫酸カルシウムである。硫酸カルシウムの市販品としては、ノリタケ社製:D−101A(無水塩型)、D−200(無水塩型)、FT−2(半水塩型)などが挙げられる。
【0044】
上記の所定硬度の無機化合物と前記した炭素繊維とを併用してPEK組成物中に添加すると、炭素繊維は基材を粗い目のネットワークで補強し、無機化合物はネットワークを縫うように分散して組成物をミクロ的に補強し、これら両成分が協働して組成物またはシールリングの耐摩耗性が著しく向上すると考えられる。
【0045】
また、炭素繊維に比べて小さい無機化合物を採用することにより、密封面に存在する確率が高くなると考えられる。無機化合物は、所定モース硬度のものであり、密封面の摩擦時に大部分の摩擦せん断力を受けるため、シールは摩耗しにくく、シール面はアルミニウム合金(JIS H2118で規定されるダイカスト用アルミニウム合金など)の摩耗損傷を受け難い。硫酸カルシウムおよび硫酸マグネシウムは、特にアルミニウム合金などの軟質相手材に対して耐摩耗性に優れている。
【0046】
この発明に用いる四フッ化エチレン樹脂(以下、PTFEと略記する。)は、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、加熱処理または加圧加熱処理された粉末を粉砕した粉末、その後γ線または電子線を照射した粉末などの固体潤滑剤用粉末のいずれを採用してもよいが、固体潤滑剤用粉末がより好ましい。また、これらモールディングパウダー、ファインパウダー、固体潤滑剤用粉末を併用してもよい。
【0047】
PTFEの市販品としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−350、KT−8N、KT−400H、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン7−J、TLP−10、旭硝子社製:フルオンG163、L150J、L169J、ダイキン工業社製:ポリフロンM−15、ルブロンL−5、ヘキスト社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFEであってもよい。
【0048】
前記したように、配合割合をPEK樹脂50〜90体積%、炭素繊維5〜30体積%、モース硬度3以下の無機化合物2〜30体積%、PTFE2〜30体積%とする理由は以下の通りである。
【0049】
すなわち、炭素繊維の配合割合が30体積%を越えると、摺動相手金属のアルミニウム合金を摩耗損傷する可能性が高くなる。また、炭素繊維の配合割合が5体積%未満では組成物を補強する効果が乏しく、充分な耐摩耗性が得られない。
【0050】
無機化合物の配合割合が30体積%を越える多量では、耐摩耗性が所要程度より低下する。また、無機化合物の配合割合が2体積%部未満では組成物のミクロ補強効果がなく、所要の耐摩耗性が得られず、アルミニウム金属を摩耗損傷する可能性も高くなる。
【0051】
PTFEの配合割合が30体積%を越えると、耐摩耗性が所要の程度より低下する。また、PTFEの配合割合が2体積%未満では組成物に所要の潤滑性の付与効果に乏しく、充分な摺動特性が得られない。
【0052】
また、この発明における潤滑性樹脂組成物では、炭素繊維、無機化合物及びPTFEの配合割合の総計が50体積%を越えると成形性が悪くなり、所要の耐摩耗性が得られず、取り扱いの容易性も著しく低下する。また、10体積%未満では所要程度の耐摩耗性、潤滑性を付与することができない。
【0053】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、潤滑性樹脂組成物に対して以下に列挙するような周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。
(1)摩擦特性向上剤:黒鉛、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど
(2)電気特性向上剤:炭素粉末、酸化亜鉛、酸化チタンなど
(3)クラッキング性向上剤:黒鉛
(4)熱伝導性向上剤:黒鉛、金属酸化物粉末
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。そして、成形方法としては、押出し成形、射出成形、加熱圧縮成形などを採用することができるが、製造効率などの点で射出成形が特に好ましい。また、成形品に対して物性改善のためにアニール処理等の処理を採用してもよい。
【0054】
なお、この発明の潤滑性樹脂組成物の好適な用途例としては、自動車の自動変速機、連続無段可変変速機をはじめとする油圧機器用のシールリングが挙げられる。さらに、炭酸ガス、天然ガス、代替フロンなどの冷媒が使用されているコンプレッサー用シール、チップシール、ピストンシール、トラック、バスその他の自動車のパワーステアリングシールリング、ショベルカー、フォークリフト、ブルドーザーまたは釘打ち機等の建設機械関連のシール軸受としても使用可能である。
【0055】
また、安全性を考慮するならば、前述の100℃を越える雰囲気で負荷圧力が1MPaを越えるような仕様より穏やかな条件で用いる油圧機器のシールリングであってもよい。
【0056】
また、接触する相手金属の材質が、鋼、鋳鉄などのアルミニウム合金より硬度の高い材質の場合であっても、外径寸法が20mmを越えるシールリングの場合であっても、前記組成物の成形体をシール部材として使用可能であるのは勿論である。
【0057】
【実施例】
実施例および比較例に用いる原材料を一括して以下に示した。なお、原材料に括弧書きした番号は、表中の原材料番号と一致させている。
(1) 芳香族ポリエーテルケトン樹脂〔PEK〕
VICTREX社製:PEEK450P
(2) PAN系炭素繊維〔CF−1〕)
東邦レーヨン社製:ベスファイト HTA−CMF0160−0H
(繊維長0.16mm、繊維径7μm)
(3) ピッチ系炭素繊維〔CF−2〕
呉羽化学社製:クレカM-101S(繊維長0.13mm、繊維径14.5μm)
(4) ピッチ系炭素繊維〔CF−3〕
呉羽化学社製:クレカM-101T(繊維長0.13mm、繊維径18μm)
(5) ピッチ系炭素繊維〔CF−4〕
呉羽化学社製:クレカC-103S(繊維長3mm、繊維径14.5μm)
(6) PAN系炭素繊維〔CF−5〕
東レ社製:トレカ MLD−30(繊維長0.03mm、繊維径7μm)
(7) 粒状硫酸マグネシウム〔粒状MgSO〕
試薬(モース硬度2.5、粒径30μm)
(8) 粒状硫酸カルシウム〔粒状CaSO〕
ノリタケ社製:D−101A(モース硬度2〜3、無水塩型、粒径25μm)
(9) 硫酸マグネシウムウィスカ〔繊維状MgSO〕
宇部興産社製:モスハイジ(モース硬度2.5、繊維長10〜30μm、繊維径0.5〜1μm)
(10) 硫酸カルシウムウィスカ〔繊維状CaSO〕
大日精化工業社製:フランクリンファイバー A−30(モース硬度2〜3、無水塩型、繊維長50〜60μm、繊維径2μm)
(11) チタン酸カリウムウィスカ〔繊維状KTiO〕
大塚化学社製:ティスモN(モース硬度4、繊維長10〜20μm、繊維径0.3〜0.6μm)
(12)ホウ酸アルミニウムウィスカ〔繊維状AlBO〕
四国化成工業社製:アルボレックスY(モース硬度7、繊維長10〜30μm、繊維径0.5〜1μm)
(13)四フッ化エチレン樹脂〔PTFE〕
喜多村社製:KTL−610(固体潤滑用粉末、粒径15μm)
〔実施例1〜15、比較例1〜8〕
原材料を表1および表2に示す配合割合(体積%)でヘンシェル乾式混合機を用いてドライブレンドし、二軸押出し機を用いて溶融混練しペレットを作製した。このペレットを射出成形機にて射出圧力100MPa、ノズル温度400℃、金型温度180℃の条件で成形し、φ14(内径)×φ23(外径)×13(幅)mmの素形材、図1に要部を示すシールリングAであって開環用合口部の合口形状が複合ステップカットのφ17(内径)×φ20(外径)×2.0(幅)mmのもの、および12.7(幅)×128(長さ)×3.2(厚さ)mmの長方体状の曲げ試験片を得た。そして、φ14×φ23×13mmの素形材は、切削加工してφ17×φ21×10mmの摩擦摩耗試験用のリング状試験片を作製した。
【0058】
摩擦摩耗試験としては、以下に示すリングオンディスク試験およびシールリング試験を採用した。
(1)リングオンディスク試験
リングオンディスク型試験機を用い、低粘度の潤滑油(モービル社製ベロシティオイルNo.3:2cSt−40℃)中で摺接相手材をアルミニウム合金(ADC12:JIS H2118 12種)とし、面圧2MPa、周速64m/分、油温110℃で5時間供試し、試験終了直前の動摩擦係数、樹脂試験片の摩耗量、相手材の摩耗量を表3および表4に示した。
(2)シールリング試験
図2に示すシールリング試験機を用い、アルミニウム合金(ADC12:JIS H2118 12種)製の軸1の軸溝2、2′にシールリング3、3′を装着し、軸1を回転させてシールリング3、3′を軸溝2、2′の側面及びS45C製シリンダ4の内周面と摺接させた。このときシリンダ4の上方の油圧ポンプ(図示省略)から供給管5を介して油を圧送し、油圧計6で油圧を設定した。
【0059】
潤滑油にATF(昭和シェル石油社製:デキシロン)を使用し、油圧1MPa、軸回転数8000rpm、油温120℃で100時間供試し、シールリングの側面(ADC12製の軸溝との摺接面)の摩耗量、ADC12製軸溝の摩耗量を表3および表4に示した。また、シールリングを軸溝に装着する際の容易性を○印(開環用合口部を軸方向へずらすように広げて容易に軸溝に装着できる)、△印(容易ではないが開環用合口部を軸方向へずらすように広げて装着可能である)、×印(装着のために開環用合口部を軸方向へずらすように広げるとリングが破断する)の3段階に評価し、結果を表3または表4に併記した。
(3)曲げ試験
ASTM D790に準拠し、常温での曲げ弾性率、曲げ歪みを測定し、これらの結果を表3および表4に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
表3および表4の結果からも明らかなように、PEK樹脂、炭素繊維、所定硬度の無機化合物、PTFEという4種類の原材料のうち、いずれかの原材料が欠ける組成物からなる比較例1〜6のシールリングまたは試験片は、低摩擦特性、耐摩耗性及び相手材の非損傷性のすべてを満足することができなかった。また、所定硬度以外のウィスカを配合した比較例7、8は、摺動相手材を損傷させると共に耐摩耗性が劣っていた。
【0065】
これに対して、所定の原材料を配合した実施例1〜15のシールリングまたは試験片は、100℃を越える高温オイル雰囲気条件での摩擦摩耗試験で相手材(ADC12)をほとんど損傷することなく、低摩擦特性および耐摩耗性に優れていた。また、実施例1〜6、8〜11、13、14は、ASTM D790の曲げ歪みが3%以上であり、外径寸法が20mm以下のシールリングを軸溝に装着する際に開環用合口部を容易に広げて取り付けできるものであった。
【0066】
【発明の効果】
本願の潤滑性樹脂組成物に係る発明は、以上説明したように、芳香族ポリエーテルケトン樹脂に炭素繊維、所定硬度の無機化合物および四フッ化エチレン樹脂をそれぞれ所定量配合した潤滑性樹脂組成物としたので、耐摩耗性およびシール性に優れ、潤滑油が充分に供給されなくてもアルミニウム合金製シール面を摩耗損傷しない潤滑性樹脂組成物となる利点がある。
【0067】
特に、100℃を越える高温および高速摺動の条件で、耐摩耗性およびシール性に優れ、しかもアルミニウム合金からなるシール面に対して1MPa以上の面圧で摺接する際にシール面を損傷しない潤滑性樹脂組成物になるという利点もある。
【0068】
また、本願のシールリングに係る発明においては、潤滑性樹脂組成物からなり、開環用合口部を形成したシールリングとしたので、耐摩耗性、シール性およびアルミニウム合金製シール面を損傷しないシールリングとなり、特に外径寸法が20mm以下の小型のシールリングについて、その開環用合口部を広げて容易に軸に取り付けることができる取扱性の良いものになる。
【0069】
また、本願のシールリングに係る発明では、潤滑性樹脂組成物を曲げ歪み(ASTM D790)が3%以上で外径20mm以下のリング状に形成し、このリングに開環用合口部を形成した場合において、その開環用合口部を広げて容易に軸に取り付けできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】シールリングの開環用合口部を拡大して示す斜視図
【図2】シールリング試験機の要部を説明する断面図
【符号の説明】
1 軸
2、2′ 軸溝
3、3′ シールリング
4 シリンダ
5 供給管
6 油圧計
Claims (4)
- 芳香族ポリエーテルケトン樹脂50〜90体積%、炭素繊維5〜30体積%、モース硬度3以下の繊維状無機化合物2〜30体積%および四フッ化エチレン樹脂2〜30体積%を配合してなる潤滑性樹脂組成物を曲げ歪み(ASTMD790)が3%以上で外径20mm以下のリング状に形成し、このリングに開環用合口部を形成してなるオイルシールリング。
- モース硬度3以下の無機化合物が、硫酸マグネシウムまたは硫酸カルシウムである請求項1に記載のオイルシールリング。
- モース硬度3以下の無機化合物が、ウィスカである請求項1または2に記載のオイルシールリング。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑性樹脂組成物からなるアルミニウム合金面摺接用のオイルシールリング。
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