JP4036387B2 - レーザアシスト高速フレーム溶射法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶射ガンにて高温且つ高速燃焼炎中に溶射材料を投入し被溶射物(以下溶射基材と表す)に衝突させて溶射基材に溶射皮膜を形成する高速フレーム溶射と、溶射基材又は溶射皮膜に高密度エネルギーを同時照射して表面改質をしながら行うレーザアシスト溶射方法およびその実施に用いる装置に関する。
【0002】
【従来技術】
基材表面に各種機能皮膜を形成する方法には、ガス溶射,アーク溶射,プラズマ溶射,高速フレーム溶射などがある。これらの目的とするところは、基材表面の表面改質により、耐摩耗性,耐腐食性,耐熱性,滑り性等様々な特性の表面に改善する事にある。溶射温度が低い燃焼ガス溶射は、比較的低融点材料の金属溶射に向き、高温のプラズマ溶射は、高融点材料のセラミックスあるいは高融点金属材料の溶射に用いられる。
【0003】
高速フレーム溶射は、燃焼炎(中性炎)圧力を利用し粉体を音速を超える高速(約マッハ3)フレーム中に投入し、該溶射材料を基材に衝突させ、その運動エネルギーを利用して溶射粒子を扁平化及び積層させる事により溶射皮膜を形成させる方法である。該方法は、前述方法等よりも皮膜の緻密性が良好であることが一般的に知られている。
【0004】
高速フレーム溶射法は、溶射材料である粉末を燃焼を利用した音速を遥かに超える高速,高温の気流に投入し、該粒子を基材に衝突させ成膜する。高速フレーム溶射法は燃焼室の助燃剤として酸素を使用するHVOF(High Velocity 0xy Fuel)及び助燃剤として空気を利用するHVAF(High Velocity Air Fuel)が有りそれぞれの特長を持っている。空気を助燃剤として使用するHVAFは酸素を助燃剤として使用するHVOFよりも燃焼温度が数百度低く溶射材料粒子が飛行中に受ける酸化度合いが低い。又温度が低いことにより、溶射材料中の脱炭現象が少なく溶射皮膜中への炭素の歩留まりが良好であるため、溶射材料の本来の特性を壊さずに溶射皮膜として活用することが可能と言う特徴も有する。
【0005】
しかしながら、HVAFの燃焼温度としては2,400°C程度と言われており該溶射法は高融点材料の溶射には不利であることが知られている。また、前述いずれの方法にしても皮膜内の気孔形成は成膜行程上溶射粒子の不規則な重なり合いより積層するため免れなく、基材との密着性、皮膜の緻密性などに於いて問題があった。又大気中に於いてのこれら溶射施工法は、空気の巻き込みによる飛行粒子表面の酸化,窒化が発生するので該溶射皮膜は本来の高融点材料の特性を得られないと言う欠点も有った。これらを改善する方法としてプラズマ溶射に炭酸ガスレーザ又はYAGレーザを組み合わせた複合溶射法が行われている。
【0006】
これらは何れも研究,実験室レベルでの試みで、理想的な皮膜を得るためには溶射皮膜の酸化,窒化を防ぐ目的で減圧チヤンバー内で空気を排除あるいは不活性ガス置換をした雰囲気中に於いて施工されているのが実情である。
【0007】
しかるに該溶射施工法には減圧チヤンバ-が必要となりワークが大きければ大型の真空チヤンバー及びそれらに付随する排気装置や制御系装置も大がかりなものとなり減圧時間や置換するガス量も多大な物となる。さらには、バッチ生産とならざるを得ない。
【0008】
溶射皮膜形成後溶射粒子及び溶射皮膜の温度が低下あるいは皮膜構造が形成されてから溶射表面にレーザ照射を行うと、急熱することにより温度衝撃を皮膜に与え皮膜に割れを発生したり、基材より剥離をおこしてしまう問題が発生していた。また形成された溶射皮膜は溶融あるいは反溶融状態で積層されるため、凝固した溶射粒子には箇々に応力が蓄積される。該応力は溶射層を重ねれば重ねるほど層全体としては蓄積されてくる。蓄積された応力は、基材との密着力あるいは溶射皮膜の密着強度を逸脱した時点で皮膜は応力が最も蓄積されている基材と溶射皮膜界面付近から剥離を生じる。従って溶射皮膜厚さは用いる溶射材料の種類によっても異なるが厚くて数mm,薄くて1mm以下と言う限界を有する事も知られている。
【0009】
そこで特開2000−282215号公報に提示のレーザアシスト高速フレーム溶射では、高速フレーム溶射と同時に、その溶射点又は溶射皮膜にYAGレーザを照射して、溶射基材に対する溶射皮膜の密着性又は緻密な皮膜を形成する。すなわち、一態様では、高速フレーム溶射と同時にその溶射点にYAGレーザを照射することにより溶射基材に対する密着性を高くする。もう1つの態様では、高速フレーム溶射と同時にその溶射点の直後の溶射皮膜にYAGレーザを照射して溶射皮膜の表面を緻密にする。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、高速フレーム溶射と同時にその溶射点にYAGレーザを照射する態様では、溶射基材のレーザ加熱が溶射点であるので、溶射点の急熱となる。高速フレーム溶射と同時にその溶射点の直後の溶射皮膜にYAGレーザを照射する態様では、密着性がやや低い。
【0011】
本発明は、溶射皮膜の品質を更に高くすることを第1の目的とする。具体的には、溶射基材に対する溶射皮膜の密着性を高くすることを第2の目的とし、溶射皮膜の緻密性を高くすることを第3の目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
(1)溶射ガン(5)にて、高温,高速燃焼炎中に溶射材料を投入した高速ガスフレームを溶射基材(14)に衝突させ皮膜(18)を形成すると共に、該溶射基材(14)に高エネルギー密度のレーザ(16)を同時照射するレーザアシスト溶射方法に於いて、
溶射ガン(5)およびレーザヘッド(13)の組体の、溶射基材(14)に対する相対的な走査方向yに関して、上流側から前記高速ガスフレーム(15)を横切って溶射点(14p)の下流側前方に向けて前記レーザ(16)を照射することを特徴とする、レーザアシスト溶射方法(図1,図2)。
【0013】
なお、理解を容易にするためにカッコ内には、図面に示し後述する実施例の対応要素又は対応事項の記号を、参考までに付記した。
【0014】
これによれば、レーザ(16)が、溶射点に当たる直前の高速ガスフレーム(15)を横切って溶射点(14p)の下流側前方すなわち溶射直前の溶射基材(14)面に衝突する。このレーザ(16)は、高速ガスフレーム(15)を横切るときにガスフレーム(15)の溶融又は半溶融状態の溶射材料を加熱し、フレーム(15)を透過したレーザが溶射直前の溶射基材(14)面を先行加熱する。したがって、溶射点(14p)の急熱が改善されしかも、レーザによって予め加熱された溶射基材(14)面に、レーザによって先行加熱されたガスフレーム中溶射材料が衝突し、溶射基材(14)面と衝突した溶射材料の馴染が良く、溶射基材(14)面緻密に密着した溶射皮膜が形成される。
【0015】
(2)溶射ガン(5)にて、高温,高速燃焼炎中に溶射材料を投入した高速ガスフレームを溶射基材(14)に衝突させ皮膜(18)を形成すると共に、該溶射皮膜(18)に高エネルギー密度のレーザ(16)を同時照射するレーザアシスト溶射方法に於いて、
溶射ガン(5)およびレーザヘッド(13)の組体の、溶射基材(14)に対する相対的な走査方向yに関して、下流側から前記高速ガスフレーム(15)を横切って溶射点(14p)の上流側後方に向けて前記レーザ(16)を照射することを特徴とする、レーザアシスト溶射方法。
【0016】
これによれば、レーザ(16)が、溶射点に当たる直前の高速ガスフレーム(15)を横切って溶射点(14p)の上流側後方すなわち溶射直後の溶射皮膜(18)面に衝突する。このレーザ(16)は、高速ガスフレーム(15)を横切るときにガスフレーム(15)の溶融又は半溶融状態の溶射材料を加熱し、フレーム(15)を透過したレーザが溶射直後の溶射皮膜(18)を後加熱する。したがって、レーザによって付加加熱されたガスフレーム中溶射材料が溶射基材(14)面に衝突し密着性が向上する。溶射直後の溶射皮膜(18)の後加熱により溶射皮膜(18)が緻密になる。
【0017】
(3)y駆動アーム(1);
該y駆動アーム(1)にx軸を中心に回動可に支持されx方向に延びるヘッド支持フレーム(4);
該ヘッド支持フレーム(4)に固定されx方向に、溶射材料が入った高速燃焼炎(15)を噴出す溶射ガン(5);
レーザヘッド(13);
該レーザヘッド(13)を支持し、その中心軸の、x軸に対する角度を調整するための手段(7g,10a,10b)および該中心軸に沿う方向のレーザヘッド(13)の位置を調整するための手段(9,9a,9b,12a,12b)を含み、前記ヘッド支持フレーム(4)で支持されたレーザヘッド支持具(7);および、
該レーザヘッド支持具(7)を、x方向の位置調整可能に前記ヘッド支持フレーム(4)に連結する手段(4a,8a,8b);
を備えるレーザアシスト溶射装置。
【0018】
これによれば、上記数種の調整手段を用いて、上記(1)ならびに上記(2)を実施する姿勢にレーザヘッド(13)を選択的に設定することが出来る。いずれの実施形態でも、+y方向の溶射領域端まで往走査溶射をすると、z方向にy駆動アーム(1)を移ししかもヘッド支持フレーム(4)をx軸を中心に180度正回動させてから、復走査溶射をし、−y方向の溶射領域端まで復走査溶射をすると、z方向にy駆動アーム(1)を移ししかもヘッド支持フレーム(4)をx軸を中心に180度逆回動させてから、往走査溶射をし、これらの往走査溶射および復走査溶射を繰り返すことにより、y,z平面を同一条件で溶射被覆出来る。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明より明らかになろう。
【0020】
【実施例】
図1に、後述の第1実施例および第2実施例で用いたレーザアシスト溶射装置を示す。x,y,zの3軸方向の移動が可能なロボットアーム1の先端に関節台2があり、それによって回動ブロック3が、アーム1の延びる方向のx軸廻りに回動可に支持され、アーム1に装備した図示しない回動機構によって、x軸廻りに回転駆動される。
【0021】
回動ブロック3にはヘッド支持フレーム4が固定されおり、このフレーム4に、x軸に並行にHVAF(High Velocity Air Fuel)溶射ヘッド5が固定されている。フレーム4には、x方向に長いスリット状のネジ通し穴4aがある。レーザヘッド支持アーム7のz方向に起立したベース片には、z方向に長い2つのネジ通し穴があり、これらを貫通し、y位置調整板6を貫通するネジ8a,8bが、ネジ通し穴4aを貫通している。これらのネジ8a,8bにネジ結合したナットのネジ締めにより、y位置調整板6およびレーザヘッド支持アーム7が、ヘッド支持フレーム4に固定されている。
【0022】
レーザヘッド支持アーム7には、円弧状の長穴7gがある。座台9を貫通するネジ9a,9bが長穴7gを貫通しており、支持アーム7の裏側にあってネジ9a,9bにネジ結合したナットのネジ締めにより、座台9がレーザヘッド支持アーム7に固定されている。
【0023】
レーザヘッド13は、取付具11に保持され、この取付具11を貫通するネジ12a,12bが、座台9の、長穴7gに直交する方向(長穴7gの円弧に直交する半径方向)に長い長穴9a,9bを貫通している。座台9の裏側にあってネジ12a,12bにネジ結合したナットのネジ締めにより、取付具11が座台9に固定されている。
【0024】
取付具11のネジ12a,12bにネジ結合したナットを緩めて、取付具11を長穴9a,9bに沿ってずらすことにより、レーザヘッド13の、長穴7gの円弧に直交する半径方向の位置を調整出来る。座台9のネジ10a,10bにネジ結合したナットを緩めることにより、x軸(溶射ヘッド5の中心軸:溶射フレーム射出方向)に対する、レーザヘッド13の中心軸(レーザ射出方向)の角度を調整出来る。ネジ8a,8bにネジ結合したナットを緩めてレーザヘッド13のz位置およびx位置を調整出来る。また、y位置調整板6を厚みが異なるものと取替えることにより、レーザヘッド13のy位置を調整出来る。
【0025】
図1に示す姿勢にレーザヘッド13を設定しているときに、ロボットアーム1で回動ブロック3をx軸廻りに180度回転させると、図2に示す状態になる。
【0026】
図3の(a)に、溶射ヘッド5に接続した溶射システム要素を示し、図3の(b)には、溶射ヘッド5の縦断面の概要を示す。次の表1には、溶射システムの仕様を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
溶射ヘッド5を始動する時、プロパンと酸素をヘッド5に供給する。酸素は燃量を完全燃焼させて黒煙の発生を回避するために用いる。数10秒のプロパン燃焼により、溶射ヘッド5をウオームアップし、燃焼室を高温にしてから、溶射ヘッド5に供給する燃量をプロパンからケロシンに切換え、そして助燃ガスを酸素から空気に切換える。ケロシンの燃焼が安定すると溶射材粉末の供給を開始して、溶射を開始し、レーザヘッド13からのレーザ射出を開始する。次の表2に、レーザヘッド13にレーザを出射するYAGレーザ装置の仕様を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
−第1実施例−
図1に示すように、上述の各種調整機構を用いて、ロボットアーム1のy方向の往走査(+y)のときに、レーザヘッド13の中心軸が溶射ヘッド5の中心軸と同じx,y平面上にあって、レーザヘッド13が射出するレーザ16の溶射基材14上の有効領域が溶射点14pよりも走査方向17で下流側となるようにレーザヘッド13のy位置,x軸に対する角度およびx位置を調整し、設定した。
【0031】
これにより、レーザ16が、溶射点14pに当たる直前の高速ガスフレーム15を横切って溶射点14pの下流側前方すなわち溶射直前の溶射基材14面に衝突する。このレーザ16は、高速ガスフレーム15を横切るときにガスフレーム15の溶融又は半溶融状態の溶射材料を加熱し、フレーム15を透過したレーザが溶射直前の溶射基材14面を先行加熱する。したがって、溶射点14pの急熱が改善されしかも、レーザによって予め加熱された溶射基材14面に、レーザによって付加加熱されたガスフレーム中溶射材料が衝突し、溶射基材14面と衝突した溶射材料の馴染が良く、溶射基材14面に緻密に密着した溶射皮膜が形成される。
【0032】
上述のように設定していると、ロボットアーム1をy方向に復走査(−y)して溶射するときには、図2に示すように、ロボットアーム1で回動ブロック3をx軸廻りに180度回転させることにより、走査方向が逆向きであっても、溶射基材14に対する高速ガスフレーム15とレーザ16の走査条件は、往走査(+y)のときと同一になる。
【0033】
+y方向の溶射領域端まで往走査溶射をすると、z方向にロボットアーム1を移ししかもヘッド支持フレーム4をx軸を中心に180度正回動させてから、復走査溶射をし、−y方向の溶射領域端まで復走査溶射をすると、z方向にロボットアーム1を移ししかもヘッド支持フレーム4をx軸を中心に180度逆回動させてから、往走査溶射をし、これらの往走査溶射および復走査溶射を繰り返すことにより、y,z平面を同一条件で溶射被覆出来る。
【0034】
ブラスト処理を施した、板厚3mmの軟鋼基材14を用い溶射用粉末として外粒径が5〜45μmの銅アルミ合金を高速フレーム溶射用粉末とした。またアシスト用レーザはYAGレーザを用い加工端出力4.5kwの出力とし、高速フレーム溶射のフレーム中心より15mm前方に狙いを定め同時に溶射を実施した。
【0035】
成膜された皮膜の断面を切断研磨した後検鏡したところ、高速フレーム溶射のみの場合と比較して、基材と溶射皮膜の界面が、非常に清浄でしかも酸化膜もなく、安定していることが明らかとなった。また基材界面の凹凸は事前にブラスト処理を実施したにも係わらず、滑らかとなっていることが発見され基材表面がレーザ照射により予熱されることによって、軟化溶融していることも明らかとなった。
【0036】
本検鏡断面の気孔率を測定した結果、高速フレーム溶射のままの状態では3.38%の気孔が認められたが、レーザアシスト照射溶射皮膜では0.087%まで減少している事が認められ、検鏡観察結果と測定結果が良く一致した。皮膜については、高速フレーム溶射だけのものと比較すると、溶射粒子の粒界が瞹味になっており、明らかに軟化溶融した溶射粒子が成膜され、皮膜内が緻密化された様子を示していた。
【0037】
丸捧引っ張り試験を実施する事によりレーザアシスト皮膜の密着力を測定した。これは25mmの軟鋼製丸棒の片端面に先ほど同様な方法によりレーザアシスト溶射皮膜を作製し、同型の丸棒端面に接着剤を塗布し、該面と溶射皮膜面を接着した。
【0038】
接着剤が充分乾いたところで、一体となった試験片を引っ張り、該試験片が破断する値を比較し、密着力を評価した。高速フレーム溶射のみの皮膜では約4.5kg/mm2の引っ張り強さであったのに対して、レーザアシスト同時溶射皮膜は約6.2kg/mm2と37%の密着力向上を得た。
【0039】
以上の結果から、高速フレーム溶射のフレーム中心14pより進行方向17に対してフレーム15を横切って前方をレーザアシスト照射しつつ溶射皮膜18を生成する第1実施例の方法(図1,図2)は、飛行中の溶射粒子及び基材14をレーザで溶融および予熱することで、溶射皮膜18と基材14間の密着力の向上と溶射皮膜18の緻密化に貢献し、皮膜強度が向上する効果が得られた。
【0040】
−第2実施例−
図4に示すように、上述の各種調整機構を用いて、ロボットアーム1のy方向の往走査(+y)のときに、レーザヘッド13の中心軸が溶射ヘッド5の中心軸と同じx,y平面上にあって、レーザヘッド13が射出するレーザ16の溶射基材14上の有効領域が溶射点14pよりも走査方向27で上流側となるようにレーザヘッド13のy位置,x軸に対する角度およびx位置を調整し、設定した。
【0041】
これにより、レーザ16が、溶射点14pに当たる直前の高速ガスフレーム15を横切って溶射点14pの上流側後方すなわち溶射直後の溶射基材14面に衝突する。このレーザ16は、高速ガスフレーム15を横切るときにガスフレーム15の溶融又は半溶融状態の溶射材料を加熱し、フレーム15を透過したレーザが溶射直後の溶射皮膜18を後加熱する。したがって、レーザによって付加加熱されたガスフレーム中溶射材料が溶射基材14面に衝突し密着性が向上する。溶射直後の溶射皮膜18の後加熱により溶射皮膜18が緻密になる。
【0042】
ブラスト処理を施した、板厚3mmの軟鋼基材14を用い溶射用粉末として外粒径が10〜45μmのインコネル718(Ni基)合金を高速フレーム溶射用粉末とした。またアシスト用レーザは、YAGレーザを用い加工端出力4.0kwの出力とし、高速フレーム溶射のフレーム中心14pより15mm後方に狙いを定めレーザアシストの溶射を実施した。
【0043】
成膜された皮膜の断面を切断研磨した後検鏡したところ、高速フレーム溶射のみの場合と比較して、基材と溶射皮膜の界面が、非常に清浄でしかも酸化膜もなく、安定していることが明らかとなった。
【0044】
又、皮膜については、高速フレーム溶射だけのものと比較すると、高速フレーム溶射のままの粒子は扁平に変形しているものの、粒子一粒一粒が明確に確認出来、その表面が酸化膜で覆われている様子が確認できる。それに比べレーザアシスト照射を併用した皮膜は、溶射粒子の粒界が瞹味になっており、明らかに軟化溶融し溶射粒子の粒界が部分的に溶融している物あるいは完全に溶融し粒子粒界が存在しない物も見受けられた。
【0045】
本検鏡断面の気孔率を測定した結果、高速フレーム溶射のままの状態では3.40%の気孔が認められた物が、レーザアシスト照射溶射皮膜では0.98%まで減少している事が認められ、検鏡観察結果と測定結果が良く一致した。
【0046】
この事は、溶射皮膜が成膜されたあるいは成膜途中の皮膜がレーザの高密度エネルギーにより極短時間の内に高温に到達し、部分的にではあるが溶融し皮膜中に捕らえられていた気孔を浮上させた直後に凝固することで気孔の極めて少ない皮膜を作製可能としたものである。
【0047】
以上の結果から、高速フレーム溶射のフレーム中心から進行方向に対して後方をレーザアシスト照射しつつ溶射皮膜を作製する方法は、溶射皮膜の加熱溶融、緻密化及び溶射粒子の界面活性化と言う新たな効果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例で、溶射基材14を+y方向の往走査にて溶射加工する時の走査方向17とレーザヘッド13の姿勢を示す平面図である。
【図2】 本発明の第1実施例で、溶射基材14を−y方向の復走査にて溶射加工する時の走査方向17とレーザヘッド13の姿勢を示す平面図である。
【図3】 (a)は図1に示す溶射ヘッド5の溶射システムの要素を示すブロック図、(b)は溶射ヘッド5の縦断面概要を示す断面図である。
である。
【図4】 本発明の第2実施例で、溶射基材14を+y方向の往走査にて溶射加工する時の走査方向27とレーザヘッド13の姿勢を示す平面図である。
【図5】 本発明の第2実施例で、溶射基材14を−y方向の復走査にて溶射加工する時の走査方向27とレーザヘッド13の姿勢を示す平面図である。
【符号の説明】
1:ロボットアーム 2:関節台
3:回動ブロック 4:ヘッド支持フレーム
4a:長穴 5:溶射ヘッド
6:y位置調整板 7:レーザヘッド支持アーム
8a,8b:ネジ 9:座台
9a,9b:ネジ 10a,10b:ネジ
11:取付具 12a,12b:ネジ
13:レーザヘッド 14:溶射基材
14p:溶射点 15:溶射フレーム
16:レーザ 17,27:走査方向
18:溶射皮膜
Claims (3)
- 溶射ガンにて、高温,高速燃焼炎中に溶射材料を投入した高速ガスフレームを溶射基材に衝突させ皮膜を形成すると共に、該溶射基材に高エネルギー密度のレーザを同時照射するレーザアシスト溶射方法に於いて、
溶射ガンおよびレーザヘッドの組体の、溶射基材に対する相対的な走査方向yに関して、上流側から前記高速ガスフレームを横切って溶射点の下流側前方に向けて前記レーザを照射することを特徴とする、レーザアシスト溶射方法。 - 溶射ガンにて、高温,高速燃焼炎中に溶射材料を投入した高速ガスフレームを溶射基材に衝突させ皮膜を形成すると共に、該溶射皮膜に高エネルギー密度のレーザを同時照射するレーザアシスト溶射方法に於いて、
溶射ガンおよびレーザヘッドの組体の、溶射基材に対する相対的な走査方向yに関して、下流側から前記高速ガスフレームを横切って溶射点の上流側後方に向けて前記レーザを照射することを特徴とする、レーザアシスト溶射方法。 - y駆動アーム;
該y駆動アームにx軸を中心に回動可に支持されx方向に延びるヘッド支持フレーム;
該ヘッド支持フレームに固定されx方向に、溶射材料が入った高速燃焼炎を噴出す溶射ガン;
レーザヘッド;
該レーザヘッドを支持し、その中心軸の、x軸に対する角度を調整するための手段および該中心軸に沿う方向のレーザヘッドの位置を調整するための手段を含み、前記ヘッド支持フレームで支持されたレーザヘッド支持具;および、
該レーザヘッド支持具を、x方向の位置調整可能に前記ヘッド支持フレームに連結する手段;
を備えるレーザアシスト溶射装置。
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