JP4035562B2 - ガレクチン−3誘導能を利用した物質のスクリーニング方法、肝の状態の診断方法およびこれらの方法を利用したキット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本出願の発明は、ヒトを除く哺乳動物、肝組織または肝培養細胞に被験物質を投与し、ガレクチン−3誘導能を測定することを特徴とする物質のスクリーニング方法、誘導されるガレクチン−3およびその関連物質の量を測定することを特徴とする肝の状態の判定方法並びにこれらの方法を利用したキットに関する。
【0002】
【従来の技術】
肝炎や肝硬変に代表される肝疾患は、肝癌へと進行し、死に至ることがある重篤な疾患である。ところが、肝は、生体において極めて複雑な臓器であり、その急性障害の修復機能も十分に解明されておらず、肝疾患または薬物・毒物等によって引き起こされる肝細胞障害に対する有望な薬剤・治療方法は、未だ見出されていない。
【0003】
また、肝障害を判定する指標として、GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)活性値、GPT(グルタミンピルビン酸トランスアミナーゼ)活性値などの肝細胞壊死・損傷を反映する逸脱酵素;総ビリルビンなどの代謝・排泄能を反映するもの;アルブミン、コリンエステラーゼ、血液凝固因子などの血漿タンパクなど多くの肝機能検査項目が知られている。
しかしながら、これらの検査だけでは、急性障害期にある肝細胞の生死・修復・再生について容易に判断ができない。また、肝は、正常時には大きな予備能を有しており、一部の肝細胞の障害は、既存の肝機能検査では判断できない場合も多く存在する。
【0004】
また、肝障害の治療は、病状の進行過程によって選択すべき治療手段は異なるのが通常である。肝細胞の様々な種類の障害を区別し、肝の状態を的確に把握することは、患者の治療にとって極めて重要な問題である。すなわち、肝障害が起こっている患者の肝細胞レベルの修復能や再生能の識別による肝障害の予後を把握し、各患者に見合った治療方針を構築することは、患者にとって大きな利益となる。特に発症の初期の病態を的確に把握することは患者の転帰に大きな影響を与える。
【0005】
特開平10−300754号には、ヒト血清中の血管内皮細胞増殖因子/血管透過性因子濃度を測定することを特徴とした肝炎患者の病状検査方法が開示されており、また、特開平11−32797号には、α−1,6フコース転位酵素測定試薬を含有する肝臓疾患診断薬が開示されており、肝疾患において肝の状態を的確に把握しようとする試みがなされている。
【0006】
一方、医薬品の開発等において、肝障害を誘発する物質をスクリーニングすることは、極めて重要である。しかしながら、現在、化合物の肝細胞障害性を確認するためには、動物モデル等を使用し、上記の多岐にわたる肝機能検査により判断する必要があった。また、細胞を使用した場合も同様に肝障害の程度を測定することは、困難であった。
【0007】
ところで、障害の修復や再生は、動物組織において極めて重要な反応の集大成として起こる。また、これらの時期には、固有の情報伝達系があってもよいが、詳細については、不明である。また、肝は、ウイルス感染や自己免疫疾患、薬物および毒物などで障害を受けることが知られている。
【0008】
本発明者は、肝障害のモデルとして、ラットに肝障害を誘発する物質を投与し、肝細胞の障害、修復、再生について観察を行った。これまでに、成体雄ラットに四塩化炭素を胃内投与すると、(1)9時間迄にアルブミン遺伝子の転写が完全に抑制され、アルブミンmRNAの分解促進により肝中のアルブミンmRNAが正常の20%に減少すること、(2)48時間迄には、アルブミン遺伝子の転写が回復し、一方で、アルブミンmRNA分解は完全に抑制され、肝中のアルブミンmRNA量は増加に転じること。(3)48時間で肝中のアルブミンmRNA量は正常の40%、72時間で80%に回復し、120時間以上を要して正常レベルに戻り、ついで、アルブミンmRNA分解活性についても正常化することを見出し、これらの観察を基に、9時間頃迄を急性障害の増悪期、48〜72時間を修復期、それ以後を修復された細胞の増殖期と推定した[Biochem. Biophys. Res. Commun.、第273号、第261〜266頁(2000年)]。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
障害の修復や再生は動物組織で極めて重要だが、日常的現象であるためか、これらの機構の詳細は不明であった。しかし、実験的には肝障害を誘発する物質の投与量を加減することにより、上記のように肝細胞の障害、修復、再生の時期と推定される一連の経過を観察できた。この間に起こる細胞内の諸現象の分子機構の研究を通じて得られた知見を基に、肝の状態の判定方法、肝障害を誘発する物質のスクリーニング方法並びにこれらの方法を利用したキットを提供することが課題である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような状況下において、本発明者は、四塩化炭素を単回胃内投与したラット肝障害の固有の時期に出現する情報伝達タンパク質の検出を試みた。その結果、抗ホスホチロシン抗体を使用したイムノブロット分析により、投与後、48〜72時間において、門脈周囲肝細胞細胞質に、30キロダルトン(kDa)のポリペプチド(以下、ポリペプチドp30と称する。)が誘導されることを見出した。
このポリペプチドp30について、さらに研究を進めた結果、このタンパク質が、チロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3であること、およびガレクチン−3は、正常肝に存在せず、その出現は、障害された肝に特徴的であることを見出した。
【0011】
一方、ガレクチン−3の誘導と同時期に細胞周期進行の阻害タンパクの一種であるp21WAF1/Cip1/Sdi1(以下、ポリペプチドp21と称する。)が核に、増殖細胞核抗原(以下、PCNAと称する。)が核と細胞質に誘導され、ポリペプチドp21と細胞質局在PCNA、ガレクチン−3は、96時間で消失し、96時間以後、核局在PCNAを持つ肝細胞数がふえ、肝細胞がこの時期に増殖したことが明らかとなった。
【0012】
PCNAは、DNAポリメラーゼδとεの補助タンパク質としてDNA複製、つまり細胞増殖時に必要であるが、ポリペプチドp21と共存する場合、DNA修復に働く。四塩化炭素がDNAの構造の異常を起こすことは知られており、投与後、48〜72時間においては、DNAの修復が起こっていると考えられ、この時期に誘導されるガレクチン−3は、障害を起こした肝細胞の修復に直接働くこと、あるいは、修復期に細胞の生存を助けるために働く機能を持つことが考えられる。また、ガレクチン−3がリン酸化されうるチロシン残基を持つので、障害細胞の修復や生存を調節する情報伝達系の中にガレクチン−3自身が位置する可能性が高い。
【0013】
この現象は、四塩化炭素の投与量を減じても、また、D−ガラクトサミンなど、他の肝障害誘導性物質の投与によっても検出されるが、肝の部分切除によっては検出されない。すなわち、ガレクチン−3は、薬物、毒物により障害された肝細胞の修復および修復のための肝細胞の生存または肝細胞保護のために誘導される可能性が高い。さらに炎症性疾患である感染性肝炎についてもガレクチン−3の誘導の有無を調べる意義があることも示唆された。
【0014】
また、四塩化炭素は、シトクロームP450により代謝され、肝で強い毒性を示す。一方、D−ガラクトサミンは、RNAの代謝を抑制し、肝障害を起こす。
上記四塩化炭素による障害の性質を、毒性発現機構の異なるD−ガラクトサミンによる障害と較べた。D−ガラクトサミンの投与により、ガレクチン−3は、肝の細胞質画分に誘導されるが、誘導される時期は、D−ガラクトサミン投与量を増やせば遅れ、減らせば早期に観察される。また、早期に誘導されるガレクチン−3の量は多量の薬物投与による遅い時期の誘導量に較べると、遙かに少ない。つまり、毒性や障害の強さの違いがガレクチン−3の誘導までの時間や量を変化させ、これらは、肝障害の程度判定に役立つ。また、キノロン系抗菌剤であるトロバフロキサシンの投与により、4〜12時間後にかけて少量のガレクチン−3が誘導された。
【0015】
よって、肝においてガレクチン−3またはその関連物質の検出は、肝細胞の薬物障害の状態、肝細胞の炎症の存在やその修復、修復時の生存およびその後の再生がそれぞれ可能な肝細胞の判定指標になる。
さらに薬剤開発においては、被験化合物の肝細胞におけるガレクチン−3誘導能を測定することにより、容易に肝障害性の高い化合物を除外したり、肝障害性の低い化合物を選択するスクリーニングの指標とすることができる。
また、ガレクチン−3誘導能があり、毒性の低い化学物質の開発は、アルコールや薬物肝障害の治療や予防のための薬剤開発と臨床応用に発展させることができる。
【0016】
本スクリーニング方法は、(1)ヒトを除く哺乳動物、肝組織または肝培養細胞に被験物質を投与する工程、(2)ガレクチン誘導能を測定する工程を含む物質のスクリーニング方法である。
本発明において、投与とは、ヒトを除く哺乳動物においては、被験物質を体内に導入する操作を意味し、例えば、経口、静注、筋注、皮内注射、腹腔内投与などが挙げられ、肝組織または肝培養細胞においては、細胞と接触させる操作を意味し、例えば、被験物質を含有する溶液の培養細胞培地への添加、被験物質を加えた培地への組織または細胞の移殖などが挙げられる。
以下、本発明化合物について詳述する。
【0017】
本発明のスクリーニング方法に使用されるヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラットおよびモルモットなどげっ歯類が挙げられる。
本発明の肝組織としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、サルなどから得られた肝組織であればよく、生体から採取した肝組織または組織培養によって得られた肝組織、好ましくは、ヒトの肝組織が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法に使用される肝培養細胞としては、例えば、肝細胞の初代培養細胞並びにAH60およびAH70などのガレクチン−3含量が低い肝癌細胞が挙げられる。
【0018】
本発明においてガレクチン−3誘導能の測定とは、例えば、ガレクチン−3およびガレクチン−3の関連物質を検出することをいう。
ここで、ガレクチン−3関連物質としてはガレクチン−3mRNA;ガレクチン−3mRNA前駆体;ガレクチン−3がリン酸などの修飾を受けているガレクチン−3修飾体が挙げられられる。
ガレクチン−3修飾体の具体的なものとしては、ガレクチン−3のチロシン残基がリン酸化されているものが挙げられる。
【0019】
細胞中のガレクチン−3またはその誘導体の量を測定することを特徴とする肝の状態の診断において、利用されるガレクチン−3は、修飾を受けていてもよく、好ましくは、チロシン残基がリン酸化されているガレクチン−3が挙げられる。加えて、ガレクチン−3またはその修飾体の検出に代えて、ガレクチン−3mRNAまたはガレクチン−3mRNA前駆体を検出することによっても被験者の肝の状態を高精度に判定することができる。
また、上記のmRNAは、必要に応じてcDNAに変換して検出することもできる。これらは、例えば、肝疾患の診断用のプローブとしても有用である。
【0020】
ガレクチン−3またはその修飾体の検出は、通常のタンパク質の検出方法に準ずればよいが、例えば、ガレクチン−3またはその修飾体を認識する抗体を作製し、ELISA法またはウエスタン法で検出する方法、タンパク質を単離し、直接または必要に応じ、酵素等で切断し、プロテインシークエンサーを利用して検出する方法および質量分析により検出する方法などが挙げられ、好ましくは、ガレクチン−3を認識する抗体を作製し、ELISA法で検出する方法およびウエスタン法を使用する方法が挙げられる。
また、ガレクチン−3またはその修飾体を認識する抗体を使用した生検組織の免疫組織化学的判定法も好ましい方法として挙げられる。
【0021】
ガレクチン−3またはその修飾体を認識する抗体としては、ガレクチン−3もしくはその修飾体全体または一部に対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体が挙げられる、例えば、以下の方法により作製できる。
(1)ポリクローナル抗体
ガレクチン−3またはその修飾体のアミノ酸配列一部に基づいて通常のペプチド合成機で合成した合成ペプチドや、ガレクチン−3もしくはその修飾体の全部または一部をコードする核酸を含有する発現するベクターで形質転換した細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などにより産生されたタンパク質を通常のタンパク化学的方法で精製し、これらを免疫原とする。この免疫原を用いて、文献に記載の方法[Antibodies; A Laboratory Manual, Lane,H.D.ら編、Cold Spring Harber Laboratory Press出版 New York 1989年など]に従って、適切な方法でマウス、ラット、ハムスター、ウサギなどの動物を免疫することにより、抗原となるタンパク質を特異的に認識するポリクローナル抗体を容易に作製することができる。免疫された動物で作られたポリクローナル抗体の単離・精製は、その動物の血清から公知のタンパク質の分離・精製方法により行えばよい。
(2)モノクローナル抗体
前述の免疫原で免疫した動物の脾臓またはリンパ節からリンパ球を取りだし、ミエローマ細胞と融合させて文献に記載の方法[Kohler & Milstein、Nature、第256巻、第495〜497頁(1975年)、Uedaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第79巻、第4386〜4390頁(1982年)など]に従ってハイブリドーマを作製した後、該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を産生させればよい。
【0022】
ガレクチン−3mRNAの検出は、通常のmRNAの検出方法に準ずればよいが、例えば、リアルタイムPCR(Real time PCR)法、競合的PCR(Competitive PCR)法などのRT−PCRを基本とする方法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、RPA(Riboprobe protection assay)法などのハイブリダイゼーションアッセイが挙げられ、好ましくは、リアルタイムPCR(Real time PCR)法が挙げられる。
【0023】
本発明のスクリーニング法は、例えば、肝障害を誘発する物質のスクリーニングに利用できる。さらに、本発明方法は、ガレクチン−3遺伝子の転写を促進するタンパク質の生合成を肝で促進する物質のスクリーニングにも利用できる。また、本発明のスクリーニング法でスクリーニングされる被験物質は、特に限定されないが、例えば、天然物、化学合成化合物、遺伝子組換え産物などが挙げられる。
【0024】
本明細書におけるキットは、上記のタンパク質、mRNAまたはmRNA前駆体を検出できる試薬、例えば、プライマー、プローブ、抗体などを含むものであれば特に限定されず、さらにその他の試薬を組み合わせることにより得ることができる。
mRNAまたはmRNA前駆体を検出するキットとしては、上記のゲノム領域を増幅できるように設計されたプライマーを含み、さらに、上記のゲノム領域を検出できるように設計されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およびチェーンターミネーター法などの塩基配列決定法に利用される試薬など、変異を検出するために必要な試薬を1つ以上、組み合わせたキットが挙げられる。また、好ましくは、蛍光標識されたダイデオキシヌクレオチドを含むキットが挙げられる。
また、タンパク質を検出するキットとしては、ガレクチン−3またはその関連物質を認識する抗体を含むキットなどが挙げられる。
これらのキットを使用することにより、ガレクチン−3誘導能を利用した物質のスクリーニングおよび肝の状態の判定を高精度に行うことができる。
【0025】
【実施例】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用される略号は、以下の意味を有する。
HEPES:2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸
【0026】
実験手順
(1)肝抽出物
正常および四塩化炭素で処理されたウィスター系ラット(7週間齢、雄)[Biochem. Biophys. Res. Commun.、第273号、第261〜266頁(2000年)]を麻酔し、140mM塩化ナトリウムを含む20mM HEPES-NaOH(pH7.5)で門脈を通して肝灌流を行った。
ダウンスホモジナイザー(Dounce homogenizer)を使用し、5mMβグリセロホスフェート、50μMバナジウム酸ナトリウム、10μMシクロスポリンA、ロイペプシンとペプスタチンA各2μ/mL、1mMジチオスレイトール、5mMフッ化ナトリウムおよび0.1%Noidet P-40を含む20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.5)を抽出緩衝液として、10%(W/V)肝ホモジネートを調製した。ホモジネートを600xg、5分間遠心分離した上清液を肝抽出物とした。
また、細胞質分画[Methods Enzymol.、第1巻、第16-22頁(1955年)]とタンパク量の定量[Analyt. Biochem.、第72巻、第248〜254頁(1976年)]を行った。
【0027】
(2)イムノブロット分析
2% 2−メルカプトエタノールと0.2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下、95℃、5分でタンパク質(10〜40μg)を変性させ、SDSの存在下、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で展開し、ニトロセルロースあるいはPVDF膜上に転移させた。ホスホチロシン抗体(αpYab:サンタ・クルズ・バイオテクノロジー社製)と精製したp30抗体(αp30ab)抗体を一次抗体とし、125I標識二次抗体またはエンハンスド・ケミルミネセンス・アッセイキット(アマシャム・ファルマシア・ジャパン社製)で検出した。
【0028】
(3)ポリペプチドp30の精製および部分一次構造
ことわらないかぎり、ポリペプチドp30の精製で使用された緩衝液は、プロテイン・ホスファターゼとプロテアーゼのインヒビターを含んでおり、抽出緩衝液も同様である。
肝抽出物を60分間、105000xgで遠心分離して調製した細胞質分画を20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)で平衡化したDE52(ワットマン社製)カラムにかけた。0.35飽和硫酸アンモニウムで非結合タンパク質を集め、少量のリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)で溶解し、同じリン酸カリウム緩衝液で平衡化したハイドロキシアパタイトカラムを通した。非結合分画から再回収したポリペプチドp30をSDS−PAGEで展開し、ゲルをクマシー・ブリリアント・ブルーで染色し、その切り出しでウサギを免疫した。改めて、ニトロセルロース膜上で固定化されたポリペプチドp30の部分を、ポンソーS(Ponceau S)で染色し切り出し、プロテアーゼ(S. aureus V8 protease)で消化した。逆相液体クロマトグラフィーで精製したペプチド断片の一次構造をぺプチド・シークエンサー(島津、PPSQ−21)で決定した。
【0029】
(4)リン酸化されたアミノ酸
ヒューマンサイエンス研究資源バンク(大阪)から入手したAc2Fラット肝癌細胞[In Vitro、第18巻、第501〜509頁(1982年)]を、[32P]オルトリン酸(0.2mCi/mL)、0.1mMバナジウム酸ナトリウム、前もって4℃で、蒸留水に対して透析した10%仔牛血清を補充した無リン酸MEM(ギブコ・ビーアールエル社製)中、5%炭酸ガス、95%空気の下、37℃、10時間培養した。0.1mMバナジウム酸ナトリウム、ロイペプシンとペプスタチンA各2μg/mL、1mMジチオスレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で調製した細胞溶解液から抗体αp30abで調製したポリペプチドp30をSDS−PAGEで展開し、PVDF膜に転写して単離し、文献[Analyt. Biochem.、第176号、第22〜27頁(1989年)]に記載に準じ、90分間、110℃、5.7N塩酸で加水分解した。リン酸化したアミノ酸は、セルロースTLCプレート上で、ピリジン・酢酸緩衝液(pH3.5)を使用し、高電圧電気泳動により分離した。
【0030】
(5)相補的DNA(cDNA)のクローニング
文献[Analyt. Biochem.、第162巻、第56〜159頁(1987年)]に記載に準じ、四塩化炭素投与48時間後ラットから調製した肝poly(A)+RNAおよびZap Expressベクター(ストラタジーン社製、ケンブリッジ、イギリス)を用いてcDNAライブラリーを構築した。抗体αp30abで選択されたクローンのヌクレオチド配列は、ABI310自動DNAシーケンサー(PE・バイオシステムズ社製、日本)が使っているサイクルシーケンシング法によって決定した。
【0031】
(6)免疫組織化学
上記と同様に灌流したラット肝臓は、15%緩衝化フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。3μmの切片の染色には、ポリペプチドp30、増殖細胞核抗原(PCNA;ダコ社製)またはポリペプチドp21WAF1/Cip/Sdil(サンタ・クルス・バイオテクノロジー社製)に特異的な一次抗体を使用し、二次抗体EnVision(ダコ社製)を用いた。
【0032】
これらの結果を以下に示す。
(1)四塩化炭素投与後の肝における固有の情報伝達系の構成タンパクであるリン酸化ポリペプチドの検出
プローブとして抗体αpYabを用いたイムノブロット分析で、正常ラットから調製した肝抽出液が、抗体αpYabに反応する7つのポリペプチドを含んでいることが証明された。(図1A)
【0033】
四塩化炭素投与後、4時間のラット(以下、4時間ラットとする)からの肝抽出液は、35kDaのシグナルの強度が減少していることを除いては、正常肝においてみられるシグナルに共通するシグナルを示した。それと対照的に、72時間後のラット(以下、72時間ラットとする)は、約30kDaの新しいポリペプチド(p30)を示した。正常及び四塩化炭素処置ラットにおいて、15分間の非放射性のATPを用いた抽出物のプレインキュベーションによって検出可能な全てのシグナル(図1Aにおける+のレーン)は、調製直後の熱変性抽出物において観察されるシグナルと同様な強度であった。これは、これらのシグナルが生体内におけるリン酸化状態を反映していることを示した。よって、リン酸化されたチロシン残基を有するポリペプチドp30は、肝障害の過程において発現している。
【0034】
抗体αpYabを使用したイムノブロット分析で、ポリペプチドp30が72時間ラットの肝の細胞成分分画によって調製される細胞質分画に存在するということが示された。次いで、72時間ラットの肝細胞質の部分からポリペプチドp30の精製を行った。表1および図1Bに示されるように、約400μgのポリペプチドp30がラットの肝細胞質から精製された。次いで、ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーの非結合分画から得たポリペプチドp30をSDS−PAGE(図1BにおけるレーンHおよびレーンHS)で精製し、ゲル中のポリペプチドp30は、抗体の調製および部分一次構造を決定するために使用した。
【0035】
【表1】
「表中、DE52は、DEAEセルロースクロマトグラフィー分画;ASは、硫酸アンモニウム沈殿分画;HAは、ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー分画を意味する。」
【0036】
精製を通して、ポリペプチドp30は、抗体αpYabを使用したイムノブロット分析でアッセイされた。
一次的な範囲においてシグナル強度に現れるシグナル強度の直線性がある範囲のタンパク量を予め決めておき、各精製段階標品のシグナル強度を同時に決定した。シグナル強度は、BAS2000画像解析装置(フジ写真フィルム社製)に固有の単位で壊変数(dpm: degradation per minute)に比例するPSL(単位時間当たりの光子発生数)で表した。12匹のラットからの肝標本の一部を混合し、出発原料として使用した(細胞質)。
【0037】
(2)ポリペプチドp30の誘導およびその門脈周囲肝細胞への細胞質における局在
抗体αp30abを用いたイムノブロット分析において、ポリペプチドp30は、正常および4時間ラットからの肝中に検出されなかった(図1A)。
また、ポリペプチドp30は、48〜72時間ラット(以降48時間または72時間ラットとする)において極大まで増加した(図2A)。
一方、72時間ラットの組織を調べると、ポリペプチドp30は、肝のみに検出された(図2B)。また、精製された核分画を含む4つの細胞成分分画の中でポリペプチドp30は、細胞質分画においてのみ検出された(図2C)。
肝中のポリペプチドp30の免疫染色から、正常肝の細胞は、抗体αp30abで染色されないこと、48〜72時間の時間経過後の門脈周囲肝細胞は、細胞質中でポリペプチドp30が陽性であるが、細胞核中では陰性であることがわかった(図3および4)。
すなわち、ポリペプチドp30新規生合成は、四塩化炭素投与後48〜72時間のラットの門脈周囲肝細胞でピークとなり、さらに産生されたポリペプチドp30は、それらの細胞質に蓄積される。
【0038】
(3)門脈周囲肝細胞でのポリペプチドp30、PCNA、ポリペプチドp21の同時誘導
図3においてポリペプチドp30の染色で使用された肝の標本から各々調製された連続切片において、細胞核のPCNA陽性肝細胞は、24時間ラット(以下、24時間ラットとする)で検出されたが(図3)、正常ラットにおいては、細胞はほとんどPCNAで染色されなかった。その上、細胞核だけではなく、PCNA抗体で細胞質も染色されたので(図4)、PCNA陽性細胞の門脈周囲局在化は、72時間ラットにおけるポリペプチドp30陽性細胞の局在化と類似していた(図3)。これに関連して、48〜72時間ラットの中心静脈壊死巣は、96〜120時間ラットにおいて明らかに縮小していた。その上、四塩化炭素投与後、96〜120時間のラット(以降、96時間〜120時間ラットとする)において、ポリペプチドp30を持たず、増殖性細胞の特有のマーカーとしての細胞核PCNA[Biochim. Biophys. Acta.、第1443号、第23〜39頁(1988年)]のみを有する肝細胞は、門脈周囲領域と縮小した壊死巣との間の領域で増加していた。同時に細胞周期の進行の阻害タンパクであるポリペプチドp21[Genes & Dev.、 第9巻、第1149〜1163頁(1995年)]が24〜72時間の門脈周囲肝細胞の細胞核で増加検出され、96時間で明らかに減少した。最終的には、そのレベルは120時間でコントロールレベルに到達した。
【0039】
(4)ポリペプチドp30はガレクチン−3である
プロテアーゼ(S. aureus V8 protease)によるポリペプチドp30の消化およびHPLCによる精製によって生じる3つの断片の部分一次構造は、XQSAFPFE、 XXKPFKIQVLVEおよびXXLTSASHAMIであった。最初と2番目の配列は、それぞれ、RL−29[J. Biol. Chem.、第268号、第26704〜26711頁(1993年)]のトリプシン分解断片で化学的に決定され、または、cDNA[Proc. Natl. Acad. Sci.USA.、第84巻、第6859〜6863頁(1987年)]の塩基配列決定によってIgE結合タンパクであると推定された一次構造中の198〜205および206〜217番目のアミノ酸残基に相当していた。3番目の配列は、C末端を有する配列と決定された。
さらに、今回の研究において、四塩化炭素投与後48時間のラット肝poly(A)+RNAで構築されたcDNA発現ライブラリから抗体αp30abを使用してcDNAクローンを単離し、決定された塩基配列は、この1.2kb長のcDNAクローンがラットIgE結合タンパクcDNA[Proc. Natl. Acad. Sci.USA.、第84巻、第6859〜6863頁(1987年)]と同一の塩基配列からなるタンパク質コード領域中にあるタンパク質をコードすることが確認された。この点に関しては、RL−29、IgE結合タンパク質、炭水化物結合タンパク質(CBP)35[Biochem. J.、第211巻、第625〜629頁(1983年)]、HL−29[J. Biol. Chem.、第262巻、第7383〜7390頁(1987年)]およびL−34[Cancer Res.、第48巻、第645〜649頁(1993年)]が同じタンパク質として認知され、ガレクチン−3[J. Biol. Chem.、第269巻、第20807〜20810頁(1994年)]として命名されている。この命名法に従い、ポリペプチドp30は、ガレクチン−3であると同定した。
なお、ポリペプチドp30のcDNAプローブを使用したノーザン分析から、1.2kb長のガレクチン−3mRNAが24時間で増加し始め、48時間で正常レベルの60倍以上に到達し(図5A)、ポリペプチドp30(ガレクチン−3)レベルの減少に平行して減少することが明らかとなった。
【0040】
(5)ガレクチン−3のリン酸化されたチロシン残基
ガレクチン−3は、β−ガラクトシド特異的可溶性レクチンファミリーの一員である[J. Biol. Chem.、第269巻、第20807〜20810頁(1994年);J. Biochem.、第119巻、第1〜8頁(1996年)]という本来持っている特性から予測されるように、イムノブロット分析においてポリペプチドp30として精製されたガレクチン−3は、抗体αpYabおよび抗体αp30abの一次抗体なしに弱いながらも意味のあるシグナルを生じた。これは、おそらく、ガレクチン−3のコンフォメーションの再構築による125Iラベルされた二次抗体の多糖部分とガレクチン−3の結合によると考えられる。よって、ガレクチン−3のチロシン残基が生体内においてリン酸化されることの確認を行った。
【0041】
試験に用いた3つのネズミ肝癌細胞株(Ac2F、AH60およびAH70)の中で、Ac2F細胞は、抗体αp30ab(図5B)および抗体αpYabでガレクチン−3を検出可能であるという事実を利用し、Ac2F細胞中のタンパク質は、培地中0.1mMバナジウム酸ナトリウムの存在下、[32P]オルトリン酸塩とインキュベートすることで標識された。
放射性タンパク質を含んでいるAc2F細胞抽出液から、抗体αp30abと免疫沈降するタンパク質を、ポリペプチドとして精製された媒体であるガレクチン−3と混合し、SDS−PAGEによって展開し、PVDF膜に転写した。
膜上に染色されたガレクチン−3の領域は、放射活性を持っていたのでAc2F細胞中のガレクチン−3が培地中でリン酸化されたことを示し、標識化されたガレクチン−3を、染色された担体p30の領域として切り出し、5.7N塩酸で加水分解した。酸加水分解物にホスホセリン、ホスホスレオニン、ホスホチロシンを加え、高電圧電気泳動によってセルロースTLCプレートで展開した。図5からいえるように、ポリペプチドp30のレーンにおいて5つの放射性のシグナルの中の2つは、Auのレーンでニンヒドリンによって位置づけられたホスホセリンとホスホチロシンと各々同様に移動しており、生体中でガレクチン−3のチロシン残基がリン酸化を受けるということが明らかに示されている。
ラット肝とAc2F細胞の両方でガレクチン−3が、抗体αpYabで検出できたため、四塩化炭素によって障害された成体ラット肝で誘導されたガレクチン−3は、ホスホチロシン残基を有していると考えられた。また、今回見出されたホスホセリンは Huflejtによって報告[J. Biol. Chem.、第268巻、第26712〜26718号(1993年)]されたものに相当すると判断された。
【0042】
(6)部分肝切除により起こされる肝の再生時に抗体αp30abによって検出できるポリペプチド
四塩化炭素投与および部分肝切除[Arch. Pathol.、第12巻、第186〜202頁 (1931年)]によって引き起こされた再生肝との比較のため、抗体αp30abによって検出できるポリペプチドを、部分肝切除後、異なった時期について肝で調査した。抗体αp30abを使用したイムノブロット分析により、それぞれ、部分肝切除後、48、72、96、120時間のラットの肝抽出物が抗体αp30abで検出されるポリペプチドを含んでいた。しかしながら、その位置は、明らかにポリペプチドp30として精製されたガレクチン−3の展開した位置(図6、黒矢印)と異なっていた。この実験で見出されたポリペプチドの大きさは32kDa(図6、白抜矢印)であった。
【0043】
(7)四塩化炭素投与後48〜72時間のラットの肝細胞細胞質に、正常成体肝には存在しないガレクチン−3が誘導された。この事実は、この時期が特殊な意味を持つ時期であるという推定を支持した。ガレクチン−3は、ラット胎仔や新生仔のほとんどの組織に存在することは文献的に既に知られている。従って、薬物障害を与えた肝細胞が特定の時期にガレクチン−3を誘導することは、成体肝細胞が何らかの理由で幼若化することが示唆され、さらに以下の検討を行った。
【0044】
・四塩化炭素投与ラット肝でのα-fetoprotein(AFP) mRNAの発現時期
四塩化炭素投与後、図示した時間のラット肝total RNAと、β-actinとAFP cDNA配列より作成したプライマーを使ったRT-PCR(35サイクル)を行った。内部コントロールのβ-actin mRNA は一定レベルにあったが、AFP mRNA は四塩化炭素投与後72時間で出現し、120時間でも検出された。結果を図7に示す。
実際に、アルブミンの胎児型タンパクとして幼若肝細胞が生合成するAFPmRNAが72時間ラット肝に出現し、以後120時間まで存在していたことは、肝細胞がこの時期に幼若化することを示している。
【0045】
(8)細胞周期の調節関連タンパク質の誘導
ガレクチン−3が誘導される48時間ラットおよび72時間ラットの肝細胞における細胞周期の調節タンパク質の作用を知ることは、この時期の肝細胞の性質を知るための重要な手がかりになる。
四塩化炭素投与に引き続き、抗p21WAF1/Cip1/Sdi1(p21)抗体を使い免疫組織化学的に調べると、48時間から72時間に最強の染色性を示して肝細胞核が染色された。この観察結果は四塩化炭素 投与後の経過中にp21量が変動する可能性を示唆した。そこで、更にこの点を明確にするため、四塩化炭素投与後の異なる時期の肝の細胞分画試料を使い、p21のレベルをWestern法で調べた。
【0046】
・72時間ラット肝細胞細胞質のガレクチン−3およびp21の存在様式
72時間ラット肝の細胞質画分を8.6%から40%の蔗糖密度勾配を使った遠心(38000rpm、4℃、48時間)で分画し、ガレクチン−3、PCNAおよびp21の沈降部位をWestern法で決めた。ラクトース親和性カラムクロマトグラフィーで部分精製したガレクチン−3(30kDa)は、単量体の分子サイズ36kDaに相当する部位に検出されたPCNAより軽いタンパクが存在する画分に沈降したのに対し、粗細胞質局在ガレクチン−3は、80kDaに相当する画分に沈降していた。p21は21kDaに相当する部位には沈降せず、約140kDaの分子サイズを示す乳酸脱水素酵素と同じ画分に沈降した。また、密度勾配遠心時のDTTの有無によりp21の分布が変化した。
【0047】
正常ラット肝では核のみにp21が検出され、72時間までは量の変動は観察されなかったが、96時間以後は明らかに減少した。一方、12〜24時間にかけてミトコンドリア画分に、更に48〜72時間には細胞質に強いシグナルが現れ、p21が四塩化炭素投与後の異なる時期にラット肝の異なる細胞画分に誘導されることが示された。p21の誘導量は、正常ラット肝のレベルに比較し、核で約1.2倍、細胞質では核の約13倍であった。細胞質のp21は蔗糖密度勾配遠心法により、約160kDaの分子サイズを示したので、ガレクチン−3と同様、複合体形成が示唆された。
【0048】
・四塩化炭素投与後48〜72時間の時期の意味づけ
ガレクチン−3の誘導期に、AFPとp21も誘導されていた。p21は細胞増殖の抑制タンパク質であり、実際、組織化学的観察では72時間までは細胞増殖が起こっていなかった。一方、ガレクチン−3とAFPの誘導はこの時期の肝細胞が幼若化していることを示した。
細胞周期の進行、つまり、細胞増殖を止めることは、DNA障害の修復期に細胞がとる一般的手段である。従って、多量のp21の誘導により肝細胞が細胞全体の障害を修復し、正常化するまで増殖を抑制することは理にかなっている。四塩化炭素投与により起こる障害が広汎であれば、単一のタンパク質を入れ替えるのと違い、特殊な条件を細胞が必要とする可能性があり、その一つの例が幼若化であると考えられる。細胞の幼若化は、一般的に細胞の増殖能を高める。しかし、修復が不十分な細胞が増殖することは、細胞や組織の機能に重大な障害を誘導する可能性がある。この点を回避するためにp21が誘導され、細胞周期の進行を抑制することに大きな意味があり、またp21自身が細胞の生存を促進する情報系の下流で働く可能性がある。修復が完了した細胞が幼若化していることは、壊死で失われた細胞を補うために増殖する過程へ移行する際にも、好都合である。
【0049】
【発明の効果】
ガレクチン−3は、薬物、毒物による肝細胞障害の修復および修復のための生存または肝細胞の保護のために誘導されると結論されたことから、肝においてガレクチン−3の増加の検出は、肝細胞の薬物障害の状態、肝細胞の炎症の存在やその修復、修復時の生存およびその後の再生可能肝細胞の判定指標になる。この効果は薬物やアルコール性肝障害だけでなく、各種の感染性肝炎についても普遍的に当てはまる可能性がある。さらに、一般的薬剤開発においては、被験化合物の肝細胞におけるガレクチン−3誘導能を測定することにより、容易に肝障害性の高い化合物をスクリーニングで除外することができる。
【0050】
今回、正常肝に存在しないガレクチン−3が四塩化炭素を投与されたラット肝で時期特異的に誘導されることを示した。四塩化炭素投与ラット肝では正常の60倍程にガレクチン−3mRNAが増加していることがノーザン法で確認されたことにより、この誘導はガレクチン遺伝子の転写の促進によることが示された。
ガレクチン−3遺伝子の転写は固有の転写促進タンパク質により促進される。従って、毒性が無く、ガレクチン−3遺伝子の転写促進タンパク質合成を肝で促進する物質を化学合成すれば、ウイルス性肝炎を含む各種肝障害の治療薬として使用できること意味する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Aは、抗体αpYabによる正常、四塩化炭素投与後4時間、四塩化炭素投与後72時間ラットからの肝抽出物のイムノブロット分析を示した電気泳動写真である。タンパク質40μgを個々のレーンで使用している。Bは、ポリペプチドp30の精製に関する生成物である。Cは肝細胞質のポリペプチドp30である。DとHはDE52とヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーの分画、Aは、硫酸アンモニウム沈殿の分画である。矢印は、抗体αpYabを使用したイムノブロット分析によって検出されたポリペプチドp30の位置を示す。ヒドロキシアパタイトカラム分画におけるポリペプチドp30の部分(HS)は、クーマシーブリリアントブルーで染色された。
【図2】抗体αpYabによるイムノブロット解析の電気泳動写真である。Aは、ラット肝における四塩化炭素投与後のポリペプチドp30の誘導の経過を各レーンに示した時間で調べた。Bは、72時間ラットにおける各組織中のポリペプチドp30の分布を示した。Li、Se、Br、Su、He、Lu、Ki、Sp、St、およびInのレーンはそれぞれ、肝、血清、脳、顎下腺、心、肺、腎、脾、胃および小腸を意味する。Cは、72時間ラット肝におけるポリペプチドp30の細胞画分への分布を示した。レーンp30、Nu、Mi、MtおよびCyは、マーカーとして使った精製ポリペプチドp30並びに細胞核、ミトコンドリア、ミクロソーム、および細胞質の各分画を意味する。
【図3】四塩化炭素投与後の示した時間間隔で調製した肝の連続切片の免疫組織化学分析の写真である。ポリペプチドp30(ガレクチン−3)、PCNAおよびポリペプチドp21は、顕微鏡写真においてポリペプチドp30(ガレクチン−3)、PCNAについては、25倍、ポリペプチドp21については45倍でそれぞれ、褐色、紫色および褐色に染色された。
【図4】ポリペプチドp30(ガレクチン−3)、PCNAおよびポリペプチドp21の免疫染色の写真である。図3における72時間ラットのパネルを50倍で示した。この図では陽染された部位は、褐色である。抗体αp30abで処理した切片における大部分の核は、ネガティブコントロールとして用いることができる。
【図5】Aは、ガレクチン−3のcDNAプローブを使用したノーザン分析の電気泳動写真である。正常と48時間からの肝総RNAの10μgを使用し、ガレクチン−3mRNAはそのcDNAで探索された。Bは、Ac2F細胞抽出物のイムノブロット分析の電気泳動写真である。レーンAc2Fは、抗体αp30abを使用した。ポリペプチドp30として精製されたガレクチン−3は、レーンp30において位置を示すマーカーとして使用された(黒矢印)。Cは、Ac2F中で放射性リン酸で標識したポリペプチドp30の酸加水分解物をホスホセリン(pS)、ホスホスレオニン(pT)およびホスホチロシン(pY)と混合し、高電圧電気泳動によって展開されたものを、Auレーンでニンヒドリン発色させ、p30レーンで回収された放射性のホスホチロシン(pY)、ホスホセリン(pS)の存在を示した電気泳動写真である。
【図6】抗体αp30abを使用したイムノブロット分析の電気泳動写真である。部分肝切除後の示された時期でのラットから調製された再生肝抽出物中のタンパク質40μgを抗体αp30abと反応するポリペプチドに対して調査した。ポリペプチドp30として精製されたガレクチン−3をガレクチン−3の位置を示すマーカーとして使用した(黒矢印)。
【図7】四塩化炭素投与ラット肝でのα-fetoprotein(AFP) mRNAの発現時期を示す電気泳動の写真である。
Claims (3)
- ヒトを除く哺乳動物、肝組織または肝培養細胞に被験物質を投与し、チロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3を測定することを特徴とする物質のスクリーニング方法
- 肝細胞中のガレクチン−3またはその関連物質の量を測定することを特徴とする肝の状態の判定方法
- ガレクチン−3またはその関連物質が、チロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3である請求項2記載の判定方法
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