JP2002303624A - ガレクチン−3誘導能を利用した物質のスクリーニング方法、肝の状態の診断方法およびこれらの方法を利用したキット - Google Patents

ガレクチン−3誘導能を利用した物質のスクリーニング方法、肝の状態の診断方法およびこれらの方法を利用したキット

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JP2002303624A JP2002021636A JP2002021636A JP2002303624A JP 2002303624 A JP2002303624 A JP 2002303624A JP 2002021636 A JP2002021636 A JP 2002021636A JP 2002021636 A JP2002021636 A JP 2002021636A JP 2002303624 A JP2002303624 A JP 2002303624A
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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】ヒトを除く哺乳動物、肝組織または肝培養
細胞に被験物質を投与し、ガレクチン−3誘導能を測定
することを特徴とする物質のスクリーニング方法、誘導
されるガレクチン−3およびその関連物質の量を測定す
ることを特徴とする肝の状態の判定方法並びにこれらの
方法を利用したキット。 【効果】肝においてガレクチン−3の増加の検出は、肝
細胞の薬物障害の状態、肝細胞の炎症の存在やその修
復、修復時の生存およびその後の再生可能肝細胞の判定
指標になる。この効果は薬物やアルコール性肝障害だけ
でなく、各種の感染性肝炎についても普遍的に当て嵌ま
る。さらに、一般的薬剤開発においては、被験化合物の
肝細胞におけるガレクチン−3誘導能を測定することに
より、容易に肝障害性の高い化合物をスクリーニングで
除外することができる。また、ガレクチン−3遺伝子の
転写は固有の転写因子タンパク質により促進される。従
って、毒性が無く、ガレクチン−3遺伝子の転写因子タ
ンパク質合成を肝で促進する物質を化学合成すれば、ウ
イルス性肝炎を含む各種肝障害の治療薬として使用でき
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本出願の発明は、ヒトを除く
哺乳動物、肝組織または肝培養細胞に被験物質を投与
し、ガレクチン−3誘導能を測定することを特徴とする
物質のスクリーニング方法、誘導されるガレクチン−3
およびその関連物質の量を測定することを特徴とする肝
の状態の判定方法並びにこれらの方法を利用したキット
に関する。
【0002】
【従来の技術】肝炎や肝硬変に代表される肝疾患は、肝
癌へと進行し、死に至ることがある重篤な疾患である。
ところが、肝は、生体において極めて複雑な臓器であ
り、その急性障害の修復機能も十分に解明されておら
ず、肝疾患または薬物・毒物等によって引き起こされる
肝細胞障害に対する有望な薬剤・治療方法は、未だ見出
されていない。
【0003】また、肝障害を判定する指標として、GO
T(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)活
性値、GPT(グルタミンピルビン酸トランスアミナー
ゼ)活性値などの肝細胞壊死・損傷を反映する逸脱酵
素;総ビリルビンなどの代謝・排泄能を反映するもの;
アルブミン、コリンエステラーゼ、血液凝固因子などの
血漿タンパクなど多くの肝機能検査項目が知られてい
る。しかしながら、これらの検査だけでは、急性障害期
にある肝細胞の生死・修復・再生について容易に判断が
できない。また、肝は、正常時には大きな予備能を有し
ており、一部の肝細胞の障害は、既存の肝機能検査では
判断できない場合も多く存在する。
【0004】また、肝障害の治療は、病状の進行過程に
よって選択すべき治療手段は異なるのが通常である。肝
細胞の様々な種類の障害を区別し、肝の状態を的確に把
握することは、患者の治療にとって極めて重要な問題で
ある。すなわち、肝障害が起こっている患者の肝細胞レ
ベルの修復能や再生能の識別による肝障害の予後を把握
し、各患者に見合った治療方針を構築することは、患者
にとって大きな利益となる。特に発症の初期の病態を的
確に把握することは患者の転帰に大きな影響を与える。
【0005】特開平10−300754号には、ヒト血清中の血
管内皮細胞増殖因子/血管透過性因子濃度を測定するこ
とを特徴とした肝炎患者の病状検査方法が開示されてお
り、また、特開平11−32797号には、α−1,6フコース
転位酵素測定試薬を含有する肝臓疾患診断薬が開示され
ており、肝疾患において肝の状態を的確に把握しようと
する試みがなされている。
【0006】一方、医薬品の開発等において、肝障害を
誘発する物質をスクリーニングすることは、極めて重要
である。しかしながら、現在、化合物の肝細胞障害性を
確認するためには、動物モデル等を使用し、上記の多岐
にわたる肝機能検査により判断する必要があった。ま
た、細胞を使用した場合も同様に肝障害の程度を測定す
ることは、困難であった。
【0007】ところで、障害の修復や再生は、動物組織
において極めて重要な反応の集大成として起こる。ま
た、これらの時期には、固有の情報伝達系があってもよ
いが、詳細については、不明である。また、肝は、ウイ
ルス感染や自己免疫疾患、薬物および毒物などで障害を
受けることが知られている。
【0008】本発明者は、肝障害のモデルとして、ラッ
トに肝障害を誘発する物質を投与し、肝細胞の障害、修
復、再生について観察を行った。これまでに、成体雄ラ
ットに四塩化炭素を胃内投与すると、(1)9時間迄に
アルブミン遺伝子の転写が完全に抑制され、アルブミン
mRNAの分解促進により肝中のアルブミンmRNAが
正常の20%に減少すること、(2)48時間迄には、アル
ブミン遺伝子の転写が回復し、一方で、アルブミンmR
NA分解は完全に抑制され、肝中のアルブミンmRNA
量は増加に転じること。(3)48時間で肝中のアルブミ
ンmRNA量は正常の40%、72時間で80%に回復し、12
0時間以上を要して正常レベルに戻り、ついで、アルブ
ミンmRNA分解活性についても正常化することを見出
し、これらの観察を基に、9時間頃迄を急性障害の増悪
期、48〜72時間を修復期、それ以後を修復された細胞の
増殖期と推定した[Biochem. Biophys. Res. Commun.、
第273号、第261〜266頁(2000年)]。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】障害の修復や再生は動
物組織で極めて重要だが、日常的現象であるためか、こ
れらの機構の詳細は不明であった。しかし、実験的には
肝障害を誘発する物質の投与量を加減することにより、
上記のように肝細胞の障害、修復、再生の時期と推定さ
れる一連の経過を観察できた。この間に起こる細胞内の
諸現象の分子機構の研究を通じて得られた知見を基に、
肝の状態の判定方法、肝障害を誘発する物質のスクリー
ニング方法並びにこれらの方法を利用したキットを提供
することが課題である。
【0010】
【課題を解決するための手段】このような状況下におい
て、本発明者は、四塩化炭素を単回胃内投与したラット
肝障害の固有の時期に出現する情報伝達タンパク質の検
出を試みた。その結果、抗ホスホチロシン抗体を使用し
たイムノブロット分析により、投与後、48〜72時間にお
いて、門脈周囲肝細胞細胞質に、30キロダルトン(kD
a)のポリペプチド(以下、ポリペプチドp30と称す
る。)が誘導されることを見出した。このポリペプチド
p30について、さらに研究を進めた結果、このタンパ
ク質が、チロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3
であること、およびガレクチン−3は、正常肝に存在せ
ず、その出現は、障害された肝に特徴的であることを見
出した。
【0011】一方、ガレクチン−3の誘導と同時期に細
胞周期進行の阻害タンパクの一種であるp21
WAF1/Cip1/Sdi1(以下、ポリペプチドp21と称す
る。)が核に、増殖細胞核抗原(以下、PCNAと称す
る。)が核と細胞質に誘導され、ポリペプチドp21と
細胞質局在PCNA、ガレクチン−3は、96時間で消失
し、96時間以後、核局在PCNAを持つ肝細胞数がふ
え、肝細胞がこの時期に増殖したことが明らかとなっ
た。
【0012】PCNAは、DNAポリメラーゼδとεの
補助タンパク質としてDNA複製、つまり細胞増殖時に
必要であるが、ポリペプチドp21と共存する場合、D
NA修復に働く。四塩化炭素がDNAの構造の異常を起
こすことは知られており、投与後、48〜72時間において
は、DNAの修復が起こっていると考えられ、この時期
に誘導されるガレクチン−3は、障害を起こした肝細胞
の修復に直接働くこと、あるいは、修復期に細胞の生存
を助けるために働く機能を持つことが考えられる。ま
た、ガレクチン−3がリン酸化されうるチロシン残基を
持つので、障害細胞の修復や生存を調節する情報伝達系
の中にガレクチン−3自身が位置する可能性が高い。
【0013】この現象は、四塩化炭素の投与量を減じて
も、また、D−ガラクトサミンなど、他の肝障害誘導性
物質の投与によっても検出されるが、肝の部分切除によ
っては検出されない。すなわち、ガレクチン−3は、薬
物、毒物により障害された肝細胞の修復および修復のた
めの肝細胞の生存または肝細胞保護のために誘導される
可能性が高い。さらに炎症性疾患である感染性肝炎につ
いてもガレクチン−3の誘導の有無を調べる意義がある
ことも示唆された。
【0014】また、四塩化炭素は、シトクロームP450に
より代謝され、肝で強い毒性を示す。一方、D−ガラク
トサミンは、RNAの代謝を抑制し、肝障害を起こす。上
記四塩化炭素による障害の性質を、毒性発現機構の異な
るD−ガラクトサミンによる障害と較べた。D−ガラク
トサミンの投与により、ガレクチン−3は、肝の細胞質
画分に誘導されるが、誘導される時期は、D−ガラクト
サミン投与量を増やせば遅れ、減らせば早期に観察され
る。また、早期に誘導されるガレクチン−3の量は多量
の薬物投与による遅い時期の誘導量に較べると、遙かに
少ない。つまり、毒性や障害の強さの違いがガレクチン
−3の誘導までの時間や量を変化させ、これらは、肝障
害の程度判定に役立つ。また、キノロン系抗菌剤である
トロバフロキサシンの投与により、4〜12時間後にかけ
て少量のガレクチン−3が誘導された。
【0015】よって、肝においてガレクチン−3または
その関連物質の検出は、肝細胞の薬物障害の状態、肝細
胞の炎症の存在やその修復、修復時の生存およびその後
の再生がそれぞれ可能な肝細胞の判定指標になる。さら
に薬剤開発においては、被験化合物の肝細胞におけるガ
レクチン−3誘導能を測定することにより、容易に肝障
害性の高い化合物を除外したり、肝障害性の低い化合物
を選択するスクリーニングの指標とすることができる。
また、ガレクチン−3誘導能があり、毒性の低い化学物
質の開発は、アルコールや薬物肝障害の治療や予防のた
めの薬剤開発と臨床応用に発展させることができる。
【0016】本スクリーニング方法は、(1)ヒトを除
く哺乳動物、肝組織または肝培養細胞に被験物質を投与
する工程、(2)ガレクチン誘導能を測定する工程を含
む物質のスクリーニング方法である。本発明において、
投与とは、ヒトを除く哺乳動物においては、被験物質を
体内に導入する操作を意味し、例えば、経口、静注、筋
注、皮内注射、腹腔内投与などが挙げられ、肝組織また
は肝培養細胞においては、細胞と接触させる操作を意味
し、例えば、被験物質を含有する溶液の培養細胞培地へ
の添加、被験物質を加えた培地への組織または細胞の移
殖などが挙げられる。以下、本発明化合物について詳述
する。
【0017】本発明のスクリーニング方法に使用される
ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット
およびモルモットなどげっ歯類が挙げられる。本発明の
肝組織としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、モル
モット、イヌ、サルなどから得られた肝組織であればよ
く、生体から採取した肝組織または組織培養によって得
られた肝組織、好ましくは、ヒトの肝組織が挙げられ
る。本発明のスクリーニング方法に使用される肝培養細
胞としては、例えば、肝細胞の初代培養細胞並びにAH
60およびAH70などのガレクチン−3含量が低い肝
癌細胞が挙げられる。
【0018】本発明においてガレクチン−3誘導能の測
定とは、例えば、ガレクチン−3およびガレクチン−3
の関連物質を検出することをいう。ここで、ガレクチン
−3関連物質としてはガレクチン−3mRNA;ガレク
チン−3mRNA前駆体;ガレクチン−3がリン酸など
の修飾を受けているガレクチン−3修飾体が挙げられら
れる。ガレクチン−3修飾体の具体的なものとしては、
ガレクチン−3のチロシン残基がリン酸化されているも
のが挙げられる。
【0019】細胞中のガレクチン−3またはその誘導体
の量を測定することを特徴とする肝の状態の診断におい
て、利用されるガレクチン−3は、修飾を受けていても
よく、好ましくは、チロシン残基がリン酸化されている
ガレクチン−3が挙げられる。加えて、ガレクチン−3
またはその修飾体の検出に代えて、ガレクチン−3mR
NAまたはガレクチン−3mRNA前駆体を検出するこ
とによっても被験者の肝の状態を高精度に判定すること
ができる。また、上記のmRNAは、必要に応じてcD
NAに変換して検出することもできる。これらは、例え
ば、肝疾患の診断用のプローブとしても有用である。
【0020】ガレクチン−3またはその修飾体の検出
は、通常のタンパク質の検出方法に準ずればよいが、例
えば、ガレクチン−3またはその修飾体を認識する抗体
を作製し、ELISA法またはウエスタン法で検出する
方法、タンパク質を単離し、直接または必要に応じ、酵
素等で切断し、プロテインシークエンサーを利用して検
出する方法および質量分析により検出する方法などが挙
げられ、好ましくは、ガレクチン−3を認識する抗体を
作製し、ELISA法で検出する方法およびウエスタン
法を使用する方法が挙げられる。また、ガレクチン−3
またはその修飾体を認識する抗体を使用した生検組織の
免疫組織化学的判定法も好ましい方法として挙げられ
る。
【0021】ガレクチン−3またはその修飾体を認識す
る抗体としては、ガレクチン−3もしくはその修飾体全
体または一部に対するポリクローナルまたはモノクロー
ナル抗体が挙げられる、例えば、以下の方法により作製
できる。 (1)ポリクローナル抗体 ガレクチン−3またはその修飾体のアミノ酸配列一部に
基づいて通常のペプチド合成機で合成した合成ペプチド
や、ガレクチン−3もしくはその修飾体の全部または一
部をコードする核酸を含有する発現するベクターで形質
転換した細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などにより産
生されたタンパク質を通常のタンパク化学的方法で精製
し、これらを免疫原とする。この免疫原を用いて、文献
に記載の方法[Antibodies; A Laboratory Manual, Lan
e,H.D.ら編、Cold Spring HarberLaboratory Press出版
New York 1989年など]に従って、適切な方法でマウ
ス、ラット、ハムスター、ウサギなどの動物を免疫する
ことにより、抗原となるタンパク質を特異的に認識する
ポリクローナル抗体を容易に作製することができる。免
疫された動物で作られたポリクローナル抗体の単離・精
製は、その動物の血清から公知のタンパク質の分離・精
製方法により行えばよい。 (2)モノクローナル抗体 前述の免疫原で免疫した動物の脾臓またはリンパ節から
リンパ球を取りだし、ミエローマ細胞と融合させて文献
に記載の方法[Kohler & Milstein、Nature、第256巻、
第495〜497頁(1975年)、Uedaら、Proc.Natl.Acad.Sci.US
A、第79巻、第4386〜4390頁(1982年)など]に従ってハ
イブリドーマを作製した後、該ハイブリドーマからモノ
クローナル抗体を産生させればよい。
【0022】ガレクチン−3mRNAの検出は、通常の
mRNAの検出方法に準ずればよいが、例えば、リアル
タイムPCR(Real time PCR)法、競合的PCR(Com
petitive PCR)法などのRT−PCRを基本とする方
法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、RPA
(Riboprobe protection assay)法などのハイブリダイ
ゼーションアッセイが挙げられ、好ましくは、リアルタ
イムPCR(Real time PCR)法が挙げられる。
【0023】本発明のスクリーニング法は、例えば、肝
障害を誘発する物質のスクリーニングに利用できる。さ
らに、本発明方法は、ガレクチン−3遺伝子の転写を促
進するタンパク質の生合成を肝で促進する物質のスクリ
ーニングにも利用できる。また、本発明のスクリーニン
グ法でスクリーニングされる被験物質は、特に限定され
ないが、例えば、天然物、化学合成化合物、遺伝子組換
え産物などが挙げられる。
【0024】本明細書におけるキットは、上記のタンパ
ク質、mRNAまたはmRNA前駆体を検出できる試
薬、例えば、プライマー、プローブ、抗体などを含むも
のであれば特に限定されず、さらにその他の試薬を組み
合わせることにより得ることができる。mRNAまたは
mRNA前駆体を検出するキットとしては、上記のゲノ
ム領域を増幅できるように設計されたプライマーを含
み、さらに、上記のゲノム領域を検出できるように設計
されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およ
びチェーンターミネーター法などの塩基配列決定法に利
用される試薬など、変異を検出するために必要な試薬を
1つ以上、組み合わせたキットが挙げられる。また、好
ましくは、蛍光標識されたダイデオキシヌクレオチドを
含むキットが挙げられる。また、タンパク質を検出する
キットとしては、ガレクチン−3またはその関連物質を
認識する抗体を含むキットなどが挙げられる。これらの
キットを使用することにより、ガレクチン−3誘導能を
利用した物質のスクリーニングおよび肝の状態の判定を
高精度に行うことができる。
【0025】
【実施例】次に、本発明を実施例により説明するが、本
発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、
実施例で使用される略号は、以下の意味を有する。 HEPES:2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エ
タンスルホン酸
【0026】実験手順 (1)肝抽出物 正常および四塩化炭素で処理されたウィスター系ラット
(7週間齢、雄)[Biochem. Biophys. Res. Commun.、
第273号、第261〜266頁(2000年)]を麻酔し、140mM塩
化ナトリウムを含む20mM HEPES-NaOH(pH7.5)で門脈を
通して肝灌流を行った。ダウンスホモジナイザー(Doun
ce homogenizer)を使用し、5mMβグリセロホスフェー
ト、50μMバナジウム酸ナトリウム、10μMシクロスポリ
ンA、ロイペプシンとペプスタチンA各2μ/mL、1mMジ
チオスレイトール、5mMフッ化ナトリウムおよび0.1%No
idet P-40を含む20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.5)を抽
出緩衝液として、10%(W/V)肝ホモジネートを調製し
た。ホモジネートを600xg、5分間遠心分離した上清液を
肝抽出物とした。また、細胞質分画[Methods Enzymo
l.、第1巻、第16-22頁(1955年)]とタンパク量の定量
[Analyt. Biochem.、第72巻、第248〜254頁(1976
年)]を行った。
【0027】(2)イムノブロット分析 2% 2−メルカプトエタノールと0.2%ドデシル硫酸ナ
トリウム(SDS)の存在下、95℃、5分でタンパク質
(10〜40μg)を変性させ、SDSの存在下、ポリアク
リルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で展開
し、ニトロセルロースあるいはPVDF膜上に転移させ
た。ホスホチロシン抗体(αpYab:サンタ・クルズ
・バイオテクノロジー社製)と精製したp30抗体(α
p30ab)抗体を一次抗体とし、125I標識二次抗体ま
たはエンハンスド・ケミルミネセンス・アッセイキット
(アマシャム・ファルマシア・ジャパン社製)で検出し
た。
【0028】(3)ポリペプチドp30の精製および部
分一次構造 ことわらないかぎり、ポリペプチドp30の精製で使用
された緩衝液は、プロテイン・ホスファターゼとプロテ
アーゼのインヒビターを含んでおり、抽出緩衝液も同様
である。肝抽出物を60分間、105000xgで遠心分離して調
製した細胞質分画を20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)で
平衡化したDE52(ワットマン社製)カラムにかけた。0.
35飽和硫酸アンモニウムで非結合タンパク質を集め、少
量のリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)で溶解し、同じリ
ン酸カリウム緩衝液で平衡化したハイドロキシアパタイ
トカラムを通した。非結合分画から再回収したポリペプ
チドp30をSDS−PAGEで展開し、ゲルをクマシ
ー・ブリリアント・ブルーで染色し、その切り出しでウ
サギを免疫した。改めて、ニトロセルロース膜上で固定
化されたポリペプチドp30の部分を、ポンソーS(Po
nceau S)で染色し切り出し、プロテアーゼ(S. aureus
V8 protease)で消化した。逆相液体クロマトグラフィ
ーで精製したペプチド断片の一次構造をぺプチド・シー
クエンサー(島津、PPSQ−21)で決定した。
【0029】(4)リン酸化されたアミノ酸 ヒューマンサイエンス研究資源バンク(大阪)から入手
したAc2Fラット肝癌細胞[In Vitro、第18巻、第50
1〜509頁(1982年)]を、[32P]オルトリン酸(0.2m
Ci/mL)、0.1mMバナジウム酸ナトリウム、前もって4℃
で、蒸留水に対して透析した10%仔牛血清を補充した無
リン酸MEM(ギブコ・ビーアールエル社製)中、5%炭酸
ガス、95%空気の下、37℃、10時間培養した。0.1mMバ
ナジウム酸ナトリウム、ロイペプシンとペプスタチンA
各2μg/mL、1mMジチオスレイトールを含む20mMトリス塩
酸緩衝液(pH7.5)で調製した細胞溶解液から抗体αp
30abで調製したポリペプチドp30をSDS−PA
GEで展開し、PVDF膜に転写して単離し、文献[An
alyt. Biochem.、第176号、第22〜27頁(1989年)]に
記載に準じ、90分間、110℃、5.7N塩酸で加水分解し
た。リン酸化したアミノ酸は、セルロースTLCプレー
ト上で、ピリジン・酢酸緩衝液(pH3.5)を使用し、高
電圧電気泳動により分離した。
【0030】(5)相補的DNA(cDNA)のクロー
ニング 文献[Analyt. Biochem.、第162巻、第56〜159頁(1987
年)]に記載に準じ、四塩化炭素投与48時間後ラットか
ら調製した肝poly(A)RNAおよびZap E
xpressベクター(ストラタジーン社製、ケンブリ
ッジ、イギリス)を用いてcDNAライブラリーを構築
した。抗体αp30abで選択されたクローンのヌクレ
オチド配列は、ABI310自動DNAシーケンサー
(PE・バイオシステムズ社製、日本)が使っているサ
イクルシーケンシング法によって決定した。
【0031】(6)免疫組織化学 上記と同様に灌流したラット肝臓は、15%緩衝化フォル
マリンで固定し、パラフィンに包埋した。3μmの切片の
染色には、ポリペプチドp30、増殖細胞核抗原(PC
NA;ダコ社製)またはポリペプチドp21
WAF1/Cip/Sdil(サンタ・クルス・バイオテクノロジー
社製)に特異的な一次抗体を使用し、二次抗体EnVi
sion(ダコ社製)を用いた。
【0032】これらの結果を以下に示す。 (1)四塩化炭素投与後の肝における固有の情報伝達系
の構成タンパクであるリン酸化ポリペプチドの検出 プローブとして抗体αpYabを用いたイムノブロット
分析で、正常ラットから調製した肝抽出液が、抗体αp
Yabに反応する7つのポリペプチドを含んでいること
が証明された。(図1A)
【0033】四塩化炭素投与後、4時間のラット(以
下、4時間ラットとする)からの肝抽出液は、35kDaのシ
グナルの強度が減少していることを除いては、正常肝に
おいてみられるシグナルに共通するシグナルを示した。
それと対照的に、72時間後のラット(以下、72時間ラッ
トとする)は、約30kDaの新しいポリペプチド(p3
0)を示した。正常及び四塩化炭素処置ラットにおい
て、15分間の非放射性のATPを用いた抽出物のプレイン
キュベーションによって検出可能な全てのシグナル(図
1Aにおける+のレーン)は、調製直後の熱変性抽出物
において観察されるシグナルと同様な強度であった。こ
れは、これらのシグナルが生体内におけるリン酸化状態
を反映していることを示した。よって、リン酸化された
チロシン残基を有するポリペプチドp30は、肝障害の
過程において発現している。
【0034】抗体αpYabを使用したイムノブロット
分析で、ポリペプチドp30が72時間ラットの肝の細胞
成分分画によって調製される細胞質分画に存在するとい
うことが示された。次いで、72時間ラットの肝細胞質の
部分からポリペプチドp30の精製を行った。表1およ
び図1Bに示されるように、約400μgのポリペプチドp
30がラットの肝細胞質から精製された。次いで、ヒド
ロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーの非結合分
画から得たポリペプチドp30をSDS−PAGE(図
1BにおけるレーンHおよびレーンHS)で精製し、ゲ
ル中のポリペプチドp30は、抗体の調製および部分一
次構造を決定するために使用した。
【0035】
【表1】 ポリペプチドp30の精製 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 分画 総タンパク 総放射能 特定の放射能 回収率 Factor (mg) (PSL×10-3) (PSL×10-3/mg protein) (%) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 細胞質 577 297 0.5 100 1.0 DE52 182 221 1.8 75 4.0 AS 5 129 29.8 44 57.0 HA 0.4 54 181.2 19 352.0 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「表中、DE52は、DEAEセルロースクロマトグラ
フィー分画;ASは、硫酸アンモニウム沈殿分画;HA
は、ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー分
画を意味する。」
【0036】精製を通して、ポリペプチドp30は、抗
体αpYabを使用したイムノブロット分析でアッセイ
された。一次的な範囲においてシグナル強度に現れるシ
グナル強度の直線性がある範囲のタンパク量を予め決め
ておき、各精製段階標品のシグナル強度を同時に決定し
た。シグナル強度は、BAS2000画像解析装置(フジ写真
フィルム社製)に固有の単位で壊変数(dpm: degradati
on per minute)に比例するPSL(単位時間当たりの光子
発生数)で表した。12匹のラットからの肝標本の一部を
混合し、出発原料として使用した(細胞質)。
【0037】(2)ポリペプチドp30の誘導およびそ
の門脈周囲肝細胞への細胞質における局在 抗体αp30abを用いたイムノブロット分析におい
て、ポリペプチドp30は、正常および4時間ラットか
らの肝中に検出されなかった(図1A)。また、ポリペ
プチドp30は、48〜72時間ラット(以降48時間または
72時間ラットとする)において極大まで増加した(図2
A)。一方、72時間ラットの組織を調べると、ポリペプ
チドp30は、肝のみに検出された(図2B)。また、
精製された核分画を含む4つの細胞成分分画の中でポリ
ペプチドp30は、細胞質分画においてのみ検出された
(図2C)。肝中のポリペプチドp30の免疫染色か
ら、正常肝の細胞は、抗体αp30abで染色されない
こと、48〜72時間の時間経過後の門脈周囲肝細胞は、細
胞質中でポリペプチドp30が陽性であるが、細胞核中
では陰性であることがわかった(図3および4)。すな
わち、ポリペプチドp30新規生合成は、四塩化炭素投
与後48〜72時間のラットの門脈周囲肝細胞でピークとな
り、さらに産生されたポリペプチドp30は、それらの
細胞質に蓄積される。
【0038】(3)門脈周囲肝細胞でのポリペプチドp
30、PCNA、ポリペプチドp21の同時誘導 図3においてポリペプチドp30の染色で使用された肝
の標本から各々調製された連続切片において、細胞核の
PCNA陽性肝細胞は、24時間ラット(以下、24時間ラ
ットとする)で検出されたが(図3)、正常ラットにお
いては、細胞はほとんどPCNAで染色されなかった。
その上、細胞核だけではなく、PCNA抗体で細胞質も
染色されたので(図4)、PCNA陽性細胞の門脈周囲
局在化は、72時間ラットにおけるポリペプチドp30陽
性細胞の局在化と類似していた(図3)。これに関連し
て、48〜72時間ラットの中心静脈壊死巣は、96〜120時
間ラットにおいて明らかに縮小していた。その上、四塩
化炭素投与後、96〜120時間のラット(以降、96時間〜1
20時間ラットとする)において、ポリペプチドp30を
持たず、増殖性細胞の特有のマーカーとしての細胞核P
CNA[Biochim.Biophys. Acta.、第1443号、第23〜39
頁(1988年)]のみを有する肝細胞は、門脈周囲領域と
縮小した壊死巣との間の領域で増加していた。同時に細
胞周期の進行の阻害タンパクであるポリペプチドp21
[Genes & Dev.、 第9巻、第1149〜1163頁(1995年)]
が24〜72時間の門脈周囲肝細胞の細胞核で増加検出さ
れ、96時間で明らかに減少した。最終的には、そのレベ
ルは120時間でコントロールレベルに到達した。
【0039】(4)ポリペプチドp30はガレクチン−
3である プロテアーゼ(S. aureus V8 protease)によるポリペ
プチドp30の消化およびHPLCによる精製によって生じ
る3つの断片の部分一次構造は、XQSAFPFE、 XXKPFKIQV
LVEおよびXXLTSASHAMIであった。最初と2番目の配列
は、それぞれ、RL−29[J. Biol. Chem.、第268
号、第26704〜26711頁(1993年)]のトリプシン分解断
片で化学的に決定され、または、cDNA[Proc. Nat
l. Acad. Sci.USA.、第84巻、第6859〜6863頁(1987
年)]の塩基配列決定によってIgE結合タンパクであ
ると推定された一次構造中の198〜205および206〜217番
目のアミノ酸残基に相当していた。3番目の配列は、C
末端を有する配列と決定された。さらに、今回の研究に
おいて、四塩化炭素投与後48時間のラット肝poly
(A)RNAで構築されたcDNA発現ライブラリか
ら抗体αp30abを使用してcDNAクローンを単離
し、決定された塩基配列は、この1.2kb長のcDNAク
ローンがラットIgE結合タンパクcDNA[Proc. Na
tl. Acad. Sci.USA.、第84巻、第6859〜6863頁(1987
年)]と同一の塩基配列からなるタンパク質コード領域
中にあるタンパク質をコードすることが確認された。こ
の点に関しては、RL−29、IgE結合タンパク質、
炭水化物結合タンパク質(CBP)35[Biochem.
J.、第211巻、第625〜629頁(1983年)]、HL−29
[J. Biol. Chem.、第262巻、第7383〜7390頁(1987
年)]およびL−34[Cancer Res.、第48巻、第645〜
649頁(1993年)]が同じタンパク質として認知され、
ガレクチン−3[J. Biol. Chem.、第269巻、第20807〜
20810頁(1994年)]として命名されている。この命名
法に従い、ポリペプチドp30は、ガレクチン−3であ
ると同定した。なお、ポリペプチドp30のcDNAプ
ローブを使用したノーザン分析から、1.2kb長のガレク
チン−3mRNAが24時間で増加し始め、48時間で正常
レベルの60倍以上に到達し(図5A)、ポリペプチドp
30(ガレクチン−3)レベルの減少に平行して減少す
ることが明らかとなった。
【0040】(5)ガレクチン−3のリン酸化されたチ
ロシン残基 ガレクチン−3は、β−ガラクトシド特異的可溶性レク
チンファミリーの一員である[J. Biol. Chem.、第269
巻、第20807〜20810頁(1994年);J. Biochem.、第119
巻、第1〜8頁(1996年)]という本来持っている特性か
ら予測されるように、イムノブロット分析においてポリ
ペプチドp30として精製されたガレクチン−3は、抗
体αpYabおよび抗体αp30abの一次抗体なしに
弱いながらも意味のあるシグナルを生じた。これは、お
そらく、ガレクチン−3のコンフォメーションの再構築
による125Iラベルされた二次抗体の多糖部分とガレクチ
ン−3の結合によると考えられる。よって、ガレクチン
−3のチロシン残基が生体内においてリン酸化されるこ
との確認を行った。
【0041】試験に用いた3つのネズミ肝癌細胞株(A
c2F、AH60およびAH70)の中で、Ac2F細
胞は、抗体αp30ab(図5B)および抗体αpYa
bでガレクチン−3を検出可能であるという事実を利用
し、Ac2F細胞中のタンパク質は、培地中0.1mMバナ
ジウム酸ナトリウムの存在下、[32P]オルトリン酸塩
とインキュベートすることで標識された。放射性タンパ
ク質を含んでいるAc2F細胞抽出液から、抗体αp3
0abと免疫沈降するタンパク質を、ポリペプチドとし
て精製された媒体であるガレクチン−3と混合し、SD
S−PAGEによって展開し、PVDF膜に転写した。
膜上に染色されたガレクチン−3の領域は、放射活性を
持っていたのでAc2F細胞中のガレクチン−3が培地
中でリン酸化されたことを示し、標識化されたガレクチ
ン−3を、染色された担体p30の領域として切り出
し、5.7N塩酸で加水分解した。酸加水分解物にホスホセ
リン、ホスホスレオニン、ホスホチロシンを加え、高電
圧電気泳動によってセルロースTLCプレートで展開し
た。図5からいえるように、ポリペプチドp30のレー
ンにおいて5つの放射性のシグナルの中の2つは、Auの
レーンでニンヒドリンによって位置づけられたホスホセ
リンとホスホチロシンと各々同様に移動しており、生体
中でガレクチン−3のチロシン残基がリン酸化を受ける
ということが明らかに示されている。ラット肝とAc2
F細胞の両方でガレクチン−3が、抗体αpYabで検
出できたため、四塩化炭素によって障害された成体ラッ
ト肝で誘導されたガレクチン−3は、ホスホチロシン残
基を有していると考えられた。また、今回見出されたホ
スホセリンは Huflejtによって報告[J. Biol. Chem.、
第268巻、第26712〜26718号(1993年)]されたものに
相当すると判断された。
【0042】(6)部分肝切除により起こされる肝の再
生時に抗体αp30abによって検出できるポリペプチ
ド 四塩化炭素投与および部分肝切除[Arch. Pathol.、第12
巻、第186〜202頁 (1931年)]によって引き起こされた
再生肝との比較のため、抗体αp30abによって検出
できるポリペプチドを、部分肝切除後、異なった時期に
ついて肝で調査した。抗体αp30abを使用したイム
ノブロット分析により、それぞれ、部分肝切除後、48、
72、96、120時間のラットの肝抽出物が抗体αp30a
bで検出されるポリペプチドを含んでいた。しかしなが
ら、その位置は、明らかにポリペプチドp30として精
製されたガレクチン−3の展開した位置(図6、黒矢
印)と異なっていた。この実験で見出されたポリペプチ
ドの大きさは32kDa(図6、白抜矢印)であった。
【0043】(7)四塩化炭素投与後48〜72時間のラッ
トの肝細胞細胞質に、正常成体肝には存在しないガレク
チン−3が誘導された。この事実は、この時期が特殊な
意味を持つ時期であるという推定を支持した。ガレクチ
ン−3は、ラット胎仔や新生仔のほとんどの組織に存在
することは文献的に既に知られている。従って、薬物障
害を与えた肝細胞が特定の時期にガレクチン−3を誘導
することは、成体肝細胞が何らかの理由で幼若化するこ
とが示唆され、さらに以下の検討を行った。
【0044】・四塩化炭素投与ラット肝でのα-fetopro
tein(AFP) mRNAの発現時期 四塩化炭素投与後、図示した時間のラット肝total RNA
と、β-actinとAFP cDNA配列より作成したプライマーを
使ったRT-PCR(35サイクル)を行った。内部コントロー
ルのβ-actin mRNA は一定レベルにあったが、AFP mRNA
は四塩化炭素投与後72時間で出現し、120時間でも検出
された。結果を図7に示す。実際に、アルブミンの胎児
型タンパクとして幼若肝細胞が生合成するAFPmRNAが
72時間ラット肝に出現し、以後120時間まで存在してい
たことは、肝細胞がこの時期に幼若化することを示して
いる。
【0045】(8)細胞周期の調節関連タンパク質の誘
導 ガレクチン−3が誘導される48時間ラットおよび72時間
ラットの肝細胞における細胞周期の調節タンパク質の作
用を知ることは、この時期の肝細胞の性質を知るための
重要な手がかりになる。四塩化炭素投与に引き続き、抗
p21WAF1/Cip1/Sdi1(p21)抗体を使い免疫組織化
学的に調べると、48時間から72時間に最強の染色性を示
して肝細胞核が染色された。この観察結果は四塩化炭素
投与後の経過中にp21量が変動する可能性を示唆し
た。そこで、更にこの点を明確にするため、四塩化炭素
投与後の異なる時期の肝の細胞分画試料を使い、p21
のレベルをWestern法で調べた。
【0046】・72時間ラット肝細胞細胞質のガレクチン
−3およびp21の存在様式 72時間ラット肝の細胞質画分を8.6%から40%の蔗糖密
度勾配を使った遠心(38000rpm、4℃、48時間)で分画
し、ガレクチン−3、PCNAおよびp21の沈降部位
をWestern法で決めた。ラクトース親和性カラムクロマ
トグラフィーで部分精製したガレクチン−3(30kDa)
は、単量体の分子サイズ36kDaに相当する部位に検出さ
れたPCNAより軽いタンパクが存在する画分に沈降し
たのに対し、粗細胞質局在ガレクチン−3は、80kDaに
相当する画分に沈降していた。p21は21kDaに相当す
る部位には沈降せず、約140kDaの分子サイズを示す乳酸
脱水素酵素と同じ画分に沈降した。また、密度勾配遠心
時のDTTの有無によりp21の分布が変化した。
【0047】正常ラット肝では核のみにp21が検出さ
れ、72時間までは量の変動は観察されなかったが、96時
間以後は明らかに減少した。一方、12〜24時間にかけて
ミトコンドリア画分に、更に48〜72時間には細胞質に強
いシグナルが現れ、p21が四塩化炭素投与後の異なる
時期にラット肝の異なる細胞画分に誘導されることが示
された。p21の誘導量は、正常ラット肝のレベルに比
較し、核で約1.2倍、細胞質では核の約13倍であった。
細胞質のp21は蔗糖密度勾配遠心法により、約160kDa
の分子サイズを示したので、ガレクチン−3と同様、複
合体形成が示唆された。
【0048】・四塩化炭素投与後48〜72時間の時期の意
味づけ ガレクチン−3の誘導期に、AFPとp21も誘導され
ていた。p21は細胞増殖の抑制タンパク質であり、実
際、組織化学的観察では72時間までは細胞増殖が起こっ
ていなかった。一方、ガレクチン−3とAFPの誘導は
この時期の肝細胞が幼若化していることを示した。細胞
周期の進行、つまり、細胞増殖を止めることは、DNA障
害の修復期に細胞がとる一般的手段である。従って、多
量のp21の誘導により肝細胞が細胞全体の障害を修復
し、正常化するまで増殖を抑制することは理にかなって
いる。四塩化炭素投与により起こる障害が広汎であれ
ば、単一のタンパク質を入れ替えるのと違い、特殊な条
件を細胞が必要とする可能性があり、その一つの例が幼
若化であると考えられる。細胞の幼若化は、一般的に細
胞の増殖能を高める。しかし、修復が不十分な細胞が増
殖することは、細胞や組織の機能に重大な障害を誘導す
る可能性がある。この点を回避するためにp21が誘導
され、細胞周期の進行を抑制することに大きな意味があ
り、またp21自身が細胞の生存を促進する情報系の下
流で働く可能性がある。修復が完了した細胞が幼若化し
ていることは、壊死で失われた細胞を補うために増殖す
る過程へ移行する際にも、好都合である。
【0049】
【発明の効果】ガレクチン−3は、薬物、毒物による肝
細胞障害の修復および修復のための生存または肝細胞の
保護のために誘導されると結論されたことから、肝にお
いてガレクチン−3の増加の検出は、肝細胞の薬物障害
の状態、肝細胞の炎症の存在やその修復、修復時の生存
およびその後の再生可能肝細胞の判定指標になる。この
効果は薬物やアルコール性肝障害だけでなく、各種の感
染性肝炎についても普遍的に当てはまる可能性がある。
さらに、一般的薬剤開発においては、被験化合物の肝細
胞におけるガレクチン−3誘導能を測定することによ
り、容易に肝障害性の高い化合物をスクリーニングで除
外することができる。
【0050】今回、正常肝に存在しないガレクチン−3
が四塩化炭素を投与されたラット肝で時期特異的に誘導
されることを示した。四塩化炭素投与ラット肝では正常
の60倍程にガレクチン−3mRNAが増加していること
がノーザン法で確認されたことにより、この誘導はガレ
クチン遺伝子の転写の促進によることが示された。ガレ
クチン−3遺伝子の転写は固有の転写促進タンパク質に
より促進される。従って、毒性が無く、ガレクチン−3
遺伝子の転写促進タンパク質合成を肝で促進する物質を
化学合成すれば、ウイルス性肝炎を含む各種肝障害の治
療薬として使用できること意味する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Aは、抗体αpYabによる正常、四塩化炭素
投与後4時間、四塩化炭素投与後72時間ラットからの肝
抽出物のイムノブロット分析を示した電気泳動写真であ
る。タンパク質40μgを個々のレーンで使用している。
Bは、ポリペプチドp30の精製に関する生成物であ
る。Cは肝細胞質のポリペプチドp30である。DとH
はDE52とヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラ
フィーの分画、Aは、硫酸アンモニウム沈殿の分画であ
る。矢印は、抗体αpYabを使用したイムノブロット
分析によって検出されたポリペプチドp30の位置を示
す。ヒドロキシアパタイトカラム分画におけるポリペプ
チドp30の部分(HS)は、クーマシーブリリアント
ブルーで染色された。
【図2】抗体αpYabによるイムノブロット解析の電
気泳動写真である。Aは、ラット肝における四塩化炭素
投与後のポリペプチドp30の誘導の経過を各レーンに
示した時間で調べた。Bは、72時間ラットにおける各組
織中のポリペプチドp30の分布を示した。Li、S
e、Br、Su、He、Lu、Ki、Sp、St、およ
びInのレーンはそれぞれ、肝、血清、脳、顎下腺、
心、肺、腎、脾、胃および小腸を意味する。Cは、72時
間ラット肝におけるポリペプチドp30の細胞画分への
分布を示した。レーンp30、Nu、Mi、Mtおよび
Cyは、マーカーとして使った精製ポリペプチドp30
並びに細胞核、ミトコンドリア、ミクロソーム、および
細胞質の各分画を意味する。
【図3】四塩化炭素投与後の示した時間間隔で調製した
肝の連続切片の免疫組織化学分析の写真である。ポリペ
プチドp30(ガレクチン−3)、PCNAおよびポリ
ペプチドp21は、顕微鏡写真においてポリペプチドp
30(ガレクチン−3)、PCNAについては、25倍、
ポリペプチドp21については45倍でそれぞれ、褐色、
紫色および褐色に染色された。
【図4】ポリペプチドp30(ガレクチン−3)、PC
NAおよびポリペプチドp21の免疫染色の写真であ
る。図3における72時間ラットのパネルを50倍で示し
た。この図では陽染された部位は、褐色である。抗体α
p30abで処理した切片における大部分の核は、ネガ
ティブコントロールとして用いることができる。
【図5】Aは、ガレクチン−3のcDNAプローブを使
用したノーザン分析の電気泳動写真である。正常と48時
間からの肝総RNAの10μgを使用し、ガレクチン−3
mRNAはそのcDNAで探索された。Bは、Ac2F
細胞抽出物のイムノブロット分析の電気泳動写真であ
る。レーンAc2Fは、抗体αp30abを使用した。
ポリペプチドp30として精製されたガレクチン−3
は、レーンp30において位置を示すマーカーとして使
用された(黒矢印)。Cは、Ac2F中で放射性リン酸
で標識したポリペプチドp30の酸加水分解物をホスホ
セリン(pS)、ホスホスレオニン(pT)およびホス
ホチロシン(pY)と混合し、高電圧電気泳動によって
展開されたものを、Auレーンでニンヒドリン発色させ、
p30レーンで回収された放射性のホスホチロシン(p
Y)、ホスホセリン(pS)の存在を示した電気泳動写
真である。
【図6】抗体αp30abを使用したイムノブロット分
析の電気泳動写真である。部分肝切除後の示された時期
でのラットから調製された再生肝抽出物中のタンパク質
40μgを抗体αp30abと反応するポリペプチドに対
して調査した。ポリペプチドp30として精製されたガ
レクチン−3をガレクチン−3の位置を示すマーカーと
して使用した(黒矢印)。
【図7】四塩化炭素投与ラット肝でのα-fetoprotein
(AFP) mRNAの発現時期を示す電気泳動の写真である。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ヒトを除く哺乳動物、肝組織または肝培養
    細胞に被験物質を投与し、ガレクチン−3誘導能を測定
    することを特徴とする物質のスクリーニング方法。
  2. 【請求項2】ガレクチン−3誘導能を測定することが、
    チロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3を測定す
    る方法である請求項1記載のスクリーニング方法。
  3. 【請求項3】ヒトを除く哺乳動物がげっ歯類である請求
    項1または2記載のスクリーニング方法。
  4. 【請求項4】肝細胞中のガレクチン−3またはその関連
    物質の量を測定することを特徴とする肝の状態の診断方
  5. 【請求項5】ガレクチン−3またはその関連物質が、チ
    ロシン残基がリン酸化されたガレクチン−3である請求
    項4記載の診断方法。
  6. 【請求項6】請求項1〜5記載の方法を使用したキッ
    ト。
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JP2014115297A (ja) * 2003-10-09 2014-06-26 Univ Maastricht ガレクチン−3またはトロンボスポンジン−2のレベルを定量することによって心不全を発症する危険性がある対象を同定する方法

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