JP4033617B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置に係り、特に、運転状態の切り換えに伴う空燃比制御の悪化を防止することができるエンジンの空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジン制御において、HC、、CO、NOx等の排気ガス成分のレベルを低減させるには、燃焼室内の空気量と燃料量との比率を正確な理論空燃比になるように制御することが必要である。一方、前記空気量及び燃料量の計測には誤差があることから、前記比率を理論空燃比にするために排気ガスの酸素残量を検出し、その残量に応じてフィードバック制御を行い、前記比率の補正を行っている。
【0003】
従来、この排気ガスの酸素残量は、酸素の過剰又は不足の2信号を検出するO2センサで行わせていたが、近年の排気ガス規制では、前記排気ガス成分を一層低減させることが要求されており、酸素残量の有無を検出する前記O2センサのみでは、酸素がどの程度残存しているかを定量的に測ることができず、前記排気ガス成分の低減を図ることが困難になっている。そこで、現在では、酸素量に比例した空燃比を測定できるリニア空燃比センサを用いて空燃比フィードバック制御が行われている。
【0004】
ここで、前記排気ガス成分のレベル低減及び燃費の向上等のために、エンジンの運転状態に応じて目標となる空燃比(目標空燃比)を適宜切り換え、各目標空燃比に対する空燃比制御が一般に行われている。例えば、空燃比センサの信号に基づいてクローズドループモードによる空燃比フィードバック制御と、非空燃比フィードバック制御によるオープン空燃比制御とを、所望の運転条件に応じて行っている。
【0005】
この場合に、これら各目標空燃比の切り換え時には前記センサの応答遅れがあり、空燃比制御性が悪化するという問題があることから、この問題を解決するために、目標空燃比を変化させつつ、空燃比制御を行う内燃機関の空燃比制御装置の技術が提案されている(例えば、特許第3023614号公報参照)。
【0006】
該特許第3023614号公報所載の空燃比制御装置の技術は、非空燃比フィードバック制御から空燃比フィードバック制御への移行に対して、内燃機関の目標空燃比を切り換えて所定の空燃比で運転する場合には、その状態移行時からリニア空燃比センサがリッチ状態を出力する、又は所定時間が経過するまでのうち、いずれか早く終了するまでの間は、空燃比の補正量の演算を禁止し、該補正量を固定するものである。
また、空燃比制御装置の他の技術としては、特開平11−247654号公報、特開平8−177571号公報、特開平6−42387号公報等が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、運転状態の変化に応じて目標空燃比を切り換えて所定の空燃比で運転する場合において、前記目標空燃比を切り換えた直後における排気管内の空燃比と燃焼室内の空燃比とが異なっており、空燃比センサ、特に、リニア空燃比センサを用いて目標空燃比の切り換えを行う場合には、理論空燃比からリーン側への移行、若しくはリッチ側への移行に対して前記異なる空燃比に対処することが必要になる。
【0008】
すなわち、本発明者は、運転状態の変化に応じて、内燃機関の目標空燃比を切り換えて所望の空燃比で運転を行う場合には、前記目標空燃比の切り換え直後における、空燃比制御量を排気管内の空燃比と燃焼室内の空燃比との違いを考慮した制御量に設定し、クローズドループモードたる空燃比フィードバック制御を迅速に再開させることが必要である、つまり、前記考慮の対応としてオープン制御を一時的に行った後、迅速にフィードバック制御に切り換えることにより、排気エミッションの一層の向上を図ることができるとの新たな知見を得たものである。前記従来の技術には、非空燃比フィードバック制御から空燃比フィードバック制御への移行について示唆されているが、その他の目標空燃比への切り換え時の制御についていずれも格別な配慮がなされていない。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、運転状態の変化と空燃比制御の切り換えとを連動させ、該切り換えをより迅速に行ってその制御性を高め、空燃比制御の信頼性の向上を図ることができるエンジンの空燃比制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成すべく、本発明に係るエンジンの空燃比制御装置は、排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、前記目標空燃比の切り換え時からの所定の時間は、あらかじめ定められた時間と、前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下になる時間のうち、いずれか短い方の時間であることを特徴としている。
本発明に係るエンジンの空燃比制御装置の具体的態様では、前記空燃比制御装置は、前記エンジンの運転状態に応じて燃焼モードを設定する手段と、空燃比制御量を演算する手段とを備え、該空燃比制御量を演算する手段は、前記燃焼モードを設定する手段及び前記リニア空燃比センサの出力信号に基づいて前記空燃比制御量を演算する一方で、前記燃焼モードを設定する手段からの前記目標空燃比の切り換え信号に基づいて前記空燃比制御量を固定値とする時間を演算することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るエンジンの燃比制御装置の他の具体的態様は、記排気管に触媒を備え、該触媒内に吸着、吸蔵等捕捉されたNOxが放出又は還元(浄化)され、前記目標空燃比が一時的にリッチ側に切り換えられた場合には、該リッチ側に切り換えられている間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴としている。
また、本発明に係るエンジンの他の空燃比制御装置は、排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、前記空燃比制御装置は、前記排気管内に触媒を備え、該触媒内に吸着、吸蔵等捕捉されたNOxが放出又は還元(浄化)され、前記目標空燃比が一時的にリッチ側に切り換えられた場合には、前記NOxの放出の終了後からの所定時間と、前記NOxの放出の終了後から前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下になる時間のうち、いずれかが終了するまでの間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係るエンジンの他の空燃比制御装置は、排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、前記空燃比制御装置は、前記排気管の触媒の温度を測定若しくは推定する手段を備え、前記目標空燃比が切り換えられた場合には、前記触媒の温度の変化量が所定値に達するまでの間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴としている。
【0015】
また、前記エンジンは、前記リニア空燃比センサを前記排気管の触媒の上流側に備えるとともに、第二の空燃比センサを前記触媒の下流側に備え、前記空燃比制御装置は、前記第二の空燃比センサの出力信号に基づいて前記目標空燃比を補正する手段を備えること、若しくは前記空燃比制御装置は、空燃比制御が異常と診断された場合には、前記空燃比制御量を変更して前記フィードバック制御を行うこと、若しくは前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下に達するまでの時間が、前記目標空燃比の切り換え時から所定の経過時間よりも長い場合には、前記空燃比制御の異常と診断されること、又は前記空燃比制御装置は、前記目標空燃比と前記実空燃比との比率若しくは差分に応じた燃料噴射量の補正係数を求め、前記フィードバック制御を行うことを特徴としている。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明に係るエンジンの空燃比制御装置の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態のエンジンの空燃比制御装置を備えたエンジンシステムの全体構成図である。
エンジン100は3気筒からなり、各気筒107に導入される空気は、エアクリーナ106から取り入れられて吸気管108内に入る。該吸気管108には、吸入空気量Qaを調整するスロットル弁104と、前記吸気管108内の圧力を検出する吸気管圧力センサ114とが、各々の適宜位置に配置される。また、吸気管108には、前記スロットル弁104をバイパスし、エンジン100のアイドル運転時のエンジン回転数が目標回転数になるように制御するアイドルスピードコントロールバルブ(ISCバルブ)105が適宜位置に配置される。
【0017】
燃料は、燃料タンク1014から燃料ポンプ1011を介して燃圧制御弁1012に輸送され、該燃圧制御弁1012で一定の燃料圧力とされる。
前記スロットル弁104で流量調整された空気は、前記気筒107の上流側に配設される燃料噴射弁(インジェクタ)101から噴射された燃料と混合されて各気筒107に供給・燃焼される。
【0018】
該各気筒107で燃焼した燃料の排ガスは、排気管109を通じて触媒118に導かれ、浄化された後に排出される。排気管109には、排気空燃比(酸素濃度)に対してリニアな空燃比信号を出力するリニア空燃比センサ116と、酸素の過剰又は不足の2信号を検出するO2センサ119とが、前記触媒118の上流側と下流側に各々配置されている。さらに、エンジン回転数を検出するクランク角センサ111、及びエンジン冷却水温を検出する水温センサ110等が、前記エンジン100の各々の適宜位置に配置されている。
【0019】
前記吸気管圧力センサ114、吸入空気流量計115、前記リニア空燃比センサ116、リア側のO2センサ119、スロットルポジションセンサ113、前記水温センサ110、前記クランク角センサ111並びにカム角センサ112等からの各出力信号は、後述する空燃比制御装置120Aを備えたエンジン制御装置120に各々入力される。
【0020】
該エンジン制御装置120は、車室あるいはエンジンルーム内に配置され、前記種々のセンサから出力される電気的な信号に基づいて、所定の演算処理を行い、運転状態に最適な制御を行うべく、前記インジェクタ101の開閉、点火コイル103を介した点火プラグ102の駆動、及び前記ISCバルブ105の開閉等を行う信号を各々出力する。
【0021】
図2は、前記エンジン制御装置120の内部構成を示したものである。
該エンジン制御装置120の内部は、マイクロコンピュータ401、多数の制御プログラム及びデータを格納させたROM402、計算結果等が一時的に格納されるRAM403、前記エンジン100の各種センサからの信号を取り込む入力回路404、前記マイクロコンピュータ401に所定時間割り込みを発生させるタイマ又はクロック回路(図示省略)、前記マイクロコンピュータ401の指令によりオンオフ可能な出力回路406等から構成される。
【0022】
具体的には、エンジン制御装置120は、吸気管圧力センサ114又は吸入空気流量計115の出力を取り込み、センサ信号電圧を所定のテーブル変換に基づいて単位時間当たりの実際の吸入空気量Qaを算出するとともに、クランク角センサ111のパルス信号を計測し、所定時間内のパルス数又はパルスエッジの時間間隔TDATAに応じてエンジン100の回転数NDATAを計算する。そして、前記吸入空気量Qaを前記回転数NDATAで除し、さらに気筒数で除することにより、1気筒の1回毎の吸入空気量Qacylを計算する。
【0023】
次に、該吸入空気量Qacylにインジェクタ101の流量特性から求められる所定の係数KTIを乗じて、該吸入空気量Qacylで燃焼できる燃料噴射量TIが求められ、空燃比制御補正量ALPHAnを含んだ補正係数COEFnを乗じてインジェクタ101を所定時間開弁させることにより、必要とする燃料量を噴射して、1燃焼毎の混合気を生成する。なお、燃料噴射量TIの算出は、次の式(1)に基づいて行われる。
【0024】
【数1】
TI=COEFn×KTI×Qacyl (1)
ここで、COEFnは補正係数であり、該補正係数COEFnの算出は、次の式(2)に基づいて行われる。
【0025】
【数2】
COEFn=1+ALPHAn+増量補正項 (2)
なお、添え字nは気筒番号であり、気筒107別に制御する場合には、nを1から気筒番号毎に別々のパラメータとする。また、前記吸入空気量Qacylは、エンジン100の出力に比例するので、前記吸入空気量Qacylに乗数を乗じて最大の出力時を100%とする負荷率LDATAに換算することができる。
【0026】
リニア空燃比センサ116は、排気管109の排気ガス中に含まれる残存酸素量を検出、排気ガスの実空燃比(RABFn)を測定し、その酸素濃度に応じた電圧信号をエンジン制御装置120に出力する。そして、気筒107別に前記実空燃比と目標空燃比(TABFn)とを比較し、実空燃比が目標空燃比よりも高い場合(リーン状態)には、前記空燃比補正係数ALPHAnを大きく、一方、低いとき(リッチ状態)には、前記空燃比補正係数ALPHAnを小さく補正する。なお、測定するタイミングは、エンジン100のクランク軸の回転に同期したレファレンスセンサ割り込み毎、又は一定の時間毎に行っており、例えば、基準角度パルスとしてのクランク角センサ111の出力信号、又は気筒判別パルスとしてのカム角センサ112の出力信号に基づいて、波形整形入力回路405を介してマイクロコンピュータ401に割込みを発生させて行われる。
【0027】
また、リア側のO2センサ119は、触媒118の下流側の排気ガスレベルを検出し、その信号をエンジン制御装置120に出力して前記目標空燃比の補正に用いられている。
そして、前記計算結果は、アウトプットコンペア回路4061で現在の時間に計算値を加算してコンペアマッチを起こさせて、必要燃料量に対応した時間分のインジェクタ101を開弁させ、同時に、前記回転数NDATA及び前記負荷率LDATAによって設定される点火時期を求めて点火出力を出し、パルス出力により点火コイル103を介して点火プラグ102を駆動させる。さらに、出力ポート4062を介して後述するセンサ動作切換手段362に信号を出力する。
なお、前記エンジン制御装置120は、通信手段407を備えており、該通信手段407によりマイクロコンピュータ401内の制御パラメータをモニタすることができ、後述する異常診断の結果を表示することができる。
【0028】
図3は、前記リニア空燃比センサ116の構成とその特性を示す図であり、該リニア空燃比センサ116は、(a)に示すように、所定の酸素濃度に保たれた大気導入室1161と、排気ガスに曝された排ガス測定室1162とからなり、両端に空燃比測定用の電流(空燃比測定電流)を流して、大気導入室1161と排ガス測定室1162との酸素濃度比が一定になるようにされる。
【0029】
すなわち、排ガス測定室1162の酸素濃度が大気導入室1161の酸素濃度よりも小さい場合には、前記空燃比測定電流を排ガス測定室1162から大気導入室1161に向けて流し、大気導入室1161内の酸素を排ガス測定室1162に移動させて、排ガス測定室1162の酸素濃度を増やす。一方、排ガス測定室1162の酸素濃度が大気導入室1161の酸素濃度よりも大きい場合には、前記空燃比測定電流を大気導入室1161から排ガス測定室1162に向けて流し、排ガス測定室1162内の酸素を大気導入室1161に移動させて、大気導入室1161の酸素濃度を増やす。
【0030】
そして、大気導入室1161と排ガス測定室1162との酸素濃度比に応じたリニア空燃比センサ116の出力電圧が一定になるように、前記空燃比測定電流をフィードバックさせることにより、該空燃比測定電流が排気空燃比に比例することになる。なお、大気導入室1161の酸素濃度を大気基準とする場合には、大気との酸素濃度比を測定するので、酸素をため込む部屋を必要としないが、大気導入室1161の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも微小の酸素濃度とする場合には、大気又は排気ガスに含まれる酸素から所定の酸素濃度を作成するので、酸素をため込む部屋が必要になる。このときには、大気導入室1161の酸素濃度を一定にするために、空燃比測定電流とは異なる一定の電流を流して酸素濃度を保つことになる。
【0031】
ここで、前記リニア空燃比センサ116の排気空燃比に対する空燃比測定電流は、(b)に示すように、大気導入室1161の酸素濃度をストイキ点相当の微小の酸素濃度にすると、空燃比測定電流が、前記ストイキ点よりもリッチ側では小さく、前記ストイキ点よりもリーン側では大きくなるという特性が得られ、酸素量に比例した値になる。
【0032】
図4は、前記エンジン制御装置における空燃比制御装置120Aの制御ブロック図である。
該空燃比制御装置120Aは、空燃比制御手段120A0、目標空燃比計算手段301、燃料噴射量補正手段307、燃料噴射量計算手段305、駆動回路たる燃料噴射手段306を備え、さらに、後述するリニア空燃比センサ診断手段302、リニア空燃比センサ異常時切替手段303、回転変動計算手段304を備えている。
【0033】
前記目標空燃比計算手段301は、吸気管圧力センサ114又は吸入空気流量計115のデータ320に基づいた負荷率LDATAと、クランク角センサ111のデータ311に基づいた回転数NDATAとから、エンジン100の運転領域を検出し、目標空燃比TABFnを計算する。
【0034】
そして、該目標空燃比TABFnは、前記エンジン100の運転状態に応じて切り換えられて設定される。すなわち、エンジン負荷が小さい場合には、前記目標空燃比をリーンにしてリーンバーンが行われる。なお、リーンバーンを行う場合にはNOxが出るので、触媒118には、NOxの排出を抑えるために、NOxを吸蔵できるものが用いられている。
【0035】
また、中負荷の場合には、前記目標空燃比をストイキにして触媒118の3元点付近に空燃比を制御して排気ガスの浄化が行われる。さらに、高負荷の場合には、前記目標空燃比をリッチにしてパワーをねらうとともに、排気ガスが異常に高温となることを防いでいる。なお、触媒118の温度が低い場合には、浄化機能が発揮され難いため、少なくともHCの排出量を抑えるために、空燃比をリーンにしている。
【0036】
前記空燃比制御手段120A0の空燃比測定手段120A1は、カム角信号から一定の時間毎にリニア空燃比センサ116の信号を取り込み、回転数NDATA、負荷率LDATA又は吸入空気量Qaに応じて前記排気ガスの移動遅れ時間に見合ったタイミング時点でのデータを該当気筒107の実空燃比RABFnとする。そして、該実空燃比RABFnの信号は、前記空燃比制御手段120A0の空燃比制御量演算手段120A3にて前記目標空燃比TABFnと比較して燃料噴射量補正手段307に出力され、該燃料噴射量補正手段307で前記空燃比補正係数ALPHAnを補正し、該空燃比補正係数ALPHAnに基づいて燃料噴射量計算手段305で燃料噴射量TIが求められ、該燃料噴射量TIに基づいて燃料噴射手段306を介してインジェクタ101を駆動させる。
【0037】
また、前記空燃比制御手段120A0の触媒温度を推定する手段120A5は、 排気管109と触媒118との熱容量の差があるため、排気ガス温度をそのまま触媒温度にすることができず、時間的に遅れが生ずることを鑑みて、エンジン始動後の経過時間に応じた補正を加えており、負荷率LDATAと回転数NDATAとから、触媒118の温度を推定し、前記空燃比制御手段120A0の燃焼モードを設定する手段120A2に出力する。そして、該燃焼モードを設定する手段120A2では、前記触媒温度、負荷率LDATA及び回転数NDATAに基づいて、理論空燃比での燃焼と希薄燃焼(リーンバーン)とを切り換え、この燃焼モードに応じた目標空燃比の切り換え信号を空燃比制御量演算手段120A3に出力する。
【0038】
そして、該空燃比制御量演算手段120A3は、前記目標空燃比と前記実空燃比との差に基づいて、燃焼モード設定手段120A2及び空燃比を測定する手段120A1の出力信号に基づいて前記空燃比制御量を演算する一方で、燃焼モード設定手段120A2からの前記目標空燃比の切り換え信号に基づいて前記空燃比制御量を固定値とする時間を演算している。すなわち、燃焼モード設定手段120A2及び空燃比を測定する手段120A1の出力信号に基づいて、通常状態においては、リニア空燃比センサ116の信号に基づいてフィードバック制御(クローズドループモード)し、一方、該クローズドループモードにおいて前記目標空燃比がリーン側に切り換えられた場合には、後述するように、リニア空燃比センサ116の信号を検出しつつもオープン制御(オープンループモード)を一時的に行い、該モードにおいて空燃比制御量を所定の固定値にするとともに、前記目標空燃比の切り換え時から予め定められた所定の待ち時間と、前記目標空燃比と前記実空燃比との差を検出し、その差が所定値以下になる時間とを制御要素として、一定時間の経過後に前記クローズドループモードを再開させるべく機能する。
【0039】
ここで、触媒118の浄化効率は触媒温度だけでなく、経年変化による貴金属の劣化の影響をも受ける。つまり、触媒118が劣化すると、該触媒118内で浄化できる排気ガスの空燃比が変化する。したがって、本実施形態の空燃比制御装置120Aは、こうした触媒118の浄化効率の変化を補正するために、触媒118の下流側の排気ガスレベルが所定値となるように、前記リアO2センサ119出力に応じて前記目標空燃比を補正している。すなわち、リア側のO2センサ119からの信号は、前記空燃比制御手段120A0の目標空燃比補正手段120A4に入力されて前記目標空燃比を補正し、これが燃料噴射量補正手段307に反映されている。
【0040】
また、前記リニア空燃比センサ診断手段302は、後述するリニア空燃比センサ116の異常を診断するものであり、該診断結果が異常を示したときには、前記リニア空燃比センサ異常時切替手段303に信号が出力される。そして、該リニア空燃比センサ異常時切替手段303を介して前記回転変動計算手段304に異常時の信号が出力され、前記目標空燃比計算手段301及び前記燃料噴射量補正手段302に回転変動が出力される。なお、前記回転変動計算手段304は、エンジン100の負荷が小さい場合には、前記目標空燃比計算手段301及び前記燃料噴射量補正手段302に回転変動を出力している。なお、本実施形態の空燃比制御装置120Aは、後述するように、リニア空燃比センサ116の異常を診断するほか、空燃比制御の異常をも診断している。
【0041】
図5は、前記リニア空燃比センサ116の信号の取り込みを示す図である。前記リニア空燃比センサ116からの信号は、各気筒107毎に行われ、前記カム角センサ112による各気筒107の基準角度位置信号(カム角センサ信号)を起動タイミングとし、回転数NDATA、負荷率LDATA又は吸入空気量Qaに応じて各気筒107毎のディレイ時間を設け、その時点のデータを該当気筒107の空燃比として取り込んでおり、これにより、排気弁117からリニア空燃比センサ116の取付位置までの排気ガスの移動時間遅れを補償することができる。
【0042】
図6は、空燃比制御の切り換えタイミングを示したものである。
上記のように、前記目標空燃比はエンジンの運転状態に応じて設定されている。つまり、エンジン出力が比較的小さい場合には、燃焼に必要な燃料量は少なくて済むので、大量の空気又は大量のEGRをかけることによってリーンバーンを行い、燃焼時のポンピングロスを低減させている。一方、エンジン出力が大きい場合には、燃焼に必要な燃料と空気との比率(当量比)を理論燃空比に相当する値(ストイキ)として燃焼効率を高める。当量比の逆数を前記目標空燃比とする。
【0043】
これらの場合において、排気ガスの目標空燃比の変化が比較的小さければ、実空燃比と目標空燃比とのずれは、空燃比制御によって無くすべく制御されるのであるが、(a)に示す前記ストイキと前記リーンバーンとのように、前記各目標空燃比の差が大きいときには、運転状態に応じて目標空燃比を切り換えたときの目標空燃比の変化に実空燃比が追従できず、空燃比制御の制御性が悪化する。
【0044】
このため、前記目標空燃比が変化した場合において、特に、運転状態の変化による目標空燃比の違いが生じたときには、空燃比制御の制御量の逸脱を防止する必要があることから、本実施形態の空燃比制御装置120Aは、(b)に示すように、目標空燃比が切り換えられたときには、オープンループモードの空燃比制御を一時的に行い、前記目標空燃比の切り換え時からの所定の時間WDABFが経過するまで、又は前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下に達するまでの時間のうち、いずれか短い方の時間の経過後に、例えば、前記所定の時間WDABF内に実空燃比が目標空燃比に近づけば、再びクローズドループの空燃比制御に切り換えている。
【0045】
図7は、空燃比制御装置120Aによるクローズドループモードとオープンループモードとの切り換えについて説明したものである。
例えば、理論空燃比によるクローズドループモードの空燃比制御が行われている場合に、燃焼モードがストイキからリーンバーンに変化すると、空燃比制御装置120Aは、(c)に示すように、一時的にオープンループモードに切り換え、(b)に示すように、前記目標空燃比の切り換え時からの待ち時間WDABFを設定するとともに、空燃比制御量(フィードバック係数)を所定時間の間、所定の固定値にし、(a)に示すように、リニア空燃比センサ116の信号を取り込んで実空燃比を検出している。
そして、前記待ち時間WDABFが経過した時又は実空燃比と目標空燃比とが所定差内になった時のいずれか早い時点にて、リーン空燃比によるクローズドループモードを再開させている。
【0046】
つまり、(b)に示すように、前記待ち時間WDABF内に実空燃比が目標空燃比に近づいた場合には、あらかじめ定められた前記待ち時間WDABFが経過する前に空燃比制御を開始し、その一方で、前記実空燃比が目標空燃比に近づくことなく前記待ち時間WDABFが経過したときには、そのときの実空燃比から空燃比制御を行っている。
なお、前記空燃比制御装置120Aは、上記のように、触媒118の温度を考慮しており、前記目標空燃比が切り換えられた場合に、前記触媒の温度の変化量が所定値に達するまでの間には、前記空燃比制御量を固定している。
【0047】
また、リーンバーンを行う場合にはNOxが排出されることから、触媒118でNOxをトラップして、このトラップ量が所定値に達したら、排気に含まれる炭化水素でNOxを分解する必要がある。すなわち、触媒118に炭化水素を供給するため、リーンバーンの途中に一時的にリッチ運転状態に切り換えるリッチスパイクが存在する(図6(a)参照)。したがって、リッチスパイクを行う場合には、該リッチスパイクの実行中にて一時的にオープンループモードにして前記空燃比制御量を固定し、前記リッチスパイクが終了後からの待ち時間WDABFが経過した時若しくは実空燃比が目標空燃比に近づいた時のいずれか早い時点にて、クローズドループモードを再開している。
【0048】
図8は、空燃比制御装置120Aの動作フローチャートであり、空燃比制御を行っている間は、該フローに従って実行される。
ステップ301では、1回前の制御周期時点での運転状態と現在の運転状態とを比較し、これが一致しているか否か判定し、前回と現在の運転状態が一致している場合、すなわちYESのときには、ステップ303に進む。一方、前回と現在の運転状態が一致していないときには、ステップ302に進んで待ち時間をセットし、ステップ306に進む。
【0049】
ステップ303では、待ち時間WDABFがセットされているか否かを判定し、セットされている場合、すなわちYESのときには、ステップ303aに進んでその待ち時間を減算した後にステップ304に進む。一方、ステップ303で待ち時間がセットされていないときにはステップ304に進む。
【0050】
ステップ304では、前記実空燃比と前記目標空燃比との差(ずれ)が所定値以下であるか否かを判定し、該ずれが所定値以下の場合、すなわちYESのときには、ステップ305に進んで前記待ち時間をゼロにリセットしてステップ306に進む。一方、ステップ304で前記実空燃比と目標空燃比とのずれが所定値以下ではないときには、ステップ306に進む。
ステップ306では、前記待ち時間がゼロになっているか否かを判定し、ゼロになっている場合、すなわちYESのときには、ステップ306aに進んでクローズドループにし、該モードの空燃比制御を再開してステップ307に進む。
【0051】
一方、ステップ306では、前記待ち時間がゼロではないときには、ステップ306bに進んで前記空燃比制御量を固定し、空燃比制御をオープンループとし、ステップ307に進む。
そして、ステップ307では、現在の運転状態を1回前の制御周期時点での制御状態として記憶し、一連の動作を終了する。
【0052】
図9は、前記空燃比制御装置120Aの空燃比制御を示したものである。
該空燃比制御装置120Aでは、空燃比センサ116によるリニアな酸素量の検出信号に基づいて前記実空燃比RABFnを取り込んでおり、該実空燃比RABFnと前記目標空燃比計算手段301の各運転状態に応じた目標空燃比TABFnとを比較してその差分DABFn(TABFn−RABFn)を求め、該差分DABFnに基づいて、前記実空燃比RABFnが前記目標空燃比TABFnに一致するようにPID制御を行う。
すなわち、式(3)に示すように、比例部の係数KP、積分部の係数KI、微分部の係数KDをそれぞれ求め、差分DABFnに基づいて空燃比補正量ALPHAnを求め、燃料噴射量補正手段307に出力されている。
【0053】
【数3】
ALPHAn=KP×DABFn+KI×IDABFn+KD×DDABFn (3)
ここで、IDABFnはDABFnの積算値であり、式(4)のように示される。
【0054】
【数4】
IDABFn=DABFn+IDABFn(i−1) (4)
また、DDABFnはDABFnの前回値との差分であり、式(5)のように示される。
【0055】
【数5】
DDABFn=DABFn−DABFn(i−1) (5)
なお、比例部の係数KP、積分部の係数KI、微分部の係数KDは、それぞれ運転状態からマップ又はテーブル検索により求められる値である。
【0056】
図10及び図11は、前記目標空燃比計算手段301による目標空燃比TABFnの補正等について示したものであり、該目標空燃比TABFnは各気筒117毎に設定される。
ここで、エンジン100の負荷が小さい場合、一般にリーン領域では、回転変動が大きく、運転性に悪影響を与えることになるので、このときには、リニア空燃比センサ116の出力によらず、前記回転変動計算手段304で回転変動を求め、目標空燃比補正手段120A4に出力し、目標空燃比TABFnを補正することが必要になる。
【0057】
まず、図10は、前記回転変動の算出について示す図であり、該回転変動は、各気筒107の基準角度位置の時間間隔TDATAを測定することにより算出される。まず、各気筒107のTDATA[i](i:1〜気筒数)に基づいて、式(6)に示すように前記時間間隔TDATAと所定値KDATAとから回転数NELEを求める。
【0058】
【数6】
NELE=KDATA/TDATA (6)
そして、回転変動率dNは、前記回転数NELEの関数とされ、該算出関数f(NELE)は、次のように計算される。
【0059】
例えば、IIRフィルタ形式により算出する場合には、式(7)に示すように、前記回転数NELEにki0を乗じた値を入力とし、過去の演算値dNtemp[i−1]、dNtemp[i−2]にそれぞれ係数ki1、ki2を乗じて和を新規の演算値dNtempとする。
【0060】
【数7】
dNtemp=ki0×NELE+ki1×dNtemp[i−1]+ki2×dNtemp[i−2] (7)
そして、式(8)に示すように、これらの演算値に係数ko1、ko2を乗じて和を回転変動率dNとする。
【0061】
【数8】
dN=dNtemp+ko1×dNtemp[i−1]+ko2×dNtemp[i−2] (8)
なお、計算方法はIIRに限定されるものではなく、FIR形でもよく、また、前記時間間隔TDATAから直接計算してもよい。
【0062】
図11は、回転変動がある場合の前記目標空燃比TABFnの補正を示したものであり、(a)に示すように、前記回転変動率dNに応じて目標空燃比TABFnをストイキ又はリッチ状態に補正する。また、同時に点火時期についても補正を行う。
【0063】
なお、リーン状態で運転している場合には着火性が悪いため、前記点火時期を基準角度位置(TDC)付近にする必要があることから、各気筒107毎の点火時期については、TDC方向への遅角側にはすぐに点火時期が変化し、進角側には単位時間又は単位クランク回転当たり所定の変化量のみ点火時期を進めるダイナミックリミテーションを施すこととする。
【0064】
すなわち、(b)、(c)に示すように、リーン状態にある気筒107には遅角側の点火時期とし、その後、ストイキに戻っても前記点火時期を通常位置に戻すのではなく、所定の回転数に亘りΔDLS分だけ前記点火時期を進めるようにして、着火性を確保しながら前記回転変動を抑えることができる。
【0065】
次に、前記空燃比制御装置120Aにおける空燃比制御の診断を説明する。
図12は、前記空燃比制御装置120Aの前記リニア空燃比センサ診断手段302の一例を示したものであり、診断項目には、リニア空燃比センサ116自体の異常検出と制御値の異常検出とがあり、この診断結果は、前記リニア空燃比センサ異常時切替手段303に出力される。
【0066】
まず、ケース(1)に示すように、リニア空燃比センサ116からの信号電圧が、正常範囲(上限値から下限値)外の場合、又はケース(2)に示すように、各気筒107毎に空燃比を変えて運転しているときにもリニア空燃比センサ116の信号出力が変化しない場合には、センサ116の異常と判定される。この場合には、各気筒107毎に空燃比を変えて制御することを中止してストイキで運転させる。
【0067】
次に、ケース(3)に示すように、燃料カット時にリニア空燃比センサ116の出力がリーン状態を示さない場合には、リーン側異常と診断され、さらに、ケース(4)に示すように、スロットル全開時若しくは低水温時に燃料増量を行っているときに、リニア空燃比センサ116の出力がリッチ状態を示さない場合には、リッチ側の異常と診断される。
【0068】
図13は、前記空燃比制御装置120Aによる空燃比制御の診断を示したものであり、診断項目には、後述するリニア空燃比センサ116の電圧が正常範囲外の場合、空燃比センサ116の電圧が変化しない場合、後述する診断タイマーの時間TMDABnが所定時間を超えている場合、空燃比を制御する気筒番号のリッチ・リーン状態と該当気筒107のリニア空燃比センサ出力による空燃比とが一致しない場合、排気系又は排気管109に異常がある場合とがある。そして、このように、空燃比制御の異常と診断されたときには、前記空燃比制御装置120Aは、燃焼モードをストイキに限定し、オープン空燃比制御にする。
【0069】
図14は、図13の診断タイマーの時間TMDABnに関する空燃比制御の診断を示したものである。
上記のように、空燃比制御量演算手段120A3は、前記目標空燃比と前記実空燃比との差を見ているが、この差が所定値以下に達するまでの時間が、前記目標空燃比が切り換え時から所定の経過時間よりも長い場合、例えば、図示のように、クローズドループからオープンループに目標空燃比を切り換えた際に、診断タイマーをセットして、目標空燃比と実空燃比と差DABFnがゼロになるまでの時間TMDABnを計測し、該時間TMDABnが所定時間以上の場合には、空燃比センサ116の応答遅れが初期値よりも大きくなっている等と判定することができ、前記空燃比制御の異常と診断され、前記空燃比制御装置120Aは、前記空燃比制御量をより小さな値に変更して前記クローズドループモードの空燃比制御を行っている。
【0070】
さらに、目標空燃比と実空燃比とが一致しない状態が継続する場合には、両者の比率又は差分を求めて、比率の逆数又は差分の符号反転値を演算し、燃料噴射量への係数に乗じることで、空燃比制御のクローズドループモードを続けることも可能である。なお、この場合に係数の演算を行うには、運転状態が一定の状態が所定時間以上継続しているときに、徐々に行うことが望ましい。
【0071】
さらにまた、リニア空燃比センサ116の大気導入室1161内の酸素を大気中の酸素としている場合には、大気の酸素濃度が大気圧力に依存するため、大気圧センサによって大気導入量を補正する。大気圧が所定値以下の場合、大気導入量が確保されないので、リニア空燃比センサ出力を使った空燃比制御を停止する。
【0072】
なお、大気導入量をリニア空燃比センサ内に溜めた構造の場合には、大気導入量に応じた酸素電池電圧を診断し、酸素電池電圧が異常に高いときには、大気導入室内の酸素濃度が高いことを示すので、リニア空燃比センサ出力はリッチ側異常となる。一方、酸素電池電圧が異常に低いときには、大気導入室内の酸素濃度が低いことを示すので、リニア空燃比センサ出力はリーン側異常となる。そして、酸素濃度比は排気ガスに含まれる酸素に依存するので、運転状態が一定の状態で診断が行われる。
【0073】
図15は、図13のリニア空燃比センサ116の電圧に関する空燃比制御の診断を示したものであり、回転数と負荷が所定の範囲に入っている場合において、リニア空燃比センサ116の大気導入室1161と排ガス測定室1162との酸素濃度比によって発生する酸素電池電圧たる大気導入室電圧が、正常の範囲外に所定時間以上留まっている場合には、大気導入量が異常と診断される。
【0074】
図16は、前記リニア空燃比センサ診断手段302からの信号に基づく空燃比制御を示しており、リニア空燃比センサ116が正常の場合には、該センサ116及び前記PID制御側において制御が行われるのに対し、センサ116が異常の場合には、前記センサ異常時切替手段303を介して前記大気導入室電圧及びスキップ・積分制御側に切り換えられ、リニア空燃比センサ116の動作を切り換えて大気導入室1161の信号電圧を従来のO2センサ信号と同等に扱う。そして、前記大気導入室電圧が後述する正常範囲内にあるときには、スキップと積分による空燃比補正をし、空燃比制御を行う。
【0075】
さらに、前記空燃比制御装置120Aにおけるフェイルセーフについて説明する。図17は、空燃比制御装置120Aにおけるフェイルセーフ時の燃料補正について説明した図である。
リニア空燃比センサ116が異常と診断された場合には、リニア空燃比センサ116の信号による空燃比制御を停止する。そして、このときの目標空燃比は、ストイキ又はリッチとし、リーンバーンを停止する。
【0076】
そして、リニア空燃比センサ116の大気導入室1161内の酸素濃度と排ガス測定室1162内の濃度比によって発生する酸素電池電圧をリッチ・リーン判定に使い、酸素電池電圧をストイキに相当する電圧VRLで判定し、リッチ側とリーン側に判別する。
ここで、もし、燃料カット時に酸素電池電圧がリーン状態を示せば、少なくともリーン側のフェイルセーフは可能であり、また、加速時のまたは全開運転時に酸素電池電圧がリッチ状態を示せば、リッチ側のフェイルセーフが可能である。
【0077】
さらに、電圧VRLは、リニア空燃比センサ116の異常状態によって変化させる。すなわち、リニア空燃比センサ116がリーン側異常の場合には、電圧VRLをリッチ側にシフトさせて、リッチ・リーン判定の機会を平衡させる。逆に、リニア空燃比センサ116がリッチ側異常の場合、電圧VRLをリーン側にシフトさせて、リッチ・リーン判定の機会を平衡させる。
そして、(a)に示すように、前記電圧VRLを基準に(b)に示す前記リッチ・リーン判定結果に基づき、リッチ状態であれば燃料補正量を所定の変化量でリーンにし、リーン状態であれば燃料補正量を所定の変化量でリッチ側に補正する。なお、変化を与える間隔は、一定時間毎又はカム角信号毎に行う。
【0078】
このような補正により、リッチ状態からリーン状態、若しくはリーン状態からリッチ状態に変化した場合には、(c)に示すように、燃料補正量に大きなスキップ分の変化を与えて、ストイキ付近でのスイッチングを行うこととする。
なお、前記フェイルセーフは、目標空燃比を一定にし、燃料補正量を変化させたが、実空燃比に変化を与えてもよいものである。
【0079】
この場合、前記リッチ・リーン判定結果に基づき、センサ異常を検出したときに初期値として実空燃比をストイキとし、リッチ状態であれば実空燃比を所定の変化量でリーンとする。リーン状態であれば実空燃比をリッチ側とする。
そして、リッチ状態からリーン状態、若しくはリーン状態からリッチ状態に変化した時には、実空燃比に大きなスキップ変化を与え、このフェイルセーフ時の実空燃比がストイキである目標空燃比に一致するように空燃比制御を行う。
【0080】
また、前記ヒータたる加熱手段を有する場合のリニア空燃比センサによる空燃比測定においては、前記ヒータが断線している場合、若しくはエンジン制御装置内のヒータ電流駆動トランジスタの不具合の場合には、リニア空燃比センサは動作しないが、エンジンの運転状態が高負荷状態であれば排気ガス温度が高いので、ヒータが断線してもリニア空燃比センサが加熱されるので、空燃比測定が可能である。なお、ヒータ断線又はトランジスタ不具合を検出したときには、ヒータ駆動を停止し、エンジンの運転状態が低負荷状態であればリニア空燃比センサの空燃比測定を禁止する。
【0081】
さらに、リニア空燃比センサが異常と診断される場合には、該リニア空燃比センサの温度が原因の場合もあるので、少なくともリニア空燃比センサの温度を確保するために、リニア空燃比センサのヒータに印可する電圧を一定又は運転状態に応じて変化させて、センサ温度を保つようにすることも考えられる。この場合、運転状態に応じたセンサ温度を推定し、リニア空燃比センサ出力に温度に応じた補正を加えてもよいものである。
【0082】
さらにまた、キャニスタパージを行っている場合には、キャニスタに蓄えられた蒸発燃料が少量吸入管側に導入されたとき、導入された空気に含まれる燃料濃度がリッチ状態であれば、吸入空気はリッチ側になり排気ガスには未燃焼分のHCが多くなるので、一時的にリーン側にならなくなり、リーン側異常と誤診断される可能性がある。一方、キャニスタからの燃料濃度がリーンであれば逆にリッチ側異常と誤診断されることになる。
【0083】
よって、キャニスタパージを行った場合に、リッチ状態又はリーン状態になれば、キャニスタパージ量を減らして目標空燃比をそれぞれリーン側又はリッチ側にし、キャニスタパージを行わない場合の空燃比をストイキからずらして、さらにキャニスタパージを継続することもできる。
この他、EGR制御、スワールコントロール制御、タンブル制御等の補助弁制御によって燃焼状態が変化した場合にも一時的に空燃比制御を異常と診断されることがあるが、前記補助弁制御を開始する前後の所定時間の診断を禁止することにより、誤診断を防止できる。そして、リニア空燃比センサの診断を再度行う。
【0084】
また、リニア空燃比センサが異常と診断された場合には、目標空燃比をストイキとしたが、目標空燃比を設定せず、運転状態に応じた混合比でエンジンを制御し、目標空燃比に実空燃比を一致させる空燃比制御を停止し、オープンループ制御としてもよく、この場合には、混合比をリーンにすることもでき、回転変動を検出することでリーンにする度合を補正する。すなわち、回転変動がなければ混合比を徐々にリーンとし、回転変動が生じればリッチに補正する方式がある。
以上のように、本発明の前記実施形態は、上記の構成によって次の機能を奏するものである。
【0085】
すなわち、前記実施形態のエンジンの空燃比制御装置120Aは、目標空燃比設定手段301と、エンジン100の運転状態に応じて燃焼モードを設定する手段120A2と、該燃焼モードを設定する手段120A2及び空燃比を測定する手段120A1の出力信号に基づいて、エンジン100の運転状態に応じた目標空燃比となるように空燃比制御量を演算する手段120A3とを備え、クローズドループモードにおいて前記目標空燃比が切り換えられた場合には、オープンループモードの空燃比制御を一時的に行うとともに、該オープンループモードにおいて前記目標空燃比の切り換え時からの所定時間又は前記目標空燃比と前記実空燃比との差に応じて、クローズドループモードを再開させ、空燃比制御の切り換えを迅速に行うことができるので、排気エミッションの一層の向上を図ることができる。
【0086】
そして、空燃比制御装置120Aは、リニア空燃比センサ116を用いて目標空燃比の切り換えを行う場合には、ストイキとリーンバーンとの切り換え及びリッチスパイク等、異なる空燃比に対応する場合には、オープンループモードの空燃比制御が途中に必要になり、該オープンループモードにて空燃比制御量を固定し、リニア空燃比センサ116の出力とエンジン100の運転状態の相関を見て、運転状態の変化と燃焼モードの切り換えとを連動させているので、空燃比制御性を高めることができ、排気ガス成分を低減させて、空燃比制御の信頼性の向上を図ることができる。
また、空燃比制御装置120Aは、リア側のO2センサ119の信号に基づいて前記目標空燃比を補正しているので、触媒118の浄化効率の変化にも的確に応ずることができ、空燃比制御性及びその信頼性の更なる向上を図ることができる。
【0087】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱することなく、設計において種々の変更ができるものである。
例えば、触媒温度を知るには、温度センサを用いてもよく、また、運転領域に応じて排気ガス温度を予め測定しておき、触媒の熱容量を考慮したフィルタを用いて計算式から推定することも可能であり、この場合にも前記と同様の効果を得ることができる。
【0088】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明に係るエンジンの空燃比制御装置は、運転状態の変化に伴った空燃比制御を行い、排気ガスレベルの悪化を迅速、かつ、確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の空燃比制御装置を備えたエンジンシステムの全体構成図。
【図2】図1のエンジン制御装置の内部構成図。
【図3】図1のリニア空燃比センサの構成及び特性を示す図。
【図4】図1の空燃比制御装置の制御ブロック図。
【図5】図1のリニア空燃比センサによる空燃比取り込みタイミングを示す図。
【図6】図1の空燃比制御装置における運転状態に応じて空燃比制御を切り換えるタイミングの説明図。
【図7】図1の空燃比制御装置における目標空燃比を切り換えた際の空燃比の再開の説明図。
【図8】図1の空燃比制御装置における運転状態切り換え時の空燃比制御の動作フローチャート。
【図9】図1の空燃比制御装置のPID動作説明図。
【図10】図1の空燃比制御装置の回転変動算出を示す図。
【図11】図1の空燃比制御装置の回転変動検出時における目標空燃比及び点火時期の補正を示す図。
【図12】図1の空燃比制御装置におけるリニア空燃比センサの異常検出を示す図。
【図13】図1の空燃比制御装置における空燃比制御の応答異常等検出の説明図。
【図14】図13の空燃比制御の異常検出の説明図。
【図15】図13の大気導入室電圧の異常検出の説明図。
【図16】図1の空燃比制御装置におけるリニア空燃比センサ異常時の切り換えを示す図。
【図17】図1の空燃比制御装置におけるフェイルセーフ時の燃料補正の説明図。
【符合の説明】
100 エンジン
109 排気管
116 リニア空燃比センサ
118 触媒
119 リア側のO2センサ(第二の空燃比センサ)
120A 空燃比制御装置
120A1 実空燃比を測定する手段
120A2 燃焼モードを設定する手段
120A3 空燃比制御量を演算する手段
120A4 目標空燃比を補正する手段
120A5 触媒の温度を推定する手段

Claims (9)

  1. 排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、
    該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、
    前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、
    前記目標空燃比の切り換え時からの所定の時間は、あらかじめ定められた時間と、前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下になる時間のうち、いずれか短い方の時間であることを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。
  2. 前記空燃比制御装置は、前記エンジンの運転状態に応じて燃焼モードを設定する手段と、空燃比制御量を演算する手段とを備え、該空燃比制御量を演算する手段は、前記燃焼モードを設定する手段及び前記リニア空燃比センサの出力信号に基づいて前記空燃比制御量を演算する一方で、前記燃焼モードを設定する手段からの前記目標空燃比の切り換え信号に基づいて前記空燃比制御量を固定値とする時間を演算することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  3. 記空燃比制御装置は、前記排気管に触媒を備え、該触媒内に吸着、吸蔵等捕捉されたNOxが放出又は還元(浄化)され、前記目標空燃比が一時的にリッチ側に切り換えられた場合には、該リッチ側に切り換えられている間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  4. 排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、
    該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、
    前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、
    前記空燃比制御装置は、前記排気管に触媒を備え、該触媒内に吸着、吸蔵等捕捉されたNOxが放出又は還元(浄化)され、前記目標空燃比が一時的にリッチ側に切り換えられた場合には、前記NOxの放出の終了後からの所定時間と、前記NOxの放出の終了後から前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下になる時間のうち、いずれかが終了するまでの間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。
  5. 排気管内の排気ガスの実空燃比をリニアに測定するリニア空燃比センサを備えたエンジンの空燃比制御装置において、
    該空燃比制御装置は、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を切り換えるとともに、前記目標空燃比と前記実空燃比とに基づく空燃比制御量でフィードバック制御を行うものであって、
    前記目標空燃比が切り換えられた場合には、該目標空燃比の切り換え時からの所定の時間の間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであって、
    前記空燃比制御装置は、前記排気管の触媒の温度を測定若しくは推定する手段を備え、前記目標空燃比が切り換えられた場合には、前記触媒の温度の変化量が所定値に達するまでの間、前記空燃比制御量を所定の固定値にするものであることを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。
  6. 前記エンジンは、前記リニア空燃比センサを前記排気管の触媒の上流側に備えるとともに、第二の空燃比センサを前記触媒の下流側に備え、前記空燃比制御装置は、前記第二の空燃比センサの出力信号に基づいて前記目標空燃比を補正する手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  7. 前記空燃比制御装置は、空燃比制御が異常と診断された場合には、前記空燃比制御量を変更して前記フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  8. 前記目標空燃比と前記実空燃比との差が所定値以下に達するまでの時間が、前記目標空燃比の切り換え時から所定の経過時間よりも長い場合には、前記空燃比制御が異常と診断されることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  9. 前記空燃比制御装置は、前記目標空燃比と前記実空燃比との比率若しくは差分に応じた燃料噴射量の補正係数を求め、前記フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載のエンジンの空燃比制御装置。
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