JP4030622B2 - ガンダイオード - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波やミリ波帯の発振素子として用いられるガンダイオードの構造に関し、特に発振効率の高いガンダイオードに関する。
【0002】
【従来の技術】
InPやGaAs等の化合物半導体のガン効果(電子遷移効果)を利用した半導体素子であるガンダイオードは、マイクロ波帯やミリ波帯の発振素子として広く利用されている。
【0003】
以下、GaAsガンダイオードを例に取り説明する。図6に従来のガンダイオードの断面構造を示す。図において1はカソード電極、2は高濃度GaAsコンタクト層、3はGaAs活性層、4は高濃度GaAs層、5は高濃度GaAs基板、6はアノード電極である。図に示すように、従来のガンダイオードは、使用する周波数帯によって決まる所定の不純物濃度と厚さを有するGaAs活性層3に、高濃度GaAsコンタクト層を介してカソード電極1に接続し、高濃度GaAs層4及び高濃度GaAs基板5を介してアノード電極6に接続していた。
【0004】
通常ガンダイオードの伝導電子は、活性層に印加される電界強度が臨界値Ethより小さいときには、移動度が大きく、エネルギー状態の低いガンマーバレーに存在し、電界強度が臨界値Ethより大きくなると、移動度が小さく、エネルギー状態の高いL(又はX)バレーに遷移する。このため、臨界値Ethを越える領域で、負性微分抵抗を有することになる。
【0005】
図6において、カソード電極1、アノード電極6間に臨界値Ethを越える電圧が印加すると、GaAs活性層3のカソード電極1側にガンドメインと呼ばれる電気二重層が発生し、アノード電極6に向かって移動する。ガンドメインは、高濃度GaAs層4に達すると消失し、同時に新しいガンドメインがGaAs活性層3のカソード電極1側に発生する。このようなガンドメインの発生、消失の繰り返しにより発生する直流電流が、交流電流に重畳され、発振動作が発生する。ここで、直流電流の周波数がガンダイオードの発振周波数となる。ガンダイオードでは、入力した交流電力に対する直流電力出力の比で表される発振効率が最も重要な性能指数であり、その向上が求められている。
【0006】
しかし、従来のガンダイオードは、GaAsからなる活性層のカソード電極側に、ガンドメインが発生できないデッドゾーンと呼ばれる部分が発生するという欠点があった。ガンドメインは、カソード電極1が接続するGaAsコンタクト層2からGaAs活性層3に注入される伝導電子が、ガンマーバレーからL(又はX)バレーへ遷移するために必要なエネルギーを与えられることによって発生する。従って、遷移するために必要なエネルギーが与えられるまで伝導電子が走行する距離がデッドゾーンとなる。
【0007】
このデッドゾーンの厚さは、薄いほど発振効率が高く、活性層の厚さに対する割合が大きくなるに従い発振効率を低下させてしまう。このため、マイクロ波やミリ波のような高周波帯域の周波数の発振を得るため活性層の厚さを薄くしたガンダイオードでは、デッドゾーンの厚さが活性層の厚さに対して大きな割合を占めてしまい、発振効率の低下が著しいという欠点があった。
【0008】
従来このデッドゾーンを消失させる方法として、図7に示すように、GaAs活性層3にカソード電極1を直接接続し、かつカソード電極1がGaAs活性層3にショットキー接合する構造のガンダイオードが提案されていた。このような構造のガンダイオードは、カソード電極1とGaAs活性層3間に生じるショットキー障壁の高さを最適化することにより、ショットキー障壁の高さに相当するエネルギーを有する伝導電子を、カソード電極1からGaAs活性層3に注入することができる。注入された伝導電子は、高エネルギー帯であるLバレーに容易に遷移することができから、デッドゾーンの発生を抑制することができるのである。
【0009】
図8に活性層に注入された伝導電子が、ガンマーバレーからLバレーに遷移するために必要なエネルギーを得るため、設定されるショットキー障壁の高さを算出した結果を示す。図に示すように、活性層の不純物濃度とともにショットキー障壁の高さが変化するが、おおむね0.3〜0.4eVの障壁の高さを有するショットキー接合を形成することが必要であることがわかる(Proceeding of IEEE Vol.65 No.5 pp.823-824,May 1975)。この障壁の高さは、GaAsガンダイオードに限らず、InP等他の化合物半導体でガンダイオードを形成する場合も同様である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、0.3〜0.4eVという低いショットキー障壁を、活性層となるInP、GaAsに形成することは非常に難しい。例えば、チタン、白金等、一般に使用されている金属をInP、GaAsに接触させた場合、ショットキー障壁の高さは、それぞれ0.5eV、0.8eVと大きくなってしまう。また、ショットキー障壁の高さを低くするため、例えば銀、錫をそれぞれ活性層表面に蒸着し、熱処理を施す方法も提案されているが、表面状態によってショットキー障壁の高さがばらついたり、後工程の熱処理で特性が変動したり、再現性が悪く使用することができないという問題があった。本発明は、上記問題点を解消し、再現性良く形成することができ、かつデッドゾーンが形成されないガンダイオードを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のガンダイオードは上記目的を達成するため、活性層と、該活性層に接続するカソード電極及びアノード電極を備えたガンダイオードにおいて、前記カソード電極は、前記活性層より高濃度のコンタクト層を介して前記活性層に接続し、該コンタクト層は、前記活性層との伝導帯バンドオフセットが0.05〜0.3eVとなる膜を含むことを特徴とするものである。
【0012】
特に、前記活性層としてGaAsを、前記膜としてInxGa1-xAsを選択することで、容易に活性層と膜との伝導帯バンドオフセットが0.05〜0.3eVとなるように制御することができ、発振効率の高いガンダイオードを得ることができる。
【0013】
また、前記InxGa1-xAs層は、少なくともInyGa1-yAs層を含む膜を介して前記カソード電極に接続し、該InyGa1-yAs層のInの組成比yが、y=xからy=0へ変化するように構成することで、格子欠陥の発生を極力抑えながら、カソード電極とオーミック接触を可能とする厚いコンタクト層を備えたガンダイオードを提供することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態についてGaAsガンダイオードを例に取り説明する。図1に本発明のガンダイオードを示す。図において1はカソード電極、2は高濃度GaAsコンタクト層、3はGaAs活性層、4は高濃度GaAs層、5は高濃度GaAs基板、6はアノード電極、7は高濃度InxGa1-xAs層、8は高濃度InyGa1-yAs層(Inの組成比yは、y=xからy=0に変化する)である。
【0015】
図に示すように、本発明のガンダイオードは、使用する周波数帯によって決まる所定の不純物濃度と厚さを有するGaAs活性層3が、高濃度InxGa1-xAs層7及び高濃度InyGa1-yAs層8を介してカソード電極1に接続している。また、GaAs活性層3が、高濃度GaAs層4及び高濃度GaAs基板5を介してアノード電極5に接続していた。
【0016】
図2に、図1に示すガンダイオードのエネルギーバンド図を示す。図に示すように、カソード電極は、高濃度GaAs層からなるコンタクト層、Inの組成比yがy=0からy=xに徐々に増加する傾斜した組成を有する高濃度のInyGa1-yAs層及び高濃度のInxGa1-xAs層を介して、GaAsからなる活性層に接続している。ここで、InxGa1-xAs層とGaAsからなる活性層3は、ヘテロ接合を形成し、伝導帯バンドオフセットが形成される。この障壁の高さ、すなわち伝導帯バンドオフセット△Ecは、Inの組成比xを適宜選択することにより設定され、障壁の高さqVは、△Ec、InxGa1-xAs層、GaAs層それぞれの不純物濃度を適宜選択することにより設定することができる。具体的には、伝導帯バンドオフセットを0.05〜0.3eVに設定する。その結果、活性層に注入される伝導電子は、ガンマーバレーより高いエネルギー帯のLバレーに遷移することができるだけのエネルギーを有することになり、デッドゾーンの発生を最小限に抑制することができる。
【0017】
一例として図3に、伝導帯バンドオフセット△EcとInの組成比xの関係を示す。これは、InxGa1-xAs層とGaAs層との間に格子欠陥が生じていない条件でシュミレーションした結果である(M.J.Joyce et al.,Phys.Rev.B38,10978,1988)。図に示すように、Inの組成比xを0.1〜0.4の範囲で制御することで、伝導帯バンドオフセット△Ecを0.05〜0.3eVに設定することができる。
【0018】
伝導帯バンドオフセットが0.05〜0.3eVの範囲に限定されるのは、以下の理由による。即ち、伝導帯バンドオフセットが0.05eV以下では、Lバレーに遷移するために必要なエネルギーが得られず、デッドゾーンが発生してしまう。また、0.3eV以上の伝導帯バンドオフセットがあると、障壁を乗り越えることができる電子が少なくなり、発振効率が低下してしまうからである。
【0019】
なお、高濃度InyGa1-yAs層8は、高濃度InxGa1-xAs層7の厚さが薄い場合には、GaAs層との間で格子不整合が発生することがないので、必ずしも必要としない。しかし、カソード電極1のオーミック接触を形成する際、電極金属の拡散による特性変動を防止するため高濃度InxGa1-xAs層7を含んだコンタクト層を厚く形成する場合は、高濃度InyGa1-yAs層8を備えるのが好ましい。
【0020】
上記構造のガンダイオードは、次のように形成することができる。まず、N型の高濃度GaAs基板5上に、例えばMBE(分子線エピタキシャル)法により、アノード電極のコンタクト層の一部を構成するN型の高濃度GaAs層4を、不純物濃度2×1018atom/cm3、厚さ1um程度成長させる。さらに、N型のGaAs活性層3(不純物濃度1.3×1016atom/cm3、厚さ1.6ミクロン程度)、カソード電極のコンタクト層となるN型の高濃度In0.2Ga0.8As層7(不純物濃度2.0×1018atom/cm3、厚さ0.015um程度)、N型の高濃度InyGa1-yAs層8(不純物濃度2.0×1018atom/cm3、厚さ0.05um程度で、y=0.2からy=0に表面に向かって傾斜するように組成変化している)、N型の高濃度GaAsコンタクト層2(不純物濃度2.0×1018atom/cm3、厚さ0.5um程度)を順次積層した半導体基板を用意する。
【0021】
半導体基板表面に、表面の高濃度GaAsコンタクト層2とオーミック接触するAuGe/Ni/Auを蒸着し、リフトオフ法によりカソード電極パターンを形成する。その後、熱処理を行い、カソード電極1を形成する(図4)。
【0022】
次にホトレジストをマスクにメサエッチングを行う(図5)。N型の高濃度GaAs基板5を機械的、化学的にエッチングし、厚さ100um程度まで薄膜化する。N型の高濃度GaAs基板5とオーミック接触するAuGe/Ni/Au/Ti/Pt/Auを全面に蒸着し、熱処理することにより、アノード電極6を形成する(図1)。
【0023】
このように形成される本発明のガンダイオードは、N型のGaAs活性層3とコンタクト層の一部を構成するN型の高濃度In0.2Ga0.8As層7との間で、伝導帯バンドオフセットが約0.16eVとなる。そのため、カソード電極1からコンタクト層を介してGaAs活性層3に注入される電子は、少なくとも伝導帯バンドオフセットに相当するエネルギーだけ大きなエネルギーを持っていることになる。従って、活性層に注入される伝導電子は、ガンマーバレーから大きいエネルギー状態のLバレーへ容易に遷移することができ、デッドゾーンの発生を最小限に抑制することができる。一例として、このガンダイオードを60GHzの発振器として用いた場合、発振効率が4%という結果が得られた。これは、従来構造のガンダイオードを用いた場合の2倍の発振効率に相当する。
【0024】
N型のGaAs活性層3とコンタクト層の一部を構成するN型の高濃度InxGa1-xAs層7との間の伝導帯バンドオフセットは、Inの組成比xにより決まる。上述したMBE法は、Inの組成比を正確に制御しながら半導体膜を成長させることができ、伝導帯バンドオフセットを正確に制御できる。同様に、格子欠陥の発生を抑制するためGaAsコンタクト層とInxGa1-xAs層の間に形成されるInの組成比yが傾斜しているInyGa1-yAs層も、上述のMBE法で正確に制御しながら成長させることができ、再現性良く、本発明のガンダイオードを形成することができる。
【0025】
【発明の効果】
このように本発明によれば、GaAsとInGaAsのようなヘテロ接合の伝導帯の不連続を利用して、高いエネルギーを有する伝導電子を活性層に注入することができるため、デッドゾーンの発生を最小限に抑制することが可能となった。その結果、発振効率を向上させることができ、ガンダイオードの消費電力を低くすることができた。ヘテロ接合の伝導帯バンドオフセットは、MBE法等を利用し、コンタクト層等を構成する化合物半導体の組成を制御することで容易に制御でき、再現性良く形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施の形態を説明するエネルギーバンド図である。
【図3】InxGa1-xAs/GaAsの伝導帯バンドオフセットの組成依存性を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態を説明する断面図である。
【図5】本発明の実施の形態を説明する断面図である。
【図6】従来のガンダイオードを説明する断面図である。
【図7】従来の別のガンダイオードを説明する断面図である。
【図8】ガンマーバレーからLバレーへ電子が遷移するために必要なショットキー障壁の高さを示すグラフである。
【符号の説明】
1 カソード電極
2 高濃度GaAsコンタクト層
3 GaAs活性層
4 高濃度GaAs層
5 高濃度GaAs基板
6 アノード電極
7 高濃度InxGa1-xAs層
8 高濃度InyGa1-yAs層
Claims (3)
- 活性層と、該活性層に接続するカソード電極及びアノード電極を備えたガンダイオードにおいて、
前記カソード電極は、前記活性層より高濃度のコンタクト層を介して前記活性層に接続し、該コンタクト層は、前記活性層との伝導帯バンドオフセットが0.05〜0.3eVとなる膜を含むことを特徴とするガンダイオード。 - 請求項1記載のガンダイオードにおいて、前記活性層がGaAsからなることと、前記膜がInxGa1-xAsからなることを特徴とするガンダイオード。
- 請求項2記載のガンダイオードにおいて、前記InxGa1-xAs層は、少なくともInyGa1-yAs層を含む膜を介して前記カソード電極に接続し、該InyGa1-yAs層のInの組成比yが、y=xからy=0へ変化することを特徴とするガンダイオード。
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