JP4030389B2 - 大容量貯水池の浚渫作業システム及び浚渫作業方法 - Google Patents

大容量貯水池の浚渫作業システム及び浚渫作業方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川水域又はその周辺に位置するダム等の大容量貯水池の水底の堆積土砂を浚渫して外部に搬出できるようにした大容量貯水池の浚渫作業システム及び浚渫作業方法に関する。
【0002】
尚、本発明において、「堆積土砂」とは、比重が比較的小さいヘドロ、汚泥等の軽量土砂と、比重が比較的大きく砂、小石等の混じった重量土砂の何れであってもよく、またこれら軽量土砂及び重量土砂の混ざったものでもよい。また、本発明において「大容量貯水池」とは、ダムの他、上流側からの土砂の堆積による有効深度の低下が問題となる種々の貯水池(例えば湖、遊水池等)が含まれ、人工物及び自然物の如何を問わない。またその「大容量貯水池」は、河川水域に位置するものだけでなく、河川水域の周辺に位置するものも含まれる。
【0003】
【従来の技術】
水力発電や灌漑等に利用される既存のダムが抱える今日的な重要課題として、その上流側から流れてきた土砂が長年に亘りダムの水底に多量に堆積し、その有効深度を浅くしてしまうことによりダムの発電能力が低下したり或いは貯水量が減少する、ということが挙げられており、このような問題を放置し続けると遂にはダムが使用できなくなってしまう虞れがある。
【0004】
そこで、このような問題に対処するために、例えば、(1) ダム水底の堆積土砂を浚渫してダム外に運び出すことや、(2) ダムの浅くなった部分の堆積土砂を、ダムのより深い部分に移動させたりすることが、既に試みられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記(1) の場合には、山中に設けられることが多く道路事情が余り良くないダムから多量の浚渫土砂を外部に搬出する作業に多大の手間とエネルギ(従ってコスト)を要し、また上記(2) の場合には、堆積土砂をダム内で単に移し替えるだけであるため、ダムの平均深度は変わらず、根本的な解決とはなり得ない、という不都合がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑み提案されたものであって、ダム等の大容量貯水池の水底に堆積する多量の土砂を、比較的少ないエネルギとコストで、しかも自然環境に極力影響が出ないよう配慮しながら、能率よくダム外に排出できるようにした、大容量貯水池の浚渫作業システム及び浚渫作業方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、河川水域又はその周辺に位置するダム等の大容量貯水池の水面に、その水上を移動可能な浚渫作業船を浮かせ、この作業船に並設されてそれぞれの上流側開口端が水中及び水上互いに独立して昇降可能な複数の可動吸込管と、それら複数の可動吸込管の下流端に互いに並列に一端が接続され且つその他端が大容量貯水池よりも低水位の河川水域まで延びる、少なくとも一部が可撓性の単一の排出管とでサイフォン管を構成し、前記複数の可動吸込管の上流側開口端を大容量貯水池の水底に臨ませると共に、サイフォン管に接続した吸水ポンプを用いて該サイフォン管のサイフォン作用を開始させ、そのサイフォン作用により、大容量貯水池の水底の堆積土砂を水と共に吸い上げて河川水域に排出可能とした、大容量貯水池の浚渫作業システムであって、個々の可動吸込管には、その個々の可動吸込管を他の可動吸込管及び排出管より随時に遮断し得る開閉弁と、その開閉弁よりも上流側に在って該個々の可動吸込管の管内の水抜きを個別に行なうための大気開放弁とが互いに直列に設けられることを特徴とする、大容量貯水池の浚渫作業システム
【0008】
上記請求項1の特徴によれば、上記サイフォン管によるサイフォン作用の吸込み強さを適宜設定することにより、大容量貯水池の水底の堆積土砂を水と共に吸い上げて河川水域に徐々に且つ連続的に排出することができるから、少ないエネルギとコストで大容量貯水池の水底の堆積土砂を能率よく浚渫可能となり、しかもその堆積土砂が放出される河川水域には、堆積土砂が一時に大量に放出される虞れはなくて少量ずつ連続的に放出可能であるので、その河川の水流(自然力)を利用して放出土砂を下流側へ無理なく搬出でき、自然環境への影響を極力排除することができる。また特に作業船に並設されてそれぞれの上流側開口端が水中及び水上で互いに独立して昇降可能な複数の可動吸込管と、それら複数の可動吸込管の下流端に互いに並列に一端が接続され且つその他端が大容量貯水池よりも低水位の河川水域まで延びる単一の排出管とでサイフォン管を構成し、個々の可動吸込管には、その個々の可動吸込管を他の可動吸込管及び排出管より随時に遮断し得る開閉弁と、その開閉弁よりも上流側に在って該個々の可動吸込管の管内の水抜きを個別に行なうための大気開放弁とが互いに直列に設けられるので、一部の可動吸込管内が塵埃等で詰まったときには、この可動吸込管の開閉弁を閉じ且つ大気開放弁を開くことで、その管内の水抜きを的確に行なうことができ、しかもこの水抜き作業中も、他の可動吸込管を通してサイフォン作用を支障なく継続的に行なうことができ、作業能率が高められる。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1の上記特徴に加えて、前記排出管の他端開口を臨ませる河川水域の近くに、該排出管からの排出土砂の一部を一時的に貯め置くことができる土砂貯留地を設置し、この土砂貯留地に前記排出管の他端開口を随時に臨ませるようにしたことを特徴とし、この特徴によれば、サイフォン管で吸い上げた、ダムの堆積土砂の少なくとも一部を河川水域にそのまま放出せずに、上記土砂貯留地に貯め置くことができるから、その貯め置いた堆積土砂を難なく採取することができて、それを建設資材その他の用途に利用できる。
【0010】
また請求項3の発明は、前記請求項1又は2に記載された大容量貯水池の浚渫作業方法の実施に使用される浚渫作業システムであって、浚渫作業船には前記吸水ポンプが装備され、前記サイフォン管の途中には、その管内に空気を混入させて前記サイフォン作用による吸込力の調整を行なうための少なくとも1つの混気手段が設けられることを特徴とし、この特徴によれば、浚渫作業船に設けた吸水ポンプにより、サイフォン作用を開始させるための呼び水を効率よくサイフォン管に導入できる。また混気手段によりサイフォン管内への空気混入割合を調整することで、サイフォン作用による吸込力調整を任意に行なうことができるから、堆積土砂の状態(例えば粘度、比重、小石の交じり具合等)に応じてサイフォン作用の吸込力を的確に調整でき、しかも上記吸込力調整によりサイフォン管内の流量調整(従って土砂吸込量の調整)を任意に行なうことができるから、例えば大容量貯水池への土砂流入量や、同貯水池の堆積土砂が放出される河川水域の水流の程度(即ち放出土砂の受入能力)に応じて、該河川水域への土砂放出量を的確に調整することができる。
【0011】
また請求項4の発明は、請求項3の上記特徴に加えて、前記排出管の下流端又はその近傍には、該排出管を随時に遮断して前記サイフォン作用を一時的に中断し得る放出規制弁が設けられることを特徴とし、この特徴によれば、上記放出規制弁によって排出管内をその下流端又はその近傍で随時に遮断することができるから、サイフォン作用を一時的に簡単に中断させることができ、従って、浚渫作業を中断する度毎に一々吸水ポンプを作動させてサイフォン管に呼び水を導入する必要はなくなり、作業の利便性が図られる。
【0012】
また請求項5の発明は、請求項3又は4の上記特徴に加えて、前記可動吸込管の上流側端部には、浚渫作業船に設けた高圧水供給源に接続されて高圧水を水底の堆積土砂に向けて噴射し得る噴射ノズルが、該可動吸込管の上流側端部と共に移動できるように取付けられ、大容量貯水池の水底の堆積土砂を、噴射ノズルから噴射した高圧水により拡散させた上で、サイフォン管に吸い上げさせるようにしたことを特徴とし、この特徴によれば、サイフォン作用による土砂吸上力が比較的小さくても、堆積土砂を、高圧水により適当に崩壊、拡散させた上で、サイフォン管(可動吸込管)内に効率よく吸い込むことが可能となる。
【0013】
また請求項6の発明は、前記請求項1〜5の何れかに記載の大容量貯水池の浚渫作業システムを用いた浚渫作業方法であって、一部の可動吸込管内が塵埃等で詰まったときには、この詰まった可動吸込管の開閉弁を閉じると共に該詰まった可動吸込管の先部側を水上まで引上げて同吸込管の大気開放弁を開くことで、その詰まった可動吸込管内の水抜きを行い、その水抜き後に前記詰まった可動吸込管内の詰まりを水上で取り除き、また前記水抜き作業中も、他の可動吸込管を通して前記サイフォン作用を継続的に行なうようにしたことを特徴とし、この特徴によれば、一部の可動吸込管内が塵埃等で詰まったときには、この詰まった可動吸込管の開閉弁を閉じ且つ該詰まった可動吸込管の先部側を水上まで引上げて同吸込管の大気開放弁を開くことで、その詰まった可動吸込管内の水抜きを行うことができて、その水抜き後に前記詰まった可動吸込管内の詰まりを水上で取り除くことができ、しかもこの水抜き作業中も、他の可動吸込管を通して前記サイフォン作用を継続的に行なうことができ、作業能率が高められる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、添付図面に例示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【0015】
添付図面において、図1〜図10は、本発明の一実施例を示すものであって、図1は、浚渫作業の概要を示す全体概略縦断面図、図2はその平面図(図1の2矢視図)、図3は、浚渫作業船の拡大縦断面図(図2の3−3矢視拡大断面図)、図4は、図3の4矢視平面図、図5は、可動吸込管の先端部を示すもので(5A)は側面図、(5B)は平面図である。
【0016】
先ず、図1,2において、本実施例の浚渫作業システムは、河川水域Rに位置する大容量貯水池としてのダムDの貯留水面に浮かび、その水上を随時に移動可能な浚渫作業船Bと、この作業船Bに設けられ少なくとも上流側開口端Ueが水中で昇降可能な可動吸込管Uと、この可動吸込管Uの下流端に一端が連なり且つその他端がダムDよりも低水位の河川水域R(図示例ではダムDの直下流の河川水域)まで延びる排出管Aとを備えており、前記可動吸込管U及び排出管Aは、互いに協働して本発明のサイフォン管Sを構成している。
【0017】
而して可動吸込管Uの上流側開口端UeをダムDの水底の土砂堆積層に臨ませると共に、サイフォン管Sに接続した吸水ポンプPによる呼び水作用に基づいて該サイフォン管Sのサイフォン作用を開始させると、そのサイフォン作用により、ダムDの水底の堆積土砂1を水と共に吸い上げて河川水域Rに徐々に且つ連続的に排出可能となるから、少ないエネルギとコストでダムDの水底の堆積土砂1を能率よく浚渫可能となる。しかもその堆積土砂1が放出される河川水域Rには、堆積土砂1が一時に大量に放出される虞れはなくて少量ずつ連続的に放出可能であるので、その河川の水流(自然力)を利用して放出土砂1を下流側へ無理なく搬出できる。
【0018】
図5に明示したように前記可動吸込管Uの先端側即ち上流側開口端Ueは、その開口面積を十分に確保すべく斜めにカットされており、その開口面には、大きな異物を可動吸込管U内に吸い込まないよう格子状の保護網fが被着される。
【0019】
また前記排出管Aの下流端又はその近傍には、該排出管Aを随時に遮断して前記サイフォン作用を一時的に中断し得る開閉弁からなる放出規制弁Vcが設けられる。そして、この放出規制弁Vcを閉弁することによって排出管A内をその下流端又はその近傍で随時に遮断できるから、前記サイフォン作用を一時的に簡単に中断させることができる。これにより、浚渫作業を中断するたび毎に後述する吸水ポンプPvを一々作動させてサイフォン管Sに呼び水を導入する必要はなくなり、作業の利便性が図られる。
【0020】
また排出管Aの下流側開口端Aeには必要に応じて篩が付設され、図示例では、上流側から下流側にいくにつれて順に網目が細かくなる網籠状の複数の篩f1〜f3が直列に且つ相互に着脱可能に配設される。これにより、ダムD内の比較的大きい砂利や塵埃等を該篩f1〜f3で収集し、河川水域Rには流さないようにすることができる。
【0021】
前記複数の篩f1〜f3は、その少なくとも1つを省略可能であり、その省略により、河川水域Rに流す土砂の粗さを適宜選定可能である。尚、各篩f1〜f3に大きめの土砂が貯まると、また各篩f1〜f3を適宜分離して、中の土砂を取り出すようにする。
【0022】
またその排出管Aの下流側開口端Aを臨ませる、ダムDの直下流の河川水域Rの近く(図示例では河岸)には、該排出管Aからの排出土砂の一部を一時的に貯め置くことができる土砂貯留地Oが設置される。この土砂貯留地Oに前記排出管Aの下流側開口端Aeを随時に臨ませるようにすれば、サイフォン管Sで吸い上げたダムDの堆積土砂1の少なくとも一部を河川水域Rにそのまま放出せずに、上記土砂貯留地Oに貯め置くことができるから、その貯め置いた堆積土砂を難なく採取することができて、それを建設資材その他の用途に利用できる。
【0023】
次に図3〜図5も併せて参照して浚渫作業システムの具体的構成を説明する。浚渫作業船Bの船体2は、図示はしないが個別に陸送可能な幾つかのブロックより分割構成されており、これらブロックはダム近くの現場で一体的に組立可能となっている。その船体2の前部には、可動吸込管Uの昇降を許容すべく前方及び上下方が開放された切欠状の凹部2aが形成され、またその船体2の前端部には、前記凹部2aを跨ぐ門型のガントリー3が立設される。
【0024】
また船体2の後部上面には、作業員が出入りする制御室Cが設けられる。さらに船体2上には、作業船Bを前後左右に自在に自力航行させるための4つの航行用ウインチW1〜W4と、左右一対ある可動吸込管Uをそれぞれ昇降駆動するための左右の昇降用ウインチWa、Wbとが設けられる。
【0025】
船体2には、互いに間隔をおいて並列する左右一対の可動吸込管Uの基端即ち下流端相互の合流部が固定され、この合流部は、排出管Aの基端即ち上流端に船体2内で接続される。この排出管Aの下流側は、フロートFにより支持されてダムDの水面に沿って岸又はダム本体まで延び、そこから更にダムDより低水位の、下流側の河川水域Rまで長く延びている。なお、排出管Aの大部分は可撓性を付与されており、従って該排出管Aを、それが取り回されるダム周辺の複雑な地形に合わせて無理なく敷設できるようになっている。
【0026】
各可動吸込管Uの基端部Udは、可撓性を有するゴムホース等から構成され、また剛体よりなる先部Uuには、前記左右の昇降用ウインチWa、Wbから繰り出し且つガントリー3のガイドシーブを経由して下方に延びる昇降用ワイヤL、Lの端末がそれぞれ結着される。従って、前記昇降用ウインチWa、Wbの作動により、ワイヤL、Lを介して左右の可動吸込管U、Uの先部側をそれぞれ独立に昇降駆動することが可能であり、その昇降の際には可撓性を有する前記基端部Udは無理なく撓曲可能となっている。
【0027】
前記左、右の可動吸込管U、Uの下流側は互いに並列に排出管Aに接続されており、その個々の可動吸込管Uの基部には、該個々の可動吸込管Uを他の可動吸込管U及び排出管Aより随時に遮断し得る開閉弁Vxと、その上流側に在って該個々の可動吸込管Uの管内の水抜きを個別に行なうための大気開放弁Vaとが互いに直列に設けられる。これにより、一方の可動吸込管U内が塵埃等で詰まったときには、この詰まった可動吸込管Uの開閉弁Vxを閉じると共に該可動吸込管Uの先部側を水上まで引上げて大気開放弁Vaを開くことで、その管内の水抜きを的確に行なうことができる。またこの水抜き作業中も、他の可動吸込管Uを通してサイフォン作用を支障なく継続的に行なうことができるから、作業能率が高められる。
【0028】
また船体2には、前記サイフォン管Sにサイフォン作用を開始させるための呼び水をダムDよりくみ上げて該サイフォン管(図示例では可動吸込管Uと排出管Aとの接続部近傍)に圧送、供給するための吸水ポンプPvが搭載される。このポンプPvの吐出部とサイフォン管Sとの間には、該吐出部からサイフォン管S側への一方向の流れだけを許容する逆止弁4が介装される。またその吸水ポンプPvの吸込側には、ダムDの水中に連通する吸水ホース5が接続され、その途中には、ダムDの水中からポンプPv側への一方向の流れだけを許容する逆止弁6が介装される。
【0029】
サイフォン管S(図示例では排出管A)の途中には、その管内に空気を混入させて該サイフォン管Sのサイフォン作用による吸込力の調整を行なうための複数の混気手段Mが互いに間隔をおいて設けられる。この混気手段Mとしては、輸送管内に空気を吸引混入させてその管内の流動体の流量調整を行うための従来周知の混気手段(例えば管壁に開設した大気開放孔を、壁壁に付設した開閉弁により随時に且つ開度調節可能に開閉する構造のもの)が用いられ、図示例では、排出管Aの上流端近傍(作業船Bの上)と、下流端近傍(放出規制弁Vcの直上流側)と、その中間部の二カ所の都合4箇所に混気手段が各々配設されている。
【0030】
而してこの何れかの混気手段Mによりサイフォン管S内への空気混入割合を調整することで、サイフォン作用による吸込力調整を任意に行なうことができるから、堆積土砂の状態(例えば粘度、比重、小石の交じり具合等)に応じてサイフォン作用の吸込力を的確に調整できる。しかも上記吸込力調整によりサイフォン管内の流量調整(従って土砂吸込量の調整)を任意に行なうことができるから、ダムD内への上流側からの土砂の流入量や、浚渫土砂が放出される河川水域Rの水流の程度(即ち該河川水域Rの放出土砂の受入能力)に応じて、該河川水域への土砂放出量を的確に調整することができる。
【0031】
即ち、その土砂放出量は、サイフォン管Sの内径や吸込力(水流の強さ)、ダム内の堆積土砂中の汚泥混入率等によって異なるが、ダムAにその上流側から一年間に流入し堆積する土砂の総量に所定倍率(例えば1.1倍〜1.2倍)を掛けた量の堆積土砂がサイフォン管Sより一年間かけて緩やかに下流側の河川水域Rに流動排出できるような数値に設定すれば、ダムDの直下流、中流部、河口部に土砂流入による被害は発生しないと考えられる。
【0032】
また船体2には、ダムDの水を吸い込んで加圧状態で吐出可能な高圧水供給源としての水ポンプPwが搭載されており、一方、各可動吸込管Uの上流側端部の外周には、上記水ポンプPwから圧送された高圧水を水底の堆積土砂に向けて噴射し得る複数(図示例では一対)の噴射ノズルNが固定され、これら噴射ノズルNと前記水ポンプPwの吐出側との間は、可動吸込管Uにその外周に沿うよう固定される水供給管7を介して連通される。
【0033】
而して各可動吸込管Uの先端側開口端UeをダムD水底の堆積土砂1に近づけた状態で、前記サイフォン管Sのサイフォン作用を開始させると共に水ポンプPwを作動させると、噴射ノズルNから噴射した高圧水により前記堆積土砂1をばらばらに崩壊、拡散させることができ、このようにばらばらにされ、さらさらとなった土砂をサイフォン管S(可動吸込管U)内に効率よく吸い込むことが可能となり、また各可動吸込管Uの先端側開口端Ueでの異物の詰まりも極力回避可能となる。
【0034】
次に本実施例の作用を説明する。ダムDの水底の浚渫に当たっては、浚渫作業船BをダムDの周辺で組立て、ダムDの水面に浮かせる。この作業船Bの位置は、船体2上の4つの航行用ウインチW1〜W4からそれぞれ繰り出されたワイヤL′の端末に固定のアンカを水底の適所(船の四方)に降ろし、それらウインチW1〜W4により任意のワイヤL′を適宜巻き取り・繰り出すことで作業船Bを所望の位置に移動させることができる。
【0035】
次いで作業船Bより一対の可動吸込管Uの先部側を下降させ、その先端即ち上流側開口端Ueを水底の土砂堆積層に臨ませる。この状態でサイフォン管Sに接続した吸水ポンプPを作動させ、これが吸引した水を呼び水としてサイフォン管S内に圧送することでサイフォン管Sのサイフォン作用を開始させる。そのサイフォン作用が一旦開始されると、吸水ポンプPを停止させてもサイフォン作用は引き続き継続され、そのサイフォン作用により、ダムDの水底の堆積土砂1を水と共に吸い上げて河川水域Rに徐々に且つ連続的に排出することができ、その土砂排出に伴い、作業船Bの位置を少しずつ移動させていく。
【0036】
これにより、少ないエネルギとコストでダムDの水底の堆積土砂1を能率よく浚渫可能となる。しかもその堆積土砂1が放出される河川水域Rには、堆積土砂1が一時に大量に放出される虞れはなくて少量ずつ連続的に放出可能であるので、その河川の水流(自然力)を利用して放出土砂1を下流側へ無理なく搬出でき、自然環境への影響を極力排除することができる。
【0037】
而して上記サイフォン管Sの稼働中において、その管Sの各所に設けられる混気手段Mによりサイフォン管S内への空気混入割合を調整すれば、サイフォン作用による吸込力調整(従って土砂吸込量の調整)を任意に行なうことができるから、ダムD内への上流側からの土砂の流入量や、浚渫土砂が放出される河川水域Rの水流の程度(即ち該河川水域Rの放出土砂の受入能力)に応じて、該河川水域への土砂放出量が的確に調整可能となる。
【0038】
上記サイフォン管Sの稼働中において、一方の可動吸込管U内が塵埃等で詰まった場合には、その詰まった可動吸込管Uの開閉弁Vxを閉じると共に該吸込管Uの先部側を水上まで引上げて大気開放弁Vaを開くことで、その管内に大気を導入して管内の水抜きを的確に行なうことができる。そして、この水抜き作業中も、他の可動吸込管Uを通してサイフォン作用を支障なく継続的に行なうことができるから、作業能率が高められる。
【0039】
また上記サイフォン管Sの稼働中において、その下流端に位置する放出規制弁Vcを閉弁すれば、排出管A内をその下流端で随時に遮断できるから、前記サイフォン作用を一時的に簡単に中断させることができる。これにより、浚渫作業を中断する度毎に後述する吸水ポンプPvを一々作動させてサイフォン管Sに呼び水を導入する必要はなくなり、作業の利便性が図られる。
【0040】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は前記実施例に限定されるものでなく、種々の設計変更を行うことができる。例えば、前記実施例では、浚渫作業船Bは自力走行可能な船を用いたが、本発明では、自力走行不能で他の船や陸上から駆動されるタイプの作業船であってもよい。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、イフォン管によるサイフォン作用により、大容量貯水池の水底の堆積土砂を水と共に吸い上げて河川水域に徐々に且つ連続的に排出できるようにしたので、少ないエネルギとコストでダム等の大容量貯水池の水底の堆積土砂を能率よく浚渫可能となり、しかもその堆積土砂が放出される河川水域には、堆積土砂を少量ずつ連続的に放出可能であるから、その河川の水流(自然力)を利用して放出土砂を下流側へ無理なく搬出でき、自然環境への影響を極力避けることができる。そしてダム等の大容量貯水池の水底の堆積土砂がダム外に排出可能となって該大容量貯水池の有効深度及び平均深度をそれぞれ深くできるから、大容量貯水池を効果的に再生できてその延命を図ることができる。また特に作業船に並設されてそれぞれの上流側開口端が水中及び水上で互いに独立して昇降可能な複数の可動吸込管と、それら複数の可動吸込管の下流端に互いに並列に一端が接続され且つその他端が大容量貯水池よりも低水位の河川水域まで延びる単一の排出管とでサイフォン管を構成し、個々の可動吸込管には、その個々の可動吸込管を他の可動吸込管及び排出管より随時に遮断し得る開閉弁と、その開閉弁よりも上流側に在って該個々の可動吸込管の管内の水抜きを個別に行なうための大気開放弁とが互いに直列に設けられるので、一部の可動吸込管内が塵埃等で詰まったときには、この可動吸込管の開閉弁を閉じ且つ大気開放弁を開くことで、その管内の水抜きを的確に行なうことができ、しかもこの水抜き作業中も、他の可動吸込管を通してサイフォン作用を支障なく継続的に行なうことができ、作業能率が高められる。
【0042】
また特に請求項2の発明によれば、サイフォン管で吸い上げた、ダムの堆積土砂の少なくとも一部を河川水域にそのまま放出せずに、その河川水域の近くに設けた土砂貯留地に貯め置くことができるから、その堆積土砂の採取が容易となり、それを建設資材その他の用途に利用できる。
【0043】
また特に請求項3の発明によれば、浚渫作業船に設けた吸水ポンプにより、サイフォン作用を開始させるための呼び水を効率よくサイフォン管に導入できる。また混気手段によりサイフォン管内への空気混入割合を調整することで、サイフォン作用による吸込力調整を任意に行なうことができるから、堆積土砂の状態に応じてサイフォン作用の吸込力を的確に調整でき、しかも上記吸込力調整によりサイフォン管内の流量調整(従って土砂吸込量の調整)を任意に行なうことができるから、例えば大容量貯水池への土砂流入量や、同貯水池の堆積土砂が放出される河川水域の水流の程度(即ち放出土砂の受入能力)に応じて、該河川水域への土砂放出量を的確に調整できる。
【0044】
また特に請求項4の発明によれば、排出管の下流端又はその近傍に設けた開閉弁によって、排出管内をその下流端又はその近傍で随時に遮断して、サイフォン作用を一時的に簡単に中断させることができるので、浚渫作業を中断するたび毎に一々吸水ポンプを作動させてサイフォン管に呼び水を導入する必要はなくなり、作業の利便性が図られる。
【0045】
また特に請求項5の発明によれば、サイフォン作用による土砂吸上力が比較的小さくても、可動吸込管の上流側端部に装着された噴射ノズルから噴射した高圧水により、水底の堆積土砂を適度に崩壊、拡散させた上で、その土砂をサイフォン管(可動吸込管)内に効率よく吸い込むことが可能となる
【0046】
また特に請求項6の発明によれば、部の可動吸込管内が塵埃等で詰まったときには、この詰まった可動吸込管の開閉弁を閉じ且つ該詰まった可動吸込管の先部側を水上まで引上げて同吸込管の大気開放弁を開くことで、その詰まった可動吸込管内の水抜きを行うことができて、その水抜き後に前記詰まった可動吸込管内の詰まりを水上で取り除くことができ、しかもこの水抜き作業中も、他の可動吸込管を通して前記サイフォン作用を継続的に行なうことができ、作業能率が高められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例を示す浚渫作業の概要を示す全体概略縦断面図
【図2】 前記実施例の平面図(図1の2矢視図)
【図3】 浚渫作業船の拡大縦断面図(図2の3−3矢視拡大断面図)
【図4】 図3の4矢視平面図
【図5】 可動吸上管の先端部を示すもので(5A)は側面図、(5B)は平面図
【符号の説明】
A 排出管
B 浚渫作業船
D ダム(大容量貯水池)
Pv 吸水ポンプ
Pw 水ポンプ(高圧水供給源)
M 混気手段
N 噴射ノズル
O 土砂貯留地
R 河川水域
S サイフォン管
U 可動吸込管
Va 大気開放弁
Vc 放出規制弁
Vx 開閉弁
1 堆積土砂

Claims (6)

  1. 河川水域(R)又はその周辺に位置するダム等の大容量貯水池(D)の水面に、その水上を移動可能な浚渫作業船(B)を浮かせ、
    この作業船(B)に並設されてそれぞれの上流側開口端(Ue)が水中及び水上互いに独立して昇降可能な複数の可動吸込管(U)と、それら複数の可動吸込管(U)の下流端に互いに並列に一端が接続され且つその他端が大容量貯水池(D)よりも低水位の河川水域(R)まで延びる、少なくとも一部が可撓性の単一の排出管(A)とでサイフォン管(S)を構成し、
    前記複数の可動吸込管(U)の上流側開口端(Ue)を大容量貯水池(D)の水底に臨ませると共に、サイフォン管(S)に接続した吸水ポンプ(Pv)を用いて該サイフォン管(S)のサイフォン作用を開始させ、そのサイフォン作用により、大容量貯水池(D)の水底の堆積土砂(1)を水と共に吸い上げて河川水域(R)に排出可能とした、大容量貯水池の浚渫作業システムであって、
    個々の可動吸込管(U)には、その個々の可動吸込管(U)を他の可動吸込管(U)及び排出管(A)より随時に遮断し得る開閉弁(Vx)と、その開閉弁(Vx)よりも上流側に在って該個々の可動吸込管(U)の管内の水抜きを個別に行なうための大気開放弁(Va)とが互いに直列に設けられることを特徴とする、大容量貯水池の浚渫作業システム
  2. 前記排出管(A)の他端開口(Ae)を臨ませる河川水域(R)の近くに、該排出管(A)からの排出土砂の一部を一時的に貯め置くことができる土砂貯留地(O)を設置し、この土砂貯留地(O)に前記排出管(A)の他端開口(Ae)を随時に臨ませるようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の大容量貯水池の浚渫作業システム
  3. 前記請求項1又は2に記載された大容量貯水池浚渫作業システムであって、
    浚渫作業船(B)には前記吸水ポンプ(Pv)が装備され、前記サイフォン管(S)の途中には、その管(S)内に空気を混入させて前記サイフォン作用による吸込力の調整を行なうための少なくとも1つの混気手段(M)が設けられることを特徴とする、浚渫作業システム。
  4. 前記排出管(A)の下流端又はその近傍には、該排出管(A)を随時に遮断して前記サイフォン作用を一時的に中断し得る放出規制弁(Vc)が設けられることを特徴とする、請求項3に記載の浚渫作業システム。
  5. 前記可動吸込管(U)の上流側端部には、浚渫作業船(B)に設けた高圧水供給源(Pw)に接続されて高圧水を水底の堆積土砂(1)に向けて噴射し得る噴射ノズル(N)が、該可動吸込管(U)の上流側端部と共に移動できるように取付けられ、大容量貯水池(D)の水底の堆積土砂(1)を、噴射ノズル(N)から噴射した高圧水により拡散させた上で、サイフォン管(S)に吸い上げさせるようにしたことを特徴とする、請求項3又は4に記載の浚渫作業システム。
  6. 前記請求項1〜5の何れかに記載の大容量貯水池の浚渫作業システムを用いた浚渫作業方法であって、
    一部の可動吸込管(U)内が塵埃等で詰まったときには、この詰まった可動吸込管(U)の開閉弁(Vx)を閉じると共に該詰まった可動吸込管(U)の先部側を水上まで引上げて同吸込管(U)の大気開放弁(Va)を開くことで、その詰まった可動吸込管(U)内の水抜きを行い、その水抜き後に前記詰まった可動吸込管(U)内の詰まりを水上で取り除き、また前記水抜き作業中も、他の可動吸込管(U)を通して前記サイフォン作用を継続的に行なうようにしたことを特徴とする、大容量貯水池の浚渫作業方法。
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