JP4030368B2 - 細胞培養担体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養技術及び細胞シート工学などに利用可能な細胞培養担体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高分子含水ゲルは、生体に類似した構造を持ち、温度、酸性・アルカリ性等の外部条件によって膨張、収縮する性質を有するため、人工筋肉などの人工臓器・組織への応用や内部に薬剤を封入して放出量をコントロールする医療分野への応用のみならず、各種サイトカイン等を含むゲルとして細胞を培養する際の細胞成長の足場としての利用も試みられている。
【0003】
細胞は生体内で組織を形成する際に極性を持って配列することが知られている。例えば、肝細胞は血管内皮細胞側から血液成分を吸収し、逆側から胆汁酸などの代謝物を排泄する。この胆汁酸は細胞毒性が強いため、通常の培養用シャーレに細胞を付着させて培養したのでは、長期間の安定な培養が難しい問題がある。
また、細胞に対して一方向から刺激を与えることで細胞の極性が発現することも知られているが、通常の培養用シャーレに細胞を付着させて培養したのでは刺激を接着側から与えられない問題がある。
【0004】
このような問題を解決すべく、細胞の両面を違った培地で培養する細胞培養用材料として高研株式会社から細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01が発売されている。しかしながら、この細胞培養用材料はコラーゲン膜の培地による膨潤が大きく、培養中に材料が大きく歪むことから、細胞の培養状態を観察することが困難であった。また、特開2001-120267号公報には、多孔質膜と該多孔質膜上にアルギン酸ゲル層と細胞外マトリックス成分ゲル層又は細胞外マトリックス成分スポンジ層とを重層化したことを特徴とする細胞培養担体が提案されているが、この細胞培養担体はミクロフィルター層を有しているため、細胞の生育状況を光学顕微鏡で確認することができなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の課題は、細胞の両面を異なる培地として培養でき、かつ細胞の生育状況を光学顕微鏡で簡便に行なえる細胞培養用材料を提供することにある。本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の構成を採用した細胞培養担体が培地中で十分な強度を有しており、光学顕微鏡による培養細胞の観察を容易に行うことができることを見出した。また、この細胞培養担体が細胞シート工学に好適に利用可能であることを見出した。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明により、アルギン酸を含む含水ゲルを含む細胞培養担体であって、その表面がコラーゲンにより被覆されており、かつ該コラーゲンがキトサンを介して含水ゲルの表面に結合した細胞培養担体が提供される。
【0007】
この発明の好ましい態様によれば、含水ゲルがアルギン酸カルシウムゲル又はアルギン酸ポリリジンゲルを含む上記の細胞培養担体;キトサンを介した結合がキトサン層を介したコラーゲン層と含水ゲル表面との結合である上記の細胞培養担体;積層された下記の3層:アルギン酸を含む含水ゲル層、キトサン層、及びコラーゲン層を含む上記の細胞培養担体;含水ゲル層が基板上に形成された上記の細胞培養担体;基板が多孔質膜である上記の細胞培養担体が提供される。
【0008】
別の観点からは、本発明により、上記の細胞培養担体の製造方法であって、アルギン酸を含む含水ゲルをキトサン溶液及びコラーゲン溶液に順次浸漬する工程を含む方法;及び上記の細胞培養担体の製造方法であって、アルギン酸を含む含水ゲルにキトサン溶液及びコラーゲン溶液に順次塗布する工程を含む方法が提供される。
【0009】
さらに別の観点からは、上記の細胞培養担体の表面に細胞を播種する工程を含む細胞培養方法;上記の細胞培養担体の表面に細胞層を形成させる工程を含む細胞培養方法;及び、上記の細胞培養方法により得られた細胞培養物が提供される。また、上記の細胞培養物は、アルギン酸を含む含水ゲルを被覆したコラーゲンの表面に形成された細胞層を含んでいるが、この細胞培養物からアルギン酸を含む含水ゲルを可溶化することにより実質的に含水ゲルを含まない細胞培養物を得ることができる。すなわち、本発明により、上記の細胞培養担体の表面に細胞層を形成させる工程;及びアルギン酸を含む含水ゲルを可溶化する工程を含む細胞培養物の製造方法が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本明細書において「細胞培養担体」とは、細胞を培養する際に培養液中で細胞を保持することができる構造体を意味しているが、この用語はいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈する必要がある。
【0011】
「アルギン酸ゲル」とは、アルギン酸の分子中のカルボン酸基と多価金属イオンとがキレート構造を形成することにより生成するゲルを意味しており、本明細書において特に「アルギン酸ゲル層」と言う場合には層状のアルギン酸ゲルを意味する。
【0012】
アルギン酸は、グルクロン酸(G)とマンヌロン酸(M)よりなるブロック共重合体であり、Mブロックが有するポケット構造に多価金属カチオンが侵入してエッグボックスを形成し、ゲル化すると考えられている。アルギン酸のゲル化を引き起こし得る多価金属カチオンの具体例としては、例えば、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、銅(Cu)、ストロンチウム(Sr)、カドミウム(Cd)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)等の金属イオンを例示でき、これらのうち特に好ましいものとして、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオンを例示できる。また、「アルギン酸ゲル」はアルギン酸とカチオン残基を有する有機高分子化合物とのポリイオンコンプレックスゲルでもよい。カチオン残基を有する有機高分子化合物の例としては、例えば、ポリリジン、キトサン、ゼラチン、コラーゲンなどの複数のアミノ基を有する化合物が挙げられる。
【0013】
アルギン酸は、褐藻類の細胞壁構成多糖又は細胞間充填物質として天然に存在しており、これらを原料として採取可能である。原料褐藻類の具体例としては、ヒバマタ目ダービリア科ダービリア属(例えばD. potatorum)、ヒバマタ目ヒバマタ科アスコフィラム属(例えばA. nodosum)、コンブ目コンブ科コンブ属(例えばマコンブ、ナガコンブ)、コンブ目コンブ科アラメ属(例えばアラメ)、コンブ目コンブ科カジメ属(例えばカジメ、ウロメ)、コンブ目レッソニア科レッソニア属(例えばL. flavikans)の褐藻類を例示できる。また、市販のアルギン酸を使用することもできる。アルギン酸のG/Mの比は特に限定されないが、G/Mの比が大きいほどゲル形成能が大きいので、G/Mの比は大きい方が好ましく、具体的には0.1〜1であるのが好ましく、0.2〜0.5であるのがさらに好ましい。
【0014】
アルギン酸のゲル化は、常法に従って行なうことができる。例えば、アルギン酸のゲル化をイオン交換により行なうことができる。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液にカルシウムイオンを添加すると速やかにイオン交換が生じ、アルギン酸カルシウムゲルが得られる。より具体的には、アルギン酸ナトリウム水溶液を所望の厚さで基板上に塗布し、次いで多価金属カチオンもしくはカチオン残基を有する有機高分子化合物の溶液に浸漬することで基板上にアルギン酸カルシウムゲル層を形成することができる。
【0015】
基板としては多孔質膜が好ましく用いられるが、多孔質膜の種類は特に限定されない。例えば、アルギン酸ゲルを透過させず、金属イオンなどを透過させることができるものが好ましく用いられる。多孔質膜としては、細孔を有する膜以外に、空隙を有する膜や、細孔と空隙の両方を有する膜等を用いてもよい。多孔質膜の具体例としては、濾紙、限外濾過膜、シリコーンゴム膜、四フッ化エチレン樹脂多孔質膜(PTFE多孔質膜)、不織布、ガーゼ様メッシュ、各種メンブレンフィルター(ナイロン、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ニトロセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなど)等を例示でき、好ましいものとしては、メンブレンフィルターであり、特にナイロンメンブレンフィルター膜が好ましい。多孔質膜が細孔を有するものである場合、細孔の大きさは通常は0.02〜1,000μmであり、好ましくは0.02〜100μmであり、さらに好ましくは0.1〜10μmである。
【0016】
上記の方法を行うにあたり、アルギン酸ナトリウムの濃度は特に限定されないが、例えば0.05質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜10質量%以下が特に好ましい(本明細書において「〜」で示される数値範囲は上限及び下限の数値を含む)。また、アルギン酸ナトリウムを塗布する厚さとしては、例えば1μm〜100mmが好ましく、10μm〜10mmが特に好ましい。多価金属カチオン溶液の濃度としては0.05mol/L〜10mol/Lが好ましく、0.1mol/L〜5mol/Lが特に好ましい。多価金属カチオン溶液の溶媒としては、例えば、水、水溶性有機溶剤、又は水と水溶性有機溶剤との混合物を例示することができ、より具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物が好ましく用いられ、水及びメタノールの混合物が特に好ましく用いられる。
【0017】
上記の方法を行うにあたり、カチオン残基を有する有機高分子化合物としてポリリジンを用いる場合には、アルギン酸溶液内においてN-ヒドロキシコハクイミドと1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩でリジンを重合しポリリジンを形成させる方法が好ましく用いられる。もっとも、アルギン酸ゲル又はアルギン酸ゲル層を形成する方法は上記の特定の方法に限定されるわけではない。当業者は上記の方法を適宜改変ないし修飾し、あるいは他の手段を適宜選択することにより、アルギン酸ゲル又はアルギン酸ゲル層を容易に製造することが可能である。
【0018】
本発明の細胞培養担体は、アルギン酸を含む含水ゲルの表面がコラーゲンにより被覆されており、該コラーゲンがキトサンを介して含水ゲルの表面に結合していることを特徴としている。アルギン酸を含む含水ゲルの表面をキトサンを介してコラーゲンで被覆する方法は特に限定されないが、例えば、アルギン酸を含む含水ゲルの表面をキトサン水溶液及びコラーゲン水溶液に順次接触させることにより容易にキトサンを介したコラーゲン被覆を形成することができる。より具体的には、アルギン酸を含む含水ゲルの表面をキトサン水溶液に浸漬して水洗した後、該ゲルをコラーゲン水溶液に浸漬して水洗し、ついで乾燥することにより所望のコラーゲン被覆を形成することができる。また、アルギン酸を含む含水ゲルの表面にキトサン水溶液及びコラーゲン水溶液を順次塗布する方法も採用できる。
【0019】
上記の方法を行うにあたり、キトサン水溶液の濃度としては0.01質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜5質量%が特に好ましい。キトサンの溶解性が不足する場合には酸を添加して溶解させてもよい。酸としては酢酸、塩酸、リン酸等を用いることができる。コラーゲン水溶液の濃度としては、例えば1ng/L〜50mg/Lが好ましく、1μg/L〜10mg/mlが特に好ましい。
【0020】
アルギン酸を含む含水ゲルの表面をキトサンを介してコラーゲンで被覆するにあたり、アルギン酸を含む含水ゲルの両面を被覆してもよいが、被覆を片面に施してもよい。片面のみに被覆を施すには上記のように塗布による方法を採用することができ、あるいは上記の浸漬による方法を採用する場合には片面が浸漬液に触れないようにカバーをつけるなどの手段を採用することができる。アルギン酸を含む含水ゲルの表面をコラーゲンで被覆するにあたり、含水ゲルの片面又は両面の全面積をコラーゲンで被覆してもよいが、全面積の一部をコラーゲンで被覆してもよい。なお、アルギン酸を含む含水ゲルの表面をキトサンを介してコラーゲンで被覆するにあたり、強度を増すためにゲルの裏面又は内部を繊維や網等で補強してもよい。補強のための手段は特に限定されないが、例えば、ナイロンメッシュをゲル内に留置する方法などを挙げることができる。
【0021】
本発明の細胞培養担体を用いて、ゲル層表面に細胞を培養することができる。培養し得る細胞の種類は特に限定されないが、例えば、繊維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨芽細胞、骨髄間葉細胞、胚性幹細胞、体性幹細胞等を例示できる。細胞の培養の際には、通常、細胞濃度1〜1.5万cells/mlの培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)をゲル層上に添加することができる。細胞の培養条件は、培養する細胞の種類に応じて適宜選択可能である。細胞培養は、通常、ゲル層上にコンフルエントな単層の細胞層が形成されるまで行なうことができる。
【0022】
本発明の細胞培養担体を用いた細胞の培養は具体的には次のようにして行なうことができる。細胞培養担体をシャーレ等の内部に設置し、シャーレ内に適当な培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を添加して5分浸漬後、培地交換を3回繰り返したのち12〜24時間放置し、培養液を細胞培養担体中に浸潤させる。シャーレ内の培養液を捨て、細胞培養担体のゲル層上に細胞を播き、シャーレ内に適当な培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を添加する。37℃で1〜2時間放置し、ゲル層に細胞を保持(接着)させた後、37℃で培養を続ける。培養の際には、必要に応じて培養液を交換してもよい。通常は培養0.5〜2日ごとに培養液を交換する。もっとも、細胞培養の方法は上記の特定の方法に限定されることはなく、当業者が適宜選択可能であることは言うまでもない。
【0023】
本発明の細胞培養担体を用いて細胞を培養により得られる細胞培養物は、本発明の細胞培養担体と該担体表面に保持された細胞層とを含んでいる。細胞培養担体の表面に保持された細胞層は、含水ゲルを被覆している細胞接着性のコラーゲンの表面に形成された細胞層であり、例えば単層の細胞層である。
【0024】
上記のようにして得られた細胞培養物のアルギン酸ゲル層を可溶化処理することにより、培養された細胞を細胞シートとして脱離させることもできる。アルギン酸ゲル層の可溶化処理は、アルギン酸ゲルを構成するカチオン成分を除去することにより行うことができる。カチオン種が多価金属イオンの場合は、例えば、リン酸などの多価金属カチオンと錯形成又は難溶性塩を形成するイオンの添加、キレート剤水溶液の使用、培地中の多価金属イオンの低減、培地中の多価金属イオンのキレート剤による隠蔽によって実施できる。通常、細胞培養用の培地にはリン酸イオンが多く存在するため、予め多価金属イオンを除去した培地もしくは多価金属カチオンの総和モル数に対して90モル%以上のキレート剤を添加した培地に浸漬する方法が細胞への侵襲を低減する観点から好ましく用いられる。該キレート剤の濃度は90モル%〜10000モル%が好ましく、90モル%〜1000モル%がさらに好ましい。
【0025】
キレート剤の種類は特に限定されないが、例えば、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,3-ジアミノプロパノール四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸(edta)、グリコールエーテルジアミン四酢酸、O,O'-ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(egta)、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1,1-ジホスホノエタン-2-カルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシ-1-ホスホノプロパン-1,3,3-トリカルボン酸、カテコール-3,5-ジスルホン酸、ピロリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムが挙げられ、特に好ましくは例えばジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノプロパノール四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1,1-ジホスホノエタン-2-カルボン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタホスホン酸、1-ヒドロキシプロピリデン−1,1-ジホスホン酸、1-アミノエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸やこれらの塩を挙げることができる。これらのうち特に好ましいものとしてはedta、egtaを例示できる。
【0026】
キレート化剤を用いたアルギン酸ゲル層の可溶化処理は、その表面にアルギン酸を含む水性ゲルが形成された多孔質膜からキレート化剤をしみこませて行なうのが好ましい。これによって、多孔質膜とアルギン酸ゲル層とを容易に分離することができ、細胞培養物を多孔質膜から容易に脱離させることができる。アルギン酸ゲル層の可溶化処理によってアルギン酸ゲル層を完全に除去する必要はなく、可溶化されなかったアルギン酸ゲル層が残っていてもよいが、アルギン酸ゲル層はできるだけ可溶化して除去するのが好ましい。
【0027】
アルギン酸ゲル層を可溶化処理して得られる細胞培養物は細胞層を含んでいるので、細胞層の重層化又は転写などに使用できる。細胞層の重層化の際には、予め培養した細胞上に荷重をかけた状態で培養したのちアルギン酸ゲルを可溶化してもよく、あるいはアルギン酸ゲル層を可溶化して得られる細胞培養物同士を重層化してもよい。また、アルギン酸ゲル層を可溶化して得られる細胞培養物を別に作製した細胞層に重層化してもよい。重層化する細胞層の細胞の種類は、同一であっても異なっていてもよい。重層化する細胞層の数は特に限定されないが、通常1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。また、細胞層の転写際には、別の細胞培養用基材上に荷重をかけた状態で培養したのちアルギン酸ゲルを可溶化してもよく、あるいはアルギン酸ゲル層を可溶化して得られる細胞培養物を他の媒体に転写してもよい。好ましい重層化又は転写方法としては予め培養した細胞上もしくは別の細胞培養基材上に荷重をかけた状態で培養したのちアルギン酸ゲルを溶解する方法を挙げることができる。
【0028】
荷重をかけた細胞の培養法は特に限定されず、細胞が転写される細胞又は基材にムラが生じない程度に充分荷重がかけられていればいかなる方法でもよい。ここで、荷重をかける際に細胞が密閉されると窒息をすることから、転写する側もしくは受ける側の少なくとも一方が細胞培養基材が水透過性のゲルや多孔質膜もしくはこれらの組み合わせでできていることが好ましい。また、ムラ無く転写するには細胞面を充分に覆う状態で荷重をかける必要があるが、均一に接触することで酸素の拡散を妨害することとなるため、不織布(ナイロン、ポリエステル、ステンレスなど)等を介して酸素の拡散を妨げないで荷重することが好ましい。
【0029】
荷重をかけた細胞の培養法における荷重は0.1g/cm2〜50g/cm2であることが好ましく、0.5g/cm2〜10g/cm2であることがさらに好ましい。荷重をかけた細胞の培養の時間は充分な細胞の転写が実現できれば特に限定されないが、4時間〜72時間が好ましく、6時間〜48時間がさらに好ましい。
【0030】
本発明の細胞培養担体は滅菌されていることが好ましい。滅菌方法は特に限定されないが、例えば、電子線、γ線、X線、紫外線などの放射線による滅菌が好ましく用いられ、電子線、γ線、紫外線がさらに好ましく用いられ、電子線滅菌が特に好ましく用いられる。電子線滅菌の照射線量としては0.1kGy〜65kGyが好ましく、1kGy〜40kGyが特に好ましい。EOG滅菌などの化学滅菌、高圧蒸気ガス滅菌などの高熱をかける滅菌はコラーゲン層やアルギン酸ゲル層を分解するため好ましくない。このように滅菌した細胞培養担体は無菌条件下であれば長期間に渡って室温保管が可能である。上記滅菌法は単独もしくは複数種の組み合わせで実施されてもよく、同一種の滅菌法を繰り返し使用してもよい。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
実施例1:細胞培養担体の作製
(1)アルギン酸含水ゲル膜の調製
▲1▼アルギン酸カルシウム含水ゲル膜
5重量%のアルギン酸ナトリウム(和光純薬製)水溶液を500μmの厚さでステンレス基板上に塗布し、塗布物を0.5mol/lの塩化カルシウム水/メタノール(容量比80/20)溶液に浸漬した。塗布物が充分ゲル化したのち、塗布物を流水で洗浄した。
さらに、膜が変形しないように4辺を挟んだ状態で乾燥し、アルギン酸カルシウム含水ゲル膜を得た。
【0032】
▲2▼アルギン酸ポリリジン含水ゲル膜(ナイロンメッシュ補強型)
2重量%のアルギン酸ナトリウム、3.2重量%の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(WSC、ペプチド研究所製)および0.68重量%のN-ヒドロキシコハクイミド(NHS、ペプチド研究所製)、0.6重量%のリジン(和光純薬製)を含む水溶液を200ml/m2の厚さでステンレス基板上に塗布し、ミリポア製ナイロンネットフィルターNY1Hを液内に沈めたのち、同じ液を1000ml/m2の厚さでステンレス基板上に塗布した。次いで、0.1Mの塩化カルシウム水溶液に1時間浸漬することでアルギン酸ポリリジン含水ゲル膜を得た。アルギン酸ポリリジン含水ゲル膜は乾燥せず水中に保管した。
【0033】
(2)キトサン修飾
上記(1)で得たアルギン酸含水ゲル膜を1重量%の水溶性キトサン(和光純薬製)水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間以上洗浄した。キトサン修飾膜は乾燥せず水中に保管した。
(3)コラーゲン被覆
上記(2)で得たキトサン修飾膜を0.03mg/mlとなるように水で希釈したCellmatrixIC(新田ゼラチン製typeIコラーゲン水溶液)に1時間浸漬したのち、流水で1時間以上洗浄した。さらに、膜が変形しないように4辺を挟んだ状態で乾燥し、コラーゲンで表面被覆したアルギン酸カルシウム含水ゲル膜を得た。
【0034】
(4)比較例
キトサン及びコラーゲンでの処理を行わないアルギン酸含水ゲル膜、およびキトサンのみで修飾したアルギン酸含水ゲル膜を比較例として調製した。
(5)滅菌
実施例1の膜をUV滅菌3時間、電子線滅菌20kGyを施したところ、いずれも菌が確認されなかった。このとき、滅菌処理を施していないサンプルからは7500個/m2の菌が確認された。
【0035】
実施例2:細胞培養担体を用いた細胞の培養
次のようにして細胞培養担体を用いた細胞の培養を行なった。
(1)使用細胞
CHL(Chinese Hamster Lung Cell)
(2)使用培地
Eagle最小培地、10%牛胎児血清
(3)細胞培養担体
高研株式会社製の細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01からコラーゲン膜を剥がした枠に実施例1で作製した細胞培養担体を貼付し、ポリスチレン製細胞培養用に入れ、培地を添加して5分浸漬後培地交換することを3回繰り返したのち一晩放置し、培地を細胞培養担体中に浸潤させた。比較例として高研株式会社製の細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01の同様に処理した。使用した細胞培養担体と滅菌法の組み合わせを表1に示す。
【0036】
(4)細胞の播種
予め培養しておいた細胞をトリプシン処理で回収し、細胞濃度を50000cell/mlに調整した。セル及びシャーレ内の培地を捨てた後、この細胞液を細胞数10000cell/cm2となるようにシャーレ内に播種し培地を添加した。
(5)培養
CO2インキュベーターを用いて37℃で2日間培養した。
【0037】
(6)評価
膜の変形は培地に1日浸漬して膜周辺から突出した中央部の高さを評価した。突出が大きいほど光学顕微鏡での観察が困難であり、また5mm以上になると膜が培養用ディッシュに接触し裏面からの物質供給が不充分となる。さらに、細胞を光学顕微鏡で観察することにより、細胞接着性と毒性を評価した。
(7)結果
結果を表1に示す。本発明の細胞培養担体は毒性がなく細胞接着性が良好であり、膜の変形も極めて少なかった。コラーゲン被覆を施したアルギン酸ポリリジン含水ゲル膜(ナイロンメッシュ補強型)を使用して培養を行った細胞の光学顕微鏡写真を図1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例3:アルギン酸カルシウム含水ゲル膜調製条件の検討
5重量%のアルギン酸ナトリウム(和光純薬製)水溶液を500μmの厚さでステンレス基板上に塗布し、塗布物を表2の溶液に浸漬した。塗布物が充分ゲル化したのち、塗布物を流水で洗浄した。こうして得たアルギン酸含水ゲル膜を1重量%の水溶性キトサン(和光純薬製)水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間以上洗浄した。次いで、キトサン修飾膜を0.03mg/mlとなるように水で希釈したCellmatrixIC(新田ゼラチン製typeIコラーゲン水溶液)に1時間浸漬したのち、流水で1時間以上洗浄した。さらに、膜が変形しないように4辺を挟んだ状態で乾燥し、コラーゲンで表面被覆したアルギン酸カルシウム含水ゲル膜を得た。こうして得たコラーゲンで表面被覆したアルギン酸カルシウム含水ゲル膜の培地中での膜の強度を触感で確認した。結果を表2に示す。本発明の細胞培養担体は良好な強度を有していた。
【0040】
【表2】
【0041】
【発明の効果】
本発明の細胞培養担体は培地中での膨潤などによる変形がなく、光学顕微鏡により培養細胞の観察を容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 キトサンを介してコラーゲン被覆したアルギン酸ポリリジン含水ゲル膜(ナイロンメッシュ補強型)を使用して培養を行った細胞の光学顕微鏡写真である。
Claims (5)
- アルギン酸を含む含水ゲルを含む膜状の細胞培養担体であって、その両面の全面積の表面がコラーゲンにより被覆されており、かつ該コラーゲンがキトサンを介して含水ゲルの表面に結合した細胞培養担体。
- 含水ゲルがアルギン酸カルシウムゲル又はアルギン酸ポリリジンゲルを含む請求項1に記載の細胞培養担体。
- キトサンを介したコラーゲンと含水ゲル表面との結合がキトサン層を介したコラーゲン層と含水ゲル表面との結合である請求項1又は2に記載の細胞培養担体。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の細胞培養担体の製造方法であって、アルギン酸を含む含水ゲルをキトサン溶液及びコラーゲン溶液に順次浸漬する工程を含む方法。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の細胞培養担体の表面に細胞層を形成させる工程を含む細胞培養方法。
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