JP4029476B2 - 溶接終了制御方法及びアーク溶接機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消耗電極である溶接用ワイヤと被溶接物である溶接母材との間にアークを発生させて溶接出力制御を行う消耗電極式アーク溶接機の溶接終了時の溶接終了制御方法及びアーク溶接機に関する。
【0002】
【従来の技術】
消耗電極式溶接では、溶接出力電圧の供給と溶接用ワイヤの送給を停止することで、溶接を終了させる。このとき、溶接用ワイヤの送給は、溶接用ワイヤ送給用モータの慣性や、溶接トーチ内のワイヤのたるみにより、溶接用ワイヤ先端が完全に停止するまで時間を要する。これに比べ、溶接出力電圧の供給においては、インバータ周波数(10kHz)程度の応答速度で、供給を瞬時に停止させることができる。仮に、起動信号がオフすると同時に溶接用ワイヤ送給用モータと溶接出力電圧の供給を停止すると、溶接出力電圧は瞬時に停止し、溶接用ワイヤのみが送給され、溶接用ワイヤが被溶接物に溶着(以下、スティックという。)する場合がある。
【0003】
従来は、この溶接用ワイヤのスティックを防止するために、起動信号のオフと同時に溶接出力電圧の供給を停止せず、予め第1の溶接終了制御時間をもち、前記第1の溶接終了制御時間中は、溶接出力電圧を供給することにより所定の終了状態を得ていた。
【0004】
また、自動ロボットと溶接機を組み合わせたシステム等では、第1の溶接終了制御が終了の後すぐに溶接用ワイヤ先端を移動させる場合がある。このとき、溶接用ワイヤ先端が十分冷却していない状態で、溶接用ワイヤ先端が被溶接物と接触すると溶接用ワイヤ先端がスティックする問題があった。このため、従来は、第1の溶接終了制御の完了後に、第2の溶接終了制御を設け、仮に第2の溶接終了制御中にスティックが起こった場合、短絡電流によりスティックを解除していた。
【0005】
また、従来の消耗電極式パルスアーク溶接機は、溶接終了時に第1の溶接終了制御の完了まで、ピーク電流とベース電流を交互に出力していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の制御方法においては、溶接用ワイヤ送給用モータの慣性のバラツキや、溶接用トーチ内のワイヤのたわみ等のバラツキにより、溶接用ワイヤの飛び出し量がバラツクため、結果として溶接終了時の溶接用ワイヤ先端の状態が不規則となる問題があった。
【0007】
溶接ガスとしては、Ar、CO2、O2、He、H2等がよく用いられるが、一般にArを用いたガスの溶接では、アーク電圧が低く、アークが持続されやすい。このため、高Arガスを用いた溶接では、溶接終了時のアークの消滅が不規則で、第1の溶接終了制御が完了し、第2の溶接終了制御中まで、アークが持続し、第2の溶接終了制御による溶接出力電圧の供給により、溶接用ワイヤ先端が溶融し、溶接終了後の溶接用ワイヤ先端の溶滴が肥大する問題があった。
【0008】
消耗電極式パルスアーク溶接では、従来、第1の溶接終了制御の完了まで、ピーク電流の出力が許可されていた。起動信号がオフすると、溶接用ワイヤ送給用モータの回転が減衰するが、溶接用ワイヤ送給用モータが停止直前の溶接用ワイヤ送給速度が低速度になった時点に、ピーク電流が出力された場合、溶接用ワイヤ先端は溶融しているにもかかわらず、溶滴の離脱が不完全で、溶接用ワイヤ先端に溶滴が残留することがある。また逆に、溶滴の離脱直後に第1の溶接終了制御が完了すると、離脱後の燃え上がりがまったくなく、溶接用ワイヤ先端の終了状態が突起状となる。上記のように、溶接用ワイヤ先端の溶滴の大きさが不規則となり、溶接用ワイヤ先端の終了状態にバラツキが生じる問題があった。
【0009】
上記のように、溶接終了時のワイヤ先端の状態が不規則であると、終了時のスパッタが増大し、終了時の溶接品質の悪化、溶接用ワイヤのスティック、チップ融着といった問題が生じ、溶接作業性や溶接品質に悪影響を与えていた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の問題点を解決するために、本発明の溶接終了制御方法は、溶接終了時に、溶接終了時の溶接出力電圧制御である第1の溶接終了制御を持ち、溶接用ワイヤ送給速度を検出して、前記溶接用ワイヤ送給速度の関数として設定される溶接出力電圧を供給し、前記溶接用ワイヤ送給速度が所定の送給速度に達したことを検出してから、所定の時間の経過の後に、前記第1の溶接終了制御を完了する溶接終了制御方法であって、溶接終了時に、前記第1の溶接終了制御と溶接終了後の溶接用ワイヤの溶着を防止する第2の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御と前記第2の溶接終了制御の間に、溶接出力電圧供給停止時間を持つ。
【0011】
さらに、前記溶接用ワイヤ送給速度は、溶接用ワイヤ送給用モータの回転数の関数として設定される。
【0012】
さらに、前記溶接用ワイヤ送給用モータの回転数は、前記溶接用ワイヤ送給用モータの逆起電圧の関数として設定される。
【0013】
さらに、溶接終了時に、溶接終了時の溶接出力電圧制御である第1の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御を完了する第1の溶接終了制御時間を設定し、減衰する2次関数の曲線または溶接用ワイヤ送給用モータの回転数減衰曲線の関数として設定される溶接出力電圧を供給する溶接終了制御方法であって、溶接終了時に、前記第1の溶接終了制御と溶接終了後の溶接用ワイヤの溶着を防止する第2の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御と前記第2の溶接終了制御の間に、溶接出力電圧供給停止時間を持つ。
【0015】
さらに、前記第1の溶接終了制御方法の完了する前からピーク電流出力禁止時間の間、ピーク電流の出力を禁止する。
【0017】
また、上記の問題点を解決するために、本発明のアーク溶接機は、上記溶接終了制御により溶接の終了を行う。
【0018】
【発明の実施の形態】
上記構成により、本発明の溶接終了制御方法は、溶接終了時に、溶接用ワイヤ先端の溶滴を安定に適正な大きさに制御する作用を有する。
【0019】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明における溶接終了制御方法を示す図である。本図は、アーク溶接機の一例として、特に消耗電極式パルスアーク溶接を説明する図である。図中、TSは起動信号、Sは溶接用ワイヤ送給速度、S1は定常溶接時の溶接用ワイヤ送給速度、S2は所定の送給速度、T1は第1の溶接終了制御時間、T2は第2の溶接終了制御時間、T3はピーク電流出力禁止時間、T4は溶接出力電圧供給停止時間、T5は所定の時間、Vaは溶接出力電圧、Iは溶接出力電流、Va1は定常溶接時の溶接出力電圧、Va2は所定の溶接出力電圧を示す。図2は、定常溶接時の溶接用ワイヤ送給用モータの回転数と、起動信号がオフしてから溶接用ワイヤ送給用モータの停止するまでの時間との相関とを示す図である。図中、Rは定常溶接時の溶接用ワイヤ送給用モータの回転数、T6は起動信号がオフしてから溶接用ワイヤ送給用モータが停止するまでの時間を示す。図3は、起動信号オフからの経過時間と溶接用ワイヤ送給用モータの回転数との相関を示す図である。
【0021】
図1より、請求項1、2、3に示された本発明の説明をする。
図1に示すように、起動信号TSがオフすると、溶接用ワイヤ送給速度Sが減衰する。溶接用ワイヤ送給速度Sは、非接触光学式速度検出器によって検出することができる。また、溶接用ワイヤ送給速度Sは、溶接用ワイヤ送給用モータの回転数を検出し、その関数として設定することができる。溶接用ワイヤ送給用モータの回転数は、エンコーダや接触式回転計、前記非接触光学式速度検出器を用いて検出することができる。また、溶接用ワイヤ送給用モータの回転数は、溶接用ワイヤ送給用モータの逆起電圧を検出し、その関数として設定することができる。溶接出力電圧Vaは、溶接用ワイヤ送給速度Sの関数として設定される。前記関数は、溶接用ワイヤ送給速度Sが減衰するに従い、単調減少するような関数を用いる。また、設定される溶接出力電圧Vaは、溶接用ワイヤ送給速度Sが、定常溶接中に最も安定する溶接出力電圧を供給してもよい。上記のように、溶接終了時に、溶接用ワイヤ送給速度Sに応じた溶接出力電圧Vaを供給することができ、溶接用ワイヤ送給用モータのバラツキ等によって、溶接用ワイヤ送給速度Sの減衰率にバラツキが生じたとしても、適正な溶接終了状態を保つことができる。
【0022】
次に、溶接用ワイヤ送給速度Sが、予め設定される所定の送給速度S2に達したことを検出すると、溶接出力電圧Vaを所定の溶接出力電圧Va2に固定し、予め設定される所定の時間T5の後、第1の溶接終了制御を終了する。所定の送給速度S2は、0m/sでもよく、所定の時間T5は、0sでもよい。ワイヤ送給速度が、所定の送給速度S2に達し、その時点から、溶接用ワイヤ送給速度Sが完全に停止するまでの状態は、実験的にほぼ一定で再現性があることが判っている。よって、溶接終了時に、溶接用ワイヤ送給速度が所定の送給速度S2に達してからの溶接終了制御は、電流域にもかかわらず溶接終了でも同溶接終了制御でよい。よって、溶接用ワイヤ送給用モータのバラツキ等によって、定常溶接時の溶接用ワイヤ送給速度S1から所定の送給速度S2に達するまでの時間にバラツキがあったとしても、所定の送給速度S2に達してからの溶接終了状態に規則性があるため、安定した溶接終了状態を得ることができる。
【0023】
次に、図1、図2、図3より、請求項4,5に示された本発明の説明をする。図1に示すように、起動信号がオフすると、溶接用ワイヤ送給速度Sが減衰する。図2によると、起動信号オフから溶接用ワイヤ送給用モータの停止までの時間T6は、ほぼ、起動信号がオンしている定常溶接時の溶接用ワイヤ送給用モータの回転数Rの関数になっていることがわかる。溶接用ワイヤの送給が停止した状態で、溶接出力電圧を供給すると、供給用ワイヤ先端が燃え上がり、アーク長がのび、アークを持続するだけの電圧を保持できず、結果アークが消滅し、溶接出力電流が0Aとなる。アークが消滅した状態で、溶接出力電圧を供給しても溶接終了状態に変化がないので、無意味である。以上から、予め設定される第1の溶接終了制御時間T1は、定常溶接時の溶接用ワイヤ送給用モータの回転数Rの関数として設定される。前記関数は、図2より得られる停止時間T6に所定の時間(例えば、100ms程度)を加算した関数でもよい。
【0024】
また、第1の溶接終了制御完了までの溶接用ワイヤ送給用モータの溶接終了減衰曲線は予め実験的に求めた時間とともに減少する減衰曲線とする。前記溶接終了減衰曲線は、線形な曲線、2次関数的な曲線でもよい。また、前記溶接終了減衰曲線は、図3に示すような溶接用ワイヤ送給用モータ減衰曲線の関数として設定される曲線でもよい。
【0025】
図1より請求項6に示された本発明の説明をする。
図1に示すように、起動信号がオンしている間、ピーク電流とベース電流が交互に出力されている。起動信号がオフすると、溶接用ワイヤ送給速度Sが減衰し、第1の溶接終了制御によって、溶接出力電圧Vaが制御される。第1の溶接終了制御が完了する前の、予め設定されるピーク電流供給禁止時間T3の間、ピーク電流の出力が禁止される。ピーク電流供給禁止時間T3は、溶接ガス、溶接用ワイヤ径等の溶接条件により異なる。例えば、Arガス中の溶接では、数10msでよい。ピーク電流供給禁止時間T3は、第1の溶接終了制御時間の最後の短時間となる。このため、第1の溶接終了制御の完了直前にピーク電流が出力されることがない。よって、第1の溶接終了制御完了の直前では、溶接用ワイヤ送給速度が低速度になっているにもかかわらずピーク電流が出力されて、溶接用ワイヤ先端が燃え上がり、溶接用ワイヤが送給ないためにアーク長が長くなり、結果として、溶滴の離脱が不完全となり、溶接終了状態がバラツクことがない。また、上記のように、ピーク電流を禁止した区間では、低い電流値(ベース電流値)が持続することになるため、溶滴の離脱はなく、一定の微小な溶滴を形成する。この溶接用ワイヤ先端の溶滴の形状は、ピーク電流供給禁止時間T3の長さによって、適正値に制御することができる。
【0026】
図1より請求項7に示された本発明の説明をする。
溶接終了時に、第1溶接終了制御と第2溶接終了制御の間に、溶接出力電圧供給停止時間T4を設け、溶接出力電圧供給停止時間T4の間は、溶接出力電圧Vaを停止する。溶接出力電圧Vaが停止するため、アークを強制的に消滅させることができる。溶接出力電圧供給停止時間T4は、アークが完全に消滅するだけの時間を必要とし、溶接ガスによって、その適正値は異なる。例えば、Ar:98%、O2:2%のガスの場合、溶接出力電圧供給停止時間T4は、20ms程度でもよい。
【0027】
アークが第1の溶接終了制御完了とともに必ず消滅する。よって、第1の溶接終了制御でアークが消滅せず、第2の溶接終了制御まで、アークを持続してしまい、第2の溶接終了制御での溶接出力電圧によって、溶接用ワイヤ先端が燃え上がり、溶接用ワイヤ先端の終了状態がバラツクことがない。
【0028】
なお、上記図1における実施の形態は、消耗電極式パルスアーク溶接で説明したが、これに限定されるものではなく、他のアーク溶接機においても同様の効果を奏するものである。
【0029】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の溶接終了制御方法は、溶接終了時のワイヤ先端の溶滴を安定して適正な大きさに制御することができる。以上より、溶接終了時のスパッタを減少させ、溶接終了時の溶接品質を向上する。また、次回アークスタート性を向上し、溶接母材のスティック、チップ融着を防ぐことにより溶接作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における溶接終了制御方法を示す図
【図2】溶接用ワイヤ送給用モータが所定の回転数のときの起動信号オフしてから完全に停止するまでの時間を示す図
【図3】溶接用ワイヤ送給用モータが所定の回転数のときの起動信号オフしてからの回転数の減衰曲線を示す図
【符号の説明】
TS 起動信号
S 溶接用ワイヤ送給速度
S1 定常溶接時の溶接用ワイヤ送給速度
S2 所定の送給速度
T1 第1の溶接終了制御時間
T2 第2の溶接終了制御時間
T3 ピーク電流出力禁止時間
T4 溶接出力電圧供給停止時間
T5 所定の時間
T6 起動信号がオフしてから溶接用ワイヤ送給用モータの停止するまでの時間
V 溶接出力電圧
I 溶接出力電流
Va1 定常溶接時の溶接出力電圧
Va2 所定の溶接出力電圧を示す。
R 定常溶接時の溶接用ワイヤ送給用モータの回転数
Claims (6)
- 溶接終了時に、溶接終了時の溶接出力制御である第1の溶接終了制御を持ち、溶接用ワイヤ送給速度を検出して、前記溶接用ワイヤ送給速度の関数として設定される溶接出力電圧を供給し、前記溶接用ワイヤ送給速度が所定の送給速度に達したことを検出してから、所定の時間の経過の後に、前記第1の溶接終了制御を完了する溶接終了制御方法であって、溶接終了時に、前記第1の溶接終了制御と溶接終了後の溶接用ワイヤの溶着を防止する第2の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御と前記第2の溶接終了制御の間に、溶接出力電圧供給停止時間を持つことを特徴とする溶接終了制御方法。
- 前記溶接用ワイヤ送給速度は、溶接用ワイヤ送給用モータの回転数の関数として設定されることを特徴とする請求項1記載の溶接終了制御方法。
- 前記溶接用ワイヤ送給用モータの回転数は、前記溶接用ワイヤ送給用モータの逆起電圧の関数として設定されることを特徴とする請求項2に記載の溶接終了制御方法。
- 溶接終了時に、溶接終了時の溶接出力制御である第1の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御を完了する第1の溶接終了制御時間を設定し、減衰する2次関数の曲線または溶接用ワイヤ送給用モータの回転数減衰曲線の関数として設定される溶接出力電圧を供給する溶接終了制御方法であって、溶接終了時に、前記第1の溶接終了制御と溶接終了後の溶接用ワイヤの溶着を防止する第2の溶接終了制御を持ち、前記第1の溶接終了制御と前記第2の溶接終了制御の間に、溶接出力電圧供給停止時間を持つことを特徴とする溶接終了制御方法。
- 前記第1の溶接終了制御の完了する前からピーク電流出力禁止時間の間、ピーク電流の出力を禁止することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶接終了制御方法。
- 溶接終了時に、前記請求項1〜5のいずれかに記載の溶接終了制御方法を用いることを特徴とするアーク溶接機。
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