JP4029209B2 - 高分解能x線顕微検査装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はX線検査装置に関し、特に、高輝度電子流を放射する電子源並びに電子を加速しながら集束するレンズ系を用いて、0.1μmより良い高分解能を広い加速電圧の範囲にわたって可能にするX線顕微検査装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線を利用した検査装置としては、X線顕微鏡,異物検査装置,蛍光X線分析装置などの各種の産業検査装置や、X線診断装置などの医療用X線装置が知られている。図6は、従来のX線検査装置の構成例を示している。本例でのX線検査装置は、電子源として熱電子放射陰極21bを用い、グリッド21aとアノード21cとの間に高電圧を印加することにより、電子源21bからの電子Reを加速後、電子レンズ22によりタングステンなどの高融点金属の薄板でできたターゲット23上に電子Reを集束させ、微小な点状X線源23aを得るようにしている。そして、X線源23aから発生する点状X線Rxを用いて試料(被検査体)10の内部を拡大投影し、試料内部の微細構造を非破壊で透視検査するというものである。
【0003】
このようなX線検査装置において、ターゲット23に衝突した電子ビームReはここでX線Rxに変換されるが、その変換効率は1%以下と極めて低く、電子ビームReのエネルギーのほとんどはターゲット23上で熱に変換される。ところで、X線は電荷を持たないため、電子のように電子レンズを用いて自由に曲げるということができない。そのため、大きな倍率を得るためには、試料10をX線源23aにできるだけ近づけ、試料10を透過して放射状に広がっていくX線Rxをできるだけ距離をおいて配置された2次元検出器(X線検出器)24で取り込み、画像にする必要がある(X線検出器24としては様々な種類があるが、X線は光に変換されて増幅・画像化が行われる)。理屈の上では、試料10とX線検出器24との間の距離を大きくとればとるほど倍率はどこまでも上がるが、実際には単位面積あたりのX線量は距離の2乗に逆比例して減少するので、X線検出器24の感度と拡大された像のX線量との兼ね合いによって倍率の上限が決まってくる。
【0004】
他方、試料10を透過したX線像の分解能については、X線源サイズ(焦点サイズ)が小さい方がボケ量が減って向上する。しかし、同じ電子源21bを用いる場合、電子レンズ22で小さく集束するとX線源サイズを小さくできるが、それに含まれる電子線量がスポット径の2乗に逆比例して減少し、X線量もそれに応じて減少するので、最終的な分解能は先のX線検出器24の感度との兼ね合いで決まり、ある限界を持っている。本出願人が開発し商品化している従来のX線顕微検査装置では、集束レンズ系にできるだけ球面収差と色収差の少ないレンズを用いた二段縮小系と、熱電子源としてすぐれた性質をもつLaB6(六ほう化ランタン)カソードを採用し、さらに高感度のイメージ増強管を使用しており、分解能は1μmを切り、0.4μm程度に達している。これは、実用的なX線検査装置としては世界的にみて現在最高の値(露光時間を無視すれば0.1μm程度までが最高の値)であるが、技術的に現状での限界と考えてよく、本発明で期待する0.1μmより良い分解能は、従来技術をもってしては不可能である(以下に示す非特許文献の説明参照)。
【0005】
ここで、X線検査装置の分解能に係る従来の技術について説明する。
【0006】
分解能に係る技術については、例えば非特許文献1〜非特許文献5に開示されている。非特許文献1には、X線陰影顕微鏡に関し、従来、その分解能は0.5μmが限界であったが、今回ターゲットに非常に薄い金属膜(厚さ0.1μm)を用いることにより、分解能0.1μmを達成したことが記載されている。また、一枚の画像を得るのに露光時間は5分であったことが記載されており、この非特許文献1の論文が開示された後、露光時間を短くするための研究などが盛んに行われるようになった。また、非特許文献2は、電子顕微鏡の照射系を利用した透過型X線陰影顕微鏡についての研究報告(東北大学科学計測研究所報告)で、分解能0.1μmを達成したことが記載されてる。また、分解能に影響を与える各要因について理論的分析を行い、X線源のスポットサイズが分解能に一番影響を与えるという結論を導き出している。また、SEM(走査電子顕微鏡)であることを利用して、焦点合わせに偏向コイルで電子ビームを振ることを利用していることが記載されている。
【0007】
また、非特許文献3は、今日までのX線顕微鏡の流れを解説したものであり、特に生物試料の観察に言及して、比較的波長の短い(1〜100Å)軟X線顕微鏡について解説している。非特許文献4は、非特許文献2の内容とほぼ同じであるが、0.1μmの分解能の根拠になる波形が示されている(本文p.146)。非特許文献5は、X線顕微鏡についてわかりやすく解説されており、非特許文献2,3,4と同じで、コントラストが付きづらい試料に対してターゲットを変えることにより、像質が良くなることが示されている。
【0008】
【非特許文献1】
ニクソン(Nixon)著,「ハイ-リゾルーション エックス-レイ プロジェクション マイクロスコーピィ(High-resolution X-ray projection microscopy)」,1960年,A232:p.475−485
【非特許文献2】
矢田 慶治・石川 寿,「SEMを利用した透過型X線陰影顕微鏡」,東北大学科学計測研究所報告,1980年, 第29巻 第1号 p.25−42
【非特許文献3】
矢田慶治・篠原邦夫,「軟X線顕微鏡の発達」,1980年,生物物理 Vol.33 No.4 p.8−16
【非特許文献4】
ケイジ ヤダ(Keiji Yada)・ショウイチ タカハシ(Shoichi Takahashi),「ハイ-リゾルーション プロジェクション エックス-レイ マイクロスコーピィ(High-Resolution Projection X-ray Microscopy)」,1994年,Chap.8 p133−150
【非特許文献5】
矢田慶治・篠原邦夫,「投影X線顕微鏡の開発と生物学への応用」,1996年,青森公立大学紀要 第1巻 p.2−13
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これまでにない高分解能をもつX線検査装置を製作するためには、より高輝度(単位面積/単位立体角あたりの電流量が多く)且つ放射電流量が多い電子源が必要になってくる。また、できるだけ多くの電子プローブ電流量を確保する電子レンズ系も必要になってくる。さらに、こうした高電流密度をもつ電子プローブが衝突しても融けたり蒸発しない様、ターゲットの放熱効果を大きくする工夫が必要になってくる。
【0010】
ところで、ナノテクノロジーの分野は情報、医療、環境にわたるが、例えば、医療で言われているマイクロマシンにおいては、それを構成する部品が1μmを切り、ナノのオーダーに入ろうとしている。また、現在の半導体技術は微細化の一途をたどっており、これまでにない微小X線源を用いて分解能0.1μm以下クラスでの非破壊検査が是非とも必要な課題となっている。特に情報分野では次世代超LSIの線幅を現在の180〜130nmから70〜100nmにしようという大きな課題がある。同時に、軽元素を主体とした微細構造が観察対象となるケースが多く、像にコントラストをつけるため、在来のX線検査装置では困難であった10〜20kVの低加速電圧による長波長のX線を用いても高分解能を保持することが重要な課題となっている。
【0011】
本発明は上述のような事情から成されたものであり、本発明の目的は、上述した諸課題を解決して、0.1μm以下の高分解能で且つ非常に短時間での非破壊検査を可能とし、ナノテクノロジーの分野に大きく貢献することができるX線顕微検査装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電子銃の電子源からの電子線をX線発生用ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段を有し、前記X線を利用して被検査体を検査するX線顕微検査装置に関するものであり、本発明の上記目的は、前記電子銃が作る電界に磁界を重畳させる磁界重畳レンズを前記X線発生手段の構成要素として備え、前記磁界重畳レンズの磁界発生部を前記電子銃が収容されている超高真空の電子銃室と真空的に分離した部位で且つ前記電子銃の電子発生部に近接して配置すると共に、前記磁界重畳レンズのポールピース部を前記電子銃室と真空的に分離した部位に配置した構成とし、前記電子発生部から発生した直後の電子を前記磁界重畳レンズによって集束させながら前記電子銃によって加速させることによって、前記X線発生用ターゲットに当てる電子線の損失電子線量を低減させるようにすることによって達成される。また、記電子源液体金属を用いた液体金属電子源であること、前記電子源熱電界放射電子源であること、前記X線発生用ターゲットが、CVDダイヤモンドをヒートシンクとして用いたヒートシンク付きターゲットであることによって、それぞれ一層効果的に達成される。
【0013】
また、本発明の上記目的は、前記磁界重畳レンズは、その断面形状を凹状に形成し且つその凹部中央に穴径の小さな空隙部を形成した構造とし、更に、断面形状を凸状に形成した前記電子銃室の突出部を前記磁界重畳レンズの凹部に挿設すると共に、前記電子銃の電子発生部を前記磁界重畳レンズが作る磁界の中に挿入する形で前記突出部に配置した構成とすることによって、一層効果的に達成される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のX線顕微検査装置では、[発明が解決しようとする課題]で述べた諸課題を解決するために、下記の手段を採用している。第1に、従来のX線検査装置に用いている熱電子放射陰極と比較して、より高輝度な「熱電界放射陰極」あるいは「液体金属電界放射陰極」を、X線顕微検査装置としては初めて電子源に用いる。これらの電子源の特徴は、輝度がLaB6陰極より2桁高く、同時に実効的な電子源の大きさが3桁小さいことである。このため電子プローブを形成する電子光学系には特殊な工夫を必要とする。従来のX線検査装置では、図6に示したように、電子源21bからの電子Reを加速したあとで電子レンズ22により集束し、全体として電子プローブを2桁縮小していた。この縮小に際しては、前述のように電子線量の減少が伴ってくる。そこで、第2に、本発明のX線顕微検査装置では、電子を加速しながら集束する磁界重畳電子レンズ(以下、「磁界重畳レンズ」と言う)を導入することにより、損失電子線量を減らしながら全体として数倍の拡大系として動作させる形態としている。このように、これまでX線顕微鏡に使われたことのない電子源(熱電界放射電子源、液体金属電子源)と、やはりX線顕微鏡では使われたことのない磁界重畳レンズを用いて、これまでにない高輝度X線源を実現し、非常に短時間で0.1μm以下の分解能のX線像を取得できる。
【0015】
第3に、X線発生用のターゲットには、CVD(chemical vapor deposition)で作られたダイヤモンドの薄板をヒートシンクとして導入する。ダイヤモンドは、軽元素でX線が透過し易く、絶縁物であるにも拘わらず熱伝導率が極めて高く(純銅の約3倍)、融点も極めて高い。最近はCVDで良好な熱伝導率のダイヤモンド板が得られるようになった。本実施の形態では、ダイヤモンド板の上に更にターゲット材料をCVDで付けて用い、ダイヤモンドヒートシンク付きターゲットとすることで、電子ビームによるターゲットの温度上昇を大幅に減少させ、電子線から変換されるX線が大幅に増加しても熱的負荷に耐えるようにした。上述した第1〜第3の技術事項は、全てを採用したものが最適と言えるが、それぞれ独立に採用することができ、いずれもX線像の高分解能化を図ることができる。
【0016】
ところで、軽元素を主体とした試料では、長波長のX線を用いることが望ましいことは判っていたが、従来のX線顕微検査装置は信号量の不足のため、画像処理によるコントラスト増強しか方法がなかった。本発明のX線顕微検査装置では、上述のような各技術事項を採用したことにより、信号量の大幅な増加が可能になったので、長波長のX線を用いた軽元素サンプルを高分解能で検査することが可能となった。例えば、加速電圧を10〜20kV程度の低加速電圧まで下げることにし、それに対応したターゲットとしてGe(ゲルマニウム)、Cr(クロム)などを採用して、波長が0.6〜2Åの連続X線に加えて2〜30Åの強い特性X線を発生させる。このような長波長で且つX線量の多いX線を発生する形態とすることで、軽元素を主体としたサンプルにも大幅なコントラスト増強が可能となる。
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るX線顕微検査装置の主要部の構成の一例を示しており、X線発生手段は、電子銃1、対物レンズ2、ターゲット3等から成り、電子銃1は、ショットキーモジュール1a,電子源1b,アノード1c等から構成される。本発明のX線顕微検査装置では、前述のように、電子源1bとしては「液体金属電界放射陰極(液体金属電子源)」又は「熱電界放射陰極(熱電界放射電子源)」を用いている。
【0019】
図2(A)及び(B)は、液体金属を電子源に用いた液体金属電界放射陰極の一例を模式図で示しており、液体金属電界放射陰極1bは、例えば、タングステンのフィラメントを熱電子源a1とし、同図(A)に示すようなタングステンの先端を鋭角に形成したものを電子発生部a2として同図(B)に示すように熱電子源a1に付け、その電子発生部a2に液体金属a3を塗布した構成とする。このような構成とすることで、液体金属a3が表面を伝わって電子発生部a2の先端に供給される。その液体金属a3がもたらす効果により、電子線の量が1000倍くらい増加する。液体金属として使用する材料としては、低融点金属のうち、融点での蒸気圧が比較的低い、液体金属イオン源で使われている材料が好ましく、例えばIn(インジウム)[融点≒429K,融点での蒸気圧:<<10-10 Pa]や、Ga(ガリウム)[融点≒303K,融点での蒸気圧:<<10-10 Pa]などが好適である。
【0020】
また、本発明では、図1の構成例のように、X線顕微検査装置の電子銃1の電子発生部の近傍に、X線顕微鏡では使われたことのない磁界重畳レンズ1dを配置し、少なくとも電子発生部1aから電子加速手段の構成要素であるアノード1cに至るまで、電子銃が作る電界に磁界重畳レンズ1dが作る磁界を重畳させて、電子Reをアノード1cで加速しながら集束させる構成としている。すなわち、電子発生部1aから発生した直後の電子Reを集束させながら加速することによって集束電子線の損失電子線量を減らしている。そして、高電流密度を有する集束電子線(X線発生用電子プローブ)をターゲット3に当て、ターゲット3から発生するX線量を増加させるようにしている。
【0021】
いわゆる磁界重畳レンズは、従来より透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡等の電子線装置においては使用されているが、これらの電子線装置では、電子線のスポット径は小さいが、放射電流量が少ないためターゲット3から所望のX線量が得られず、X線顕微検査装置には適用できなかった。その理由は、電子顕微鏡では放射電流量はかなり小さくても信号量として充分でそれ程問題とならないが、X線顕微検査装置では、電子顕微鏡と違い、少ないプローブ電流では、像が暗く、長い露光時間を要するという問題が発生するからである。特に、露光時間が短いというのが産業用に普及するための必要条件である。また、電子顕微鏡等の電子線装置では、超高真空が求められる電子銃室内に磁気回路等を組込む構成としている。より大電子流(プローブ電流)を必要とするX線顕微検査装置では、電子流が当たって放出するガスと発熱を伴う磁気回路による真空の劣化を解決するのが困難であった。そのため、電子線装置で使用されているものをX線検査装置に適用したものはなく、従来のX線検査装置では、アノードで加速した電子線をレンズで曲げて集束させるようにしていた。本発明では、ガス放出量が少ないとされている材料の採用と磁気回路を真空的に分離し、かつ水冷することでこの問題を解決している。
【0022】
ここで、本発明に係るX線検査装置独特の磁界重畳レンズの構成について、走査電子顕微鏡等の電子線装置で使用されているものと比較して説明する。
【0023】
FE(電界放射)電子銃は、輝度が高く且つ干渉性の良い電子線が得られることから、透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、走査透過型電子顕微鏡、あるいは電子線露光装置などで威力を発揮している。しかし、この性能は、光源のクロスオーバを著しく小さく縮小して得られる。いわゆる電子線プローブもナノメータサイズ以下(サブナノメータ)のプローブとした時に初めて十分な性能を発揮している。しかし、光源のクロスオーバをサブミクロンからミクロンサイズと拡大したプローブを得ようとすると、拡大レンズの大きな収差によって十分なプローブ電流を得ることは困難となる。この収差は電子銃の光源の位置から拡大レンズ(1段又は複数段)の初段までの距離に関係し、距離の3〜4乗に比例する。そのため電子銃部に電子レンズを付加した、いわゆる複合レンズが考案され、一部で実用化されている。
【0024】
しかし、従来のFE電子銃は、図7の構成例に示すように、電子銃室の筐体は全体がステンレスなどの真空シール材1Bで形成されており、その超高真空内に配置された電子銃先端部1Aに独立した磁気回路1d(磁性体1d11,励磁コイル1d12等)を組み込んだ構成としている。このような構成では、超高真空が求められるFE電子銃室A内に発熱を伴う磁気回路、冷却水、磁気コイルの組み込み、それらにつながるリード線、配管の取り出しに大きな困難が伴う。また、電子銃と電子レンズの軸合わせ機構も極めて困難である。これに対して、本発明に係る磁界重畳レンズを有するX線発生用の電子銃(以下、磁界レンズ重畳電子銃と言う)は、磁気回路1d等から成る磁界重畳レンズの磁界発生部を、電子銃の電子源(電子を発生する電子銃先端部1A)の近傍で且つ電子銃室とは真空的に分離した部位に設けた構成としている。
【0025】
図3は、本発明に係る磁界レンズ重畳電子銃の第1の構成例を、図7に示した従来のFE電子銃の構成に対応させて示しており、1Aはエミッタ,サプレッサ,エキストラクタ等から構成される電子銃先端部、1dは磁気回路、1d11は磁気回路を構成する磁性体、1d12は、磁気回路1dのための励磁コイル、sは電子レンズの二つのポールピースの間隔、b2(図7では“b”)はポールピースの穴径をそれぞれ示している。図3に示すように、本実施の形態では、電子銃室そのものを磁性体1d11等から成る磁気回路1dの中に組み込んだ構成としている。詳しくは、磁界重畳レンズ1dの構成要素として、図3中に示すような例えば断面が矩形状で筐体の全体(又は一部)が磁性体で覆われた電子銃収容部を電子銃室Aとして具備し、その電子銃収容部内に電子銃が組み込まれた構成となっている。すなわち、電子銃室を構成する筐体の部位(上板、底板、外筒など筐体の一部又は全体)を磁気回路(磁界発生部)の一部又は全体とし、電子銃と磁気回路1d とを真空的に分離した構成としている。
【0026】
この第1の構成例では、強い励磁が求められるが、物面(光源のクロスオーバ)はレンズ場中心より後方に配置されるため、収差係数(特に球面収差)を十分小さくできるという効果がある。その理由は、一般に、物面(この場合、光源のクロスオーバ)から電子レンズ下極までの距離が固定されると、ポールピースの穴径、間隔は大きい方が球面収差は小さくなるからである。なお、色収差はその限りではないが、本発明の対象として色収差は無視することができる。また、超高真空が求められる電子銃室とは構成上分離した形となるため、真空シール、冷却水、リード線の取り出しなどが容易になるという効果がある。
【0027】
図4は、本発明に係る磁界レンズ重畳電子銃の第2の構成例を図3に示した第の構成例に対応させて示しており、本実施の形態では、図4に示すように、電子銃先端部1Aと磁性体1d11とがより近接するように、例えば断面が凹状に形成された磁性体1d11等から成る磁界重畳レンズ1dの上部に凸状の電子銃室Aを設け、電子銃先端部1Aを磁界重畳レンズ1dの上側から磁界の中に挿入する形の構成としている。図3に示した第1の構成例では極めて強い磁界が得られるため、低加速電子線に対しては極めて有効であるが、ある程度、高加速の電子線に対しては必ずしも好都合とは言えない。そこで、小さな励磁で済むように、ポールピースの穴径b(本例では上下が異なる径サイズの穴径b1,b2)、間隔sを小さくして、その磁界の中に電子銃先端部1Aを挿入する形としたのが、本実施の形態である。
【0028】
上記の磁界レンズ重畳電子銃の第1,第2の構成例とも、磁界重畳レンズは、磁界発生部を電子銃の電子発生部の近傍で且つ電子銃室とは分離した部位に配置した構成としており、電子銃と磁気回路とを真空的に分離できる(焼きだしを含めて超高真空を実現しやすい)という効果と、電子銃の作る電界と磁気回路の作る磁界とを無理なく重畳できるという効果がある。また、軸合わせも機械的に移動機構を組み込むことが容易で、たやすく実現することができる。さらに図4の構成では、その1例が示されるように、短形コイルなどの偏向コイル1eを電子銃先端部1Aの近傍に設けることによって、電磁軸合わせも可能となり実用的である。
【0029】
電子線集束用のレンズとしては、原理的には上記の磁界重畳レンズ1dだけで良く、図1に示したターゲット3側の電子レンズ(対物レンズ)2は必須構成ではないが、対物レンズ2を設けて電子線の集束を2段階とすることで、所望の電子プローブサイズとプローブ電流を選択する自由度が極めて大きくなる。また、従来の装置(図6参照)と比較して、本発明のX線顕微検査装置では、対物レンズ2の焦点距離が長く、従来のX線顕微検査装置では得られない長い作動距離(数cm)を実現することができる。そのため、対物レンズ2とターゲット3との間の空間を広くとることができ、その空間内に検査に係る周辺機器を設置することが可能となる。
【0030】
また、高分解能のX線顕微検査装置を実現するには、試料(被検査体)10に照射するX線量が多く、高輝度且つ微小な焦点サイズのX線を発生させるためには、ターゲット3に当てる電子線は高性能レンズにより集束のロスが少なく電子量が多いことが重要であるが、X線発生用の電子ビームの軸の向き及び位置も重要である。本実施の形態では、図1並びに図4に例示したように、X線顕微検査装置としては初めて、電子発生部1Aの近傍(電子源のすぐ近くに)に電子線軸合わせコイル1eを配置する構成とし、この軸合せコイル1eにより、アノード1cで加速する前の電子線をX,Y方向にシフトして軸を合わせることで、電子ビームのX線源に対する軸合わせを正確且つ極めて容易にできるようにしている。
【0031】
さらに、図1中に示されるX線発生用のターゲット3としては、X線が透過し易く、絶縁物であるにも拘わらず熱伝導率が極めて高く、且つ融点も極めて高いダイヤモンドをヒートシンクとして用いた構成としている。下記の表1は、Be(ベリリウム)とダイヤモンドの特性を示しており、ダイヤモンドは、従来使用されていたBeと比較しても熱伝導率や融点が非常に高いため、磁界重畳レンズ1dにより集束された高電流密度をもつ電子プローブが衝突しても融けたり蒸発したりするなどの問題も発生せず、X線発生用ターゲットのヒートシンクとして優れた効果を発揮する。
【0032】
【表1】
Figure 0004029209
【0033】
図5(A)及び(B)は、本発明に係るダイヤモンドヒートシンク付きターゲット3の構成の一例を側面図と平面図で模式的に示しており、同図(A)に示すように、例えば、CVDにて形成された薄板状のダイヤモンド板3bの上に、更にターゲット材料3aをCVDにより蒸着した構成とする。このように、CVDダイヤモンドをヒートシンクとしたターゲットとすることにより、電子ビームによるターゲット3の温度上昇を大幅に減少させ、高強度X線でもその熱負荷に耐えるターゲットを実現している。
【0034】
以上のような構成とすることで、40nm〜100nmの超高分解能を有するX線顕微検査装置を実現することができ、次世代超LSIの検査や、医療用のマイクロマシンの構成部品の検査、長波長(2〜30Å)のX線による軽元素を主体とした試料の検査など、様々な分野の非破壊検査等に大きく貢献することが可能となる。
【0035】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、0.1μmより良い超高分解能(40〜100nm)で被検査体の微細構造を非破壊で検査可能なX線顕微検査装置を提供することが可能となる。詳しくは、磁界重畳レンズを用いて高電流密度を有するX線発生用の電子ビームを形成し、単位面積当たりのX線量の多いX線を発生させるようにしているので、電子線量の減少を避けながら全体として数倍の拡大系として動作させることが可能となる。また、電子源に液体金属又は熱電界放射陰極を用いた構成とすることで、LaB6陰極を用いた従来の電子源と比較して、高輝度且つ放射電流量が多い電子源を提供することができ、被検査体に照射するX線量を大幅に増加させることができる。
【0036】
また、X線発生用ターゲットとしてCVDダイヤモンドをヒートシンクとして用いた構成とすることで、電子ビームのエネルギーがターゲット上で熱に変換される際の温度上昇を大幅に減少させることができ、その結果として、被検査体に照射するX線量を大幅に増加させても熱負荷に耐えるターゲットとすることができる。
【0037】
また、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、近年、半導体部品を筆頭にその構成最小単位はマイクロスケールからナノスケールヘ微細化が進んでいる。そうした部品の内部の微細構造を非破壊で検査するということは今後、必要不可欠な技術になってくる。こうした内部構造を非破壊かつ高分解能で調べられるのはX線しかない。よって、40〜100nmの超高分解能での非破壊検査等が可能となる本発明によれば、ナノテクノロジーの分野に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るX線顕微検査装置の主要部の構成の一例を示す概略図である。
【図2】液体金属を電子源に用いた液体金属電界放射陰極の一例を示す模式図であり、図2(A)が正面図、図2(B)が側面図である。
【図3】本発明に係る磁界レンズ重畳電子銃の第1の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明に係る磁界レンズ重畳電子銃の第2の構成例を示す模式図である。
【図5】 ダイヤモンドヒートシンク付きターゲットの一例を示す模式図であり、図5(A)が側面図、図5(B)が平面図である。
【図6】従来のX線検査装置の構成の一例を示す概略図である。
【図7】従来のFE電子銃の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 磁界レンズ重畳電子銃
1A 電子銃先端部(電子発生部)
1B 真空シール材
1a ショットキーモジュール
1b 液体金属電界放射陰極又は熱電界放射陰極(電子源)
1c アノード
1d 磁界重畳レンズ
1d 磁気回路
1d11 磁性体
1d12 励磁コイル
1e 軸合わせコイル
2 対物レンズ
3 ダイヤモンドヒートシンク付きターゲット
3a ターゲット材料
3b ダイヤモンド板
10 被検査体(試料)
11 X線検出器
21 熱電子放射電子銃
21a グリッド
21b 熱電子放射陰極(電子源)
21c アノード
22 電子レンズ(対物レンズ)
23 ターゲット
23a X線源
24 X線検出器
Re 電子(電子線)
Rx X線

Claims (5)

  1. 電子銃の電子源からの電子線をX線発生用ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段を有し、前記X線を利用して被検査体を検査するX線顕微検査装置において、
    前記電子銃が作る電界に磁界を重畳させる磁界重畳レンズを前記X線発生手段の構成要素として備え
    前記磁界重畳レンズの磁界発生部を前記電子銃が収容されている超高真空の電子銃室と真空的に分離した部位で且つ前記電子銃の電子発生部に近接して配置すると共に、前記磁界重畳レンズのポールピース部を前記電子銃室と真空的に分離した部位に配置した構成とし、
    前記電子発生部から発生した直後の電子を前記磁界重畳レンズによって集束させながら前記電子銃によって加速させることによって、前記X線発生用ターゲットに当てる電子線の損失電子線量を低減させるようにしたことを特徴とする高分解能X線顕微検査装置。
  2. 記電子源液体金属を用いた液体金属電子源であることを特徴とする請求項1に記載の高分解能X線顕微検査装置。
  3. 記電子源熱電界放射電子源であることを特徴とする請求項1に記載の高分解能X線顕微検査装置。
  4. 記X線発生用ターゲットが、CVDダイヤモンドをヒートシンクとして用いたヒートシンク付きターゲットであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高分解能X線顕微検査装置。
  5. 前記磁界重畳レンズは、その断面形状を凹状に形成し且つその凹部中央に穴径の小さな空隙部を形成した構造とし、更に、断面形状を凸状に形成した前記電子銃室の突出部を前記磁界重畳レンズの凹部に挿設すると共に、前記電子銃の電子発生部を前記磁界重畳レンズが作る磁界の中に挿入する形で前記突出部に配置した構成としていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高分解能X線顕微検査装置。
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