JP4028684B2 - 鋼管の接合構造 - Google Patents
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Description
本発明は、肉厚の異なる鋼管同士の突合せ溶接部における疲労強度に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の、鋼管の突合せ溶接構造として、例えば図8に示すようなものがある(第1従来例)。この溶接構造は、外径が等しく、肉厚t1,t2が異なる鋼管10,11同士が突合せ溶接されている。図示のように、厚肉の鋼管10は内径から拡径するテーパ部(一般に勾配は1/5以下)を形成して、薄肉の鋼管11の肉厚t2と等しくなった部位([A]部)にて溶接されている。
【0003】
一方、これとは逆に、内径が等しく、肉厚t1,t2が異なる鋼管12,13同士が突合せ溶接される場合もある(第2従来例、図11参照)。この場合には、厚肉の鋼管12は外径から縮径するテーパ部を形成して、薄肉の鋼管13の肉厚t2と等しくなった部位([A]部)にて溶接される。こうして、断面形状の急変にともなう応力集中を避け、切欠係数を小さくして疲労強度を高める方法が採られている。
【0004】
また、一般に溶接止端部をグラインダーがけする方法、ショットピーニング、ハンマーピーニング等によって溶接止端部の残留応力を表面圧縮応力化して疲労強度を向上する方法も採られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記のような突合せ溶接では疲労強度上の弱点となる部分が存在する。すなわち、図9(第1従来例)に示すように、余盛ビード14の止端部15が弱点となる部分の一つで、余盛が大きい場合にビード止端部15に応力集中が生じ、疲労亀裂発生の原因になり易い。
【0006】
そのため道路橋示方書では余盛高さを制限しており(例えばビード幅20mmのとき余盛高さは3mm以下)、ビード止端部15も滑らかに仕上げることが示されている。鋼管10,11の外面であれば、ビード止端部15の仕上げが可能である。
【0007】
弱点となる部分の二つ目として、溶接のルート部16があげられる。通常は片側からだけの溶接の場合は裏波溶接を行うか、あるいは裏当て金をして溶接する。しかし鋼管の突合せ溶接の場合、一般にルート部16は内側からの手入れが困難であり、仕上げができない場合が多く、この部分が疲労強度に対する弱点になり易い。
【0008】
図10は前記(図8)のように突合せ溶接された両鋼管10,11が、軸方向の引張力Pを受けた場合についての有限要素法(FEM)による応力解析結果を示す。図10に示すように、[A]部から軸方向に離れた部位における鋼管10内面の各引張応力σ1,σ2はそれぞれ公称応力値σ1=P/A1,σ2=P/A2(ここにA1,A2は各鋼管の断面積)となるが、その中間の内面における各引張応力σは図10に示すように変化する。
【0009】
そして、厚肉鋼管10のテーパ部の大径端([A]部)において著しく大きな極大点が生じる。ついで、[A]部から距離(d)だけ離れた[B]部にて薄肉鋼管11側の極小点が生じる。このように疲労亀裂発生の起点となり易い突合せ溶接のルート部16と引張応力σの極大点([A]部)が一致しているので、疲労強度が極めて弱い構造であり、問題である。
【0010】
また、図11は、厚肉と薄肉の鋼管12,13が突合せ溶接された場合についてのFEMによる応力解析結果を示す。図11示のように、[A]部から軸方向に離れた部位における鋼管12,13の内面の各引張応力σ1,σ2は前記図10と同じ公称応力値である。
【0011】
そして、内表面の引張応力曲線は、厚肉鋼管12の公称応力値σ1の部位から薄肉鋼管13側へ向かって図示のように変化する。[A]部から薄肉鋼管13側へ距離(d)離れた部位に極小点▲2▼が生じるが、その薄肉鋼管13側近傍に極大点が生じるので、溶接部位の設定に注意を要する。
【0012】
そこで、本発明は、厚さの異なる鋼管同士の溶接接合部に高い耐久性を付与することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するために、本発明は次のように構成する。
【0015】
請求項1の発明は、外径が等しく肉厚が異なる鋼管同士の突合せ溶接接合において、厚肉鋼管の内径をテーパ状に拡径して薄肉鋼管の肉厚と等しい等肉厚部を形成すると共に等肉厚部を所定長さ設け、前記等肉厚部の先端にて薄肉鋼管と突合せ溶接する接合構造であって、前記接合された鋼管に軸方向の引張力が作用したとき、原肉厚の中心のずれによって生じる局部的な曲げモーメントにより鋼管内面の表面引張応力が極小になる部位を求め、前記極小部位に一致するように前記等肉厚部の先端を設定することを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明は、内径が等しく肉厚が異なる鋼管同士の突合せ溶接接合において、厚肉鋼管の外径をテーパ状に縮径して薄肉鋼管の肉厚と等しい等肉厚部を形成すると共に等肉厚部を所定長さ設け、前記等肉厚部の先端にて薄肉鋼管と突合せ溶接する接合構造であって、前記接合された鋼管に軸方向の引張力が作用したとき、原肉厚の中心のずれによって生じる局部的な曲げモーメントにより鋼管内面の表面引張応力が極小になる部位を求め、前記極小部位に一致するように前記等肉厚部の先端を設定することを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は、外径または内径が等しく、肉厚の変化が小さい、または、肉厚の等しい鋼管同士の突合せ溶接接合において、対向する鋼管の間に外径または内径が等しく肉厚の異なる第三の鋼管を部分的に挿入して、対向する鋼管と第三の挿入鋼管との接合部の少なくとも一方において、請求項1又は2記載の接合構造を適用したことを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の鋼管の接合構造であって、突合せ溶接接合に裏当て金を使用したことを特徴とする。
【0020】
【作用】
本発明によると、厚さの異なる鋼材および鋼管の突合せ溶接接合において、外力に対して両部材間で応力中心線がずれることに起因する局部的な曲げモーメントが接合部近傍に生じる場合に、表面引張応力が相対的に小さい部位に溶接接合部を設定するので、その溶接接合部の疲労強度を向上することが可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。図1は,本実施形態の鋼管の突合せ溶接接合部を示す断面図である。図2、図3は,接合部近傍における軸方向の応力分布の解析結果を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、鋼管1と鋼管2とは外径が800mmで等しく、肉厚はそれぞれ40mm、20mmである。鋼管1の内径側を切削加工などにより、テーパ状(テーパ部の軸方向長さ40mm)に加工して肉厚を徐々に減少させ、鋼管2の肉厚と等しくなった部位([A]部)から等肉厚部3を所定長さ(d)だけ延長させて形成している。所定長さ(d)はFEM解析によって予め求めておく。そして、所定長さ(d)の先端([B]部)にて両鋼管1,2を突合せ溶接している。溶接部の外面はグラインダー等により仕上げられる。
【0023】
図2は、接合された鋼管1,2に軸方向の外力が作用した場合のFEM解析結果を示す。縦軸は鋼管1,2の外表面と内表面の応力値を示し、横軸は[A]部を0mm点とし、左右にそれぞれ鋼管1側、鋼管2側への軸方向位置を示す。曲線4が外表面の応力変化を示し、曲線5が内表面の応力変化を示す。内表面の応力(曲線5)は0mm点([A]部)にて最大応力を生じるが、[A]部から等肉厚部3上でd≒150mmだけ先端側(薄肉鋼管2側)へずれた部位に極小点([B]部)が生じる。
【0024】
図3は、接合部近傍の応力分布の拡大図である。前記の150mmずれた極小点([B]部)が突合せ溶接部として設定される。突合せ溶接のルート部となる[B]部は鋼管の場合一般には溶接後の仕上げ加工を行うことができず、溶け込み不足などの溶接欠陥による応力集中が疲労破壊の起点になり易いので、[B]部のような表面応力の極小点に溶接部を一致させることが得策である。
【0025】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を図4〜図6を参照して説明する。図4は本実施形態の鋼管の突合せ溶接接合部を示す断面図である。図5、図6は接合部近傍における軸方向の応力分布の解析結果を示す説明図である。
【0026】
図4に示すように、鋼管6と鋼管7とは内径が720mmで等しく、肉厚はそれぞれ40mm、20mmである。鋼管6の外径側を切削加工などによりテーパ状(テーパ部の軸方向長さ40mm)に加工して肉厚を徐々に減少させ、鋼管7の肉厚と等しくなった部位([A]部)から等肉厚部3を所定長さ(d)だけ延長させて形成している。所定長さ(d)はFEM解析によって予め求めておく。そして、所定長さ(d)の先端([B]部)にて両鋼管を突合せ溶接している。溶接部の外面はグラインダー等により仕上げられる。
【0027】
もちろん、テーパ部、等厚部断面をなめらかな曲面状となるように切削加工しても、効果は同様に得られる。
【0028】
図5は、接合された鋼管6,7に軸方向の外力が作用した場合の力FEM解析結果を示す。縦軸は鋼管6,7の外表面と内表面の応力値を示し、横軸は[A]部を0mmとし、左右にそれぞれ鋼管6側、鋼管7側への軸方向位置を示す。曲線8が外表面の応力変化を示し、曲線9が内表面の応力変化を示す。内表面の応力(曲線9)は0mm点([A]部)の極近傍部位に極小点([B]部)が生じる。
【0029】
図6は、接合部近傍の応力分布の拡大図である。0mm点([A]部)から等肉厚部3上でd≒5mmだけ先端側(薄肉鋼管7側)へずれた部位に極小点([B]部)が生じる。
【0030】
そして、前記の約5mmずれた極小点([B]部)が突合せ溶接部として設定される。突合せ溶接のルート部となる[B]部は鋼管の場合一般には溶接後の仕上げ加工を行うことができず、溶け込み不足などの溶接欠陥による応力集中が疲労破壊の起点になり易いので、[B]部のような表面応力の極小点に溶接部を一致させることが得策である。
【0031】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を、図7を参照して説明する。同図は、本実施形態の鋼管の突合せ溶接接合部を示す断面図である。
【0032】
図7に示す外径が等しく、肉厚の等しい鋼管17、18同士の突合せ溶接接合においては、対向する鋼管17、18同士の板厚中心が一致し、そのため溶接接合部に外力が負荷されたとき、局部的な曲げモーメントは発生しない。したがって、表面応力が著しく変化することはない。
【0033】
しかし、対向する鋼管17、18の間に、外径が等しく肉厚の大きな第三の鋼管(挿入鋼管19)を部分的に挿入して溶接する。すると、板厚中心に偏心が生じて、外力が負荷されたとき、局部的な曲げモーメントが発生し、表面応力に変動が発生する。
【0034】
第三の鋼管(挿入鋼管19)の両端部は、予め切削加工によって、テーパー状に加工して肉厚を徐々に減少させ、対抗する鋼管17、18と同じ板厚となった部位から等肉厚部を所定長dだけ延長させて形成している。所定長dの決め方は、第1実施形態と同様である。
【0035】
本発明の方法によれば、従来、疲労の弱点なりやすかった裏当て金を用いた溶接継ぎ手であっても、疲労強度を落とすことなく適用できる。
【0036】
そして、所定長dの先端にて対向する鋼管17、または18と突き合わせ溶接している。突き合わせ溶接の少なくとも一方は、通常、大型構造物が構築される現場でなされるので、施工性を考慮して裏当て金20を用いた突き合わせ溶接としてもよい。
【0037】
なお、前記の各実施形態では鋼管同士の突合せ溶接について説明したが、本発明は鋼管に限定されずに、例えば板厚の異なる板材やH形断面部材についても適用可能であることは勿論である。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、厚さの異なる鋼管同士の突合せ溶接接合部に外力が作用したとき、接合部近傍に局部的な曲げモーメントが生じる場合に、表面引張応力が相対的に小さい部位に、溶接欠陥による応力集中が生じ易い溶接接合部を設定するので、接合部の疲労強度を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の突き合せ溶接接合部を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の接合部近傍における軸方向の応力分布の解析結果を示す説明図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態の突き合せ溶接接合部を示す断面図である。
【図5】第2実施形態の接合部近傍における軸方向の応力分布の解析結果を示す説明図である。
【図6】図5の要部拡大図である。
【図7】本発明の第3実施形態の突き合せ溶接接合部を示す断面図である。
【図8】第1従来例の断面図である。
【図9】第1従来例の説明図である。
【図10】第1従来例の説明図である。
【図11】第2従来例の説明図である。
【符号の説明】
1 鋼管
2 鋼管
3 等肉厚部
4 応力分布曲線
5 応力分布曲線
6 鋼管
7 鋼管
8 応力分布曲線
9 応力分布曲線
Claims (4)
- 外径が等しく肉厚が異なる鋼管同士の突合せ溶接接合において、厚肉鋼管の内径をテーパ状に拡径して薄肉鋼管の肉厚と等しい等肉厚部を形成すると共に等肉厚部を所定長さ設け、前記等肉厚部の先端にて薄肉鋼管と突合せ溶接する鋼管の接合構造であって、前記接合された鋼管に軸方向の引張力が作用したとき原肉厚の中心のずれによって生じる局部的な曲げモーメントにより鋼管内面の表面引張応力が極小になる部位を求め、前記極小部位に一致するように前記等肉厚部の先端を設定することを特徴とする鋼管の接合構造。
- 内径が等しく肉厚が異なる鋼管同士の突合せ溶接接合において、厚肉鋼管の外径をテーパ状に縮径して薄肉鋼管の肉厚と等しい等肉厚部を形成すると共に等肉厚部を所定長さ設け、前記等肉厚部の先端にて薄肉鋼管と突合せ溶接する鋼管の接合構造であって、前記接合された鋼管に軸方向の引張力が作用したとき原肉厚の中心のずれによって生じる局部的な曲げモーメントにより鋼管内面の表面引張応力が極小になる部位を求め、前記極小部位に一致するように前記等肉厚部の先端を設定することを特徴とする鋼管の接合構造。
- 外径または内径が等しく、肉厚の変化が小さい、または、肉厚の等しい鋼管同士の突合せ溶接接合において、対向する鋼管の間に外径または内径が等しく肉厚の異なる第三の鋼管を部分的に挿入して、対向する鋼管と第三の挿入鋼管との接合部の少なくとも一方において、請求項1又は2記載の接合構造を適用したことを特徴とする鋼管の接合構造。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の鋼管の接合構造であって、突合せ溶接接合に裏当て金を使用したことを特徴とする鋼管の接合構造。
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