本発明に係る振動・音圧伝達特性解析装置について、その解析方法との関係で車両に適用した好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
本実施形態では、(A)第1実施例:ハンマーによる加振実験に基づく車両内の振動伝達関数の算出方法(図1〜図10)、(B)第2実施例:(A)の算出方法を利用した振動・音圧伝達特性解析装置50A及びその方法(図11〜図14C)、(C)第3実施例:固体伝播音及び空気伝播音を同等に取り扱うことが可能な振動・音圧伝達特性解析装置50B及びその方法(図15〜図28)の順番で、以下詳細に説明する。
ここでは、第1実施例の説明に先立ち、本実施形態(第1〜第3実施例)の解析対象となる車両内の固体伝播音や、空気伝播音について、図1を参照しながら説明する。
図1に示す車室10内には乗員12がおり、車両が走行中(動作中)である場合、固体伝播音の振動源は、例えば、エンジン14や排気系統20であり、該エンジン14からの振動は、エンジンマウント16、ボディ18を伝播して車室10内で固体伝播音に変化し、一方で、排気系統20の振動は、マフラーマウント22、ボディ18を伝播して車室10内で固体伝播音に変化する。また、空気伝播音の音源は、例えば、エンジン14や排気系統20の排気口であり、エンジン14の吸気口の音や該エンジン14の放射音が空気伝播音として車室10内に伝播し、一方で、前記排気口における排気音が空気伝播音として車室10内に伝播する。
車室10内に伝播したこれらの固体伝播音や空気伝播音については、乗員12に対する最適な音響環境として提供する必要がある。
そこで、本実施形態では、前記固体伝播音が複数の振動源から車室10内に至るまでの伝達経路と、前記空気伝播音が複数の音源から車室10内に至るまでの伝達経路とを分離し、該車室10内において車内音の音質が低下している部位や前記各伝達経路を定量的に把握して、前記車内音の音質阻害要因を定量的に解析する。
すなわち、本実施形態では、図2に示すように、基本的には、図示しない振動源からの振動を振動検出手段により検出して振動検出信号A1〜Anを出力し、前記振動源と該振動源に対する応答点(図1では、乗員12の両耳の位置)との間の伝達関数と、前記振動検出信号A1〜Anとを掛け合わせて音圧を算出し、算出された各音圧を合成して合成音圧である振動源に係る合成音(固体伝播音)Pを算出する。また、図示しない音源からの音圧を音圧検出手段により検出して音圧検出信号A1〜Anを出力し、前記音源と該音源に対する前記応答点との間の伝達関数と、前記音圧検出信号A1〜Anとを掛け合わせて音圧を算出し、算出された各音圧を合成して合成音圧である音源に係る合成音(空気伝播音)Pを算出する。
この伝達経路解析では、車室10内で乗員12が感じる車内音に対する空気伝播音及び固体伝播音の寄与を伝達経路毎に解析する。
ここで、固体伝播音による車内音の伝達経路解析を行う場合、振動源の総数を
n、振動検出信号をAi(i=1〜n)、各固体伝播音(振動検出信号Ai)の伝達関数をHi(i=1〜n)、及び合成音圧をPoutとすれば、合成音圧Poutは、下記の(1)式で表わされる。
Pout=A1H1+A2H2+A3H3+…+AnHn (1)
前記固体伝播音は、周波数fによって変化するので、前記伝達経路解析を行う場合には、所定の周波数毎に(1)式を構築する。
以上が、本実施形態(第1〜第3実施例)の解析対象となる車両内の固体伝播音や、空気伝播音についての説明である。
(A)第1実施例:ハンマーによる加振実験に基づく車両内の振動伝達関数の算出方法(図1〜図10)
次に、第1実施例における車室10内における車内音の伝達経路解析の前提技術として、振動源と応答点との間の振動伝達関数を、振動検出信号の逆行列[A]-1を利用して算出する方法について、図3〜図8Bを参照しながら説明する。
図3Aは、トリムドボディ23から延在するフレーム30、32をハンマー38によって所定回加振する加振テストの概要を示す断面図であり、図3Bは、図3Aの加振テストによって得られた振動伝達関数の周波数特性を示すグラフであり、図4Aは、フレーム30、32を加振器で所定時間連続して加振する加振テストの概要を示す断面図であり、図4Bは、図3A、図3B及び図4Aの加振テストの結果に基づいて、トリムドボディ23内の実測音と合成音とを比較するための手順について説明したブロック図である。
ここで、トリムドボディ23とは、車両からエンジン、内装品等を取り除き、シャーシとボディとで車室10(図1参照)を構成したものであり、このトリムドボディ23内には、乗員12の上半身を模式したダミーヘッド24が配置され、該ダミーヘッド24の両耳部分にはマイクロホン(振動・音圧検出手段)26、28が配置されている。従って、図3Aでは、マイクロホン26、28の配置位置が応答点となる。なお、マイクロホン26が配置されている側をダミーヘッド24の右耳側とし、マイクロホン28が配置されている側をダミーヘッド24の左耳側とする。
トリムドボディ23の側部には、外方に向かって2つのフレーム30、32が平行に延在している。これらのフレーム30、32は、車両のサイドフレームであり、フレーム30、32におけるハンマー38の加振箇所の近傍には加速度センサ(振動検出手段)34、36が配置されている。
ここで、フレーム30、32の加速度センサ34、36近傍をハンマー38で叩くと、該加速度センサ34、36は、ハンマー38による打撃(加振)によってフレーム30、32内に発生した振動を検出して振動検出信号Ai(i=1〜n)を出力する。この場合、加速度センサ34、36は、前記振動の3次元方向の加速度成分(X成分、Y成分及びZ成分)を検出することが可能である。
従って、フレーム30、32に対してX方向、Y方向又はZ方向よりハンマー38で叩くと、加速度センサ34、36は、X方向、Y方向及びZ方向のいずれか1つの加速度成分を有する合計で6つの振動検出信号Ai(i=1〜6)を出力することができる。また、前記振動は、フレーム30、32及びトリムドボディ23の外壁内を伝達して固体伝播音に変化し、この結果、マイクロホン26、28は、前記固体伝播音の音圧を検出して音圧検出信号を出力する。
図3Aに示す加振テストでは、上記したように、フレーム30、32に対してX方向、Y方向及びZ方向よりハンマー38で合計で6回叩いて、これらの加振によって発生する振動に起因する固体伝播音をマイクロホン26、28で検出する。この場合、6つの入力(フレーム30のX方向、Y方向及びZ方向の振動による振動検出信号Aiと、フレーム32のX方向、Y方向及びZ方向の振動による振動検出信号Ai)と2出力(マイクロホン26、28からの音圧信号)とから、図3Bに示す12個の振動伝達関数が算出される。
そして、トリムドボディ23内のマイクロホン26、28で検出された実測の音圧と前記各振動伝達関数を用いて算出した合成音圧Poutとを比較するために、図4Aに示すように、加振器40を用いてフレーム30、32を連続的に加振する加振テストを行う。
この加振テストは、車両の走行中における車室10(図1参照)内での騒音の発生を模擬したものであり、加振器40は、フレーム30、32に対してZ方向にのみ加振しているが、フレーム30、32内部では前記Z方向への加振によってX方向及びY方向にも僅かに振動しており、この結果、該フレーム30、32内では3次元方向の振動が同時に発生している。
図4Aに示す加振テストでは、加速度センサ34、36によって検出された6つの振動検出信号Ai(X方向成分、Y方向成分又はZ方向成分を有する振動検出信号と、X方向成分、Y方向成分又はZ方向成分を有する振動検出信号)と図3A及び図3Bの加振テストから得られた12個の伝達関数とを各々掛け合わせて音圧を算出し、算出された各音圧を(1)式に基づいて合成して合成音圧Poutを算出し、算出された合成音圧Poutと図4Aの加振テストにおいてマイクロホン26、28で検出した実測音の音圧とを比較する。
図5Aは、左耳側のマイクロホン28で検出された実測音の音圧と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性であり、図5Bは、右耳側のマイクロホン26で検出された実測音の音圧と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性である。
この場合、各加振テストの対象とされた周波数帯域(0[Hz]〜2000[Hz])において、実測音に対して合成音が大きいことが諒解される。これは、図6に示すように、2つの振動源からの振動を加速度センサ34、36で検出して振動検出信号(入力1及び入力2)を出力し、一方で、前記各振動に起因する固体伝播音をマイクロホン26、28で検出して音圧信号(応答)を出力する場合、前記入力1に対応する固体伝播音の伝達関数H1と前記入力2に対応する固体伝播音の伝達関数H2とのクロストークや、前記入力1や前記入力2に重畳するノイズによって正しい伝達関数を算出することができず、この結果、マイクロホン26、28で検出される音圧と上記した合成音圧Poutとが一致しないためである。
すなわち、(入力1)×H1+(入力2)×H2≠(応答)であり、(1)式に基づいて合成音圧Poutを算出してもマイクロホン26、28で検出した実測音に対する再現性が低い。つまり、複数の振動検出信号Aiを検出しても、上記したクロストークやノイズの影響によって全ての伝達関数Hiは高いコヒーレンスを維持することが困難であり、従って、実測音に対する合成音圧Poutの再現性を高めるには、前記クロストークや前記ノイズの影響を排除して、各伝達関数Hiの計測誤差を除去する必要がある。
ここで、図7A及び図7Bにおいて、図示しないn個の振動源での加振回数をmとし、前記各振動源からの振動を各加速度センサにより検出して振動検出信号Aij(i=1〜n、j=1〜m)を出力し、該振動検出信号Aijと前記各加速度センサと応答点との間の振動伝達関数Hとを掛け合わせた出力の総和を合成音圧Poutとする。
この場合、合成音圧Poutjの行列を音圧行列[Pout]とすれば、振動検出信号Aijの行列(振動検出信号行列)[A]と、伝達関数Hの行列(伝達関数行列)[H]とから下記の(2)式で表わされる。
[Pout]=[A][H] (2)
ここで、音圧行列[Pout]は下記の(3)式で表わされ、振動検出信号行列[A]は下記の(4)式で表わされ、伝達関数行列[H]は下記の(5)式で表わされる。
ここで、Aij(i=1〜n、j=1〜m)は、振動検出信号行列[A]の成分であり、図7A及び図7Bに示すように、j番目の加速度センサがi回目の振動を検出した際に出力する振動検出信号である。また、前記各振動源が加振される毎に前記各振動源に対応する加速度センサにおいて振動を検出して振動検出信号Aijを出力するので、前記各振動源の加振回数と前記各加速度センサの計測回数とは一致している。
そして、(2)式より、伝達関数行列[H]は、下記の(6)式から導出される。
[H]=[A]-1[Pout] (6)
ここで、[A]-1は振動検出信号行列[A]の逆行列である。
なお、前述したように、合成音圧Pout及びマイクロホン26、28で検出される実測音の音圧は、周波数によって変化するので、図7Bに示すように、周波数毎に(2)式及び(6)式を構築して振動伝達関数Hiを算出する必要がある。
図8Aは、左耳側のマイクロホン28で検出された音圧(実測音)と、(6)式に基づいて導出された振動伝達関数Hiに基づいて算出された合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性であり、図8Bは、右耳側のマイクロホン26で検出された音圧(実測音)と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性である。
この場合、0[Hz]〜1500[Hz]の周波数領域においては、実測音と合成音とが略一致しており、振動検出信号行列[A]の逆行列[A]-1を用いて振動伝達関数Hiを算出したことにより、該振動伝達関数Hiからクロストークの影響が排除されている。しかしながら、1500[Hz]を越える周波数領域では、実測音に対して合成音が大きくなっている。これは、前記各加速度センサから出力される振動検出信号Aijに該各角速度センサの計測ノイズに起因する誤差成分が含まれ、この結果、振動伝達関数Hiの算出精度が大幅に低下するためである。このように、逆行列[A]-1を用いた振動伝達関数Hiの算出方法においても、1500[Hz]以上の高周波領域では、振動伝達関数Hiからクロストークや計測ノイズの成分を除去することができないという不都合がある。
以上が、第1実施例の前提技術となる振動検出信号の逆行列[A]-1を利用した振動伝達関数の算出方法の説明である。
次に、第1実施例に係る振動伝達関数の算出方法について、図9及び図10を参照しながら説明する。
この算出方法では、図9A及び図9Bに示すように、各加速度センサで検出された振動検出信号Ajより、主成分回帰法に基づいて振動伝達関数Hiを算出することにより、該振動伝達関数Hiから前記加速度センサの計測ノイズ及びクロストークの成分(以下、ノイズ成分ともいう。)の影響を排除するようにしている。
すなわち、n個の振動源と加速度センサとがあり、図9Aに示すように、各振動源から発生する振動を各加速度センサで検出して振動検出信号Aj(j=1〜m)を各々出力する場合、各振動検出信号Ajより各主成分Tk{k=1〜(m−1)}を算出して各主成分Tkを互いに無相関とし、無相関化された各主成分Tkに基づいて伝達関数行列[H]及び応答点の合成音圧Poutを算出する。
この場合、各主成分Tkを成分とする主成分行列を[T]とし、この主成分行列[T]を構成する対角行列としての特異値行列を[S]、主成分行列[T]の方向を決定する直交行列を[U]及び[V]とすれば、振動検出信号行列[A]は、下記の(7)式で表わされ、主成分行列[T]は、下記の(8)式で表わされる。
[A]=[T][V]T=[U][S][V]T (7)
[T]=[U][S] (8)
ここで、[V]Tは、直交行列[V]の転置行列であり、(7)式では、振動検出信号行列[A]を特異値行列[S]に特異値分解している。
そして、直交行列[U]、特異値行列[S]及び転置行列[V]Tは、下記の(9)式〜(11)式で表わされる。
ここで、Uji(i=1〜n、j=1〜m)は、直交行列[U]の成分であり、Vijは、転置行列[V]Tの成分である。
そして、Sjiは、特異値行列[S]の成分であり特異値という。この場合、特異値行列[S]の特異値Sjiの値は、S11、S22、…、Smnの順番で小さくなり、これら特異値を順番に第1主成分、第2主成分、…、第m(n)主成分ともいう。また、特異値行列[S]は、振動検出信号行列[A]に対する固有ベクトル(固有値行列)であるので、各特異値Sjiは、各振動検出信号Aijに対する固有値である。
(7)式及び(8)式を用いると、(2)式で示される音圧行列[Pout]は下記の(12)式に変形され、(6)式で示される伝達関数行列[H]は下記の(13)式に変形される。
[Pout]=[A][H]=[U][S][V]T[H]
=[T][V]T[H] (12)
[H]=[A]-1[Pout]
=[V][S]-1[U]T[Pout] (13)
ここで、図9Bに示すように、例えば、2つの加速度センサから出力される各振動検出信号について、前記各加速度センサの信号の大きさを座標軸とする2次元平面上にプロットした場合、プロットされた前記各振動検出信号(図9Bの丸印)に対して最も相関が高い信号成分軸(第1主成分軸)と該信号成分軸に直交するノイズ成分軸(第2主成分軸)とを前記2次元平面上に形成し、前記各振動検出信号を前記各加速度センサの大きさの座標から前記第1及び第2主成分軸の座標へと座標変換を行う。これにより、前記各振動検出信号のうち前記第1主成分軸の成分は、前記第2主成分軸の成分よりも大きいので、前記各振動検出信号に関する情報は、前記第1主成分軸に集約されて、合成音圧Poutに大きく寄与する情報となる。一方、前記第2主成分軸の成分は、ノイズ成分として除去することが可能である。
このように、主成分分析法を用いて、振動検出信号を特異値分解することにより、本来は、2つの座標軸(2つの加速度センサ)で表現される成分から構成される前記振動検出信号を、互いに無相関な2つの主成分(第1主成分及び第2主成分)に特異値分解して前記各振動検出信号の情報を1つの座標軸(第1主成分軸)に集約し、第2主成分軸の成分をノイズ成分として除去することにより、前記第1主成分軸の集約結果(特異値)に基づいて振動伝達関数を算出することが可能となる。
従って、図10に示すように、各振動源における加振回数がmで、加速度センサの個数がnである場合でも、主成分回帰法を用いて各振動検出信号Aijを特異値分解して特異値Sijを算出し、算出した特異値Sjiのうち所定の閾値よりも小さな特異値(例えば、Smn)をノイズ成分として除去すれば、伝達関数行列[H]を算出する際に、特異値Smnに係る特異値行列[S]の行及び列を削除し、且つ該特異値Smnに対応する直交行列[U]の列及び直交行列[V]の列を削除することができ、この結果、伝達関数行列[H]の算出時間を短縮することが可能となる。
すなわち、第1実施例に係る振動伝達関数の算出方法では、ハンマーによる加振実験で得られた振動検出信号Aijを用いて伝達関数行列[H]、換言すれば、振動伝達特性(関数)を精度よく且つ短時間で算出することが可能である。
(B)第2実施例:(A)の算出方法を利用した振動・音圧伝達特性解析装置50A及びその方法(図11〜図14C)
図11は、上記した主成分回帰法を用いて伝達関数行列[H]を算出するための振動・音圧伝達特性解析装置50Aの構成を示すブロック図であり、図12は、該振動・音圧伝達特性解析装置50Aにおけるデータの流れを示すブロック図である。
この振動・音圧伝達特性解析装置50Aは、図示しない車両に適用可能であり、前記車両内の振動源から発生する振動を検出して振動検出信号Ai(t)(i=1〜n)を出力する複数の加速度センサ52(i)と、振動検出信号Ai(t)を周波数分析して振動検出信号Ai(f)を出力する周波数分析手段(FFT)54(i)と、各振動検出信号Ai(f)に基づいて周波数毎の振動検出信号行列[A]を構築する行列形成手段56と、応答点における音圧又は振動を検出して振動・音圧検出信号Pout(t)を出力する振動・音圧検出手段62と、振動・音圧検出信号Pout(t)を振動・音圧検出信号Pout(f)を出力する周波数分析手段(FFT)64と、振動検出信号行列[A]及び振動・音圧検出信号Pout(f)に対して主成分分析を行って伝達関数行列[H]を算出する主成分回帰分析手段58と、算出された伝達関数行列[H]より伝達経路毎に振動伝達関数Hiを分配する伝達関数分配手段60とを有する。
主成分回帰分析手段58は、振動検出信号行列[A]に対して特異値分解を行い、互いに無相関の特異値(主成分)Sjiを算出する特異値分解部66と、算出された特異値のうちノイズ成分と判定されたものを除去するノイズ除去部68と、特異値分解され且つノイズ除去された振動検出信号行列[A]と、振動・音圧検出信号Pout(f)との間で回帰分析を行うことにより、前記各振動源と前記応答点との間の振動伝達特性、すなわち、伝達関数行列[H]を算出する回帰分析部70とを有する。
図11及び図12において、前記振動源とは、図1に示すようなエンジン14や排気系統20であり、各加速度センサ52(i)は、車両内部におけるエンジン14近傍あるいは排気系統20近傍の所定位置に配置されている。また、振動・音圧検出手段62は、車室10内の所定位置を応答点として配置されている。
ここで、車両の走行時あるいは動作時を想定し、エンジン14あるいは排気系統20が所定時間振動するときの加振回数をm回とした場合、各加速度センサ52(i)は、エンジン14あるいは排気系統20を加振する毎に該加振による振動を検出して振動検出信号Ai(t)をFFT54(i)に出力する。
より詳細に説明すれば、加速度センサ52(i)は、加振回数mを行とし、振動検出信号Ai(t)の時系列データの個数lを列とする振動検出信号行列[Ai(t)]を構築し、構築した振動検出信号行列[Ai(t)]をFFT54(i)に出力する。そして、振動検出信号行列[Ai(t)]は、下記の(14)式で表わされる。
ここで、Aji(o)(i=1〜n、j=1〜m、o=1〜l)は、振動検出信号行列[Ai(t)]の成分であり、i番目の加速度センサ52(i)において第j回目の計測で検出した振動に対する振動検出信号のうち第o番目の時系列データであることを示している。
一方、振動・音圧検出手段62は、前記振動に起因する固体伝播音を車内音(騒音)として検出して振動・音圧検出信号Pout(t)をFFT64に出力する。
この場合も、振動・音圧検出手段62は、加振回数mを行とし、振動・音圧検出信号Pout(t)の時系列データの個数lを列とする振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]を構築し、構築した振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]をFFT64に出力する。そして、振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]は、下記の(15)式で表わされる。
ここで、Poutj(o)(j=1〜m、o=1〜l)は、振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]の成分であり、第j回目の計測で検出した固体伝播音に対する振動・音圧検出信号のうち第o番目の時系列データであることを示している。
FFT54(i)は、入力された振動検出信号Ai(t){振動検出信号行列[Ai(t)]}を周波数分析して振動検出信号Ai(f)の行列[Ai(f)]を行列形成手段56に出力し、一方で、FFT64は、入力された振動・音圧検出信号Pout(t){振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]}を周波数分析して振動・音圧検出信号Pout(f)の行列[Pout(f)]を回帰分析部70に出力する。
この場合、振動検出信号行列[Ai(f)]は、下記の(16)式で表わされ、一方で、振動・音圧検出信号行列[Pout(f)]は、下記の(17)式で表わされる。
ここで、Aji(f)は、振動検出信号行列[Ai(f)]の成分であり、振動検出信号Aji(t)を周波数fの成分に変換したものである。一方、Poutj(f)は、振動・音圧検出信号行列[Poutj(f)]の成分であり、振動・音圧検出信号Poutj(t)を周波数fの成分に変換したものである。
行列形成手段56は、各FFT54(i)より入力された振動検出信号行列[Ai(f)]より周波数f毎の振動検出信号行列[A]を構築し、構築した各振動検出信号行列[A]を特異値分解部66に出力する。この場合、振動検出信号行列[A]は、(4)式で表わされるm行n列の行列となる。
特異値分解部66は、上記した(7)式に基づいて、入力された振動検出信号行列[A]に対する特異値分解を行い、特異値分解された振動検出信号行列[A]、すなわち、該振動検出信号行列[A]を特異値分解することにより算出された特異値行列[S]、直交行列[U]及び転置行列[V]Tをノイズ除去部68に出力する。
ノイズ除去部68は、特異値行列[S]を構成する各特異値Sjiが所定の閾値よりも小さいか否かを判定し、前記閾値よりも小さい特異値Sjiが存在する場合、該特異値Sjiがノイズ成分であると判定して、特異値行列[S]における該特異値Sjiに係る行と列とを除去すると共に、直交行列[U]及び直交行列[V]における該特異値Sjiに係る列を除去する。
図13は、主成分j(i)と特異値Sjiとの関係を示すグラフである。特異値Sjiにノイズ成分が重畳していない場合(図13の点線の直線)、主成分の数が増加すると特異値Sjiが低下し、所定の主成分数を越えると特異値Sjiは略0となる。しかしながら、特異値Sjiにノイズ成分が重畳していると、所定の主成分数になっても特異値Sjiは0とはならず、特異値Sjiは、前記主成分数において直線が屈曲する特性となる。この場合、前記直線が屈曲する変曲点での特異値Sjiの値を前記閾値とすれば、この閾値以下の主成分では、その特異値Sjiは全てノイズ成分となる。
従って、ノイズ除去部68では、図13のグラフに基づいて、特異値行列[S]を構成する各特異値Sjiと前記閾値とを比較し、該閾値よりも低い特異値Sjiがあれば、この特異値Sjiがノイズ成分からなるものと判定し、判定結果に基づいて、上記した特異値行列[S]における行と列との除去と、直交行列[U]及び直交行列[V]における列の除去とを行うことが可能である。
しかしながら、ノイズ除去部68においては、実際には、図13のグラフを利用した下記の(18)式に示す寄与率(dist)qに基づいて、上記した特異値行列[S]における行と列との除去と、直交行列[U]及び直交行列[V]における列の除去とを行っている。
ここで、qは、任意の主成分数であり、Sqqは、第q主成分における特異値である。この場合、図13に示すように、主成分数iの増加に伴って特異値Siiが低下するので、主成分数qが増加すると寄与率(dist)qが小さくなる。この寄与率(dist)qが高いほど当該特異値Sqqは振動検出信号Ai(f)に関する情報を集約しているものと判定され、一方で、この数値が低いほど当該特異値Sqqにはノイズ成分を含まれているものと判定することが可能である。
そこで、ノイズ除去部68では、第q主成分における寄与率(dist)qが前記閾値に対応する寄与率よりも低い場合、該第q主成分の特異値Sqqがノイズ成分からなるものと判定して、特異値行列[S]における該特異値Sqqに係る行と列との除去と、直交行列[U]及び直交行列[V]における特異値Sqqに対応する列の除去とを行う。
回帰分析部70では、ノイズ除去部68から入力された特異値行列[S]、直交行列[U]及び転置行列[V]Tと、FFT64から入力された振動・音圧検出信号行列[Pout(f)]とを用い、(13)式に基づく回帰分析を行って伝達関数行列[H(f)]を周波数f毎に算出し、算出した伝達関数行列[H(f)]を伝達関数分配手段60に出力する。
この場合、回帰分析部70では、加振回数mに対応して計測点数n個の振動伝達関数Hj(f)(j=1〜n)を算出するので、伝達関数行列[H(f)]は、下記の(19)式で表わされる。
伝達関数分配手段60は、入力された周波数f毎の伝達関数行列[H(f)]を各振動源毎{加速度センサ52(i)毎}の振動伝達関数Hi(f)の行列[Hi(f)]に分配する。この場合、伝達関数行列[Hi(f)]は、下記の(20)式で表わされる。
[Hi(f)]=[Hi(1) Hi(2) … Hi(r)]
(20)
ここで、Hi(g)(g=1〜r)は、第i番目の振動源あるいは加速度センサ52(i)に関し、第g番目の周波数fにおける振動伝達関数である。
図14Aは、左耳側のマイクロホン28(図3A及び図4A参照)で検出された音圧(実測音)と、(19)式に基づいて算出された振動伝達関数Hi(k)より算出された合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性であり、図14Bは、右耳側のマイクロホン26で検出された音圧(実測音)と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性である。
この場合、0[Hz]〜2000[Hz]の周波数領域において、実測音と合成音とが略一致しており、該振動伝達関数Hi(k)からノイズ成分の影響が排除されていることが諒解される。
このように、第2実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50Aでは、主成分回帰分析手段58において、行列形成手段56より入力された振動検出信号行列[A]とFFT64より入力された振動・音圧検出信号行列[Pout(f)]とを用い、主成分回帰法に基づいた振動伝達関数行列[H(f)]の算出を行っているので、固体伝播音に係る伝達関数行列[H(f)]からノイズ成分の影響を排除することが可能となり、この結果、振動伝達関数Hiの算出精度を向上することができる。
この場合、主成分回帰分析手段58の特異値分解部66では、振動検出信号行列[A]に対する特異値分解を行って互いに無相関な主成分(特異値Sji)を算出し、ノイズ除去部68においては、算出した各特異値Sjiの値が所定の閾値以下である場合、この特異値Sjiの主成分がノイズ成分からなると判定し、判定された特異値Sjiに係る特異値行列[S]の行及び列を削除し、且つ該特異値Smnに対応する直交行列[U]の列及び直交行列[V]の列を削除する。これにより、回帰分析部70における伝達関数行列[Ha]の算出時間を短縮することが可能となる。
また、ノイズ除去部68では、前記閾値に対応する寄与率(dist)qを用いて上記した判定を行っているので、上記した特異値行列[S]における行及び列の削除や、これに対応する直交行列[U]の列及び直交行列[V]の列の削除を効率よく行うことができる。
なお、第2実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50Aでは、前記応答点において、振動・音圧検出手段としてのマイクロホン26、28により音圧を検出して振動・音圧検出信号を出力しているが、この構成に代えて、図示しない振動センサを用いて前記応答点における振動を検出して振動・音圧検出信号を出力することも可能である。
(C)第3実施例:固体伝播音及び空気伝播音を同等に取り扱うことが可能な振動・音圧伝達特性解析装置50B及びその方法(図15〜図28)
次に、第3実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50B及びその方法について、図15〜図28を参照しながら説明する。なお、第2実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50A(図11及び図12参照)と同様の構成要素については、同一の参照符号で付記し以下同様とする。
振動・音圧伝達特性解析装置50B及びその方法の説明に先立ち、振動伝達関数及び空気伝播音に係る伝達関数(以下、音圧伝達関数ともいう。)の算出における問題点等について説明する。
図1においても説明したように、車室10の車内音は、エンジン14や排気系統20の振動に起因する固体伝播音と、エンジン14や排気系統20から発生する音が空気中を伝播することに起因する空気伝播音とが車室10内で合成されることによる音である。
これらの伝播音や車内音との関係について、図15を参照しながら詳細に説明すると、固体伝播音の原因とされる振動は、例えば、エンジンマウント16(図1参照)のエンジン14側の振動や、車両の足回り系の振動や、排気系統20のボディ18側の振動であり、一方で、空気伝播音には、エンジン14の放射音及び吸気口の音や排気系統20の排気口における排気音がある。
この場合、エンジンマウント16におけるエンジン14側の振動は、エンジンマウント16を介してボディ18側に伝達されるが、換言すれば、エンジン14側の振動と、該エンジン14とボディ18との間の伝達関数とを掛け合わせたものがボディ18側の振動となる。そして、ボディ18側の振動とエンジンマウント16の振動伝達関数とを掛け合わせたものがエンジンマウント16に係る固体伝播音となって車室10内に伝播される。
同様にして、前記足回り系の振動と足回り系の振動伝達関数とを掛け合わせたものが足回り系の固体伝播音となって車室10内に伝播され、一方で、排気系統20のボディ18側の振動と該排気系統20の振動伝達関数とを掛け合わせたものが排気系統20の固体伝播音となって車室10内に伝播される。
また、エンジン14の放射音と該エンジン14の放射音に係る音圧伝達関数とを掛け合わせたものがエンジンの透過音(空気伝播音)となって車室10内に伝播され、前記吸気口の音と該吸気口の音に係る音圧伝達関数とを掛け合わせたものが吸気系の透過音(空気伝播音)となって車室10内に伝播され、前記排気口の排気音と該排気口の排気音に係る音圧伝達関数とを掛け合わせたものが排気系統20の透過音(空気伝播音)となって車室10内に伝播される。
そして、車室10内では、上記した各固体伝播音と各空気伝播音とが合成され、この合成音が車内音として応答点で検出される。従って、車内音を検出する場合には、固体伝播音に係る振動伝達関数に加え、空気伝播音に係る音圧伝達関数についても精度良く算出する必要がある。
ここで、停止状態にある車両の所定箇所をハンマーで叩くことにより発生する振動に基づいて前記所定箇所と応答点との間の振動伝達関数を算出する場合、実際には、固体伝播音と空気伝播音との合成音が車室10内の車内音となるので、前記車内音に対する前記固体伝播音及び前記空気伝播音の寄与を解析するためには、前記固体伝播音と前記空気伝播音とを同時に計測し、計測結果に基づいて前記固体伝播音による振動伝達関数と前記空気伝播音による音圧伝達関数とを各々算出する必要がある。
また、固体伝播音としての振動の単位は[m/s2]であり、一方で、空気伝播音としての音圧の単位は[N/m2]であるので、従来技術では、単位が異なる2つの伝播音を同時に計測して、これらの伝播音に対する伝達関数を各々算出することは困難とされている。
さらに、前記振動伝達関数を算出する場合、前記振動伝達関数の精度を上げるために車両に対する加振実験を数多く行う必要があり、この結果、前記振動伝達関数の算出時間が増大する。また、前記車両の所定箇所に対するハンマーの加振力が不足していれば、SN比が低下して前記固体伝播音及び前記振動の伝達ロスが発生する。
以上の説明が、振動伝達関数及び音圧伝達関数の算出における問題点等である。
次に、前記音圧伝達関数を算出するために行った予備テストについて、図16A〜図23を参照しながら説明する。
図16A及び図16Bは、車室10(図1参照)を模擬した無響室80内にマイクロホン26、28を備えたダミーヘッド24を配置し、スピーカ84からの音をマイクロホン26、28、82(1)〜82(4)で検出する予備テストの概要を示す断面図である。
図16Aにおいて、スピーカ84の配置位置86は5箇所に設定され、マイクロホン82(1)〜82(4)は、これらの5箇所に対して並行して配置されている。この場合、予備テストでは、図示の位置でスピーカ84から所定時間だけ音を発生させてマイクロホン26、28、82(1)〜82(4)で検出し、次いで、スピーカ84を他の配置位置86に移動させて、上記した音の発生を繰り返し行う。マイクロホン26、28は、前記音を検出して振動・音圧検出信号を出力し、マイクロホン82(1)〜(4)では、前記音を検出して音圧検出信号を出力する。なお、図16Aは、固体伝播音の検出を模擬したものであり、各配置位置86におけるスピーカ84からの音は、図示しない振動源からの固体伝播音に対応している。
図16Bでは、スピーカ84は1箇所に固定され、マイクロホン82(1)〜82(4)は、スピーカ84から発生された音を検出して振動・音圧検出信号あるいは音圧検出信号を出力する。なお、図16Bにおいて、スピーカ84から発生された音は、空気伝播音に対応している。
図17は、前記各予備テストから得られた前記音圧検出信号及び前記振動・音圧検出信号を用いて算出された音圧伝達関数に基づく合成音と、図16Bでマイクロホン26、28が検出した実測音との比較を行うためのフローチャートであり、基本的には、第2実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50A(図11及び図12参照)の作用を音圧伝達関数の算出に置換したものとなっている。
先ず、図16Aにおいて、振動源に対応するスピーカ84から音(固体伝播音)を所定回数発生させ、マイクロホン26、28は、前記各音を検出する毎に振動・音圧検出信号を出力し、マイクロホン82(1)〜(4)は、前記各音を検出する毎に音圧検出信号を出力する(図17のステップS1)。この場合、スピーカ84は、配置位置86を変えながら上記した音の発生を繰り返し行う。
次いで、図16Bにおいて、マイクロホン26、28は、音源からの空気伝播音に対応するスピーカ84からの音を検出して振動・音圧検出信号を出力し、マイクロホン82(1)〜(4)は、前記音を検出して音圧検出信号を出力する(図17のステップS2)。
次いで、ステップS1において得られた各音圧検出信号を周波数分析し、周波数分析された前記各音圧検出信号について、音の発生回数を行とし、且つマイクロホン82(1)〜82(4)の個数を列とする音圧検出信号行列を構築する(ステップS3)。
次いで、前記音圧検出信号行列について特異値分解を行って特異値行列と該特異値行列に係る直交行列及び転置行列を算出し、得られた前記特異値行列を構成する各特異値が所定の閾値以下であるか否かについて判定する。前記閾値以下の特異値がある場合、当該特異値はノイズ成分からなるものと判定し、前記特異値行列における前記特異値に係る行及び列を削除し、前記直交行列及び前記転置行列において前記特異値に係る列を削除する(ステップS4)。
次いで、前記ノイズ成分からなる特異値が除去された前記特異値行列、前記直交行列及び前記転置行列を用いて回帰分析を行い(ステップS5)、各マイクロホン82(1)〜82(4)とマイクロホン26、28との間の各音圧伝達関数を算出する(ステップS6)。
次いで、ステップS2においてマイクロホン82(1)〜82(4)から出力された各音圧検出信号と前記各音圧伝達関数とを掛け合わせて合成音圧を算出し(ステップS7)、ステップS2においてマイクロホン26、28から出力された振動・音圧検出信号の音圧を実測音の音圧とする(ステップS8)。
最後に、ステップS7において算出された前記合成音圧と、ステップS8における実測音の音圧とを比較して、前記各音圧伝達関数が精度良く算出されたか否かを評価する(ステップS9)。
図18は、左耳側のマイクロホン28で検出された音圧(実測音)と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性である。
この場合、予備テストの対象とされた周波数帯域(0[Hz]〜2000[Hz])において、実測音と合成音とが全く一致しておらず、ステップS1〜S9に基づいて前記合成音を算出しても音の再現性が全く得られていない。
これは、図19Aに示すように、固体伝播音の場合には、固体物88をハンマー38で叩いて該固体物88内の振動を加速度センサ34、36で検出する場合、前記振動は前記固体物88の内部を伝播する。換言すれば、固体物88のどの箇所をハンマー38で叩いても、前記振動、すなわち、固体伝播音は所定の経路を伝播する。
これに対して、図19Bに示すように、スピーカ84からの音(空気伝播音)は、音源であるスピーカ84から放射状に伝播しており、スピーカ84の配置位置を変えるとマイクロホン26、28、82(1)〜82(4)に対する前記空気伝播音の伝達経路が変化する。従って、音源の位置が変化すると、伝達経路が一様ではなくなる。従って、音源であるスピーカ84の位置を固定しなければ、音圧伝達関数を算出することができない。換言すれば、音源の位置と、該音源から発生する音圧を検出する音圧検出手段の位置と、応答点において前記音圧を検出する振動・音圧検出手段の位置とを各々固定することにより、音圧伝達関数を算出することが可能であるということになる。
図20は、上記した結論に基づいて、音源、音圧検出手段及び振動・音圧検出手段の配置位置を固定した場合に、予備テストから得られた音圧検出信号及び振動・音圧検出信号を用いて算出された音圧伝達関数に基づく合成音と、実測音との比較を行うためのフローチャートである。
この場合、図16Bに示すように、音源としてのスピーカ84、音圧検出手段としてのマイクロホン82(1)〜82(4)及び振動・音圧検出手段としてのマイクロホン26、28の配置位置を固定した状態で、マイクロホン82(1)〜82(4)は、スピーカ84からの空気伝播音を検出して音圧検出信号を出力し、マイクロホン26、28は、前記空気伝播音を検出して振動・音圧検出信号を出力する(ステップS10)。
次いで、ステップS3〜S6の処理と同様に、前記音圧検出信号より音圧検出信号行列を構築し(ステップS11)、前記音圧検出信号行列に対して特異値分解とノイズ成分の除去とを行い(ステップS12)、特異値分解とノイズ除去とが行われた前記音圧検出信号行列と前記振動・音圧検出信号とを用いて回帰分析を行い(ステップS13)、音圧伝達関数を算出する(ステップS14)。
次いで、ステップS7の処理と同様に、前記音圧検出信号と前記音圧伝達関数とを掛け合わせて応答点における合成音圧を算出し(ステップS15)、前記振動・音圧検出信号の音圧を前記応答点における実測音圧として(ステップS16)、前記合成音圧と前記実測音圧とを比較することにより、前記音圧伝達関数が精度良く算出されているか否かを評価する(ステップS17)。
図21は、左耳側のマイクロホン28で検出された音圧(実測音)と合成音圧Pout(合成音)とを比較した周波数特性である。
この場合、予備テストの対象とされた周波数帯域(0[Hz]〜2000[Hz])において、実測音と合成音とが略一致し、ステップS10〜S17に基づいて前記合成音を算出すれば、応答点における空気伝播音を精度良く再現することが可能であることを示している。
ところで、図1及び図16に示すように、車室10における車内音は、固体伝播音と空気伝播音とから構成される。従って、車室10内の応答点における車内音を精度良く再現するためには、固体伝播音に係る振動伝達関数と空気伝播音に係る音圧伝達関数とを用いて前記車内音を再現する必要がある。しかしながら、前述したように、固体伝播音としての振動の単位は[m/s2]であり、一方で、空気伝播音の音圧の単位は[N/m2]であり、単位の異なる2つの伝播音を同一に取り扱うことは困難である。
そこで、図22に示すように、各加速度センサ(振動検出手段)で検出された振動検出信号A1、A2と、各音圧検出手段で検出された音圧検出信号Pin1、Pin2とを各々正規化し、正規化された振動検出信号NA1、NA2及び音圧検出信号NPin1、NPin2に関し、主成分回帰法に基づいて主成分T1〜T3を算出し、算出した各主成分T1〜T3に基づいて合成音圧Poutを算出することにより、振動検出信号A1、A2と音圧検出信号Pin1、Pin2とを同一に取り扱って振動伝達関数Hiや音圧伝達関数Hpを算出することが可能となる。
すなわち、音源の個数及び該音源に対応する音圧検出手段の個数をk、複数の音圧検出信号Pinを成分とする音圧検出信号行列を[Pin]、前記各音圧検出手段と応答点との間の音圧伝達関数Hpを成分とする伝達関数行列を[Hp]、振動伝達関数Haの行列を[Ha]とすれば、合成音圧(車内音圧)Poutの行列[Pout]は、下記の(21)式で表わされる。
[Pout]=[A][Ha]+[Pin][Hp] (21)
ここで、伝達関数行列[Ha]、音圧検出信号行列[Pin]及び伝達関数行列[Hp]は下記の(22)式〜(24)式で表わされる。
そして、正規化された振動検出信号行列を[NA]、振動検出信号行列[A]を[NA]に正規化するための対角行列(正規化行列)を[Nσa]、正規化された音圧検出信号行列を[NPin]、音圧検出信号行列[Pin]を[NPin]に正規化するための対角行列(正規化行列)を[Nσp]とすれば、振動検出信号行列[A]及び音圧検出信号行列[Pin]は、下記の(25)式及び(26)式で表わされる。
[A]=[NA][Nσa] (25)
[Pin]=[NPin][Nσp] (26)
そして、(25)式及び(26)式を(21)式に代入すると、音圧行列[Pout]は、下記の(27)式で表わされる。
[Pout]=[NA][Nσa][Ha]
+[NPin][Nσp][Hp]
=[NA、NPin][Nσa、Nσp][Ha、Hp]
(27)
ここで、[NA、NPin]は、正規化された振動検出信号行列[NA]と正規化された音圧検出信号行列[NPin]との合成行列であり、[Nσa、Nσp]は、正規化行列[Nσa]と正規化行列[Nσp]との合成行列であり、[Ha、Hp]は、伝達関数行列[Ha]と伝達関数行列[Hp]との合成行列(振動・音圧伝達関数行列)である。そして、振動・音圧伝達関数行列[Ha、Hp]に対して主成分分析を行うと、[Ha、Hp]は、下記の(28)式で表わされる。
[Ha、Hp]=[Nσa、Nσp]-1[V][S]-1[U]T
×[Pout] (28)
従って、(28)式に基づいて振動・音圧伝達関数行列[Ha、Hp]を算出することにより、この行列を構成する振動伝達関数行列Haや音圧伝達関数行列Hpを算出することが可能となる。
なお、振動検出信号行列[NA]及び正規化行列[Nσa]は、下記の(29)式及び(30)式で表わされる。
ここで、nΣaは、振動検出信号行列[NA]の第i列を構成する全ての成分、NA1i〜NAmiの標準偏差σaiの総和であり、下記の(31)式で表わされる。
一方、音圧検出信号行列[NPin]及び正規化行列[Nσp]は、下記の(32)式及び(33)式で表わされる。
ここで、kΣpは、音圧検出信号行列[NPin]の第i列を構成する全ての成分NPin1i〜NPinmiの標準偏差σpiの総和であり、下記の(34)式で表わされる。
なお、振動検出信号行列[A]の各成分は、振動検出信号Aijの振幅を示し、一方で、音圧検出信号行列[Pin]の各成分は、音圧検出信号Pinの振幅を示しており、上記した正規化は、振動検出信号Aij及び音圧検出信号Pinの振幅の正規化である。
さらに、正規化された振動・音圧検出信号行列[NA、NPin]は、(29)式及び(32)式より下記の(35)式で表わされる。
さらにまた、(28)式において、特異値行列[S]と、転置行列[V]Tとは、下記の(36)式及び(37)式で表わされる。
図23は、図22における正規化方法を車両の車内音の再現に適用して、該車両の走行時又は動作時における合成音圧Poutを算出するためのフローチャートを示している。
この場合、前記車両の振動源(図1に示すエンジン14や排気系統20)の近傍には各加速度センサ52(i)が配置され、音源(図1に示すエンジン14の吸気口や排気系統20の排気口)の近傍には図示しない音圧検出手段が配置され、車室10内の応答点には振動・音圧検出手段62が配置されている。
ここで、前記各音圧検出手段は、前記音源からの空気伝播音を検出して音圧検出信号Pinを出力し、各加速度センサ52(i)は、振動源からの振動を検出して振動検出信号Aiを出力し、振動・音圧検出手段62は、前記応答点における車内音を検出して振動・音圧検出信号Poutを出力する(ステップS18)。
次いで、ステップS3、S11の処理と同様に、振動検出信号Aiより(4)式に基づく振動検出信号行列[Ai]を構築し、一方で、音圧検出信号Pinより(22)式に基づく音圧検出信号行列[Pin]を構築する(ステップS19)。
次いで、振動検出信号行列[Ai]及び音圧検出信号行列[Pin]を(25)式及び(26)式に基づいて正規化し(ステップS20)、ステップS4、S12と同様に、正規化された振動検出信号行列[NA]及び音圧検出信号行列[NPin]に対して特異値分解とノイズ成分の除去とを行う(ステップS21)。
次いで、ステップS5、S13と同様に、特異値分解とノイズ除去とが行われた振動検出信号行列[NA]及び音圧検出信号行列[NPin]に対して振動・音圧検出信号Poutとの間で回帰分析を行い(ステップS22)、(28)式に基づいて振動伝達関数Ha及び音圧伝達関数Hpを各々算出する(ステップS23)。
次いで、ステップS7、S15の処理と同様に、(21)式に基づいて音圧検出信号Pinと音圧伝達関数Hpとを掛け合わせて音圧を算出し、一方で、振動検出信号Aiと振動伝達関数Haとを掛け合わせて音圧を算出し、これらの音圧を合成して合成音圧Poutを算出する(ステップS24)。
図24は、上記した正規化方法を利用して振動伝達関数Haと音圧伝達関数Hpとを算出するための第3実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50Bの構成を示すブロック図であり、図25は、該振動・音圧伝達特性解析装置50Bにおけるデータの流れを示すブロック図である。
この振動・音圧伝達特性解析装置50Bは、第2実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50A(図11及び図12参照)と比較して、図示しない音源からの空気伝播音を検出する手段を備え、主成分回帰分析手段58が振動検出信号及び音圧検出信号を正規化し、一方で、正規化された振動検出信号及び音圧検出信号に基づいて算出した伝達関数を復元する点で異なる。
すなわち、振動・音圧伝達特性解析装置50Bは、図示しない車両に搭載され、図示しない音源から発生する空気伝播音を検出して音圧検出信号Pk(t)(k=1〜d)を出力する複数の音圧検出手段90(k)と、音圧検出信号Pk(t)を周波数分析して音圧検出信号Pk(f)を出力する周波数分析手段(FFT)92(k)と、各音圧検出信号Pk(f)に基づいて周波数毎の音圧検出信号行列[P]を構築する行列形成手段94と、主成分回帰分析手段58から出力された伝達関数行列[Ha]を伝達経路毎に振動伝達関数Haiを分配する伝達関数分配手段60bと、主成分回帰分析手段58から出力された伝達関数行列[Hp]を伝達経路毎に音圧伝達関数Hpiに分配する伝達関数分配手段60cとをさらに有する。
また、主成分回帰分析手段58は、振動検出信号行列[A]を正規化する振動正規化部96aと、音圧検出信号行列[P]を正規化する音圧正規化部96bと、正規化された振動検出信号行列[NA]及び音圧検出信号行列[NP]を1つの行列[NA、NP]に合成して特異値分解部66に出力する行列形成部(振動・音圧合成部)57と、回帰分析部70より出力された正規化された振動・音圧伝達関数[NHa、NHp]を正規化された振動伝達関数[NHa]と正規化された音圧伝達関数[NHp]に分配する伝達関数分配部60aと、正規化された振動伝達関数[NHa]を本来の振動伝達関数[Ha]に復元する振動復元部98aと、正規化された音圧伝達関数[NHp]を本来の音圧伝達関数[Hp]に復元する音圧復元部98bとをさらに有する。
図24及び図25において、車両の走行時あるいは動作時に振動源としてのエンジン14あるいは排気系統20が所定時間振動し、且つその解析回数がm回である場合、各加速度センサ52(i)は、振動検出信号Ai(t)より振動検出信号行列[Ai(t)]を構築して、構築した振動検出信号行列[Ai(t)]をFFT54(i)に出力し、FFT54(i)は、振動検出信号行列[Ai(t)]を周波数分析して振動検出信号行列[Ai(f)]を行列形成手段56に出力し、行列形成手段56は、振動検出信号行列[Ai(f)]より周波数f毎の振動検出信号行列[A]を構築して振動正規化部96aに出力する。
一方、音圧検出手段90(k)は、上記したエンジン14や排気系統20が振動する毎に音源から発生する空気伝播音を検出して、所定時間の解析回数m、換言すれば、前記所定時間における空気伝播音の発生回数mを行とし、音圧検出信号Pin(t)の時系列データの個数lを列とする音圧検出信号行列[Pin(t)]を構築し、構築した音圧検出信号行列[Pin(t)]をFFT92(k)に出力する。FFT92(k)は、入力された音圧検出信号行列[Pin(t)]を周波数分析して音圧検出信号Pin(f)の行列[Pin(f)]を行列形成手段94に出力し、行列形成手段94は、各FFT92(k)より入力された音圧検出信号行列[Pin(f)]より周波数f毎の音圧検出信号行列[Pin]を構築し、構築した各音圧検出信号行列[Pin]を音圧正規化部96bに出力する。
また、振動・音圧検出手段62は、車室10内の応答点における車内音を検出して振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]をFFT64に出力し、FFT64は、入力された振動・音圧検出信号行列[Pout(t)]を周波数分析して振動・音圧検出信号行列[Pout(f)]を回帰分析部70に出力する。
振動正規化部96aは、入力された振動検出信号行列[A]より、標準偏差σaiの総和nΣaを(31)式に基づいて周波数f毎に算出し、算出した総和nΣaより正規化行列[Nσa]を構築し、この正規化行列[Nσa]及び(25)式に基づいて振動検出信号行列[A]を[NA]に正規化する。次いで、振動正規化部96aは、正規化した振動検出信号行列[NA]を行列形成部57に出力すると共に、正規化行列[Nσa]を振動復元部98aに出力する。
一方、音圧正規化部96bは、入力された音圧検出信号行列[Pin]より、標準偏差σpiの総和kΣpを(34)式に基づいて周波数f毎に算出し、算出した総和総和kΣpより正規化行列[Nσp]を構築し、この正規化行列[Nσp]及び(26)式に基づいて音圧検出信号行列[Pin]を[NPin]に正規化する。次いで、音圧正規化部96bは、正規化した音圧検出信号行列[NPin]を行列形成部57に出力すると共に、正規化行列[Nσp]を音圧復元部98bに出力する。
行列形成部57は、振動正規化部96aより入力された振動検出信号行列[NA]と音圧正規化部96bより入力された音圧検出信号行列[NPin]とを合成して、周波数f毎の振動・音圧信号行列[NA、NPin]を(35)式に基づいて構築し、構築した振動・音圧信号行列[NA、NPin]を特異値分解部66に出力する。なお、振動・音圧信号行列[NA、NPin]は、(35)式で示されるように、m行(n+k)列の行列となる。
特異値分解部66は、入力された振動・音圧信号行列[NA、NPin]に対する特異値分解を行い、特異値分解された振動・音圧信号行列[NA、NPin]、すなわち、該振動・音圧信号行列[NA、NPin]を特異値分解することにより算出された(36)式に示す特異値行列[S]、直交行列[U]及び(37)式に示す転置行列[V]Tをノイズ除去部68に各々出力する。
この場合、ノイズ除去部68は、特異値行列[S]を構成する各特異値See(e=1〜c、c=n+k)のうちノイズ成分と判定した特異値に係る行と列とを除去すると共に、直交行列[U]及び直交行列[V]における該特異値Seeに係る列を除去し、除去作業が完了した特異値行列[S]、直交行列[U]及び転置行列[V]Tを回帰分析部70に出力する。
この場合、ノイズ除去部68では、(18)式で表わされる寄与率(dist)qの代わりに、累積寄与率に基づいて上記した行列の除去作業を行う。ここで、特異値がSqqである第q主成分での累積寄与率は、(累積寄与率)=(第1主成分から第q主成分までの特異値Seeの総和)/(全ての特異値の総和)×100[%]である。
図27は、所定周波数(f=50[Hz]、100[Hz]、200[Hz]、500[Hz]、1000[Hz])における主成分数と累積寄与率との関係を示す。この場合、いずれの周波数においても、主成分数が小さな領域(例えば、主成分数:1〜10)において累積寄与率は急激に上昇するが、主成分数が大きな領域(主成分数:11以上)では、主成分数の増加に対して累積寄与率は僅かに増加する。これは、図13でも説明したように、主成分数qが小さく且つ特異値Sqqが大きい領域では、振動検出信号Ai(f)や音圧検出信号Pin(f)に関する情報を集約しており、一方で、主成分数qが大きく且つ特異値Sqqが低い領域では、ノイズ成分が支配的であると考えられるためである。
また、図27における直線は、理論上、振動検出信号Ai(f)及び音圧検出信号Pin(f)の全てのデータが互いに無相関で且つ振幅が略同一であるときの主成分数と累積寄与率との関係を示している。
図28は、前記直線における累積寄与率と前記所定周波数における累積寄与率との差(差分累積寄与率)をプロットしたグラフであり、前記差分累積寄与率は、主成分数の増加に伴って急激に増加するが、所定の主成分数を越えると直線的に減少する。この場合、前記差分累積寄与率が直線的に減少する領域がノイズ成分が支配的な領域であり、前記所定の主成分数のときの差分累積寄与率が前記閾値に対応する。
従って、ノイズ除去部68では、前記閾値の代わりに差分累積寄与率の最大値に基づいて上記した行列の除去作業を行う。すなわち、ノイズ除去部68は、特異値行列[S]における各特異値Seeより各主成分eにおける差分累積寄与率を各々算出し、これらの差分累積寄与率において最大値となる主成分数を選択する。次いで、ノイズ除去部68は、選択した前記主成分数を越える主成分の特異値についてはノイズ成分からなる特異値であると判定し、特異値行列[S]において前記ノイズ成分であると判定された特異値に係る行及び列を削除すると共に、直交行列[U]及び直交行列[V]における前記特異値に係る列を削除する。
回帰分析部70では、ノイズ除去部68から入力された特異値行列[S]、直交行列[U]及び転置行列[V]Tと、FFT64から入力された振動・音圧検出信号行列[Pout(f)]とを用い、(28)式に基づく回帰分析を行って振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]を周波数f毎に算出し、算出した振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]を伝達関数分配部60aに出力する。なお、正規化された振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]は、(27)式及び(28)式に示される振動・音圧伝達関数行列[Ha、Hp]を正規化した行列である。
伝達関数分配部60aは、入力された振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]を正規化された伝達関数行列[NHa]、[NHp]に分配し、分配した伝達関数行列[NHa]を振動復元部98aに出力する一方で、分配した伝達関数行列[NHp]を音圧復元部98pに出力する。
振動復元部98aでは、伝達関数分配部60aより入力された伝達関数行列[NHa]と、振動正規化部96aより入力された正規化行列[Nσa]の逆行列[Nσa]-1とに基づいて正規化された伝達関数行列[NHa]を本来の伝達関数行列[Ha]に復元し、復元した伝達関数行列[Ha]を伝達関数分配手段60bに出力する。伝達関数分配手段60bは、入力された伝達関数行列[Ha]を伝達経路毎に振動伝達関数Haiに分配する。
一方、音圧復元部98bでは、伝達関数分配部60aより入力された伝達関数行列[NHp]と、音圧正規化部96bより入力された正規化行列[Nσp]の逆行列[Nσp]-1とに基づいて正規化された伝達関数行列[NHp]を本来の伝達関数行列[Hp]に復元し、復元した伝達関数行列[Hp]を伝達関数分配手段60cに出力する。伝達関数分配手段60cは、入力された伝達関数行列[Hp]を伝達経路毎に振動伝達関数Hpkに分配する。
このように、第3実施例に係る振動・音圧伝達特性解析装置50B及びその方法では、周波数分析された振動検出信号A(f){振動検出信号行列[A(f)]}を振動正規化部96aにおいて正規化し、周波数分析された音圧検出信号Pin(f){音圧検出信号行列[Pin(f)]}を音圧正規化部96bにおいて正規化することにより、単位の異なる振動検出信号A(f)と音圧検出信号Pin(f)とを同一に取り扱うことが可能となる。この結果、振動源からの振動と、音源からの音圧とを同時に計測し、且つ主成分回帰分析手段58において振動検出信号A(f)及び音圧検出信号Pin(f)に対する主成分分析を同時に行うことが可能となる。
また、正規化された振動検出信号NA(f){振動検出信号行列[NA(f)]}及び音圧検出信号NPin(f){音圧検出信号行列[NPin(f)]}を特異値分解部66において特異値分解し、特異値分解された振動・音圧信号行列[NA、NPin]と周波数分析された振動・音圧検出信号Pout(f)とを用いて回帰分析部70で回帰分析を行うことにより振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]が算出され、算出された振動・音圧伝達関数行列[NHa、NHp]が伝達関数分配部60aにおいて正規化された伝達関数行列[NHa]、[NHp]に分配されるので、前記振動による固体伝播音と前記音圧による空気伝播音とを同一に取り扱うことが可能となり、加振実験を行うことなく振動伝達関数Haと音圧伝達関数Hpとを各々算出することができる。さらに、応答点における合成音圧Poutに対する固体伝播音と空気伝播音との寄与の大きさを明確に把握することが可能となる。
従って、振動・音圧伝達特性解析装置50Bでは、従来技術と比較して、車両に搭載して実走行、あるいは、該実走行の模擬ライン上における走行で振動伝達関数Ha及び音圧伝達関数Hpを算出することが可能となるので、振動及び音圧を計測してから振動伝達関数Ha及び音圧伝達関数Hpを算出するまでの時間を大幅に削減することができると共に、振動伝達関数Haと音圧伝達関数Hpの算出精度が大幅に向上して、前記振動源における振動特性や前記音源における音圧特性を精度よく把握することが可能となる。
また、標準偏差σai、σpi及びその総和nΣa、kΣpを用いて振動検出信号行列[A(f)]の各成分(振幅)や音圧検出信号行列[Pin(f)]の各成分(振幅)を正規化することにより、前記振動や前記音圧の量を同等に取り扱うことが可能となり、主成分回帰分析手段58における主成分分析を容易に行うことが可能となる。
さらに、行列形成部57は、正規化された振動検出信号行列[NA(f)]及び音圧検出信号行列[NPin(f)]を合成して振動・音圧信号行列[NA、NPin]を構築し、この振動・音圧信号行列[NA、NPin]を特異値分解部66に出力するので、該特異値分解部66において特異値分解を効率よく行うことが可能となる。
さらにまた、主成分回帰分析手段58が振動復元部98aと音圧復元部98bとを有することにより、正規化された伝達関数行列[NHa]、[NHp]を本来の伝達関数行列[Ha]、[Hp]に復元することが可能となる。
この場合、振動復元部98aは、正規化行列[Nσa]を用い、正規化された伝達関数行列[NHa]を本来の伝達関数行列[Ha]に復元し、一方で、音圧復元部98bは、正規化行列[Nσp]を用い、正規化された伝達関数行列[NHp]を本来の伝達関数行列[Hp]に復元するので、精度良く各伝達関数行列[Ha]、[Hp]を復元して伝達関数分配手段60b、60cに出力することが可能となる。
なお、本発明に係る振動・音圧伝達特性解析装置及び方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。