JP2020034379A - 振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法 - Google Patents

振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法を提供する。【解決手段】複数の振動騒音センサーからの信号をデシベル値として測定時刻ごとに記憶し、同一測定時刻における複数の振動騒音センサーからの信号を入出力データ14aとし、入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現するモデル式に適用し、同一測定時刻の入出力データに対応する伝達率のデシベル値に対する尤度161〜163を計算し、計算した尤度を事前に想定している伝達率の事前確率分布に乗算することで伝達率の推定値の事後確率分布を得、同一測定時刻を逐次変更して事後確率分布を繰り返し求めることで振動騒音の伝達経路を推定することを特徴とする振動騒音伝達経路推定装置。【選択図】図5

Description

本発明は、振動騒音問題の発生防止に向けた効果的な事前施策実施の選定に供する振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法に係り、しいては、その施策の効果について確率論的に扱うことで、コスト期待値を判断基準とした費用対効果の定量的判断方法を可能とする振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法に関するものである。
製品から発生する振動や騒音は製品使用時の快適性を悪化させる要因として広く認識されている。そのため、振動や騒音の発生源と伝達経路を把握し、その結果を元に現状の構造案に対する変更とその効果の事前予測が必要となる。
一方で、一般に振動騒音を抑止するために実施される防振・防音施策は、コストや重量を増大させるばかりか、他の性能とトレードオフの関係にあることが多い。そのため、振動騒音を抑止するためのみを目的とした施策を、むやみやたらに実施することは忌避される。例えば、あえて事前の防振・防音施策は適用せず、問題発生の後に事後対策を行なうという戦略も、それが費用対効果の観点から最適であると判断させるのであれば成立し得る。また逆に、問題発生後に実施した事後対策の費用が、事前に施策を実施した場合の想定費用よりも高額になることも、当然ながら避けなければならない。
このように、究極的には要求される振動騒音に関する仕様を必要十分なぎりぎりのレベルで達成し、且つ施策費用や重量、他性能への影響なども含めた総合的な広義のコストを最小限にして実現できる施策の適用が求められる。しかしながら、その判断は実際には極めて難しい。なぜならば、そもそも現行製品の騒音がどこから発生し、どのように伝達しているかを示す伝達経路と、その割合を示す寄与の判定が難しく、結果、現状構造に対する構造変更の効果を示しにくいためである。
このような振動騒音の事前対策に関する判断支援の技術に関しては特許文献1がある。特許文献1では既存の製品の実稼働時の振動騒音測定データをもとに、未知である伝達関数を同定し、さらに各部位からの騒音伝達の寄与を再構築する技術が提供されている。
特許第4028562号
製品が発生する振動や騒音を抑制するには、まず音源や加振源および伝達経路の把握が必要であり、その実現には一般には現行製品の実測データを用いた音源特性や伝達特性の同定が行なわれ、さらには支配的な伝達経路と各経路からの寄与の大きさを示す寄与率の判定が行なわれる。
背景技術で説明したとおり、一般に振動騒音を抑止するために実施される防振・防音施策は、コストや重量を増大させるばかりか、他の性能とトレードオフの関係にあることが多い。そのため振動騒音に関する仕様を必要十分なぎりぎりのレベルで達成し、且つ施策実施費用や重量、他性能への影響なども含めた総合的な広義のコストを最小限にして実現できる施策の適用が求められるが、そのためには、まず初めに、現行製品の騒音の寄与を把握する必要がある。
ここではまず、図11から図17を用いて従来における騒音伝達解明手法の一例を説明するとともに、本発明において対応すべき課題について具体的に説明する。
図11は鉄道車両の車内騒音を例に、車内騒音に対する伝達経路とその寄与率の例を示している。
図11の左には車内騒音に対する伝達経路の例を示しており、車内の特定個所に設けたセンサーにより、車内各所(屋根、荷棚、窓、側、床など)の振動や騒音を測定する。
騒音の測定結果は解析により図11の右に示すような寄与率の例として把握され、モニタなどに表示される。図11の右の例における表示では、横軸に騒音をスペクトル解析した時の周波数を、縦軸に車内各所ごとの騒音寄与率を示している。
このようにして、次期車両の開発にあたっては現行車両の徹底した計測による実測データをもとに、図11右に示すような寄与率を判定し、次期車両において静音化設計上重要な個所を把握する。たとえば、図11の右の解析結果の場合、低周波では1点破線で示した床からの寄与が大きく、一方で高周波では破線で示す屋根からの寄与が大きい。そのため、次期車両では、床構造は高周波の遮音性を犠牲にしてでも低周波における遮音性を重視させ、逆に屋根に関しては低周波の遮音性はある程度妥協してでも高周波の遮音性を確保することが有効などと判断される。
図11は鉄道車両の場合の例を示したものであるが、他の製品においてもこのような指針が得られることが次期製品の開発において極めて重要となる。
図12は伝達率や寄与の理解を容易にするために導入する「伝達経路モデル」の概念を示す図である。図12は、図11の左に示した鉄道車両車内騒音の伝達経路について、屋根、荷棚、窓、側、床など内装各部位の振動が音として放射され、それぞれある伝達率で車室内へ伝わったものが車内騒音へのそれぞれの寄与として表現されることを示している。ここでは、図11に示す伝達経路について、入力信号と伝達率の線形一次結合として出力信号が求まると仮定した伝達経路モデルで表現した例を示している。
具体的には(1)式に示すように、i番目の内装の振動加速度、ないしは振動速度をx (n)としたとき、車内騒音y(n)は、前記x (n)とそれぞれの伝達率aを一次結合させた形で表現できるものと考える。なお、右肩の添え字(n)は条件番号を表しており、たとえば走行区間や走行時刻などにあたる。
Figure 2020034379
ここで、x (n)およびy(n)は既存車両の走行試験などの実稼働データから得られ、伝達率aが未知である。ここで伝達率aを知ることができれば、前記x (n)とaの一次結合としてあらわされるy(n)の各項の大きさとして各部位からの寄与を表されると考えることができる。このため、ここでは図11の屋根、荷棚、窓、側、床など内装各部位に設置したセンサーによりi番目の内装の振動加速度、ないしは振動速度x (n)を得、また図11の車内騒音の部位に設置したセンサーにより車内騒音y(n)を得るものである。なお各種センサーから得られる情報のうちx (n)は振動原因側要因であり、y(n)は結果側要因の騒音であることからx (n)を入力データと称し、y(n)を出力データと称することがある。またx (n)とy(n)を総称して入出力データと称するものとする。なお,x (n),y(n),aともに周波数依存性があり,各周波数のデータそれぞれについても先述と同様な線形一時結合性が成立していると考える。以下ある周波数に対応する入出力データをx (n),y(n),入出力データをaと表現する。
伝達率aの同定方法としては特許文献1などで適用されている最小二乗法による線形重回帰分析があげられる。具体的には、(2)式に示すように、上記右肩の添え字(n)で示した複数の条件下における入出力データx (n)およびy(n)を取得しておけば、条件に依存しない伝達率aに対する逆同定問題として解くことができ、得られた伝達率を再び上記一次結合表現に戻せば、各部位からの寄与が各項の大きさとして求めることができる。なお、特許文献1では重回帰分析の前に主成分分析ないしは特異値分解などを行うことで、伝達率算出の安定化やノイズの除去などを行っている。
Figure 2020034379
なお(2)式において、y(n)は複数の多点同時計測結果であり、伝達率aを一定と仮定したものである。また伝達率aに対する逆同定問題は、擬似逆行列を用いた伝達関数の逆計算であり、入出力データx (n)およびy(n)から伝達率aを求め、求めた伝達率aを(1)式に代入してy(n)を求めることで伝達経路を求めるものである。この伝達率aに対する逆同定問題による手法は、最小二乗法による線形重回帰分析と同義である。
ここで説明をさらに簡単にするため、以後、図13に示す2入力1出力モデルを用いて説明する。図13に示す2入力1出力モデルMでは、二つの入力xとxに対してそれぞれ伝達率a、aが掛け合わされたものの合算値として出力yが得られるとする。このモデルMは、図12における屋根や床がx、xに、車内騒音がyに相当すると考えてよい。ただし、実際の測定データはこれらにノイズex1、ex2、eが混入された情報を観測することとなる。そのため、上記モデルx、x、yと区別した観測系Oとしてxm1、xm2、yと表記する。
なお以降の説明においては、観測系Oにおいて計測されたxm1、xm2、yのことを入出力データ14aとして、表記、説明する。また観測系Oにおいて計測された入力データ14aであるxm1、xm2は、図11の屋根、荷棚、窓、側、床など内装各部位に設置したセンサーにより検知したi番目の内装の振動加速度、ないしは振動速度x (n)に対応し、観測系Oにおいて計測された出力データ14aであるyは、図11の車内騒音の部位に設置したセンサーにより検知された車内騒音y(n)に対応している。
観測系O(センサー)において計測されたこれらの入出力データ14aは、伝達経路解析のために一般的には計算機で構成される伝達経路解析システム内のデータベースDBに取り込まれる。
ところで振動騒音の分野では各種の運転稼動条件における振動加速度や振動速度、音圧などの物理量の変動値の二乗平均値をパワーとしてとらえ、このパワーの常用対数に10を乗じた、いわゆるデシベル値で表現することが多い。なお「デシベル値」は,「レベル」と称されることもある。以下特に断りがない限り「デシベル値」で統一する。このことからたとえば、図13下部に記載のデータベースDBには、計測時刻ごとの入出力データ14a(xm1、xm2、y)が、デシベル値13a(Xm1、Xm2、Y)として記憶される。なお大文字はデシベル値を、小文字はパワー値を表している。
13bで示した(3)式は、モデルMを表現するモデル式であり、モデル式は解析の対象とした2入力1出力モデルMのモデル式と、パワー値をデシベル値に変換するときの変換式を含む例を示している。
Figure 2020034379
この状態、すなわち、入出力データ14aのデシベル値の時系列データとして取得されたデータベースDBのデータ13aと、想定される(3)式のモデル式13bから伝達率aiないしそのデシベル値であるAiが算出されれば、前述の手法により寄与が求まることとなる。図13下の右側に示すグラフ14dは、伝達率aiのデシベル値であるAi(ここではAとA)を縦横軸として伝達率Aiの推定結果を表示したものであり、推定結果の領域内に伝達率A、Aが存在していると考えることができる。なお、ここでは本発明により伝達率aiのデシベル値である(A、A)が確率推論されることを示しているが、詳細は本発明の実施例において後述する。
図14は特許文献1などで適用されている従来技術である最小二乗法による線形重回帰分析を用いた伝達率同定手法について図13の2入力1出力モデルMに適用した場合について視覚的に説明した図である。ここで図の各軸(xm1、xm2、y)は入出力データ14aのパワー値表現である。これは重回帰分析を用いるうえでの前提条件であるモデル式13bの線形性がパワー表現で達成されるためである。
図13に示した2入力1出力モデルMの場合、データベースDBに含まれる各入出力データ14aのひとつひとつは、図14の3次元空間(xm1、xm2、y)に配置された点の座標として表現され、最小二乗法による線形重回帰分析を用いた分析では、二乗残差の合計が最小となるように、すなわち、3次元空間上に配置された各データ点群のほぼ中央を通るように近似平面PLが選択され、この近似平面PLのそれぞれの軸に対する傾きが、すなわち図14におけるa、aが伝達率aiとして算出される。
ただし、この手法には以下に示す3つの観点で課題がある。
一つ目の課題は算出された伝達率a、aが負値になる場合があることであり、非負値となることを想定していた設計者がその結果の解釈に悩むことがしばしばある点である。たとえば図13に示した2入力1出力モデルMの場合、設計者は暗黙のうちに伝達率a、aが非負値になることを想定しており、yからxないしはyからxへのパワーの逆流は想定していない。しかしながら、上記に示す重回帰分析では算出される伝達率a、aが非負値になることを保証しない。
図15はこのように暗黙の想定と違って伝達率a、aが負値になる場合を説明する図であり、各データ点群をもとに二乗残差が最小となるように近似平面PLを定義すると、伝達率a、aのうちのひとつaが負値となってしまった状況を表している。この場合、図13におけるパワーの流れを考えると、xから入力したパワーは一部xに吸い取られ、その残りとしてyに伝達していることと解釈される。しかしながらこのような結果は経験的に知っている現象と容易に折り合いがつかないことがしばしば発生し、これを回避するために、伝達率算出結果を修正して所望のように非負値の範囲で探査するために、幾らか非合理的な制約や仮定を設けざるを得ない場合が発生する。理想的には原理上非負の範囲で探査することのできる手法の適用が求められる。
二つ目の課題は機器が高負荷で稼動している状態で取得されたデータと低負荷で稼動している状態で取得されたデータのバラツキの取扱が等価でないことであり、算出された伝達率a、aはほとんどが高負荷稼動状態でのデータをもとに決定されてしまい、低負荷稼動状態のデータに伝達率a、aを同定する重要な特性があったとしてもそれがほとんど無視されてしまうことである。これを説明したのが図16である。
図16では説明を容易に行う為に、入力をx、出力をyとした1入力1出力モデルMでのデータ点群の例を示しており、これらデータ点群のうち回帰直線y=axからいくらか偏差をもったデータ1(x、ax+e)とデータ2(x、ax−e)について、どちらの方が回帰直線y=axの傾きaの算出結果に対して大きく影響を与えたかを議論する。なお、x>xであり、データ1は高負荷稼動時のデータを、データ2は低負荷稼動時のデータを模擬している。
また、回帰直線y=axからの偏差e、eについて、入力に対する比率(ここでは便宜上「比偏差」と呼ぶこととする)をそれぞれr=e/x、r=e/xとし、今、r≒rであったとする。この場合、入力量で規格化した偏差である比偏差は、すなわち回帰直線y=axの傾きに対するズレの感度を表しており、これはどちらもほぼ同じであることとなる。しかしながら、最小二乗法による線形重回帰分析を用いた場合では、入力の量で規格化していない偏差の総和を最小化するため、データ1のほうが圧倒的に回帰直線の傾きaの算出結果に対して影響が大きい。
すなわち高負荷稼動状態におけるデータのバラツキの影響が、低負荷稼動状態におけるデータのバラツキよりも大きく影響してしまい、先述のように低負荷稼動状態のデータに重要な特性が表れていたとしてもそれが無視されてしまうことが懸念される。また先述のように、振動音響分野では、物理量の変動値の二乗平均値をパワー値としてとらえ、このパワー値の常用対数に10を乗じた、いわゆるデシベル値で表現することが多いため、どちらかというと誤差・バラツキはデシベル値と親和性の高い、上記「比偏差」をもとに議論するべきである。
しかしながら従来手法の線形重回帰分析ではモデル式13bの線形性が前提条件となっているため、デシベル値そのままでの探査はできず、線形重回帰分析を用いる以上はどうしてもパワー値での探査にしかならざるを得ず、前述のような高負荷稼動状態のデータのバラツキの影響を大きく受けることとなる。
三つ目の課題は重回帰分析を用いる際の前提条件である入力データの独立性が、実際の振動騒音計測結果では成立しにくいことである。図17はこれを示したものであり、たとえば図11、図12で挙げた鉄道車両の車内騒音などの場合、データの大部分が走行速度に依存する(走行速度のべき乗に比例するなど)として説明されてしまうため、入出力データ14aを空間上にプロットすると、ほとんど平面状にはならず、広がった線状ないしは曲線状に分布し、ここから近似平面を切り出すこと自体が原理的に不可能となる。
にもかかわらず、特許文献1などに記載の方法では、あくまでデータは平面上に分布しているとの仮定の下、そこからの偏差はノイズとして認識され、除去する処理がなされる。この場合、データの従属性によって引き起こされる伝達率同定結果の信頼性の低さは、その結果に保持されない。
一方で設計者は、入出力データ14aの独立性の低さにはなかなか気づきにくく、結果的に決定論的に逆同定された伝達率を特に疑いなく扱うこととなってしまう。また、たとえ原理的に困難があったとしても、設計上何某かの結論が求められる場合も多々ある。このような場合、データから無理に画一的な数値として表される伝達率を算出するのではなく、伝達率の推定結果について確率論的な幅を持たせた取り扱いをすることにより、その確率が結果の信頼性を意味するように保持させておくべきである。
本発明は上記の従来技術の「伝達率が意図せず負値になる」「バラツキの取扱が高負荷稼動状態と低負荷稼動状態で等価でない」「バラツキをノイズとして切り捨ててしまうため不確実性ないしは結果の信頼性を議論できない」という3つの観点における課題を解決することができる振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法を提供するものである。
以上のことから本発明においては、「複数の振動騒音センサーからの信号を格納する格納装置と、格納装置に格納されたデータを用いて振動騒音を演算する演算装置と、演算装置の演算結果を元に、振動騒音の伝達経路推定結果を表示する表示装置からなる振動騒音伝達経路推定装置であって、格納装置は、複数の振動騒音センサーからの信号をデシベル値として測定時刻ごとに記憶し、演算装置は、同一測定時刻における複数の振動騒音センサーからの信号を入出力データとし、入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現するモデル式に適用し、同一測定時刻の入出力データに対応する伝達率のデシベル値に対する尤度を計算し、計算した尤度を事前に想定している伝達率の事前確率分布に乗算することで伝達率の推定値の事後確率分布を得、同一測定時刻を逐次変更して事後確率分布を繰り返し求めることで振動騒音の伝達経路を推定することを特徴とする振動騒音伝達経路推定装置」のようにしたものである。
また本発明は、「複数の振動騒音センサーからの信号をデシベル値として測定時刻ごとに記憶し、同一測定時刻における複数の振動騒音センサーからの信号を入出力データとし、入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現するモデル式に適用し、同一測定時刻の入出力データに対応する伝達率のデシベル値に対する尤度を計算し、計算した尤度を事前に想定している伝達率の事前確率分布に乗算することで伝達率の推定値の事後確率分布を得ることを特徴とする伝達率推定方法」のようにしたものである。
本発明により、上記の従来技術の3つの観点における課題を解決し、設計者の意図通り非負値の伝達率が得られ、しかもバラツキの影響を稼動状態に依存せず等価に扱いながら、バラツキを不確実性として受け入れながら結果の信頼性を確率という形で保持させた状態での伝達経路推定結果の取得を実現することができる。
デシベル値13aのうちX、Yの関係を表記したグラフを示す図。 各周波数で得られた伝達率のデシベル値の確率分布を示す周波数−伝達率特性グラフを示す図。 確率推論の一手法であるベイズ統計の原理を示す図。 ベイズ統計のなかで重要な概念であるベイズ更新を示すために導入した「コイントス問題」を説明する図。 図3に示したコイントス問題において、得られた結果からその結果の尤度を求め、これを事前確率分布に乗算することで事後確率分布を算出するベイズ更新の概念を説明する図。 図13に示した2入力1出力系伝達経路モデルにおいてベイズ更新を適用した場合について説明する図。 本発明で採用するベイズ統計に基づく伝達率推定方法について、従来方法と比較してその優位性を示す図。 本発明の振動騒音伝達経路推定システムの機器構成を説明する図。 振動騒音伝達経路推定システムの画面表示方法の例を示す図。 任意の入出力データのデシベル値が与えた時にそこから求まる伝達率のデシベル値の尤度の確率分布を示す図。 入出力データのデシベル値が与えた時にそこから求まる伝達率のデシベル値の尤度の確率分布を算出する際に、計算速度を向上するための効率化について説明する図。 鉄道車両の車室内騒音に対する伝達経路とその寄与の例を示す図。 図11に示す伝達経路について、入力信号と伝達率の一次結合として出力信号が求まると仮定した伝達経路モデルで表現した例を示す図。 以降の説明を簡単にするための2入力1出力系伝達経路モデル例を示す図。 図13に示した2入力1出力系伝達経路モデルについて、従来技術である最小二乗法による線形重回帰分析を用いた伝達経路分析技術による伝達率同定手法を示す図。 従来技術の伝達経路分析技術の1つ目の課題である、伝達率が負値となる例を示す図。 従来技術の伝達経路分析技術の2つ目の課題である、バラツキの影響が稼動状態の負荷の大小に依存することを示す図。 従来技術の伝達経路分析技術の3つ目の課題である、入力信号同士の独立性が低いデータから重回帰分析で伝達率を求める際の不確定性を示す図。
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
本発明の実施例1について、図1a、図1bから図8を用いて説明する。
まず図1a、図1bを用いて、本発明の振動騒音伝達経路推定システム及び伝達率推定方法により、バラツキをもつ入出力データ14aから伝達率をデシベル値のまま確率推論することができることを説明する。
特許文献1に示すような従来技術ではバラツキを持ったデータからノイズを除去してしまうため、伝達率が画一的な数値として得られてしまい、得られた同定結果に対する信頼性の議論ができなかった。しかも意図せず伝達率が負値になるばかりか、入力データの独立性が十分でない場合は、そもそも手法適用の妥当性が低かった。
これに対して、本発明では、バラツキをもつ入出力データ14aから伝達率を物理量やパワー値で取り扱わず、デシベル値のまま確率推論する。図1aは、図13のデータベースDBに蓄積されたパワー値のデータ13aのうちx、yの関係を表記したグラフであり、ここに示すように、入出力データ14aをパワー値表現したときに、各データが多次元空間上の座標として表される入出力データの点群から、その関係性を示す伝達率を確率分布として推定・算出する。ただし,伝達率の確率推論の際,伝達率の物理量やパワー値ではなく,伝達率に関してはデシベル値を推論するように工夫する。このようにして各周波数で得られた伝達率のデシベル値の確率分布は図1bに示すように周波数−デシベル表現伝達率特性グラフ上で、ある幅を持った滲んだ曲線として表される。
これにより、パワー値表現の伝達率について非負値探査が可能で、データのバラツキの取り扱いが稼動条件で等価となり、さらに従属性の強いデータからの同定に対してもその不確実性に関する尺度を保持することが可能となる。さらには、得られた伝達率推定結果を、その後で寄与率計算結果に対して用いた場合も、結果が確率論的な取り扱いをすることができる。すなわち次期製品の騒音推定結果についても、その推定結果に対する信頼性の尺度を結果に対する確率として付与することができる。
バラツキを持ったデータからそれを結論として得られる原因について確率推論する手法としては、近年普及しつつある方法としてベイズ統計がある。ベイズ統計ではモデル式の線形性を必要としない。つまり図13のようにデシベル値で表現されたモデル式についても、推定することが可能である。そこで所望とする伝達率のデシベル値に関する確率推論に対して、ベイズ統計を適用することを考えた。
その実施例について図2から図5を用いて説明する。ベイズ統計はベイズの定理を基礎として、因果関係を形成する原因と結果について、結果として得られたデータをもとに原因の発生確率を確率分布として推定する方法である。
図2はベイズの定理を説明した図で、横軸に仮説H、縦軸にデータDを示したグラフである。このグラフで、実線で示す範囲は仮説Hが成立する範囲、点線で示す範囲はデータDが得られる範囲である。また(4)式はベイズの定理を示す式である。
Figure 2020034379
ここでは、仮説Hが成立しさらにデータDが得られる同時確率P(H∩D)が、P(H|D)P(D)とも、P(D|H)P(H)ともどちらでも表せることを利用したものである。この結果、データDが得られたときの仮設Hに関する条件付き確率P(H|D)について、仮説Hが成立していると考える事前確率分布P(H)と、仮説Hが成立しているときにデータDが得られる条件付き確率であるP(D|H)の積で表せることを示している。なお,この条件付き確率P(D|H)は尤度とも呼ばれる。
(4)式に示した事前確率分布P(H)と尤度P(D|H)の積として定まる事後確率P(H|D)の関係式において、新たなデータD´が得られた時の新たな事後確率P(H|D´)を求める式が(5)式である。
Figure 2020034379
ここでは、データDが得られたときの条件付き確率P(H|D)、つまり事後確率分布について、これを再び事前確率分布として活用することで、次にデータD´が得られたときに、そのデータに対応する尤度P(D´|H)を再び事前確率分布に乗算することで事後確率分布を更新でき、以下これを逐次繰り返すことによってデータが生み出され得る仮説に関する確率分布を真値に漸近させることができる特徴がある。
なお前記データによる事後確率分布の更新はベイズ更新と呼ばれる。ベイズ更新について図3、および図4でコイントス問題を例により詳しく説明する。図3はベイズ統計を説明する際によく引き合いに出されるコイントス問題を表したものであり、コインを放り投げた時、地面に落ちたコイン表が上か、あるいは裏が上かの情報を逐次得ることにより、コインの表が上になる確率分布の推論結果を徐々に真値に漸近させる問題である。
図4に図3に示したコイントス問題におけるベイズ更新による事後確率分布の変化について具体的な例を挙げて示す。図4において151、152、153、154は表が出る確率θと確率密度分布P(θ)の関係を示すグラフであり、151は初期状態、つまり事前情報がない無情報の状態を表しており、このときには確率密度分布P(θ)は表が出る確率θに対して一定である。また図4において161、162、163はコイントスの結果(表、裏、表の順に発生したものとする)であり、尤度であらわすことができる。ここでは、コイントスの結果161、162、163を受けて表が出る確率θと確率密度分布P(θ)の関係を示すグラフ152、153、154が順次変化していく様子を示している。
最初、コインの表が出る確率θについて事前情報がない(無情報)であるとすれば、表の出る事前確率分布は一様であると仮定する。これを示したのが図4の151である。次にコインを投げた時、表が出たとする。この時の尤度とは、「表が出る確率がθであるコインを投げて表が出る確率」であるから、この確率分布はθであり図4の161のようになる。これをもとの事前確率分布151に掛け合わせると、1回目表が出た時の事後確率分布がグラフ152のように得られる。この事後確率分布を次の推定で事前確率分布として使用する。次にコインを投げたとき、裏が出た162とする。この時の尤度は、「表が出る確率がθであるコインを投げて裏が出る(=表が出なかった)確率」であるから、この確率分布は1−θで162のようになる。これを先ほどの事前確率分布152に掛け合わせると、2回目裏が出た時の事後確率分布が153ように得られる。このようにして得られたデータに対応する尤度を事前確率分布に逐次かけていくことで、データが得られた後の事後確率分布を更新していき、真値に近づけていく。
図5は図4で説明したベイズ更新について、図13で示した2入力1出力モデルに適用した例を示す図である。
なお、詳細は後述するが、2次元の確率分布で示される伝達率のデシベル値(図では「伝達率レベル」と表現している)A、Aの存在確率分布の表現としてはマルコフチェーンモンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo:以後MCMCと略す)と呼ばれる推定パラメータの離散点群表現が有効である。このため以降の図では確率分布は、このような点群で表現する。図4同様、事前情報が無情報であるとすれば、伝達率レベルAと伝達率レベルAの事前確率分布151は一様であると仮定するが、上記のように確率密度分布を点群で表現する場合、一様密度の確率分布に従う点群の計算方法としては、ラテン・ハイパーキューブ・サンプリング(Latin Hypercube Sampling:LHS)などがある。
また図4に示したコイントスの問題同様、ここにデータベースDBからTimeIndexが0のときの入出力データ14aをデータセット0(Xm1 (0)、Xm2 (0)、Y (0))として切り出し、これに対応する尤度161を求め、それを先ほど得られた事前確率分布151に掛け合わせることでTimeIndexが0のデータを入手した後の事後確率分布152を得る。
次にデータベースDBからTimeIndexが1のときの入出力データ14aをデータセット1(Xm1 (1)、Xm2 (1)、Y (1))を切り出し、これに対応する尤度162を求め、それを先ほど得られた事前確率分布152に掛け合わせることでTimeIndexが1のデータを入手した後の事後確率分布153を得る。
これを繰り返すことで、データベースDBから入出力データ14aが得られる度に事後確率分布が逐次更新され、最終的に伝達率レベルAと伝達率レベルAの存在確率分布が次第に真値に近づいていくものと推定される。図5では、154が最終推論値を示すものとする。なお最終推論においては、真値が伝達レベルAと伝達率レベルAの確率分布の期待値として推定される。
ここで尤度P(D|H)算出の考え方を簡単に説明しておく。まず尤度P(D|H)とは、仮説Hが成立しているときにデータDが得られる条件付き確率のことである。この尤度は例えば以下のようにして定めることができる。例えば図5においてTimeIndexが0のときのデータセット0(Xm1 (0)、Xm2 (0)、Y (0))について、入力データXm1 (0)、Xm2 (0)と、それぞれに仮定した伝達率レベルAと伝達率レベルAから(1)式を実行し、出力データy(0)を推定する。そのうえで、推定した出力データy(0)と計測した出力データY (0)の近似度合いを評価して尤度とする。尤度は伝達率レベルAと伝達率レベルAを可変設定しながら繰り返し実行され、複数の伝達率レベルの組み合わせの時の尤度をグラフ表示したものが、図5のグラフ161、162、163などである。
図6は従来手法である最小二乗法による線形重回帰分析と、本発明の伝達率デシベル値のベイズ推定について比較したものである。なお図6では、縦軸にデータが1個、2個、N個のケースを想定し、横軸に最小二乗法による線形重回帰分析と、伝達率パワー値の確定論的算出と、伝達率デシベル値(図6では伝達率dB値と表記)のベイズ推論による結果を対比して図示している。
図6において、最初に従来手法である最小二乗法による線形重回帰分析とその結果について説明する。まずデータが1個である図6上段左の表記について、従来の線形重回帰分析で一つのデータ1のみが与えられると、図6上段左のように入出力データx、x、yで定義される入出力データ空間上に、このデータ1に対応する点P1(xm1 (n)、xm1 (n)、y (n))が得られる。
この時、この点を含む面を形成する場合、伝達率aとaの間には、ω=xm1 (n)/y (n)、ω=xm2 (n)/y (n)として、aω+aω=1という関係が成立する。すなわち、図6上段中のように伝達率空間[a、a]平面上で、一つの直線を描くこととなる。
ここにもう一点データ2が与えられると、点P1のほかに追加したデータ2に対応する点P2が得られる。このとき、図6中段左のように原点と点P1、P2の3点で形成する回帰平面の傾きa、aが定まるが、この時、伝達率空間上では図6中段中央のように、aとaの間の関係を示す直線がデータ1、データ2それぞれに対して1本ずつ、計2本描かれ、この2本の直線の交点が図6中段左の回帰平面の傾きa、aを示す。
一方、さらにデータが沢山得られた場合、図6下段左のように重回帰分析ないし最小二乗法では無数の点群の間を平均的に通るように回帰平面PLの傾きを定めるが、これは図6下段中央のように各点で定まるaとaの間の関係を示す複数の直線の交点の平均的な位置を求めていることになる。しかし、前述のように高負荷稼働状態で大きなばらつきが得られた場合、図6下段左のように重回帰分析ないし最小二乗法では、回帰平面PLの傾きがこの高負荷稼働状態でのバラツキの影響を大きく受けることとなる。つまり、図6下段中においてこれまでの平均的な交点から大きく外れたところを通る直線が描かれ、これまでの傾向から大きく外れた直線への重みがかなり大きくなる。
これに対して、本発明の方法では、図6上段中のようにデータが一つ得られる度に伝達率パワー値空間[a、a]平面上で、一つの直線を描くのではなく、図6上段右のように伝達率デシベル値空間[A、A]平面上で、尤度に対応する確率分布を持った領域を描くこととなる。なお、図6では確率分布を領域で示しているが、先述のように点群で表してもよい。A、Aの値はデシベル値であるので、この値が負値であったとしても、伝達率は非負のままとなる。
また、さらにデータが得られた場合、図6中段右のように、今得られたデータに対応する伝達率デシベル値空間[A、A]平面上の分布が得られることとなり、これらが重なった領域の伝達率が、真値の候補として確率が高いことを意味する。これを繰り返すことで図6中段右のようにそれぞれのデータの尤度に対応する伝達率デシベル値空間[A、A]平面上の領域がもっとも多く重なった部分の確率が高くなる。これにより、前述の伝達率空間[a、a]平面上では高稼働状態で大きなばらつきが得られた場合においてその影響を課題に受ける伝達率推論結果が、本発明の手法では単純に一回の尤度の掛け合わせに留まることで、その影響が大きくなることを回避できる。
このような本発明の手法は、図7ないし図8に示すようなシステムで構成することができる。
図7はシステム構成の全体像を示す図で、振動騒音センサー11と、これらセンサー11からの信号を周波数変換する周波数変換装置12と、センサー信号データ11aないしはセンサー信号データ11aを周波数変換されたデータ12aを格納するデータ格納装置13と、格納されたデータを演算するデータ演算装置14と、演算された結果を元に、伝達経路推定結果表示する伝達経路推定結果表示装置15からなる、機器や装置の振動騒音伝達経路を推定する振動騒音伝達経路推定システム90を構成する。
図7のシステムにおいて、振動騒音センサー11は、図11の屋根、荷棚、窓、側、床など内装各部位に設置したセンサー、および図11の車内騒音の部位に設置したセンサーなどがこれに相当している。またデータ格納装置13は、図13のデータベースDBを含んでいる。またデータ格納装置13は、データ格納にあたり、(3)式で説明したモデル式13bを実行する。13bで示した(3)式は、モデルMを表現するモデル式であり、データ格納装置13は解析の対象とした2入力1出力モデルMのモデル式と、パワー値をデシベル値に変換するときの変換式を実行する。
格納されたデータを演算するデータ演算装置14は、少なくとも以下の処理を実行する。例えば図5の処理を行う場合の典型的な処理ステップの例は以下のようである。ただし、この前提としては、同一時刻に複数のセンサーで検知した騒音に関するデータがデシベル値として、サンプル入手時刻とともにデータベースDBに保存されているものとする。また事前確率分布151が準備されているものとする。
処理ステップS1:データベースDBから所定時刻に入手した入出力データ14aのデータセットを入手する。
処理ステップS2:入手した入出力データ14aのデータセットを用いて、このデータセットに対する尤度を算出する。尤度の算出は先述の手法が採用可能である。
処理ステップS3:事前確率分布(最初の状態では事前確率分布151)と尤度(最初の状態ではグラフ161)を用いて事後確率分布を得るとともに、求めた事後確率分布を次回の事前確率分布として扱う。
処理ステップS4:求めた事後確率分布が最終推論値に到達していることを確認し、到達していない場合には処理ステップS1に戻り、データベースDBにおける所定時刻を変更し、連続する時系列の次のデータセットについて、処理ステップS1から処理ステップS3の処理を繰り返し実行する。
処理ステップS5:処理ステップS4の処理により、求めた事後確率分布が最終推論値に到達していると判断されるとき、最終推論値として求められた伝達率レベルAについて、この伝達率レベルAを(1)式に代入してy(n)を求めることで伝達経路を求める。これにより、図12右側に示した複数の振動源、音源と、伝達率レベルと、車内騒音y(n)の関係を示す伝達経路が明らかになる。
処理ステップS6:作業員が視認しやすい形態で伝達経路推定結果を伝達経路推定結果表示装置15に表示するための画像編集を実施する。
図8は伝達経路推定結果表示装置15における振動騒音伝達経路推定結果15aの画面表示例を示したものである。たとえば、図では画面左側に示されたグラフィカルモデルで表現された伝達経路上のある要素を選択すると、その右の画面にその伝達率寄与の不確実性が周波数特性の確率分布として表現されるとともに、左下の画面では不確実性の影響で騒音の周波数特性やO.A.などの全体への影響がどの程度かが視覚的に表示される。
これら図7ないし図8で示したシステム構成のうち、データ演算装置14にてデータを演算して振動騒音伝達経路推定結果15aを算出する際に、図12で示したデシベル値の尤度の確率推定を用いる。
これにより、モデル式が非線形なデシベル値で記述されていても、入出力データ、伝達率ともに物理量やパワーに還元することなく、デシベル値のままで推論および確率分布の更新が議論できる。これにより従来技術における3つの課題「伝達率が意図せず負値になる」「バラツキの取扱が高負荷稼動状態と低負荷稼動状態で等価でない」「バラツキをノイズとして切り捨ててしまうため不確実性ないしは結果の信頼性を議論できない」を解決する技術およびこれを搭載したシステムを提供することができる。
前述のようにベイズ更新の際は、事前確率分布に得られたデータに対応する尤度をかけることで事後確率分布を得るが、入出力データ14aの数が増えて、探査空間の次元が大きくなると、軸ごとに一様に探査する手法では価値のある情報を取得するのに計算時間がかかる。
これを解決する手段としてはマルコフチェーンモンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo:以後MCMCと略す)とよばれる推定パラメータの離散点群表現並びに探査方法が近年有効とされつつある。MCMCでは、確率分布を点群の密度で示し、メトロポリス法(Metropolis法)のような効率化探査手法と組み合わせることで、反復計算回数を抑えながら効率よく確率分布を表現する点群を求めることが可能となる。
本発明の実施例2では、実施例1に記載の伝達率のデシベル値を取り扱うことを特徴とした事前・事後確率分布および尤度計算に対して、図5の161に例示するように、観測された入出力データ14aをもとに、尤度を多点サンプルとして表現することを特徴とした方法と、これを搭載したシステムを提供する。
実施例2に記載のMCMC法では尤度の多点サンプルを得るために、反復演算を行わなければならないが、図13に示したモデル式とデシベル値の取り扱いによる特殊性をうまく用いるとさらに演算を効率化できる。
これを説明したのが図9、図10である。いま仮に、TimeIndexがnの時の入出力データ14aとしてD(Xm1 (n)、Xm2 (n)、Y (n))を得た時、この入出力データ14aに対する多点サンプル表現尤度として図9のような点群を得たとする。
また、次のTimeIndexであるn+1の時の入出力データ14aとしてDn+1(Xm1 (n+1)、Xm2 (n+1)、Y (n+1))を得たとし、先ほどのTimeIndexがnの時の入出力データ14aと、Xm1 (n+1)=Xm1 (n)+ΔX1、Xm2 (n+1)=Xm2 (n)+ΔX2、Y (n+1)=Y (n)+ΔYなる関係があったとする。つまり、TimeIndexがnの時の入出力データ14aに対してΔX1、ΔX2、ΔY、だけの変化があったとする。ここで図13に示した入出力データ14aのデシベル値(X、X、Y)と伝達率尤度のデシベル値(A、A)、それにモデル式13bを考える。
(6)式はこの場合のモデル式13bの例を示している。(3)式のモデル式にさらにデシベル値(A、A)のモデル式が加味されている。(6)式の関係から、さらに(7)式を導くことができる。
Figure 2020034379
Figure 2020034379
(8)式は、(7)式において、連続するTimeIndexであるnとn+1における各値X、X、Y、A、Aの関係を示している。また図10は(8)式の関係を模式的に示した図である。
Figure 2020034379
これによれば、TimeIndexがnの時の入出力データ14aに対する多点サンプル表現尤度(A (n)、A (n))に対して、TimeIndexがn+1の時の入出力データ14aに対する多点サンプル表現尤度(A (n+1)、A (n+1))は、A (n)を−ΔX1+ΔY、A (n)を−ΔX2+ΔYだけ移動させたものとなり、つまり(A (n+1)、A (n+1))=(A (n)−ΔX1+ΔY、A (n)−ΔX2+ΔY)となる。この特性を利用すれば、データを得られる毎に、尤度をMCMC法を用いて反復計算をする必要はなく、計算が効率化できる。
11:振動騒音センサー
11a:センサー信号データ
12:周波数変換装置
12a:周波数変換信号データ
13:データ格納装置
DB:データベース
13b:モデル式
14:データ演算装置
14a:入出力データ
161、162、163:尤度
151、152、153、154:確率分布
15:伝達経路推定結果表示装置
15a:振動騒音伝達経路推定結果
90:振動騒音伝達経路推定装置

Claims (5)

  1. 複数の振動騒音センサーからの信号を格納する格納装置と、前記格納装置に格納されたデータを用いて振動騒音を演算する演算装置と、前記演算装置の演算結果を元に、振動騒音の伝達経路推定結果を表示する表示装置からなる振動騒音伝達経路推定装置であって、
    前記格納装置は、複数の前記振動騒音センサーからの信号をデシベル値として測定時刻ごとに記憶し、
    前記演算装置は、同一測定時刻における複数の前記振動騒音センサーからの信号を入出力データとし、入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現するモデル式に適用し、同一測定時刻の入出力データに対応する伝達率のデシベル値に対する尤度を計算し、計算した尤度を事前に想定している伝達率の事前確率分布に乗算することで伝達率の推定値の事後確率分布を得、前記同一測定時刻を逐次変更して前記事後確率分布を繰り返し求めることで前記振動騒音の伝達経路を推定することを特徴とする振動騒音伝達経路推定装置。
  2. 請求項1に記載の振動騒音伝達経路推定装置であって、
    前記入出力データをもとにした尤度の算出の際に、反復演算を基にした多点サンプルによる表現を用いることを特徴と振動騒音伝達経路推定装置。
  3. 請求項2に記載の振動騒音伝達経路推定装置であって、
    入出力データをもとにした尤度算出の際に、一度、基準入出力データに対して反復演算を基にして得られた多点サンプル表現基準尤度多点サンプルを算出した後、これをデータとしてメモリ上にストアしておき、逐次別の入出力データが得られた際に、多点サンプル表現基準尤度格納用メモリ上にストアされた多点サンプル表現基準尤度を所定の演算方法にて加減算することで他の入出力データに対する多点サンプル表現尤度の計算を効率化させ計算速度を向上させたことを特徴とする振動騒音伝達経路推定装置。
  4. 請求項1に記載の振動騒音伝達経路推定装置であって、
    入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現する前記モデル式において、出力データは入力データと伝達率の積和として定義され、仮設定された伝達率と計測した入力データの積和として求めた仮の出力データと計測した出力データの近似の度合いにより前記尤度を定めることを特徴とする振動騒音伝達経路推定装置。
  5. 複数の振動騒音センサーからの信号をデシベル値として測定時刻ごとに記憶し、
    同一測定時刻における複数の前記振動騒音センサーからの信号を入出力データとし、入出力データと伝達率を用いて振動騒音現象を表現するモデル式に適用し、同一測定時刻の入出力データに対応する伝達率のデシベル値に対する尤度を計算し、計算した尤度を事前に想定している伝達率の事前確率分布に乗算することで伝達率の推定値の事後確率分布を得ることを特徴とする伝達率推定方法。
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