JP4026404B2 - レーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置 - Google Patents
レーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置に係り、特に、レーザー溶接部のポロシティー、アンダーフィル、未溶着などの溶接品質をモニタリングすることができる、レーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のボディーに使用されるような、非常に薄い鋼板の溶接を、レーザー溶接によって行う場合がある。レーザー溶接が用いられるのは、レーザー溶接は、スポット溶接と比較すると、鋼板を表裏両面から挟む必要がなく、片面からの溶接が可能であることや、細く複雑な形状の溝であってもその内部を容易に溶接できることなど、多くの利点を備えているからである。しかし、その一方では、鋼板の合わせ精度不良による溶接品質の低下や、溶接部の汚染に起因する突発的な溶接品質の低下を起こしやすいという欠点がある。
【0003】
したがって、従来、たとえば特開平2000−271768号公報に開示されているようなモニタリング方法を用いて、レーザー溶接部の品質の状態をリアルタイムに予測できるようにしている。上記公報に開示されている技術では、検出角度の異なる2つのセンサによって、レーザー溶接部のキーホールで発生するプルームからの光と照射したYAGレーザーの反射光とを検出し、それぞれのセンサで検出された光の強度により溶接条件(出力、焦点位置、ワーク間隙)の変化を検出して、レーザー溶接部の溶接状態をリアルタイムに予測している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の溶接品質のモニタリング方法では、レーザー溶接部に溝ができてしまうという溶接状態(アンダーフィル)、規定の溶接条件から逸脱してしまうという溶接条件不適合の発生についてはある程度の精度で検出できるものの、亜鉛メッキ鋼板などのレーザー溶接時に発生する、溶接部のポロシティー(多孔質化)の発生は検出し難いという問題がある。
【0005】
ポロシティーの発生が検出し難いのは、従来の溶接品質のモニタリング方法が、レーザー光が照射されて溶融している部分(キーホール)から発せられる光に基づいて、溶接品質の状態を判断しているためである。なぜならば、ポロシティーは、キーホール内に亜鉛蒸気が混入することで発生するが、亜鉛蒸気が混入しても、キーホールから発せられる光はほとんど変化しないからである。
【0006】
また、従来の溶接品質のモニタリング方法では、重ね溶接を行う場合、上下の板間隙間が大きすぎると、上下の板の溶着が不完全な未溶着状態が発生するが、この未溶着状態の発生も検出し難いという問題がある。
【0007】
従来の溶接品質のモニタリング方法でも、ポロシティーおよび未溶着を除くアンダーフィルなどの溶接状態、溶接条件不適合の発生は検出できるが、その検出方法は溶接状態の種類ごとに異なっているため、その検出をするために非常に複雑な計算処理が必要になる。したがって、その計算処理に対するCPUの処理負担が大きくなるという問題もある。また、アンダーフィルなどの溶接状態、溶接条件不適合の発生の検出が十分な精度で行えないという問題もある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて成されたものであり、レーザー溶接部の良品、ポロシティー、アンダーフィル、未溶着などの溶接品質をCPUの処理負担を大きくせずに高精度で判断することができる、レーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に記載の発明にかかるレーザー溶接部の品質モニタリング方法は、YAGレーザーからワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射する段階と、照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する段階と、検出された反射光を電気信号に変換する段階と、変換された電気信号の経時変化を記憶する段階と、電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する段階と、算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する段階と、算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求める段階と、前記YAGレーザーによって溶接された前記ワークの溶接部の品質の検査結果に基づいて、求められた前記交点の品質の種類を特定する段階と、上記までの段階を繰り返すことによって品質の種類別の領域を前記二次元座標系内に作成する段階と、YAGレーザーからワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射する段階と、照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する段階と、検出された反射光を電気信号に変換する段階と、変換された電気信号の経時変化を記憶する段階と、電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する段階と、算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する段階と、算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求める段階と、求めた当該交点が前記二次元座標系内に作成されたどの品質の種類別の領域に存在するかによって溶接品質を判断する段階と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明にかかるレーザー溶接部のモニタリング装置は、ワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射するYAGレーザーと、照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する反射光検出手段と、検出された反射光を電気信号に変換する電気信号変換手段と、変換された電気信号の経時変化を記憶する記憶手段と、電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する周波数分布算出手段と、算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する信号強度総和算出手段と、算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットし、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、前記YAGレーザーによって溶接された前記ワークの溶接部の品質の検査結果に基づいて、求められた前記交点の品質の種類を記憶する記憶装置と、算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットし、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、その交点が前記記憶装置に記憶されているどの品質の種類別の領域に存在するかによって溶接品質を判断する溶接品質判断手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
【発明の効果】
本発明にかかるレーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置によれば、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とに基づいて二次元座標系にプロットされる点と検査結果に基づく溶接の品質との関連性を明確にし、その関連性に基づいて溶接の品質の種類が判断できるので、良品、未溶着、アンダーフィル、ポロシティーといった溶接の品質の種類をCPUの処理負担を大きくせずに高精度で判断することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかるレーザー溶接部の品質モニタリング方法およびその装置の好適な実施の形態を、被溶接部材が亜鉛メッキ鋼板である場合を例にとって詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明にかかる品質モニタリング装置(請求項5〜8に相当)を備えたYAGレーザー溶接装置の具体的な構成図である。
【0015】
YAGレーザー溶接装置100の上部には、光ファイバーケーブル2が取り付けられ、光ファイバーケーブル2によって、図示されていないYAGレーザー発振器(YAGレーザー)からのレーザー光線がYAGレーザー溶接装置100に導かれる。YAGレーザー溶接装置100の中央部から下部にかけて、導かれたレーザー光線を集光するための集光光学系が配置されている。その集光光学系は、コリメーターレンズ3と集光レンズ4とを有し、導かれたレーザー光線は、コリメーターレンズ3によって平行光線にされた後、集光レンズ4によってワーク(車体パネル)5の表面に集光される。集光された部分(溶接部)は、レーザー光線のエネルギーによって溶融され、ワーク同士が溶接される。
【0016】
また、YAGレーザー溶接装置100の下部側面には、ワーク5の表面から仰角60度(θ1)の位置に反射光検出手段として機能するセンサ6aと、仰角10度(θ2)の位置にセンサ6bとが配置されている。センサ6aは、主に溶接部に照射されたのちワーク5に吸収されることなく反射したレーザー光線の反射光を検出するためのセンサである。センサ6bは、溶接に際して溶接部から発生するプラズマ光(可視光)を検出するためのセンサである。両センサ6a、6bによって検出された光(反射光とプラズマ光)に基づいて溶接部の溶接品質がリアルタイムに判断される。
【0017】
図2は、本発明にかかる品質モニタリング装置を備えたYAGレーザー溶接装置の概念図である。図に示すYAGレーザー溶接装置は、YAGレーザー発振器1を備え、このYAGレーザー発振器1で発生したレーザー光線は光ファイバーケーブル2によって集光光学系に導かれ、コリメーターレンズ3によって平行光とされたのち、集光レンズ4によりワーク5の表面に集光され、その集光されたレーザー光線のパワーによってワーク5を溶接する。
【0018】
一方、ワーク5の表面からの仰角θ1が60°となる第1の位置にはセンサ6aが配設され、このセンサ6aによって、溶接部Fに照射されたのちワーク5に吸収されることなく反射したYAGレーザーの反射光がその強度に応じた電気信号に変換される。したがって、センサ6aは、電気信号変換手段として機能する。また、ワーク5の表面からの仰角θ2が10°となる第2の位置にはセンサ6bが配設され、このセンサ6bによって、溶接に際して溶接部Fで発生するプルーム(高温の金属蒸気)からのプラズマ光(可視光)がその強度に応じた電気信号に変換される。両センサ6a、6bによって変換された電気信号は、増幅器(プリアンプ)、バンドパスフィルター、A/D変換器、パソコンなどから構成される計測装置7に入力される。
【0019】
前記センサ6a、6bは、図3に示すように、2つのフォトダイオード8、9と、ダイクロイックミラー10、および1064nm±10nmの波長のみを透過する干渉フィルタ11から構成されている。
【0020】
当該センサ6aおよび6bにおいては、まず、図中の左側から入射した溶接部からの光がダイクロイックミラー10によって波長に応じて選択される。すなわち波長500nm以下の可視光はダイクロイックミラー10で反射されてフォトダイオード8に導かれ、プラズマ光として電気信号に変換されて、その強度が検出される。一方、溶接部からの入射光のうちの赤外光は、ダイクロイックミラー10を透過したのち、1.06μmの波長を有するYAGレーザー光のみが干渉フィルタ11を透過してフォトダイオード9に導かれ、YAG反射光として電気信号に変換され、前記計測装置7にそれぞれ入力される。本発明のモニタリング方法およびモニタリング装置は、レーザー光線の反射光を用いてポロシティーの発生を検出するので、センサ6aに設けられているフォトダイオード9からの電気信号を用いることになる。
【0021】
図4は、図2に示した計測装置7の具体的な構成を示す図である。この計測装置7は、各センサ6a、6bに設けられているフォトダイオード8、9のそれぞれに対して設けられている。したがって、本発明のモニタリング装置には4台の計測装置7が設けられている。各計測装置7の構成は同一である。なお、計測装置としては、集光したデータを処理する回路をそれぞれのフォトダイオードに対応させて4つ設け、A/D変換器を備えたA/D変換ボードとデータを処理するパソコンとを1台とした構成とすることも可能である。
【0022】
計測装置7は、フォトダイオード9からの電気信号を一定のレベルまで増幅する増幅器(プリアンプ)7A、増幅器7Aから出力されたアナログの電気信号をディジタルの電気信号に変換するA/D変換器7B,7D、特定の周波数帯域の電気信号のみを通過させるバンドパスフィルター7C、バンドパスフィルター7Cを通過した電気信号の経時変化を記憶する記憶手段としての機能、入力された電気信号の周波数分布を算出する周波数分布算出手段としての機能、特定の周波数帯における信号強度の総和を算出する信号強度総和算出手段としての機能、および、溶接の品質の種類を判断する溶接品質判断手段としての機能を備えたパソコン7E、溶接品質の判断結果を表示するためのディスプレイ7Fから構成される。
【0023】
図5から図8は、溶接品質の検出原理の説明に供する図である。溶接部からの光を分析することによってなぜ溶接品質が検出できるのかを、これらの図に基づいて説明する。図5、図6は、溶接の被対象物である亜鉛めっき鋼板を重ね溶接した場合のポロシティーの発生状況を示している。図5に示すように、YAGレーザー溶接装置100により、亜鉛めっき鋼板の突合せ部20に高パワー密度のYAGレーザー光線が照射されると、照射された部分(溶接部)がレーザー光線のエネルギーを受けて溶融し始め、金属が溶融しているキーホール25が形成される。このとき、鋼板の表面にメッキされている亜鉛メッキ層21は、母材である鋼22の溶融温度では金属蒸気となってしまい、金属蒸気の圧力によってキーホール25内に気泡状のポロシティー(ブローホール)23が発生する。
【0024】
図6に示すように、レーザー光線は、キーホール25の前面の壁26で吸収されている。亜鉛メッキ鋼板の重ね溶接では、2枚の鋼板の界面に存在する亜鉛メッキ層21が溶けたときに、亜鉛金属蒸気27がキーホール25内に噴出する。これがポロシティー23になる。YAGレーザー光線による溶接では、レーザー光線の波長が1.06μm程度と短いため、亜鉛金属蒸気27がキーホール25の開口部より噴出したプルーム28に対しては、レーザー光線はほぼ透明である。したがって、プルーム28を観察してもポロシティー23の有無のような高速な現象をつかまえることはできない。
【0025】
ところが、YAGレーザー光線の反射光は、キーホール25前面の壁26の状態によって変化すると考えられる。亜鉛金属蒸気27の噴出によってキーホール25前面の壁26の状態が変動すると、レーザー光線の反射光も変動することになる。この現象は、鋼板界面付近のキーホール25内部で起こるので、観察角度が低い位置にあるセンサ6bではとらえることができず、観察角度が高い位置にあるセンサ6aによってのみとらえることができる。
【0026】
したがって、センサ6aを設置する角度は、キーホール25前面の壁26の変動状態が反射光によってとらえることができる角度の範囲内で設定する必要がある。実際には、溶接部に照射されるレーザー光線に干渉せずに、キーホール25前面の壁26の変動状態が反射光によってとらえることができる範囲の、仰角45度から70度の範囲の角度である。なお、この角度の範囲内でのさらに最適な角度は、板厚、板間の隙間、レーザー光線のパワーや焦点位置などの溶接条件に応じて決まる。本実施の形態では、図1に示したように仰角60度としている。
【0027】
また図7に示すように、亜鉛メッキ鋼板同士が突合せ部20においてきちんと接触してなく、多少の隙間30が生じてしまっている場合には、キーホール25で溶融した金属がその隙間30に流れ込むために、アンダーフィル31という溶接状態が発生する。このアンダーフィル31の発生は、観察角度の低い位置にあるセンサ6bによってもとらえることができる。
【0028】
さらに図8に示すように、2枚の鋼板を重ねて溶接するときに、上下の鋼板の突合せ部20においてその板間の隙間40が大き過ぎる場合には、下側の鋼板まで十分に熱が回らないため、溶接部が十分に溶融されず、未溶着という不完全な溶接状態が発生する。この未溶着の発生は、アンダーフィル31と同様、観察角度の低い位置にあるセンサ6bによってもとらえることができる。
【0029】
つぎに、図9および図10に基づいて、二次元座標系内に良品、未溶着、アンダーフィル、ポロシティーといった、溶接の品質の種類を判断させるための領域(溶接品質状態図)がどのように作成されるのか、その概略の手順を説明する。
【0030】
図6に示したセンサ6aとセンサ6bは、突合せ部20からの反射光を入射し、電気信号に変換する。変換された電気信号は時系列に、パソコン7E(図4参照)の図示しない記憶装置に格納される。この記憶装置に記憶されている電気信号を格納順に取り出してグラフ化すると、図9の上の図に示すような波形図が得られる。
【0031】
次に、記憶装置に記憶されている電気信号にFFT(高速フーリエ変換)信号強度演算を施して、電気信号の周波数分布を算出する。FFT信号強度演算処理後の電気信号の周波数分布をグラフ化すると、図9の下の図に示すような波形図が得られる。
【0032】
そして、この波形図の波形をたとえば移動平均法などの手法を用いて波形整形し、最終的に図10の上の図に示すような滑らかな周波数分布曲線を作成する。さらに、図に示すように、この波形図の横軸に周波数帯(α)と周波数帯(β)を設定し、それぞれの周波数帯と周波数分布曲線とで囲まれるそれぞれの領域の積分値f(α)とf(β)とを算出する。このf(α)は、周波数帯(α)における信号強度の総和に、また、f(β)は、周波数帯(β)における信号強度の総和に相当する。
【0033】
そして、積分値f(α)とf(β)とを二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、その交点を二次元座標系内にプロットしておく。
【0034】
一方、その部分の溶接の品質は、実際に目視検査などによって特定し、その検査結果は後で前述の交点と関連付けができるようにして、パソコン7Eの図示しない記憶装置に格納しておく。したがって、この記憶装置に記憶されている検査結果を交点ごとに参照すると、プロットした交点の溶接の品質を特定することができる。
【0035】
以上の処理を相当数の溶接部分について繰り返すと、二次元座標系内に品質の種類別の領域(良品領域、未溶着領域、ポロシティーOK領域、ポロシティーNG領域、アンダーフィルNG領域)が、たとえば、図10の下の図に示すように区分けして作成されることになる。つまり、リアルタイムに溶接の品質を判断するための基データとなる溶接品質状態図が作成されることになる。
【0036】
この溶接品質状態図によれば、実際の検査結果とほぼ同一の判断が可能となることから、非常に信頼性の高い溶接状態の判断が可能となる。
【0037】
以上の処理によって、周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とに基づいて二次元座標系にプロットされた交点と検査結果に基づく溶接の品質との関連性が的確なものになる。
【0038】
本発明では、以上のようにして、パソコン7Eによって、溶接品質を判断させるための信頼性の高い溶接品質状態図を作成し、この溶接品質状態図に基づいて高精度の溶接品質の判断ができるようにしている。
【0039】
図11のフローチャートに基づいて、溶接品質状態図の作成手順をさらに詳細に説明する。
【0040】
図6に示したように、YAGレーザー光線が亜鉛メッキ鋼板の突合せ部20に照射されると、照射された部分がレーザー光線のエネルギーを受けて溶融する。溶融した金属は非常に高温であるから、キーホール25およびプルーム28からは、可視光、赤外光、YAGレーザー光線の反射光などが放射状に放出される。センサ6aとセンサ6bは、これらの光を入射し、電気信号に変換する。変換された電気信号は、溶接個所ごとにパソコン7E(図4参照)の図示しない記憶装置に格納される(S11)。
【0041】
図12および図13は、ある溶接条件の下で溶接が行われたときの、YAGレーザー光線の反射光から得られた電気信号の(フォトダイオード9で変換された)波形図である。これらの電気信号の波形図は、サンプリング周波数20KHzで作成されたものである。これらの波形図において、縦軸は信号強度(電圧値)を表し、横軸は時間を表している。これらの波形図は、観察角度が高い位置にあるセンサ6aによってとらえられた、ある溶接個所における反射光の時間的変動状況(経時変化)を示している。図12には、正常な溶接が行われた「良品」、および、不完全な溶接になってしまった「未溶着品」の波形が示され、図13には、アンダーフィルが生じた「アンダーフィル品」、および、ポロシティーの発生が過大である「ポロシティー品」の波形が示されている。これらの波形図を対比してみると、アンダーフィル品の波形形状だけが他の波形形状とは明らかに異なるのでアンダーフィル品であることの判断は容易である。しかし、未溶着品およびポロシティー品の波形形状は、良品の波形形状と比較しても明らかな相違が見られない。このため、この波形図からこれらの溶接状態を見極めるのは困難である。
【0042】
このように、反射光の時間的な強度変化状態を調べただけでは、良品と未溶着品および良品とポロシティー品との差別化は困難である。このため、記憶装置に格納した波形のうち、観察角度が高い位置にあるセンサ6aによってとらえられた1つの溶接個所の反射光の時間的変動状況を示す波形を取り出して、この波形にFFT(高速フーリエ変換)信号強度演算を施す(S12)。
【0043】
図14は、図12および図13に示した波形のそれぞれにFFT信号強度演算を施し、その結果得られた波形図である。この波形図において、縦軸は信号強度を表し、横軸は周波数を表している。信号強度とは、それぞれの周波数の信号成分がどの程度含まれているかを示す量(面積)であり、この信号強度は単位を持たない。
【0044】
次に、図14に示した波形を滑らかにするための波形整形処理を施す(S13)。波形整形処理は、たとえば、ある点を中心とする一定の範囲の信号強度の平均値をその点の信号強度とする移動平均法を用いて滑らかな周波数分布曲線を求めたり、単に信号強度が平均化されるように曲線を引くことによって周波数分布曲線を求めたりする処理である。波形整形処理後の結果得られた周波数分布曲線は、図15および図16に示されるようなものとなる。
【0045】
これらの図を見れば明らかなように、波形整形処理を施すと、「良品」、「未溶着品」、「アンダーフィル品」、「ポロシティー品」のそれぞれについて信号強度の分布に相違が生じているのがわかる。すなわち、溶接状態が良品のFFT波形は、周波数の低い領域では信号強度が高く、周波数が高くなるにつれて信号強度は次第に減少する傾向を示す。溶接状態が未溶着品のFFT波形は、溶接状態が良品のFFT波形と同様に、周波数の低い領域では信号強度が高いものの、その信号強度は周波数が高くなってもあまり減少しないという傾向を示す。また、溶接状態がアンダーフィル品のFFT波形は、溶接状態が良品のFFT波形とは異なって、周波数の低い領域でも信号強度はあまり高くなく、その信号強度は周波数が高くなってもあまり減少しないという傾向を示す。溶接状態がポロシティー品のFFT波形は、周波数の低い領域で信号強度に突起状の大きな変動が生じる。このように、溶接状態に応じて、周波数の高い領域と低い領域とで信号強度の大きさは特徴的なものとなる。
【0046】
次に、溶接状態の特徴をさらに明確に差別化するために、図15および図16のグラフの横軸に異なる2つの周波数帯(α)と周波数帯(β)を設定し、それぞれの周波数帯と周波数分布曲線とで囲まれるそれぞれの領域の積分値f(α)とf(β)とを算出する(S14)。このf(α)は、周波数帯(α)における信号強度の総和になり、また、f(β)は、周波数帯(β)における信号強度の総和になる。
【0047】
そして、各溶接状態について求めた各周波数帯の信号強度の積分値f(α)とf(β)を、図17および図18に示すように、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、その点をプロットする(S15)。この二次元座標系は、横軸が周波数帯(α)の積分値を、縦軸が周波数帯(β)の積分値を示す。品質検査で良品と判断されたものの積分値f(α)とf(β)をプロットすると、図17に示すように、良品と判断されたものがプロットされる領域が特定される。多くのサンプルをプロットすることによって、この領域およびこの領域の境界線が明確になってくる。品質検査で未溶着品と判断されたものの積分値f(α)とf(β)をプロットすると、図17に示すように、未溶着品と判断されたものがプロットされる領域が特定される。また、溶接状態がアンダーフィル品、ポロシティー品と判断されたものも図18に示すようにプロットされる領域が特定される。なお、ポロシティー品の場合、積分値f(α)の値が一定値を越えるとポロシティーの影響による欠陥が現れるため、ポロシティー領域は、ある積分値f(α)の値の大きさを境にポロシティーNG領域とポロシティーOK領域に分かれる。
【0048】
以上のように、できる限り多くのサンプルについて以上のような処理を行うと、図10の下の図に示したような溶接品質状態図が作成される(S16)。
【0049】
なお、作成された溶接品質状態図を見ればわかるが、良品領域とアンダーフィル領域との境界線は、Y=aX+bの一次関数式で求められる直線部分が含まれている。以上のようにして、パソコン7E(図4参照)によって作成された溶接品質状態図は、パソコン7Eの図示しない記憶装置に格納される。
【0050】
次に、この溶接品質状態図を用いた信頼性の高い溶接の品質の種類の特定は、次のような手順で行われる。この手順を図19のフローチャートに基づいて説明する。
【0051】
図6に示したように、YAGレーザー光線が亜鉛メッキ鋼板の突合せ部20に照射されると、照射された部分がレーザー光線のエネルギーを受けて溶融する。キーホール25およびプルーム28からは、可視光、赤外光、YAGレーザー光線の反射光などが放射状に放出される。センサ6aとセンサ6bは、これらの光を入射し、電気信号に変換する。変換された電気信号は、溶接個所ごとにパソコン7E(図4参照)の図示しない記憶装置に格納する(S21)。
【0052】
次に、記憶装置に格納した波形のうち、観察角度が高い位置にあるセンサ6aによってとらえられた溶接個所の反射光の時間的変動状況を示す波形を取り出して(図12および図13参照)、この波形にFFT(高速フーリエ変換)信号強度演算を施す(S22)。
【0053】
そして、FFT信号強度演算処理後の波形(図14参照)を滑らかにするための波形整形処理を行って滑らかな周波数分布曲線(図15および図16参照)を求める(S23)。
【0054】
異なる2つの周波数帯(α)と周波数帯(β)を設定し(図15および図16参照)、それぞれの周波数帯と周波数分布曲線とで囲まれるそれぞれの領域の積分値f(α)とf(β)とを算出する(S24)。
【0055】
信号強度の積分値f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求める(S25)。その交点が記憶装置に記憶されている溶接品質状態図(図10の下の図参照)のどの領域に当たるかを判断し、溶接の品質の種類を判断する(S26)。
【0056】
このように、溶接品質は、2つの周波数帯の信号強度の総和を求め、その総和から求められる交点を溶接品質状態図にプロットするだけで極めて正確に判断することができるので、溶接品質を判断するためのCPUの処理負担は大きくならない。また、測定精度の向上によって、無駄な手直し作業が少なくなり、作業効率も改善される。
【0057】
また、溶接中の反射光を、集光レンズを介して取り込むときには、集光レンズの汚れや傾きの影響で、取り込まれる光の強度が変化するが、各周波数帯の信号強度の総和の比(f(β)/f(α))は変わらないので、これらの影響が判断の精度に悪影響を与えることはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる品質モニタリング装置を備えたYAGレーザー溶接装置の具体的な構成図である。
【図2】本発明にかかる品質モニタリング装置を備えたYAGレーザー溶接装置の概念図である。
【図3】センサ内部の具体的な構成を示す図である。
【図4】図2に示した計測装置の具体的な構成を示す図である。
【図5】溶接品質の検出原理の説明に供する図である。
【図6】溶接品質の検出原理の説明に供する図である。
【図7】溶接品質の検出原理の説明に供する図である。
【図8】溶接品質の検出原理の説明に供する図である。
【図9】本発明にかかるモニタリング方法の手順の説明に供する図である。
【図10】本発明にかかるモニタリング方法の手順の説明に供する図である。
【図11】本発明にかかるモニタリング方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】基本溶接条件の下で溶接が行われたときの、YAGレーザー光線の反射光から得られた電気信号の波形図である。
【図13】基本溶接条件の下で溶接が行われたときの、YAGレーザー光線の反射光から得られた電気信号の波形図である。
【図14】図12と図13に示した電気信号に対してFFT信号強度演算を施し、その結果得られた波形図である。
【図15】FFT信号強度演算の結果、最終的に得られるFFT波形である。
【図16】FFT信号強度演算の結果、最終的に得られるFFT波形である。
【図17】FFT波形に基づいて作成される溶接品質状態図である。
【図18】FFT波形に基づいて作成される溶接品質状態図である。
【図19】本発明にかかるモニタリング方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…YAGレーザー発振器、
2…光ファイバーケーブル、
3…コリメーターレンズ、
4…集光レンズ、
5…ワーク、
6a、6b…センサ、
7…計測装置、
7A…増幅器、
7B、7D…A/D変換器、
7C…バンドパスフィルター、
7E…パソコン、
7F…ディスプレイ、
8、9…フォトダイオード、
10…ダイクロイックミラー、
11…干渉フィルタ、
20…突合せ部、
21…亜鉛メッキ層、
22…鋼、
23…ポロシティー、
25…キーホール、
26…壁、
27…亜鉛金属蒸気、
28…プルーム、
30、40…隙間、
31…アンダーフィル、
100…YAGレーザー溶接装置。
Claims (7)
- YAGレーザーからワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射する段階と、
照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する段階と、
検出された反射光を電気信号に変換する段階と、
変換された電気信号の経時変化を記憶する段階と、
電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する段階と、
算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する段階と、
算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求める段階と、
前記YAGレーザーによって溶接された前記ワークの溶接部の品質の検査結果に基づいて、求められた前記交点の品質の種類を特定する段階と、
上記までの段階を繰り返すことによって品質の種類別の領域を前記二次元座標系内に作成する段階と、
YAGレーザーからワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射する段階と、
照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する段階と、
検出された反射光を電気信号に変換する段階と、
変換された電気信号の経時変化を記憶する段階と、
電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する段階と、
算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する段階と、
算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求める段階と、
求めた当該交点が前記二次元座標系内に作成されたどの品質の種類別の領域に存在するかによって溶接品質を判断する段階と、
を含むことを特徴とするレーザー溶接部の品質モニタリング方法。 - 前記品質の種類別の領域は、良品領域、未溶着領域、アンダーフィル領域、ポロシティー領域であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接部の品質モニタリング方法。
- 前記良品領域と前記アンダーフィル領域との境界線は、Y=aX+bの一次関数式で表される直線部分を含むことを特徴とする請求項2に記載のレーザー溶接部の品質モニタリング方法。
- ワークの溶接部に向けてレーザー光線を照射するYAGレーザーと、
照射したレーザー光線の当該溶接部からの反射光を検出する反射光検出手段と、
検出された反射光を電気信号に変換する電気信号変換手段と、
変換された電気信号の経時変化を記憶する記憶手段と、
電気信号の経時変化に基づいて当該電気信号の周波数分布を算出する周波数分布算出手段と、
算出された周波数分布に基づいて、第1の周波数帯(α)における信号強度の総和f(α)と当該第1の周波数帯よりも周波数の高い第2の周波数帯(β)における信号強度の総和f(β)とを算出する信号強度総和算出手段と、
算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットして、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、前記YAGレーザーによって溶接された前記ワークの溶接部の品質の検査結果に基づいて、求められた前記交点の品質の種類を記憶する記憶装置と、
算出されたそれぞれの信号強度の総和f(α)とf(β)を、二次元座標系を構成するX軸とY軸にそれぞれプロットし、直線X=f(α)とY=f(β)の交点を求め、その交点が前記記憶装置に記憶されているどの品質の種類別の領域に存在するかによって溶接品質を判断する溶接品質判断手段と、
を有することを特徴とするレーザー溶接部の品質モニタリング装置。 - 前記反射光検出手段は、前記YAGレーザー光線の反射光のみを検出するために、前記YAGレーザー光線の波長の光だけを透過させる干渉フィルタを有することを特徴とする請求項4に記載のレーザー溶接部の品質モニタリング装置。
- 前記品質の種類別の領域は、良品領域、未溶着領域、アンダーフィル領域、ポロシティー領域であることを特徴とする請求項4に記載のレーザー溶接部の品質モニタリング装置。
- 前記良品領域と前記アンダーフィル領域との境界線は、Y=aX+bの一次関数式で表される直線部分を含むことを特徴とする請求項6に記載のレーザー溶接部の品質モニタリング装置。
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