JP4024451B2 - 走査型ケルビンプローブ顕微鏡 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡の分野に属し、特にカンチレバー探針と試料間に働く力を利用して物理量を測定する走査型原子間力顕微鏡の分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
走査型プローブ顕微鏡の原理は、プローブと試料を接近させた時の両者に作用する物理量を利用することにあり、この種の顕微鏡は、前記物理量がプローブに及ぼす影響を測定することにより、試料表面物理量観察を行う新しいタイプの顕微鏡の一種である。
走査型原子間力顕微鏡は、走査型プローブ顕微鏡の一種であり、カンチレバー探針と試料間に作用する原子間力を利用して、カンチレバー探針と試料間の距離を制御するものである。
走査型原子間力顕微鏡では、前記カンチレバー探針と試料間の距離を一定に制御しながら、試料の面内方向に、圧電素子などの3次元微動機構にて面内走査し、カンチレバー探針と試料間の距離を制御する前記圧電素子などの微動機構の制御量を画像化することにより、試料表面の形状あるいは物理量などを観察することができる。
【0003】
走査型原子間力顕微鏡の基本原理を利用した物理量測定装置として走査型ケルビンプローブ顕微鏡がある。この装置は、試料表面の凹凸情報と試料表面の電位分布を測定することを目的としたものである。
【0004】
走査型ケルビンプローブ顕微鏡の測定原理図を図2に示す。
測定対象となる試料1と導電性カンチレバー探針2間に交流電圧を印する。この交流印電圧により、導電性カンチレバー探針と試料間には静電力が作用する。
前記導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧の周波数をωとすると、試料は導電性カンチレバー探針に対して相対的に固定されている場合、導電性カンチレバー探針は、周波数ωの交流電圧により下記(1)式に記述する力Fの静電力を受けることになる。
Figure 0004024451
ここでKは、導電性カンチレバー探針と試料間の距離に依存する定数である。Vdcは試料の表面の電位、Vacは導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧、ωは前記交流電圧Vacの角周波数、tは時間である。
従って、導電性カンチレバー探針に作用する静電力は、前記試料の有する表面電位による直流成分項(第1項のVdc2)と導電性カンチレバー探針と試料間に印した角周波数ωの交流電圧の周波数成分ω項(第2項の2・Vdc・Vac・Sinωt)とその2倍の周波数成分2ω項(第3項の(Vac2/2)・(1-Cos2ωt))の力を 受けることになる。
【0005】
走査型ケルビンプローブ顕微鏡では、試料の表面電位を測定するために、前記(1)式の周波数成分ω項の信号をロックインアンプ等で検出し、この検出された信号の大きさが0となるように、試料と電気的に接続された試料台の電位をフィードバック制御する。つまり、試料台に印されるフィードバック電圧の逆極性の電圧が、導電性カンチレバー探針直下の試料表面の電位ということになる。従って、前記フィードバック操作を行いながら、導電性カンチレバー探針と試料間の面内の相対的位置関係を走査しながら測定すれば、試料表面電位の2次元分布を得ることができる。
前記ω項が0となるようなフィードバック制御が行われている場合、前記導電性カンチレバー探針が試料から受ける静電力(1)式で試料台の電位と試料の電位の合計である Vdc = 0 が実現されており、従ってこの場合、導電性カンチレバー探針が受ける静電力は下記(2)式となる。
F =K・(Vac2/2)・(1-Cos2ωt) (2)
(2)式の力と導電性カンチレバー探針のバネ定数の釣り合いで、導電性カンチレバー探針と試料間の距離の制御が行われることになる。
【0006】
図2の走査型ケルビンプローブ顕微鏡の原理図では、試料表面の電位を検出するためのフィードバックループと試料表面の凹凸情報を検出するためのフィードバックループとの2つのフィードバックループで構成される。またカンチレバーの変位を検出するために、半導体レーザ8からのレーザ光を導電性カンチレバーに照射し、前記カンチレバーから反射されたレーザ光をフォトディテクタ9で検出する構成となっている。
【0007】
試料表面の電位を検出するためのフィードバックループでは、検出されたフォトディテクタ9からの信号は、導電性カンチレバーの励振信号を参照信号としたロックインアンプ11介して周波数成分ω項の信号として出力される。この信号は、0電位と電位情報比較器12で比較され、電位情報PID制御器13の操作を施した後、試料台7に出力される。試料台に出力される信号は、反転アンプ14を介して試料表面の電位極性と同極性に変換しA/D変換器15に入力され、コンピュータ17に電位情報のデジタルデータとして取り込まれる。
【0008】
また、試料表面の凹凸情報を検出するためのフィードバックループでは、検出されたフォトディテクタ9からの信号は、RMS−DC変換器18を介して直流に変換され、導電性カンチレバー探針と試料間の距離を設定する距離基準値発生器21と距離情報比較器19で比較され距離情報PID制御器20を経由して3次元微動機構素子10の導電性カンチレバー探針と試料間の距離を制御する素子を駆動する。また、距離情報PID制御器20の出力は、A/D変換器16にに入力され、コンピュータ17に試料表面の凹凸情報のデジタルデータとして取り込まれる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
図2の構成での走査型ケルビンプローブ顕微鏡では、試料の電位情報を検出するために導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωの交流電圧と、試料表面の凹凸情報を検出するために導電性カンチレバーを振動させるために圧電素子3を駆動する交流信号ω0の2種類の周波数成分と前記(1)式あるいは (2)式での2ωの周波数成分が、フォトディテクタ9の出力に混在している状態にあり、試料鏡面の電位情報の検出分解能を向上する観点からは問題であった。
本発明は、上記問題を解決することにあり、試料表面の電位情報を検出するための角周波数成分ωの信号の検出のS/Nを向上させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
試料表面の電位情報を検出する場合に、導電性カンチチレバーから反射されてフォトディテクタ9の信号として入力される信号成分には、導電性カンチレバー探針と試料間に印される角周波数ωの交流信号だけが重畳されているような状態とすることにより、試料表面の電位情報を検出する分解能を向上させる。
つまり、試料表面の電位情報を検出する場合には、図1(b)のようにカンチレバーを振動させるための圧電素子3には、交流信号を印しない測定操作とすることにより、角周波数ω0の周波数成分の混在を除去する。また、導電性カンチレバ ー探針と試料間に印される角周波数ωの交流電圧により、導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数成分力による信号成分の混在を除去するために、角周波数2ωの周波数が、導電性カンチレバーの共振周波数より充分高い周波数となるように、導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωの周波数を設定する。この様子の例を図3に示す。このような周波数配置とすることで角周波数2ωの信号成分は、導電性カンチレバー探針の共振周波数より充分高い周波数領域にあり、導電性カンチレバーの応答は著しく減衰し、ひいては2ωの周波数成分の抑圧に寄与する。
【0011】
図3の例では、ωLは導電性カンチレバー探針の共振角周波数であり、導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωと導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数のちょうど中間に配置した例である。つまり、ω≒2ω L /3の関係にある。市販されているバネ定数3N/mのシリコンカンチレバーの場合、ωLは20KHz程度 であり、ωを13KHz程度に設定すれば、2ωは26KHz程度となる。このカンチレバーの場合30KHzでの応答性は著しく減衰しており、2ωの周波数成分の抑圧に寄与することになる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、請求項1に記載した代表的なブロック図である。電気的スイッチ6でカンチレバーを振動させるための圧電素子3に交流信号を印するかしないかを制御する。試料表面の電位情報を測定する場合には電気的スイッチ6をOFF状態とし、圧電素子3を無励振の状態とする。
【0014】
【実施例】
図4は、請求項2、3、4に記載したブロック図である。
【0015】
図5は、請求項2に記載した、導電性カンチレバー探針の共振角周波数ωL、導電性カンチレバーを振動させるために圧電素子3を駆動する交流信 号ω0、試料の電位情報を検出するために導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωの交流電圧信号と、導電性カンチレバー探針と試料間に印される角周波数ωの交流電圧により、導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数成分力による信号の周波数成分の配置を示した図である。
【0016】
図6は、請求項3に記載した、導電性カンチレバー探針の共振角周波数ωL、導電性カンチレバーを振動させるために圧電素子3を駆動する交流信 号ω0、試料の電位情報を検出するために導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ω1の交流電圧信号と、導電性カンチレバー探針と試料間に印される角周波数ωの交流電圧により、導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数成分力による信号の周波数成分の配置を示した図である。
【0017】
図7は、請求項4に記載した、導電性カンチレバー探針の共振角周波数ωL、導電性カンチレバーを振動させるために圧電素子3を駆動する交流信号ω0、試料の電位情報を検出するために導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωの交流電圧信号と、導電性カンチレバー探針と試料間に印される角周波数ωの交流電圧により、導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数成分力による信号の周波数成分の配置を示した図である。
【0018】
図8は、図4のブロック図において図5の周波数配置を行った場合の測定フローの一例である。試料表面の凹凸情報を測定する場合には、図4の電気的スイッチ6をONした状態で前記凹凸情報の測定を行い、試料表面の電位情報を測定する場合には、電気的スイッチ6をOFFした状態で前記電位情報を測定する。
【0019】
図9は、図4のブロック図において図6の周波数配置を行った場合の測定フローの一例である。試料表面の凹凸情報を測定する場合には、図4の電気的スイッチ6をONした状態で前記凹凸情報の測定を行う。この時、導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数はωである。
試料表面の電位情報を測定する場合には、電気的スイッチ6をOFFした状態で、前記電位情報を測定する。この時、導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数はω1である。
【0020】
図10は、図4のブロック図において図7の周波数配置を行った場合の測定フローの一例である。試料表面の凹凸情報を測定する場合には、図4の電気的スイッチ6をONした状態で前記凹凸情報の測定を行い、試料表面の電位情報を測定する場合には、電気的スイッチ6をOFFした状態で前記電位情報を測定する。
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、試料の電位情報を検出するために導電性カンチレバー探針と試料間に印する角周波数ωの交流電圧と、試料表面の凹凸情報を検出するために導電性カンチレバーを振動させるために圧電素子3を駆動する交流信号ω0の交流信号と、導電性カンチレバー探針と試料間に印される角周波数ωの交流電圧により、導電性カンチレバーが受ける角周波数2ωの周波数成分の信号の分離が行われ、フォトディテクタ9の出力からの角周波数ω成分の信号を検出することによって得られる、試料表面の電位情報の検出分解能を向上させた走査型ケルビンプローブ顕微鏡の制御装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1のブロック図で、(a)は試料の凹凸情報測定時、(b)は試料の電位情報測定時の図である。
【図2】走査型ケルビンプローブ顕微鏡の測定原理図である。
【図3】導電性カンチレバーの共振周波数と導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数ωと、このωの交流電圧により発生する角周波数2ωの周波数成分の周波数配置の一例である。
【図4】本発明の実現ブロック図である。
【図5】請求項2で、導電性カンチレバーの共振周波数と導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数ωと、このωの交流電圧により発生する角周波数2ωの周波数成分の周波数配置図である。
【図6】請求項3で、導電性カンチレバーの共振周波数と導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数ωと、このωの交流電圧により発生する角周波数2ωの周波数成分の周波数配置図である。
【図7】請求項4で、導電性カンチレバーの共振周波数と導電性カンチレバー探針と試料間に印する交流電圧信号の角周波数ωと、このωの交流電圧により発生する角周波数2ωの周波数成分の周波数配置図である。
【図8】図4のブロック図で、請求項2の場合の実施例の測定フローである。
【図9】図4のブロック図で、請求項3の場合の実施例の測定フローである。
【図10】図4のブロック図で、請求項4の場合の実施例の測定フローである。
【符号の説明】
1 試料
2 導電性カンチレバー探針
3 圧電素子
4 圧電素子3を振動させる交流電圧発生器
5 導電性カンチレバー探針2と試料1間に印する交流電圧発生器
6 電気的スイッチ
7 試料台
8 半導体レーザ
9 フォトディテクタ
10 3次元微動素子
11 ロックインアンプ
12 電位情報比較器
13 電位情報PID制御器
14 反転アンプ
15 A/D変換器
16 A/D変換器
17 コンピュータ
18 RMS−DC変換器
19 距離情報比較器
20 距離情報PID制御器
21 距離基準値発生器
22 面内走査器
23 サンプルホールド回路

Claims (2)

  1. 導電性カンチレバー探針と試料間に作用する物理量を検出して試料表面の凹凸情報または前記試料の電位情報を検出する走査型ケルビンプローブ顕微鏡において、
    前記導電性カンチレバー探針を振動させる圧電素子と
    前記圧電素子に第一交流電圧を印加する第一交流電圧発生器と、
    前記導電性カンチレバー探針と試料間に第二交流電圧を印加する第二交流電圧発生器と、を備え、
    前記試料表面の凹凸情報を検出する際には、前記第一交流電圧発生器から前記電圧素子に交流電圧を印加し、かつ前記第二交流電圧発生器から前記導電性カンチレバー探針と試料間に交流電圧を印加し、
    前記試料の電位情報を検出する際には、前記第一交流電圧発生器から前記電圧素子に交流電圧を印加せず、かつ前記第二交流電圧発生器から前記導電性カンチレバー探針と試料間に交流電圧を印加することを特徴とする走査型ケルビンプローブ顕微鏡。
  2. 請求項1に記載の走査型ケルビンプローブ顕微鏡において、
    前記第二交流電圧の周波数ωは、前記周波数ωと前記導電性カンチレバー探針が受ける周波数2ω間に前記導電性カンチレバー探針の共振周波数がなるように設定することを特徴とする走査型ケルビンプローブ顕微鏡。
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