JP4022639B2 - 有機・無機ハイブリッド材料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン間相互作用を利用した有機・無機ハイブリッド材料及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは従来のハイブリッド材料の欠点を解決し、透明性を有した新規な有機・無機ハイブリッド材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機ポリマーの高性能化、高機能化を達成する手段としては、従来から有機ポリマーと無機物の複合化が検討されてきた。例えば、有機ポリマーとガラス繊維とを複合化することで有機ポリマーの強度、弾性率が改善できることが知られている。しかし、このような複合材料は衝撃強度、破断伸びの低下といった性能面での欠点を有しているばかりでなく、複合化により不透明となるため、透明性を要求される用途には使用できないといった機能面での欠点を有していた。
【0003】
このような既存複合材料の欠点を克服する手段として、近年、有機ポリマーと無機物とを分子レベルで組み合わせた有機・無機ハイブリッド材料が注目されている。(Y.Chujo,T.Saegusa,Adv.Polym.Sci.,100巻,11頁(1992年))このハイブリッド材料は、両成分が分子レベルで均一に複合化されているため、従来の既存複合材料の性能面、機能面の欠点を克服することが可能である。しかしながら、これまで検討されてきた有機・無機ハイブリッド材料は、主に水素結合による相互作用を用いて両成分の親和性を高める手法を採ってきたため、使用可能な有機ポリマーはアミド基等の水素結合受容基を有するポリマーに限定され、汎用性に乏しいといった欠点や、得られたハイブリッドが耐水性に劣るといった欠点を有していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のハイブリッド材料の欠点を解決し、透明性を有した新規な有機・無機ハイブリッド材料及び、このような材料を汎用性のある材料及び方法にて容易に製造する方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は酸性官能基及び/又は塩基性官能基を有する、ポリオレフィン、スチレン系ポリマー、ハロゲン系ポリマーより選択される有機ポリマー10〜90重量%とシリカを主成分とする無機物90〜10重量%とからなる有機・無機ハイブリッド材料であって、前記有機ポリマーと前記無機物とがイオン結合を介して結合してなり、かつ透明性を有することを特徴とする有機・無機ハイブリッド材料及びその製造方法に関するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明で用いられる有機ポリマーは、無機物とイオン結合を形成しうる官能基を有していることが必要である。官能基の具体例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基等の酸性官能基や、アミノ基、ピリジル基等の塩基性官能基が挙げられ、これら官能基の少なくとも1種が有機ポリマーに導入されていれば、有機ポリマーの種類に特に制限はない。
【0007】
使用可能な有機ポリマーの具体例としては、官能基の導入が容易であることと無機物とのハイブリッド化が比較的容易である点から、上記官能基が導入されたポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、AS、ABS、SBS等のスチレン系のポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン系ポリマーが挙げられる。
【0008】
これら有機ポリマーの分子量に関しては特に制限はないが、1,000〜1,000,000の分子量を有する有機ポリマーを用いることが好ましい。この範囲の分子量であれば、得られる有機・無機ハイブリッド材料の機械的特性が低下したり、その加工性に制約が生じてくるようなことを避けることができるからである。
【0009】
有機ポリマーに導入される官能基の量は、有機ポリマーの繰り返し単位に対して0.5〜50モル%、好ましくは1〜30モル%の範囲が好ましい結果を与える。導入官能基量がこの範囲にあれば、有機ポリマーと無機物との親和性は十分であり、これらの分散が十分となり機械的特性が低下するのを避けることができ、また、得られる有機・無機ハイブリット材料の透明性も維持できる。一方、導入官能基量が50モル%を越えると、有機ポリマーの本来有している優れた特性が低下することがある。
【0010】
なお、本明細書においては、「透明性」とは有機・無機ハイブリッド材料が透明であることを意味し、透明であることは、目視や、適当な波長の光の透過性を適当な装置により測定することで確認できる。
【0011】
本発明で用いられる無機物は、シリカを主成分とする無機物である。ここでいう「シリカを主成分とする」とは、無機物中のシリカ含有量が70重量%以上、好ましくは80重量%以上であることを示すものである。シリカ以外の成分としては、特に制限はないが、例えばアルミナ、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。
【0012】
また、本発明で用いられる無機物は、有機ポリマーに導入された官能基とイオン結合しうる官能基が導入されていなければならない。例えば、有機ポリマーにカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基等の酸性官能基が導入されている場合、無機物にはアミノ基、ピリジル基等の塩基性官能基が導入される。一方、有機ポリマーにアミノ基、ピリジル基等の塩基性官能基が導入されている場合、無機物にはカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基等の酸性官能基が導入される。
【0013】
これら無機物に導入される官能基の量としては、有機ポリマーに導入されている官能基のモル数に対して0.3倍モル〜10倍モルの導入が好ましい。導入官能基量がこの範囲にあれば、有機ポリマーと無機物との親和性は十分であり、これらの分散が十分となり機械的特性が低下するのを避けることができ、また、得られる有機・無機ハイブリット材料の透明性も維持できる。一方、導入官能基量が10倍モルを越えると、シリカの網目構造の形成が不十分となり、シリカの本来有している優れた特性が低下することがある。
【0014】
本発明の有機・無機ハイブリット材料の組成は、有機ポリマー10〜90重量%とシリカを主成分とする無機物90〜10重量%とからなるものであり、組成が上記範囲を逸脱し有機ポリマー含有量が10%未満となると、得られるハイブリッド材料が脆弱となり柔軟性がなくなるため好ましくない。一方、有機ポリマー含有量が90%を越えると、シリカによる補強効果が少なくなり、機械的特性等が有機ポリマー単体と比較して十分に改善されなくなるため好ましくない。
【0015】
次に、本発明の有機・無機ハイブリット材料の製造方法について説明する。
【0016】
本発明の製造方法の特徴は、官能基が導入された特定の有機ポリマー存在下、有機ポリマーに導入された官能基とイオン結合しうる官能基を有するアルコキシシラン化合物を含むアルコキシシラン類とを加水分解・縮合反応させる、いわゆるゾル−ゲル反応により、系内でシリカを合成する点にある。
【0017】
本発明のハイブリッド材料の製造に際しては、反応は溶媒を用いないバルク状態で実施しても構わないが、反応条件下で有機ポリマーが固体状態である場合や有機ポリマーとアルコキシシラン類との相溶性が乏しい場合には、適宜溶媒を選択し用いることもできる。使用可能な溶媒としては、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられ、これら溶媒を混合して用いてもさしつかえない。とくに好ましい溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒やジメチルスルホキシドであり、これら溶媒と水との混合溶媒も好ましく用いられる。溶媒の使用量としては、有機ポリマー及びアルコキシシランが均一に溶解しうる範囲であれば特に制限はないが、一般的には有機ポリマーの濃度が2〜40重量%となる範囲が好ましい。
【0018】
本発明で用いられるアルコキシシラン類としては、有機ポリマーに導入した官能基とイオン結合しうる官能基を有するアルコキシシラン化合物(以下、「イオン結合性アルコキシシラン化合物」という)を少なくとも1種含んだアルコキシシラン類である。従って、本発明で用いられるアルコキシシラン類としては、イオン結合性アルコキシシラン化合物単独であっても、以下に述べる有機ポリマーに導入した官能基とイオン結合しうる官能基を有しないアルコキシシラン化合物(以下、「非イオン結合性アルコキシシラン化合物」という)との併用であってもよい。
【0019】
イオン結合性アルコキシシラン化合物の例としては、4−アミノブチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、カルボキシエチルトリメトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)−2−メチルプロピルコハク酸、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸が挙げられる。
【0020】
また、上記イオン結合性アルコキシシラン化合物と併用することのできる非イオン結合性アルコキシシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
これらアルコキシシラン類の添加量は、ゾル−ゲル反応終了後得られる有機・無機ハイブリッド材料中のシリカ含有量が10〜90重量%となるように反応系に添加する。
【0022】
次に、本発明の有機・無機ハイブリッド材料の製造における反応条件を具体的に説明する。
【0023】
本反応は、無溶媒条件下でも実施可能であるが、一般的には有機ポリマーを溶解しうる溶媒中で行う。まず、官能基が導入された有機ポリマーを溶媒に溶解させ、その後アルコキシシラン類を添加して所定温度でゾル−ゲル反応を行う。反応は、撹拌あるいは無撹拌で進行させることができる。
【0024】
ここで、ゾル−ゲル反応を加速させるために、触媒である酸又はアルカリを添加してもよく、反応触媒としては、一般的な酸又はアルカリが使用できる。例えば、酸触媒としては塩酸、硫酸等が使用可能であり、アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用できる。また、触媒の量は反応を加速できる範囲であれば任意の量を用いることができる。
【0025】
反応温度、時間は幅広い範囲で設定可能であり、温度に関しては室温〜150℃の範囲で任意に設定できる。また、反応時間についても1時間から数十日の間で任意に設定できる。
【0026】
このようにして得られた有機・無機ハイブリッド材料は、溶液キャスト法により、フィルム、繊維等に成形可能であるばかりでなく、射出成形、押出成形、圧縮成形等の溶融成形により各種成形品、フィルム、シート、パイプ、繊維等に成形することができる。
【0027】
また、本発明の目的、効果を損なわない範囲において、離型剤、滑剤、安定剤、核剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等を必要に応じて添加してもよい。
【0028】
【実施例】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
実施例1
スルホン酸変性ポリスチレンの製造例
ポリスチレン(分子量100,000)10gを塩化メチレン200mlに溶解し、0℃にてクロロスルホン酸0.638mlを10分間かけて滴下、反応させた。反応終了後、溶液をヘキサン2リットルに滴下、ポリマーを沈殿させ、濾過によりポリマーを回収し、ヘキサンで再度洗浄後、減圧下50℃で24時間乾燥してポリマーを単離した。スルホン化率は、元素分析、1H−NMRよりスチレン繰り返し単位を基準として10.4モル%と算出された。
【0030】
ハイブリッド材料の製造例
上記製造例で得られたスルホン酸変性ポリスチレン0.5g(スチレン繰り返し単位として4.45×10-3モル)をジメチルホルムアミド8mlに溶解し、テトラメトキシシラン0.115g(1.9×10-3モル)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.034g(3.1×10-4モル)、0.1N塩酸2gを加え、100℃にて168時間反応を行った。反応終了後、減圧力下100℃で乾燥し、ガラス状のハイブリッドを単離した。得られたハイブリッドは透明、均一であり、その元素分析により得られた組成はポリスチレン80重量%、シリカ20重量%であった。
【0031】
実施例2
ハイブリッド材料の製造例
実施例1で得られたスルホン酸変性ポリスチレン0.5g(スチレン繰り返し単位として4.45×10-3モル)をN−メチル−2−ピロリドン15mlに溶解し、水0.661ml、テトラメトキシシラン0.522g(8.7×10-3モル)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.025g(2.2×10-4モル)、0.1N塩酸2gを加え、100℃にて168時間反応を行った。反応終了後、減圧力下100℃で乾燥し、ガラス状のハイブリッドを単離した。得られたハイブリッドは透明、均一であり、その元素分析により得られた組成はポリスチレン50重量%、シリカ50重量%であった。
【0032】
比較例1
実施例1で得られたスルホン酸変性ポリスチレン0.5g(スチレン繰り返し単位として4.45×10-3モル)をジメチルホルムアミド10mlに溶解し、水0.166ml、テトラメトキシシラン0.134g(2.2×10-3モル)、0.1N塩酸2gを加え、100℃にて168時間反応を行った。反応終了後、減圧力下100℃で乾燥し、ガラス状のハイブリッドを単離した。得られたハイブリッドは不透明であり、ポリスチレンに導入したスルホン酸基とイオン結合を形成するアミノ基をシリカに導入しないと、均一かつ透明なハイブリッドは得られなかった。なお、本比較例で得られたハイブリットの元素分析により得られた組成はポリスチレン80重量%、シリカ20重量%であった。
【0033】
比較例2
実施例1で得られたスルホン酸変性ポリスチレン0.5g(スチレン繰り返し単位として4.45×10-3モル)をN−メチル−2−ピロリドン15mlに溶解し、水0.665ml、テトラメトキシシラン0.534g(8.9×10-3モル)、0.1N塩酸2gを加え、100℃にて168時間反応を行った。反応終了後、減圧力下100℃で乾燥し、ガラス状のハイブリッドを単離した。得られたハイブリッドは不透明であり、ポリスチレンに導入したスルホン酸基とイオン結合を形成するアミノ基をシリカに導入しないと、均一かつ透明なハイブリッドは得られなかった。なお、本比較例で得られたハイブリットの元素分析により得られた組成はポリスチレン50重量%、シリカ50重量%であった。
【0034】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明のハイブリッド材料は、有機ポリマーと無機物とが分子レベルで均一に組み合わされているため、既存の複合材料の欠点を克服するのみならず、材料の特性を飛躍的に向上させる可能性を秘めた革新的材料として産業上重要である。さらに、本発明の方法で得られるハイブリッド材料は、従来のハイブリット材料の欠点であった耐水性を改善できうるばかりでなく、使用可能な有機ポリマーの範囲を大幅に拡大可能であるといった点で汎用性に優れたものであり、その利用価値は極めて高い。
Claims (3)
- 酸性官能基及び/又は塩基性官能基を有する、ポリオレフィン、スチレン系ポリマー、ハロゲン系ポリマーより選択される有機ポリマー10〜90重量%とシリカを主成分とする無機物90〜10重量%とからなる有機・無機ハイブリッド材料であって、前記有機ポリマーと前記無機物とがイオン結合を介して結合してなり、かつ透明性を有することを特徴とする有機・無機ハイブリッド材料。
- 有機ポリマーがカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、アミノ基及びピリジル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有し、かつ無機物が前記有機ポリマーの官能基とイオン結合しうる官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の有機・無機ハイブリッド材料。
- 請求項1又は請求項2に記載の有機・無機ハイブリッド材料の製造方法において、酸性官能基及び/又は塩基性官能基を有する、ポリオレフィン、スチレン系ポリマー、ハロゲン系ポリマーより選択される有機ポリマー存在下、前記有機ポリマーの有する官能基とイオン結合しうる官能基を有するアルコキシシラン化合物を含むアルコキシシラン類をゾル−ゲル反応させることを特徴とする有機・無機ハイブリッド材料の製造方法。
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