JP4020697B2 - 半人工ヘムタンパク質から成る酸素センサー - Google Patents

半人工ヘムタンパク質から成る酸素センサー Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半人工タンパク質の技術分野に属し、特に、生体内や生体試料中の微量の溶存酸素に選択的に結合し該酸素を検出するのに有用な半人工タンパク質に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
血液や各種生体組織などの生体内の溶存酸素は、様々の生理現象に関与しており、それを検出することは疾病の診断や治療に不可欠である。また、培養細胞や培養組織などの生体試料中の酸素を検出することは、例えば、呼吸活性などに関して、その生体試料を評価する上で重要である。
【0003】
しかし、生体内や生体試料中におけるようなきわめて低濃度の溶存酸素を検出するような物質は限られている。特に、生体内や生体試料中においては一般に一酸化炭素が共存することが多いが、このような溶存一酸化炭素が存在する環境においても高選択的に溶存酸素と結合して高感度の酸素センサーとして供し得るような試薬は見当らない。
本発明の目的は、一酸化炭素が存在することがある生体内または生体試料中の微量の溶存酸素に選択的に結合して該酸素を検出することができるような新しい物質を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
生体内での酸素キャリアの役割を担うミオグロビンあるいはヘモグロビンの構造と機能はかなり古くから多くの研究者によって紹介され、様々な知見が得られている。この豊富な知見をもとに、ここ数年ヘムタンパク質の機能化の試みが始まっている。その主な手法は遺伝子工学を用いた特定のアミノ酸の変換による変異体を利用して、ヘムタンパク質の機能化をめざしたアプローチである。例えば、ミオグロビンやヘモグロビンの機能である酸素錯体の安定化(オキシ体の自動酸化速度の抑制)や酸素親和力の向上などをめざし、ヘムポケット周辺のアミノ酸残基の一部を変換する研究が数多くあるが、劇的な向上は必ずしも容易ではない。また、それらの多くは、ヘム部としてポルフィリンの金属錯体を用いるものである。
【0005】
最近、このポルフィリンの構造異性体として、ポルフィセンが注目され、ポルフィセン金属錯体の中心金属がポルフィリン金属錯体に比べ、強いルイス酸性と反応活性種に対する耐久性を示すことから、良好な触媒となることなどが報告されている。しかし、ポルフィセン金属錯体に関する研究や応用開発は、緒に就いたばかりであり、例えば、これまで報告されているポルフィセンは専ら対称性(D2h対称性)をもつ構造から成るものである。天然のポルフィセン誘導体に類似の非対称な構造のポルフィセンを得ることができれば、そのようなポルフィセン誘導体と比較しながら、これに匹敵しまたはこれを凌駕し得る機能を有する新しい機能性材料を取得することも期待されるが、そのようなポルフィセン金属錯体は未だ見当らない。
【0006】
本発明者は、先に、天然のポルフィリン類に類似の非対称構造を有する新規なポルフィセン金属錯体の合成に成功するとともに、このポルフィセン金属錯体がアポミオグロビンに結合して構成された半人工ヘムタンパク質(再構成ヘムタンパク質)のオキシ体(酸素錯体)の自動速化の速度が天然のミオグロビンに比べてきわめて遅く、したがって、この半人工ミオグロビンが酸素保持剤として例えば人工血液の構成成分として供し得ることを見出している(特願平2001−243968)。本発明者は、この非対称構造を持つポルフィセン金属錯体の機能について更に検討を重ねた結果、該ポルフィセン金属錯体とアポミオグロビンまたはアポヘモグロビンとから構成される半人工タンパク質が、生体内や生体試料中におけるような微量の溶存酸素と結合すること、特に、溶存一酸化炭素が共存する環境下においても高選択的に結合し、したがって、それらの溶存酸素を検出する高感度の酸素センサーとしても機能することを見出した。
【0007】
かくして、本発明は、アポミオグロビンまたはアポヘモグロビンと、下記の一般式(I)で表されるポルフィセン金属錯体とから構成されるタンパク質から成ることを特徴とする溶存酸素用酸素センサーを提供するものである。
【0008】
【化2】
Figure 0004020697
【0009】
式(I)中、Mは2価または3価の金属原子を表し、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基または−(CH2)COOH(nは1から3の整数を表す)を表し、R2≠R4である。
本発明の溶存酸素用酸素センサーは、特に好ましい態様として、溶存一酸化炭素の存在下において使用される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられる半人工ヘムタンパク質(再構成ヘムタンパク質)は、既述した従来技術のように酸素との親和性を上げるためにヘムタンパク質を構成しているアミノ酸の一部を遺伝子工学的に別のアミノ酸に変換する手法によるものではなく、アポミオグロビンまたはアポヘモグロビン(ミオグロビンまたはヘモグロビンからヘムを除いたもの)のヘムポケットに、前記の式(I)で表わされるポルフィセン金属錯体を挿入して構成されるものである。
【0011】
本発明に従うこのような半人工ヘムタンパク質は、生体や生体試料中におけるような水性液中で、極く微量の溶存酸素と結合することのできる親和性を有し、しかも、この親和性は一酸化炭素が共存する条件下においてもきわめて高い選択性で確保される。すなわち、本発明の酸素センサーに用いられる半人工ヘムタンパク質は、アミノ酸ではなくヘムそのものを変換することにより、酸素親和性および酸素/一酸化炭素選択性を飛躍的に向上させた擬似ミオグロビンまたは擬似ヘモグロビンである。
【0012】
例えば、本発明の好ましい態様の1つとして、アポミオグロビンと式(I)に従う鉄ポルフィセンとから構成される半人工ヘムタンパク質(擬似ミオグロビン)は、天然のミオグロビンに比べて、酸素に対する親和性が約1400倍であり、また、一酸化炭素に対する酸素の選択性が約4000倍であることが見出されている(後述の実施例2参照)。
【0013】
かくして、如上のアポミオグロビンまたはアポヘモグロビンと式(I)で表わされる半人工タンパク質は、生体内や生体試料中の溶存酸素を検知する高感度酸素として使用することができる。例えば、アポミオグロビンと式(I)に従うポルフィセン錯体とから構成される擬似ミオグロビンを用いれば、0.1ppbという超低濃度酸素の定量も可能となる。これに対して、現在の一般的に知られている市販の酸素センサー計では100〜10ppb程度の酸素濃度が検出できるのが限界である。
【0014】
本発明に従う擬似ミオグロビンまたは擬似ヘモグロビンを用いて溶存酸素の濃度を検出するには、それらの半人工ヘムタンパク質のオキシ体(酸素錯体)に特徴的な吸収スペクトルを測定すればよい。例えば、アポミオグロビンと式(I)に従うポルフィセン錯体とから構成される擬似ミオグロビンを用いる場合には、既知の酸素濃度の溶液に所定量の擬似ミオグロビンを添加したものを標準として、619nmにおける吸収スペクトルを測定する。
【0015】
(I)式で示されるように、本発明の酸素センサーを構成する金属錯体は、親水基(カルボキシアルキル基)と疎水基(アルキル基、アルケニル基)とが導入され天然のポルフィリンに類似の非対称構造を有する水溶性ポルフィセンを配位子とする金属錯体である。
【0016】
式(I)においてMで表される2価または3価の金属原子の好ましい例としては、Fe(III)、Co(III)、Zn(II)、Ni(II)等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4で表されるアルキル基またはアルケニル基のうち、特に好ましいのは、メチル基(−CH3)(本明細書中では−Meで表すことがある)またはエチル基(−CH2CH3)(本明細書中では−Etと表すことがある)である。また、R1、R2、R3またはR4で表されるカルボキシアルキル基(−(CH2)COOH)として特に好ましいのは、−CH2COOHまたは−CH2−CH2COOHである。そして、R1、R2、R3またはR4のうちの1つがカルボキシアルキル基(−(CH2)COOH)であることが好ましい。但し、R2とR4は互いに別異の官能基である。
【0017】
したがって、式(I)で表され本発明で用いられる金属錯体と成るポルフィセン誘導体の好ましい例として次のものが挙げられる。
1=−Me,R2=−CH2CH2COOH,R3=−Et,R4=−Me
1=−Me,R2=−CH2CH2COOH,R3=−Me,R4=−Me
1=−Me,R2=−CH2CH2COOH,R3=−Me,R4=−Et
1=−Me,R2=−CH2CH2COOH,R3=−Et,R4=−Et
1=−Me,R2=−CH2COOH,R3=−Et,R4=−Me
1=−Me,R2=−CH2COOH,R3=−Me,R4=−Me
1=−Me,R2=−CH2COOH,R3=−Me,R4=−Et
1=−Me,R2=−CH2COOH,R3=−Et,R4=−Et
1=−Me,R2=−CH2COOH,R3=−Me,R4=−CH2CH2COOH
【0018】
本発明の酸素センサーを構成するポルフィセン金属錯体は、各種の反応を創意工夫することにより合成されたものである。図1は本発明で用いられる金属錯体の配位子となるポルフィセンの合成ルートを全体的に概示するものである。(詳細な合成ルートは図2および図3に沿って後述の実施例に示す。)
【0019】
図1に示すように、まず、ピロール(II)のα位メチル基をカルボキシル基、ヨウ素基へと順次変換し、ウルマン(Ullmann)カップリングによりビピロールとする。この際、無保護ピロール(後述の実施例では化合物7)では活性なプロトンNHが銅触媒の活性を低下させるので、カップリング反応をスムーズに収率よく進行させるために、ピロールのNHをt−ブトキシカルボニル(Boc)基で保護した化合物(後述の実施例では化合物8)を合成した後、カップリング反応を行うことが肝要である。また得られたビピロール(後述の実施例では化合物9)をさらに収率よく得るために、銅の活性化、DMFの乾燥を慎重に行わなければならない。次に、ベンジルオキシカルボニル基をホルミル基に変換し、3,3’−ジメトキシカルボニルエチルビピロール(III)(後述の実施例では化合物13)を合成する。
もう片方のビピロール(V)はエチオ型ポルフィセンを合成する際に用いられるもので、既知のようにピロール(IV)から誘導することができる(Guilard, R. ; Aukauloo, M.A. ; Tardieux, C. ; Vogel, E. Synthesis. 1995, 1480)。
【0020】
(III)と(V)をマクマリー(McMurry)カップリングによりヘテロカップリングさせて(VI)を得、メチルエステルを加水分解することで(I)を合成することができる。この際、通常のマクマリーカップリングと同じ濃度で反応を行うと2つ以上のビピロールが直線的に連結したオリゴマーやポリマーが大量に生成するので、1:1の環化カップリング生成物をできるだけ収率よく得るために、マクマリー触媒を予め用意しておき、そこへビピロール溶液を非常にゆっくりと高希釈状態で滴下することが重要である。また、系全体を高希釈するために、触媒、ビピロールとも大量のTHFに溶解させるようにする。
【0021】
本発明の酸素センサーを構成するポルフィセン金属錯体は、以上のようにして合成したポルフィセン誘導体を所定の金属に配位させることによって得られる。金属としては2価または3価の金属であれば使用可能であるが、好ましいのはFe(III)である。得られたポルフィセン金属錯体を適当な溶媒(例えばピリジン水溶液)に溶かしたものを、アポミオグロビンまたはアポヘモグロビンを含有する緩衝溶液に添加した後、適当な濃縮操作に供し溶媒を除去することによって、アポミオグロビンまたはアポヘモグロビンのヘムポケットにポルフィセン金属錯体が挿入して結合した半人工ヘムタンパク質(擬似ミオグロビンまたは擬似ヘモグロビン)が得られる。アポミオグロビンおよびアポヘモグロビンのうち好ましいのはアポミオグロビンである。したがって、本発明の酸素センサーの好ましい態様の1つとして、既述の式(I)においてMがFe(III)であり、R1とR4が−CH3であり、R2が−CH2CH2COOHであり、R3が−CH2CH3であるポルフィセン金属錯体と、アポミオグロビンとから構成される半人工タンパク質(再構成タンパク質)が挙げられる。
【0022】
【実施例】
以下に本発明の特徴をさらに具体的に明らかにするため実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
実施例1:水溶性ポルフィセン金属錯体の合成
図2および図3に示す合成ルートに従い本発明のポルフィセン金属錯体を以下のように合成した。
メチル 4 −アセチル− 5 −オキソ−ヘキサノエート(4)
アセチルアセトン(3) 616.1 ml(6000 mmol)とアクリル酸メチル135.1 ml(1500 mmol)の混合溶液に、炭酸カリウム103.7 g(750 mmol)を加え、室温で48時間激しく撹拌した。反応液をセライトを通して吸引濾過、アセトンで洗浄した。濾液を減圧留去し、アセトンと過剰のアセチルアセトンを除去した。残渣を減圧蒸留(1.5 mmHg, 95 ℃)し、黄色液体4を得た。収率249.4 g, 89 %。
【0023】
ベンジル 4 −( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3,5 −ジメチルピロール− 2 −カルボキシレート(5)
アセト酢酸ベンジル(1) 180.7 ml(1046 mmol)と氷酢酸240 mlを混合し、氷浴で5℃に冷却した。10℃以下に保ちながら、亜硝酸ナトリウム77.4 g(1121 mmol)水溶液240 mlを3時間かけて滴下しさらに1時間撹拌した。この反応液を冷蔵庫で終夜静置した。(溶液▲1▼)
メチル 4−アセチル−5−オキソ−ヘキサノエート(4) 111.7 g(600 mmol)と氷酢酸400 mlを混合させ、油浴で65℃に加熱した。65℃に保ちながら、溶液▲1▼を2.5時間かけて滴下し同時に、活性化亜鉛114.0 g(1743 mmol)と無水酢酸ナトリウム114.0 g(1390 mmol)の混合粉末を少しずつ加えた。さらに1.5時間撹拌した。反応液を2000 mlの氷水に注ぎ、終夜静置した後、吸引濾過により黄色固体を得た。これをクロロホルムに溶解させ、水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。クロロホルムを減圧留去し、残渣を最少量より多めのトルエンに溶解、再結晶させ、白色結晶5を得た。収率120.3 g, 64 %。
【0024】
ベンジル 5 −カルボキシ− 4 −( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3 −メチルピロール− 2 −カルボキシレート(6)
ベンジル 4−(2−メトキシカルボニルエチル)−3,5−ジメチルピロール−2−カルボキシレート (5) 10.5 g(33 mmol)を窒素下で無水ジエチルエーテル367 mlに溶解させた。氷浴で20 ℃に保ちながら、単蒸留した塩化スルフリル8.1 ml(101 mmol)を1.5時間かけて滴下し、さらに3時間撹拌した。一晩放置した後、溶媒を減圧留去し、1,4-ジオキサン50 mlに溶解させた。これに酢酸ナトリウム三水和物4.7g(35 mmol)水溶液67 mlを加え、70℃に加熱し、0.5時間撹拌した。ジエチルエーテル67 mlを加え、分液ロートで水相を除去し、この水相をジエチルエーテル67 mlで再抽出した。有機相を10 %炭酸ナトリウム水溶液17 ml×4で逆抽出した。水相を濃塩酸21 mlで徐々に酸性にすると、淡黄色の沈殿が析出した。この沈殿を濾別し、温水でよく洗浄、減圧乾燥し6を得た。収率7.72 g, 67 %。
【0025】
ベンジル 5 −イオド− 4 −( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3 −メチルピロール− 2 −カルボキシレート(7)
ベンジル 5−カルボキシ−4−(2−メトキシカルボニルエチル)−3−メチルピロール−2−カルボキシレート (6) 33.8 g(98 mmol)を水240 mlに懸濁させ、75℃に加熱した。さらに炭酸水素ナトリウム28.2 g(336 mmol)を加え、溶解させた。75℃に保ちながら、よう化カリウム34.5 g(208 mmol)とヨウ素26.7 g(105 mmol)を一緒に溶解させた水溶液200 mlを2時間かけて滴下し、0.5時間撹拌した。しばらく放冷した後、氷浴で10℃以下に冷却した。10℃以下に保ちながら、チオ硫酸ナトリウム五水和物17.1 g(69 mmol)水溶液50 mlをゆっくりと加え、さらに0.5時間撹拌した。沈殿を吸引濾別し、水と冷ペンタンで洗浄し7 を得た。収率31.7 g, 76 %。
【0026】
2,2' −ジベンジルオキシカルボニル− 4,4' −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3,3' −ジメチル− 5,5' −ビピロール(10)
ベンジル 5−イオド−4−(2−メトキシカルボニルエチル)−3−メチルピロール−2−カルボキシレート5.3 g (7)(12 mmol)、ジ-tert-ブチルジカルボネート3.3 g(15 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン151 mg(1.2 mmol)をジクロロメタン60 mlに溶解させ、窒素下、室温で0.5時間撹拌した。反応液をシリカゲル(MERCK C-60)を通して吸引濾過、ジクロロメタンで抽出した。濾液を減圧留去し、減圧下で1日乾燥させ、橙色のオイル8 を得た。
活性化銅7.1 g(112 mmol)を加え、化合物8に加え窒素置換した後に、無水DMF30 mlに溶解させ、室温で1時間、100 ℃で1時間撹拌した。吸引濾過により銅を除去し、銅を熱クロロホルム48 mlで洗浄した。クロロホルム72 mlを加え、水144 ml×3、20 %硝酸水溶液72 ml×2、水72 ml×1で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去し、減圧下で1日乾燥させ、橙色のオイル9を得た。 さらに減圧下で2時間乾燥させた後、窒素置換した。170 ℃で0.5時間撹拌した後、室温まで放冷した。メタノールより再結晶させ、白色固体10を得た。収率2.9 g, 78 %
【0027】
2,2' −ジカルボキシ− 4,4' −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3,3' −ジメチル− 5,5' −ビピロール(11)
2,2'−ジベンジルオキシカルボニル−4,4'−ジ(2−メトキシカルボニルエチル)−3,3'−ジメチル−5,5'−ビピロール (10) 159 mg(0.26 mmol)とパラジウム-活性炭素(Pd 10 %)8.4 mgをフラスコに入れ、窒素置換した後、無水THF 2 mlと1,4-シクロヘキサジエン1.0 ml(11 mmol)を加え、TLC(Merck60 F254, CHCl3)で反応を追跡した。反応が徐々に進行することを確認しながら、さらに無水THF 2 ml、1,4-シクロヘキサジエン1.0 ml、パラジウム-活性炭素35 mgをそれぞれ徐々に添加し、計1週間室温で撹拌した。TLCで原料の消失を確認した後、セライトを通して濾過した。セライト上に残ったパラジウム-活性炭素はTHF200 mlに加え、72時間撹拌し、パラジウム-活性炭素中に吸着した生成物を抽出した後、既に濾過した濾液と共に、THFを減圧留去、オイルポンプで一晩減圧乾燥させ11 を得た。収率100 mg, 90 %。
【0028】
2,2' −ジホルミル− 4,4' −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 3,3' −ジメチル− 5,5' −ビピロール( 13
2,2’−ジカルボキシ−4,4’−ジ(2−メトキシカルボニルエチル)−3,3’−ジメチル−5,5’−ビピロール (11) 180 mg(0.43 mmol)を昇華器に入れ、減圧下(0.07 Torr)、210 ℃で2.5時間加熱した。さらに、220 ℃で0.5時間加熱し、昇華させた。
窒素下、昇華生成物を無水DMF 3 mlに溶解させ、5 ℃以下に保ちながら、オキシ塩化リン0.23 ml(2.4 mmo)を加え、0.5時間撹拌した。さらに、60 ℃で1時間撹拌した。無水酢酸ナトリウム 2.6 g(31 mmol)水溶液16 mlを加え、85 ℃で1時間撹拌した。放冷後、冷凍庫で一晩放置し、茶色の固体13 を得た。収率130 mg, 78 %。
【0029】
13,16 −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセン( 14b
窒素下、活性化亜鉛3.3 g(50 mmol)と塩化銅(I)0.49 g(5 mmol)を無水THF 107 mlに加えた。この懸濁液を0℃以下に保ちながら、塩化チタン(IV)4.7 g(25 mmol)を2時間かけて加え、さらに、3時間撹拌した。室温まで放冷し、2,2’−ジホルミル−4,4’−ジ(2−メトキシカルボニルエチル)−3,3’−ジメチル−5,5’−ビピロール (13) 160 mg(0.41 mmol)と3,3’−ジエチル−2,2’−ジホルミル−4,4’−ジメチル−5,5’−ビピロール112 mg(0.41 mmol)を溶解させた無水THF 1214 mlを8.5時間かけて滴下し、さらに、0.5時間還流した。再び、0℃以下に冷却し、10 %炭酸ナトリウム水溶液63 mlを1.5時間かけて滴下した。吸引濾過により、固体を除去し、塩化メチレンで洗浄した。濾液とこの塩化メチレンを一緒にして水で3回洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去して深緑色の固体を得た。カラムクロマトグラフィー(中性アルミナactivity III、φ2.7×18 cm、CH2Cl2)により、青色の第一成分を分取した。
この混合物からゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、第二成分を分取し、目的とする14bを得た。収率8.5 mg, 3.5 %。
【0030】
クロロ( 13,16 −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセナート) Fe III (15b)
窒素下、遮光し、13,16−ジ(2−メトキシカルボニルエチル)−2,7−ジエチル−3,6,12,17−テトラメチルポルフィセン (14b) 3.7 mg(0.0063 mmol)、無水塩化鉄(III)6.0 mg(0.037 mmol)無水酢酸ナトリウム1.0 mg(0.012 mmol)を減圧下で1時間乾燥させた。氷酢酸4 mlに溶解させ、3時間還流させた。室温まで放冷した後、ジクロロメタン20mlに溶解させ、水50 ml×2で洗浄し、水相をジクロロメタン20 mlで逆抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル MERCK C-60, φ1.7×12 cm、CH2Cl2 → 10 %CH3OH/CH2Cl2)により、緑色の第4成分を分取した。これを2N塩酸52 mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、緑色の固体15b をほぼ定量的に得た。
【0031】
クロロ( 13,16 −ジ( 2 −カルボキシエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセナート) Fe III )( 16b
クロロ(13,16−ジ(2−メトキシカルボニルエチル)−2,7−ジエチル−3,6,12,17−テトラメチルポルフィセナート)Fe(III) (15b)をメタノール4 mlとTHF 4 mlの混合溶媒に溶解させ、0.2N水酸化カリウム水溶液4 mlを加え、室温で3時間撹拌した。0.1N塩酸でpH 6まで中和した。ジクロロメタン50 mlを加え、水50 ml×2さらに、100 mlで洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、深緑色の固体16bをほぼ定量的に得た。
【0032】
なお、各化合物の同定データは次のとおりである。
13,16 −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセン (14b)
H NMR (500 MHz, CDCl3) :δ(ppm) = 9.54 (d, 2H, J = 10.0; meso), 9.47 (d, 2H, J = 15.0; meso), 4.33 (t, 4H, J = 7.8; CH 2 CH2CO) 3.83 (q, 4H, J = 7.5; CH 2 CH3), 3.54 (s, 12H; CH3), 3.42 (s, 6H; OCH3), 2.95 (t, 4H, J = 8.0; CH2 CH 2 CO), 1.67 (t, 6H, J = 7.5; CH2 CH 3 )
MS (MALDI-TOF) : m/z = 596 (MH+)
HRMS(FAB) : m/z = 595.3279 (MH+)
UV-vis(CH2Cl2) :λ(nm) = 384 (Soret), 575, 624, 663
【0033】
クロロ( 13,16 −ジ( 2 −メトキシカルボニルエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセナート) Fe(III) (15b)
H NMR (500 MHz, CDCl3) :δ(ppm) = 79.6 (br.s, 6H; CH3), 57.3(br.s, 2H; CH 2 CH2CO), 44.5 (br.s, 2H; CH 2 CH2CO) ,42.1(br.s, 6H; CH3), 36.3 (br.s, 2H; CH 2 CH3), 27.2 (br.s, 2H; CH 2 CH3), -12.9 (br.s, 2H; meso), -13.6(br.s, 2H; meso)
MS (ESI-TOF) : m/z = 648 (M+)
UV-vis(CH2Cl2) :λ(nm) = 368 (Soret), 621
【0034】
クロロ( 13,16 −ジ( 2 −カルボキシエチル)− 2,7 −ジエチル− 3,6,12,17 −テトラメチルポルフィセナート) Fe(III) (16b)
MS (ESI-TOF) : m/z = 620 (M+)
MS (FAB) : m/z = 620 (M+)
UV-vis(CH3OH) : λ(nm) = 372 (Soret), 622
【0035】
実施例2:酸素センシング能測定試験
本実施例は、実施例1で合成したポルフィセン鉄錯体とアポミオグロビンとから構成される半人工ヘムタンパク質(以下、ポルフィセンミオグロビンまたは擬似ミオグロビンと記す)が、溶存酸素に対する親和性が高く、且つ、その親和性が一酸化炭素の存在下においても高い選択性で実現され、高感度の酸素センサーとして用いられることを示すためのものである。
【0036】
ポルフィセンミオグロビンの調製
実施例1で合成したポルフィセン鉄錯体をアポミオグロビン(ミオグロビンからヘムを除いたもの)に結合させることによりポルフィセンミオグロビンの調製を試みた。すなわち、常法によって作成したアポミオグロビンをpH 7.0, リン酸緩衝溶液(100 mM)に溶かした(1.4×10-2 mM, 30 mL)。その溶液に、少量ずつポルフィセン鉄錯体(Pc)の50 %ピリジン水溶液(1.3×10-1 mM, 4.94 mL)を、振とう(30rpm)しながら2℃で20 min.かけて滴下し、さらに20 min.振とうした。得られた再構成ミオグロビンの溶液を遠心分離し(4,000 rpm, 2 ℃, 20 min.)し、その上澄み液を限外濾過して(amicon regenerated cellulose 10,000 Da)し、10-1 mM 程度まで濃縮した。この溶液をPharmacia 製Hi-Trap Desalting(G25 Sephadex)カラムを通し、ピリジンを完全に除去した。
【0037】
酸素吸着ポルフィセンミオグロビンにおける酸素結合速度の測定
(測定方法の概要)
大気圧下、摂氏25度で、酸素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液を準備し、下記に示す測定機器を用いて、一度レーザーフラッシュで鉄−酸素結合を開裂させた後に、酸素分子の再結合の速度を619nmの吸収の増加で評価した。その反応曲線より、酸素分子がポルフィセンミオグロビンのデオキシ体に結合する速度を決定した。
(測定機器)
(株)ユニソク製のレーザーフラッシュホトリシス測定装置を用いた。レーザーはContinuum, Surelite I, Nd:YAGの532 nm (5 ns-pulse)を使用した。プローブ光の光源はXeランプを用い、619nmの吸収の増加を追跡した。検出器はレスポンスが500nsecのものを使用した。また、恒温水をセルフォルダーに循環させられるようにしてあり、温度を一定に保つことができる。
(サンプルの調製)
1) 酸素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に溶解しているポルフィセンミオグロビン溶液8mlを、3方コックを取り付けたフラスコに入れて、脱気したのち、フラスコ内を窒素雰囲気にした。100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に0.1Mの濃度で調製した亜ジチオン酸ナトリウム溶液30μlを加え、デオキシ体を調製した。その後、過剰の亜ジチオン酸ナトリウム溶液を除くために、Sephadex G-25 (アマシャムファルマシアバイオテク社製)のカラムに通し、さらに得られた溶液の表面に空気を数分間吹き付けて、酸素錯体を得た。
(測定方法)
1) ポルフィセンミオグロビン酸素錯体溶液2mlを、石英セルに入れ、摂氏25度の循環水をセルフォルダーに流し、温度を一定にせしめた。開放形(大気下)にて、YAGレーザー532nmのパルスを照射し、照射直後の619nmの吸収変化を追跡した。
2) 溶液中の溶存酸素の濃度は、0.264mMであり、得られた見かけの速度定数を酸素濃度で割ることによって、酸素分子のポルフィセンミオグロビンへの再結合速度を算出した。
(測定結果)
レーザー照射瞬間に、619nmのスペクトルの強度は減少し、時間とともに増加しながら再び元に戻る変化を示した。619nmはポルフィリンミオグロビンの酸素錯体の特徴的吸収帯であり、レーザー照射によって、いったん解離した鉄−酸素結合が再び元に戻ったことを示している。この変化から、鉄と酸素の結合速度定数を決定した。
【0038】
酸素吸着ポルフィセンミオグロビンにおける酸素脱離速度の測定
(測定方法の概要)
大気下、摂氏25度で、酸素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液と、フェリシアンカカリウム溶液を、下記に示す測定機器を用いて迅速に混合した。混合後の光吸収(500nmより700nmの間)変化より、酸素吸着ポルフィセンミオグロビンが自動酸化にともないメト体に移行していく変化を追跡し、その反応曲線より、酸素吸着ポルフィセンミオグロビンから酸素が脱離する速度を決定した。
(測定機器)
(株)ユニソク製の迅速混合反応速度測定装置を用いた。本装置には、2つのサンプルリザーバーが設置されており、混合直前までは、それぞれのサンプルが混ざり合わないようにされている。また、恒温水を循環させられるようにしてあり、温度を一定に保つことができる。本装置は、等体積の溶液が混合でき、混合に伴う不感時間は、約2ミリ秒である。
(サンプルの調製)
1) 酸素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に溶解しているポルフィセンミオグロビン溶液8mlを、3方コックを取り付けたフラスコに入れて、脱気したのち、フラスコ内を窒素雰囲気にした。100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に0.1Mの濃度で調製した亜ジチオン酸ナトリウム溶液30μlを加え、デオキシ体を調製した。その後、過剰の亜ジチオン酸ナトリウム溶液を除くために、Sephadex G-25 (アマシャムファルマシアバイオテク製)のカラムに通し、さらに得られた溶液の表面に空気を数分間吹き付けて、酸素錯体を得た。この溶液を濃度調整し、サンプルリザーバーの片方に入れた。
2) フェリシアン化カリウム溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に必要量のフェリシアン化カリウムを溶解させ迅速混合反応速度測定装置のサンプルリザーバーの片方に入れた。
(測定方法)
1) 迅速混合反応速度測定装置に摂氏25度の循環水を流し、温度を一定にせしめた後、サンプルリザーバーの片方にポルフィセンミオグロビン酸素錯体溶液を、もう片方にフェリシアン化カリウム液を入れ、装置を駆動させて、流路を洗浄した。この操作を3回繰り返した。
2) 装置を駆動させることにより、両者の溶液を迅速に混合し、500-700nmの吸収変化を追跡し、見かけの速度定数を算出した。
(測定結果)
フェリシアン化カリウムの濃度[ferricyanide]を横軸に、上記の測定から得られた見かけの速度定数kobsを縦軸にとり、得られたプロットを非線形最小二乗法により、フィッティングして、酸素分子の脱着速度koffを算出した。
kobs = {koff[ferricyanide]}/(c + [ferricyanide])
【0039】
一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビンにおける一酸化炭素結合速度の測定
(測定方法の概要)
大気圧下、摂氏25度で、一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液を準備し、下記に示す測定機器を用いて、一度レーザーフラッシュで鉄−炭素結合を開裂させた後に、一酸化炭素分子の再結合の速度を610nmの吸収の増減で評価した。その反応曲線より、一酸化炭素分子がポルフィセンミオグロビンのデオキシ体に結合する速度を決定した。
(測定機器)
(株)ユニソク製のレーザーフラッシュホトリシス測定装置を用いた。レーザーはContinuum, Surelite I, Nd:YAGの532nm(5 ns-pulse)を使用した。プローブ光の光源はXeランプを用い、619nmの吸収の増減を追跡した。検出器はレスポンスが2マイクロ秒のものを使用した。また、恒温水をセルフォルダーに循環させられるようにしてあり、温度を一定に保つことができる。
(サンプルの調製)
1) 一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に溶解しているポルフィセンミオグロビン溶液8mlを、3方コックを取り付けたフラスコに入れて、脱気したのち、フラスコ内を窒素雰囲気にした。100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に0.1Mの濃度で調製した亜ジチオン酸ナトリウム溶液30μlを加え、その後、10分程度、一酸化炭素ガスを吹き付け、密封して保存した。
(測定方法)
1) ポルフィセンミオグロビン一酸化炭素錯体溶液2mLを、石英セルに加え、摂氏25度の循環水をセルフォルダーに流し、温度を一定にせしめた。一酸化炭素1気圧下にて、YAG レーザー532nmのパルスを照射し、照射直後の619nmの吸収の増減を追跡した。
2) 溶液中の溶存酸素の濃度は、0.096mMであり、得られた見かけの速度定数を酸素濃度で割ることによって、酸素分子のポルフィセンミオグロビンへの再結合速度を算出した。
(測定結果)
レーザー照射瞬間に、 610nmのスペクトルの強度は減少し、時間とともに増加しながら再び元に戻る変化を示した。610nmはポルフィリンミオグロビンの一酸化炭素錯体の特徴的吸収帯であり、レーザー照射によって、いったん解離した鉄、酸素結合が再び元に戻ったことを示している。この変化から、鉄と酸素の結合速度定数を決定した。
【0040】
一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビンにおける一酸化炭素脱離速度の測定
(測定方法の概要)
大気圧下、摂氏25度で、一酸化炭素飽和緩衝溶液に溶解している一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液と、酸素飽和緩衝溶液を、下記に示す測定機器を用いて迅速に混合した。混合後の光吸収(500nmより700nmの間)変化より、一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビンが酸素吸着型に移行していく変化を追跡し、その反応曲線より、一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビンから一酸化炭素が脱離する速度を決定した。
(測定機器)
(株)ユニソク製の迅速混合反応速度測定装置を用いた。本装置には、2つのサンプルリザーバーが設置されており、混合直前までは、それぞれのサンプルが混ざり合わないようにされており、それぞれに異なったガスをリザーバー内に導入できるように工夫されている。また、恒温水を循環させられるようにしてあり、温度を一定に保つことができる。本装置は、等体積の溶液が混合でき、混合に伴う不感時間は、約2ミリ秒である。
(サンプルの調製)
1) 一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に溶解しているポルフィセンミオグロビン溶液8mlを、3方コックを取り付けたフラスコに入れて、脱気したのち、フラスコ内を窒素雰囲気にした。100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に0.1Mの濃度で調製した亜ジチオン酸ナトリウム溶液30μlを加え、その後、10分程度、一酸化炭素ガスを吹き付け、密封して保存した。
2) 酸素飽和緩衝溶液
100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液を迅速混合反応速度測定装置のサンプルリザーバーの片方に入れて、酸素ガスを、測定開始の20分以上前より溶液に通気した。測定中もガスを通気し続けた。なお、本サンプルのサンプルリザーバーへの導入は、以下の操作の途中に行っている(測定方法の第3項)。
(測定方法)
1) 迅速混合反応速度測定装置に摂氏25度の循環水を流し、温度を一定にせしめた後、サンプルリザーバーの片方に100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液に0.1Mの濃度で調製した亜ジチオン酸ナトリウム溶液を、もう片方に100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液を入れ、装置を駆動させて、流路を洗浄した。この操作を3回繰り返した。
2) 反応速度測定装置のサンプルリザーバーの片方に、一酸化炭素ガスを通気しながら、脱気した100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液を入れ、もう片方に酸素ガスを通気しながら、脱気していない100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液を入れ、ガスの通気を続けながら、装置を駆動させて、流路を洗浄した。この操作を3回繰り返した。それぞれのガスの通気は、測定終了まで続けた。
3) 迅速混合反応速度測定装置の酸素ガスを通気しているサンプルリザーバーに、100mM、pH = 7.0のリン酸カリウム緩衝液を入れて、酸素ガスを通気した。
4) 上記で調製した一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液1.5ml を採取し、一酸化炭素飽和緩衝液で平衡化させたSephadex G-25 (アマシャムファルマシアバイオテク製)のカラム内に導入した。その後、一酸化炭素飽和緩衝液2.0mlで溶出し、溶出された一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液は、直接、迅速混合反応速度測定装置のもう片方のサンプルリザーバーに導入した。この時点での一酸化炭素吸着型ポルフィセンミオグロビンの濃度は、3.6μMである。
5) 装置を駆動させることにより、一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビン溶液と酸素飽和緩衝溶液を迅速に混合した。従って、混合後の一酸化炭素吸着型ポルフィセンミオグロビンの濃度は、1.8μMである。
(測定結果)
サンプルの混合後、613nmに極大吸収をもつスペクトルは、長波長側へ移行した。最も吸収変化の大きかった619nmの吸光度変化より、一酸化炭素吸着ポルフィセンミオグロビンにおける一酸化炭素脱離速度を決定した。
【0041】
測定結果のまとめ
以上の測定結果を表1および表2にまとめている。表1において、KO2は、kon(酸素結合速度定数)/koff(酸素脱離速度定数)で表わされる酸素に対する結合定数であり、酸素に対する親和力を示す。また、M値は、KCO/K 2、すなわち、一酸化炭素に対する結合定数と酸素に対する結合定数の比であり、この比が小さい程、酸素/一酸化炭素選択性が大きいことを示す。さらに、表2には、酸素結合速度および酸素脱離速度の測定結果から求めた、溶存酸素の濃度変化に応じて水溶液中に存在するポルフィセンミオグロビンのオキシ体(酸素錯体)/デオキシ体の比を、天然ミオグロビンの場合と比較して示している。
表1に示すように、本発明に従うポルフィセンミオグロビンは、天然ミオグロビンに比べて6倍程度酸素と結合する速度が大きく、かつ酸素が脱離する速度は、250倍程度遅い。したがって、酸素との親和力は、天然のミオグロビンよりも1400倍大きい。このことは、ポルフィセンミオグロビン(擬似ミオグロビン)が、酸素が低濃度の溶液中でも、天然に比べて酸素と結合する能力が極めて優れ、低濃度の酸素も検出(センシング)可能であることを示唆している。事実、表2に示されるように、本発明で用いられる擬似ミオグロビンは、0.1ppbというような極めて低い溶存酸素濃度下においても多量のオキシ体(酸素錯体)として存在することが理解される。さらに、表1に示すように、COに対する酸素の選択性は、ポルフィリンミオグロビンの場合、極めて良く、この結果は、ポルフィリンミオグロビンが生体内での酸素検出に関して、精度の良い酸素センサーとして利用できることを示している。
なお、表2に示す酸素錯体(オキシ体)/デオキシ体濃度比は、結合定数K 2から以下のようにして求めた。
2=(酸素錯体の濃度)/〔(デオキシ体の濃度)×(水中の酸素濃度)〕
であるから、この式を変形して、下記の式の左辺が酸素錯体とデオキシ体の濃度比となる。
(酸素錯体の濃度)/(デオキシ体の濃度)=K 2×(水中の酸素濃度)
これに、本実験における25℃における大気圧下における水中の酸素濃度264μMを適用した。
【0042】
【表1】
Figure 0004020697
【0043】
【表2】
Figure 0004020697
【0044】
【発明の効果】
本発明に従えば、アポミオグロビンまたはアポヘモグロビンと、特定構造の非対称構造のポルフィセンを配位子とする金属錯体とから成る半人工ヘムタンパク質を用いることにより、生体内や生体試料中の極めて低濃度の溶存酸素を検出し、特に、一酸化炭素が共存するような条件下においても、溶存酸素を精度よく検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の酸素センサーを構成する金属錯体の配位子であるポルフィセンの合成ルートを全体的に概示するものである。
【図2】実施例に示すポルフィセン金属錯体の合成ルートの詳細を示すものであり、特に、一方のビピロールが合成される工程を示す。
【図3】実施例に示すポルフィセン金属錯体の合成ルートを示すものであり、特に、2種のビピロールをヘテロカップリングさせる工程を示す。
【図4】本発明の酸素センサーを構成するポルフィセン錯体とアポミオグロビンとから構成されるホロタンパク質の吸収スペクトルを示す。
【図5】本発明の酸素センサーを構成するポルフィセン鉄錯体とアポミオグロビンとから構成されるホロタンパク質の質量分析スペクトルを示す。

Claims (3)

  1. アポミオグロビンまたはアポヘモグロビンと、下記の一般式(I)で表されるポルフィセン金属錯体とから構成されるタンパク質から成り、溶存一酸化炭素が共存する環境下においても高選択的に溶存酸素と結合して該溶存酸素を検出することを特徴とする溶存酸素用酸素センサー。
    Figure 0004020697
    〔式(I)中、Mは2価または3価の金属原子を表し、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基または−(CH2)COOH(nは1から3の整数を表す)を表し、R2≠R4である。〕
  2. アポミオグロビンと上記式(I)で表わされるポルフィセン金属錯体から構成されるタンパク質から成ることを特徴とする請求項1に記載の酸素センサー。
  3. 上記式(I)で表わされるポルフィセン金属錯体において、MがFe(III)であり、R1とR4が−CH3であり、R2が−CH2CH2COOHであり、R3が−CH2CH3であることを特徴とする請求項2に記載の酸素センサー。
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