JP4020281B2 - 液体中の重炭酸イオンの定量方法及び乾式分析素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体試料に存在する重炭酸イオンの定量方法及び乾式分析素子に関する。本発明の方法及び乾式分析素子は、いわゆる迅速かつ精度の高い検査結果が要求される臨床検査における試料、例えば血液、尿等の中に含まれる重炭酸イオンの定量において特に有用である。
【0002】
【従来の技術】
液体中の重炭酸イオンを定量するには従来から以下の様な方法が知られている。電極を用いて測定する方法においては、液体中の炭酸の分圧と水素イオン濃度(pH)を求め、計算式から定量する。この方法では、炭酸の分圧と同時に液のpHを測定しなければならないという欠点がある。
【0003】
液体を酸性にしたときに重炭酸イオンが二酸化炭素に変わる反応を利用し、発生する二酸化炭素を捕捉してその体積を測定する。一般的に気体の体積を正確に測定するためには大がかりな装置が必要となり、大量の検体を測定するには不利である。
【0004】
これらの欠点を改良するために、酵素を用いる方法が開発されている。
例えば、特開平4−210599号公報には、
なる反応を用い、NAD(P)Hの340nmにおける吸収の減少を測定して重炭酸イオンを定量する方法が開示されている。
【0005】
ここで、PEPCはフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、PEPはフォスフォエノールピルビン酸、MDHはリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、NADHはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型、NADPHはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の還元型を表し、NAD及びNADPはそれぞれこれらの酸化型を表す。
【0006】
また、特開平4−248997号公報にはPEPCの替わりに、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを用いる系が開示されている。
【0007】
しかし、これらの方法においては、340nmの吸光度を測定するため、
▲1▼ 測定機(アナライザー)に紫外部の光源及び検出系をつけなければならないため、測定機が大型になり、コストが高くなる。
▲2▼ NADHは340nmの吸光度が高いので、反応速度を考慮すると、上記反応において発生するオキサロ酢酸の全部をリンゴ酸に変換するに必要な量を最初から含ませることが困難で、定量域が狭くなる。
▲3▼ 上記▲2▼の欠点を避けるためには、NAD(P)Hを十分な濃度に設定し測定波長を380nmにする方法があるが、この場合には、スペクトルが平らでなく勾配を持つ範囲になるため、測定が不安定になることが避けられない。
【0008】
また、血液検体の場合、溶血してしまうことがある。この溶血が起こると血球中のカルボニックアンヒドラーゼが溶出し、これが血液中の重炭酸イオンを二酸化炭素に変えるため、測定の際の負誤差となる。そこで、その対策としてカルボニックアンヒドラーゼの阻害剤であるアセトアゾールアミドを添加する方法が知られている(特開平4−210599号公報)。ところが、このアセトアゾールアミドは目や皮膚への刺激性があるため、取扱い上問題があり、また、高価なことも問題であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、各方法の上記欠点を改良することを目的とする。即ち、液体中の重炭酸イオンを、可視部の光源を用い、十分な基質濃度があり、小型の機器で、広い定量域で迅速簡便に安定した測定ができる反応系、及びそのための分析素子を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、また、血液検体中の重炭酸イオンを測定する際の、溶血による負誤差を安全かつ安価な手段で解消しうる反応系及びそのための分析素子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するべくなされたものであり、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼとリンゴ酸デヒドロゲナーゼを共役酵素として用いる酵素法による重炭酸イオンの定量法において、基質としてチオNAD(P)H及びNAD(P)Hを用いることを特徴とする液体中の重炭酸イオンの定量方法と、この試薬系を組み込んだ乾式分析素子によってかかる目的を達成したものである。
【0012】
本発明は、また、上記重炭酸イオンの定量方法と、この試薬系を組み込んだ乾式分析素子において、この試薬系にさらにベンゼンスルホンアミド又はベンゼンスルホンアミド構造を有しそのベンゼン環の水素原子の1つ又は2つが置換された化合物を組み込むことによってさらに好ましく目的を達成したものである。
【0013】
上記試薬系において反応は下記のように進行する。
【0014】
チオNAD(P)Hは、400nmに吸収のピークがあるため、可視部の光源及び検出系を用いることができる。ここで、PEPC等は前記説明と同様である。
【0015】
基質としてチオNAD(P)Hのみを用いる場合には、NAD(P)Hと同様に吸光度が高いので定量域が狭くなる。しかし、この現象は、チオNAD(P)HとNAD(P)Hを一定の割合で共存させることにより避けることができる。即ち、重炭酸イオンがチオNAD(P)HとNAD(P)Hとの混合物に接した場合にどのような競争反応が起きるかは定かではないが、種々の濃度の重炭酸イオンを含む検体について測定した結果、驚くべきことに、広い定量域において再現性よく定量できることが判り、上記▲2▼の欠点が解決されることが判った。
【0016】
また、本発明者らは、アセトアゾールアミドに匹敵するカルボニックアンヒドラーゼ阻害活性を有しながら安全上問題のない物質を広く検索した結果、ベンゼンスルホンアミドおよびその前記誘導体がその目的に適合することを見出した。
【0017】
【発明の実施の形態】
フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼには、EC4.1.1.31、EC4.1.1.32、EC4.1.1.38及びEC4.1.1.49のものがあるが、本発明に適用可能なものはフォスフォエノールピルビン酸からオキサロ酢酸を生成しうるものであればよく、EC4.1.1.31のほか、EC4.1.1.32、EC4.1.1.38及びEC4.1.1.49も使用できる。但し、EC4.1.1.32はGDP、EC4.1.1.38は無機リン、EC4.1.1.49はADPを存在させることが必要である。
【0018】
リンゴ酸デヒドロゲナーゼには、EC1.1.1.37、EC1.1.1.38、EC1.1.1.39及びEC1.1.1.40、EC1.1.1.83、EC1.1.99.16があるが、本発明に適用可能なものはオキサロ酢酸からリンゴ酸を生成しうるものであり、EC1.1.1.37とEC1.1.99.16が使用できる。
【0019】
本発明の測定試薬組成物には、上記2種の共役酵素のほか、その基質が必要である。フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼの基質には、フォスフォエノールピルビン酸(この酵素が作用しうるフォスフォエノールピルビン酸誘導体を含む)が用いられる。本発明ではリンゴ酸デヒドロゲナーゼの基質に還元型チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(チオNADH)または還元型チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(チオNADPH)と、還元型ニコチンアミドアデニンンジヌクレオチド(NADH)または還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を併用するところに特徴がある。これらのチオNAD(P)HとNAD(P)Hは市販品があり、チオNAD(P)Hは例えばシグマ社(米国)より市販されている。チオNAD(P)H/NAD(P)Hの混合比率(モル比)は、1/0.05〜1/2、好ましくは、1/0.1〜1/1、更に好ましくは1/0.2〜1/0.7である。
【0020】
本発明では、血液検体中の重炭酸イオンを定量する場合には、試薬系にカルボニックアンヒドラーゼの阻害剤を組み込むことが好ましい。
【0021】
カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤としては、アセトアゾールアミド、その誘導体、ベンゼンスルホンアミド、その誘導体等を使用できるが、本発明者らが今回見出したベンゼンスルホンアミド及びその誘導体が特に好ましい。ベンゼンスルホンアミド誘導体はベンゼンスルホンアミド構造を有し、そのベンゼン環の水素原子の1つ又は2つが置換した化合物である。置換基としては、水酸基、アミノ基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、沃素)、ニトロ基、アミド基、スルホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、メチル基、エチル基、プロピル基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、リン酸基、メトキシ基、エトキシ基、等を挙げることができる。これらの中で好ましいのは、アミノ基、ハロゲン、スルホンアミド基、メチル基、アミノエチル基等がある。その具体例としては、p−トルエンスルホンアミド、1−クロロベンゼン−2,4−ジスルホンアミド、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミド等を挙げることができ、これらはアセトアゾールアミドと同等のカルボニックアンヒドラーゼ阻害活性を示す。これらのなかでp−トルエンスルホンアミドと4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミドが皮膚や目に対する安全性が高く好ましい。
【0022】
測定試薬組成物のその他の成分としては酵素の公知の活性剤、例えばMg2+、安定化剤、pH緩衝剤、例えばトリスヒドロキシメチルアミノメタン等を含むことができる。
【0023】
使用量としては、重炭酸イオン1モルに対し、フォスフォエノールピルビン酸1.5〜10モル程度、好ましくは2〜5モル程度が適当である。酵素濃度は、レートアッセイの場合にはフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼが50〜2000U/L程度、好ましくは100〜1000U/L程度、リンゴ酸デヒドロゲナーゼが1000〜50000U/L程度、好ましくは2000〜20000U/L程度が適当である。エンドポイントアッセイの場合にはフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼが2000〜200000U/L程度、好ましくは3000〜100000U/L程度、そしてリンゴ酸デヒドロゲナーゼが2000〜300000U/L程度、好ましくは5000〜200000U/L程度が適当である。チオNAD(P)H(NAD(P)Hを併用する場合にはその合計量)は、1〜10モル程度、好ましくは1.5〜5モル程度が適当である。フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼとリンゴ酸デヒドロゲナーゼの比率(活性比)は
1〜20程度、好ましくは1〜10である。
【0024】
カルボニックアンヒドラーゼの阻害剤として添加する化合物の量は、溶液中では0.1mM以上、水に対する溶解度の限界まで使用でき、添加量が多い方が阻害効果が大きい。なお、水のpHは約8が好ましい。乾式分析素子においては、添加量が多すぎると析出する場合があり、約5〜2000mg/m2、好ましくは約50〜1000mg/m2の範囲が好ましい。
【0025】
反応はpH6〜10程度、通常は両酵素の至適pH±1付近、20〜40℃、通常は37℃で1〜15分間程度行なえばよい。測定はレートアッセイ、終点法のいずれでもよい。
【0026】
本発明の測定試薬組成物は湿式法のほか乾式法に用いることもできる。
【0027】
乾式法で使用する分析素子には、水不透過性支持体上に少なくとも2層の水浸透性層が積層されているものを用いることが好ましい。
【0028】
支持体としては、従来公知の乾式分析素子に用いられている光透過性でかつ水不透過性の支持体を用いることができる。光透過性・水不透過性支持体の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ビスフェノールAのポリカルボネート、ポリスチレン、セルロースエステル(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等)等のポリマーからなる厚さ約50μmから約1mm、好ましくは約80μmから約300μmの範囲のフィルムもしくはシート状の透明支持体を挙げることができる。
【0029】
支持体の表面には必要により下塗層を設けて、支持体の上に設けられる試薬層と支持体との接着を強固なものにすることができる。また、下塗層の代りに、支持体の表面を物理的あるいは化学的な活性化処理を施して接着力の向上を図ってもよい。
【0030】
水透過性層は後記する試薬層、光遮蔽層、接着層、展開層、吸水層等である。
【0031】
支持体の上には(場合によっては下塗層等の他の層を介して)試薬層が設けられる。試薬層は前述の試薬組成物の少なくとも一部が親水性ポリマーバインダー中に実質的に一様に分散されている吸水性で水浸透性の層である。
【0032】
試薬層のバインダーとして用いることができる親水性ポリマーは、一般には水吸収時の膨潤率が30℃で約150%から約2000%、好ましくは約250%から約1500%の範囲の天然または合成親水性ポリマーである。そのような親水性ポリマーの例としては、特開昭58−171864号公報および特開昭60−108753号公報等に開示されているゼラチン(例、酸処理ゼラチン、脱イオンゼラチン等)、ゼラチン誘導体(例、フタル化ゼラチン、ヒドロキシアクリレートグラフトゼラチン等)、アガロース、プルラン、プルラン誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等をあげることができる。
【0033】
試薬層は架橋剤を用いて適宜に架橋硬化された層とすることができる。架橋剤の例として、ゼラチンに対する1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテル等の公知のビニルスルホン系架橋剤、アルデヒド等、メタリルアルコールコポリマーに対するアルデヒド、2個のグリシジル基含有エポキシ化合物等がある。
【0034】
試薬層の乾燥時の厚さは約1μmから約100μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは約3μmから約30μmの範囲である。また試薬層は実質的に透明であることが好ましい。
【0035】
上記試薬層の上に必要に応じて光遮蔽層を設けることができる。光遮蔽層は、光吸収性または光反射性(これらを合わせて光遮蔽性という。)を有する微粒子が少量の被膜形成能を有する親水性ポリマーバインダーに分散保持されている水透過性または水浸透性の層である。光遮蔽層は試薬層にて発生した検出可能な変化を光透過性を有する支持体側から反射測光する際に、後述する展開層に点着供給された水性液体の色、特に試料が全血である場合のヘモグロビンの赤色等、を遮蔽するとともに光反射層または背景層としても機能する。光反射性を有する微粒子の例としては、二酸化チタン微粒子(ルチル型、アナターゼ型またはブルカイト型の粒子径が約0.1μmから約1.2μmの微結晶粒子等)、硫酸バリウム微粒子、アルミニウム微粒子または微小フレーク等を挙げることができ、光吸収性微粒子の例としては、カーボンブラック、ガスブラック、カーボンミクロビーズ等を挙げることができ、これらのうちでは二酸化チタン微粒子、硫酸バリウム微粒子が好ましい。特に好ましいのは、アナターゼ型二酸化チタン微粒子である。
【0036】
被膜形成能を有する親水性ポリマーバインダーの例としては、前述の試薬層の製造に用いられる親水性ポリマーと同様の親水性ポリマーのほかに、弱親水性の再生セルロース、セルロースアセテート等を挙げることができ、これらのうちではゼラチン、ゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド等が好ましい。なお、ゼラチン、ゼラチン誘導体は公知の硬化剤(架橋剤)を混合して用いることができる。光遮蔽層は、光遮蔽性微粒子と親水性ポリマーとの水性分散液を公知の方法により試薬層の上に塗布し乾燥することにより設けることができる。また光遮蔽層を設ける代りに、後述する展開層中に光遮蔽性微粒子を含有させてもよい。
【0037】
なお、試薬層の上に、場合によっては光遮蔽層等の層を介して、後述する展開層を接着し積層するために接着層を設けてもよい。
【0038】
接着層は水で湿潤しているとき、または水を含んで膨潤しているときに展開層を接着することができ、これにより各層を一体化できるような親水性ポリマーからなることが好ましい。接着層の製造に用いることができる親水性ポリマーの例としては、試薬層の製造に用いられる親水性ポリマーと同様な親水性ポリマーがあげられる。これらのうちではゼラチン、ゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド等が好ましい。接着層の乾燥膜厚は一般に約0.5μmから約20μm、好ましくは約1μmから約10μmの範囲である。
【0039】
なお、接着層は試薬層上以外にも、他の層間の接着力を向上させるため所望の層上に設けてもよい。接着層は親水性ポリマーと、必要によって加えられる界面活性剤等を含む水溶液を公知の方法で、支持体や試薬層等の上に塗布する方法などにより設けることができる。
【0040】
多孔性展開層としては特開昭55−164356号公報、特開昭57−66359号公報等に記載の織物布地展開層(例:ブロード、ポプリン等の平織布地等)、特開昭60−222769号公報等に記載の編物布地展開層(例:トリコット編布地、ダブルトリコット編布地、ミラニーズ編布地等)、特開平1−172753号公報に記載のアルカリエッチング液でエッチング処理した織物布地又は編物布地からなる展開層、特開昭57−148250号公報に記載の有機ポリマー繊維パルプ含有抄造紙からなる展開層;特公昭53−21677号公報、米国特許3,992,158等に記載のメンブランフイルタ(ブラッシュポリマー層)、ポリマーミクロビーズ、ガラスミクロビーズ、珪藻土が親水性ポリマーバインダーに保持されてなる連続微空隙含有多孔性層等の非繊維等方的多孔性展開層、特開昭55−90859号公報に記載のポリマーミクロビーズが水で膨潤しないポリマー接着剤で点接触状に接着されてなる連続微空隙含有多孔性層(三次元格子状粒状構造物層)からなる非繊維等方的多孔性展開層等を用いることができる。
【0041】
多孔性展開層に用いられる織物布地、編物布地又は抄造紙は特開昭57−66359に記載のグロー放電処理またはコロナ放電処理に代表される物理的活性化処理を布生地又は紙の少なくとも片面に施すか、または特開昭55−164356、特開昭57−66359等に記載の水洗脱脂処理、界面活性剤含浸又は親水性ポリマー含浸等の親水化処理、またはこれらの処理工程を適宜に組み合せて逐次実施することにより布地又は紙を親水化し、下側(支持体に近い側)の層との接着力を増大させることができる。
【0042】
本発明の多層分析素子には、支持体と試薬層の間に吸水層を設けることができる。吸水層は水を吸収して膨潤する親水性ポリマーを主成分とする層で、吸水層の界面に到達または浸透した水性液体試料の水を吸収できる層であり、全血試料を用いる場合には水性液体成分である血漿の試薬層への浸透を促進する作用を有する。吸水層に用いられる親水性ポリマーは前述の試薬層に使用されるもののなかから選択することができる。吸水層には一般的にはゼラチンまたはゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、特に前述のゼラチン又は脱イオンゼラチンが好ましく、試薬層と同じ前述のゼラチンが最も好ましい。吸水層の乾燥時の厚さは約3μmから約100μm、好ましくは約5μmから約30μmの範囲、被覆量では約3g/m2から約100g/m2、好ましくは約5g/m2から約30g/m2の範囲である。吸水層には後述するpH緩衝剤、公知の塩基性ポリマー等を含有させて使用時(分析操作実施時)のpHを調節することができる。さらに吸水層には公知の媒染剤、ポリマー媒染剤等を含有させることができる。
【0043】
試薬組成物は試薬層にあるいはその他の1またはそれ以上の層に含有させることができる。例えば試薬層、あるいは展開層に含有させることができる。1の層に試薬組成物の全部を含有させることができる。1の層に全部を含有させる場合には反応する成分は別々に含有させ、後から含有させるものはアルコールに分散させて塗布するなどして測定前に反応が進行しないようにする。
【0044】
本発明が適用される血液検体は全血、血漿、血清等のいずれであってもよい。
【実施例】
【0045】
実施例1
以下の溶液を調整した。
【0046】
37℃において、上記3)の液それぞれ20μlをセルに入れ、このセルに上記1)の液をそれぞれ2μl加え、次いで、上記2)の液をそれぞれ1μl加えた。この混合液それぞれの400nmにおける吸光度を5分間測定し、5分後の吸光度を用いて検量線を作成した。これを図1に示す。
【0047】
以上の結果から、400nmの測定波長において重炭酸イオンの定量が可能なことが判る。
【0048】
比較例1
上記2)の基質液の代わりに、下記4)の基質液を調整した。
4)基質液
Trisバッファー 75mM(pH8)
PEP 6.75mM
チオNADH 0.45mM
【0049】
以下、実施例1と同様にして、重炭酸イオンの定量を行った。これにより得られた検量線を図2に示す。
【0050】
この結果から、NADHが共存しないと、定量域がかなり狭くなることが判る。
【0051】
実施例2
180μmの透明なPETベース上に、以下の塗布量となるように、水溶液を塗布し乾燥した。
【0052】
この層の上に以下の塗布量になるように、水溶液を塗布し乾燥した。
PEP 6g/m2
PEPC(EC4.1.1.31) 4500U/m2
MgCl 2 3g/m2
Trisバッファー 4.85g/m2
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
0.25g/m2
ゼラチン 10g/m2
二酸化チタン 3.65g/m2
【0053】
この層の上に、ポリエステル製編み物からなる布をラミネートし、その上に、検体液の展開を制御するために、ポリビニルアルコールと界面活性剤を含有する水溶液を塗布した。これを、約1.3×1.4cmに裁断し、直径12mmの開口を有するマウント内に組み込んで分析要素を作成した。
【0054】
この要素4個に、実施例1において調整した検体液3)をそれぞれ10μl点着し、実施例1と同様の測定を行ったところ、実施例1と同様の結果を得た。
【0055】
比較例2
180μmの透明なPETベース上に、以下の塗布量となるように、水溶液を塗布し乾燥した。
チオNADH 2g/m2
MDH(EC1.1.1.37) 4000U/m2
Trisバッファー 4.85g/m2
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 0.25g/m2
ゼラチン 10g/m2
【0056】
以下、実施例2と同様に分析要素を作成し、同様の測定を行ったところ、比較例1と同様の結果を得た。
【0057】
実施例3
この例では、実施例2の重炭酸測定系を用いて、負の偏差をもたらすカルボニックアンヒドラーゼの影響を回避するために有用な試薬(カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤)について示す。
【0058】
実施例1で調製した3)のHCO3 -液の代わりに最終濃度が下記のようなa)からg)の7液、及びa)からg)においてカルボニックアンヒドラーゼを含まない7液の計14液を調製した。
HCO3 - 35mM
トリシン 100mM(pH8.0)
各種カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤 2mM
カルボニックアンヒドラーゼ 230000U/l
【0059】
各種阻害剤には以下の6種類を用いた。
a)無し
b)メタンスルホンアミド
c)1−クロロベンゼン−2,4−ジスルホンアミド
d)アセタゾラミド
e)ベンゼンスルホンアミド
f)4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミド
g)p−トルエンスルホンアミド
【0060】
以下、実施例1と同様にして重炭酸イオンの定量を行った。
【0061】
結果を表1と図3に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記結果から、ベンゼンスルホンアミド及びその誘導体は、上記条件下でカルボニックアンヒドラーゼによる負の偏差を効果的に減少させたこと、即ち実用上アセタゾラミドと同程度のカルボニックアンヒドラーゼ阻害性能を持つことが判る。
【0064】
【発明の効果】
本発明の重炭酸イオンを測定する試薬系を用いることにより、液体試料、特に血液、尿等の体液に含まれる重炭酸イオンを広い定量域で迅速、容易に高い精度で定量できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の基質にチオNADHとNADHの混合物を用いて得られた重炭酸イオンの濃度と反応液の光学密度との関係を示すグラフである。
【図2】 図2は、本発明の基質にチオNADHを用いた比較例1で得られた重炭酸イオンの濃度と反応液の光学密度との関係を示すグラフである。
【図3】 図3は、各種カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤を用いてカルボニックアンヒドラーゼを含有するHCO3 −液のHCO3 −濃度を測定した結果を示すグラフである。
Claims (6)
- フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼとリンゴ酸デヒドロゲナーゼを共役酵素として用いる酵素法による重炭酸イオンの定量法において、基質としてチオNAD(P)H及びNAD(P)Hを用いることを特徴とする液体中の重炭酸イオンの定量方法
- ベンゼンスルホンアミド又はベンゼンスルホンアミド構造を有しそのベンゼン環の水素原子の1つ又は2つが置換された化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の重炭酸イオンの定量方法
- p−トルエンスルホンアミド又は4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミドをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の重炭酸イオンの定量方法
- 水不透過性支持体上に少なくとも2層の水浸透性層が積層されており、該水浸透性層のいずれかにフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼとリンゴ酸デヒドロゲナーゼとチオNAD(P)H及びNAD(P)Hを含むことを特徴とする、液体中の重炭酸イオン定量用乾式分析素子
- ベンゼンスルホンアミド又はベンゼンスルホンアミド構造を有しそのベンゼン環の水素原子の1つ又は2つが置換された化合物をさらに含むことを特徴とする請求項4記載の重炭酸イオン定量用乾式分析素子
- p−トルエンスルホンアミド又は4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミドをさらに含むことを特徴とする請求項4記載の重炭酸イオン定量用乾式分析素子
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