JP4019741B2 - エンジンの燃焼制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、流動制御弁によって燃焼室内のガス流動を制御しつつ燃焼状態を制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両用の火花点火エンジンでは、パーシャル域で排気の一部を吸気系に還流させるEGRを行うことが一般的であり、これにより、シリンダ内の不活性ガスを増加させることにより、燃焼を緩慢にさせてNOxを低減できると同時に、シリンダ内の吸気圧力を増加させポンピングロスを低減させて燃費を改善することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、EGRシステムでは、EGR制御弁、バイパス管の設置等、コストが高くなると同時に、レイアウトに制約を受けるという問題があった。
そこで、同じくNOx低減と燃費低域を目的に、可変動弁機構を利用して吸・排気弁のバルブオーバラップ量を拡大し不活性ガスである残留ガスの量を増加させる技術があるが、残留ガス量が増加しすぎると燃焼が緩慢となって燃焼安定性が悪化する。
【0004】
この対策として、流動制御弁、例えば、燃焼室内のスワールを制御するスワールコントロールバルブを用いて、ガス流動を強化し、燃焼を促進させることが有効である。特開2000−161119号公報に開示される技術では、エンジンの回転変動を検出しつつ、変動値が所定レベルを超えたときに、スワールを強化して燃焼安定化を図っている。
【0005】
しかしながら、燃焼悪化に伴う回転変動を検出してから、ガス流動を強化しても、遅れによって燃焼悪化を速やかに抑制することができず、エンストを生じてしまうことがあった。
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、燃焼室内のガス流動を残留ガス量に見合うように応答性良く制御することにより、過渡時の燃焼安定性を確保すると同時に、定常運転時の残留ガス量を可能な限り増加させることにより、燃費改善、NOx低減をより高めたエンジンの燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に係る発明は、
吸・排気弁のバルブオーバラップ量が可変であり、かつ、燃焼室内のガス流動を制御することにより燃焼状態を制御する流動制御弁を備えたエンジンの燃焼制御装置であって、
燃焼室内の残留ガス率を推定し、エンジン運転領域毎に予め算出された残留ガス率の基本値と、前記推定による実際の残留ガス率との差分と、エンジン回転速度と、に基づいて、流動制御弁の補正制御量を算出し、流動制御弁を補正制御することを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る発明によると、
定常運転に応じた残留ガス率の基本値と、過渡運転時に変化する実際の残留ガス率との相違に応じて、流動制御弁の補正制御量を適切に算出して補正制御することができ、過渡運転時に安定した燃焼性を確保してエンストを未然に防止できると共に、定常運転時には過渡時の残留ガス増加分を考慮することなく、可能な限り残留ガス量を大きくすることができるので、十分に排気浄化性能、燃費を改善することができる。
また、流動制御弁が同一に制御されても、エンジン回転速度によってもガス流動が変化するので、前記残留ガス率の差分とエンジン回転速度とに基づいて、高精度に補正制御量を算出することができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、
吸・排気弁のバルブオーバラップ量が目標値より大きいときに、前記流動制御弁を、燃焼室内のガス流動が強化されるように制御することを特徴とする。
請求項2に係る発明によると、
吸・排気弁のバルブオーバラップ量が目標値より大きく、残留ガス量が目標値より大きくなる過渡運転時に流動制御弁を、燃焼室内のガス流動が強化されるように制御することにより、残留ガス増大分による燃焼性悪化を防止できる。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、
前記流動制御弁は、吸気ポートの開口面積を制御して燃焼室内のスワールを制御する弁であることを特徴とする。
請求項3に係る発明によると、
吸気ポートの開口面積を制御することにより、燃焼室内に流入する吸気の流速や流動中心線の位置が変化し、スワール比(スワール強さ)を可変に制御することができ、燃焼性を効果的に制御できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態のシステム構成を示す図1において、エンジン(内燃機関)1の吸気弁2、排気弁3は、それぞれ吸気弁用カム4、排気弁用カム5によって駆動され、特に、吸気弁用カム4は電磁ブレーキ式、油圧制御式(電磁式油圧制御弁の制御)等の可変動弁機構(VTC)41によりクランク軸に対する回転位相を可変に制御され、それによって吸気弁2のバルブタイミングが可変に制御される。ただし、本発明の適用には、吸気弁または排気弁の少なくとも一方のバルブタイミングが可変であって、吸・排気弁のバルブオーバラップ量を可変とできる構成とすればよく、また、バルブタイミングの他、リフト量も可変とする構成であってもよい。
【0014】
エンジン1の燃焼室6の中心部にはパワートランジスタを内蔵した点火コイル7によって点火駆動される点火プラグ8が装着される。
エンジン1の吸気通路9には、上流側からエアクリーナ10、電子制御式のスロットル弁11、気筒毎に分岐する各吸気ポート部分に燃焼室内のスワール(ガス流動)を制御するスワールコントロールバルブ(流動制御弁)12及び燃料を噴射する燃料噴射弁13が介装されている。
【0015】
エンジン1の排気通路14には、機能が同一または異なる2つの排気浄化触媒15,16、マフラー17が介装されている。
各種センサとして、吸気通路9のスロットル弁11の上流側に吸入空気量を検出するエアフローメータ18、下流側に吸気圧力を検出する吸気圧センサ19が装着され、排気通路14の排気浄化触媒15の上流側に排気温度を検出する排気温度センサ20、排気中酸素濃度の検出を介して空燃比を検出する空燃比センサ21が装着され、さらに、エンジン本体にエンジン冷却水温度Twを検出する水温センサ22、エンジン回転速度検出用として単位クランク角毎にPOS信号を出力すると共に気筒間行程位相差(720°/気筒数)毎にREF信号を出力するクランク角センサ23、吸気弁用カム4の回転に同期して気筒判別用のPHASE信号を出力するカムセンサ24、ユーザーにより操作されるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ25が装着されている。
【0016】
前記各種センサからの検出信号は、コントロールユニット31に入力され、コントロールユニット31は、これら入力した検出信号に基づいてエンジン運転状態に応じた各種エンジン制御、具体的には、前記点火コイル7を介しての点火プラグ8による点火制御、燃料噴射弁13による燃料噴射制御、前記吸気弁用カム4、排気弁用カム5による吸・排気弁のバルブタイミング制御を行うと共に、本発明にかかる制御として、燃焼室内の残留ガス量を推定しつつ前記スワールコントロールバルブ12による燃焼室のガス流動制御を介して燃焼状態を制御する。
【0017】
上記スワールコントロールバルブによる制御の概要を、図2の制御ブロック図と図3のメインルーチンのフローチャートを参照して説明する。
図2において、残留ガス率算出部は、エンジン回転速度Ne、バルブオーバラップ量O/L、スロットル弁下流の吸気圧Pa、排気温度Et、吸入空気量Qaに基づいて、現在のエンジン状態に応じた燃焼室内の残留ガス率を推定により算出する。
【0018】
残留ガス率基本値算出部は、エンジン回転速度Neとエンジン負荷を代表する基本燃料噴射量(燃料噴射パルス幅基本値)Tpとに基づいて、定常運転状態での残留ガス率基本値を算出する。
スワールコントロールバルブ基本開口面積算出部は、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accとに基づいて、定常運転状態でのスワールコントロールバルブ12の基本開口面積を算出する。
【0019】
スワールコントロールバルブ開口面積補正判定部は、前記スワールコントロールバルブ12の基本開口面積、エンジン回転速度Ne、バルブオーバラップ量O/L、アクセル開度Accに基づいて、スワールコントロールバルブ12の開口面積を補正するか否かを判定する。
スワールコントロールバルブ開口面積補正量算出部は、前記スワールコントロールバルブ12の基本開口面積、エンジン回転速度Ne、残留ガス率基本値、基本燃料噴射量(燃料噴射パルス幅基本値)Tpに基づいて、スワールコントロールバルブ12の開口面積補正量を算出する。
【0020】
目標スワールコントロールバルブ開度算出部は、前記スワールコントロールバルブ12の基本開口面積、開口面積補正量、開口面積を補正するか否かの判定結果に基づいて、補正の有無に応じた開口面積に対応する目標開度を算出する。
上記のように算出した目標開度となるようにスワールコントロールバルブ12が制御される。
【0021】
図3は、上記スワールコントロールバルブによる制御のメインルーチンのフローチャートを示す。
ステップ1では、エンジン回転速度Neとアクセル開度Acc(又は目標スロットル開度)とに基づいて、図9に示したマップからの参照により、定常運転状態でのスワールコントロールバルブ12の開口面積基本値を算出する(図2のスワールコントロールバルブ基本開口面積算出部)。
【0022】
ステップ2では、スワールコントロールバルブ12の開口面積を補正するか否かを判定する(図2のスワールコントロールバルブ開口面積補正判定部)。
ステップ3では、前記判定結果を示すスワールコントロールバルブ開口面積補正判定フラグの値を判別する。
前記判定フラグが1である開口面積補正時は、ステップ4へ進んで、スワールコントロールバルブ12の開口面積補正量を算出する(図2のスワールコントロールバルブ開口面積補正量算出部)。
【0023】
前記判定フラグが0のときは、開口面積補正を行わないので、ステップ5へ進んで、スワールコントロールバルブ12の開口面積補正量を0とする。
ステップ6では、スワールコントロールバルブ12の最終的な目標開口面積を、前記基本開口面積から開口面積補正量を減算することによって算出する(図2のスワールコントロールバルブ開口面積補正量算出部)。
【0024】
ステップ7では、図10に示した目標開口面積−目標開度の変換テーブルを参照して、前記目標開口面積を目標開度に変換する(図2の目標スワールコントロールバルブ開度算出部)。
図4は、上記図3のステップ2で行うスワールコントロールバルブ開口面積補正判定のサブルーチンを示す。
【0025】
ステップ11では、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accに基づいて、前記可変動弁機構(VTC)41の動作角目標値を、マップから参照して設定する。ここで、可変動弁機構41が、吸気弁3をバルブオーバラップ量が増大する方向つまり進角方向に動作させるときの、クランク角相当の動作量の目標値を目標動作角として設定する。
【0026】
ステップ12では、前記VTC動作角の現在値から前記目標動作角を減算した値が所定値(>0)以上大きいか、つまり、現在の吸気弁3のバルブタイミングが目標値より所定値以上進角側にずれているかを判定する。ここで、VTC動作角の現在値は、前記クランク角センサからのREF信号及びPOS信号と、カムセンサからのPHASE信号とに基づいて算出される。吸気弁3が進角側にずれると、バルブオーバラップ量が目標値より大きく、残留ガス率が目標値より大きくなって燃焼性を低下させるので、スワールを強化して該燃焼性低下を抑制する。
【0027】
ステップ12で動作角の現在値が目標動作角より所定値以上大きいと判定されたときは、ステップ13へ進み、スワールコントロールバルブ13が全閉でないか、つまり閉じ代を有しているかを判定し、全閉でないと判定されたときは、ステップ14へ進んで、スワールコントロールバルブ12の開度を減少補正してスワールを強化させるように、スワールコントロールバルブ開口面積補正フラグを1にセットする。
【0028】
図5は、上記図3のステップ4で行うスワールコントロールバルブ開口面積補正量算出のサブルーチンを示す。
ステップ21では、エンジン回転速度Neと、基本燃料噴射量(燃料噴射パルス幅基本値)Tpから図11に示したマップを参照して残留ガス率基本値を算出する。
【0029】
ステップ22では、現在の実際の残留ガス率を推定により算出する。
ステップ23では、前記現在の残留ガス率と残留ガス率基本値との差分を算出する。
残留ガス率差分=現在の残留ガス率−残留ガス率基本値
ステップ24では、エンジン回転速度Neと前記残留ガス率差分から図12に示したマップを参照して、スワールコントロールバルブ開口面積補正量を算出する。
【0030】
図6は、上記図5のステップ22で行う残留ガス率算出のサブルーチンを示す。
ステップ31では、検出された排気温度に基づいて、図13に示したテーブルを参照して残留ガス質量基本値を設定する。
ステップ32では、前記VTC動作角に基づいて、図14に示したテーブルを参照してバルブオーバラップ量O/Lを設定する。
【0031】
ステップ33では、前記バルブオーバラップ量O/Lが、0より大きい正の値であるか否かを判定する。
バルブオーバラップ量O/Lが正の値と判定されたときは、ステップ34へ進み、該バルブオーバラップ量O/Lとエンジン回転速度Neとに基づいて、バルブオーバラップしているバルブオーバラップO/L時間を算出する。
【0032】
ステップ35では、前記O/L時間と、吸気圧力Paとに基づいて、該バルブオーバラップO/L時間中に、排気ポートを介して燃焼室内に吹き抜けるガス(排気)の体積を、図15に示したマップを参照して算出する。
ステップ36では、前記吹き抜けガスの体積と排気温度とに基づいて、該吹き抜けガスの質量を、図16に示したマップを参照して算出する。
【0033】
ステップ37では、次式のように、残留ガス質量を、前記残留ガス基本値に前記吹き抜けガス質量を加算して算出する。
残留ガス質量=残留ガス基本値+吹き抜けガス質量
ステップ38では、次式のように、前記残留ガス質量と吸入空気質量とに基づいて残留ガス率を算出する。
【0034】
残留ガス率=残留ガス質量/(残留ガス質量+吸入空気質量)×100[%]
なお、ステップ33で前記バルブオーバラップ量O/Lが、0以下と判定されたときは、吹き抜けガス質量を0としてステップ37へ進む。この場合は、残留ガス質量は残留ガス基本値となる。
図7は、本実施形態による制御時の様子を示す。
【0035】
アイドル域で、VTC動作角目標値がバルブオーバラップ量O/Lを最小とする値に設定されると、VTCの動作遅れにより実際の動作角の変化に遅れを生じ、バルブオーバラップ量O/Lは、目標値より大きくなる。その結果、前記バルブオーバラップ量O/Lの目標値に対する増大分と、エンジン回転速度Neと、吸気圧力とで決まる残留ガスの過渡時増大分を生じる。
【0036】
そこで、スワールコントロールバルブの開度を、アイドル域での目標値に対し、前記残留ガスの過渡時増大分に見合って量だけ減少して、スワールを強化することにより、燃焼悪化が抑制されエンストを未然に防止できる。
従来、過渡時の残留ガス増加分を考慮して、VTC制御によるバルブオーバラップ量を予め小さめに設定して残留ガス量を少なくしておく方式では、残留ガス量が要求値より少ないため、十分に排気浄化性能、燃費を改善することができないが、本発明では、過渡運転時にリアルタイムで残留ガス量増加分を推定した制御を行い、定常運転時には過渡時の残留ガス増加分を考慮することなく、可能な限り残留ガス量を大きくすることができるので、十分に排気浄化性能、燃費を改善することができる。
【0037】
また、過渡時の残留ガス増加分を推定してフィードフォワードでスワールコントロールバルブの開度を減少補正することにより、燃焼性悪化に起因する回転変動を検出してからスワールコントロールバルブの開度を補正するフィードバック方式に比較して、遅れの無い開度補正制御によって燃焼性悪化ひいてはエンストの発生を未然に防止できる。
【0038】
図8は、残留ガス率とスワールコントロールバルブの開口面積との関係を示し、定常運転時の開口面積設定点に対し、過渡運転時の残留ガス量増大による燃焼悪化傾向の増大に応じて開口面積を減少補正することにより、燃焼安定領域に維持させることができることを表している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るシステム構成図。
【図2】同上実施形態の制御ブロック図。
【図3】同じくスワールコントロールバルブによる制御のメインルーチンのフローチャート。
【図4】同じくスワールコントロールバルブ開口面積補正判定のサブルーチンのフローチャート。
【図5】同じくスワールコントロールバルブ開口面積補正量算出のサブルーチンのフローチャート。
【図6】同じく残留ガス率算出のサブルーチンのフローチャート。
【図7】同じく同上制御時の各種状態量の変化の様子を示すタイムチャート。
【図8】同じく残留ガス率とスワールコントロールバルブの開口面積との関係を示す図。
【図9】同じくスワールコントロールバルブの開口面積基本値のマップ。
【図10】同じく目標開口面積−目標開度の変換テーブル。
【図11】同じく残留ガス率基本値のマップ。
【図12】同じくスワールコントロールバルブ開口面積補正量のマップ。
【図13】同じく残留ガス質量基本値のテーブル。
【図14】同じくバルブオーバラップ量O/Lのテーブル。
【図15】同じく吹き抜けガス体積のマップ。
【図16】同じく吹き抜けガス質量のマップ。
【符号の説明】
1 エンジン
2 吸気弁
3 排気弁
4 吸気弁用カム
6 燃焼室
11 スロットル弁
12 スワールコントロールバルブ
13 燃料噴射弁
19 吸気圧センサ
20 排気温度センサ
23 クランク角センサ
24 カムセンサ
25 アクセル開度センサ
31 コントロールユニット
Claims (3)
- 吸・排気弁のバルブオーバラップ量が可変であり、かつ、燃焼室内のガス流動を制御することにより燃焼状態を制御する流動制御弁を備えたエンジンの燃焼制御装置であって、
燃焼室内の残留ガス率を推定し、エンジン運転領域毎に予め算出された残留ガス率の基本値と、前記推定による実際の残留ガス率との差分と、エンジン回転速度と、に基づいて、流動制御弁の補正制御量を算出し、流動制御弁を補正制御することを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。 - 吸・排気弁のバルブオーバラップ量が目標値より大きいときに、前記流動制御弁を、燃焼室内のガス流動が強化されるように制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃焼制御装置。
- 前記流動制御弁は、吸気ポートの開口面積を制御して燃焼室内のスワールを制御する弁であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジンの燃焼制御装置。
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