JP4018237B2 - 酵素活性測定用リパーゼ基質溶液およびリパーゼ活性測定用試薬キット - Google Patents
酵素活性測定用リパーゼ基質溶液およびリパーゼ活性測定用試薬キット Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なリパーゼ基質可溶化剤により特定のリパーゼ基質を可溶化した酵素活性測定用リパーゼ基質溶液およびこの酵素活性測定用リパーゼ基質溶液を使用したリパーゼ活性測定用試薬キットに関する。さらに詳しくは、本発明は、リパーゼ基質可溶化剤として1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを使用して特定のリパーゼ基質を可溶化した酵素活性測定用リパーゼ基質溶液およびこの酵素活性測定用リパーゼ基質溶液を使用したリパーゼ活性測定用試薬キットに関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
リパーゼはグリセロールと脂肪酸とのグリセロールエステルを加水分解する酵素であり、広く生物界に分布している。
哺乳動物では、食物として摂取された脂肪を消化するために、特にその多量が膵臓に存在している。それ故、ヒトにおいては膵疾患時に膵細胞の崩壊により、このリパーゼが膵臓から血液中に放出されて、血液中のリパーゼ活性は健常時に比較して高くなる。従って、血漿および血清などのそれぞれの被検体中のリパーゼ活性を正確に測定することにより膵疾患に罹っているかどうかを的確に診断することができる。
【0003】
たとえば、血液および血清などのそれぞれの被検体中のリパーゼ活性を測定するためには、他の酵素活性測定の場合と同様に、リパーゼ活性が測定されるべき一定量の被検体と所定量のリパーゼ基質とを混合して酵素反応を起こさせ、この酵素反応に基づくリパーゼ基質の変化量および/または残存量が、比色法およびUV法(紫外線吸収法)などの分析手段によって測定される。
しかして、これらの測定法においては、リパーゼ基質を実質的に透明なリパーゼ基質溶液となるように可溶化しなければならない。
【0004】
しかしながら、従来のリパーゼ基質可溶化剤によって可溶化されたリパーゼ基質を含有せしめたリパーゼ基質溶液は、実用上、満足できるような高い透明度が得られず、また、仮に、高い透明度のリパーゼ基質溶液が得られたとしても、その安定性が小さく、しばしば白濁や沈殿が生じるため、それが調製された後、短時間のうちに測定に使用しなければならなかった。従って、従来はこのような理由からリパーゼ活性の測定の都度、リパーゼ基質溶液を調製しなければならなかったので、極めて煩雑であった。
【0005】
本発明者らは、リパーゼ活性の測定時に被検体であるリパーゼ含有液に含有せしめてもリパーゼの活性を実質的に低下せしめることがないのは勿論のこと、リパーゼ基質を可溶化し高い透明度のリパーゼ基質溶液が得られ、かつ、このリパーゼ基質溶液は安定性が高く、その高い透明度を長期間にわたって維持することができるようなリパーゼ基質の可溶化剤を探索すべく鋭意研鑚を重ねた結果、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンがこの目的を達成し、かつ、上記の従来技術の欠点を完全に克服し得るとの新知見を得、この新知見に基づいて本発明に到達することができた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本第一発明は、下記の一般式で表わされるリパーゼ基質、リパーゼ基質可溶化剤であり、下記の構造式で示される1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび有機溶媒を含有することを特徴とする酵素活性測定用リパーゼ基質溶液である。
【0007】
一般式
【0008】
[式中、Aはメチレン基もしくは炭素原子数2〜16のアルキレン基または炭素原子数2〜16のアルケニレン基を表わし;R1とR2とは互いに同一または異なって、それぞれ炭素原子数1〜20のアルキル基もしくはアシル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいアリール基または炭素原子数が1〜8のアルキル基から誘導されたアルアルキル基を表わす。ただし、R1とR2とのいずれか一方が水素原子であってもよい;Xは芳香族ヒドロキシ化合物から誘導された基または芳香族チオール化合物から誘導された基を表わす;YとZは互いに独立に硫黄原子もしくは酸素原子を表わす;また、Zはメチレン基であってもよい。]
【0009】
本第二発明は、緩衝液にリパーゼ賦活剤を溶解せしめてなる第1試薬ならびに本第一発明の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液である第2試薬a液およびコリパーゼ含有液である第2試薬b液との混合液である第2試薬が組合わされてなるリパーゼ活性測定用試薬キットである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本第一発明の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液は上記の一般式で表わされるリパーゼ基質(以下 特定のリパーゼ基質 と記すこともある)および1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを有機溶媒に実質的に完全に溶解せしめた溶液である。この酵素活性測定用リパーゼ基質溶液は本第二発明のリパーゼ活性測定用試薬キットの第2試薬a液とされる。
上記の特定のリパーゼ基質それ自体は公知であり、たとえば、特公平6−87800号公報記載のリパーゼ基質が好ましい。
【0011】
すなわち、この特定のリパーゼ基質は上記の一般式で示された化合物である。この一般式において、Aであるアルキレン基は脂肪族飽和炭化水素中の異なる炭素原子のそれぞれに結合する1個、計2個の水素原子を除いて生ずる2価の原子団と定義され、また、アルケニレン基は二重結合をもつ脂肪族炭化水素中の異なる2個の炭素原子のそれぞれに結合する1個、計2個の水素原子を除いて生ずる2価の原子団と定義される。Aであるアルキレン基およびアルケニレン基は、いずれも炭素数3〜7のものが好ましい。アルキレン基としては、たとえば、プロピレン基、α−ブチレン基、β−ブチレン基、γ−ブチレン基およびテトラメチレン基などを挙げることができる。また、アルケニレン基としては、たとえば、プロペニレン基および2−ブテニレン基などを挙げることができる。
【0012】
R1およびR2はそれぞれ炭素数6〜18のものが好ましく、炭素数8〜12のものが特に好ましい。また、R1およびR2はそれぞれアルキル基が好ましい。
また、芳香族ヒドロキシ化合物から誘導された基または芳香族チオール化合物から誘導された基Xは、芳香族ヒドロキシ化合物のヒドロキシル基および芳香族チオール化合物のメルカプト基のそれぞれから水素原子を除去して生じた基である。上記の芳香族ヒドロキシ化合物および芳香族チオール化合物は、最初から発色団を形成するか、リパーゼとの反応によって発色団に変換され得るものであり、リパーゼ活性を阻害しないものであればよく、特に制限はないが、好ましい代表例として、フェノール、ナフトール、チオフェノールおよびチオナフトールならびにこれらの誘導体であるレゾルフィン、メチルレゾルフィン、フルオレセインおよびチオフルオレセインなどを挙げることができる。
【0013】
特定のリパーゼ基質の代表例として1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルまたは1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−レゾルフィンエステルなどを挙げることができる。これらのリパーゼ基質として、市販品をそのまま使用することができる。市販品として、たとえば、ベーリンガー・マンハイム社(Boehringer Manheim Biochemica)から販売されている市販品がある。
【0014】
1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンは次の構造式によって示される化合物であり、市販品を使用することができる。
市販品の代表例としてアヴァンチ ポーラー リピッズ社(AVANTI POLAR LIPIDS,Inc.)の商品であるL−α−レシチンジフィタノイルがある。
【0015】
構造式
【0016】
第2試薬a液の有機溶媒は、リパーゼの活性を阻害せず、特定のリパーゼ基質と1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンとを溶解し、水に対する溶解性の大きい有機溶剤であれば特に制限はないが、実用上、炭素数1乃至4の脂肪族低級アルコールおよびアセトンなどのそれぞれが好ましく、炭素数1乃至4の脂肪族低級アルコールとしては、イソプロピルアルコールが最も好ましい。
【0017】
有機溶媒の使用量は、有機溶媒の種類およびリパーゼ基質の種類などによって異なり、一概に特定し得ないが、特定のリパーゼ基質と1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンとの両者を溶解し得る量の最少量とされるべきである。有機溶媒が上記の脂肪族低級アルコールまたはアセトンである場合には、第2試薬a液として、特定のリパーゼ基質1ミリモルに対して、通常は、10〜250ml程度が好ましく、30〜150ml程度が特に好ましい。
【0018】
また、特定のリパーゼ基質の使用量は、リパーゼ基質の種類、有機溶媒の種類および1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの量などによって異なり、一概に特定し得ないが、有機溶媒が上記の脂肪族低級アルコールまたはアセトンで、特定のリパーゼ基質が上記の1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルまたは1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−レゾルフィンエステルである場合には、第2試薬a液中の濃度として、好ましくは4〜40mM、特に好ましくは10〜30mMとなるような量とされる。
【0019】
一方、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの使用量は、リパーゼ基質の種類および有機溶媒の種類などによって異なり、一概に特定し得ないが、有機溶媒が上記の脂肪族低級アルコールまたはアセトンである場合には、第2試薬a液中の濃度として、好ましくは0.3〜5mM、特に好ましくは2〜4mMとなるような量とされる。
【0020】
本第二発明のリパーゼ活性測定用試薬キットにおいては、このような本第一発明の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液である第2試薬a液とコリパーゼを含有する第2試薬b液とを混合して第2試薬としている。
すなわち、本第二発明のリパーゼ活性測定用試薬キットは、緩衝液に、たとえば、上記のデオキシコール酸のようなリパーゼ賦活剤を溶解せしめてなる第1試薬およびリパーゼ基質溶液である第2試薬a液とコリパーゼを含有する第2試薬b液との混合液である第2試薬が組み合わされてなるものである。第1試薬を構成する緩衝液の調製に用いられる緩衝剤およびリパーゼ賦活剤のそれぞれはそれ自体公知のものでよく、それらは市販品をそのまま使用することができる。
【0021】
上記の如く、第1試薬は緩衝液に、たとえば、デオキシコール酸のようなリパーゼ賦活剤を溶解せしめた溶液であるが、緩衝液の調製に用いられる緩衝剤として、通常は、たとえば、グッド緩衝液の調製に使用される両性イオン緩衝剤が好適に使用される。就中、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(以下 BES と記す)またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが最も好ましい。
【0022】
緩衝液の調製に用いられる緩衝剤の該緩衝液中の濃度は、緩衝剤の種類によって異なるが、通常は、5〜150mMが好ましく、15〜100mMが特に好ましい。
第1試薬のリパーゼ賦活剤としてはデオキシコール酸が最も好ましいが、その他のリパーゼ賦活剤を使用することもできる。
第1試薬中のリパーゼ賦活剤の濃度は、たとえば、リパーゼ賦活剤の種類などによって異なり、一概に特定し得ないが、リパーゼ賦活剤がデオキシコール酸である場合には、通常は、10〜60mM程度が好ましく、20〜40mM程度が特に好ましい。
【0023】
第2試薬b液は、コリパーゼとともに、さらに所望によって酒石酸、水溶性のカルシウム塩などのリパーゼ活性化剤および陰イオン界面活性剤を含有せしめた水溶液である。
上記のリパーゼ活性化剤である水溶性のカルシウム塩としては、通常は、水溶性の有機酸または無機酸のカルシウム塩が好適に使用され、酢酸カルシウムが最も好ましい。なお、水溶性のカルシウム塩以外のリパーゼ活性剤を使用することを妨げない。
陰イオン界面活性剤として、ドデシルスルホン酸アルカリ金属塩が好ましく、就中、ドデシルスルホン酸リチウムまたはドデシルスルホン酸ナトリウムが最も好ましい。
なお、ドデシルスルホン酸アルカリ金属塩以外の陰イオン界面活性剤剤を使用することを妨げない。
【0024】
第2試薬b液におけるコリパーゼの濃度は、通常行なわれているリパーゼと過剰のコリパーゼとの共存下における1,2,3−トリブチルグリセリドを基質としたリパーゼ活性から求められる、所謂、コリパーゼの活性の大きさによって異なり一概に特定し得ないが、たとえば、1mg当り112,000単位の活性を有する市販コリパーゼ(ベーリンガー・マンハイム社の商品)を使用する場合は、0.1〜50μg/ml程度が好ましく、1〜20μg/ml程度が特に好ましい。
【0025】
第2試薬b液の酒石酸の濃度は、1〜100mM程度が好ましく、5〜50mM程度が特に好ましい。
また、第2試薬b液のリパーゼ活性化剤の濃度は、リパーゼ活性化剤の種類によって異なるが、リパーゼ活性化剤が水溶性のカルシウム塩の場合には、0.1〜10mM程度が好ましく、0.2〜5mM程度が特に好ましい。
第2試薬b液の陰イオン界面活性剤の濃度は、陰イオン界面活性剤の種類によって異なり、一概に特定し得ないが、第2試薬b液として、通常は、0.1〜50mM程度が好ましく、0.5〜10mM程度が特に好ましい。
【0026】
しかして、上記の第2試薬a液と上記の第2試薬b液との混合比率が所定の比率とされた混合液である第2試薬および上記の第1試薬が組合わされて、リパーゼ活性測定用試薬キットとされる。
第2試薬を調製する際の第2試薬a液と第2試薬b液との混合比率は、リパーゼ基質の種類、有機溶媒の種類および1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの量ならびに所望により含有せしめられるリパーゼ活性化剤の種類および陰イオン界面活性剤の種類などによって異なり一概に特定し得ないが、第2試薬a液1容量部に対して第2試薬b液が、好ましくは、4〜18容量部、特に好ましくは、6〜12容量部とされる。
【0027】
このリパーゼ活性測定用試薬キットを使用した被検体中のリパーゼ活性の測定は常法の如く行われる。
すなわち、血清などの被検体のリパーゼ活性の測定においては、リパーゼ活性測定用試薬キットの第1試薬の所定量に、一定量の被検体を添加して所定温度で所定時間プレインキュベーションし、これと、予め第2試薬a液と第2試薬b液とが所定の混合比率で混合・調製されたリパーゼ活性測定用試薬キットの第2試薬の所定量とを混合して酵素反応を起させ、その酵素活性を比色法によって測定する。
【0028】
上記の第1試薬および第2試薬のそれぞれは、それらの所要量を瓶などのそれぞれの容器に充填して1つの包装容器に収納しセットとされてリパーゼ活性測定用試薬キットとされる。
なお、本第二発明のリパーゼ活性測定用試薬キットの第1試薬および第2試薬はいずれも安定性が大きく、長期間の保存に耐えるものである。
【0029】
【実施例】
本発明を次の実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
分析方法:
日立7050型自動分析装置を用いて、次のようにして分析を行った。なお、実施例2以降においても同様である。
【0030】
各第1試薬300μlに対して各被検血清(1〜n)4μlずつを加えた混合液を、37℃で5分間プレインキュベーションした。
プレインキュベーション後、これらの混合液に第2試薬100μlずつをそれぞれ添加して酵素反応を開始せしめた。
【0031】
各被検血清(1〜n)の酵素反応開始から約3分20秒後(26測定点)および約4分20秒後(29測定点)のそれぞれにおける主波長600nm(副波長700nm)の吸光度を測定し、これらをそれぞれA1(1-n)mAbsおよびA2(1-n)mAbsとした。
なお、実施例における各被検血清(1〜n)として、ベーリンガー・マンハイム社から市販されており、リパーゼ活性485.6IU/lの管理用コントロール血清であるプレチパス−U(登録商標)およびその一連の倍数希釈液を使用した。
【0032】
一方、被検血清の代りに生理食塩水を使用した他は、上記と同様にして約3分20秒後(26測定点)および約4分20秒後(29測定点)において測定した吸光度をそれぞれA3mAbsおよびA4mAbsとした。
このように測定して得られた各被検血清(1〜n)における吸光度A1(1-n)mAbsおよびA2(1-n)mAbsならびに生理食塩水における吸光度A3mAbsおよびA4mAbsから、次式によって被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性を示すそれぞれの吸光度A(1-n)mAbsを算出し、検量線を作成した。
A(1-n)mAbs=[A2(1-n)mAbs−A1(1-n)mAbs]−(A4mAbs−A3mAbs)
【0033】
第1試薬の調製:
BES(株式会社同仁化学研究所の商品)とデオキシコール酸(ベーリンガー・マンハイム社の商品)とをそれぞれ精製水に溶解せしめて、60mMBES−26.7mMデオキシコール酸混合液である第1試薬を得た。
【0034】
第2試薬の調製:
(a)第2試薬a液の調製
1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステル(ベーリンガー・マンハイム社の商品)12mgをイソプロピルアルコール(片山化学工業株式会社の商品)1mlに溶解した溶液に本発明における新規なリパーゼ基質可溶化剤である1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(アヴァンチ ポーラー リピッズ社の商品、商品名L−α−レシチンジフィタノイル)21mgを溶解せしめて第2試薬a液を得た。
【0035】
(b)第2試薬b液の調製
酒石酸(片山化学工業株式会社の商品)6.8mg、酢酸カルシウム(片山化学工業株式会社の商品)0.35mg、ドデシルスルホン酸リチウム(和光純薬株式会社の商品)2.5mgおよびコリパーゼ(ベーリンガー・マンハイム社の商品)20μgを精製水4.5mlに溶解せしめて第2試薬b液を得た。
【0036】
(c)第2試薬の調製
第2試薬b液4.5mlを攪拌しつつ、これに第2試薬a液0.5mlを少量ずつ滴下して混合し、第2試薬を得た。
【0037】
(d)第2試薬における各成分の濃度
上記のようにして調製された第2試薬の各成分の濃度を以下に示す。
酒石酸 9.0mM
酢酸カルシウム 0.4mM
ドデシルスルフェート・リチウム 1.8mM
コリパーゼ 4 μg/ml
1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸
−(6'−メチルレゾルフィン)−エステル 1.6mM
イソプロピルアルコール 10 重量%
1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−
ホスホコリン 2.5mM
【0038】
結果:
このようにして調製された直後の第1試薬と第2試薬とを使用して各被検血清(1〜n)のリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めた。結果を図1の直線(イ)に示す。
上記の第1試薬と第2試薬のそれぞれを調製後、8℃で12カ月間保存し、この第1試薬と第2試薬とを使用して各被検血清(1〜n)のリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めた。結果を図1の直線(ロ)に示す。
【0039】
比較のために、リパーゼ基質可溶化剤として1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの替りにL−α−ホスファチジルコリン(アヴァンチ ポーラー リピッズ社の商品)を使用した他は、上記と同様にして調製した直後の第1試薬と第2試薬とを使用して各被検血清(1〜n)について同様にしてリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めた。結果を図1の直線(ハ)に示す。
また、上記の第1試薬とリパーゼ基質可溶化剤をL−α−ホスファチジルコリンとした第2試薬のそれぞれを調製後、8℃で12カ月間保存し、この第1試薬と第2試薬とを使用して各被検血清(1〜n)のリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めた。結果を図1の直線(ニ)に示す。
【0040】
図1は各被検血清(1〜n)のそれぞれの希釈率と上記のようにして測定されたこれらの各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性値を示す吸光度A(1-n)mAbsとの関係線である検量線(以下 検量線 と記す)を示している。
図1に示されているように、いずれの第1試薬および第2試薬を使用した場合でも、検量線は直線であり、各被検血清(1〜n)のそれぞれの希釈率とその希釈率に対応するそれぞれの被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性値を示す吸光度A(1-n)mAbsとの間には直線関係が成立する。
【0041】
また、直線(イ)および直線(ロ)のそれぞれに示されているように、リパーゼ基質可溶化剤を1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンとした第2試薬を使用した場合には、第1試薬および第2試薬の調製直後および8℃での12ヵ月保存の如何に拘わらず、それぞれの直線は原点を通過し、これらの直線の勾配はいずれもほぼ等しかった。
【0042】
他方、直線(ハ)および直線(ニ)のそれぞれに示されているように、リパーゼ基質可溶化剤をL−α−ホスファチジルコリンとした第2試薬を使用した場合には、第1試薬および第2試薬の調製直後と8℃での12ヵ月保存後とでは、それぞれの直線の勾配は実質的に等しかった。しかしながら、第1試薬および第2試薬の調製直後の場合には検量線である直線は原点を通過したが、第1試薬および第2試薬を8℃で12ヵ月保存した場合には、検量線である直線は調製直後のそれに比して、直線全体が約10mAbsも大きく上方に平行移動していた。これはリパーゼ基質可溶化剤を1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンに替えてL−α−ホスファチジルコリンとした第2試薬は保存安定性に欠け、長期間の保存に耐え得るものではないことを物語っている。
【0043】
実施例2
第1試薬における緩衝液の調製に用いられる緩衝剤をBESからトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(片山化学工業株式会社の商品)に替えた以外は、実施例1と同様に行って、実施例1におけると同様な結果が得られた。
【0044】
実施例3
第2試薬a液における特定のリパーゼ基質を1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルから1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−レゾルフィンエステル(ベーリンガー・マンハイム社の商品)に替えた以外は、実施例1と同様に行って、実施例1におけると同様な結果が得られた。
【0045】
実施例4
第1試薬における緩衝液の調製に用いられる緩衝剤をBESからトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンに替え、さらに、第2試薬a液における特定のリパーゼ基質を1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルから1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−レゾルフィンエステルに、また、リパーゼ基質可溶化剤である1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの第2試薬における濃度を2.5mMから、2.0mMおよび3.8mMのいずれかに替えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
結果を図2に示す。
なお、図2において、(ホ)乃至(チ)の各直線は次のように調製された第2試薬を使用した場合の検量線である。すなわち、
(ホ)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が2.0mMで、調製直後。
(ヘ)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が2.0mMで、8℃での12ヵ月保存後。
(ト)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が3.8mMで、調製直後。
(チ)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が3.8mMで、8℃での12ヵ月保存後。
【0047】
図2に示されているように、リパーゼ基質可溶化剤である1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が2.0mMおよび3.8mMのそれぞれであり、その各濃度の調製直後および8℃での12ヵ月保存後の各第2試薬を使用して各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めたとき、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が同じ第2試薬では、長期間にわたる保存にも拘わらず、ほぼ同一な検量線が得られた。なお、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの濃度が異なるそれぞれの第2試薬を使用した場合の検量線の勾配はそれぞれ異なり、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン濃度2.0mMの第2試薬を使用した場合の検量線の勾配は、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン濃度3.8mMの第2試薬を使用した場合のそれに比して大きかった。
【0048】
実施例5
第2試薬の陰イオン界面活性剤をドデシルスルホン酸リチウムからドデシルスルホン酸ナトリウム(和光純薬株式会社の商品)に替えた以外は、実施例1と同様に行って、実施例1におけると同様な結果が得られた。
【0049】
実施例6
第2試薬の有機溶媒をイソプロピルアルコールからアセトン(片山化学工業株式会社の商品)に替えた以外は、実施例1と同様に行って、実施例1におけると同様な結果が得られた。
【0050】
実施例7
第2試薬の陰イオン界面活性剤をドデシルスルホン酸リチウムからドデシルスルホン酸ナトリウム(和光純薬株式会社の商品)に替え、さらに、第2試薬a液における有機溶媒をイソプロピルアルコールからアセトンに、特定のリパーゼ基質である1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの第2試薬における濃度を1.6mMから、0.4mMおよび3.2mMのいずれかに替えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0051】
結果を図3に示す。
なお、図3において、(リ)乃至(オ)の各直線は次のように調製された第2試薬を使用した場合の検量線である。すなわち、
(リ)1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が0.4mMで、調製直後。
(ヌ)1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が0.4mMで、8℃での12ヵ月保存後。
(ル)1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が3.2mMで、調製直後。
(オ)1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が3.2mMで、8℃での12ヵ月保存後。
【0052】
図3に示されているように、特定のリパーゼ基質である1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が0.4mMおよび3.2mMのそれぞれであり、その各濃度の調製直後および8℃での12ヵ月保存後の各第2試薬を使用して各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性A(1-n)mAbsを求めたとき、1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が同じ第2試薬では、長期間にわたる保存にも拘わらず、ほぼ同一な検量線が得られた。なお、1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルの濃度が異なるそれぞれの第2試薬における検量線の勾配はそれぞれ異なり、1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステル濃度3.2mMの第2試薬を使用した場合の検量線の勾配は、1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステル濃度0.4mMの第2試薬を使用した場合のそれに比して大きかった。
【0053】
【本発明の効果】
本発明の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液は、リパーゼ基質可溶化剤として1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを使用することにより、溶液の透明度が高く、以て、精度よく、リパーゼ活性の測定を可能とし、かつ、保存安定性が大きく、溶液の高い透明度を長期間にわたって保持することも可能とした。本発明の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液のこのような優れた特性に基づいて、予め調製された該酵素活性測定用リパーゼ基質溶液をリパーゼ活性測定用試薬の一つとし、これと、さらに、別途予め調製されたリパーゼ賦活剤溶液であるリパーゼ活性測定用試薬およびコリパーゼ含有液であるリパーゼ活性測定用試薬とを組み合わせて、リパーゼ活性測定用試薬キットとして市場に流通せしめることができ、リパーゼ活性測定の精度の向上は言うに及ばず、酵素活性測定用リパーゼ基質溶液などのリパーゼ活性測定用試薬を、リパーゼ活性測定の都度、調製しないで済むので、本発明はリパーゼ活性測定作業の省力化にも大きく貢献し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のリパーゼ活性測定用試薬キットを使用して得られた各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性A(1-n)mAbsについての検量線を示す。
【図2】本発明のリパーゼ活性測定用試薬キットを使用して得られた各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性A(1-n)mAbsについての検量線を示す。
【図3】本発明のリパーゼ活性測定用試薬キットを使用して得られた各被検血清(1〜n)におけるリパーゼ活性A(1-n)mAbsについての検量線を示す。
Claims (7)
- 下記の一般式で表わされるリパーゼ基質、リパーゼ基質可溶化剤であり、下記の構造式で示される1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび有機溶媒を含有することを特徴とする酵素活性測定用リパーゼ基質溶液。
一般式
[式中、Aはメチレン基もしくは炭素原子数2〜16のアルキレン基または炭素原子数2〜16のアルケニレン基を表わし;R1とR2とは互いに同一または異なって、それぞれ炭素原子数1〜20のアルキル基もしくはアシル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいアリール基または炭素原子数が1〜8のアルキル基から誘導されたアルアルキル基を表わす。ただし、R1とR2とのいずれか一方が水素原子であってもよい;Xは芳香族ヒドロキシ化合物から誘導された基または芳香族チオール化合物から誘導された基を表わす;YとZは互いに独立に硫黄原子もしくは酸素原子を表わす;また、Zはメチレン基であってもよい。]
構造式
- リパーゼ基質が1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−(6'−メチルレゾルフィン)−エステルまたは1,2−o−ジラウリル−rac−グリセロ−3−グルタル酸−レゾルフィンエステルである請求項1記載の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液。
- 緩衝液にリパーゼ賦活剤を溶解せしめてなる第1試薬ならびに請求項1または2記載の酵素活性測定用リパーゼ基質溶液である第2試薬a液およびコリパーゼ含有液である第2試薬b液との混合液である第2試薬が組合わされてなるリパーゼ活性測定用試薬キット。
- リパーゼ賦活剤がデオキシコール酸である請求項3記載のリパーゼ活性測定用試薬キット
- 第2試薬b液が酒石酸、リパーゼ活性化剤、陰イオン界面活性剤およびコリパーゼを含有する水溶液である請求項3記載のリパーゼ活性測定用試薬キット。
- リパーゼ活性化剤が水溶性のカルシウム塩である請求項5記載のリパーゼ活性測定用試薬キット。
- 陰イオン界面活性剤がドデシルスルホン酸アルカリ金属塩である請求項5または6記載のリパーゼ活性測定用試薬キット。
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