JP4016502B2 - 転炉型精錬炉における地金付着抑制吹錬方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は転炉型精錬炉において、炉内への原料装入操作を円滑に行なうと共に、炉口装置や炉内側壁の円滑な保全を図るために、炉口及び/又は炉内側壁への地金付着を抑制する転炉吹錬方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
転炉精錬において、吹錬中に発生するスピッティング、スロッピングにより飛散した溶鋼及びスラグの一部は炉口や炉内側壁に地金として付着する。付着した地金はヒ−トを続けるにつれて成長し、その大きさがある限度以上になると溶銑及びスクラップ装入の障害になるばかりでなく、吹錬中の浴中への落下や溶融流下により操業に大きな支障をきたす。そこで、上記の付着地金は操業に支障をきたす大きさ以上になる前に除去する必要がある。
【0003】
炉口地金を除去する伝統的方法としては、スクラップシュ−トを炉口地金部にぶつけ物理的に除去する方法がある。しかしながら、この方法は転炉非吹錬時に実施しなければならないので、非製鋼時間の増大を招き転炉生産性を著しく阻害する。また、スクラップシュ−トを炉口地金部に直接ぶつけるため、その衝撃で炉口レンガの脱落をおこす危険性がある。
【0004】
一方、転炉における生産性を阻害することなく吹錬中に発生する排ガスを2次燃焼させ炉口や炉内側壁地金を溶解除去する方法が提案されている。
例えば特開平6−248323号公報は、吹錬中に、吹錬用主ランスの側壁に設けた吹錬用ランス軸に対してθ=25〜40°の範囲内の角度で下向きに取付けられた2次燃焼用酸素供給ノズルから湯面に向けて2次燃焼用酸素を吹き付け、転炉排ガスを炉内で燃焼させ、発生した熱で炉口に付着した地金を溶解・除去する方法(先行技術1)を開示している。
【0005】
また、特開昭61−139616号公報は、転炉精錬中に、吹錬用ノズル及び炉口地金溶解用ノズルを備えた吹錬用ランスを用いて、炉口地金溶解用ノズルから転炉炉口に向けて空気を噴射させることにより炉口地金を溶解・除去する方法(先行技術2)を開示している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、転炉炉口や炉内側壁地金の溶解除去技術の開発に際して、地金の溶解・除去中に耐火物に対する損傷を極力防止し、しかも効率的に地金除去を行ない生産性を確保することを前提として、下記問題の解決を図ることを課題とした。
【0007】
炉口に付着し成長した地金が、溶銑やスクラップの転炉装入作業に支障をきたさないようにし、吹錬中における付着地金の離脱・落下や溶融流下による吹錬終了時における溶鋼温度や成分の異常発生を未然に防止すると共に、炉口耐火物の溶損を回避しつつ地金の付着・成長を抑制して、炉口装置や炉内側壁の補修・維持を良好に行なうために、地金付着状態を良好に管理する必要がある。そのためには、炉口地金溶解用の酸素を地金付着位置に的確に、且つその位置に適正圧力の酸素ガスを適量だけ供給することにより、付着地金を溶解・除去しなければならない。即ち、付着地金が的確に溶解・除去されるように、炉口地金溶解用酸素の供給を制御しなければならない。
【0008】
上記観点によれば、先行技術では次の問題がある。
先行技術1では、2次燃焼用酸素の噴射方向が比較的鉛直下向きに近いので、炉内排ガスに巻き込まれながらCOガスを2次燃焼させ、炉内から炉口にかけての2次燃焼に大部分が消費される。従って、その際発生する高熱による2000℃以上の高温ガスは、転炉炉口地金の溶解のみならず転炉炉口金物および炉口耐火物に著しい損傷を与え易い。
【0009】
先行技術2によれば、炉口地金溶解用の酸素源として空気を用いるので、酸素を噴射させる場合よりも噴射量が増加し、炉口耐火物の金物の溶損を防止することができる。ところが、空気では酸素濃度が低いので、炉口地金の溶解に時間を要し、効率が悪い。
【0010】
ところで、付着地金の下に存在する耐火物、即ち下地耐火物の損傷を抑制しつつ広範囲に付着した地金を均一に効率よく溶解する制御をするためには、1ヒート内での吹錬時期により地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量を適切に変えることが必要である。地金溶解用ノズルから供給される酸素ガス流は、炉内ガス流れにより大きく変わる。ここで、炉内ガス流の状態は、その時点における浴の成分組成と吹錬用酸素流量に依存して変化する。従って、地金溶解用酸素の流量は、その時点における吹錬用酸素の流量により適切に定めなければならない。しかしながら、先行技術には、このような技術的事項の開示はみられない。
【0011】
このように、先行技術にはそれぞれ問題があると共に、この発明が解決すべき中心的課題であるヒート内における地金溶解用酸素の供給パターンを開発する必要がある。
従って、この発明の目的は、転炉における溶鋼の生産性を確保することを前提とし、炉口や炉内側壁の耐火物を損傷させることなく、地金の付着状態を良好に管理する吹錬方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した観点から研究を重ね、下記知見を得た。
1.転炉吹錬においては、吹錬時期により炉内のガス流れの状態が著しく変化するので、このガス流れに乱れが少なくできるだけ安定している時期に、地金溶解用酸素を供給すること。しかも、その供給流量は、転炉炉内ガスの流量に応じて適正な流量とすること、そのためには地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量を、吹錬用酸素ガスの流量に応じた適切な量を流すことにより目標通り地金を溶解し、耐火物溶損は抑制され得る。
2.吹錬終了時点における溶鋼の温度及び成分組成の目標外れを防止するために、少なくとも、吹錬末期に行なう温度及び成分分析用試料採取の後、いわゆるサブランス計測実施の後には、地金溶解用酸素を供給しないことが望ましい。
このように、転炉吹錬中に炉口や炉内側壁付着地金を溶解・除去するためには、地金溶解用酸素の供給を吹錬時期に応じて適切に作成した地金溶解用酸素の流量パターンに基づき供給することが重要である。
【0013】
この発明は上記知見に基づきなされたものであり下記の通りである。
請求項1記載の発明は、溶銑を主たる鉄源として、上吹き又は上底吹き酸素により精錬を行なう転炉型精錬炉において、吹錬用ノズルが下端に設けられ、地金溶解用ノズルが外周面に設けられ、前記地金溶解用ノズルからは酸素ガス又はパージガスを吹錬用酸素ガスとは独立に制御して供給することができるランスを用い、炉口及び/又は炉内側壁に地金が付着するのを抑制する吹錬方法において、吹錬期間を吹錬初期、中期及び末期に区分し、前記吹錬末期は吹錬終了予定時の所定時間前に行なわれる温度及び成分分析用試料採取の開始から吹錬終了時点までとし、そして吹錬中期は吹錬全期間から前記吹錬初期及び末期を除く期間とし、こうして定められた吹錬各期間に、前記ランスから下記(イ)及び(ロ)の通りガスを供給することに特徴を有するものである。
(イ)吹錬中期には、地金溶解用酸素ガスとして、この地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量換算で、吹錬用酸素ガス流量の3〜10%の範囲内の流量を供給する。
(ロ)吹錬初期及び吹錬末期には、パージガスのみ又はパージガスと酸素ガスとを前記地金溶解用ノズルから流して当該地金溶解用ノズルの目詰まりを防止し、このパージガスと共に流す酸素ガス流量は純酸素ガス流量換算で、上記(イ)の吹錬中期に供給する地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量の50%以下とする。
【0014】
(ロ)吹錬初期及び吹錬末期には、パージガスのみ又はパージガスと酸素ガスとを前記地金溶解用ノズルから流して当該地金溶解用ノズルの目詰まりを防止し、このパージガスと共に流す酸素ガス流量は純酸素ガス流量換算で、上記(イ)の吹錬中期に供給する地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量の50%以下とする。
【0015】
ここで、地金溶解用ノズルから流す酸素ガスとは、一般に純酸素であるが、酸素含有ガスであればよく、ガスの到達距離を長くするために、不活性ガスを混入させることも可能である。また、地金を溶解・除去するとは、付着しようとしている地金の付着を防止することを含む。なお、吹錬用酸素ガスには、通常工業用純酸素ガスを使用する。
【0016】
請求項2記載の発明は、上記吹錬初期を、吹錬開始から吹錬予定全時間の5〜30%の範囲内までの間とし、上記吹錬末期を、吹錬予定全時間の5〜30%だけ吹錬終了予定時からさかのぼった時点から当該吹錬終了時までとし、そして吹錬中期を、吹錬全期間から前記吹錬初期及び前記吹錬末期を除いた吹錬の中間期とすることに特徴を有するものである。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の吹錬方法において、上記地金溶解用ノズルから噴射させる酸素の噴射方向を、ランスの長手方向軸心線とのなす角度が40〜90°の範囲内であって、且つ下向き乃至水平方向にすることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項4記載の発明は、溶銑を主たる鉄源として、上吹き又は上底吹き酸素により精錬を行なう転炉型精錬炉において、前記転炉型精錬炉へ装入する溶銑のSi濃度が0.15質量 %以下であり、前回ヒートのスラグを10kg/t-steel以上炉内に残留させ、今回ヒートの炉内スラグ量を30kg/t-steel以下とし、且つ、請求項1、2又は3記載のいずれかの条件で吹錬することに特徴を有するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、この発明の望ましい実施の形態を説明する。
図1は、この発明の方法を実施するために用いる設備例の概念図である。
【0020】
溶銑1及び造滓材2が装入された転炉3の上方から、炉口4を通って炉内にランス5を挿入する。ランス5には、下端に吹錬用酸素ノズル6を備え、下端から上方の所定位置に、地金溶解用ノズル7を備えている。地金溶解用ノズル7からのガス噴射方向は、鉛直に設定されるランスの長手方向軸心線とのなす角度が40〜90°の範囲内の下向き乃至水平方向である。これにより、炉口4及びその絞り部に付着した地金(特に断らない限り「炉口地金」という)、並びに炉内側壁に付着した地金(特に断らない限り炉口地金と合わせて「地金」という)のいずれをも溶解・除去する。ランス5の構造としては、吹錬用酸素ノズル6に酸素ガスを供給する酸素供給管、地金溶解用ノズル7に酸素ガス及び/又はパージガスを供給する酸素・パージガス供給管、並びにランスの冷却用給水管及び排水管の四重管構造となっている。こうして、地金溶解用酸素の供給経路を、吹錬用酸素の供給経路から独立させて制御し得るようにしてある。
【0021】
(1)上記設備を用いて、吹錬用酸素ノズル6から所定の流量a(Nm3 /min)の酸素ガスを噴射して、溶銑を吹錬する。一方、地金溶解用ノズル7から所定の流量b(Nm3 /min)の酸素ガスを噴射して、炉口4及びその絞り部に付着した地金8、並びに炉内側壁に付着した地金8’を溶解し、除去する。但し、ここで重要なのは、地金8、8’を溶解・除去するに当たっては、地金の下地にある耐火物まで損傷してはいけないこと、及び通常は炉口の絞り部内面のほぼ全面に亘って付着した地金を均一に溶解・除去することである。こうするために、本発明者等は、転炉吹錬中であっても炉内ガス流れにできるだけ乱れの少ない時期に地金を溶解し、しかも炉内ガス流れ量を支配する吹錬用酸素ガスの供給流量に応じて地金溶解用酸素を流すのが最も望ましいことに着眼した。
そこで、吹錬期間を次の通り吹錬初期、中期及び末期に区分した。
【0022】
(2)吹錬初期は造滓材等副原料投入により当該副原料中から発生するCO2 や水蒸気等種々のガス発生とその急激膨張により、炉内ガス流れの乱れが激しい時期である。この時期は地金溶解用酸素ガスの流れも乱れて制御困難であるから、地金を均一に溶解し、且つ下地耐火物に損傷を与えないようにするのが難しい。従って、この時期には敢えて地金溶解をすべきではない。このように、吹錬初期においては、地金溶解用酸素の供給は原則として停止する。この間、地金溶解用ノズルの目詰まりが起きないようにすることが必須要件である。そのために必要な最小限のガス流れをパージガスとしてを確保する。パージガス種としては、アルゴンガス等不活性ガス又は/及び窒素のいずれでもよい。吹錬初期であるから、通常はコストの安価な窒素が望ましい。以後の吹錬期で脱窒され鋼質を害さないからである。パージガスとしての機能を発揮させるためには、通常はノズル出口で2気圧(絶対圧力)程度ないしそれより若干高め程度のガス圧力を保持しなければならないことを前提とし、更に、適切な、ガス流量を確保しなければならない。かかるパージガスの流量は経験的に決定すればよい。また、地金溶解用ノズル7を用いる関係もあり、酸素ガスも所定値以下に制限すれば、パージガスと一緒に流しても差し支えない。但し、この吹錬初期には、炉内ガス流れの乱れにより地金溶解用酸素の流れが乱されるので、付着地金の溶解が不均一であったり、下地耐火物を損傷したりしないよう、その悪影響がでない範囲に制限する。この観点から、地金溶解用酸素ガスの流量としては、純酸素換算で次(3)項で説明する、吹錬中期において流す地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量に対してその50%以下であることが必要であり、その20%以下に制限するのが望ましい。
【0023】
(3)これに対して吹錬中期は、脱炭反応が盛んな時期であり、炉内ガス量は最も多い時期である。そして、この時期の炉内ガス流量は多いが流れの乱れは小さく、安定している。従って、この時期に地金溶解用酸素を適量噴射するのが最も適している。ここで、炉内ガス流れの安定期であっても、炉内ガスの流量の大小に応じて地金溶解用酸素の流量を大小に変化させることが重要である。ある時点における炉内ガスの流量は(Nm3 /min)、その時点における吹錬用酸素ガスの適切な供給速度(Nm3 /min)に支配されるから、結局、地金溶解用酸素は、吹錬用酸素ガスの流量(Nm3 /min)に依存させて決めなければならない。こうすることによりはじめて、地金のみを溶解し、その下地の耐火物の損傷をきたさないようにできるからである。
【0024】
吹錬用酸素ガスの流量a(Nm3 /min)は、同一ヒート内の吹錬中期においても通常、その期間内で種々異なる流量パターンが設定されている。更に、精錬対象鋼種(素鋼成分組成、即ち成品成分組成)に応じて最適精錬がなされるように上記パターンが設定されている。その上、吹錬中における吹錬要因の変動に応じて更に上記吹錬用酸素ガスの流量aを修正する必要が生じる。
【0025】
本発明者等は上述した多くの操業条件下において多数の試験を繰り返し、その結果を解析することにより、下記結論を得た。
地金のみを溶解し、その下地の耐火物に損傷をきたさないようにするためには、吹錬用酸素ガスの流量a(Nm3 /min)を上述したように種々に変化させた場合でも、上記吹錬中期においては、地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量b(Nm3 /min)を、下記(1)式が満たされる範囲内に制御することが必要である。
【0026】
(b/a)×100=1〜50(%)--------------(1)
この知見は次のようにして得たものである。
300t/chの上底吹き転炉を用い、ランスとして、6孔ラバールノズルからなる吹錬用ノズルが下端に設けられ、地金溶解用ノズルがランス下端からの所定高さ位置の2段に、各々、ランス外周に沿って10個のノズルが設けられ、ノズル径が8mmのものを使用した。地金溶解用酸素の噴射方向と、ランスの軸心線とのなす角度θ(図1参照)は90°、即ち水平方向に酸素を噴射させた。吹錬用酸素の流量aとして、170〜500Nm3 /min、及び700〜1000Nm3 /minの2水準で行なった。
【0027】
地金の溶解試験は、炉口地金の付着量が基準値に達したときに行なった。吹錬用酸素の流量aと、地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量bとの比率(b/a)×100(%)を、0〜70%の範囲内の種々の値に変化させて行なった。そして、炉口地金の溶解に伴う炉口径の拡大速度より炉口地金の溶解速度を求め、これを溶解速度指数で表わした。この指数は大きいほど溶解速度が速く、地金除去に望ましいことを表わす。また、炉口耐火物の溶損速度を測定し、指数で表わした。この指数は小さいほど溶損速度が遅く望ましいことを表わす。
【0028】
図2に、b/aと炉口地金の溶解速度との関係を示し、図3に、b/aと炉口耐火物の溶損速度との関係を示す。図2及び3からわかるように、b/aが1〜50%の範囲内の場合には、炉口地金を速やかに溶解することができ、しかも、炉口耐火物の溶損量も少ない。特に、b/aが3〜10%の場合に良好な結果が得られた。
以上より、地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量b(Nm3 /min)は、吹錬用酸素ガスの流量a(Nm3 /min)の3〜10%の範囲内において供給しなければならない。
【0029】
(4)次に、吹錬末期における炉内反応状況と吹錬方法との関係について説明する。
上述のように溶解・除去された地金が炉内鋼浴中に落下したり、あるいは溶解し鋼浴に流入して、溶鋼温度の低下や成分組成を変化させた場合であっても、温度・成分均一化後の適切な計測情報により吹錬終了時の溶鋼温度及び成分組成が目標値外れとならないようにすることが重要である。そのために、次の二通りの対策のいずれかを実施する。
【0030】
▲1▼いわゆるサブランス計測を実施する場合、即ち、吹錬終了時点における溶鋼の温度及び成分組成を目標値に調整するために、吹錬末期にサブランスを用いて吹錬を継続中に溶鋼の温度測定及び成分分析用試料を採取する場合には、少なくとも、このサブランス計測実施後には、地金溶解用酸素の供給は行なわないものとする。
【0031】
▲2▼上記サブランス計測の実施のいかんを問わず、吹錬終了予定時からさかのぼって全吹錬予定時間のx%前から吹錬終了時までは、地金溶解用酸素ガスを供給しないものとする。ここで、x%は5〜30%の範囲内に設定するのが望ましい。このように上下限値を比較的広範囲に設定する必要性は、上記のように精錬対象鋼種や吹錬要因の変動の他に、普通吹錬かレススラグ吹錬か、あるいはまた、転炉を用いた溶銑脱P精錬かの吹錬形態により、地金溶解用酸素の供給を停止すべき期間(時間)が変化するからである。
【0032】
このように、吹錬末期においては、地金溶解用酸素の供給は原則として停止する。この間、地金溶解用ノズルの目詰まりが起きないようにすることが必須要件である。そのために必要な最小限のガス流れをパージガスとして確保する。この時期は吹錬末期であり、脱炭反応も微弱であるから、溶鋼に溶け込んだパージガス中の鋼質に有害な成分は以後の吹錬での脱ガス効果は期待できないので、Ar等不活性ガスを適正条件で流す。窒素ガスは高窒素鋼製造のような特例を除き鋼質を害するので使用不可とする。酸素ガスは地金溶解の恐れがあるので使用しない方が望ましい。なお、酸素ガスも所定値以下に制限して、パージガスと一緒に流しても差し支えない。これらパージガスとしての機能を発揮させるためには、通常はノズル出口で2気圧(絶対圧力)程度のガス圧力を保持しなければならないことを前提とし、更に、適切な、ガス流量を確保しなければならない。かかるパージガスの流量は経験的に決定すればよい。但し、パージガスと一緒に流す上記酸素ガスの流量は、多すぎると吹錬終点での温度及び成分組成の的中率を確保することが困難になる。従って、吹錬末期に流す地金溶解用酸素ガス流量は純酸素換算で、吹錬中期において流した地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量の50%以下であることが必要である。望ましくは、20%以下に制限するのがよい。
【0033】
(5)地金溶解用酸素の噴射方向については、ランスの長手方向軸心線10に対する角度θが、40〜90°の角度をなして下向き乃至水平方向にすると、上述した地金溶解・除去の作用・効果が大きいこともわかった。
【0034】
(6)本発明者らは、引き続き種々検討の結果、炉口に付着する地金の生成要因について以下の知見を得、それを基に炉口地金付着を抑制する転炉吹錬方法を開発した。
【0035】
(1)炉口付着地金の生成量を定量的に把握する方法として、図4に示すように転炉3から発生する転炉排ガス通路12にダスト濃度計13を設置し、排ガス中ダスト濃度と炉口地金8の除去頻度の関係を調査した。その結果、図5に示すように、吹錬の比較的初期における排ガスダスト量と、一定ヒート数当たりの炉口地金除去回数との間には極めて良い相関が得られた。そこで、炉口地金付着量を定量的に把握する手段として、排ガス中の吹錬比較的初期に発生するダスト量を採用した。
図6に示すように、従来吹錬においては、吹錬初期にダスト発生速度が大きい。従って、炉口地金も吹錬初期に生成されている割合が多い。更に調査をした結果、吹錬の比較的初期のダスト発生量は、図7及び図8に示すように溶銑中Si濃度と前ヒートからの炉内残留スラグ量の影響が大きい。即ち、転炉装入溶銑中のSi濃度が高くなるにつれて吹錬の比較的初期に発生するダスト量は多くなり、Si濃度が0.15質量 %以下なら吹錬の比較的初期ダスト発生量は少なく抑えられ、また、前ヒートからの炉内スラグ残留量が、10kg/t-steel以上あると、吹錬の比較的初期に発生するダスト量は少なく抑えられる。
上記P濃度低減の手段として、素鋼目標P濃度以下に脱P処理された溶銑を主な鉄源とするのが、転炉操業やコスト上から望ましい。また、このようにすることにより、付着地金は溶解し易くなり、地金の広範囲にわたり均一に溶解・除去され、また下地耐火物の損傷も一層抑制される。
以上の現象は次のように考察される。Siは溶銑中炭素よりも酸化されやすく、脱炭吹錬の初期は脱珪素反応が優先的に起こる。この時溶銑の自由表面近傍は稠密であり、酸素ガスの衝突又は通過により非常にダスト(スプラッシュ)が発生しやすい状態になっていると考えられる。一方、脱炭反応が活発な時期に移行すると溶銑または溶鋼の自由表面近傍は脱炭反応によって生じたCOガスが存在し泡状となってダスト(スプラッシュ)が発生しにくい状態になると考えられる。
炉内残留スラグは、前ヒートの脱炭吹錬過程で一度溶融したスラグであるから、脱炭吹錬の比較的初期においても速やかに溶解する。従って、初期に速やかに溶銑の自由表面を覆い、ダストの発生を抑制できると考えられる。以上により、溶銑Si濃度を0.15質量 %以下とし、前ヒートの炉内スラグを10kg/t-steel以上当該ヒートの炉内に残留させて吹錬を開始することにより、炉口地金付着を抑制した。
【0036】
▲2▼従来吹錬の炉口付着地金を採取して詳細に検討したところ、それは鉄とスラグとの小粒が混合した状態であることが判明した。この状態で炉口に付着すると相互に絡み合って強固に固着してしまう。炉内に存在するスラグ量と吹錬の比較的初期のダスト発生速度との関係を調べた結果、図9に示すように、炉内に存在するスラグ量が少ない場合(約30kg/t-steel以下のとき)に、初期のダスト発生速度が小さいという結果を得た。この結果と、図5の初期のダスト発生速度が小さい方が炉口地金除去頻度が減るという結果とを組み合わせると、吹錬中に炉内に存在するスラグ量が少なく30kg/t-steel以下のときに、一定ヒート数当たりの炉口地金除去を要する回数が少なくて良いとの結果が得られる。
ただし、スラグ量が過度に少ない場合は溶鉄のカバーとなるものが存在せず溶鉄飛散につながる。これは、上記図8において、前ヒートからのスラグ残留量が10kg/t-steel以上あると、吹錬の比較的初期に発生するダスト量が少なく、従って、炉口地金付着量が少なくなることからわかる。
以上により、吹錬中の炉内スラグを30kg/t-steel以下とすることにより炉口地金付着を抑制した。
【0037】
▲3▼前述した通り、炉口付着地金の実態は、鉄とスラグとの小粒が混合した状態で、相互に絡み合って強固に固着・成長し、凝固したものであることがわかった。このような付着地金の溶解においては、付着地金のスラグ成分部分が溶融しにくい。従って、付着地金のスラグ成分部分の比率を小さくすることが望ましい。これに対しては、上記▲1▼及び▲2▼項の説明から、第一は、吹錬中の炉内スラグ量を必要且つ最小限にすること、即ち、理想的には10ないし20kg/t-steelに調整することである。一方、スラグは転炉精錬反応中、脱P反応の促進に不可欠である。従って、転炉装入鉄原料中のP濃度を、素鋼目標P濃度以下に、従って成品仕様のP濃度以下に予め調整しておけば、生成スラグ量を少なくしてもよい。
▲3▼前述した通り、炉口付着地金の実態は、鉄とスラグとの小粒が混合した状態で、相互に絡み合って強固に固着・成長し、凝固したものであることがわかった。このような付着地金の溶解においては、付着地金のスラグ成分部分が溶融しにくい。従って、付着地金のスラグ成分部分の比率を小さくすることが望ましい。これに対しては、上記▲1▼及び▲2▼項の説明から、第一は、吹錬中の炉内スラグ量を必要且つ最小限にすること、即ち、理想的には10ないし20kg/t-steelに調整することである。一方、スラグは転炉精錬反応中、脱P反応の促進に不可欠である。従って、転炉装入鉄原料中のP濃度を、素鋼目標P濃度以下に、従って成品仕様のP濃度以下に予め調整しておけば、生成スラグ量を少なくしてもよい。
【0038】
上記P濃度低減の手段として、素鋼目標P濃度以下に脱P処理された溶銑を主な鉄源とするのが、転炉操業やコスト上から望ましい。また、このようにすることにより、付着地金は溶解し易くなり、地金の広範囲にわたり均一に溶解・除去され、また下地耐火物の損傷も一層抑制される。
【0039】
【実施例】
この発明を実施例により更に詳細に説明する。
試験方法は、300t転炉に溶銑310t及びスクラップ10t、並びに造滓材を所定量装入し、上吹きランスで脱炭精錬をした。用いた設備は図1に示したものに準じる。上吹きランスとして、下端に吹錬用酸素ノズルを配し、下端から同一高さの外周面に地金溶解用酸素ノズルを等間隔に8孔を、下端から2000mm高さ毎に2段配した8孔×2段型のものを用いた。そして、ノズルの形状及び諸元、並びにノズルの取付け角を種々変えた。また、地金溶解用酸素の流量、及びノズル出口前圧力を各種に設定した。
【0040】
試験は、本発明の範囲内の条件により連続30ヒートの精錬を行ない、次いで、本発明の範囲外の条件により連続30ヒートの精錬を行なった。
表1に、本発明の範囲内の試験(実施例)、及び範囲外の試験(比較例)の
試験条件を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例の連続30ヒートの前後、及び比較例の連続30ヒートの前後に、炉口及び炉内側壁に付着していた地金の位置と量との測定、及び、炉内耐火物の損耗状態を測定し、連続ヒート前後の測定値を比較して、それぞれの地金溶解指数、及び耐火物溶損指数を求めた。表1にこれら指数を併記した。
【0043】
上記試験結果より、実施例では、耐火物の溶損を抑えつつ地金の溶解が促進され、これに対して、比較例では、地金の付着堆積は防止されたが、耐火物の損傷が進んだ。
【0044】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、転炉型精錬炉における生産性を阻害することなく、炉口耐火物の損傷を抑制しつつ、効率的に炉口地金の付着を抑制する方法を提供することができ、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の方法を実施するために用いる設備例の概念図である。
【図2】吹錬用酸素の流量aと、炉口地金溶解用酸素の流量bとの比率b/aと、炉口地金の溶解速度との関係を示すグラフである。
【図3】吹錬用酸素の流量aと、炉口地金溶解用酸素の流量bとの比率b/a(%)と、炉口耐火物の溶損速度との関係を示すグラフである。
【図4】排ガス中ダスト濃度測定の態様を説明する模式図である。
【図5】初期ダスト発生量と炉口地金除去頻度の関係を示すグラフである。
【図6】脱炭吹錬1ヒート中におけるダスト発生量の推移を示すグラフである。
【図7】脱炭吹錬初期3分のダスト発生量におよぼす溶銑Si濃度の影響を示すグラフである。
【図8】初期ダスト発生速度におよぼす前ヒートからの炉内残留スラグ量の影響を示すグラフである。
【図9】初期ダスト発生速度におよぼす吹錬中の炉内スラグ量の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
1 溶銑
2 造滓材
3 転炉
4 炉口
5 吹錬用ランス
6 吹錬用酸素ノズル
7 炉口地金溶解用ノズル
8 炉口地金
8’ 炉内側壁地金
9 炉口耐火物
10 軸心線
12 排ガス通路
13 ダスト濃度計
Claims (4)
- 溶銑を主たる鉄源として、上吹き又は上底吹き酸素により精錬を行なう転炉型精錬炉において、吹錬用ノズルが下端に設けられ、地金溶解用ノズルが外周面に設けられ、前記地金溶解用ノズルからは酸素ガス又はパージガスを吹錬用酸素ガスとは独立に制御して供給することができるランスを用い、炉口及び/又は炉内側壁に地金が付着するのを抑制する吹錬方法において、吹錬期間を吹錬初期、中期及び末期に区分し、前記吹錬末期は吹錬終了予定時の所定時間前に行なわれる温度及び成分分析用試料採取の開始から吹錬終了時点までとし、そして吹錬中期は吹錬全期間から前記吹錬初期及び末期を除く期間とし、こうして定められた吹錬各期間に、前記ランスから下記(イ)及び(ロ)の通りガスを供給することを特徴とする、転炉型精錬炉における地金付着抑制吹錬方法。
(イ)吹錬中期には、地金溶解用酸素ガスとして、この地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量換算で、吹錬用酸素ガス流量の3〜10%の範囲内の流量を供給する。
(ロ)吹錬初期及び吹錬末期には、パージガスのみ又はパージガスと酸素ガスとを前記地金溶解用ノズルから流して当該地金溶解用ノズルの目詰まりを防止し、このパージガスと共に流す酸素ガス流量は純酸素ガス流量換算で、上記(イ)の吹錬中期に供給する地金溶解用酸素ガス中の純酸素流量の50%以下とする。 - 前記吹錬初期は、吹錬開始から吹錬予定全時間の5〜30%の範囲内までの間とし、前記吹錬末期は、吹錬予定全時間の5〜30%だけ吹錬終了予定時からさかのぼった時点から当該吹錬終了時までとし、そして吹錬中期は、吹錬全期間から前記吹錬初期及び前記吹錬末期を除いた吹錬の中間期とする、請求項1記載の転炉型精錬炉における地金付着抑制吹錬方法。
- 請求項1又は2記載の吹錬方法において、前記地金溶解用ノズルから噴射させる酸素の噴射方向を、前記ランスの長手方向軸心線とのなす角度が40〜90°の範囲内であって、且つ下向き乃至水平方向にすることを特徴とする、転炉型精錬炉における地金付着抑制吹錬方法。
- 溶銑を主たる鉄源として、上吹き又は上底吹き酸素により精錬を行なう転炉型精錬炉において、前記転炉型精錬炉へ装入する溶銑のSi濃度が0.15質量 %以下であり、前回ヒートのスラグを10kg/t-steel以上炉内に残留させ、今回ヒートの炉内スラグ量を30kg/t-steel以下とし、且つ、請求項1、2又は3記載のいずれかの条件で吹錬することを特徴とする、転炉型精錬炉における地金付着抑制吹錬方法。
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