JP4014242B2 - 水溶性金属フタロシアニン化合物の精製方法 - Google Patents

水溶性金属フタロシアニン化合物の精製方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水溶性金属フタロシアニン化合物の精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属フタロシアニン化合物は、合成有機色素として古くから知られている。この金属フタロシアニン化合物を色素として使用する場合には、不純物の存在は必ずしも重要な問題ではない。しかし、最近では光電変換素子としての作用や消臭作用などが注目されており、不純物の存在が重要な問題となっている。これは、金属フタロシアニン化合物の光物性や電気物性が、微量の不純物によって大きな影響を受け、更に消臭作用も純度に影響されるからである。
金属フタロシアニン化合物を合成する従来法としては、触媒の存在下で実施するワイラー(Wyler)法と、触媒の不在下で高沸点溶媒中にて反応させる溶媒法とが主に知られている(例えば、明星大学研究紀要理工学部No.26,P47〜59,1990,所載,澤田忠信「高純度フタロシアニン類の合成と物性」参照)。これらの内、水溶性の金属フタロシアニン化合物は、一般に、ワイラー法によって合成されている。ワイラー法は、フタル酸又はその誘導体と金属塩と融解尿素とを触媒の存在下で反応させる合成法である。例えば、代表的な水溶性金属フタロシアニン化合物である鉄フタロシアニンテトラスルホン酸をワイラー法によって合成する場合には、原料として、4−スルホフタル酸、鉄粉、尿素及び触媒(例えば、ホウ酸)を用い、全体を約230℃まで加熱して反応させる。
【0003】
粗生成物を精製する従来法の1つが、例えば、深田直実,日本化学雑誌第76巻第12号に記載されている。この方法によれば、得られた粗製固形物を水に溶解して不溶物を除去し、得られた水溶液に塩酸を加えて塩析し、上澄液を除去した固形物にアンモニアを加えて不溶物を除去し、得られたアンモニア溶液からアンモニアを蒸発させて除去し、そして、塩酸酸性飽和食塩水を添加して上澄液を除去し、純度の向上した固形物を得る。更に、この固形物を80%以上のエタノール水溶液で洗浄し、食塩及びフタルイミド等を除去することからなる。
しかしながら、この精製方法は多数の工程からなるので極めて煩雑である。また、粗製固形物を水に溶解した後で、塩酸を添加して生成させる不溶性物質は非常に微細なために固液分離が困難であり、使用する塩酸やアンモニアによる臭気が発生し、更に収率が10〜25%程度の低いものになるという多くの欠点があった。
【0004】
また、豊玉及び小田,粉体と工業Vol.20,No.9(1988)には、粗製の銅フタロシアニン化合物を、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気内にて、減圧下で加熱し、銅フタロシアニン化合物を気化させ、微粒子として回収する精製法が記載されている。
しかしながら、この精製法では、真空圧を1×10-3〜1×10-5Torrまでに減圧すること、及びフィルム上に付着した超微粒子を取り出す工程が必要なこと等のために多量の粗製固形物を処理するのは困難であった。
【0005】
更に、特開平6−220061号公報には、金属フタロシアニン化合物の粗生成物を、減圧下で分解温度未満の温度で加熱して不純物を除去する方法が記載されている。この乾式精製方法は、粗生成物から金属フタロシアニン化合物のみを蒸発させるのではなく、逆に粗生成物に含有されている不純物の方を蒸発ないし分解蒸発させて金属フタロシアニン化合物を残留させ、精製するものであり、簡易な操作で、比較的多量の粗製金属フタロシアニン化合物を精製することができる。
しかしながら、この方法では、温度、圧力、及び処理時間の微妙な制御が必要であるために装置が煩雑になり、不純物の分解に由来するアンモニア等のガスが発生するため、これを吸収排除する装置も必要であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、従来の洗浄精製法における欠点であった煩雑な洗浄工程、すなわち、酸洗浄、アルカリ洗浄及びエタノール洗浄を実施する必要がなく、更に従来の乾式精製方法における欠点であった微妙な制御の必要がなく、しかも多量の粗生成物を精製することのできる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の課題は、本発明による水溶性金属フタロシアニン化合物の粗生成物と、その粗生成物内に含まれる水溶性金属フタロシアニン化合物の全量を溶解するのに充分な量の水とを混合し、得られた溶解液を濾過し、得られた濾過処理液を煮沸し、更に煮沸処理液を更に濾過することを特徴とする、前記水溶性金属フタロシアニン化合物の精製方法によって解決することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明方法は、特にワイラー法によって調製した粗製の水溶性金属フタロシアニン化合物を精製するのに適している。
本明細書において「ワイラー法」とは、フタル酸又はその誘導体と金属塩と触媒尿素とを触媒の存在下で反応させる合成法を意味する。
【0009】
溶融尿素を用いる前記のワイラー法によって調製した粗製金属フタロシアニン化合物は、目的とする金属フタロシアニン化合物の他に、不純物として未反応のフタル酸、尿素誘導体(例えば、ビウレット、又はシアヌル酸)、フタル酸誘導体(例えば、フタロイミド)、及び触媒(例えば、ホウ酸、モリブデン酸アンモニウム又は四塩化チタン)を含有している。本明細書において、金属フタロシアニン化合物の粗生成物とは、金属フタロシアニン化合物を製造するにあたり、金属又は金属塩にスルホフタル酸などを結合させて得た粗製の反応生成物、或いは、その粗製の反応生成物から主に金属塩を除去した程度の、精製度の低い生成物を意味する。本発明方法によれば、これらの不純物を、順次効率よく除去することができる。
【0010】
本発明で精製する対象となる水溶性金属フタロシアニン化合物は、特には一般式(I)
【化1】
Figure 0004014242
(式中、Xは、各々独立して、中性ないし酸性下で水溶性を付与する基又は水素原子であるが、Xの少なくとも1つは、中性ないし酸性下で水溶性を付与する基であるものとし、Mは遷移金属原子である)
で表される金属フタロシアニン化合物である。
【0011】
この一般式(I)で表される金属フタロシアニン化合物は中心配位子として遷移金属イオン、例えば、2価の鉄イオン、3価のコバルトイオン、5価のバナジウムイオン、2価のマンガンイオン、2価の銅、2価の亜鉛、又は2のニッケルを含有する。また、一般式(I)で表される金属フタロシアニン化合物は、中性ないし酸性下で水溶性を付与する基X(以下、単に水溶性付与基Xと称することがある)を少なくとも1個含有する。水溶性付与基Xとしては、例えばアミノ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、スルホクロリド基又はスルホンアミド基、好ましくはスルホン酸基を挙げることができる。一般式(I)で表される金属フタロシアニン化合物としては、スルホン酸基4個(好ましくは各ベンゼン環にスルホン酸基1個ずつ)を有する化合物が、その合成が容易で安価に入手することができるために合成されることが多く、本発明方法による代表的な被処理化合物である。
【0012】
本発明方法によれば、任意の水溶性金属フタロシアニン化合物の粗生成物、特にはワイラー法による水溶性金属フタロシアニン化合物の粗生成物を精製することができる。しかしながら、粗生成物内に水溶性の未反応体、特に未反応出発材料(例えば、水溶性のフタル酸誘導体、例えば、スルホフタル酸)が実質的に含まれていない粗生成物を処理するのが好ましい。水溶性の未反応出発材料が実質的に含まれていない粗生成物は、例えば、ワイラー法による合成工程において用いるフタル酸又はその誘導体(例えば、スルホフタル酸)と尿素との配合比を、フタル酸又はその誘導体1モルに対し、尿素を好ましくは5モル以上、より好ましくは9モル以上で用いることによって得ることができる。
【0013】
フタル酸又はその誘導体1モルに対する尿素の使用量が9モル以上になると、フタル酸又はその誘導体は、粗生成物内に残留しない。また、粗生成物内に含まれる微量の水溶性未反応出発材料は、例えば、粗生成物の希薄(約0.5〜5%)水溶液に、エタノール約15〜20容量倍を加えて混合し、煮沸後に濾過することによって水溶性金属フタロシアニン化合物と完全に分離することができる。
フタル酸又はその誘導体1モルに対する尿素の使用量が10モル以上になると、粗生成物中の尿素誘導体(例えば、シアヌル酸又はビウレット)の含有量が次第に増加するが、これらの尿素誘導体は水不溶性ないし水難溶性なので、本発明方法における後記の精製工程において、水溶性金属フタロシアニン化合物と簡単に分離することができる。従って、粗生成物の精製度の点では尿素使用量の上限はないが、フタル酸又はその誘導体1モルに対する尿素の使用量が15モル以上になると、尿素誘導体の量が増加しすぎるのでコストの点では好ましくない。
【0014】
また、水溶性の未反応出発材料が実質的に含まれていない粗生成物は、例えば、ワイラー法による合成工程において、反応温度と反応時間とを適宜調節することによって、更に効率よく得ることができる。
例えば、フタル酸又はその誘導体(例えば、スルホフタル酸)と、尿素と、金属(例えば、鉄粉)又は金属塩と、触媒(例えば、ホウ酸)との混合物を、1〜3時間かけて、常温から90〜110℃に加熱し、更に110〜130℃にて2〜6時間反応させる。この反応中に、出発材料中に含まれていた水成分は全て蒸発する。
更に、尿素分解温度(約130℃)よりも低い110〜130℃で2〜12時間反応させる。この反応時間が短いと未反応出発材料が残留する。逆に、反応時間が長すぎると反応物が粘性を増やし、出発材料が反応槽の上部壁面に付着したまま未反応の状態で反応工程が終了する。
【0015】
続いて、尿素分解温度より低い温度から、尿素分解温度より高温の140〜180℃に2〜10時間かけて加熱しながら反応させる。この昇温操作では、アンモニアが系外に多量に放出されないように、温度上昇速度を調整するのが好ましい。更に、フタロシアニン環形成温度(約190℃)よりも高温(例えば、195〜230℃)の状態で、1〜4時間反応させる。190℃付近で吸熱反応が起きるので、熱量不足とならないように温度を制御するのが好ましい。
続いて、220〜230℃において反応物が固形物になり、攪拌機を使用することができなくなる。この状態で固形物全体を充分に反応するために、220〜230℃において4〜15時間加熱する。
こうして、水溶性の未反応出発材料が実質的に含まれていない粗生成物をワイラー法によって得ることができる。こうして得られた粗生成物を本発明方法によって精製することができる。
【0016】
一般に、ワイラー法による合成の最終工程では、通常200℃以上の温度での加熱操作を比較的長時間実施するので、粗生成物は固形物として高温状態で得られる。従って、本発明の精製方法における最初の溶解工程を実施する前に、反応槽内の粗生成物を、例えば冷却水によって、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下に冷却するのが好ましい。後述する溶解工程を100℃以上で実施すると、粗生成物内に不純物として含まれている尿素ポリマーが加水分解して、水溶液中に溶解するアンモニア量が増加することがあるので好ましくない。
【0017】
本発明の精製方法では、最初に溶解工程を行う。この溶解工程では、前記の粗生成物と水とを混合して、粗生成物内に含まれている水溶性金属フタロシアニン化合物の全てを完全に溶解した水溶液(溶解液)を得る。この工程は、粗生成物を反応槽から取り出して別の容器内の水中に挿入して実施することもできるが、好ましくは粗生成物の合成を実施した反応槽内に水を加えることによって実施することもできる。この溶解工程は、水溶性金属フタロシアニン化合物の水中への溶解を促進するために、50〜70℃の温度条件で実施するのが好ましい。また、前記の温度で放置すると、次第に攪拌機を使用することができる程度に溶解が進むので、攪拌を行うと、更に溶解を促進することができる。
【0018】
この溶解工程においては、粗生成物中に含まれている水溶性金属フタロシアニン化合物を全て水中に溶解させることが主目的であるので、使用する水の量は、その目的を充分に果たすことのできる量以上であれば、特に上限はない。しかし、水の量が多くなり過ぎると、水難溶性不純物(例えば、触媒として使用するホウ酸、又はシアヌル酸やビウレットなどの尿素誘導体)の溶解量が増加し、最終的な精製度が低下する原因になるので、水溶性金属フタロシアニン化合物を完全に溶解し、しかも水難溶性不純物をできる限り溶解しない量の水を用いるのが好ましい。適切な水量は、次の濾過工程及び煮沸工程での時間短縮や、アンモニアを揮発させる際の加熱エネルギーを低減するために、可能な限り少ない法が好ましい。
【0019】
前記の溶解工程を加熱下で実施した場合には、この溶解工程とその後に実施する濾過工程との間に、溶解工程で得られる水溶性金属フタロシアニン化合物水溶液(溶解液)を室温程度にまで冷却する冷却工程を行うのが好ましい。冷却は、例えば、前記水溶液を室内に放置することによって実施することができる。前記溶解液を徐々に冷却することにより、前記溶解液中に溶解した水難溶性不純物を大きな結晶として析出させ、後述の濾過工程を効率よく実施することができる。
【0020】
本発明による精製方法では、前記の溶解工程、及び場合により冷却工程を実施した後に、溶解液の濾過工程を行う。
濾過工程は、前記の溶解液を通常の濾紙又は濾布に通すことによって実施することもできるが、最初に前記溶解液の上澄液を分離し、沈殿物含有液を濾紙に通すことによって実施するのが好ましい。この濾過工程により、前記溶解液から析出したシアヌル酸結晶又はホウ酸結晶、あるいは溶解液に溶解していない不純物(例えば、フタル酸誘導体、鉄粉又は水酸化鉄)を濾液(あるいは、上澄液及び濾液)と分離することができる。
【0021】
続いて、前記の濾過工程で得られた濾過処理液(すなわち、濾液、又は上澄液と濾液との混合物)を煮沸する。この煮沸工程は、攪拌下で、100〜105℃にて実施するのが好ましい。また、煮沸操作によって水分が蒸発するので、適宜水を補給して、容器内の水量を一定に維持するのが好ましい。この煮沸工程により、濾過工程で除去されなかった残留尿素ポリマーを加水分解させ、アンモニアとして揮発させることができる。
残留尿素ポリマー(特に、シアヌル酸)が加水分解され、アンモニアとして揮発されると、反応液のpHが酸性化するので、煮沸操作の終点を確認することができる。一般には、pHが4〜6になった時点で煮沸操作を終了させることができる。
【0022】
次に、煮沸処理液を再度室温下に静置し、常温までなるべく徐々に冷却し、析出した不純物(例えば、フタルイミド、水酸化鉄、又はホウ酸)を第2の濾過操作によって除去することができる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
(1)鉄フタロシアニンテトラスルホン酸粗生成物の調製
4−スルホフタル酸50%水溶液23kg、尿素25kg、電解鉄粉0.5kg及びホウ酸0.5kgを、100リットルの反応槽に挿入した。反応槽としては、ステンレススチール(SUS304)製で、攪拌機、循環式油浴及び温度自動調節計を備えている反応槽を使用した。常温から約120℃まで約6時間かけて攪拌下で徐々に加熱すると、約120℃に到達した時点までに水分が完全に蒸発した。更に、約120℃で約4時間攪拌してから、更に約7時間かけて攪拌下で徐々に約225℃まで加熱すると、約225℃に到達した時点で反応混合物が固形物となり、攪拌機を使用することができなくなった。この状態で更に約7時間反応させたところ、反応槽内に、固体状の鉄フタロシアニンテトラスルホン酸粗生成物11.0kgが残留した。
【0024】
(2)鉄フタロシアニンテトラスルホン酸粗生成物の精製
前記(1)で得られた固体状の粗製鉄フタロシアニンテトラスルホン酸11.0kgを、前記反応槽内にて冷却水で100℃以下に冷却し、反応槽内に半分量(約50リットル)の水を入れた。60℃で2時間放置すると、撹拌機を使用することができる程度にまで溶解した。その後、この温度で2時間撹拌した。続いて、室温下で静置して室温まで冷却すると、シアヌル酸やホウ酸が析出した。上清を除いた後、濾過し、前記の上清と濾液とを一緒にして105℃で煮沸し、pH5に達するまで約7時間煮沸を続けた。この煮沸の際には液量を監視し、蒸発する水分量に相当する水を補給して反応槽内の液量が常に約50リットルになるように保った。続いて、得られた液体を室温下で静置して室温まで冷却した後、析出した不純物を濾過により除去した。こうして、鉄フタロシアニンテトラスルホン酸の15%水溶液60kgが得られた。収量(精製固形物/粗製固形物)は82%であった。なお、得られた精製鉄フタロシアニンテトラスルホン酸水溶液の濃度は分光光度計にて測定した。
【0025】
【発明の効果】
本発明方法によれば、不純物含量が比較的に多いワイラー法による粗生成物を、極めて高純度に精製することができる。また、精製歩留は、従来の湿式法(酸塩析、アルカリ洗浄、及びエタノール洗浄を行う方法)では20〜30%であるのに対し、本発明方法では80〜90%に達する。
また、従来の乾式精製法に比べて多量の粗生成物を1度に処理することができる。更に、加熱装置と濾過装置のみで精製を実施することができ、装置コストを大幅に低下させることができる。また、各操作の制御も極めて簡単であり、煩雑な制御を必要としないので、作業性が向上し、精製コストが大幅に低下する。

Claims (1)

  1. 水溶性金属フタロシアニン化合物の粗生成物と、その粗生成物内に含まれる水溶性金属フタロシアニン化合物の全量を溶解するのに充分な量の水とを混合し、得られた溶解液を濾過し、得られた濾過処理液を煮沸し、更に煮沸処理液を更に濾過することを特徴とする、前記水溶性金属フタロシアニン化合物の精製方法。
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