JP4013199B2 - 燃料噴射ポンプ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、大型船舶や発電機などに利用される燃料噴射ポンプに関し、特に、プランジャの焼き付きを防止すると共にプランジャ摺動部からのリーク燃料を低減する構成を備えた燃料噴射ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
プランジャの側壁に形成されたリード部に加圧された燃料が作用すると、プランジャをプランジャバレルに押し付けるいわゆる側圧が発生し、この側圧に起因してプランジャの焼き付きを生じるおそれがある。このため、このようなプランジャに作用する側圧を緩衝し、また、プランジャバレルとの良好な潤滑を確保する点から、プランジャとプランジャバレルとの摺動面間をリークしようとする燃料油を利用することが好ましい。
【0003】
ところが、摺動面間をリークしようとする燃料を積極的に利用しようとすると、摺動面間を介してカム室へリークする燃料油が多くなり、このようなリーク燃料が多くなると、燃費を悪化させるのみならず、低粘度燃料の場合であれば、カム室の潤滑油がリーク燃料によって希釈化し、また、重油等の低質油であれば、燃料油がポンプ内部の摺動部品に入り込み、ラックの固着化を誘発する等の不都合が生じる。
【0004】
そこで、従来においては、プランジャバレル内を摺動するプランジャの側壁に、環状のセンタリング溝をリード部の近傍に複数設け、センタリング溝に溜められた高圧油を利用してプランジャのセンタリングを図ると共に積極的に摺動面間に潤滑油膜を形成して焼き付きを防止し、また、センタリング溝の少なくとも1つをプランジャの所定ストローク位置で戻し通路に連通させることで、燃料油を回収してリークする燃料を低減する構成が考えられている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
実公昭56−32608号公報(第3欄、第2図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した構成においては、センタリング溝の少なくとも1つがプランジャの下死点付近で戻し通路に連通されるだけであるので、燃料油の回収能力に限界があり、必ずしも効率よく燃料油を回収できるものではなかった。また、センタリング溝と連通する戻し通路は1つしかないので、センタリング溝の数や形成位置は、この戻し通路の形成箇所との関係で大方決定されてしまい、噴射ポンプの種類や用途などに合わせて任意に設定できる自由度は殆どなかった。
【0007】
即ち、プランジャの焼き付き防止を優先し、センタリング溝の数を多くしようとすると、プランジャとプランジャバレルとの間に溜められる燃料油も多くなるので、下死点付近でセンタリング溝に連通する戻し通路だけでは、十分な回収能力が得られず、回収しきれずにリークされる燃料油が多くなる不都合がある。逆に、リーク燃料の低減を優先し、センタリング溝の数を少なくすると、プランジャとプランジャバレルとの摺動面間に溜められる燃料油が少なくなり、プランジャのセンタリング効果が小さくなると共に摺動面間に形成される燃料油膜も不十分なものとなり、焼き付きを生じるおそれがでてくる。
【0008】
そこで、この発明においては、プランジャの設計自由度を高めてプランジャの焼き付きを効果的に防止すると共に、リークしようとする燃料油を効果的に回収し、プランジャの焼き付き防止と燃料油の効果的な回収とを両立させることができる燃料噴射ポンプを提供することを主たる課題としている。また、燃料油と潤滑油との混合を抑え、潤滑油の希釈化による潤滑効果の低下を回避することをも課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明に係る燃料噴射ポンプは、プランジャバレルと、このプランジャバレルに摺動可能に挿入されたプランジャとを有し、前記プランジャの側壁に、燃料調量用のリード部とこのリード部の近傍で環状に形成された複数のセンタリング溝とを設け、前記プランジャバレルに、前記プランジャが下死点から上死点へ移動する過程で前記センタリング溝の全てを通過し、且つ前記プランジャの下死点において、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部に最も近いセンタリング溝に連通する第1の戻し通路と、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部から最も離れたセンタリング溝が前記プランジャの下死点にあって連通する第2の戻し通路とを形成したことを特徴としている(請求項1)。
【0010】
したがって、プランジャが上昇し、圧送行程に入ると、プランジャとプランジャバレルとによって画成された空間、及びリード部内の燃料圧が上昇し、プランジャに側圧がかかると共にプランジャとプランジャバレルとの摺動面間から高圧燃料がリークしようとするが、この摺動面間を移動するリーク油は、プランジャに設けられたセンタリング溝に導入されて一時的に溜められ、プランジャをプランジャバレルの中心に一致させるように側圧を緩衝し、また、プランジャバレルとの摺動面間に潤滑油膜を形成して潤滑を促進する。
【0011】
そして、それぞれのセンタリング溝は、プランジャの往復運動の過程で第1の戻し通路に連通されるので、センタリング溝に導入された燃料油は、第1の戻し通路を介して回収されることになる。このうち僅かなリーク油は、第1の戻し通路から回収しきれず、摺動面間をプランジャバレルの開口端側へ向ってリークしようとするが、プランジャバレルには、プランジャの下死点付近においてセンタリング溝のリード部から最も離れたセンタリング溝と連通する第2の戻し通路が形成されているので、この第2の戻し通路を介して更に回収される機会を得ることとなる。
【0012】
このため、プランジャとプランジャバレルとの摺動面間を伝ってリークしようとする燃料油は、第1の戻し通路と第2の戻し通路とを介して回収されるので、回収しきれずにリークされる燃料油を大幅に低減することが可能となる。また、2つの戻し通路を介して燃料油の回収を図ることができるので、センタリング溝の数や位置を任意に設定しても燃料油の回収能力を損なうことがない。
【0013】
また、第1の戻し通路をリード部と連通可能に形成された給排口に連通し、第1の戻し通路を介して回収された燃料を再利用するとよい(請求項)。
【0014】
さらに、プランジャバレルに、センタリング溝が摺動する領域よりもプランジャを挿入する開口端側において連通する潤滑油供給通路を設け、この潤滑油供給通路を介してプランジャとの間の摺動面間に潤滑油を供給する場合には、第2の戻し通路を摺動面間の第1の戻し通路が連通する部分と潤滑油供給通路が連通する部分との間に連通することが好ましい(請求項)。
【0015】
このような構成によれば、摺動面に供給される潤滑油に燃料油が混入して希釈化することが低減され、また、摺動面間を浸透して第2の戻し通路に至った潤滑油を燃料油と共にこの戻し通路を介して回収することができるので、第2の戻し通路を越えて潤滑油が摺動面間に浸透することがなくなり、潤滑効果の低下を避けることが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の態様を図面に基づいて説明する。図1及び図2において、燃料噴射ポンプ1は、プランジャバレル2とこのプランジャバレル2に摺動可能に挿入されたプランジャ3とを備えているもので、プランジャ3の頭部には、該プランジャの中心軸に対して対称的に形成された2つの正リードから成るリード部4が形成されている。
【0017】
また、プランジャ3の側壁には、リード部4の近傍から遠ざかる方向に所定のピッチで順次ずらして形成された環状のセンタリング溝5が複数形成され、この一群のセンタリング溝5から離してシール溝6が形成されている。この例においてセンタリング溝は5つ(5a〜5e)形成されている。
【0018】
これに対して、プランジャバレル2のプランジャ3との摺動面には、前記プランジャ3のリード部4と連通可能に形成された燃料の給排を司る給排口7が開口され、さらに環状の第1及び第2の戻し溝8,9と、環状の潤滑油供給溝10が形成されている。
【0019】
給排口7は、プランジャ3のランド部11によって開閉されるもので、プランジャ3が下死点から上死点へ移動する過程においてランド部11によって閉塞される状態とランド部11が外れてリード部4と連通する状態とが形成される。
【0020】
第1の戻し溝8は、プランジャバレル2に穿設された第1の戻し通路12を介して給排口7に連通しており、プランジャ3が下死点から上死点まで移動する間にセンタリング溝5の全てを通過するような位置に形成されている。この例においては、第1の戻し溝8は、プランジャ3の下死点において、複数のセンタリング溝5(5a〜5e)のうちリード部4に最も近いセンタリング溝5aと連通する位置に形成されている。
【0021】
第2の戻し溝9は、プランジャバレル2に穿設された第2の戻し通路13を介して図示しない回収タンクに連通しており、プランジャ3の下死点付近でセンタリング溝5の少なくとも1つに連通するように形成されている。この例においては、第2の戻し溝9は、プランジャ3の下死点において、複数のセンタリング溝5(5a〜5e)のうちリード部4から最も離れたセンタリング溝5eと連通する位置に形成されている。
【0022】
潤滑油供給溝10は、プランジャ3との摺動面のうちセンタリング溝5が摺動する領域Aよりもプランジャバレル2のプランジャ3を挿入する開口端14側に形成されているもので、プランジャバレル2に穿設された潤滑油供給通路15を介して潤滑油が導入され、プランジャ3とプランジャバレル1との摺動面間に潤滑油を供給するようにしている。
【0023】
また、シール溝6は、プランジャ3の側壁のうち、潤滑油供給通路15介して潤滑油が供給される部位、即ち、潤滑油供給溝10が摺動する範囲よりもプランジャバレル2の開口端14側に位置し、且つ、プランジャ3の下死点においてプランジャバレル2の開口端14から外部へ表出しないような位置に環状に形成されている。そして、シール溝6の内部には環状のシール部材20が収容されてプランジャ3とプランジャバレル2との間をシールしている。
【0024】
この例において、シール部材20は、図3に示されるように、プランジャ3の外周に形成されたシール溝6に配設されたオーリング20aと、このオーリング20aの外周に配されて該オーリング20aよりも硬度の高いリング部材20bとによって構成され、磨耗しやすいオーリング20aが直接プランジャバレル2に当接しないようになっている。ここで、リング部材20bは、耐磨耗性の素材であるテフロン(登録商標)や金属などによって構成するとよい。
【0025】
以上の構成において、プランジャ3がそのランド部11によってプランジャバレル2に設けられた給排口7を閉塞してリフトし、圧送行程に入ると、プランジャ3とプランジャバレル2とによって画成された作動室21、及び、リード部4内の燃料圧が上昇し、図示しない送出弁を介して燃料が圧送されることになるが、このような場合には、圧縮された高圧燃料がプランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間を介して図示しないカム室へリークしようとする。
【0026】
この際、プランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間を移動する燃料油は、プランジャに設けられたセンタリング溝に導入されて一時的に溜められ、プランジャをプランジャバレルの中心に一致させるようにすると共に、プランジャバレルとの摺動面間に潤沢な潤滑油膜を積極的に形成してプランジャの焼き付きを防ぐこととなる。また、全てのセンタリング溝5はプランジャ3が下死点から上死点まで移動する過程で第1の戻し通路12に連通されるので、プランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間に流入する燃料は、プランジャ3のセンタリング溝5に導入された後に第1の戻し通路12を介して回収されることとなる。
【0027】
このうち僅かなリーク油は、第1の戻し通路12によって回収し切れず、プランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間を開口端14側に向ってリークしようとするが、プランジャ3の下死点において第2の戻し溝9はリード部4から最も離れたセンタリング溝5eに連通されているので、第1の戻し通路13を介して回収し切れなかった燃料は、この第2の戻し溝9を介して第2の戻し通路13から更に回収される機会を得ることとなる。
【0028】
即ち、上述の構成においては、プランジャ3の1回の往動まはた復動につき、センタリング溝5a〜5dにあっては第1の戻し溝8と1回づつ連通し、センタリング溝5eにあっては第1の戻し溝8と第2の戻し溝9とに連通する機会があるので、作動室21からプランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間をリークしようとする燃料油は、第1の戻し通路12と第2の戻し通路13とを介して回収される機会を有することとなり、回収能力を高めて燃料油のリークを大幅に低減することが可能となる。
【0029】
尚、プランジャが所定量リフトし、給排口7のランド部11による閉塞状態が解かれると、給排口7とリード部4とが連通し、作動室21及びリード部4内の燃料圧が一気に開放されて圧送行程が終了することとなる。
【0030】
また、上述の構成においては、潤滑油供給通路15から潤滑油供給溝10を介してプランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間に導入される潤滑油は、プランジャ3の往復動に伴いプランジャバレル2の開口端14と第2の戻し溝9へ向って浸透することとなるが、第2の戻し溝9に至った潤滑油は、作動室21側からリークする燃料油と共に第2の戻し通路13を介して回収されるので、第2の戻し溝9を越えて浸透することがなくなり、第2の戻し溝9を境にこれより給排口側の摺動面間を燃料油で潤滑し、プランジャバレルの開口端側を潤滑油で潤滑することが可能となる。このため、潤滑油が不必要に拡散して潤滑不良を起すことがなくなり、また、第2の戻し溝9より開口端14側が潤滑油で満たされるので、燃料油が第2の戻し溝9を越えて開口端14側へリークされにくくなる。
【0031】
仮に、燃料油が第1及び第2の戻し通路12,13を介して回収し切れず、プランジャ3とプランジャバレル2との摺動面間をさらに開口端14側へリークした場合でも、開口端14の手前には、シール部材20が設けられているので、このシール部材20によってこれ以上の移動が阻止され、図示しないカム室へ燃料油がリークすることがなくなる。
【0032】
尚、第2の戻し通路13を介して回収された燃料と潤滑油は、図示しない回収タンクに回収するものであっても、遠心分離器など用いて分離したのちに再利用するものであってもよい。
【0033】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、前記プランジャバレルに、前記プランジャが下死点から上死点へ移動する過程で前記センタリング溝の全てを通過し、且つ前記プランジャの下死点において、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部に最も近いセンタリング溝に連通する第1の戻し通路と、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部から最も離れたセンタリング溝が前記プランジャの下死点にあって連通する第2の戻し通路とを形成したので、噴射ポンプの種類や用途などに合わせてセンタリング溝の数や位置を任意に設定することが可能となり、プランジャの焼き付きを効果的に防止すると共に、2つの戻し通路を介してセンタリング溝に導入された燃料油を回収することが可能になるので、リークしようとする燃料油を効果的に回収することが可能となる。また、リークする燃料油が低減することから、潤滑油の希釈化による潤滑効果の低下を回避することが可能となる。
【0034】
また、プランジャバレルに、センタリング溝が摺動する領域よりも開口端側と連通する潤滑油供給通路を設けた場合には、第2の戻し通路を、プランジャとの摺動面間の第1の戻し通路が連通する部分と潤滑油供給通路が連通する部分との間に連通させることで、リークしようとする燃料油と潤滑油との混合を極力防ぐことが可能となり、潤滑効果の低下を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、この発明に係る燃料噴射ポンプの1実施例を示す断面図である。
【図2】 図2は、図1に用いられる燃料噴射ポンプのプランジャを示す図である。
【図3】 図3は、プランジャとプランジャバレルとの間に介在されるシール部材の構成例を示す図である。
【符号の説明】
1 燃料供給ポンプ
2 プランジャバレル
3 プランジャ
4 リード部
5 センタリング溝
12 第1の戻し通路
13 第2の戻し通路
15 潤滑油供給通路
20 シール部材
20a オーリング
20b リング部材

Claims (3)

  1. プランジャバレルと、このプランジャバレルに摺動可能に挿入されたプランジャとを有し、
    前記プランジャの側壁に、燃料調量用のリード部とこのリード部の近傍で環状に形成された複数のセンタリング溝とを設け、
    前記プランジャバレルに、前記プランジャが下死点から上死点へ移動する過程で前記センタリング溝の全てを通過し、且つ前記プランジャの下死点において、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部に最も近いセンタリング溝に連通する第1の戻し通路と、前記複数のセンタリング溝のうち前記リード部から最も離れたセンタリング溝が前記プランジャの下死点にあって連通する第2の戻し通路とを形成したことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
  2. 前記第1の戻し通路は、前記リード部と連通可能に形成された給排口に連通するものであることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射ポンプ。
  3. 前記プランジャバレルには、前記センタリング溝が摺動する領域よりも前記プランジャを挿入する開口端側に連通し、前記プランジャとの間の摺動面間に対して潤滑油を供給する潤滑油供給通路が設けられており、
    前記第2の戻し通路は、前記摺動面間の前記第1の戻し通路が連通する部分と前記潤滑油供給通路が連通する部分との間に連通するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射ポンプ。
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