JP4009480B2 - 電気化学式バイオセンサー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気化学式バイオセンサーに関し、特に、電気化学的に活性な物質を介して間接的に試液中に存在する測定対象物質の量を測定し得る電気化学式バイオセンサーに関する。
【0002】
【従来の技術】
アルブミン等のたんぱく質は通常、腎臓で吸収され尿にはわずかな量しか排泄されないが、腎不全や腎機能障害になると、腎臓でアルブミンを再吸収できなくなるため尿中に排泄されるアルブミンの量が増加する。このため、腎疾患の診断のために尿中のアルブミンを測定することは重要である。
特に、糖尿病では合併症により腎疾患に至る可能性があるため尿中に排泄されているアルブミンの量の測定は重要である。上記したアルブミン測定方法としては、アルブミン抗体が固定された膜に、尿を滴下し、尿中に含まれるアルブミンと膜に固定されたアルブミン抗体との相互作用を、光の強度変化として検出できる物質とさらにカップリングさせることで検出する光学的測定方法が一般的に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した光学的測定方法は、測定システムが煩雑で費用が多くかかるという問題点があり、より簡便で、より低費用な測定方法の開発が市場では求められている。
簡便で、より低費用な測定方法としては、物質の化学反応を電気信号として取り出す電気化学的測定方法が挙げられるが、アルブミンは、電気的に活性な物質ではないので、アルブミンそのものを、この電気化学的測定方法を用いて測定することはできないという問題がある。
上記した問題は、アルブミンに限らず、電気化学的に活性でない物質に共通する問題である。
発明者等は、上記した従来の問題点に着目し、電気化学的に活性でない物質を、より簡便で、より低費用で測定する方法を研究し、本発明を発明するに至った。
本発明は、電気化学的に活性でない物質を、簡便で安価な電気化学的方法により測定することを可能にする電気化学式バイオセンサーを提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電気化学式バイオセンサーは、測定すべき物質の抗体に基質との反応により電気化学的に活性な物質を生成する酵素を結合させた酵素結合抗体を含む第一層と、前記酵素結合抗体と結合する物質が、少なくとも測定すべき物質よりも多い量、固定された第二層と、前記酵素との反応により電気化学的に活性な物質を生成する基質を含有する第三層とを電極上に積層すると共に、前記第二層と第三層との間に微細な隙間を設け、前記第一層から測定すべき物質を含有する試液を導入し、第一層に導入された試液が、第二層を通過して毛細管現象により前記隙間に入った後、第三層に導入され、第三層での電気化学的な反応を前記電極を介して測定することができるように構成したことを特徴とする。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下に添付図面に示した幾つかの実施例を参照しながら本発明に係る電気化学式バイオセンサーの実施の形態について説明していく。
始めに、図1を参照しながら本発明に係る電気化学式バイオセンサーの原理の一部を説明する。
図1は、本発明に係る電気化学式バイオセンサーの原理の一部を説明するための電気化学式バイオセンサーの概略斜視図を示している。
図中符号1は基板を示しており、この基板1上には、電極2がスクリーン印刷されている。
電極2の上部には、3つの層が積層されている。以下の説明では、これら3つの層を試液が通る順番に従って酵素結合抗体層3、競合反応層4及び電気化学反応層5と称する。
酵素結合抗体層3は、本願発明の第一層を形成する最上部に位置する層であり、この酵素結合抗体層3には、測定すべき物質の抗体に、基質との反応により電気化学的に活性な物質を生成する酵素を結合させた物質が含まれている。ここで、基質との反応により電気化学的に活性な物質を生成する酵素とは、例えば、基質がパラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGの場合には、β−ガラクトシダーゼ(β−Gal)であり、また、例えば、基質がグルコースの場合には、グルコースオキシダーゼであり得る。さらにまた、第三層には、酵素反応に伴って共役的に酸化還元を行う電気化学的に活性なフェリシアナイド若しくはフェロセン及びおよびその誘導物質、又はキノン等の酸化還元物質を含ませることもできる。また、本明細書では、この測定すべき物質の抗体に酵素を結合した物質のことを酵素結合抗体と称する。
この酵素結合抗体層3に含まれる酵素結合抗体の量は、測定すべき物質に応じて適宜変更され得るが、競合反応層での試液の展開中に測定すべき物質と競合反応する量より多くしておく必要がある。例えば、β−ガラクトシダーゼ標識アルブミン抗体2.5μgが酵素結合抗体層3に含まれ得る。
競合反応層4は、本発明に係る第二層を形成する層であり、酵素結合層3の下流に位置する。この競合反応層4には、酵素結合抗体層3に含まれた酵素結合抗体と結合し得る物質が固定されている。この物質は、測定対象物質と同じ物質であり得るが、これに限定されることなく、酵素結合抗体層3に含まれている酵素結合抗体と結合し得る物質であれば任意の物質でよい。
この競合反応層4に固定される物質の量は、測定すべき物質の量と、酵素結合抗体層3に含まれる酵素結合抗体の量とに応じて適宜決められ得るが、少なくとも、酵素結合抗体層3において測定すべき物質が結合しなかった余剰な酵素結合抗体と競合反応するのに充分な量に設定される。
電気化学反応層5は、本発明に係る第三層を形成する層であり、最下流に位置し、電極2と直接接触している。この電気化学反応層5には、酵素結合抗体層3に含まれた酵素結合抗体における酵素と反応して電気化学的に活性な物質を生成する基質が含まれている。具体的には、例えば、酵素がβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)の場合には基質はパラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGであり、酵素がグルコースオキシダーゼの場合には基質はグルコースになる。この電気化学反応層5に含まれている基質の量は、第一層と同様、測定すべき物質の量より多くしておく必要がある。
【0006】
上記したように構成された電気化学式バイオセンサーの作用を説明する。
以下の説明では、一例として、測定対象物質をアルブミンAlb、抗体をアルブミン抗体Ab、酵素をβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)、基質をパラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGとして説明していく。
酵素結合抗体層3から試液として尿を導入すると、酵素結合抗体層において、尿中にアルブミン抗体とβ−ガラクトシダーゼとを結合させた酵素結合抗体Ab+Galが溶け出す。
尿中に溶け出した酵素結合抗体Ab+Galは、尿中のアルブミンAlbと結合して、β−ガラクトシダーゼが結合したアルブミン−抗体複合体(以下、酵素結合型アルブミン−抗体結合体と称する。)となり競合反応層4に入る。
競合反応層4に入った尿には、酵素結合型アルブミン−抗体結合体と、アルブミンAlbと結合できなかった酵素結合抗体Ab+Galが含まれている。競合反応層4には、酵素結合抗体Ab+Galと結合する物質としてアルブミンAlbが予め固定されているので、余剰な酵素結合抗体Ab+Galは、競合反応層4に固定されたアルブミンAlbと結合して競合反応層4に止まる。
従って、競合反応層4で競合反応により測定物質であるアルブミンと結合しない酵素結合抗体Al+Galは尿中から取り除かれ、電気化学反応層5には、測定すべきアルブミンから生成された酵素結合型アルブミン−抗体結合体だけが入る。
電気化学反応層5には、β−ガラクトシダーゼGalの基質であるパラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGが含まれているので、尿中に含まれている酵素結合型アルブミン−抗体結合体のβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)とパラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGとの酵素反応によりパラアミノフェノールPAPが生成される。
ここで生成されるパラアミノフェノールPAPは電気化学的に活性な物質なので、それが生成された量を電気信号として取り出すことができる。
従って電極1で電気化学反応層5で生成されたパラアミノフェノールPAPの量を電気信号として取り出し、不図示の測定装置に出力することが可能になる。
そして、この電気化学反応層で生成されるパラアミノフェノールPAPの量は、尿中に含まれているアルブミンAlbの量と比例関係を持つので、測定装置で、パラアミノフェノールPAPの量から尿中に含まれているアルブミンAlbの量を算出することが可能になる。
【0007】
次に、図2〜図6を参照して本発明に係る電気化学的バイオセンサーの実施例について説明していく。
図2は電気化学的バイオセンサーの実施例の概略上面図、図3は図2に示した電気化学的バイオセンサーの一部断面概略斜視図、図4は図2のA−A断面図、図5は図2のB−B断面図を各々示している。
図中符号10は絶縁性プラスチックフィルムからなる基板を示しており、この基板10上には、導電性ペーストインク材料をスクリーン印刷してなる作用極11及び測定極12が設けられている。
上記した二つの電極11及び12は電極部分及び端子部分を除いて絶縁性レジスト膜13で被覆されている。
上記したように構成された電極11及び12の上には、酵素結合抗体層14、競合反応層15及び電気化学反応層16が図3〜図5に示すように設けられる。以下に、これら各層14〜16のレイアウトについて説明する。
電気化学反応層16は電極11及び12の上に設けられ、電極部分と直接接触するように構成されている。
競合反応層15は、ラテラルフローメンブレンから成り、基板10の後方(図2における左側)から基板10の前方(図2における右側)に向かって伸び、電気化学反応層16の上を微細な隙間17をあけて通過して、電気化学反応層16より前方で、基板10上に形成されているレジスト膜13に接触するように湾曲され、その先端が前記レジスト膜13に固定される。前記競合反応層15は、その露出している上面部分が液密にコーティングされている。また、競合反応層15とレジスト膜13の結合部分は、外側(電極の端子側)には液が漏れないが、内側(電極部分側)には液が漏れ出るようにコーティングされている。
酵素結合抗体層14は、競合反応層15の上流部分に、競合反応層15と直接接触するように設けられる。
尚、図中、符号18はスペーサを示している。上記したように構成された酵素結合抗体層14には酵素結合抗体が、競合反応層15には抗体と結合する物質が、電気化学反応層16には酵素に対応する基質が各々含有又は固定されている。これらの物質の種類や量については先に図1を用いて説明しているので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0008】
次に、上記したように構成された電気化学式バイオセンサーの作用について図6を参照しながら説明していく。尚、各層における化学的又は電気化学的な反応については既に図1を用いて説明しているので重複する説明は省略し、ここでは、試液の流れについてのみ説明していく。図6は図3の一部断面斜視図に試液の流れを矢印で示した説明図である。
酵素結合抗体層14に導入された試液は、競合反応層15に流入する。競合反応層15はセンサーの前後方向に試液が流れるように配置されたラテラルフローメンブレンで形成されているので、競合反応層15に流入した試液は、競合反応層15の先端に向かって流れる。
競合反応層15の先端に到達した試液は、競合反応膜15の先端から内側に漏れ出し、毛細管現象により、電極リード部を形成することで任意に基板10上に生じさせた段部に沿って電極11及び12の電極部分に向かって流れ、さらに、競合反応膜15と電気化学反応層16との間に形成された微細な間隙17に引き込まれ、電気化学反応層16の上面から均一に、電気化学反応層16に入り込むようになる。
上記したように構成することにより、ラテラルフローメンブレンを使用しているにもかかわらず試液が電気化学反応層16により均一に流入するようになり、より良好な測定結果を得ることが可能になる。
【0009】
上記したように構成された電気化学式バイオセンサーを用いて実際に試液中に含まれるアルブミンの量を測定した結果を図7に示す。
この実験では、酵素結合抗体層14に、アルブミン抗体とβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)とを結合させた酵素結合抗体Ab+Galを2.5μg含ませ、
競合反応層15に、アルブミンAlbを20μg/cm2固定し、
電気化学反応層16に、パラアミノフェニルガラクトピラノシドPAPGを22μg含ませ、
予め1〜1000mg/Lのアルブミンを含ませた試液を酵素結合抗体層14から導入して電極での出力電流量を測定した。
図7の実験結果から、上記したように構成された電気化学式バイオセンサーを用いれば電気化学的に不活性なアルブミン等の物質でも電気化学的に測定することが可能になることがわかる。
【0010】
尚、上記した実施例では、電気化学式バイオセンサーを、酵素結合抗体層、競合反応層及び電気化学反応層の三つの層から形成しているが、必要に応じて、第一層を構成する酵素結合抗体層の上部に、試液中に含まれる電気化学的に酸化されやすい物質を、予め酸化して除去することができる物質を積層してもよい。これにより、試液中に含まれていて電気的に酸化され易いので測定に影響を及ぼす可能性があるアスコルビン酸、尿酸、アセトアミノフェン等の物質を予め除去しておくことが可能になる。
この電気化学的に酸化されやすい物質を、予め酸化して除去することができる物質としては、例えば、二酸化鉛や二酸化すず等がある。
【0011】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る電気化学式バイオセンサーは、測定すべき物質の抗体に基質との反応により電気化学的に活性な物質を生成する酵素を結合させた酵素結合抗体を含む第一層と、前記酵素結合抗体と結合する物質が、少なくとも測定すべき物質よりも多い量、固定された第二層と、前記酵素との反応により電気化学的に活性な物質を生成する基質を含有する第三層とを電極上に積層すると共に、前記第二層と第三層との間に微細な隙間を設け、前記第一層から測定すべき物質を含有する試液を導入し、第一層に導入された試液が、第二層を通過して毛細管現象により前記隙間に入った後、第三層に導入され、第三層での電気化学的な反応を前記電極を介して測定することができるように構成しているので、電気化学的に不活性な物質でも電気化学的に活性な物質を生成する酵素と基質との化学反応を介して電気化学的に測定することが可能になるという効果を奏する。
そして、これにより、従来、高価な光学的手法に頼らざるをえなかった様々な物質の測定を安価な電気化学的手法により測定することが可能になるという効果を奏する。
また、本発明に係る電気化学式バイオセンサーは、第二層と第三層との間に微細な隙間を設け、第二層を通過した試液が毛細管現象により前記隙間に入った後に、第三層に導入されるように構成されているので、試液が第三層の上面から均一に第三層に入り込み、第三層における電気化学的な反応を効率良く得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る電気化学式バイオセンサーの原理の一部を説明するための電気化学式バイオセンサーの概略斜視図である。
【図2】 電気化学的バイオセンサーの実施例の概略上面図である。
【図3】 図2に示した電気化学的バイオセンサーの一部断面概略斜視図である。
【図4】 図2のA−A断面図である。
【図5】 図2のB−B断面図である。
【図6】 図3の一部断面斜視図に試液の流れを矢印で示した説明図である。
【図7】 図2〜図6に示した電気化学式バイオセンサーを用いて実際に試液中のアルブミン量を測定した実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 電極
3 酵素結合抗体層
4 競合反応層
5 電気化学反応層
10 基板
11 作用極
12 測定極
13 レジスト膜
14 酵素結合抗体層
15 競合反応層
16 電気化学反応層
17 隙間
18 スペーサ
Claims (6)
- 測定すべき物質の抗体に基質との反応により電気化学的に活性な物質を生成する酵素を結合させた酵素結合抗体を含む第一層と、
前記酵素結合抗体と結合する物質が、少なくとも測定すべき物質よりも多い量、固定された第二層と、
前記酵素との反応により電気化学的に活性な物質を生成する基質を含有する第三層とを
電極上に積層すると共に、
前記第二層と第三層との間に微細な隙間を設け、
前記第一層から測定すべき物質を含有する試液を導入し、
第一層に導入された試液が、第二層を通過して毛細管現象により前記隙間に入った後、第三層に導入され、
第三層での電気化学的な反応を前記電極を介して測定することができるように構成した
ことを特徴とする電気化学式バイオセンサー。 - 前記酵素がβ−ガラクトシダーゼであり、前記基質がパラアミノフェニルガラクトピラノシドである
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学式バイオセンサー。 - 前記酵素がグルコースオキシダーゼであり、前記基質がグルコースである
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学式バイオセンサー。 - 前記第三層に、酵素反応に伴って共役的に酸化還元を行う電気化学的に活性なフェリシアナイド若しくはフェロセン及びおよびその誘導物質、又はキノン等の酸化還元物質を含む
ことを特徴とする請求項3に記載の電気化学式バイオセンサー。 - 前記測定すべき物質が尿中に含まれたアルブミンであり、
前記抗体がアルブミン抗体であり、
酵素と基質との反応を介して間接的に尿中のアルブミン量を測定することができるようにした
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の電気化学式バイオセンサー。 - 第一層の上部に試液中に含まれる電気化学的に酸化されやすい物質をあらかじめ除去(酸化)する物質を積層した
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の電気化学式バイオセンサー。
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