JP4008675B2 - ギアの騒音低減装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ギアを介した回転伝達の際にギア間のバックラッシによる噛合い音や歯打ち音を低減するためのギアの騒音低減装置に関するものである。
【0002】
【関連する背景技術】
周知のように、駆動負荷が変動するような被駆動装置を駆動源によりギア列を介して駆動するギア構造では、ギア間のバックラッシによりギアの歯面同士が衝突して、騒音増加の原因となることが知られている。このような現象を抑制するための対策として、シザースギアを挙げることができる。周知のように、シザースギアは本来のギア(ドブリンギア)に対して重合配置されており、ばねにより反回転方向に付勢されて、ドブリンギアと相手側のギアとの歯面の衝突を防止するものである。
【0003】
しかしながら、シザースギアの適用は伝達トルクが比較的低いギアに限られる。つまり、伝達トルクが増加するほどギアが正逆回転するときのトルクも増加するため、ばねを強める必要が生じる。ところが、ばねを強めるほど、相手側のギアの歯面に対する圧接力が強まって磨耗を促進させる弊害が発生することから、結果として、上記のように伝達トルクに関する制限を受けるのである。
【0004】
そこで、シザースギアとは異なる原理を利用した騒音低減装置として、例えば特開平8−261289号公報に記載の技術を挙げることができる。この騒音低減装置はディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプに適用されたものであり、燃料噴射ポンプは、その入力軸に固定されたポンプギア、及びアイドラギアを介してエンジンのクランク軸にて回転駆動されるようになっている。燃料噴射ポンプの負荷は、各気筒への燃料圧送に同期して変動するため、この負荷変動によりポンプギアがアイドラギアとのバックラッシの範囲内で微小な正逆回転を繰り返して、歯面の衝突による衝突音を発生させてしまう。
【0005】
上記公報に記載の騒音低減装置では、ポンプギアの裏面に気筒数に対応する数の動翼を環状に配置すると共に、これらの動翼に対して環状をなす内外2重のオイル溜めを対向配置し、外周側のオイル溜め内に単一のステータを設けている。ポンプギアと共に回転する動翼は一種の遠心ポンプの作用を奏し、内周側のオイル溜め内のオイルを吸い上げて外周側のオイル溜めに排出し、オイルを循環させる。各動翼はオイル内でステータと順次対応し、このときに発生する流体干渉により、燃料噴射ポンプの負荷変動とは逆位相のトルク変動を発生させて、歯面の衝突を防止している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、公報に記載のギアの騒音低減装置では、上記のように動翼を遠心ポンプとして機能させているため、燃料噴射ポンプの駆動損失が大幅に増大し、ひいてはエンジンの燃費悪化等の弊害を引き起こしてしまうという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、駆動損失を最小限に抑制した上で、ギアの歯面の衝突による衝突音を確実に低減することができるギアの騒音低減装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明では、被駆動装置の入力軸に係着された従動ギアに駆動ギアを噛合させ、駆動ギア及び従動ギアを介して駆動源の回転を被駆動装置に伝達するギア構造において、被駆動装置の入力軸と上記従動ギアとの何れか一方に設けられたシリンダ室と、被駆動装置の入力軸と従動ギアとの他方に設けられて、シリンダ室内を一対の油室に区画すると共に、入力軸と従動ギアとの相対回転に伴ってシリンダ室内を移動するベーン部材と、シリンダ室内に作動油を供給する作動油供給手段と、シリンダ室内でのベーン部材の移動に伴って、両油室間で作動油を流通させるオリフィス通路と、シリンダ室内の両油室に作動油供給手段からの作動油をそれぞれ供給する両側供給位置と、回転伝達に伴って容積を縮小する側の油室に作動油供給手段からの作動油を供給する片側供給位置との間で切換可能に構成された供給位置切換手段と、被駆動装置の駆動トルクの増加に先行して、供給位置切換手段を片側供給位置に切換えると共に、被駆動装置の駆動トルクの減少に先行して、供給位置切換手段を両側供給位置に切換える作動油制御手段とを備えた。
【0009】
従って、駆動源の回転は駆動ギア及び従動ギアを介して被駆動装置に伝達され、このとき、シリンダ室内に作動油が供給されているため、シリンダ室とベーン部材との間で作動油を介して回転伝達が行われて、作動油自体が緩衝作用を奏する。又、駆動ギアと従動ギアとの歯面の衝突を受けてシリンダ室内でベーン部材が移動すると、作動油がオリフィス通路を経て両油室間で流通し、ベーン部材の移動を適度に妨げる減衰作用を奏する。よって、これらの作動油による緩衝作用、及びベーン部材の移動に伴う減衰作用により、被駆動装置の駆動トルクが変動したときの歯面の衝突が緩和される。
【0010】
そして、このように油室内に作動油を供給しているだけのため、例えば、ポンプギアの動翼を遠心ポンプとして機能させる特開平8−261289号公報に記載された技術のように、被駆動装置の駆動損失を増大させる要因は一切なく、又、油室に供給された作動油は、オリフィス通路を流通したり、各部のクリアランスから若干漏れたりするだけであり、その作動油消費量が非常に少ないため、作動油供給手段の駆動損失が増大することもない。
【0012】
更に、被駆動装置の駆動トルクの増加に先行して、供給位置切換手段が片側供給位置に切換えられ、回転伝達に伴って容積を縮小する側の油室に作動油が供給されて、ベーン部材がシリンダ室内の一方のストローク端に移動される。その後、駆動トルクの増加に伴って歯面が衝突すると、ベーン部材はシリンダ室内を移動してオリフィス通路による減衰作用を奏するが、このときのベーン部材はシリンダ室内で移動可能な全ストロークを移動することから、歯面の衝突が十分に緩和される。
【0013】
本発明は好適には、ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプのポンプ軸に固定されたポンプギアにアイドラギアを噛合させ、アイドラギア及びポンプギアを介してエンジンのクランク軸の回転を燃料噴射ポンプに伝達するギア構造において、燃料噴射ポンプのポンプ軸に設けられて、内周に複数のベーン室を備えたスプライン凹部と、ポンプギアに設けられて外周に複数のベーンを備え、各ベーンをスプライン凹部のベーン室内に配置して一対の油室に区画すると共に、ポンプ軸とポンプギアとの相対回転に伴ってベーン室内でベーンを移動させるスプライン凸部と、油室内にオイルを供給するオイル供給手段と、ベーン室内でのベーンの移動に伴って、両油室間でオイルを流通させるオリフィス通路と、ベーン室内の両油室にオイル供給手段からのオイルをそれぞれ供給する両側供給位置と、回転方向側の油室にオイル供給手段からのオイルを供給する片側供給位置との間で切換可能に構成されたスプールと、燃料噴射ポンプの噴射開始に先行して、スプールを片側供給位置に切換えると共に、燃料噴射ポンプの噴射終了に先行して、スプールを両側供給位置に切換えるオイル制御手段とを備えた燃料噴射ポンプ用のギアの騒音低減装置として具体化できる。
【0014】
燃料噴射ポンプでは、燃料噴射の開始に伴ってポンプ負荷が急増すると、ポンプギアとアイドラギアとの歯面が衝突して噛合い音が発生し、燃料噴射の終了に伴ってポンプ負荷が急減すると、両ギアの歯面がバックラッシの範囲内で交互に衝突を繰り返して歯打ち音が発生するが、これらの噛合い音や歯打ち音を、油室内のオイルによる緩衝作用、及びベーンの移動に伴う減衰作用により低減可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプに適用されたギアの騒音低減装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のギアの騒音低減装置を示す部分断面図、図2は油室と油路との関係を示す図1のII−II線断面図である。燃料噴射ポンプ1(被駆動装置)は図示しないエンジン(駆動源)のシリンダブロックに固定されており、図1には燃料噴射ポンプ1のハウジング2の前部が部分的に示されている。燃料噴射ポンプ1は例えば公知の分配型ポンプとして構成される。そのハウジング2内にはエンジンの気筒数に対応するインナーカムを回転駆動するポンプ軸3(入力軸)が回転可能に支持されている。
【0016】
前記ハウジング2の前側位置には、ポンプ軸3と軸心Lを一致させてポンプギア4(従動ギア)が配設され、このポンプギア4の後面には筒状の軸受部4aが形成されている。尚、ポンプギア4の歯形は、ストレートギアとして構成しても、ヘリカルギアとして構成してもよい。軸受部4aはハウジング2内に形成されたベアリング孔2a内に配設され、ラジアルニードルベアリング5を介してポンプギア4全体が回転可能に支持されている。ポンプギア4の軸受部4aの後端面にはスプライン凸部7が一体的に形成され、このスプライン凸部7と対応して、前記ポンプ軸3の前端面にはスプライン凹部8が形成されている。
【0017】
図2に示すように、スプライン凸部7は、筒状部7aの外周に90°間隔で4つのベーン7b(ベーン部材)を突設して構成され、一方、スプライン凹部8は、筒状孔8aの内周に90°間隔で4つのベーン室8b(シリンダ室)を形成して構成されている。スプライン凸部7の筒状部7aはスプライン凹部8の筒状孔8a内に嵌合し、スプライン凸部7の各ベーン7bはスプライン凹部8の各ベーン室8b内に配置されている。
【0018】
各ベーン室8bはベーン7bにより周方向に一対の油室8c,8dに区画されており、スプライン凸部とスプライン凹部とが軸心Lを中心として僅かに相対回転すると、ベーン室内8bをベーン7bが移動し、それに伴って両油室8c,8dの容積が逆方向に変化する。ここで、ベーン7bの先端とベーン室8bの内壁との間隙S(オリフィス通路)は、後述のようにオイルが流通する際に所定のオリフィス効果を得るために、厳密な公差に基づいて設定されている。
【0019】
ポンプギア4の前側にはギアケース9が配設され、このギアケース9に設けられたラジアルボールベアリング10及びスラストボールベアリング11により、ポンプギア4の前部側が回転可能に支持されている。そして、ポンプギア4はシリンダブロックに回転可能に支持されたアイドラギア12(駆動ギア)と噛合し、図示はしないが、このアイドラギア12はエンジンのクランク軸に固定されたドライブギアと噛合し、クランク軸の回転がアイドラギア12を介してポンプギア4に伝達されて、上記のようにエンジンの回転に同期して燃料噴射が実施される。
【0020】
一方、前記ポンプギア4には軸心Lに沿ってスリーブ孔13が形成され、このスリーブ孔13内には、外周に前後一対の溝14a,14bを有するスプール14(供給位置切換手段)が配設されている。スプール14はソレノイド15によりスリーブ孔13内でスライドし、ソレノイド15の励磁時には前側にスライドした図1の片側供給位置に切換えられ、ソレノイドの消磁時には後側にスライドした図3の両側供給位置に切換えられる。
【0021】
ポンプギア4の軸受部4aの外周には1条のオイル溝16が全周にかけて形成され、このオイル溝16はハウジング2に形成された第1油路17を介して、エンジンの図示しない潤滑用オイルポンプ(作動油供給手段)の吐出側と接続されており、オイル溝16内に常にオイルが供給される。オイル溝16内の一側には第2油路18の一端が接続され、この第2油路18の他端は前後に二又状に分岐して、それぞれ前記スリーブ孔13内に開口している。又、図1及び図2に示すように、スリーブ孔13内には第3油路19の一端が開口し、この第3油路19の他端は4つに分岐して、それぞれ前記スプライン凸部7の各ベーン7bの回転方向側の基部、つまり回転方向側に位置する油室8c内と連通している。更に、図3及び図4に示すように、スリーブ孔13内には第4油路20の一端が開口し、この第4油路20の他端は4つに分岐して、それぞれスプライン凸部7の各ベーン7bの反回転方向側の基部、つまり反回転方向側に位置する油室8d内と連通している。
【0022】
そして、スプール14が図1に示す片側供給位置に切換えられたときには、その溝14bを介して第2油路18が第3油路19と連通し、一方、スプール14が図3に示す両側供給位置に切換えられたときには、上記第2油路18と第3油路19との連通を維持したまま、溝14aを介して第2油路18が第4油路20と連通する。
【0023】
一方、車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU(電子制御ユニット)21(作用油制御手段)が設置されている。ECU21の入力側には、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ22、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ23等の各種センサ類が接続され、ECU21の出力側には、前記ソレノイド15が接続されると共に、燃料噴射ポンプ1の各種アクチュエータ類が接続されている。
【0024】
そして、ECU21はアクセルセンサ22にて検出されたアクセル操作量や回転速度センサ23にて検出されたエンジン回転速度等の情報に基づいて、燃料噴射ポンプ1による燃料噴射量や噴射時期を制御する。
一方、ECU21はソレノイド15によりスプール14を切換制御して、油室8c,8d内に適宜オイルを供給し、オイルによって奏される緩衝作用や減衰作用を利用して、ポンプギア4とアイドラギア12との歯面の衝突によって発生する衝突音を低減する。そこで、以下にその制御を詳述する。
【0025】
スプール14の切換は、図5のタイムチャートに示すように、燃料噴射のタイミングを基準として制御されている。まず、燃料噴射が開始される以前の、例えばタイミングaでは、ソレノイド15が消磁(オフ)されて、スプール14が図3に示す両側供給位置に切換えられている。従って、オイル溝16内のオイルが第2油路18、スプール14の溝14b、第3油路19を経て回転方向側の油室8c内に供給されると共に、第2油路18、スプール14の溝14a、第4油路20を経て反回転方向側の油室8d内に供給されている。その結果、スプライン凸部7のベーン7bは両側の油室8c,8dから均衡する油圧を受けて、ベーン室8b内のストロークのほぼ中立に位置している。
【0026】
この状態から燃料噴射の開始より所定時間先行するタイミングbに至ると、ソレノイド15が励磁(オン)されて、スプール14が図1に示す片側供給位置に切換えられる。その結果、反回転方向側の油室8dへのオイルの供給が中断されて、オイルは回転方向側の油室8c(つまり、回転伝達に伴って容積を縮小する側の油室)のみに供給され、その油圧をスプライン凸部7のベーン7bが受けることになる。結果として、図2に示すように、ベーン7bは反回転方向側のストローク端まで移動し、ポンプギア4の回転は回転方向側の油室8c内のオイルを介してポンプ軸3側に伝達されることになる。
【0027】
その後、タイミングcで燃料噴射が開始されると、燃料噴射ポンプ1の負荷が急増する。つまり、燃料噴射の気筒に対応するカムがプランジャを押し上げて、プランジャバレル内の燃料圧を上昇させるため、一時的にポンプ軸3の回転抵抗が急増するのである。このときのアイドラギア12はポンプギア4に対して歯面をほぼ当接させながら回転を伝達しているが、ポンプ負荷が急増した瞬間に両ギア4,12の歯面が僅かでも離間していると、歯面が衝突して衝突音(以下、噛合い音という)の発生原因となる。
【0028】
ここで、上記のように本実施形態では、回転方向側の油室8c内のオイルを介して回転伝達が行われているため、オイル自体が緩衝作用を奏することになる。しかも、歯面の衝突時のベーン7bは、油室8c内のオイルを油室8d側に流通させながら、ベーン室8b内を回転方向側に移動し、このとき、ベーン7bの先端とベーン室8bの内壁との間を流通するオイルのオリフィス効果により、ベーン7bの移動を適度に妨げる減衰作用が奏される。そして、以上のオイルによる緩衝作用、及びベーン7bの移動に伴う減衰作用により、ポンプ負荷が急増したときの歯面の衝突が緩和される。
【0029】
一方、燃料噴射の終了より所定時間先行するタイミングdに至ると、ソレノイド15が消磁されて、スプール14が図3に示す両側供給位置に切換えられる。その結果、反回転方向側の油室8dへのオイルの供給が再開されて、ベーン7bは両側の油室8c,8dから均衡する油圧を受ける。
その後、タイミングeで燃料噴射が終了されると、燃料噴射ポンプ1の負荷が急減する。このときにはスピルと同時にポンプ軸3の回転抵抗が急減するだけでなく、その直後にプランジャがカム山を乗り越えて、プランジャスプリングの付勢力を受けて押し下げられるため、カムを介してポンプ軸3に瞬間的に加速方向の力が作用する。よって、ポンプギア4とアイドラギア1の歯面はバックラッシの範囲内で交互に衝突を繰り返し、衝突音(以下、歯打ち音という)の発生原因となる。
【0030】
そして、このときには上記したポンプ負荷の急増時と同様の作用が、ベーン7bの両側において奏される。即ち、ベーン7bの両側には油室8c,8dが形成されているため、それぞれの油室内のオイルが回転方向及び反回転方向への緩衝作用を奏すると共に、両油室8c,8d間でオイルが交互に流通しながらベーン7bの両方向への移動を適度に妨げて、回転方向及び反回転方向への減衰作用を奏する。よって、ポンプ負荷が急減したときの歯面の衝突が緩和される。
【0031】
以上のように本実施形態のギアの騒音低減装置では、ポンプギア4とポンプ軸3との相対回転に伴って、ポンプ軸3に設けたベーン室8b内でポンプギア4側のベーン7bが移動するように構成し、燃料噴射の開始時には、事前に油室8c内にオイルを供給し、燃料噴射の終了時には、事前に油室8c,8d内にオイルを供給するようにした。従って、燃料噴射の開始に伴ってポンプ負荷が急増すると、オイルの緩衝作用及びベーン7bの移動に伴う減衰作用が奏されて、ギア回転方向の歯面の衝突が緩和され、又、燃料噴射の終了に伴ってポンプ負荷が急減すると、同様にオイルの緩衝作用及びベーン7bの移動に伴う減衰作用が奏されて、ギア回転方向及び反回転方向の歯面の衝突が緩和され、結果として噛合い音及び歯打ち音を確実に低減して、ひいてはエンジン全体の低騒音化を達成することができる。
【0032】
図6は本実施形態のギアの騒音低減装置を備えたエンジンと通常のエンジンとの騒音レベルの計測結果を示し、実線で示す本実施形態のエンジンでは、破線で示す通常のエンジンに比較してほぼ全周波数帯域で騒音レベルが低減され、特に高周波域では大きな低減幅が得られることがわかる。しかも、一般に車両の乗員は、高周波成分を多く含む騒音を耳障りに感じる傾向があるため、乗員に与える騒音低減の印象は、図の計測値より更に好ましいものとなる。
【0033】
又、上記構成から明らかなように、油室8c,8d内にオイルを供給しているだけのため、例えば、ポンプギアの動翼を遠心ポンプとして機能させる特開平8−261289号公報に記載された技術のように、燃料噴射ポンプの駆動損失を増大させる要因は一切ない。又、油室8c,8dに供給されたオイルは、両油室間を流通したり、各部のクリアランスから若干漏れたりするだけであり、そのオイル消費量が非常に少ないため、供給源であるオイルポンプの吐出量を増大する等の対策も必要なく、エンジン側の駆動損失が増大することもない。よって、エンジンの燃費悪化等の弊害を未然に防止した上で、上記騒音低減の効果を得ることができる。
【0034】
加えて、上記のように燃料噴射の開始及び終了に応じて、スプール14により油室8c,8dへのオイル通路を切換え、上記のように燃料噴射の開始時には、事前にベーン7bが反回転方向側のストローク端に移動される。その結果、ベーン7bはベーン室8b内で移動可能な全ストロークをもって減衰作用を奏することになり、結果として燃料噴射の開始に伴う歯面の衝突を十分に緩和して、噛合い音を確実に抑制できるという利点もある。
【0035】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプ1に適用されたギアの騒音低減装置に具体化したが、負荷変動を有する被駆動装置に駆動源の回転を伝達するためのギア構造に用いられるものであれば、これに限ることはない。よって、例えばクランク軸の回転をギア列を介してカム軸に伝達する形式のエンジンにおいて、カム軸の前端とギアとの間に、上記したベーン室8b、ベーン7b、油路17〜20等の構成を設けてもよい。燃料噴射ポンプ1の場合と同様に、カム軸にもバルブスプリングの反力に起因して負荷変動が発生し、これによりカム軸側のギアが相手側のギアと間でバックラッシの範囲内で正逆回転して歯面を衝突させるが、上記のように構成すれば実施形態と同様の作用効果が奏せられ、歯面の衝突を緩和して噛合い音や歯打ち音を抑制できる。
【0036】
又、上記実施形態では、燃料噴射に同期してスプール14によりオイル通路を切換えるように構成したが、例えば、オイル通路を切換えるためのスプール14やソレノイド15等の構成を省略して、オイルポンプからのオイルを第3油路19及び第4油路20を経て対応する油室8c,8dに常に供給するようにしてもよい。この場合には、燃料噴射の終了時と同じく開始時においても、ベーン7bがベーン室8b内のストロークのほぼ中立に位置することから、ベーン7bのストロークが半減して減衰作用は弱められるものの、オイルの緩衝作用と相俟って、通常のエンジンに比較すれば十分に騒音を低減できる。そして、スプール14やソレノイド15等の省略により、騒音低減装置の構成が大幅に簡素化されるため、結果として最小限のコストにより十分な騒音低減効果が得られる。
【0037】
更に、上記実施形態では、ベーン7bの先端とベーン室8bの内壁との間隙Sを厳密な公差で設定し、この箇所にオイルを流通させてオリフィス効果を得たが、例えば図7に実線で示すように、ベーン7bの両側の油室8c,8dを所定断面積の連通路31により接続し、この連通路31を経てオイルを流通させてオリフィス効果を得たり、或いは図7に破線で示すように、所定断面積の連通路32をベーン7bに貫設して、この連通路32を経てオイルを流通させてオリフィス効果を得るようにしてもよい。
【0038】
一方、上記実施形態では、ポンプギア4側にスプライン凸部7を形成し、ポンプ軸3側にスプライン凹部8を形成したが、両者の関係を逆転させて、ポンプギア4側にスプライン凹部8を形成し、ポンプ軸3側にスプライン凸部7を形成してもよい。又、上記実施形態では、軸心Lを中心とした4箇所にベーン7b及びベーン室8bを設けたが、ポンプ軸3とポンプギア4との相対回転に伴ってベーン室8b内でベーン7bが移動する構成であれば、その形状や数は限定されない。よって、例えば軸心Lを中心とした180°間隔で2箇所にベーン7bとベーン室8bを設けてもよい。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のギアの騒音低減装置によれば、駆動損失を最小限に抑制した上で、ギアの歯面の衝突による噛合い音や歯打ち音を確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態のギアの騒音低減装置におけるスプールが片側供給位置のときを示す部分断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】スプールが両側供給位置のときを示す部分断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】燃料噴射のタイミングとスプール切換のタイミングを示すタイムチャートである。
【図6】本実施形態のギアの騒音低減装置を備えたエンジンと通常のエンジンとの騒音レベルの計測結果を示す説明図である。
【図7】オリフィス通路の形態を変更した別例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 燃料噴射ポンプ(被駆動装置)
3 ポンプ軸(入力軸)
4 ポンプギア(従動ギア)
7b ベーン(ベーン部材)
8b ベーン室(シリンダ室)
8c,8d 油室
12 アイドラギア(駆動ギア)
14 スプール(供給位置切換手段)
21 ECU(作動油制御手段)
S 間隙(オリフィス通路)

Claims (1)

  1. 被駆動装置の入力軸に係着された従動ギアに駆動ギアを噛合させ、該駆動ギア及び従動ギアを介して駆動源の回転を被駆動装置に伝達するギア構造において、
    上記被駆動装置の入力軸と上記従動ギアとの何れか一方に設けられたシリンダ室と、
    上記被駆動装置の入力軸と上記従動ギアとの他方に設けられて、上記シリンダ室内を一対の油室に区画すると共に、該入力軸と従動ギアとの相対回転に伴って上記シリンダ室内を移動するベーン部材と、
    上記シリンダ室内に作動油を供給する作動油供給手段と、
    上記シリンダ室内での上記ベーン部材の移動に伴って、上記両油室間で作動油を流通させるオリフィス通路と
    上記シリンダ室内の両油室に上記作動油供給手段からの作動油をそれぞれ供給する両側供給位置と、回転伝達に伴って容積を縮小する側の油室に作動油供給手段からの作動油を供給する片側供給位置との間で切換可能に構成された供給位置切換手段と、
    上記被駆動装置の駆動トルクの増加に先行して、上記供給位置切換手段を片側供給位置に切換えると共に、該被駆動装置の駆動トルクの減少に先行して、該供給位置切換手段を両側供給位置に切換える作動油制御手段と
    を備えたことを特徴とするギアの騒音低減装置。
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