JP4007064B2 - 感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサに関し、特に、光熱変換分光法によって、光の回析限界以下の極微小部位の温度計測のために用いるのに適切な感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の顕微(紫外・可視・近赤外・赤外)分光法では、光の回折限界よりも小さな領域、または物質を測定観測することは原理的に非常に困難である。しかしながら回折限界の影響を回避する方法を適用することにより、この限界よりも小さな領域を測定することは可能である。
【0003】
近年、このように光の回折限界よりも小さな領域を測定することを可能とする新しい分光測定法が注目されるようになっている。1つは近接場光を利用した方法であり、もう1つは光熱変換分光法である。これらの方法ではいずれも光の回折限界の影響を受けず(あるいは無視できる条件下で)測定を行うものである。後者の光熱変換分光法を利用した方法では、白金を主成分とした非常に細く微細な温度センサを利用して、非常に微小な部分の赤外分光測定を行う試みがすでに検討されている(A.Hammicheら、Applied Spectroscopy,53,810,1999)。
【0004】
ここで利用されている温度センサは、白金を主成分とする金属材料が温度変化にともなって抵抗値が変化する性質を利用したものである。しかしながら白金を主成分とした金属材料では抵抗温度係数が0.004Ω/Ω℃と非常に小さく、赤外分光測定などの目的には感度が極めて不足している。
【0005】
通常の赤外分光法における赤外光の照射により変化する温度は、光源の輝度にもよるが、室温程度から大きく見積もっても30℃程度までの変化しか起こらない。このため上記白金を主成分とする金属材料では感度が不足し、測定時の積算を5000回程度行ってはじめてノイズに埋もれた信号がやっと検出できるレベルであり、実用性に乏しい。
【0006】
さらに重要な点は、上記赤外分光計で計測される温度変化は数百ヘルツから数キロヘルツの周波数(0.5msから50ms)で急速に変化するものであり、感度とともにそのセンサの温度変化に対する感度(時定数)も重要な問題となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、高感度な温度センサとなりうる抵抗温度係数の大きな素材である感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサを提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
1.支持基体の先端部に、抵抗温度係数の大きな感熱抵抗体材料から成る温度センサ層を設けたマイクロ温度センサを用い、微小部位の温度計測を行うマイクロ温度センサであって、前記支持基体と前記温度センサ層との間には、熱伝導制御層が設けてあり、かつ該温度センサ層の試料接触側は、高熱伝導絶縁層によって被覆されているマイクロ温度センサにおいて、前記熱伝導制御層が、支持基体側に位置する高熱伝導絶縁層と、温度センサ側に位置する低熱伝導絶縁層とを有しており、且つ前記高熱伝導絶縁層が、熱伝導度100W/mk以上の絶縁材料から成り、前記低熱伝導絶縁層が熱伝導度10W/mk未満の絶縁材料から成ることを特徴とする感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
【0011】
2.温度センサ層が、抵抗温度係数0.01Ω/Ω℃以上であることを特徴とする前記1に記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
【0013】
3.支持基体が光の回析限界以下に先細りさせてあり、光熱変換分光法によって、光の回析限界以下の極微小部位の温度計測が可能であることを特徴とする前記1又は2に記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
【0014】
4.分光測定以外の目的で微小部位の温度計測が可能であることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の支持基体を形成する材料としては、セラミック、圧電材料、シリコンなどの半導体材料または絶縁材料が挙げられ、支持基体の先端部の形状は台形型、針状、半球状などのいずれであってもよい。
【0016】
本発明の温度センサ層を形成する抵抗温度係数の大きな感熱抵抗材料としては、セラミック材料、オキサイド系ガラス、半導体、導電性高分子材料などがある。セラミック材料としてはMn−Ni系酸化物、Mo−Co−Ni系酸化物、Zr−Y系酸化物、Co−Al−CaSi系酸化物、Mg系酸化物、Ba−Ti−Nb−Mn系酸化物が挙げられ、またオキサイド系ガラスとしては、V−P−BaOなどのV系ガラスなどが挙げられ、通常の大型の温度センサとして利用されている。半導体材料としてはp型シリコン、n型シリコンをはじめ、SiC、SiN、TaN、Geなどが挙げられる。
【0017】
これらの材料の抵抗温度係数は白金などの金属材料の10倍から100倍以上の大きさを有し、より高感度に温度検出が可能である。導電性高分子材料であるポリアルキルチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンエチニレンなども、本発明の温度センサ層として有用である。
【0018】
温度センサとしての時定数及び/又は感度を向上させるには、上記材料を支持基体上にnmオーダーで薄膜化して温度センサ層とすることに加え、該支持基体と該温度センサ層との間に、熱伝導制御層を設けることで達成できる。
【0019】
光熱変換分光法によって微小領域の温度を計測する場合、光の照射により発生した熱を効率よく温度センサ層に伝達できることが肝要である。しかしながら単純に熱伝導率を高くとれば良いわけではなく、例えば温度センサ層の支持基体として熱伝導率の高い銅などの金属を利用すると、熱の伝導度は高いが、逆に素早く熱が拡散してしまい、却って温度変化の検出感度が低下してしまう。従って試料に接する部分、および/または温度センサ層を設ける支持基体には目的に応じた最適な熱伝導度を有する材料を複数配することが好ましい。本発明においては、熱伝導制御層は、支持基体側に位置する高熱伝導絶縁層と、温度センサ側に位置する低熱伝導絶縁層とから成る。
【0020】
本発明の高熱伝導絶縁層に用いる熱伝導度の高い(絶縁または導電性)材料としては、絶縁材料−ベリリヤ磁器(BeO)、アルミナ単結晶、多結晶(サファイア、ルビー)、MgO、TiO(ルチル)、AlN、ThO(熱伝導率:10W/mK以上)等が挙げられ、これらを用いて、熱伝導制御層を構成する高熱伝導絶縁層と、温度センサ層を被覆する高熱伝導絶縁層とを形成する。この2つの高熱伝導絶縁層には、同一の材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。
【0021】
本発明の低熱伝導絶縁層に用いる熱伝導度の低い絶縁材料としては、石英ガラス、ガラス[商品名:パイレックス(登録商標)]、ホウ素ガラス、雲母など(熱伝導率0.5〜5W/mK)等が挙げられる。
【0022】
発明は、高熱伝導絶縁層が、熱伝導度100W/mk以上の絶縁材料から成り、低熱伝導絶縁層が熱伝導度10W/mk未満の絶縁材料から成る。そして、この範囲を逸脱すると本発明の効果が得られなくなる。
【0023】
請求項に示す本発明は、温度センサ層が、抵抗温度係数0.01Ω/Ω℃以上、さらに好ましくは0.1Ω/Ω℃以上である。そして、抵抗温度係数が上記範囲未満であると、光熱変換分光測定時の測定信号が著しく低下し、ノイズが増加し正確な測定が困難となる不都合がある。
【0025】
本発明に係る温度センサによれば、高感度に光の照射に伴う温度変化を高感度に検出可能である。尚、光の照射を行う光学系の構成は、FT−IR又はチョッパーを利用するもの等、公知のものを特別の制限なく利用できる。
【0026】
本発明に係るマイクロ温度センサは、分光測定以外の目的で微小部位の温度計測に利用することもできる。
【0027】
【実施例】
本発明の一実施態様では、図1に示すように、光の回折限界以下に先細りさせた(<1.0μmφ)半導体材料または絶縁体材料から成る支持基体1の先端部に、熱伝導度を制御する熱伝導制御層2を設ける。この熱伝導制御層は、高熱伝導絶縁層2Aと低熱伝導絶縁層2Bとの2層以上から成る。この上に、温度センサ層3を設け、この上の試料が直接接触する部分には、熱伝導度の高い高熱伝導絶縁層4を設ける。
【0028】
具体的には、温度センサ層3を挟んで支持基体1側には適度な熱伝導度を有し、熱を適切に保持する高熱伝導絶縁層2Aを1層以上を設ける。本発明の一実施態様では、熱伝導度の高い絶縁材料であるベリリヤ磁器(酸化ベリリウム)、アルミナ単結晶などによって高熱伝導絶縁層2Aを設ける。そして、この層2Aの上に熱伝導度の低いガラス材料等から成る低熱伝導絶縁層2Bを設ける。
【0029】
一方、温度センサ層3の上部(試料と直接接する部分)には温度センサ層3を保護することと、効率よく試料からの熱を伝えることを目的とする薄い熱伝導度の高い絶縁材料(本発明の一実施態様では、ベリリヤ磁器(酸化ベリリウム)、アルミナ単結晶などによる。)から成る高熱伝導絶縁層4によって被覆する。
【0030】
本発明において、高熱伝導絶縁層2A、低熱伝導絶縁層2B、温度センサ層3、高熱伝導絶縁層4の各薄膜層の作製は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学的気相堆積法、大気圧プラズマ法など公知の技術および装置を利用することができる。
【0031】
上記各薄膜層(被膜)2A,2B、3、4の製造には材料をそのまま蒸発源とする製膜法と、蒸着用材料を蒸発源として真空中に酸素ガスを導入しながら製膜する反応蒸着法があり、いずれの方法でも製膜可能である。
【0032】
製膜装置としては、一般的に知られている抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学的気相堆積法、スパッタリング法などに用いられるものであれば、公知のものを特別の制限なく用いることができる。
【0033】
尚、上記化学的気相堆積法(CVD=Chemical Vaper Depisition)とは、真空槽内に気体(酸素、窒素、弗素、塩素、反応性特殊ガスなど)を導入し、この気体に高圧電場をかけプラズマ化して、加熱ボートから蒸発した材料蒸気と反応させて製膜する方法である。一般的には、製膜した化合物が高融点のため、抵抗加熱ではそのまま蒸着できないものを、金属状態で蒸発させてから導入ガスと反応させて製膜する方法として用いる。
【0034】
本発明の温度センサ層は、上記のようなセラミック、ガラス、半導体、および/または導電性高分子材料で形成する。
【0035】
高熱伝導絶縁層2A、低熱伝導絶縁層2B、温度センサ層3、高熱伝導絶縁層4の各薄膜層の膜厚は、1nmから1000nmであり、好ましくは5nmから500nmである。ただし、高熱伝導絶縁層4については、1〜10nmであることがより好ましい。
【0036】
図1の具体的実施例を挙げれば、シリコン単結晶などを異方性エッチングやフォトリソグラフィーの手法を利用して先端部を0.5μmになるように台形状に形成させた支持基体上に、CVD,電子ビーム蒸着法などを利用して高熱伝導絶縁層、例えばBeOを500nm積層させる。さらに同様な方法で低熱伝導絶縁層、例えばガラス材を100nm積層させる。この上に温度センサ層3、例えばp型シリコン層を同様な方法で100nm積層させる。さらに温度センサ層3の保護を目的とした高熱伝導絶縁層、例えばBeOを同様な方法で10nm形成させることにより得る。
【0037】
温度センサ層3の抵抗値は1Ωから100kΩ程度が好ましい。後記のブリッジ回路増幅器の電気回路特性や抵抗熱雑音特性を考慮すると、50Ωから1kΩ程度がさらによい。抵抗温度変化の時定数は0.5msから10ms程度が好ましい。
【0038】
図2には、図1に示す本発明に係る感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサをAFM(Atomic Force Microscopy)用カンチレバーに設置した一実施例が示されている。図中、5は支持基体1としてのカンチレバー、6は温度補償用温度センサ、7はブリッジ回路増幅器またはプリアンプLS1、及び8は蒸着銅、金、アルミニウムなどから成る引き出し電極を示す。そして、前記ブリッジ回路増幅器7の回路例が図3に示される。
【0039】
前記のブリッジ回路増幅器7の増幅回路は、ブリッジ回路などの公知の簡単な回路で構成できる。
【0040】
前記温度補償用温度センサ6は、周囲環境の温度変化の影響を回避するために、支持基体1の近傍に設けられ、温度補償を行うものであり、本発明の温度センサと同様な構成の高熱伝導絶縁層2A、低熱伝導絶縁層2B、温度センサ層3、高熱伝導絶縁層4を有する。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、高感度な温度センサとなりうる抵抗温度係数の大きな素材である感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサの一実施例を示す概略構成図
【図2】本発明に係る感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサをカンチレバーに設置した例を示す概略構成図
【図3】図2の実施例に用いられるブリッジ回路例
【符号の説明】
1 支持基体
2A 高熱伝導絶縁層
2B 低熱伝導絶縁層
3 温度センサ層
4 高熱伝導絶縁層
5 カンチレバー(支持基体)
6 温度補償用温度センサ
7 ブリッジ回路増幅器
8 引き出し電極

Claims (4)

  1. 支持基体の先端部に、抵抗温度係数の大きな感熱抵抗体材料から成る温度センサ層を設けたマイクロ温度センサを用い、微小部位の温度計測を行うマイクロ温度センサであって、前記支持基体と前記温度センサ層との間には、熱伝導制御層が設けてあり、かつ該温度センサ層の試料接触側は、高熱伝導絶縁層によって被覆されているマイクロ温度センサにおいて、前記熱伝導制御層が、支持基体側に位置する高熱伝導絶縁層と、温度センサ側に位置する低熱伝導絶縁層とを有しており、且つ前記高熱伝導絶縁層が、熱伝導度100W/mk以上の絶縁材料から成り、前記低熱伝導絶縁層が熱伝導度10W/mk未満の絶縁材料から成ることを特徴とする感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
  2. 温度センサ層が、抵抗温度係数0.01Ω/Ω℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
  3. 支持基体が光の回析限界以下に先細りさせてあり、光熱変換分光法によって、光の回析限界以下の極微小部位の温度計測が可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
  4. 分光測定以外の目的で微小部位の温度計測が可能であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の感熱抵抗体材料を用いたマイクロ温度センサ。
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