JP4002406B2 - 摺動体及びメカニカルシール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、メカニカルシールの密封環や軸受部材等として好適に使用される摺動体及びこれを密封環として使用したメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、メカニカルシールとしては、図4に示す如く、シールケース2に固定保持された密封環(以下「固定環」という)1と、回転軸4に軸線方向移動可能に且つ相対回転不能に保持された密封環(以下「回転環」という)3と、回転軸4に固定されたスプリングリテーナ5と回転環3との間に介装されて回転環3を固定環1へと押圧附勢するスプリング6とからなり、両密封環1,3の対向端面たる密封端面1a,3aの相対回転摺接作用により、その相対回転摺接部分の外周側領域たる機内領域Aとその内周側領域たる機外大気領域Bとをシールするように構成した端面接触型のものが周知である。
【0003】
ところで、炭化珪素は硬質で耐摩耗性に優れるものであり、熱的,化学的,機械的特性にも優れたものであることから、一般に、上記したメカニカルシールの密封環や軸受部材等の摺動体の構成材として使用されている。
【0004】
しかし、炭化珪素はカーボン等のような自己潤滑性を有しないものであることから、炭化珪素製の摺動体は相手部材との相対摺動による摩耗や発熱が生じ易いといった問題があった。
【0005】
そこで、従来にあっては、摺動性を向上させるために、摺動体を多孔質炭化珪素焼結材で構成して、「▲1▼多孔質炭化珪素焼結材の気孔に油やフッ素樹脂等の低摩擦材を含浸させたり或いは銀,鉛,アンチモン等の低摩擦金属材を溶浸させておくこと」又は「▲2▼微細な固体潤滑材(カーボン,黒鉛,窒化ホウ素,二硫化モリブデン等)を分散させた複合炭化珪素焼結材で摺動体を構成しておくこと」が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、▲1▼の場合には、多孔質炭化珪素焼結材における炭化珪素同士の結合力が弱いため耐摩耗性に劣り、摺動体としての耐久性に問題がある。しかも、摺動面が摩擦熱により高温となると、摺動面から含浸材,溶浸材が蒸発分解したり、酸化により劣化して、摩擦係数が大きくなる。
【0007】
また、▲2▼の場合には、焼結材全体に焼結挙動を妨げる固体潤滑材が分散しているため、密度,強度(曲げ強度)が低下して、耐摩耗性に劣る。また、黒鉛粒子等の潤滑材粒子は炭化珪素粒子と或る程度は結合するものの、その結合力(焼結力)は弱い。したがって、両者の境界部分において炭化珪素粒子が脱粒して、これが摺動面間に介在して所謂砥石作用が働き、摺動面を損傷させる虞れがある。また、十分な潤滑性を確保するためには大量の潤滑材を含有させる必要があるが、このようにすると上記した問題がより顕著となる。
【0008】
このように、何れの場合にも、潤滑性を高めることによって炭化珪素本来の特性(耐摩耗性等)が大幅に低下することになり、摺動体としての機能を向上させることはできない。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、炭化珪素本来の特性を担保しつつ、潤滑性の大幅な向上を図ることができる摺動体を提供すると共に、これを密封環として使用することによって良好なシール機能を発揮しうるメカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、第1に、上記の目的を達成すべく、緻密な炭化珪素組織中に、フェノール樹脂を真球状にしたものを熱処理して得た球状カーボンが散点状に配置された複合炭化珪素焼結体であって、球状カーボンと炭化珪素組織との境界領域において、球状カーボンがその周辺の炭化珪素組織部分から均等若しくは略均等な圧縮力を受けており且つSiC−C結合の中間層が形成されており、球状カーボンの径が20〜50μmであり且つ球状カーボンの炭化珪素に対する含有率が5〜20重量%であることを特徴とする摺動体を提案する。
【0011】
かかる摺動体にあっては、炭化珪素組織においては、焼成時において、炭化珪素粒子同士の結合及び自己収縮が生じて、緻密化する。一方、炭化珪素組織中に配置された球状カーボンについては、炭化珪素粒子で囲繞されるが、その炭化珪素粒子の結合,収縮挙動を均等に受けることになる。すなわち、炭化珪素組織をなす部分は焼結時において大きく収縮する(一般に、炭化珪素は焼結時において約1/2程度の容積減となる)ことから、球状カーボンはこれを囲繞している炭化珪素組織部分の収縮力によって強力に圧縮されることになる。そして、その圧縮力は、球状カーボンが球形をなしていることから、球状カーボンの外周面に均等に作用することになる。その結果、球状カーボンと炭化珪素粒子との結合力は、上記した炭化珪素組織部分の収縮による外周側からの圧縮作用によって大幅に増大することになる。特に、収縮による圧縮力が球状カーボンに均等に作用することから、収縮による球状カーボンの保持力は極めて強大となり、物理的な結合力は極めて大きくなる。しかも、球状カーボンと炭化珪素組織部分との境界領域にはSiC−C結合と考えられる中間層が形成されることになる。
【0012】
これらのことから、球状カーボンは、緻密な炭化珪素組織中に強固に保持されることになる。その結果、容易に脱落することなく、ドライ運転のような過酷な条件下においても良好且つ安定した潤滑機能(摺動機能)を発揮することができる。すなわち、炭化珪素本来の特性を損なうことなく、潤滑性を向上させ得るものである。
【0013】
ところで、球状カーボンの径(以下「カーボン径」という)が5μm未満である場合又は球状カーボンの炭素珪素に対する含有率(この含有率は、(球状カーボンの含有量/炭化珪素の含有量)×100で与えられるものであり、以下「カーボン含有率」という)が2重量%未満である場合には、球状カーボンによる潤滑性(摺動性)の向上機能が十分に発揮されない。かかる球状カーボンによる潤滑性の向上機能が十分に発揮されるためには、カーボン径が5μm以上であり且つカーボン含有率が2重量%以上であることが必要である。特に、カーボン径が10μm以上であり且つカーボン含有率が5重量%以上である場合には、球状カーボンによる潤滑性の向上機能が顕著に発揮される。しかし、カーボン径が100μmを超える場合又はカーボン含有率が30重量%を超える場合には、上記した炭素珪素組織部分による球状カーボンの保持性や炭化珪素組織の緻密性を図ることができない。かかる球状カーボンの保持性や炭化珪素の緻密性を図るためには、カーボン径が100μm以下であり且つカーボン含有率が30重量%以下であることが必要である。特に、カーボン径が50μm以下であり且つカーボン含有率が20重量%以下である場合には、炭素珪素組織部分による球状カーボンの保持が極めて強力となり且つ炭化珪素組織を十分に緻密化させることができる。したがって、炭化珪素本来の特性を損なうことなく潤滑性の向上を図るためにはカーボン径が5〜100μmであり且つカーボン含有率が2〜30重量%であることが好ましく、カーボン径が20〜50μmであり且つカーボン含有率が5〜20重量%であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明は、第2に、2つの密封環が相対回転摺接するように構成されたメカニカルシールにおいて、少なくとも一方の密封環を上記した摺動体で構成したことを特徴とするメカニカルシールを提案する。かかるメカニカルシールによれば、当該摺動体が上記した如く炭化珪素本来の特性(耐摩耗性等)に加えて潤滑性に優れたものであることから、相手密封環の構成材をシール条件に応じて適宜に選択しておくことにより、如何なるシール条件下においても良好なシール機能を発揮させることができる。特に、両密封環を本発明の摺動体で構成した場合には、ドライ条件下やスラリを扱う場合等の過酷な条件下でも良好なシール機能を発揮させることができる。
【0015】
【実施例】
実施例1として、図4に示す構成のメカニカルシール(以下「当該メカニカルシール」という)の回転環3として使用しうる本発明の摺動体A1(カーボン径:20μm,カーボン含有率10重量%)を、次のような焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程により製作した。
【0016】
焼結原料混合工程: 平均粒子径0.7μmのα型炭化珪素(α−SiC)粉末100gと、焼結助剤としての炭化ホウ素(B4 C)粉末0.5gと、カーボン源としてのフェノール樹脂(残炭率50%)4gと、成形助剤としての平均分子量6000のポリエチレングリコール(PEG#6000)2g及びステアリン酸1gとを基本配合として、この基本配合材料に更に径20μmの球状カーボン10gを添加し、これらをメタノール溶剤と混合させて、ボールミルにより24時間混合し、焼結原料(混合スラリ)を得た。なお、球状カーボンは、フェノール樹脂を真球状にしたものを熱処理して得たものである(以下において同じ)。
【0017】
造粒工程:焼結原料混合工程で得られた焼結原料をスプレードライヤーにより噴霧乾燥することによって造粒(顆粒化)し、径20〜100μmの造粒材(顆粒)を得た。
【0018】
予備成形工程: 造粒工程で得られた造粒材を所定の金型に充填した上、成形面圧1500kg/cm2 で冷間プレス成形して、回転環3に対応する環状形態をなす予備成形体を得た。なお、予備成形体の形状は、焼結時における収縮を考慮して設定される。
【0019】
焼成工程: 予備成形工程で得られた予備成形体を、加圧することなく、2150℃のアルゴン雰囲気中で焼成して、回転環3に相当する密封環形状をなす複合炭化珪素焼結材を得た。
【0020】
仕上げ工程: 焼成工程で得られた複合炭化珪素焼結材の端面をRa=0.05の鏡面に表面研磨(ラップ)する等により、回転環3として使用しうる摺動体A1を得た。なお、摺動体A1の鏡面は、回転環3として使用した場合における摺動面(密封端面3a)として機能する。
【0021】
また、実施例2として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A2を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例2では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径50μmの球状カーボン5gを添加することにより、カーボン径:50μm,カーボン含有率:5重量%の摺動体A2を得た。
【0022】
また、実施例3として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A3を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例3では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径50μmの球状カーボン10gを添加することにより、カーボン径:50μm,カーボン含有率:10重量%の摺動体A3を得た。
【0023】
また、実施例4として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A4を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例4では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径50μmの球状カーボン20gを添加して、カーボン径:50μm,カーボン含有量:20重量%の摺動体A4を得た。
【0024】
また、実施例5として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A5を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例5では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径10μmの球状カーボン3gを添加して、カーボン径:10μm,カーボン含有量:3重量%の摺動体A5を得た。
【0025】
また、実施例6として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A6を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例6では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径20μmの球状カーボン3gを添加して、カーボン径:20μm,カーボン含有量:3重量%の摺動体A6を得た。
【0026】
また、実施例7として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A7を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例7では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径80μmの球状カーボン5gを添加して、カーボン径:80μm,カーボン含有量:5重量%の摺動体A7を得た。
【0027】
また、実施例8として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A8を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例8では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径80μmの球状カーボン10gを添加して、カーボン径:80μm,カーボン含有量:10重量%の摺動体A8を得た。
【0028】
また、実施例9として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A9を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例9では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径80μmの球状カーボン20gを添加して、カーボン径:80μm,カーボン含有量:20重量%の摺動体A9を得た。
【0029】
また、実施例10として、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる本発明の摺動体A10を、次の点を除いて、実施例1と同一の工程(焼結原料混合工程,造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により製作した。すなわち、実施例10では、焼結原料混合工程において上記基本配合材料に径100μmの球状カーボン10gを添加して、カーボン径:100μm,カーボン含有量:10重量%の摺動体A10を得た。
【0030】
また、比較例1として、焼結原料混合工程を除いて、実施例1と同一の工程(造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる摺動体B1を得た。焼結原料混合工程においては、上記基本配合材料に径5μmの鱗片状黒鉛10gを添加したものをメタノール溶剤と混合させた上、これをボールミルにより24時間混合して、焼結原料を得た。
【0031】
また、比較例2として、焼結原料混合工程を除いて、実施例1と同一の工程(造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる摺動体B2を得た。焼結原料工程においては、上記基本配合材料に径50μmの鱗片状黒鉛10gを添加したものをメタノール溶剤と混合させた上、これをボールミルにより24時間混合して、焼結原料を得た。
【0032】
また、比較例3として、焼結原料混合工程を除いて、実施例1と同一の工程(造粒工程,予備成形工程,焼成工程,仕上げ工程)により、当該メカニカルシールの回転環3として使用しうる摺動体Iを得た。焼結原料混合工程においては、平均粒子径0.6μmのβ型炭化珪素(β−SiC)粉末100gに、B4 C粉末0.5g及びフェノール樹脂(レゾール型)4gを添加し、更にPEG(#6000)2g及びステアリン酸1gを添加し、これらをメタノールと共にボールミルで24時間混合して、焼結原料を得た。なお、焼成工程で得られる炭化珪素焼結材は、一般的な緻密質の炭化珪素焼結材と同質のものである。
【0033】
以上のようにして得られた本発明の摺動体A1〜A10は、図1及び図2に例示する如く、大径の球状カーボン(同図において黒色をなす部分)が炭化珪素粒子同士が結合した緻密な炭化珪素組織中に散点状に配置されたものであり、球状カーボンと炭化珪素組織部分との境界領域にSiC−C結合と考えられる中間層が認められる。なお、図1は摺動体A3の鏡面を200倍に拡大した顕微鏡写真であり、図2は摺動体A3を構成する複合炭化珪素焼結材の破面を500倍に拡大した顕微鏡写真である。
【0034】
これに対して、摺動体B1,B2は、摺動体A1〜A10と同様に固体潤滑材(鱗片状黒鉛)を含有するものであるが、図3に例示する如く、黒鉛粒子の近傍に多くの空隙が生じており、この空隙の存在により冒頭で述べた如く炭化珪素本来の特性が損なわれ、黒鉛配合による意義が喪失する。すなわち、黒鉛、特に鱗片状黒鉛は潤滑性に極めて優れるものであるが、焼結時における黒鉛と炭化珪素粒子との結合は少なく、鱗片状黒鉛の集合組織が炭化珪素組織中に閉じ込められた状態となるにすぎないから、ドライ環境下での摺動性はあまり良好ではなく、発熱のアブレッシブ摩耗を伴う。このことは図3及び後述するシール試験結果(表2)からも明らかであり、上記した如く空隙を多く含む黒鉛近傍が炭化珪素焼結体の欠陥源となり、炭化珪素粒子の脱落が助長される結果、アブレッシブ摩耗を進行させると推察できる。なお、図3は摺動体B2を構成する複合炭化珪素焼結材の破面を500倍に拡大した顕微鏡写真である。また、摺動体B3は固体潤滑材を含有せず、緻密な炭化珪素組織をなしている。
【0035】
而して、摺動体A1〜A10及び摺動体B1〜B3の理論密度(g/cm3)焼結密度(g/cm3),相対密度(%)は、夫々、表1に示す通りであった。なお、焼結密度は水置換法により求めた。
【0036】
表1から明らかなように、本発明の摺動体A1〜A10は、これと同様に固体潤滑材を含有する比較例の摺動体B1,B2に比して相対密度が高くなっており、球状カーボンを配置しても炭化珪素組織が十分に緻密化されることが理解される。なお、表1における配合比率は、摺動体A1〜A10については前記カーボン含有率であり、摺動体B1,B2については鱗片状黒鉛の炭素珪素に対する含有率(=(鱗片状黒鉛の含有量/炭化珪素の含有量)×100)である。
【0037】
また、当該メカニカルシールに実施例の摺動体A1〜A10及び比較例の摺動体B1〜B3を夫々回転環3として組み込んで、シール試験を行った。なお、固定環1としては、比較例3において摺動体B3を得た場合と同一の工程(予備成形工程において、固定環1に対応する環状形態をなす予備成形体を得ることができる金型を使用した点を除く)により得た緻密質の炭化珪素焼結材(密度:3.13g/cm3 )からなるものを使用した。
【0038】
而して、このシール試験は、当該メカニカルシールを負荷圧力:0.1MPa,周速:2m/sのドライ条件下で2時間連続運転して、両密封環1,3の摺動面(密封端面1a,3a)の摩耗速度(μm/Hr)、摩擦係数及び摺動面温度(℃)を求めると共に、固定密封環3の摺動面状態を判定した。摺動面状態の判定は、相手密封端面(固定環1の密封端面1a)との相対回転摺接により発生する環状痕及び摩耗粉の発生程度を目視観察することにより行った。なお、環状痕については、表2において、環状痕(レコード溝状の環状溝)が明瞭に目視観察されたものには「×」を付し、環状痕が極く僅かに目視観察されたものには「△」を付し、環状痕が目視によっては全く認められなかったものには「○」を付した。また、摩耗粉については、表2において、摩耗粉が発生したものには「×」を付し、摩耗粉が発生していないものには「○」を付した。
【0039】
表2から理解されるように、実施例の摺動体A1〜A10を使用した場合には、何れの場合にも、比較例の摺動体B1〜B3を使用した場合に比して、摩耗速度,摩擦係数及び摺動面温度(発熱温度)が大幅に低くなっている。また、摺動面状態についても、比較例の摺動体B1〜B3は、全て、環状痕又は摩耗粉が顕著に発生しているのに対し、実施例の摺動体A1〜A10については摩耗粉が全く発生しておらず、環状痕も全く発生していないか、発生しても極く僅かである(摺動体A5,A6については、極く僅かな環状痕が発生したが、これはカーボン含有量が3重量%と低いため、つまり5重量%未満であるためであると考えられる)。
【0040】
したがって、本発明に係る摺動体A1〜A10は、微細な固体潤滑材(鱗片状黒鉛)を炭化珪素組織全体に分散させた摺動体B1,B2及び固体潤滑材を含有しない緻密質炭化珪素焼結体である摺動体B3に比して、明らかに摺動特性に優れたものであり、メカニカルシールの密封環として好適するものであるということができる。また、表2に示すシール試験結果から判断した場合、カーボン径:20〜50μm,カーボン含有率:5〜20重量%とした場合、摩耗速度,摩擦係数,摺動面温度,摺動面状態が頗る良好であり、摺動特性に極めて優れることが確認される。すなわち、摺動特性を向上させるためには、20〜50μm,カーボン含有率:5〜20重量%としておくことがより好ましいことが理解される。
【0041】
なお、上記したシール試験の結果は、相手密封環(固定密封環1)として自己潤滑性を有しない緻密質の炭化珪素焼結材製のものを使用した場合についてものであるから、相手密封環として自己潤滑性に優れるカーボン製のものや本発明の摺動体を使用した場合には、表2に示す値より優れたシール試験結果が得られるであろうことは容易に想定される。したがって、一般に、相手密封環の構成材はシール条件に応じて選択される(例えば、ドライ条件下やスラリ流体を扱う等の過酷なシール条件下では相手密封環を緻密質の炭化珪素焼結材製のものや本発明の摺動体等の硬質材製密封環が選択され、一般的なシール条件下ではカーボン等の軟質材製密封環が選択される)が、何れの場合にも、本発明の摺動体を使用したメカニカルシールによれば良好なシール機能を発揮させることができる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上の説明から容易に理解されるように、本発明の摺動体は、耐摩耗性,硬質性等の炭化珪素本来の特性を損なうことなく、潤滑性を大幅に向上させ得るものであり、メカニカルシールの密封環や軸受部材等として好適に使用することができるものである。
【0045】
また、本発明のメカニカルシールによれば、シール条件に応じて両密封環又はその一方を上記の摺動体で構成しておくことにより、如何なるシール条件下においても良好なシール機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動体A3の鏡面を200倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図2】摺動体A3を構成する複合炭化珪素焼結材の破面を500倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図3】摺動体B2を構成する複合炭化珪素焼結材の破面を500倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図4】端面接触型メカニカルシールの一例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
1…固定環、1a…固定環の密封端面、3…回転環(摺動体)、3a…回転環の密封端面。
Claims (2)
- 緻密な炭化珪素組織中に、フェノール樹脂を真球状にしたものを熱処理して得た球状カーボンが散点状に配置された複合炭化珪素焼結体であって、球状カーボンと炭化珪素組織との境界領域において、球状カーボンがその周辺の炭化珪素組織部分から均等若しくは略均等な圧縮力を受けており且つSiC−C結合の中間層が形成されており、球状カーボンの径が20〜50μmであり且つ球状カーボンの炭化珪素に対する含有率が5〜20重量%であることを特徴とする摺動体。
- 2つの密封環が相対回転摺接するように構成されたメカニカルシールにおいて、少なくとも一方の密封環を請求項1に記載する摺動体で構成したことを特徴とするメカニカルシール。
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