JP3764089B2 - 複合SiC摺動部材、メカニカルシール用密封環、メカニカルシール、及び複合SiC摺動部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合SiC摺動部材、メカニカルシール用密封環、メカニカルシール、及び複合SiC摺動部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、SiC(炭化珪素)は、メカニカルシールの密封環や軸受等の摺動部材の構成材として使用されている。SiCは摺動部材として優れた特性を有しているが、ドライ環境では摩擦係数が高いく、摩耗や焼き付きが生じるおそれがあるという欠点がある。
この欠点の対策の一つとして、SiCにカーボン粉、黒鉛、BN、MoS2等の固体潤滑材を添加する方法がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、カーボン粉、黒鉛、BN等の固体潤滑材を添加複合させたSiC燒結体は、その添加量の増加とともに燒結挙動が妨げられ燒結体密度が低下する結果、強度が低下し、耐摩耗性が悪くなるという問題がある。
特に、カーボン粉は、微粉であるために2〜3%程度の添加量であればSiCの燒結性を促進するが、それ以上に増すと燒結性が妨げられ、密度が低下するとともに耐摩耗性も低下する。
【0004】
また、黒鉛は、自己潤滑性に優れているが、SiC燒結体に黒鉛を含有させようとしても、燒結の際、SiC粒と黒鉛の結合は少なく、黒鉛の集合組織がSiC組織中に閉じこめられた状態となるだけで、空隙を多く含む黒鉛近傍がSiC燒結体の欠陥源となり、SiC粒の脱落が助長される。この結果、アブレッシブ摩耗を進行させることとなり、ドライ環境下での摺動性はあまり良好ではない。
【0005】
すなわち、SiC燒結体は、高い相対密度を持つとともに、添加される固体潤滑材がSiC組織中に強固に固定されるべきであるが、黒鉛の場合、相対密度が低く、SiC組織との結合力が弱い。一方、黒鉛のような自己潤滑性は望まれるところである。
【0006】
この発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、緻密で潤滑材の脱落が少なく、しかも黒鉛のような自己潤滑性を有する摺動部材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、次の技術的手段を採用した。すなわち、本発明は、SiC組織中に球状カーボンが分散された複合SiC摺動部材であって、前記SiC組織は、焼結によりSiC粒が結合するとともに自己収縮して緻密化した緻密質SiC組織であり、前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に2〜30重量%含まれているとともに、平均粒径が5〜100μmであって、前記球状カーボンは、前記焼結によって周りのSiC粒の結合収縮挙動を受けるとともに、前記焼結によってその周縁に中間層が 形成されることで、前記緻密質SiC組織中に強固に保持されており、当該中間層は、前記焼結によって、当該中間層のラマンスペクトルが、前記球状カーボンのラマンスペクトルよりも1590cm −1 付近のピークが高くなるように前記球状カーボンの周縁が改質された、膜厚が1μm以上の自己潤滑性を有する黒鉛化層である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明者は、かかる構成の採用により、組織が緻密であるとともに、潤滑材である球状カーボンの脱落が少なく、しかもドライ環境下の摺動特性が飛躍的に向上することを見いだした。
【0009】
すなわち、SiC焼結体においては、SiC粒の結合とともに自己収縮が生じ、緻密化する。その際、球状カーボンは周りをSiC粒に取り囲まれるが、そのSiC粒の結合収縮挙動を均等に受けることができ、かつ球状カーボンの周縁には中間層を生じ、SiC組織中に強固に保持される。しかも、その中間層が黒鉛化していることにより、黒鉛の自己潤滑性が得られ、ドライ摺動における安定的な潤滑作用が発揮される。
【0010】
そして、中間層におけるラマンスペクトルの1590cm−1付近のピークが、球状カーボンのラマンスペクトルの1590cm −1 付近のピークよりも高い場合に、高い潤滑作用が発揮されることが判明した。
【0011】
また、前記球状カーボンは、前記緻密質Sic組織中に2〜30重量%含まれているのが好ましく、更には、5〜20重量%含まれているのがより好ましい。
【0012】
また、前記球状カーボンは、平均粒径が5〜100μmであるのが好ましく、更には、平均粒径が20〜50μmであるのが好ましい。従来はカーボンの過剰な添加はSiCの燒結を阻害すると考えられていたが、ある程度の大きさを持ったカーボン、特に20〜50μm程度の巨大なカーボンであれば、逆にSiC個々の粒子間結合が妨げられることなく燒結し、緻密質SiC組織となる。
【0013】
また、前記中間層の膜厚は、潤滑作用の確保のため、1μm以上であるのが好ましく、更には、4〜10μmであるのが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記複合SiC摺動部材を用いたメカニカルシール用密封環あるいは、前記複合SiC摺動部材が少なくとも1つの密封環に用いられているメカニカルシールとして構成できる。
【0015】
また、本発明に係る複合SiC摺動部材の製造方法は、球状カーボンが混合されたSiCを燒結して複合SiC摺動部材を製造する製造方法であって、平均粒径が5〜100μmの球状カーボンが2〜30重量%含まれるように混合したSiCを所定の温度で燒結して、SiC粒を結合させるとともに自己収縮させて緻密化した緻密質SiC組織を形成する焼成工程を行い、前記焼成工程は、前記球状カーボンが、焼結による周りのSiC粒の結合収縮挙動を受けるとともに、焼結によって前記球状カーボンの周縁に中間層を形成させて、前記球状カーボンを前記緻密質SiC組織中に強固に保持させるものであり、さらに、前記焼成工程は、前記焼結によって前記中間層のラマンスペクトルが、前記球状カーボンのラマンスペクトルよりも1590cm −1 付近のピークが高くなるように前記球状カーボンの周縁を改質して、膜厚が1μm以上の自己潤滑性を有する黒鉛化層からなる前記中間層を形成するものである、ことを特徴とするものである。このように、燒結の際に球状カーボンを黒鉛化することで、黒鉛の自己潤滑性が得られる。
【0016】
また、前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に10〜30重量%含まれているとともに、平均粒径が20〜50μmであり、前記焼成工程は、4〜10μmの膜厚の中 間層を形成するものであるのが好ましい。
さらに、前記焼成工程は、焼成温度が2100℃以上であって、焼成の保持時間が1時間以上であるのが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の摺動部材は、メカニカルシール用密封環(回転環又は固定環)として使用し得る。この摺動部材は、次のような燒結原料混合行程、造粒行程、予備成形工程、焼成工程、仕上げ工程により製作される。
【0018】
燒結原料混合工程: 平均粒子径0.7μmのα型炭化珪素(α−SiC)粉末100g、燒結助剤としての炭化ホウ素(B4C)粉末0.5g、フェノール樹脂(残炭率:50%)4g、成形助剤としての平均分子量6000のポリエチレングリコール(PEG#6000)2g、ステアリン酸1gを基本配合として、更に、所定量の球状カーボンを添加し、メタノール溶媒中で24hrボールミル混合する。球状カーボンは、2〜30(好ましくは5〜30)重量%添加する。また、球状カーボンは、平均粒径が5〜100(好ましくは20〜50)μmのものを用いる。球状カーボンは、球状の樹脂を炭化したもの、タールを球状化し更に炭素化させたもの、又はコークスを球状に磨砕し炭素化したもの等、黒鉛化していない、いわゆる「アモルファスカーボン」の球状化したものを用いることができる。
【0019】
造粒工程: 燒結原料混合工程で得られた燒結原料をスプレードライヤーにより噴霧乾燥することによって造粒(顆粒化)する。
予備成形工程:造粒工程で得られた造粒材を所定の金型に充填した上、成形面圧1500kg/cm2で冷間プレス成形して、回転環に対応する環状形態をなす予備成形体を得る。なお、予備成形体の形状は、燒結時における収縮を考慮して設定される。
【0020】
焼成工程:予備成形工程で得られた予備成形体を、加圧することなく、アルゴン雰囲気中において所定温度で焼成して、回転環に相当する密封環形状をなす複合炭化珪素燒結体を得る。
【0021】
仕上げ工程: 燒結工程で得られた複合炭化珪素燒結体の端面をRa=0.05の鏡面に表面研磨(ラップ)する等により、回転環として使用しうる摺動部材を得る。なお、摺動部材の端面は、回転環として使用した場合における摺動面(密封端面)として機能する。
【0022】
図1は、以上のようにして得られた摺動部材の表面組織の拡大図であり、球状カーボン1はSiC粒子同士が結合した緻密なSiC組織3中に散点状に分散配置されたものとなる。ここで、SiC燒結体においては、SiC粒の結合とともに自己収縮が生じ、緻密化する。その際、添加された球状カーボンは、周りをSiC粒に取り囲まれるが、そのSiC粒の結合収縮挙動を均等に受けることができ、しかも球状カーボン1の周縁(表面)には、SiC−C結合と推定される中間層2を生じ、SiC組織3中に強固に保持されている。中間層2は後述のように焼成によって黒鉛化していることが判明した。黒鉛化した中間層2によって、黒鉛の自己潤滑性が得られ、ドライ摺動における安定的な潤滑作用が発揮される。
【0023】
ここで、添加された球状カーボンは、フェノール樹脂を真球状にしたものを炭化処理して得たものであり、その処理法から、グラッシーカーボン(Glassy Carbon)であると考えられる。この球状カーボン1の中央部を、ラマンスペクトル分光分析で分析すると、図2(a)に示すように、1333cm−1付近のピーク(ダイヤモンドSP3散乱)と、1590cm−1付近のピーク(黒鉛SP2散乱)の双方を有する。
【0024】
一方、焼成により形成された中間層2を、ラマンスペクトル分光分析で分析すると、図2(b)に示すように、図2(a)に比べて、1590cm−1付近のピークが強度増加している。この結果から、中間層2は、3次元的なSP3構造(ダイヤモンド構造)色の強いアモルファス状態から2次元的なSP2構造(黒鉛構造)色の強いアモルファス状態へ移行(黒鉛化)したものと推察される。したがって、1590cm−1付近のピークの強度の変動が、中間層2の構造改質を示す指標となる。本発明では、中間層2における1590cm−1付近のピークが、球状カーボン1の中央部における1590cm−1付近のピークより高くなっているものが良いことになる。
【0025】
中間層2が黒鉛化することにより、黒鉛化層2が自己潤滑性に優れた固体潤滑材として機能し、低摩擦係数を達成できるとともに、摺動面間の発熱を100℃前後に低く抑えることができる。したがって、ドライ条件下でも、摺動面間に介在する空気中水分の蒸発を生ずることがなく、これにより摺動面の焼き付きによる異常摩耗も防止され、低い摩擦係数を安定的に維持することができ、鳴き現象もない。
【0026】
【実施例】
上記製造方法に基づき、実施例として、次の摺動部材A1〜A11を得た。すなわち、実施例1としての摺動部材A1は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が20μmであり、球状カーボンが5重量パーセント含まれたものである。また、実施例1では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0027】
実施例2としての摺動部材A2は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が20μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例2では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0028】
実施例3としての摺動部材A3は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が20μmであり、球状カーボンが20重量パーセント含まれたものである。また、実施例3では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0029】
実施例4としての摺動部材A4は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが5重量パーセント含まれたものである。また、実施例4では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0030】
実施例5としての摺動部材A5は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例5では、焼成工程における燒結温度は2000℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0031】
実施例6としての摺動部材A6は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例6では、焼成工程における燒結温度は2100℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0032】
実施例7としての摺動部材A7は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例7では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は0.5時間である。
【0033】
実施例8としての摺動部材A8は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例8では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0034】
実施例9としての摺動部材A9は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例9では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は2時間である。
【0035】
実施例10としての摺動部材A10は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが10重量パーセント含まれたものである。また、実施例10では、焼成工程における燒結温度は2200℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0036】
実施例11としての摺動部材A11は、固体潤滑材として添加される球状カーボンの平均粒径が50μmであり、球状カーボンが20重量パーセント含まれたものである。また、実施例11では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0037】
また、比較例1としての摺動部材B1は、固体潤滑材が添加されていない一般的な緻密質SiC燒結体であり、β型炭化珪素(β−SiC)が用いられている。比較例1でも、造粒行程、予備成形工程、焼成工程、仕上げ工程に関しては、前記実施例と同様である。ただし、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0038】
比較例2としての摺動部材B2は、固体潤滑材として鱗片黒鉛を添加したものである。鱗片黒鉛は、平均粒径は20μmであり、5重量パーセント含まれている。また、比較例2では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0039】
比較例3としての摺動部材B3は、固体潤滑材として鱗片黒鉛を添加したものである。比較例3では、鱗片黒鉛は、平均粒径が50μmであり、10重量パーセント含まれている。また、比較例3では、焼成工程における燒結温度は2150℃であり、焼成の保持時間は1時間である。
【0040】
摺動部材A1〜A11及び摺動部材B1〜B3の相対密度(g/cm3)は、表1に示す通りである。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜実施例11に係る摺動部材A1〜A11は、摺動部材A1〜A11と同様に固体潤滑材を含有する比較例2及び3の摺動部材B2及びB3に比べて、相対密度が高くなっており、固体潤滑材である球状カーボンを配置してもSiC組織が十分に緻密化されることが理解される。
【0043】
なお、平均粒径20μmの球状カーボンを用いた実施例1〜実施例3の場合、平均粒径50μmの球状カーボンを用いた場合よりも、若干緻密化が抑制された。これは、同じ添加量(例えば、10重量%)では、小球の方がSiCと接触する界面が多く、そのためSiCの燒結が抑制されたと考えられる。
【0044】
また、実施例1〜実施例11の摺動部材A1〜A11の表面組織を光学顕微鏡で観察し、球状カーボンの黒鉛化層である中間層の膜厚みを測定した。実施例1〜実施例11では、表1から明らかなように、中間層の厚みは1μm以上のものが観察され、10μmのものまで観察された。特に、実施例9の2150℃で焼成2Hr焼成したものは、8〜10μmの中間層の成長が認められ、中間層厚みは焼成温度が高い程、かつ、保持時間を長くする程、厚くなることが分かる。
【0045】
また、表面組織を観察した結果、SiCと球状カーボンとの境界に隙間は認められなかった。また、SiC組織から球状カーボンが脱落した部分も全く認められなかった。しかも、SiC粒に沿って球状カーボンが破断していた。これば、燒結工程でのSiCマトリクスの収縮による物理的な包抱作用と球状カーボンと隣接SiCとの間で生じた化学的な結合作用とにより、球状カーボンが緻密質SiCマトリクス中に強固に保持された状態となっているためであり、球状カーボン粒子の脱落を防止できるとともに、脱落後の跡孔に起因する早期摩耗や異常摩耗の防止もできる。
【0046】
また、図3に示す縦型スラスト試験機5を用い、実施例及び比較例の摺動部材を縦型スラスト試験機での摺動試験片(回転環6)に供し、相手材となる固定環7に、比較例1の摺動部材B1と同様のβ―SiC燒結体を用い、次の条件下で摺動試験を行った。摺動条件は、回転環6と固定環7で構成されるメカニカルシールの負荷圧力0.1MPa、周速:2m/sのドライ条件下で2時間連続運転して、両密封環6,7の摺動面の摩耗量(μm/hr)、定常摩擦係数、及び発熱(=摺動面温度)(℃)を求めるとともに、摺動面状態を判定した。
【0047】
摺動面状態の判定は、相対回転摺接により発生する環状痕及び摩耗粉の発生度を目視観察することにより行った。なお、環状痕については、表2において、環状痕(レコード溝状の環状溝)が明瞭に目視観察されたものについては、「×」を付し、環状痕が目視によっては全く認められなかったものには「○」を付した。また、摩耗粉については、表2において、摩耗粉が発生したものには「×」を付し、摩耗粉が僅かに発生したものには「△」を付し、摩耗粉が発生していないものには「○」を付した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2のドライ摺動結果によると、比較例1〜3に比べて、実施例では、いずれも摩擦係数が非常に低くなり、発熱も抑制され、その結果、著しく摩耗が減少した。これは、中間層が黒鉛化され、黒鉛化層が固体潤滑材として働くためである。
【0050】
とりわけ、実施例2,3,8,9,10,11の摺動部材A2,A3,A8,A9,A10,A11は摺動発熱が特に低くなっており、試験後の摺動面も環状痕はほとんど認められず非常に良好であった。これは、実施例2,3,8,9,10,11の摺動部材A2,A3,A8,A9,A10,A11については、球状カーボンの表面に4又は5μm以上の黒鉛化層が存在することにより、ドライ摺動性が向上したと考えられる。したがって、黒鉛化層は4μm以上であるのが好ましく、さらには5μm以上であるのが好ましい。なお、実施例1及び実施例4の場合にも、球状カーボンの表面に4又は5μm以上の黒鉛化層が存在するが、球状カーボンの添加量が5%と少ないため、ややドライ摺動性が劣っている。したがって、球状カーボンの添加量は10%以上がより好ましい。
【0051】
また、実施例5の場合、球状カーボンの添加量は10%であるが、焼成温度が2000℃と低いため、球状カーボンの表面黒鉛化層も非常に薄く、潤滑性が劣ったと考えられる。したがって、焼成温度としては、2100℃以上がより好ましく、更には2100℃〜2200℃の範囲がより好ましい。
【0052】
実施例7の場合、球状カーボンの添加量は10%で、焼成温度も2150℃と高いが、保持時間が0.5Hrと短かったため、球状カーボンの表面黒鉛化層が薄く、潤滑性が劣ったと考えられる。したがって、保持時間は1Hr以上がより好ましい。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、緻密で固体潤滑材である球状カーボンの脱落が少なく、脱落に起因する早期摩耗や異常摩耗を防止できる。しかも、中間層が優れた固体潤滑材としての機能を発揮し、摺動面の焼き付きを防止して、低い摩擦係数を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の摺動部材の表面組織(ラップ面)の拡大図(×200)である。
【図2】 本発明の摺動部材のラマンスペクトルである。
【図3】 縦型スラスト試験機の正面図である。
【符号の説明】
1 球状カーボン
2 中間層(黒鉛化層)
3 SiC組織
Claims (10)
- SiC組織中に球状カーボンが分散された複合SiC摺動部材であって、
前記SiC組織は、焼結によりSiC粒が結合するとともに自己収縮して緻密化した緻密質SiC組織であり、
前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に2〜30重量%含まれているとともに、平均粒径が5〜100μmであって、
前記球状カーボンは、前記焼結によって周りのSiC粒の結合収縮挙動を受けるとともに、前記焼結によってその周縁に中間層が形成されることで、前記緻密質SiC組織中に強固に保持されており、
当該中間層は、前記焼結によって、当該中間層のラマンスペクトルが、前記球状カーボンのラマンスペクトルよりも1590cm −1 付近のピークが高くなるように前記球状カーボンの周縁が改質された、膜厚が1μm以上の自己潤滑性を有する黒鉛化層である、
ことを特徴とする複合SiC摺動部材。 - 前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に5〜20重量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の複合SiC摺動部材。
- 前記球状カーボンは、平均粒径が20〜50μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の複合SiC摺動部材。
- 前記中間層の膜厚は、4〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合SiC摺動部材。
- 前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に10〜30重量%含まれているとともに、平均粒径が20〜50μmであり、
前記中間層の膜厚は、4〜10μmである、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合SiC摺動部材。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の複合SiC摺動部材を用いたことを特徴とするメカニカルシール用密封環。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の複合SiC摺動部材が少なくとも1つの密封環に用いられていることを特徴とするメカニカルシール。
- 球状カーボンが混合されたSiCを燒結して複合SiC摺動部材を製造する製造方法であって、
平均粒径が5〜100μmの球状カーボンが2〜30重量%含まれるように混合したSiCを所定の温度で燒結して、SiC粒を結合させるとともに自己収縮させて緻密化した緻密質SiC組織を形成する焼成工程を行い、
前記焼成工程は、前記球状カーボンが、焼結による周りのSiC粒の結合収縮挙動を受けるとともに、焼結によって前記球状カーボンの周縁に中間層を形成させて、前記球状カーボンを前記緻密質SiC組織中に強固に保持させるものであり、
さらに、前記焼成工程は、前記焼結によって前記中間層のラマンスペクトルが、前記球状カーボンのラマンスペクトルよりも1590cm −1 付近のピークが高くなるように前記球状カーボンの周縁を改質して、膜厚が1μm以上の自己潤滑性を有する黒鉛化層からなる前記中間層を形成するものである、
ことを特徴とする複合SiC摺動部材の製造方法。 - 前記球状カーボンは、前記緻密質SiC組織中に10〜30重量%含まれているとともに、平均粒径が20〜50μmであり、
前記焼成工程は、4〜10μmの膜厚の中間層を形成するものである
ことを特徴とする請求項8記載の複合SiC摺動部材の製造方法。 - 前記焼成工程は、焼成温度が2100℃以上であって、焼成の保持時間が1時間以上であることを特徴とする請求項9記載の複合SiC摺動部材の製造方法。
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