JP4000808B2 - 溶融金属の精錬方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融金属中の介在物低減、脱ガス反応促進およびスラグメタル反応促進等を効率的に行うことが可能な溶融金属の精錬方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融金属中に含まれる介在物の除去方法として、溶融金属中にガスを吹き込んで溶融金属中に気泡を生成させ、介在物をこの気泡で捕捉して浮上させ除去する方法、溶融金属の脱ガス反応を促進する方法、または脱りんや脱硫のスラグメタル反応を促進させる方法が知られている。そして、気泡をより微細にすることと、気泡を溶融金属中に広く分散させることとが、溶融金属の脱ガス反応の促進、スラグメタル反応の促進または微小介在物の浮上除去に有効であることが知られている。
【0003】
このような観点から、溶融金属の精錬において、溶融金属中に微細な気泡を生成させる方法や気泡を分散させる方法について、例えば、下記の技術が提案されている。
【0004】
特開昭59−226129号公報には、多孔性耐火物からなる吹き込みプラグを用いた気泡の発生方法において、耐火物稼動面の単位面積あたりのガス吹き込み量を所定量以下とするガスを吹き込み方法が開示されている。ガス吹き込み量を所定量以下とすることにより、微細気泡の生成が可能であるとしている。
【0005】
特開昭62−192240号公報には、多孔質耐火物で形成されたガス吐出部を先端部に備えるバブリングランスを用い、バブリングランスを溶鋼内で回転させながらガスを吹き込む方法が開示されている。バブリングランスの回転によって、多孔質耐火物稼動面からの気泡の離脱が促され、微細な気泡の生成が可能であり、気泡が上昇する際、バブリングランス周りに螺旋状に付着するため、気泡の合体が起こりにくく、微細気泡が維持されるとしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記公報に開示された方法には以下の問題点がある。
特開昭59−226129号公報に開示された方法は、多孔質の耐火物を用いているが、溶鋼と耐火物との濡れ性が小さいため、各孔から生じた気泡が耐火物表面を覆うように成長し、耐火物稼動面から離脱する前に容易に合体する。同公報に開示された方法では、例えば直径が10mm以下の微細な気泡を溶融金属中に生成させることは困難である。
【0007】
特開昭62−192240号公報に開示されている方法においては、生成した気泡は螺旋状の経路をたどるとはいえ、バブリングランスの周囲を上昇して速やかに溶鋼表面に到達し、そこで消滅するため、気泡を溶融金属中に広く分散させることが困難である。したがって、気泡により介在物を捕捉する頻度が小さくなり、介在物を浮上除去する効果が小さくなる。
【0008】
本発明の目的は、溶融金属中の介在物除去、脱ガス反応およびスラグメタル反応等を促進させることができる溶融金属の精錬方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶融金属中に微細気泡を生成させる方法を検討するため、以下の水モデル試験を行った。
【0010】
溶融金属を模した水を入れた容器の内壁に形成したノズルからガスを吹き込み、水の流動状態とガスの吹き込み方向とを種々変更して、気泡の形成および移動挙動を調査した。同水モデル試験においては、溶融金属と耐火物との濡れ性の悪さを近似させるため、容器の内面には撥水材を塗布した。
【0011】
図1は、溶融金属を模した水が入った容器の底面もしくは側面から、水中にガスを吹き込んだ状態を示す概念図であり、図1(a) は、静止した水に容器底面からガスを吹き込んだ状態、図1(b) は、水平方向に流れる水に容器底面からガスを吹き込んだ状態、図1(c) は、下方向に流れる水に容器側面からガスを吹き込んだ状態をそれぞれ示す。
【0012】
図1(a) に示すように、静止した水に容器底面からガスを吹き込んだ場合には、水中に分散された気泡は比較的大きな径を有していた。この理由は、離脱前の成長過程の気泡に加わる力は表面張力と浮力のみであって、気泡の成長により浮力が表面張力を上回った時点ではじめて気泡がノズルから離脱するためである。
【0013】
これに対し、図1(b) に示すように、水平方向に流れる水に容器底面からガスを吹き込んだ場合には、水中に分散された気泡は、図1(a) の場合よりも小さな径を有していた。この理由は、気泡には浮力だけでなく、水流によるせん断力も加わるので、ノズルからの気泡の離脱が促進され、図1(a) の場合よりも早い段階で気泡が離脱するためであると考えられる。
【0014】
図1(c) に示すように、下方向に流れる水に容器側面からガスを吹き込んだ場合は、気泡は図1(b) の場合と同等の小さな径を有しており、図1(b) の場合よりも長時間気泡が水中に滞留した。この理由は、図1(b) の場合と同様に、水流により、ノズルからの気泡の離脱が促進されるため気泡径が小さくなり、さらに、気泡はいったん下方に押し流され、下降流の影響を受けない領域に至ったときにはじめて浮上するためである。
【0015】
以上より、溶融金属中に微細な気泡を生成させ、溶融金属内に長期間滞留させるには、図1(c) に示す方法が有効であるとの知見を得た。
次に、本発明者らは、図1(c) に示す方法によって生成させた微細な気泡を溶融金属中に広く分散させることができる実用的で簡便な方法を確立すべく検討を行った。その結果、溶融金属浴に浸漬管を浸漬させ、浸漬管の内部を減圧して溶融金属を吸引させ、次いで、浸漬管の内部を加圧して吸引した溶融金属を吐出させることにより、浸漬管の内部に下方向の溶融金属の流れを形成させるとともに、この下降流中にガスを吹き込む方法を想到した。そして、以下の水モデル試験を行った。
【0016】
図2は、水モデル試験装置の一例を示す模式図である。
同図に示すように、水モデル試験装置は、取鍋を模した容器2に溶融金属を模した水3が入れられ、溶融金属浴を模した水浴が形成されており、浸漬管1が水浴に浸漬されている。浸漬管1の下部は水浴中に開口し、上部は閉じた減圧空間となっており、この減圧空間は減圧バルブ6を介して図示しない減圧設備に、加圧バルブ7を介して図示しない加圧設備に、それぞれ接続されている。また、浸漬管1の内部の圧力は、圧力計8によって検出され、これにより浸漬管1の内部の圧力変化速度も求めることができる。浸漬管1の下端近傍の内面には、ガス吹き込み口4が設けられている。この水モデル試験装置のガス吹き込み口4は、浸漬管内壁の円周上に90°おきに4箇所配設されている。
【0017】
試験方法は以下のとおりである。まず、減圧バルブ6を開、加圧バルブ7を閉として、浸漬管1の内部の圧力を減圧し、容器2の中の水3を浸漬管1の内部に吸引させた。以下、この工程を「減圧工程」ともいう。次いで、減圧バルブ6を閉、加圧バルブ7を開として、浸漬管1の内部の圧力を加圧し、先の工程で浸漬管1の内部に吸引させた水3を再び容器2の中へ吐出させた。以下、この工程を「加圧工程」ともいう。加圧工程において、ガス吹き込み口4からガスを吹き込んだ。
【0018】
加圧工程においては、浸漬管の内部に下方向の水流が形成される。この水流中にガスを吹き込むことにより、微細な気泡5が形成されるとともに、気泡が浸漬管から吐出される水流に随伴し、水浴中に広く分散されることを確認した。
【0019】
次に、本発明者らは、実際の溶融金属について微細な気泡を生成させる諸条件を検討すべく、溶融金属として溶鋼を用いた小規模試験を行った。本発明の目的は、脱りんや脱硫などのスラグメタル反応、脱窒素や脱水素などの脱ガス反応および溶融金属中の介在物の浮上分離を効率的に行おうとするものであるが、微細気泡を利用する点では同一構成となる。したがって、以下では溶鋼中の介在物を浮上させ除去する場合を例に説明する。
【0020】
試験装置は、図2に示す水モデル試験機と同様の基本構成を備える溶鋼量1000kgの小型試験機を用いた。取鍋の内径が0.5mの溶鋼浴に内径0.2mの浸漬管を浸漬させ、浸漬管の内部を減圧して溶鋼を吸引させる減圧工程と、浸漬管の内部を加圧して吸引した溶鋼を吐出させる加圧工程とを順次繰返し、前記加圧工程では浸漬管の下部(開口端から上方に0.03mの部位)に設けたガス吹き込み口からArガスを吹き込んだ。溶鋼の吸引高さは0.2mとした。減圧工程と加圧工程とによる1サイクルあたりの時間を2sとし、5分間処理した。
【0021】
種々の条件で試験を行い、気泡の径、気泡の分散状況および介在物除去能力について評価を行った。気泡の径と分散状況については、溶鋼を用いた試験では浴内の観察ができないため、溶鋼表面に浮上してきた気泡をビデオカメラで撮影し、画像処理を行うことにより評価した。また、介在物除去能力は、介在物濃度の指標として全酸素濃度(以下、T.[O](ppm)ともいう)を用いた介在物除去率ηで評価した。すなわち、ηは下記式で表される。
【0022】
η=[(処理前T.[O])−(処理後T.[O])]/(処理前T.[O])
図3は、加圧工程における浸漬管内部の圧力変化速度と平均気泡径dBとの関係を示すグラフである。ここで、圧力変化速度とは、加圧工程における圧力変化速度の最大値である。
【0023】
同図に示すように、圧力変化速度が100kPa/s以上になると平均気泡径dBは著しく小さくなる。したがって、溶鋼中に微細な気泡を生成させるためには、圧力変化速度を100kPa/s以上とするのが好ましい。より微細な気泡を安定して生成させるには、150kPa/s以上とすることがさらに好ましい。気泡の分散性の観点からは、上限は特に限定されないが、圧力変化速度が過大である場合には溶鋼のスプラッシュが発生するおそれがあるので、1500kPa/s以下とするのが好ましい。
【0024】
次いで、発明者らは、吹き込みガス流量Qと浸漬管の内径Diが、生成する気泡の径および分散へ及ぼす影響について検討した。
図4は吹き込みガス流量と浸漬管の内径との比Q/Di(m2/s)と、気泡の平均径dB(mm)との関係を示すグラフである。ここで、Qは1つの浸漬管において溶鋼中へ吹き込むArガスの流量(m3(標準状態)/s)であり、Diは浸漬管の内径(m)である。なお、以下の説明では、特に断らない限り、ガス容積は標準状態をいうものとする。
【0025】
同図の破線で示すように、内径Diが一定のストレート型浸漬管において、平均気泡径dBは、比Q/Diでほぼ一意的に決定され、比Q/Diの増加にともない大きくなる。実線のグラフ(末広がり型)については後述する。
【0026】
図5は、介在物除去率ηと比Q/Diとの関係を示すグラフである。同図に示すように、介在物除去率ηは比Q/Diに対して上向きに凸の曲線を描き、比Q/Diが6.7×10-5(m2/s)以上、6.7×10-4(m2/s)以下の範囲で、介在物除去率ηが0.7以上という高い値を示す。この理由は以下のように考えられる。
【0027】
比Q/Diが6.7×10-5(m2/s)よりも小さい場合には、気泡径は十分に小さいものの、気泡の絶対数が少ないために、気泡が溶鋼中に広く分散されたとしても捕捉できる介在物の個数が限られる。一方、比Q/Diが6.7×10-4(m2/s)より大きい場合には、気泡径が過大となり、気泡は急速に浮上し、気泡の表面積も少なくなるため、介在物と気泡とが接触するチャンスが少なくなって、精錬効率が低下する。したがって、介在物の除去を高い効率で行うためには、下記(1)式を満足することが好ましい。
【0028】
6.7×10-5≦Q/Di≦6.7×10-4 …(1)
さらに好ましくは1.3×10-4(m2/s)以上6.0×10-4(m2/s)以下である。
【0029】
上記の数値は浸漬管の横断面形状が円形の場合についてのものであるが、吹き込まれた気泡群が浸漬管内壁に沿って吐出されることを考慮し、かつ横断面形状が、例えば楕円形や多角形である場合や、横断面が浸漬管の高さ方向に一定でない場合を考慮すれば、前記Diのかわりに、ガス吹き込み口を通る横断面での内周長さLi(πDi)を基準とするのが合理的である。ここで、横断面とは、溶融金属面に平行な面(水平面)を意味する。
【0030】
したがって、上記の関係は、下記(2)式を満足することが好ましい。
2.1×10-5≦Q/Li≦2.1×10-4 …(2)
さらに好ましくは、Q/Liは、4.1×10-5(m2/s)以上、1.9×10-4(m2/s)以下であると記述できる。
【0031】
なお、複数のガス吹き込み口が同一の横断面にないときは、DiまたはLiは、それぞれのガス吹き込み口高さの横断面での内径または内周長さの平均値とすればよい。
【0032】
本発明者らは、取鍋内の溶鋼に上述の精錬方法を適用する場合、浸漬管の内径Diの好適範囲について、気泡の分散性の観点からさらに検討を加えた。なお、本検討においては、比Q/Diを上記好適範囲内の2.2×10-4(m2/s)で一定とした。
【0033】
図6は、介在物除去率ηと比Di/dLの関係を示すグラフである。ここで、dLは取鍋の内径(m)である。
同図に示すように、比Di/dLが0.1以上0.7以下の範囲で、介在物除去率ηが0.7以上という高い値を示す。この理由は以下のように考えられる。
【0034】
図7は、気泡の分散状況を示す模式図である。同図において、減圧工程では減圧バルブ16を開、加圧バルブ17を閉とし、加圧工程では減圧バルブ16を閉、加圧バルブを開として、加圧工程で下降流を発生させる。加圧工程では、同時にガス吹き込み口14からガスを吹き込む。符号18は浸漬管内の圧力を測定する圧力計である。矢印線I〜IIIは溶鋼の流れを示す。
【0035】
同図に示すように、加圧工程において浸漬管11から吐出される溶鋼13は、下降する溶鋼流Iを形成し、溶鋼流Iは取鍋12の底面に到達した後に水平な溶鋼流IIとなり、最終的に取鍋12の内壁を伝わる上昇流の溶鋼流IIIとなる。これら溶鋼流I〜IIIにより、ガス吹き込み口14から吹き込まれ、微細化した気泡は、図中網掛で示す領域を通過するように分散される。
【0036】
溶鋼流Iの流速が小さいと、前述のように気泡径が大きくなるほか、溶鋼流IIの形成が不十分になり、気泡の分散が不十分となって介在物捕捉能力が低下する。 また、ランス等を用いる場合、ガス吹き込み口が浸漬管内の中央部付近にあると、気泡は溶鋼流IIに沿う流れにのりにくく、減圧工程では再度浸漬管の直下で浮上し、そこで合体するため介在物捕捉能力が低下する。そのため、ガス吹き込み口は浸漬管の内壁面に設けるのが望ましい。
【0037】
浸漬管11の内径Diが取鍋12の内径dLに比して過大である場合には、気泡が通過する領域が小さくなるため介在物除去率が低下する。また、浸漬管11の内径Diが取鍋12の内径dLに比して過小である場合には、前記のQ/DiまたはQ/Liの上限規定のためQを小さくせざるを得ず、気泡の絶対数が過少となって、介在物除去率が低下する。
【0038】
したがって、介在物の除去を高い効率で行うためには、比Di/dLを0.1以上0.7以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.2以上0.5以下である。なお、上記説明では、浸漬管の断面が円形の場合を想定しているが、浸漬管が非円形の場合(方位によってDiが異なる場合)、上記の好適範囲の設定理由から考えて、Di/dLの上限はDiの最大値をもって設定し、Di/dLの下限はDiの最小値をもって設定するのがよい。
【0039】
ところで、実際のプロセスで溶鋼の精錬に上述した精錬方法を適用することを考えると、設備コストの面からは浸漬管の径Diは小さい方が望ましく、一方、生成気泡の個数を多くするためには吹き込みガス流量Qは大きい方が望ましい。しかしながら、図4の破線の関係からすると、浸漬管の内径Di(または浸漬管の内周長さLi)を小さくすること、またはQを大きくすることは、いずれも気泡の平均径dBを大きくする要因となる。
【0040】
よって、本発明により、設備的なコストを押さえつつ、溶鋼中に微細気泡を十分に供給するにはさらに改善が必要である。本発明者らは、水モデル試験装置にて実験を繰返した結果、図4の実線に示すように、浸漬管形状を末広がりとするのが有効であることを想到した。以下に末広がり型が微細気泡を効果的に発生させる理由を説明する。
【0041】
図8は、浸漬管の種々の形状を示す模式図であり、図8(a) はストレート型、図8(b) は末広がり型、図8(c) は広がりの大きい末広がり型である。
図8(a) に示すストレート型において、浸漬管内では、気泡は溶融金属の下降流に沿って下降する。浸漬管から出た後、気泡は図7に示すように、溶融金属の吐出流に沿って下降し、容器の底面近くまで到達した後、下降流が転じて生じる上昇流に随伴して分散する。しかし、下降の段階では気泡群が高い密度で存在するため、分散前に気泡同士が合体することがあり、結果的に平均気泡径dBは大きくなる。
【0042】
これに対し、図8(b) のように浸漬管が末広がり型の場合、吐出流も同じく末広がりとなるため、ストレート型と比べて下降中の気泡の合体が抑制され、平均気泡径dBは小さくなる。
【0043】
一方、図8(c) のように、浸漬管の末広がりの程度をさらに大きくした場合、ストレート型の場合よりもかえって介在物除去効率が低下する。 この理由は、浸漬管内の液面の下降速度が一定であっても、末広がりの程度が大きいほど、浸漬管内のガス吹き込み口付近の下降流速が低下するため、前記気泡に対するせん断力が低下すると共に、容器の底面にまで気泡が到達することが困難となり、液中での気泡の滞在時間が低下するからであると考えられる。
【0044】
次に、本発明者らは、実際の溶融金属の精錬方法を確立すべく、溶融金属として溶鋼を用いた小規模試験を行って末広がり型浸漬管の特性について検討を行った。
【0045】
ここで、図8(b) に示すように浸漬管の縦断面における内壁面が管の軸となす角度をθとし、浸漬管の末広がりの指標として用いることにする。
試験装置としては、図2に示す水モデル試験装置と同様の基本構成を備える溶鋼量1000kgの小型試験機を用いた。取鍋内径が0.5mの溶鋼浴に吹き込み口部での内径が0.2m、θが7°の浸漬管を浸漬させ、浸漬管の内部を減圧して浸漬管内部に溶鋼を吸引させる減圧工程と、浸漬管の内部を加圧して吸引した溶鋼を吐出させる加圧工程とを順次繰返し行うとともに、前記加圧工程において、浸漬管の下端開口部から上方に0.03mの内面に設けたガス吹き込み口から、Arガスを吹き込んだ。このArガスの流量Qを変え、流量Qと気泡の平均径との関係を調査した。減圧工程における溶鋼の吸引高さ(取鍋内溶鋼の浴面からの高さ)は約0.2mとし、加圧工程における管内の圧力変化速度は約200kPa/sとした。減圧工程と加圧工程とによる1サイクルあたりの時間は2秒として、5分間処理を行った。
【0046】
試験の結果を図4の実線に示す。同図に示すように、破線(ストレート型)と比較して、末広がり型においても、Q/Diに対して、気泡径dBは単調増加の関係にあるが、全体に気泡の平均径は小さくなっている。なお、Diは、吹き込み部位における内径とした。
【0047】
次いで、末広がりの適正範囲についての検討を行った。溶鋼浴、浸漬管の基本寸法、溶鋼量、溶鋼の吸引高さ、圧力変化速度、処理サイクルは上記試験と同様とし、Arガスは2.0l/minの流量とした。浸漬管の広がりの指標であるθを0°(ストレート型)〜20°とした条件で試験を行い、気泡の径、気泡の分散状況および介在物除去率について評価を行った。気泡の径と分散状況については、前述の試験と同様、溶鋼表面に浮上してきた気泡をビデオカメラで撮影し、画像処理を行うことにより評価し、介在物除去能力は、全酸素濃度を用いた介在物除去率ηで評価した。
【0048】
図9は、浸漬管の末広がり角θ(°)と平均気泡径dB(mm)との関係を示すグラフである。
同図に示すように、dBは、θが約3°までは単調に減少し、3°から10°まではほぼ一定、10°以上では単調に増加する。そして、θが15°を超えると、θが0の場合よりもdBは大きくなる。したがって、溶鋼中に微細な気泡を生成させるためには、θを15°以下とするのが望ましい。
【0049】
図10は、浸漬管の末広がり角θ(°)と介在物除去率ηとの関係を示すグラフである。同図に示すように、介在物除去率ηはθに対して上向きに凸の曲線を描き、θが約3°までは増加し、3°から10°まではほぼ一定、10°以上では減少する。θが15°を超えると、θが0°つまりストレート型浸漬管の場合よりもηは小さくなる。これは図9に示した平均気泡径dBの小ささと対応している。気泡径が小さいほど、
(a) 介在物と接触した際、介在物の捕捉確率が高く、
(b) 浴内に滞留する時間が長く、
さらには、本実験は吹き込みArの流量を一定としているので、
(c) 気泡の絶対数も多い、
ことになる。前記(a) 〜(c) の効果により、dBが小さいほどηが大きくなると考えられる。
【0050】
したがって、末広がり型浸漬管において介在物の除去を高い効率で行うためには、θを15°以下とすることが好ましく、さらに好ましくは、3°以上、10°以下とするのがよい。
【0051】
上記のθの範囲は、浸漬管の末広がり形状を円錐形とした場合について適用されるが、浸漬管の横断面形状が非円形の場合、末広がり形状を横断面の周長さの増加率で表すのがよい。すなわち、(1) 式のガス吹き込み量Qとガス吹き込み部位の内周長さの関係を表す条件と同様、気泡群が浸漬管内壁に沿って吐出されることを考慮し、末広がり形状を内周長さLiの増加率(浸漬管の下方に向かって高さ方向の単位長さあたり内周長さ増加量=πtanθ)で表すのが合理的である。
【0052】
したがって、上記のθの範囲を、内周長さLiの増加率で表すと、「末広がりの横断面の周長さ増加率fは、単位長さあたり、0.84以下とすることが好ましく、さらに好ましくは、0.16以上、0.55以下とするのがよい」、と記述できる。
【0053】
本発明は、上記検討結果を基に完成させたものであり、その要旨は以下の(1)〜(4)項に記載の溶融金属の精錬方法にある。
(1)溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記ガス吹き込み口の設置高さより下方で、浸漬管の横断面の内径または内周長さが下方に向けて順次長くなることを特徴とする溶融金属の精錬方法。
【0055】
(2)前記ガス吹き込み口が浸漬管内壁の周方向に1つ以上配設されていることを特徴とする上記(1)に記載の溶融金属の精錬方法。
【0056】
(3)溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記加圧工程において、前記ガス吹き込み口におけるガスの流量Q(m3(標準状態)/s)と、前記ガス吹き込み口の設置高さにおける浸漬管の横断面の内径Di(m)とが、下記(1)式の条件を満足することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
【0057】
6.7×10−5≦Q/Di≦6.7×10−4 ・・・・・(1)
(4)溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記加圧工程において、前記ガス吹き込み口におけるガスの流量Q(m3(標準状態)/s)と、前記ガス吹き込み口の設置高さにおける浸漬管の横断面の内周長さLi(m)とが、下記(2)式の条件を満足することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
【0058】
2.1×10-5≦Q/Li≦2.1×10-4 …(2)
本発明の「減圧工程」、「加圧工程」等にいう「減圧」、「加圧」とは大気圧に対しての意味に限定されるものではない。ある基準状態からの「減圧」、「加圧」であって、浸漬管内の溶鋼の「減圧」による上昇および「加圧」による下降を実現させる管内の圧力変化を意味する。
【0059】
本発明の「浸漬管内」とは、浸漬管を溶融金属中に浸漬したとき外気と遮断される浸漬管の内部空間をいい、「浸漬管内の溶融金属中にガスを吹き込む」とは、この「浸漬管内」空間にある溶融金属中にガスを吹き込むことをいう。例えば、溶融金属と接する浸漬管の内壁面にガス吹き込み口を設け、ガスを吹き込むようにしてもよい。また、浸漬管内の溶融金属にバブリングランスを浸漬させ、該バブリングランスからガスを吹き込むようにしてもよい。バブリングランスを用いる場合、ガスの吹き込み位置は浸漬管の内壁面近傍とするのが望ましい。設備の複雑化を避けて設備コストを抑制する観点からは、浸漬管の内壁面にガス吹き込み口を設けることが好ましい。
【0060】
本発明の「浸漬管の横断面の内周長さ」とは、浸漬管の水平断面において、浸漬管内の輪郭線の長さをいう。また、「浸漬管の横断面の内周長さが下方に向けて順次長くなる」とは、本発明における浸漬管が下方ほど広がっている「末広がり」形状を一般化して表現するものである。
【0061】
【発明の実施の形態】
図11は、本発明の方法を用いて、取鍋内の溶鋼を精錬する場合の装置構成の一例を示す模式図であり、同図(a) はストレート型浸漬管の場合、同図(b) は末広がり型浸漬管の場合をそれぞれ示す。同図(a) および(b) に示すように、取鍋12に溶鋼13が入れられ溶鋼浴が形成されており、下方が開口され上方が閉塞された浸漬管11が昇降可能に備え付けられている。同図(a) および(b) のいずれも、浸漬管11が溶鋼浴に浸漬されている状態を示す。浸漬管11の上部は、減圧バルブ16を介して図示しない減圧設備に、加圧バルブ17を介して図示しない加圧設備に、それぞれ接続されている。
【0062】
減圧設備とは、ポンプあるいはスチームエジェクター等の排気機能を有する設備であるが、精密な制御が必要な場合や前記排気設備の能力が低い場合等には、前記排気設備と減圧バルブ16の間に減圧室を設けてもよい。この場合、減圧室とは浸漬管の内部の容積に比べて十分に大きな容積を有し、予め内部の圧力が減圧されており、減圧バルブ16を開とすることにより、浸漬管の内部が速やかに減圧されるようにしたものである。
【0063】
また、加圧設備とは、高圧ガスを迅速に供給することが可能な設備であり、一般に、高圧ガスを保有するタンク、タンク出口の圧力調整器、加圧バルブのすぐ上流の圧力調整器、および配管で構成されている。加圧バルブのすぐ上流の圧力調整器により圧力変化速度をコントロールすることが可能である。また、この圧力調整器の下流に流量可変弁を置き、この開度により加圧工程の圧力変化速度をコントロールすることも可能である。
【0064】
浸漬管11の内部の圧力は、圧力計18によって検出され、これにより圧力変化速度を求めることができる。本発明における加圧工程の圧力変化速度は、その最大値で管理するのがよい。加圧工程の時間は短いため、圧力変化速度が一定値となる期間は極めて短いことと、微小気泡を生成する条件としては、最大圧力変化速度の影響が大きいことのためである。
【0065】
浸漬管11の下端開口部から上方0.01〜0.5m程度の部位で、浸漬管耐火物の内部に埋め込まれたステンレス製のパイプが浸漬管内面に開口しており、Arガスを溶鋼中に吹き込むためのガス吹き込み口14を形成している。ガス吹き込み口14の設置部位は、浸漬管の下端開口部に近いほど、加圧工程においてガス吹き込み口が溶鋼流と接する時間を長くすることが可能であり、1サイクルあたりの効率が向上するが、過度に下端開口部に近いと気泡を含んだ溶鋼流が下方に加速されず、気泡が取鍋の底面近傍に到達できない。浸漬管を傾斜させる場合や、浸漬管の開口部形状が水平でない場合を考慮すると、前記複数のガス吹き込み口は、加圧工程での溶融金属面と平行な面上に配置され、もっとも開口部に近い吹き込み口でも、開口部から鉛直方向に、少なくとも0.01m程度離れていることが望ましく、好ましくは0.03m程度離れていることが望ましい。
【0066】
一方、0.5mを超えて離れていると次の問題がある。加圧工程直前の浴面の位置(減圧工程における浴面の最終到達位置)は、このガス吹き込み口に対し、浴面低下速度に応じて高くする必要がある。なぜなら、加圧工程における浴面の下降速度は、吹き込み口から離れた気泡の下降速度よりも大きく、加圧工程直前での浴面の高さが不十分であると、下降する気泡に浴面がおいついてしまい、気泡が浸漬管内で浮上してしまうおそれがある.この観点から吹き込み口の開口部からの距離は0.5m以下であることが望ましい。
【0067】
ガス吹き込み口14の先端に、ポーラスプラグまたはポーラスれんがを設けてもよい。ガス吹き込み口14は、浸漬管11内の1箇所に設けてもよいが、内壁の周囲に複数箇所設けるのが望ましい。すなわち、1つの吹き込み口からのガス量は少ない方が微細な気泡を形成できるからである。ガス吹き込み口が複数の場合の極端な例は、ポーラスれんがを浸漬管内周に連続的に、あるいは全周に配置した場合である。この場合は、ガス吹き込み口の数は無限に多数存在することになる。ただし、溶融金属とポーラスれんがの濡れ性、溶融金属の粘性、流速等の条件によってはポーラスプラグまたはポーラスれんがの表面で微細気泡が合体成長して、期待したほどの微細化効果が得られないこともある。
【0068】
本発明においては、少なくとも加圧工程でガスを吹き込むが、それ以外のとき、例えば、減圧工程でのガス吹き込みを妨げるものではない。例えば、ガス吹き込み口の閉塞を防止するため、減圧工程で少量または加圧工程と同量のガス吹き込みを行ってもよい。
【0069】
図12は本発明に係る末広がり型浸漬管の他の一例を示す模式図である。同図において、図11(a) または(b) と同一要素は同一符号で示す。同図の浸漬管11に示すように、末広がり型の形状は、必ずしも浸漬管の全高にわたって、末広がりとなっている必要はなく、少なくともガス吹き込み口の部位より下方で末広がりとなっているのが望ましい。その理由は、浸漬管を出た後、気泡を含んだ溶鋼流が末広がりとなればよいのであって、ガス吹き込み口の上方では必ずしも末広がりである必要はないからである。
【0070】
ただし、ガス吹き込み口〜下端開口部間の距離が短かいと、末広がり流が十分形成されないため、このような場合には、ある程度ガス吹き込み口の上方から末広がりとするのがよい。一方、ガス吹き込み口〜下端開口部間の距離が十分あって、浸漬管からの吐出流が拡大流となる程度の末広がり部分が確保できる場合、ガス吹き込み口から下方に若干の距離(0.01〜0.05m程度)の非末広がり部分があってもよい。
【0071】
本発明の方法は、図11(a) または(b) に示す装置を用いて例えば、次のように実施することができる。まず、減圧バルブ16を開、加圧バルブ17を閉として、浸漬管11の内部の圧力を減圧し、取鍋12の中の溶鋼13を浸漬管11の内部に吸引させる(減圧工程)。次いで、減圧バルブ16を閉、加圧バルブ17を開として、浸漬管11の内部の圧力を加圧し、先の工程で浸漬管11の内部に吸引させた溶鋼13を再び取鍋12の中ヘ吐出させる(加圧工程)。加圧工程において、ガス吹き込み口14からArガスを吹き込む。減圧工程と加圧工程とで1回の操作となるが、このサイクルを順次繰返して行うことが望ましい。
【0072】
これによって、溶鋼浴中に微細なArガス気泡15を断続的に生成することができる。また、加圧工程において浸漬管11から吐出される溶鋼は下降流を形成し、取鍋12の底面に到達した後に水平流となり、最終的に取鍋12の内壁を伝わる上昇流となる。これらの溶鋼流の作用により、微細なArガス気泡15は溶鋼浴中に広く分散され、効率的に介在物を除去することができる。浸漬管が末広がり型の場合、気泡15は下降中に合体しにくくなり、ストレート型よりも一層効率的に介在物を除去することができる。
【0073】
図13は本発明の方法を連続鋳造のタンディッシュに適用した場合の模式図である。同図において、図11または図12と同一要素は同一符号で示す。同図に示すように、本発明は、連続鋳造設備のタンディッシュにも適用することができる。同図は、浸漬管が末広がり型の場合を示すが、ストレート型であってもよい。浸漬管11の寸法とタンディッシュ19の寸法との関係も、前記の浸漬管と取鍋の関係と同様の考え方が成立する。
【0074】
すなわち、一般にタンディッシュの内部は略長方形の平面形状を有するが、タンディッシュ内の気泡の通過領域が制約される範囲は、長辺方向よりも短辺方向の方が顕著となる。したがって、高い効率で介在物の除去を行うには、タンディッシュの短辺方向の内法長さをdT(m)、浸漬管のタンディッシュ短辺方向の内径をDsi(m)とすると、比Dsi/dTを0.1以上0.7以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.2以上0.5以下である。ここで、浸漬管の横断面形状が円形でない場合、Dsiは浸漬管のガス吹き込み口部位における横断面をタンディッシュ短辺方向に切断したとき、切断径の最大値とする。
【0075】
図14は、連続鋳造におけるタンディッシュ内の溶鋼に2つの浸漬管を用いて本発明を適用する場合の装置の一例を示す模式図である。同図も、図13と同様浸漬管が末広がり型の場合を示しているが、ストレート型であってもよい。
【0076】
同図に示すように、タンディッシュ19に取鍋12から連続的に注入される溶鋼13が入れられた溶鋼浴が形成されており、浸漬管11aおよび11bが昇降可能に備え付けられている。同図は、浸漬管11aおよび11bが溶鋼浴に浸漬されている状態を示す。浸漬管11aおよび11bの上部は、減圧バルブ16aまたは16bを介して図示しない減圧設備に、加圧バルブ17aまたは17bを介して図示しない加圧設備に、それぞれ接続されている。
【0077】
浸漬管11aおよび11bの内部の圧力は、圧力計18aおよび18bによって検出され、これにより浸漬管11aおよび18bの内部の圧力変化速度を求めることができる。浸漬管11aおよび11bの下端開口部から上方の部位で、浸漬管耐火物の内部に埋め込まれたステンレス製のパイプが浸漬管内面に開口しており、Arガスを溶鋼中に吹き込むためのガス吹き込み口14aまたは14bを形成している。
【0078】
図14に示す装置の浸漬管11aまたは11bそれぞれの減圧工程、加圧工程は、取鍋における精錬と同様に実施できる。
図13に示す装置のように、浸漬管が1つの場合、減圧工程と加圧工程によって、タンディッシュ内の溶鋼レベルが変動する。しかし、図14に示す装置構成の場合、それぞれ浸漬管11aおよび11bの加圧工程と減圧工程をサイクルを反転して同期させることにより、溶鋼レベルの変動を最小限にすることができる。ただし、2つの浸漬管の距離が接近している場合、一方の浸漬管から吐出された微細気泡を含んだ溶鋼の一部分が、他方の浸漬管に吸引される可能性があるので、例えば、タンディッシュ内に下堰20を設けて相互の浸漬管の干渉を防止してもよい。
【0079】
取鍋精錬の場合も、上記タンディッシュ精錬のように、2つまたはそれ以上の浸漬管を用い、減圧工程と加圧工程のサイクルをずらせて操業することにより、溶鋼浴の変動を小さくすることができる。
【0080】
浸漬管を複数用いる他の利点として、溶融金属を収容する容器の容量が大きい場合には、気泡の分散性を高めて介在物除去時間を短縮することである。連続鋳造の場合、タンディッシュ内の溶鋼滞留時間が限られているため、高能率で精錬をする必要があるが、複数の浸漬管を用いることにより高能率処理を実現できる。
【0081】
また、一般に浸漬管は溶融金属の熱による損傷を抑制するために耐火物を表面に備えるが、浸漬管の径が大きい場合には耐火物に亀裂が入り易くなるので、これを抑制するために浸漬管の大径化に替えて浸漬管の数を増やすことも有効である。
【0082】
上記の説明では、溶融金属浴中に浸漬管をほぼ鉛直に浸漬する場合を例示したが、本発明はこれに限られるものではない。装置の取り合い上、溶融金属浴中に浸漬管を傾斜させて浸漬させることも可能である。この場合、気泡の分散性の観点から、取鍋内の溶融金属に対して、取鍋の中心から偏心した位置に浸漬管を配置することが好ましく、タンディッシュ内の溶融金属に対しては、タンディッシュの長手方向に傾斜させることが好ましい。また、浸漬管を傾斜させることによって、気泡の移動経路も傾斜するので気泡の滞留時間を長くすることができる。
【0083】
浸漬管の横断面形状としては、浸漬管の表層部を構成する耐火物の施工の観点から円形であることが好ましいが、楕円もしくは多角形とすることもできる。
上記の説明では、主に溶融金属が溶鋼である場合を例示したが、本発明は溶鋼の精錬に限られるものではない。例えば、Al、Cuなどの製造工程に介在物を除去するプロセスを必要とする溶融金属についても本発明の精錬方法を適用することができる。
【0084】
また、上記の説明では、溶融金属中に吹き込むガスがArである場合を例示したが、本発明はこれに限られるものではない。ガスの種類は対象とする溶融金属と精錬の目的に応じて適宜選定することができる。ガスの種類としては、例えば、Ar、N2、H2、Heなどのガス、またはこれらを2種以上混合させた混合ガスを用いることができる。例えば、溶融金属への溶解が製品の品質に悪影響を及ぼすガスについて、当該ガスに替えて他のガスを用いたり、他のガスとの混合ガスを用いたりすることが挙げられる。また、別の手法としてガスの流量を抑制するなどの方法もある。
【0085】
【実施例】
図11(a) に示すストレート型浸漬管を用いた基本構成を有する装置、および同図(b) の末広がり型浸漬管を用いた基本構成を有する装置を用いて、Al脱酸を行った300トンの溶鋼に対して介在物を除去する精錬を行った。試験に用いた装置において、浸漬管内壁の、下端開口部から0.05mの部位の周方向に等間隔をなすようにして内径2mmのステンレス製のパイプを合計8本埋め込み、ガス吹き込み口とした。取鍋の内径dLは4.0m、ストレート型および末広がり型浸漬管のガス吹き込み口部位での内径Diはいずれも0.8mである。
【0086】
溶鋼浴に浸漬管を浸漬させ、浸漬管の内部を減圧して浸漬管内部に溶鋼を吸引させる減圧工程と、浸漬管の内部を加圧して吸引した溶鋼を吐出させる加圧工程とを順次繰返し行うとともに、前記加圧工程において、前記ガス吹き込み口からArガス流量の水準を種々変更して吹き込んだ。末広がり型の広がり角θについても、水準を種々変更した試験を行った。
【0087】
減圧工程における溶鋼の吸引高さ(取鍋内溶鋼の浴面からの高さ)は約0.8mとし、加圧工程における管内の圧力変化速度(最大圧力変化速度)は約200kPa/sとした。減圧工程と加圧工程とによる1サイクルあたりの時間は2秒として、10分間処理を行った。
【0088】
比較のため、取鍋底部に設けたポーラスプラグからArガスを10分間吹き込む処理も行った(これを、バブリング法という)。Arガスの流量は10l/min(1.7×10-4m3/s)とした。
【0089】
各精錬方法を適用した場合について、精錬前後における溶鋼の全酸素濃度を測定し、上述した介在物除去率ηを用いて評価した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示すように、浸漬管を用いた試験番号1〜8はいずれも従来法のバブリング法と比較して、高い介在物除去率が得られた。
浸漬管がストレート型の場合、試験番号1はQ/Diが好適範囲よりも小さく、試験番号4はQ/Diが好適範囲より大きく、試験番号5は、圧力変化速度が好適範囲より小さいため、それぞれ介在物除去率は
浸漬管を末広がり型とした場合、ストレート型の場合よりも、高い介在物除去率が得られたが、末広がりの程度の大きい試験番号8の場合は、他の末広がり型の試験番号6、7に比較して介在物除去率が小さかった。
【0092】
【発明の効果】
本発明により、溶融金属中に微細な気泡を生成させるとともに、該気泡を溶融金属中に広く分散させることができるので、溶融金属の精錬において効率的に介在物を除去することができる。あるいは脱ガス促進、脱りん、脱硫等のスラグメタル反応の促進等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶融金属を模した水が入った容器の底面もしくは側面から、水中にガスを吹き込んだ状態を示す概念図であり、図1(a) は、静止した水に容器底面からガスを吹き込んだ状態、図1(b) は、水平方向に流れる水に容器底面からガスを吹き込んだ状態、図1(c) は、下方向に流れる水に容器側面からガスを吹き込んだ状態をそれぞれ示す。
【図2】水モデル試験装置の一例を示す模式図である。
【図3】加圧工程における浸漬管内部の圧力変化速度と平均気泡径dBとの関係を示すグラフである。
【図4】吹き込みガス流量と浸漬管の内径との比Q/Di(m2/s)と、気泡の平均径dB(mm)との関係を示すグラフである。
【図5】介在物除去率ηと比Q/Diとの関係を示すグラフである。
【図6】介在物除去率ηと比Di/dLの関係を示すグラフである。
【図7】気泡の分散状況を示す模式図である。
【図8】浸漬管の種々の形状を示す模式図であり、図8(a) はストレート型、図8(b) は末広がり型、図8(c) は広がりの大きい末広がり型である。
【図9】浸漬管の末広がり角θ(°)と平均気泡径dB(mm)との関係を示すグラフである。
【図10】浸漬管の末広がり角θ(°)と介在物除去率ηとの関係を示すグラフである。
【図11】本発明の方法を用いて、取鍋内の溶鋼を精錬する場合の装置構成の一例を示す模式図であり、図11(a) はストレート型浸漬管の場合、図11(b) は末広がり型浸漬管の場合をそれぞれ示す。
【図12】本発明に係る末広がり型浸漬管の他の一例を示す模式図である。
【図13】本発明の方法を連続鋳造のタンディッシュに適用した場合の模式図である。
【図14】連続鋳造におけるタンディッシュ内の溶鋼に2つの浸漬管を用いて本発明を適用する場合の装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1、11、11a、11b:浸漬管
2:容器 3:水
4、14、14a、14b:ガス吹き込み口
5、15:気泡
6、16、16a、16b:減圧バルブ
7、17、17a、17b:加圧バルブ
8、18、18a、18b:圧力計
12:取鍋 13:溶鋼
19:タンディッシュ
20:下堰
Claims (4)
- 溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記ガス吹き込み口の設置高さより下方で、浸漬管の横断面の内径または内周長さが下方に向けて順次長くなることを特徴とする溶融金属の精錬方法。
- 前記ガス吹き込み口が浸漬管内壁の周方向に1つ以上配設されていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
- 溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記加圧工程において、前記ガス吹き込み口におけるガスの流量Q(m3(標準状態)/s)と、前記ガス吹き込み口の設置高さにおける浸漬管の横断面の内径Di(m)とが、下記(1)式の条件を満足することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
6.7×10−5≦Q/Di≦6.7×10−4 ・・・・・(1) - 溶融金属浴に浸漬管を浸漬し、浸漬管内を減圧して溶融金属を吸引する減圧工程と、浸漬管内を加圧して溶融金属を吐出する加圧工程とを含み、少なくとも加圧工程において、浸漬管内溶融金属中にあるガス吹き込み口からガスを吹き込む溶融金属の精錬方法であって、前記加圧工程において、前記ガス吹き込み口におけるガスの流量Q(m3(標準状態)/s)と、前記ガス吹き込み口の設置高さにおける浸漬管の横断面の内周長さLi(m)とが、下記(2)式の条件を満足することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
2.1×10−5≦Q/Li≦2.1×10−4 ・・・・・(2)
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