JP3999974B2 - アクリル酸またはメタクリル酸の製造方法 - Google Patents

アクリル酸またはメタクリル酸の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、複合酸化物触媒を用いて、アクロレインやメタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸またはメタクリル酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
不飽和アルデヒドを気相接触酸化して不飽和酸を製造する工程で用いる触媒は、化学工業において極めて重要なものであり、広範な研究が行われてきた。例えば、モリブデン、バナジウムを基本成分として、さらに修飾成分などを含有する多成分系の複合酸化物触媒が特許公報に開示されている。
【0003】
アクロレインを気相接触酸化してアクリル酸を製造する触媒に関する技術は、特公昭41−1775号公報、特公昭44−12129号公報、特公昭44−26287号公報、特公昭44−12886号公報、特公昭49−11371号公報、特公昭55−7414号公報、特公昭56−97号公報などに記載されている。
【0004】
このようなアクリル酸の製造技術では、分子状酸素の存在下に気相接触酸化反応を行う工程で、目的生成物の一部が更に酸化されて付加価値の低いものに変わるという好ましくない逐次反応を伴う場合が多い。
【0005】
この逐次反応を極力抑制するためには、触媒の有効係数を向上させるのが有効であるが、これは反応物の拡散抵抗支配を極力低減させることに同じである。
【0006】
触媒の有効係数に関し、触媒形状と細孔分布とが最も支配的な因子となることはよく知られており、例えば「化学工学」第30巻、第2号、第73〜79項(1966年科学工学協会発行)には触媒形状と有効係数の関係が論じられており、また「化学工学IV」(藤田重文、東畑平一郎編:東京化学同人社1963年刊)第32〜37項には細孔分布と有効係数の関係が論じられている。
【0007】
また、本願の発明者らの先の出願に係る特公平6−9658号公報、特公平6−38918号公報には、アンチモン・ニッケル等の複合酸化物を添加した触媒を用い、細孔径を制御することによって高収率の触媒が得られるという旨の記載がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来の複合酸化物からなる触媒が、長時間安定して高いアクリル酸収率を維持できるか否かという観点からみると、これらの触媒には未だ改善の余地が残されており、より収率の高い触媒が要望されている。
【0009】
また、近年では、アクロレインを気相接触酸化してアクリル酸を製造する場合に、触媒の単位容積当たりのアクロレインの供給量を増やす高負荷反応条件でアクリル酸の生産性を上げるという、いわゆる高STY(Space-Time Yield)反応条件が求められているが、アクロレインの酸化反応は発熱反応であり、原料であるアクロレインの供給量を増加させると、触媒層全体での均一な反応が起き難くなり、局所的に高温の発熱領域、いわゆるホットスポットを増加させる原因になる。
【0010】
製造工程で実際に触媒上の微細なホットスポットを確認することは一般に困難であるが、触媒性能や触媒寿命を低下させる要因の1つになっているものと推察される。そのため、反応時間の経過にともなって反応成績(アクロレイン転化率やアクリル酸収率)が低下し、経時的な安定性が不充分であった。
【0011】
本願の各請求項に係る発明の課題は、上記した問題点を解決し、アクロレインやメタクロレインの気相接触酸化反応によってアクリル酸またはメタクリル酸を製造する工程で用いる酸化触媒を、高収率で長時間安定してアクリル酸またはメタクリル酸を製造できるものにすることである。
【0012】
すなわち、アクロレインの気相接触酸化反応を比較的低温の条件でも効率よく行なえる複合酸化物触媒であり、ホットスポットの発生を抑制することなどにより、反応成績(アクロレイン転化率やアクリル酸収率)が経時的に低下しにくい複合酸化物触媒を製造することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願の発明者らは、アンチモン・ニッケル等のアンチモン酸塩複合酸化物を添加した触媒において、上記の課題を解決するために、モリブデン、ニオブなどを含有する複合酸化物触媒について鋭意検討を行った結果、特定の原料を用いて製造された触媒が、アクロレイン酸化反応において活性が高く、アクリル酸の収率が高いことを見い出し、この発明を完成させたものである。
【0014】
すなわち、本願の発明は、下記の式(1)で示される複合酸化物触媒を元素供給源の一体化および加熱処理によって製造する際に、前記複合酸化物触媒におけるSbの供給源として熱処理されたSb−Ni−X−SiC−O(XはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素である。)で示される炭化珪素含有複合酸化物を用い、さらにNbの供給源として蓚酸ニオブアンモニウム化合物を用い複合酸化物触媒製造し、この複合酸化物触媒を用いて、アクロレインまたはメタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化することからなるアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法としたのである。

(Sb)a(Ni)b(X)c(Y)d(Mo)e(Z)f(A)g(O)h (1)
(式中のSb、Ni、Si、Al、C、Mo、V、Nb、Cu、WおよびOはそれぞれ元素記号であり、XはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素を示し、YはSiCを示し、ZはV−NbまたはNbを示し、AはCuおよびWから選ばれた少なくとも一種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素や分子の比を表し、aは1〜100、bは1〜100、0<c≦50、dは1〜500、eは1〜100、fは0.1〜50、gは0.1〜50、hはYを除いた各成分元素の酸化度によって決まる酸素原子数である。)
【0015】
上記したように元素供給源の一体化および加熱処理によって複合酸化物触媒を製造する方法では、Sbの一部または全部の供給源として熱処理されたSb−Ni−X−SiC−O(XはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素であり、SiCは炭化珪素である。)で示される炭化珪素含有複合酸化物を用い、さらにNbの供給源として蓚酸ニオブアンモニウム化合物を用いることによって、元素供給源の一体化および加熱処理における触媒の活性が高くなり、すなわち触媒単位量あたりのアクロレイン転化量が向上し、さらに触媒のアクリル酸選択率が改良され、比較的低温の条件でもアクロレインの気相接触酸化反応を効率よく行なえる複合酸化物触媒を製造できる。
【0016】
また、シリコンおよびCの供給源として炭化珪素の化合物を用いることにより、触媒の熱伝導率が高まるので、原料であるアクロレインの供給量を増加させた場合でも、触媒層全体で比較的均一な反応が可能となるため、反応熱の局部的蓄積が抑えられてホットスポットが形成されにくくなり、触媒全体で効率よくアクロレインの気相接触酸化反応を行なえる複合酸化物触媒を製造できる。
【0017】
このように優れた複合酸化物触媒を効率よく製造するためには、Sbの供給源として用いるSb−Ni−X−SiC−Oで示される複合酸化物が、Sb、Ni、X、SiCを含有する化合物の溶液、または水分散体を混合した後、500〜900℃で熱処理したものであることが好ましい。
【0018】
また、このように優れた複合酸化物触媒の製造工程における所要元素の供給源の一体化および加熱処理が、下記(a)〜(d)の工程を順次経ることを含む処理工程であるアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法を採用することが好ましい。

(a)触媒成分元素を含有する水溶液またはこれらを含有する化合物の水分散体を混合し、触媒構成成分の前駆体を調製する工程
(b)工程(a)で得られた触媒構成成分の前駆体を熱処理する工程
(c)工程(b)で得られた熱処理粉体を必要によりバインダーと共に成型する工程
(d)工程(c)で得られた成型触媒を不活性ガス中または制御された酸素濃度雰囲気下で焼成する工程
更に好ましくは、上記した工程(c)のバインダーとして、シリカ、グラファイトおよび結晶性セルロースからなる群から選ばれる一種以上のバインダーを用いるのが好ましい。上記の複合酸化物触媒は、アクロレインまたはメタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸またはメタクリル酸を製造するために、好適に使用される。
【0019】
【発明の実施の形態】
この発明に用いる触媒は、前記した(1)式で表わされる金属元素組成の酸化物または複合酸化物である。(1)式中のXおよびSiCはアンチモン酸塩と共存させる元素または化合物であって、具体的にはXはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素を示すものである。(1)式中のZおよびAは本触媒系に共存しうる元素であって、具体的には、ZはV−NbまたはNbを示し、AははCuおよびWから選ばれた少なくとも一種の元素である。
【0020】
各元素の組成比は前記の通りであるが、より好ましくは、aは10≦a≦100、bは1≦b≦50、cは0c≦30、dは1≦d≦300、eは1≦e≦50、fは0.1≦f≦30、gは0.1≦g≦30であり、hはSiCを除いた各成分元素の酸化度によって決まる酸素原子数である。
【0021】
この発明の複合酸化物触媒は、式(1)で示した触媒成分を構成する各金属元素またはその化合物を含有する水溶液(または水分散液)を調製し、これを乾燥して粉体とし、これを熱処理した後、成型し、さらに焼成処理をして得ることができる。
【0022】
この発明でいう一体化は、好ましくは水溶液または水分散液からなる水性系において各成分元素を含んだ供給源化合物を混合し、必要に応じて熟成処理することによって各元素を一体に含んだものを得ることをいう。
【0023】
すなわち、(イ)上記の各供給源化合物を一括して混合する方法、(ロ)上記の各供給源化合物を一括して混合し、さらに熟成処理する方法、(ハ)上記の各供給源化合物を段階的に混合する方法、(ニ)上記の各供給源化合物を段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、および(イ)〜(ニ)を組み合わせた方法は、いずれも上記各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化の概念に含まれる。
【0024】
ここで、前記の「熟成」は、化学大辞典(共立出版)にも記載があるように「工業原料または半製品を、一定時間、一定温度などの特定条件の下に処理して必要とする物理性、化学性の取得、上昇または所定反応の進行などを図る操作」のことをいう。なお、上記の一定時間は、この発明において1分〜24時間の範囲をいい、上記の一定温度は室温〜200℃の範囲である。
【0025】
製造原料として用いる触媒構成元素の化合物は、炭化珪素化合物を除いて焼成によって酸化物になる化合物であればよい。触媒構成元素化合物の原料としては、金属アンチモン、アンチモン化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、モリブデン化合物、ニオブ化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物、銅化合物が挙げられる。
【0026】
化合物の具体例としては、触媒構成元素のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アセチルアセトナート、アルコキシド等がその例として挙げられる。
【0027】
また、この発明に用いる炭化珪素化合物の具体例としては、緑色炭化珪素、黒色炭化珪素などが挙げられ、炭化珪素は微粉体のものが好ましい。
【0028】
シリカ供給源としてはコロイダルシリカ、粉体、粒状シリカ等が挙げられ、アルミニウム供給源としてはアルミナなどが用いられ、これら触媒構成元素の化合物は単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
製造工程を順に説明すると、まず上記した触媒構成元素、成分またはそれらの化合物の水溶液または水分散体を調製する。以下、特に断らない限りこれらの水溶液または水分散体をスラリー溶液という。
【0030】
スラリー溶液は、各構成成分の化合物と水とを均一に混合して得ることができる。この発明においては、スラリー溶液が水溶液であることが好ましい。スラリー溶液における各構成成分の化合物の使用割合は、各触媒構成元素の原子比が上記した範囲であればよい。
【0031】
水の使用量は、化合物の全量を完全に溶解または均一に混合できる量であれば特に限定されないが、下記の熱処理の方法や温度等を勘案して適宜に決定すればよい。通常、化合物の合計重量100重量部に対して100〜2000重量部である。水の量が上記所定量未満の少量では化合物を完全に溶解できず、または均一に混合できないことがある。また、水の量が上記所定量を越えて多量であれば、熱処理時のエネルギーコストがかさむという問題が生じる。
【0032】
次いで上記工程で得られたスラリー溶液を乾燥する。乾燥方法は、スラリー溶液が完全に乾燥でき、かつ粉体が得られる方法であれば特に制限はなく、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が好ましい方法として挙げられる。
【0033】
噴霧乾燥は、スラリー溶液状態から短時間に均質な粉末状態に乾燥することができるので、この発明に好ましく適用できる方法である。
【0034】
乾燥温度は、スラリー溶液の濃度や送液の速度等によって異なるが、乾燥機の出口の温度で90〜150℃が適当である。また、乾燥粉体の粒径が10〜200μmとなるように乾燥させることが好ましい。
【0035】
次に、上記のようにして得られた触媒構成成分を含む前駆体を熱処理する。熱処理の温度は、通常、160〜450℃で行ない、好ましくは160〜350℃で行なう。熱処理の時間は、通常では1〜20時間であり、2〜10時間がより好ましい。このような熱処理工程を経て得られる粉体は、粒径や品質が均一で粉化の少ない触媒になる。
【0036】
この発明の製造方法によって得られる触媒は、上記の熱処理後の粉体を成型して得ることもできる。成型方法に特に制限はなく、必要によりバインダーと混合した熱処理粉体を(A)打錠成型、(B)シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等の成型助剤と混合し球状やリング状に押出成型、(C)球状担体上に被覆担持成型などの適当な方法を採用できる。
【0037】
なお、熱処理された粉体を打錠成型する際には、シリカ、グラファイト、結晶性セルロース等のバインダーなどの成型助剤を、熱処理粉体100重量部に対して約1〜50重量部程度使用することもできる。
【0038】
また、必要によりセラミックス繊維、ウイスカー等の無機繊維を強度向上材として用いれば、触媒の機械的強度を向上させることができる。
【0039】
しかし、チタン酸カリウムウイスカーや塩基性炭酸マグネシウムウイスカーの様な触媒成分と反応する繊維は好ましくない。強度向上材としては、セラミックス繊維が特に好ましい。これらの繊維の使用量は、熱処理粉体100重量部に対して通常1〜30重量部である。上記成型助剤及び強度向上材は、通常熱処理粉体と混合して用いられる。
【0040】
このようにして熱処理粉体をペレット状やリング状に打錠成型すると、成形品が得られ、成型品を焼成して目的の複合酸化物触媒を得ることができる。焼成温度は、通常250〜600℃を採用でき、好ましくは300〜420℃であり、焼成時間は1〜50時間である。焼成は、不活性ガスまたは分子状酸素の共存下の雰囲気で行うことが好ましい。
【0041】
なお、打錠成型以外の成型方法を採用した場合の焼成は、通常250〜600℃で1〜50時間程度の条件で行なう。
【0042】
こうして得られたこの発明の触媒、特に打錠成型触媒は、気相接触酸化反応に使用すると、高活性であり、高い選択率で目的化合物が得られる。この発明で製造された触媒の用途は、不飽和アルデヒドを原料にし、不飽和酸を製造する工程で使用されるが、好ましくはアクロレインを酸化して、アクリル酸を製造する工程に適用される。すなわち、オレフィンたとえばプロピレンの気相接触酸化によりアクリルを製造する工程をオレフィンの酸化による不飽和アルデヒドの製造およびその酸化による不飽和カルボン酸の製造の二工程に分割して実施する場合に、後段反応に用いる触媒として本発明の触媒は有用である。
【0043】
【実施例および比較例】
以下に、実施例、比較例によりこの発明を詳細に説明する。なお、この発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
アクロレイン転化率、アクリル酸選択率、アクリル酸収率は、下記の式(2)〜(4)のように定義する。
(2) アクロレイン転化率(モル%)
=100×(反応したアクロレインのモル数)/(供給したアクロレインのモル数)
(3) アクリル酸選択率(モル%)
=100×(生成したアクリル酸モル数)/(転化したアクロレインモル数)
(4) アクリル酸収率(モル%)
=100×(生成したアクリル酸モル数)/(供給したアクロレインモル数)
【0045】
〔実施例1〕
塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O)411g(ただし、含水率76%の塩基性炭酸ニッケルをこの換算量で使用する。以下同様である。)を純水1500mlに分散させ、これにシリカ(塩野義製薬社製:カープレックス#67)25g及び三酸化アンチモン265gを加えて充分に攪拌した。このスラリー液に最大粒子径63μm以下、累積高さ3%点の粒子径50μm以下、累積高さ50%点の粒子径25±2.0μm、累積高さ94%点の粒子径16μm以下の粒度分布性状の炭化珪素粉末384gを加えて、充分に撹拌混合した。このスラリー状液を加熱して濃縮し、乾燥した。得られた乾燥固体をマッフル炉にて800℃で3時間焼成し、生成固体を粉砕して60メッシュ篩を通過する粉体を得た(Sb−Ni−Si−SiC−O粉末)。
【0046】
一方、純水1900mlを約80℃に加熱し、これにパラモリブデン酸アンモニウム225g、メタバナジン酸アンモニウム29.9gおよび蓚酸ニオブアンモニウム24.6gおよび硫酸銅53.1gを攪拌しながら順次加えて溶解させた。
【0047】
次に、上記Sb−Ni−Si−SiC−O粉末をこの溶液に攪拌しながら徐々に加えて充分に撹拌混合した。得られたスラリーを80〜100℃に加熱して濃縮および乾燥させ、この乾燥品を240℃で加熱処理した後、粉砕して24メッシュ篩を通過する粉体を得た。これに1.5重量%のグラファイトを添加混合し、小型打錠成型機にて5×4hm/mの円柱状に成型した。これを焼成炉にて400℃で5時間焼成して触媒を得た。得られた触媒の組成は、原子比で下記の通りであった。
Sb:Ni:Si:SiC:Mo:V:Nb:Cu=17.1:7.4:4:90:12:2.4:1:2
得られた触媒を評価するために、20〜28メッシュに粉砕して整粒したもの0.45gを、内径4mmのU字型反応管に充填し、この反応管を加熱したナイター浴に入れて下記の組成ガスを導入し、SV(空間速度;単位時間当たりの原料ガスの流量/充填した触媒の見かけ容積)を9900/hrで反応させた。
【0048】
因みに、ナイター浴は、アルカリ金属の硝酸塩からなる熱媒体に反応管を入れて反応させる塩浴をいい、この熱媒体は200℃以上で溶融し、400℃まで使用可能で除熱効率がよいので、発熱量の大きな酸化反応に適した反応浴である。
アクロレイン 3.4vol%
酸素 9.3vol%
スチーム 41.5vol%
窒素ガス 45.8vol%
この反応結果は、ナイター浴温度が265℃でアクロレイン転化率=98.2%、アクリル酸選択率=98.0%、アクリル酸収率=96.2%であった。またナイター浴温度が270℃では、アクロレイン転化率=99.4%、アクリル酸選択率=97.4%、アクリル酸収率=96.8%であった。
【0049】
〔実施例2〕
塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O)411gを純水1500mlに分散させ、これにα−アルミナ19.8g及び三酸化アンチモン265gを加えて充分に攪拌した。得られたスラリー液に最大粒子径63μm以下、累積高さ3%点の粒子径50μm以下、累積高さ50%点の粒子径25±2.0μm、累積高さ94%点の粒子径16μm以下の粒度分布性状の炭化珪素粉末384gを加えて、充分に撹拌混合した。このスラリー状液を加熱して濃縮および乾燥し、得られた固体をマッフル炉にて800℃で3時間焼成した。生成した固体を粉砕して60メッシュの篩を通過した粉末(Sb−Ni−Al−SiC−O粉末)を得た。
【0050】
その後は実施例1と全く同様の操作を行なうことにより触媒を製造した。ここで得られた触媒の組成は、原子比で下記の通りであった。
Sb:Ni:Al:SiC:Mo:V:Nb:Cu=17.1:7.4:3.5:90:12:2.4:1:2
この触媒を用いて実施例1と同一の反応条件で反応性の評価を行なった。その結果は、ナイター浴温度が270℃でアクロレイン転化率=97.5%、アクリル酸選択率=98.1%、アクリル酸収率=95.6%であった。また、ナイター浴温度が、275℃でアクロレイン転化率=99.0%、アクリル酸選択率=97.6%、アクリル酸収率=96.6%であった。
【0051】
〔実施例3〕
塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O)411gを純水1500mlに分散させ、これにシリカ(塩野義製薬社製:カープレックス#67)25.6g及び三酸化アンチモン265gを加えて充分に攪拌し、得られたスラリー液に最大粒子径63μm以下、累積高さ3%点の粒子径50μm以下、累積高さ50%点の粒子径25±2.0μm、累積高さ94%点の粒子径16μm以下の粒度分布性状の炭化珪素粉末384gを加えて、充分に撹拌混合した。このスラリーを加熱して濃縮および乾燥させ、得られた固体をマッフル炉にて800℃で3時間焼成した。生成した固体を粉砕して、60メッシュ篩を通過する粉末(Sb−Ni−Si−SiC−O粉末)とし、その後はパラタングステン酸アンモニウム13.9gを添加したこと以外は、実施例1と全く同じ操作を行うことにより下記組成の触媒を得た。
Sb:Ni:Si:SiC:Mo:V:Nb:Cu:W=17.1:7.4:4:90:12:2.4:1:2:0.5
この触媒に対し、実施例1と全く同様にしてアクロレインの触媒酸化反応を行なった。その結果、ナイター浴温270℃において、アクロレイン転化率=98.0%、アクリル酸選択率=98.0%、アクリル酸収率=96.0%であった。またナイター浴温度が275℃では、アクロレイン転化率=99.1%、アクリル酸選択率=97.8%、アクリル酸収率=96.9%であった。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1において使用する蓚酸ニオブアンモニウム24.6gに代えて、水酸化ニオブ21.1gを使用し、その後の調製法は実施例1と全く同様に行なって触媒を得た。得られた触媒の組成は、原子比で下記の通りであった。
Sb:Ni:Si:SiC:Mo:V:Nb:Cu=17.1:7.4:4.90:12:2.4:1:2
この触媒を用いて実施例1と同一の反応条件にて反応性の評価を行なった。その結果は、ナイター浴温度が285℃でアクロレイン転化率=97.8%、アクリル酸選択率=97.8%、アクリル酸収率=95.6%であった。
【0053】
以上の結果から、この発明の触媒が、活性および選択性共に優れた触媒であることが確認された。
【0054】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように、複合酸化物触媒を製造する方法において、Sbの供給源として所定の炭化珪素含有複合酸化物を用い、さらにNbの供給源として蓚酸ニオブアンモニウム化合物を用いたので、触媒単位量あたりのアクロレイン転化量が向上し、さらに触媒のアクリル酸選択率が改良され、比較的低温の条件でもアクロレインの気相接触酸化反応を効率よく行なえる活性の高い複合酸化物触媒を製造できる。
【0055】
また、この発明の製造方法では、触媒の熱伝導性が高いものになってホットスポットの発生の抑制なども可能な複合酸化物触媒が得られ、経時的に反応成績(アクロレイン転化率やアクリル酸収率)が低下し難く、高負荷反応条件でも長期間安定的に使用できる複合酸化物触媒を製造できるという利点もある。

Claims (4)

  1. 下記の式(1)で示される複合酸化物触媒を元素供給源の一体化および加熱処理によって製造する際に、前記複合酸化物触媒におけるSbの供給源として熱処理されたSb−Ni−X−SiC−O(XはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素である。)で示される炭化珪素含有複合酸化物を用い、さらにNbの供給源として蓚酸ニオブアンモニウム化合物を用い複合酸化物触媒製造し、この複合酸化物触媒を用いて、アクロレインまたはメタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化することからなるアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法。

    (Sb)a (Ni)b (X)c (Y)d (Mo)e (Z)f (A)g (O)h (1)
    (式中のSb、Ni、Si、Al、C、Mo、V、Nb、Cu、WおよびOはそれぞれ元素記号であり、XはSiおよびAlから選ばれた少なくとも一種の元素を示し、YはSiCを示し、ZはV−NbまたはNbを示し、AはCuおよびWから選ばれた少なくとも一種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素や分子の比を表し、aは1〜100、bは1〜100、0<c≦50、dは1〜500、eは1〜100、fは0.1〜50、gは0.1〜50、hはYを除いた各成分元素の酸化度によって決まる酸素原子数である。)
  2. 複合酸化物触媒の製造工程におけるSbの供給源として用いるSb−Ni−X−SiC−Oで示される複合酸化物が、Sb、Ni、X、SiCを含有する化合物の溶液、または水分散体を混合した後、500〜900℃で熱処理して得られたものである請求項1記載のアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法
  3. 複合酸化物触媒の製造工程における所要元素の供給源の一体化および加熱処理が、下記(a)〜(d)の工程を順次経ることを含む処理工程である請求項1に記載のアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法

    (a)触媒成分元素を含有する水溶液またはこれらを含有する化合物の水分散体を混合し、触媒構成成分の前駆体を調製する工程
    (b)工程(a)で得られた触媒構成成分の前駆体を熱処理する工程
    (c)工程(b)で得られた熱処理粉体を必要によりバインダーと共に成型する工程
    (d)工程(c)で得られた成型触媒を不活性ガス中または制御された酸素濃度雰囲気下で焼成する工程
  4. 複合酸化物触媒の製造工程における工程(c)におけるバインダーが、シリカ、グラファイトおよび結晶性セルロースからなる群から選ばれる一種以上のバインダーである請求項3に記載のアクリル酸またはメタクリル酸の製造方法
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