JP3997627B2 - チェーン用潤滑油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐熱性及び安定性に優れた潤滑油組成物に関し、より詳しくは、各種機械装置のチェーン用潤滑油としての使用に適した固体潤滑剤分散型芳香族エステル系チェーン用潤滑油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、機械類の高速・高負荷化、高効率化、省エネルギー化、メンテナンスフリー化、低コスト化等に伴い、潤滑油に対しても耐熱性が高く、長寿命であり、使用温度範囲が広く、劣化してもタールの生成量が少なくメンテナンスに有利であるという性能が要求されるようになっている。そのため、従来の鉱油系潤滑油に替わって性能の良好な合成油系潤滑油が使用されるようになってきている。
【0003】
合成油にはポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の合成炭化水素、有機酸エステル(以下「エステル」と略す)、リン酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーン油等があり、特にエステルは鉱油系基油に比べて長寿命(耐熱性が良い)、使用温度範囲が広い(流動点が低い、粘度指数が高い)、潤滑性が良い、揮発性が低いなどの長所を有している。現在、エステル系基油の主流はポリオールエステルであり、ジェットエンジン油、ガスタービン油、コンプレッサー油、チェーン油、油圧作動油、ギヤ油、軸受油、グリース基油等の分野にも好んで使用されるようになってきた。
【0004】
しかしながら、使用条件の苛酷化は更に進みつつあり、ポリオールエステルでも高温での劣化により酸価の上昇、タール分(スラッジ、ワニス、コーク)の生成など耐熱性の面で問題となる様になってきた。例えば、チェーン用潤滑油では230〜250℃の高温条件で使用される。そのような状況下ではポリオールエステル系の潤滑油を使用した場合であっても、油の酸化劣化によるタール分の生成がおこりその清掃作業などメンテナンスへの負荷が大きく、又、臭気の発生により作業環境の悪化を引き起こしたり、揮発による油の蒸発損失により油切れが起こりやすいため給油頻度が多くなりコスト面への影響が大きくなる。更に、潤滑性の面からも油切れによりチェーンのきしみ音が生じるとともに摩耗が進行し、装置寿命へも影響が現れる。
【0005】
一方、最近、3,5,5−トリメチルヘキサノールをアルコール成分とする芳香族カルボン酸エステルが化学的特性(耐熱性、低タール性)に優れ、且つ潤滑油基油しての物理的特性(粘度指数、流動点)にも優れていることが報告されている(特開平10−130673号)。ところが、チェーン用の潤滑油として用いる場合、潤滑剤は通常開放系で用いるため、揮発性の面で尚改善の余地を残していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の芳香族カルボン酸3,5,5−トリメチルヘキシル系エステル潤滑油の特性である化学的特性(耐熱性、低タール性)を維持しつつ、更に、チェーン用の潤滑油として良好な特性、即ち、油切れによる潤滑性低下の抑制に効果のある潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、芳香族カルボン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル系基油にアミン系酸化防止剤を配合し、更に、固体潤滑剤の微粉末を分散せしめた潤滑油組成物が、チェーン用潤滑油として使用する場合、従来の芳香族カルボン酸エステルと比べて際だって優れた効果を奏することを見いだした。更に、特定の固体潤滑剤を用いる場合、分散剤及び/又は分散安定剤を併用することにより更に優れた潤滑性能が得られることを見いだし、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係るチェーン用潤滑油組成物は、1種又は2種以上の芳香族カルボン酸と、3,5,5−トリメチルヘキサノールを50モル%以上含有する炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールとを完全にエステル化して得られる芳香族カルボン酸エステル(以下、「本エステル」という。)を含む基油に、潤滑油組成物全重量に対し、1種又は2種以上のアミン系酸化防止剤を0.1〜5重量%、及び固体潤滑剤0.01〜20重量%を分散せしめたことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる芳香族カルボン酸としては、フタル酸、4−t−ブチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4’−オキシビス安息香酸及び4,4’−チオビス安息香酸等の芳香族カルボン酸又はその無水物及び該芳香族カルボン酸とメタノール、エタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールエステルが例示される。
【0010】
これら芳香族カルボン酸の中で特にフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸及びピロメリット酸が推奨され、チェーン用潤滑油として非常に厳しい高温条件で使用される場合には、高粘度で蒸発損失の少ないエステルを提供するトリメリット酸、トリメシン酸又はピロメリット酸を用いるのが望ましい。
【0011】
本エステルを構成する一価アルコールとしては、炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する脂肪族一価アルコール(但し、3,5,5−トリメチルヘキサノールを50モル%以上含有する。)であり、より具体的には、3,5,5−トリメチルヘキサノールの他にn−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプタノール、n−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ノナノール、イソノナノール、n−デカノール、イソデカノール、n−ウンデカノール、イソウンデカノール、n−ドデカノール、イソドデカノール、n−トリデカノール、イソトリデカノール、n−テトラデカノール、イソテトラデカノール、n−ペンタデカノール、イソペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、n−オクタデカノール、イソオクタデカノール等が例示される。又、これらのアルコールの代わりにこれらのアルコールの酢酸エステル等の低級アルキルエステルを用いることも可能である。
【0012】
本エステルを構成する一価アルコールは、3,5,5−トリメチルヘキサノールを50モル%以上含有するが、その含有量としては70モル%以上が好ましく、更には3,5,5−トリメチルヘキサノール単独が好ましい。50モル%未満では、耐熱性が低下すると共にタールが生成しやすくなる傾向が認められる。
【0013】
一方、用途によっては粘度指数を更に高めた潤滑油が求められる場合もある。その場合は、一価アルコールとして炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪族一価アルコールを併用することが好ましく、その中でも特に炭素数8〜14の直鎖状一価アルコールが推奨される。
【0014】
本発明で用いる好ましい本エステルとしては、フタル酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、イソフタル酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)及びピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルヘキシル)が例示され、この中でも特にトリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)及びピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルヘキシル)が推奨される。
【0015】
本発明に用いるアミン系酸化防止剤としては、下記の一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)で表される化合物群の中から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0016】
[式中、R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0017】
[式中、R5,R6、R7及びR8は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0018】
[式中、R9,R10及びR11は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0019】
一般式(1)で表されるアミン系酸化防止剤として具体的には、N−フェニル−α−ナフチルアミン、N−ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ノニルフェニル−α−ナフチルアミン等が挙げられる。これらの中でN−フェニル−α−ナフチルアミンおよびN−オクチルフェニル−α−ナフチルアミンが特に好ましい。
【0020】
一般式(2)で表されるアミン系酸化防止剤として具体的には、ジフェニルアミン、p,p’−ジブチルジフェニルアミン、p,p’−ジペンチルジフェニルアミン、p,p’−ジヘキシルジフェニルアミン、p,p’−ジヘプチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミンのほか、炭素数4〜9の混合アルキルジフェニルアミン等が挙げられる。これらの中でp,p’−ジオクチルジフェニルアミンが特に好ましい。
【0021】
一般式(3)で表されるアミン系酸化防止剤として具体的には、p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0022】
上記の一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)で表されるアミン系酸化防止剤は、潤滑油組成物全重量に対し、0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜3重量%配合される。添加量が0.1重量%未満では酸化防止性が劣り、5重量%を越える範囲では酸化防止性に大きな改善は認められない。
【0023】
更に本発明に係るチェーン用潤滑油組成物は、固体潤滑剤を分散せしめたことを特徴としている。固体分散剤としては、高温における油切れの際の摩耗の低減、焼付き防止、きしみ音の緩和に効果を発揮する化合物が選択される。具体的には、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化炭素、フッ化セリウム、硫化アンチモン、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のホウ酸塩等が例示され、なかでも、窒化ホウ素又は二硫化モリブデンが推奨される。
【0024】
尚、二硫化モリブデンは黒色であるため、業種によっては潤滑剤の飛散により製品が着色したり、又、作業場が汚染することもある。その場合、白色であり、分散性が良好で、更には高温での潤滑性能が優れる窒化ホウ素を用いることが特に好ましい。また、窒化ホウ素については立方晶、菱面体晶、六方晶などのいろいろな結晶系に属するものが知られているが、本発明ではへき解性、即ちすべり性能を有する六方晶又は菱面体晶窒化ホウ素等の層状構造のものが用いられる。
【0025】
分散せしめる固体潤滑剤は微粉末であることが好ましく、その粒子径については、微粉であればあるほど分散性が良好となるが、通常、平均粒子径で0.01〜10μm、好ましくは0.05〜5μmのものが例示される。
【0026】
固体分散剤の使用量としては、潤滑油組成物全重量に対して0.01〜20重量%使用可能であり、特に0.05〜5重量%が好ましい。0.01重量%未満の使用量であれば添加による効果が十分でなく、20重量%を越えて添加しても摩擦低減効果に大きな向上はみられない。
【0027】
潤滑油中に固体分散剤を分散せしめる方法としては、例えばホモジナイザー等により高速撹拌して分散せしめる方法が挙げられるが、特に限定されるものではなく、チューブミル、メジアミル、スタティックミキサー、超音波分散など従来公知のものでもよい。又、固体潤滑剤を分散する際には、分散性及び分散安定性の向上の目的で、分散剤及び/又は分散安定剤を用いることも可能である。
【0028】
具体的な分散剤としては、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するコハク酸イミド、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するコハク酸アミド、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するベンジルアミン、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するコハク酸エステルのほかこれらをホウ素化合物で処理した誘導体等の無灰型分散剤が例示される。又、分散安定剤としては、炭素数12〜22の脂肪酸アミド、エチレンプロピレンコポリマー、酸化ポリエチレン等が例示され、これらは、総量で潤滑油組成物全重量に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%配合される。
【0029】
とりわけ、固体分散剤として窒化ホウ素を用いる場合、分散剤及び/又は分散安定剤を用いて固体分散剤を分散させることは非常に効果的である。
【0030】
上記分散剤及び/又は分散安定剤のなかでも好ましくは、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するコハク酸イミド、アルキル若しくはアルケニル置換基を有するベンジルアミン、ステアリルアミド、酸化ポリエチレン等が推奨される。これらの1種若しくは2種以上を併用することが可能である。
【0031】
本発明に係る芳香族カルボン酸エステル、アミン系酸化防止剤、固体潤滑剤、分散剤及び/又は分散安定剤のなかでもより好ましい組み合わせとして、
・トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン及び窒化ホウ素、
・トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン及び窒化ホウ素、
・トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン及び窒化ホウ素、
・トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン及び窒化ホウ素、
・ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン及び窒化ホウ素、
・ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン及び窒化ホウ素、
・ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン及び窒化ホウ素、
・トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤
・トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤、
・トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤
・トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤、
・ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルへキシル)、N−フェニル−α−ナフチルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤、
・ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルへキシル)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、窒化ホウ素及びベンジルアミン系分散剤、
等が例示される。
【0032】
更に、本発明に係る潤滑油組成物は、耐摩耗剤としてリン酸エステルを配合することによりその耐摩耗性を向上せしめ、潤滑油の性能を大きく改善することが可能である。
【0033】
本発明に用いるリン酸エステルとしては、一般式(4)で表されるリン酸トリエステルから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。
【0034】
[式中、R12、R13及びR14は、同一又は異なって、炭素数3〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルケニル基、又はアルキル置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0035】
一般式(4)で表されるリン酸エステルとして具体的には、リン酸トリブチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリオレイル等のリン酸トリアルキルエステル、リン酸フェニルジブチル、リン酸フェニルジイソプロピル、リン酸フェニルジオクチル、リン酸フェニルジ(2−エチルヘキシル)、リン酸フェニルジラウリル、リン酸フェニルジステアリル、リン酸フェニルジオレイル、リン酸ジフェニルブチル、リン酸ジフェニルイソプロプロピル、リン酸ジフェニルオクチル、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルラウリル、リン酸ジフェニルステアリル、リン酸ジフェニルオレイル等のリン酸アルキル−アリール混基エステル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸フェニルジクレジル、リン酸フェニルジキシレニル、リン酸ジフェニルクレレジル、リン酸ジフェニルキシレニル、リン酸フェニル−ジ(プロピルフェニル)、リン酸ジフェニル−プロピルフェニル、リン酸トリ(プロピルフェニル)等のリン酸トリアリールエステルが例示される。これらの中で、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジルが好ましい。
【0036】
上記の一般式(4)で表されるリン酸エステル類は、潤滑油組成物全重量に対し、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%配合される。添加量が0.1重量%未満では耐摩耗性が劣り、10重量%を越える範囲では耐摩耗性に大きな向上はみられない。
【0037】
一方、本発明に係るチェーン用潤滑油組成物は、その潤滑油基油としての性能を妨げない範囲内で、本エステルのほかに鉱物油、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の合成炭化水素、フィッシャートロプッシュ法よって得られる合成炭化水素の異性化油、本エステル以外の有機酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーン油よりなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を適宜併用して混合基油として使用することができる。混合基油における本エステルの割合は5重量%以上であり、併用する油種に応じて好適な混合比は異なるが、通常、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上の割合が推奨される。
【0038】
鉱物油基油としては溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、ワックス異性化油が挙げられるが、通常、100℃における動粘度が1.5〜40mm2/s、好ましくは3〜30mm2/sの範囲にあるものが用いられる。
【0039】
ポリ−α−オレフィンとしては、炭素数2〜16のα−オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1ーヘキサデセン等)の重合体又は共重合体で100℃における動粘度が1.5〜40mm2/s、粘度指数が100以上のものが例示され、特に100℃における動粘度が3〜30mm2/sで、粘度指数が120以上のものが好ましい。
【0040】
ポリブテンとしてはイソブチレンを重合したもの、イソブチレンをノルマルブチレンと共重合したものがあり、一般に100℃の動粘度が2〜6000mm2/sの広範囲のものが挙げられる。
【0041】
アルキルベンゼンとしては、炭素数1〜40の直鎖又は分岐のアルキル基で置換された、分子量が200〜450であるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼンなどが例示される。
【0042】
アルキルナフタレンとしては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されたモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレンなどが例示される。
【0043】
本エステル以外の有機酸エステルとしては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの炭素数10〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのモノエステル類;アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカン−2酸などの炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのジエステル類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのフルエステル;シクロヘキセンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びそれらの無水物と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのジエステル;ダイマー酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステルなどの脂環式多価カルボン酸エステル;及びネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどのポリオールと炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、縮合ヒマシ油脂肪酸、12−ヒドロキシステアリン酸とのフルエステル若しくは部分エステルなどを使用することが可能である。
【0044】
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールと炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキサイドの開環重合体が例示される。アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、若しくは2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。また、片端または両端の水酸基部分がエーテル化若しくはエステル化した化合物も使用可能である。
【0045】
ポリフェニルエーテルとしては、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m−フェノキシフェニル)エーテル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称 C−エーテル)などが例示される。
【0046】
アルキルフェニルエーテルとしては、ポリフェニルエーテルを炭素数6〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換された化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換されたアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0047】
シリコーン油としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのほか、長鎖アルキルシリコーン、フルオロシリコーンなどの変性シリコーンが挙げられる。
【0048】
本発明に係る潤滑油組成物にはその性能を向上させるために、アミン系以外の酸化防止剤、油性剤・摩擦調整剤、耐摩耗剤・極圧剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性剤、金属腐食防止剤、防錆剤、消泡剤などの公知の添加剤の1種又は2種以上を適宜配合することも可能である。かかる添加剤の配合量は、所定の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、好ましく適用される添加量(潤滑油組成物全重量に対する重量%)を上記各添加剤の具体例と共に示す。
【0049】
アミン系以外の酸化防止剤としてはフェノール系、リン系及び硫黄系の酸化防止剤が挙げられる。フェノール系としては、2,6−ジ−t−ブチルパラクレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−t−ブチルフェノール)等が例示される。リン系としては、ジ−t−ブチルフェニルホスファイト、トリフェニルホスフォロチオネート、アルキル化トリフェニルホスフォロチオネート等が例示される。硫黄系としては、フェノチアジン、硫化油脂、硫化オレフィン、ジベンジルジサルファイド、ジセチルサルファイド等が例示される。これらの添加量としては、0.1〜5重量%が挙げられる。
【0050】
油性剤・摩擦調整剤としてはステアリン酸、オレイン酸等の脂肪族モノカルボン酸類、セバシン酸、ドデカン−2−酸等の脂肪族二塩基酸類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、オレイルアミン等のアミン類、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン類が例示され、その添加量としては0.1〜5.0重量%が挙げられる。
【0051】
耐摩耗剤・極圧剤としては、オレフィンポリサルファイド、硫化油脂、ジアルキルポリサルファイド等の有機硫黄系、塩素化パラフィン、アルキル及びアリール亜りん酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛系、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛系、長鎖脂肪酸系の化合物が例示され、その添加量としては0.05〜10重量%が挙げられる。
【0052】
金属系清浄剤としては金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート、金属フェネート、過塩基性金属フェネート、金属ホスホネート、サリシレート、カルボキシレート等が例示され、その添加量としては0.1〜10重量%が挙げられる。
【0053】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート系、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン−プロピレンコポリマー系、スチレン−ブタジエンコポリマー系、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系の化合物が例示され、その添加量としては1〜20重量%が挙げられる。
【0054】
流動点降下剤としてはポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテートなどが例示され、その添加量としては0.1〜1重量%が挙げられる。
【0055】
本発明に用いる金属不活性剤としては、アルキル置換基を有していてもよいベンゾトリアゾール、テトラヒドロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、2,5−ビス(n−ドデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール等のチアジアゾール系の化合物が挙げられ、ベンゾトリアゾールが特に好ましい。添加量としては0.01〜0.4重量%が挙げられる。
【0056】
防錆剤としては、スルフォン酸塩系、カルボン酸系、有機アミン石けん系、ソルビタン部分エステル系の化合物が例示され、その添加量としては0.05〜3重量%が挙げられる。
【0057】
消泡剤としては、ポリジメチルシリコーン等のシリコーン系化合物が例示され、その添加量としては1〜100ppmが挙げられる。
【0058】
本発明に係わる潤滑油組成物は酸化安定性が良好で耐摩耗性にも優れるため、高温使用の用途に適し、特に、チェーン用潤滑油などへの利用が有効である。
【0059】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。各種エステル又は潤滑油組成物の性能については以下の方法により評価した。
【0060】
[動粘度]
ウベローデ粘度計を用いてJIS K 2283に準拠して測定を行った。
【0061】
[流動点]
JIS K 2269に準拠して測定を行った。
【0062】
[酸化安定性試験]
内径33mm、高さ85mmのガラス製試験管に試料油0.1gと鋼、アルミ、銅の針金をそれぞれ2mmの長さに切ったものを入れて共栓の蓋をし、蓋が開かないように止め金を付けた。その試験管をオーブンに入れ、218℃で48時間加熱した。試験後の試料油の酸価を測定して、酸化試験前の酸価との比較を行い、酸価の上昇値を測定した。更に、試験後の試料油にn−ヘキサン(10ml)を加えて希釈し、不溶部分をタール(重量%)とした。酸価上昇値が小さいものほど、又、タールの生成量が少ないものほど酸化安定性が良好であると判定する。
【0063】
[耐揮発性試験]
内径60mm、高さ4mmのアルミ皿に試料油1.0gを入れ、230℃のオーブン内で5時間加熱する。試験後の重量を試験前と比較し、その揮発減量(%)を測定した。揮発減量が少ないものほど耐揮発性が良好であると判定する。
【0064】
[分散安定性]
固体分散剤を分散させた後、静置して7日間放置する。7日後の状態を目視することにより分散安定性を評価した。
◎:分散性非常に良好
○:分散性良好
【0065】
製造例
表1に記載の芳香族カルボン酸成分及び一価アルコールを用いてエステルA〜Eを合成した。各々のエステルの動粘度、粘度指数及び流動点を第1表に示す。
【0066】
【0067】
実施例1
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油Aを得た。本試作油Aに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0068】
【0069】
実施例2
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油Bを得た。本試作油Bに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0070】
実施例3
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油Cを得た。本試作油Cに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0071】
実施例4
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油Dを得た。本試作油Dに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0072】
実施例5
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油Eを得た。本試作油Eに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0073】
比較例1
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油aを得た。本比較油aに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0074】
比較例2
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油bを得た。本比較油bに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0075】
比較例3
下記の成分をメジアミルで分散させ試作油cを得た。本比較油cに対し、酸化安定性、耐揮発性及び分散安定性を評価した。結果を第2表に示す。
【0076】
比較例4
下記の成分を混合し試作油dを得た。本試作油dに対し、酸化安定性及び耐揮発性を評価した。結果を第2表に示す。
【0077】
上記の実施例及び比較例から明らかなように本エステル、アミン系酸化防止剤及び固体潤滑剤からなるチェーン用潤滑油組成物は高温での熱安定性が優れており、又、分散安定性も良好であることから、高性能のチェーン用潤滑油を提供できることが明らかとなった。特に比較例4で、固体潤滑剤を用いず調製したチェーン油では、実施例1と比べて耐揮発性が悪く、固体潤滑剤の重要性を示している。一方、比較例1では基油としてエステルD(ポリオールエステル)を用い、実施例1と同一の添加剤及び固体潤滑剤を混合・分散させたものであるが熱安定性が大きく劣る。比較例2は3,5,5−トリメチルヘキサノール以外の一価アルコールを成分とする芳香族エステルを使用した場合であるが、熱安定性の面で大きく劣る。
【0078】
【発明の効果】
本発明に係るチェーン用潤滑油組成物は、高温での熱安定性に優れ、耐揮発性も良好である。そのため、200℃以上の高温にさらされる条件下においても十分にチェーン用潤滑剤としての機能を発揮することができ、給油の低減、焼付きの防止に高い効果を発揮する。
Claims (7)
- 1種又は2種以上の芳香族カルボン酸と、3,5,5−トリメチルヘキサノールを50モル%以上含有する炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールとを完全にエステル化して得られる芳香族カルボン酸エステルを含む基油に、潤滑油組成物全重量に対し、1種又は2種以上のアミン系酸化防止剤を0.1〜5重量%、及び固体潤滑剤である窒化ホウ素を0.01〜20重量%を分散せしめたことを特徴とするチェーン用潤滑油組成物。
- 1種又は2種以上の芳香族カルボン酸が、トリメリット酸、トリメシン酸及びピロメリット酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載のチェーン用潤滑油組成物。
- 炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールが、3,5,5−トリメチルヘキサノール単独である請求項2に記載のチェーン用潤滑油組成物。
- アミン系酸化防止剤が、N−フェニル−α−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミンの群から選ばれる1種若しくは2種以上である請求項1〜3のいずれかの請求項に記載のチェーン用潤滑油組成物。
- 固体潤滑剤の平均粒子径が、0.01〜10μmである請求項1〜4のいずれかの請求項に記載のチェーン用潤滑油組成物。
- 固体潤滑剤を分散せしめるに際し、分散剤及び/又は分散安定剤を、潤滑油組成物全重量に対し0.01〜5重量%使用して固体潤滑剤を分散せしめることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項に記載のチェーン用潤滑油組成物。
- 更に、1種又は2種以上のリン酸エステルを、潤滑油組成物全重量に対し0.1〜10重量%配合する、請求項1〜6のいずれかの請求項に記載のチェーン用潤滑油組成物。
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