JP3991263B2 - リチウム二次電池用電解質材料およびそれを用いたリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用電解質材料およびそれを用いたリチウム二次電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオンの吸蔵・脱離現象を利用したリチウム二次電池に用いられる電解質材料、およびそれを用いたリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムの吸蔵・脱離現象を利用したリチウム二次電池は、高エネルギー密度であることから、携帯電話、パソコン等の小型化に伴い、通信機器、情報関連機器の分野で広く普及するに至っている。また、自動車の分野においても、資源問題、環境問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、リチウム二次電池が検討されている。
【0003】
現在実用化されているリチウム二次電池は、一般に、正極活物質にリチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極と、負極活物質に炭素材料等を用いた負極と、電解質材料を有機溶媒に溶解した非水系の電解液とから構成されており、4V級の高い電圧を有するものが主流をなしている。そして、上記電解液を構成する電解質材料には、有機溶媒に溶解してリチウムイオンを生じるものとして、LiBF4、LiPF6、LiClO4等が多く用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
通常、リチウム二次電池において、電解液は電極を含浸させる程度のごく少量しか用いられない。よって、使用後のリチウム二次電池を処理する際に、電解液を回収することは困難である。したがって、リチウム二次電池の使用後は、電解液はセパレータ等の他の構成部材とともに焼却処理されると考えられる。
【0005】
現在用いられているLiBF4等の電解質材料には、フッ素や塩素等のハロゲン元素が含まれている。そのため、上記電解質材料を含んだ電解液を焼却処理した場合には、ダイオキシンが発生するおそれがあり、環境汚染が問題となる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、環境への負荷が少ないリチウム二次電池用電解質材料を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のリチウム二次電池用電解質材料は、一般式
【0008】
【化5】
Figure 0003991263
【0009】
で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含むことを特徴とする。上記式(1)で示されるように、リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートには、ハロゲン元素が含まれていない。このように、非ハロゲン系のほう素系リチウム塩を電解質材料とすることで、電池を使用した後に焼却処理された場合であっても、ダイオキシンの発生は少ない。つまり、環境負荷が小さくなる。
【0010】
一方、本発明者は、ベンゼン環における共鳴効果(M−効果)や、共鳴効果による電子移動効果(E−効果)に着目し、これらの効果を利用すれば、より安定で、かつリチウムイオンの解離度が大きな電解質材料を得ることができるという知見を得た。すなわち、上記リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートのほう素に配位させた二つのジカルボン酸に着目すると、ジカルボン酸はそれぞれ環状に配位している。また、各々のジカルボン酸のカルボキシル基における炭素に結合する二つの炭素は二重結合で結合している。したがって、上記リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートにおけるアニオンは、この二重結合による共鳴効果により安定化される。また、炭素の二重結合の存在により、ほう素原子の電子が吸引される。電子が吸引されると、ほう素原子は電子欠乏状態になる。ほう素原子が電子欠乏状態になるほど、リチウム原子から電子を受け取り易くなるため、リチウムイオンの解離度は大きくなる。
【0011】
このように、本発明のリチウム二次電池用電解質材料は、環境への負荷が少ないことに加え、電解質能の高い材料となる。また、本発明のリチウム二次電池用電解質材料を有機溶媒に溶解して電解液とすることで、環境負荷が小さく、電気伝導率の高い電解液を構成することができる。
【0012】
本発明のリチウム二次電池は、正極と、負極と、電解質材料を有機溶媒に溶解した電解液とを備えたリチウム二次電池であって、前記電解質材料が上記式(1)で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含むことを特徴とする。すなわち、上記本発明の電解質材料を含んで構成することにより、本発明のリチウム二次電池は、環境負荷が小さく、電池性能の良好なリチウム二次電池となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のリチウム二次電池用電解質材料、それを用いたリチウム二次電池用電解液およびリチウム二次電池について詳しく説明する。なお、説明する実施形態は一実施形態にすぎず、本発明のリチウム二次電池用電解質材料、それを用いたリチウム二次電池用電解液およびリチウム二次電池は、下記の実施形態に限定されるものではない。下記実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0014】
〈リチウム二次電池用電解質材料〉
本発明のリチウム二次電池用電解質材料は、上記式(1)で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含む。上記式(1)に示すように、ほう素に配位させた各々のジカルボン酸のカルボキシル基における炭素に結合する二つの炭素が二重結合で結合しているものであれば、その種類が特に限定されるものではない。例えば、式
【0015】
【化6】
Figure 0003991263
【0016】
で示されるリチウムビス(シトラコン酸)ボーレート、式
【0017】
【化7】
Figure 0003991263
【0018】
で示されるリチウムビス(マレイン酸)ボーレート、リチウムビス(シス1,2ジメチルエチレン1,2ジカルボン酸)ボーレート、リチウムビス(シス1,2ジエチル1,2ジカルボン酸)ボーレート、リチウムビス(シス1エチルエチレン1,2ジカルボン酸)ボーレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、二種以上のものを併用することもできる。なかでも、リチウム二次電池の電解液として一般的に用いられているエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に溶解し易いという観点から、リチウムビス(シトラコン酸)ボーレートやリチウムビス(マレイン酸)ボーレートを用いることが望ましい。
【0019】
上記リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートは、その製造方法が特に限定されるものではない。本発明者は鋭意研究を重ね、リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートの簡便かつ高収率な合成方法を確立するに至った。以下、リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートの製造方法を説明する。
【0020】
本製造方法は、リチウムテトラアルコキシボーレートを含む第一原料を準備する第一原料準備工程と、所定のジカルボン酸を含む第二原料を準備する第二原料準備工程と、第一原料と第二原料とを反応させ、リチウムテトラアルコキシボーレートのアルコキシ基とジカルボン酸とを交換させることによりリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを合成する合成工程とを含んで構成される。
【0021】
第一原料として用いられるリチウムテトラアルコキシボーレート(LiB(OR)4)は、そのアルコキシ基(−OR)が特に限定されるものではない。電子供与性ら低く、後述する交換反応が進行し易いという理由から、アルコキシ基はメトキシ基であることが望ましい。例えば、リチウムテトラメトキシボーレート(LiB(OCH34)を用いると好適である。また、第一原料は、リチウムテトラアルコキシボーレートを含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、リチウムテトラアルコキシボーレートを所定の溶媒に加えて、リチウムテトラアルコキシボーレート液として準備することができる。この場合、溶媒は、リチウムテトラアルコキシボーレートと第二原料として用いるジカルボン酸との少なくとも一方が溶解するものであることが望ましい。特に、第二原料として用いるジカルボン酸が容易に溶解し、リチウム二次電池用電解液における有機溶媒として用いることが可能であることからエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとをそれぞれ混合して用いると好適である。溶媒量は、特に限定されるものではなく、0.2molのリチウムテトラアルコキシボーレートに対して、100〜200mL程度とすればよい。
【0022】
リチウムテトラアルコキシボーレートのアルコキシ基と交換するジカルボン酸は、目的とするリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートに応じて適宜選択すればよい。例えば、リチウムビス(シトラコン酸)ボーレートを合成する場合には、ジカルボン酸としてシトラコン酸を用いればよい。また、リチウムビス(マレイン酸)ボーレートを合成する場合には、ジカルボン酸としてマレイン酸を用いればよい。第二原料は、上記ジカルボン酸を含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ジカルボン酸を所定の溶媒に加えて、ジカルボン酸液として準備することができる。この場合、用いる溶媒は上記同様、特に限定されるものではなく、上述した理由から、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとをそれぞれ混合して用いることができる。なお、溶媒量は、0.4molのジカルボン酸に対して、100〜200mL程度とすればよい。
【0023】
第一原料と第二原料との反応は、準備した両原料を混合すればよい。第一原料と第二原料との混合比は、リチウムテトラアルコキシボーレート1当量に対して、ジカルボン酸が2当量となるように混合すればよい。また、上記反応は、反応条件を特に限定するものではない。反応を促進させるため、例えば、加熱下等において還流を行い、蒸留、抽出等により副生成物の除去等を行えばよい。さらに、反応生成物を真空乾燥等により精製することが望ましい。
【0024】
〈リチウム二次電池用電解液〉
本発明のリチウム二次電池用電解液は、上記本発明の電解質材料を有機溶媒に溶解させたものである。なお、上記電解質材料の他にラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤等を添加して電解液としてもよい。電解液中の電解質材料濃度は、イオン伝導度を高くするという理由から、0.5M以上1.5M以下とすることが望ましい。電解質材料の濃度が0.5M未満の場合には、イオン伝導率が小さく、充分な容量を得ることができないからであり、また、1.5Mを超えると電解液の粘度が高くなるためにイオン伝導率が小さくなるからである。
【0025】
上記電解質材料を溶解させる有機溶媒には、水素イオンを供与する能力のない非プロトン性の有機溶媒を用いる。例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ホスファゼン化合物、あるいはリン酸化合物等の一種を単独で、または二種以上を混合して用いることができる。環状カーボネートの例示としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が、鎖状カーボネートの例示としてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が、環状エステルの例示としてはγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等が、環状エーテルの例示としてはテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が、鎖状エーテルの例示としてはジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等が、ホスファゼン化合物の例示としてはヘキサエトキシトリシクロホスファゼン、トリプロポキシホスファゾホスホニルジプロポキシド等が、リン酸化合物の例としてはリン酸トリオクチル、リン酸トリブチル等がそれぞれ挙げられる。これらのもののうちいずれか一種を単独で用いることも、また二種以上を混合させて用いることもできる。
【0026】
また、有機溶媒には、電解質材料におけるリチウムイオンの解離を助長するために高誘電率であって、かつリチウムイオンの移動を妨げないために低粘度であることが要求される。しかし、高誘電率かつ低粘度という両特性を備えた好適な有機溶媒はないため、高誘電率の有機溶媒と低粘度の有機溶媒とを混合して用いることが一般的である。例えば、高誘電率溶媒としてエチレンカーボネートを、低粘度溶媒としてジエチルカーボネートをそれぞれ混合して用いることが望ましい。これらを混合して用いることにより高い電気伝導度を得ることができる。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合比は、体積比で8:2〜2:8の範囲とすることが望ましい。エチレンカーボネートの混合割合が小さくなると、電解質材料におけるリチウムイオンの解離が充分行われず、リチウムイオンの伝導度は低下していく。一方、ジエチルカーボネートの混合割合が小さくなると、電解液の粘度が上昇し、やはりリチウムイオンの伝導度は低下していく。また、エチレンカーボネートは、常温では固体であるため、エチレンカーボネートの混合割合が大きいと電池内で固化するおそれもある。これらを考慮し、電池反応をよりスムーズに進行させるためには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合比は、体積比で7:3〜3:7の範囲とすることが望ましく、5:5とするとより好適である。
【0027】
〈リチウム二次電池〉
本発明のリチウム二次電池は、上記電解質材料を有機溶媒に溶解した電解液を備えた二次電池であり、電解質材料を除いて、他の構成要素は特に限定するものではなく、既に存在する通常のリチウム二次電池に従えばよい。以下、各構成要素ごとに説明する。
【0028】
正極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる正極活物質に導電材および結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、アルミニウム等の金属箔製の集電体表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。この場合の塗布、乾燥、プレス等は通常の方法に従えばよい。
【0029】
正極活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、4V級の二次電池を構成できるという観点から、基本組成をLiCoO2、LiNiO2とする層状岩塩構造のリチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物、あるいは基本組成をLiMn24とするスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物等を用いることが望ましい。これらのリチウム遷移金属複合酸化物のうち一種類のものを単独で、また、二種類以上のものを混合して用いることも可能である。
【0030】
特に、LiCoO2より低価格であり、容量の大きな二次電池を構成できるという点において、基本組成をLiNiO2とする層状岩塩構造のリチウムニッケル複合酸化物を用いることが望ましい。なお、基本組成とは、上記各複合酸化物の代表的な組成という意味であり、上記組成式で表されるものの他、例えば、リチウムサイトや遷移金属サイトをAl、Fe等の他の一種または二種以上の元素で一部交換したもの等の組成をも含む。また、必ずしも化学量論組成のものに限定されるわけではなく、例えば、製造上不可避的に生じるリチウムや遷移金属等の陽イオン原子が欠損した、あるいは酸素原子が欠損した非化学量論組成のもの等をも含む。
【0031】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素物質粉状体の一種又は二種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、活物質粒子および導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。これら活物質、導電材、結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0032】
正極に対向させる負極は、負極活物質である金属リチウムを、シート状にして、あるいはシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成することができる。負極活物質には金属リチウムに代え、リチウム合金、またはリチウム化合物をも用いることができる。
【0033】
また、負極のもう一つの形態として、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵・脱離できる炭素物質を用いて負極を構成させることもできる。使用できる炭素物質としては、天然黒鉛、球状あるいは繊維状の人造黒鉛等の黒鉛質材料や、コークス等の易黒鉛化性炭素、フェノール樹脂焼成体等の難黒鉛化性炭素等の炭素質材料が挙げられる。この場合は、負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶媒を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、その後にプレスして形成することができる。この場合の塗布、乾燥、プレス等も通常の方法に従えばよい。炭素物質を負極活物質とした場合、正極同様、負極結着剤としてはポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等を、溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0034】
正極および負極に挟装させるセパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0035】
以上の構成要素によって構成されるリチウム二次電池であるが、その形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を集電用リード等を用いて接続し、電極体に上記本発明の電解質材料を含む電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、リチウム二次電池を完成する。
【0036】
【実施例】
上記実施形態に基づいて、リチウムビス(シトラコン酸)ボーレート、リチウムビス(マレイン酸)ボーレートをそれぞれ電解質材料として、リチウム二次電池を二種類作製した。また、比較例として、リチウムビス(コハク酸)ボーレートを電解質材料としてリチウム二次電池を作製した。そして、各々のリチウム二次電池について充放電特性を評価した。以下、各電解質材料の合成、リチウム二次電池の作製、充放電特性の評価について順に説明する。
【0037】
〈電解質材料の合成〉
(1)実施例1:リチウムビス(シトラコン酸)ボーレートの合成
リチウムテトラメトキシボーレートから、リチウムビス(シトラコン酸)ボーレートを合成した。リチウムテトラメトキシボーレート(LiB(OCH3 4 )の28.6g(0.2mol相当)と、シトラコン酸(HOOC(H3C)C=CHCOOH)の53.3g(0.4mol相当)とを、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(200mL)に加えた。なお、混合溶媒におけるエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合比は、体積比で1:1とした。その後、90〜100℃の温度で還流を22時間行った。反応終了後、減圧蒸留により混合溶媒の除去を行い、濃茶色の固体物質を得た。この固体物質を100℃で24時間真空乾燥した。元素分析および赤外線吸収スペクトル法による測定の結果より、本固体物質がリチウムビス(シトラコン酸)ボーレートであることが確認された。なお、以下に説明するリチウム二次電池を作製する際には、上記合成における還流の後に混合溶媒の除去を行わず、反応溶液をそのまま電解液として使用した。
【0038】
(2)実施例2:リチウムビス(マレイン酸)ボーレートの合成
リチウムテトラメトキシボーレートから、リチウムビス(マレイン酸)ボーレートを合成した。上記(1)の合成方法において、シトラコン酸に代えてマレイン酸(HOOCHC=CHCOOH)を46.4g(0.4mol)使用した以外は、上記(1)と同様に合成した。なお、上記同様、リチウム二次電池を作製する際には、還流の後に混合溶媒の除去を行わず、反応溶液をそのまま電解液として使用した。
【0039】
(3)比較例:リチウムビス(コハク酸)ボーレートの合成
リチウムテトラメトキシボーレートから、式
【0040】
【化8】
Figure 0003991263
【0041】
で示されるリチウムビス(コハク酸)ボーレートを合成した。上記(1)の合成方法において、シトラコン酸に代えてコハク酸(HOOC(CH22COOH)を47.2g(0.4mol)使用した以外は、上記(1)と同様に合成した。なお、上記同様、リチウム二次電池を作製する際には、還流の後に混合溶媒の除去を行わず、反応溶液をそのまま電解液として使用した。
【0042】
〈リチウム二次電池の作製〉
上記各電解質材料を用いて、つまり、上記各電解質材料の合成における反応後の反応溶液をそのまま電解液として使用して、リチウム二次電池を三種類作製した。各リチウム二次電池において、電解質材料以外の構成要素は全て同じとした。
【0043】
正極は、まず、活物質となるLiNiO2の85重量部に、導電材としての人造黒鉛粉末を10重量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを5重量部混合し、溶剤として適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加し、ペースト状の正極合材を調製した。次いで、このペースト状の正極合材を、ロールコータを用いて、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮し、シート状の正極を作製した。なお、このシート状の正極は54mm×450mmの大きさに裁断して用いた。
【0044】
対向させる負極は、人造黒鉛を活物質として用いた。負極活物質となる人造黒鉛粉末の95重量部に、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを5重量部混合し、溶剤として適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加し、ペースト状の負極合材を調製した。次いで、このペースト状の負極合材を、ロールコータを用いて、厚さ10μmの銅箔集電体の両面に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮し、シート状の負極を作製した。なお、このシート状の負極は56mm×500mmの大きさに裁断して用いた。
【0045】
上記正極および各負極を、それらの間に厚さ25μm、幅58mmのポリエチレン製セパレータを挟んで捲回し、ロール状の電極体を形成した。そして、その電極体を18650型円筒形電池ケース(外径18mmφ、長さ65mm)に挿設し、上記各電解液を注入し、電池ケースを密閉して円筒型リチウム二次電池を作製した。このように作製した二次電池を、各々の電解質材料により、実施例1、2および比較例のリチウム二次電池とした。
【0046】
〈充放電特性の評価〉
上記実施例1、2および比較例の各二次電池について充放電を行って、各二次電池の充放電特性を評価した。充放電は、20℃下、0.02C相当の電流密度の定電流で充電上限電圧4.1Vまで充電を行った後、0.02C相当の電流密度の定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行うものとした。なお、各二次電池の基準容量を1時間で放電する際の電流密度(1時間率放電における電流密度)が1Cである。各二次電池の充放電における電圧変化を図1に示す。
【0047】
図1から明らかなように、実施例1および実施例2の二次電池は、3〜4.1V付近まで充放電が可能であった。つまり、リチウムビス(シトラコン酸)ボーレートやリチウムビス(マレイン酸)ボーレートを電解質材料とした場合には、4V級の電池を構成することができることがわかる。このように、本発明の電解質材料は、優れた電解質能を有することが確認された。一方、比較例のリチウム二次電池は、充電を終了した際の電圧が3V以下であったため、放電することができなかった(図示せず)。つまり、二重結合で結合する炭素を有さないジカルボン酸がほう素に配位したリチウムビス(コハク酸)ボーレートは、電解質材料としては適さないことがわかった。
【0048】
【発明の効果】
本発明のリチウム二次電池用電解質材料は、上記式(1)で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含むものである。ハロゲン元素を含まないため環境負荷の小さな電解質材料となる。また、ほう素に配位させた二つのジカルボン酸が所定の構造を有しているため、リチウムイオンの解離度が大きく、かつ安定な電解質材料となる。このような電解質材料を用いることで、本発明のリチウム二次電池用電解液は、環境負荷が小さく電気伝導率の高い電解液となる。また、本発明のリチウム二次電池は、上記本発明の電解質材料を含んで構成されるため、環境負荷が小さく電池性能の良好なリチウム二次電池となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1および実施例2の各二次電池の充放電における電圧変化を示す。

Claims (5)

  1. 一般式
    Figure 0003991263
    で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含むリチウム二次電池用電解質材料。
  2. 前記リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートは、式
    Figure 0003991263
    で示されるリチウムビス(シトラコン酸)ボーレートである請求項1に記載のリチウム二次電池用電解質材料。
  3. 前記リチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートは、式
    Figure 0003991263
    で示されるリチウムビス(マレイン酸)ボーレートである請求項1に記載のリチウム二次電池用電解質材料。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のリチウム二次電池用電解質材料を有機溶媒に溶解したリチウム二次電池用電解液。
  5. 正極と、負極と、電解質材料を有機溶媒に溶解した電解液とを備えたリチウム二次電池であって、
    前記電解質材料は、一般式
    Figure 0003991263
    で示されるリチウムビス(ジカルボン酸)ボーレートを含むことを特徴とするリチウム二次電池。
JP2002070994A 2002-03-14 2002-03-14 リチウム二次電池用電解質材料およびそれを用いたリチウム二次電池 Expired - Fee Related JP3991263B2 (ja)

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