JP3986410B2 - セリウム系研摩材スラリーの製造方法及びそれにより得られたセリウム系研摩材スラリー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化セリウム粒子などの希土類元素化合物粒子を主成分とするセリウム系研摩材に関し、特に、ランタン化合物からなる粒子を含む研摩材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セリウム系研摩材(以下、単に研摩材とも称する)は、従来からガラス用研摩材として広く用いられているものである。そして、近年、電子材料用基板としてガラス基板が用いられるようになったことで、セリウム系研摩材は、ガラス基板の研摩にも用いられている。
【0003】
このガラス基板の研摩では、平面性などに関し、従来のガラス研摩に比べて、より精密な研摩が要求される。したがって、従来の研摩材をそのまま用いたのでは、この要求に対応できない場合がある。そこで、この要求に対応するために、ガラス基板研摩用の研摩材としては、従来よりも小粒径の研摩材が用いられる傾向にある(特許文献1参照)。ところが、小粒径の研摩材は、より精密な研摩を行う点では比較的適していると考えられるが、研摩力(研摩速度)が低いという問題がある。研摩力が低ければ必要な研摩効率を確保できない。
【0004】
そこで、研摩力を向上させるために、例えば研摩材にフッ素成分などを添加することがある(特許文献2参照)が、添加剤を用いると、使用済みの研摩材について添加成分を除去する後処理が必要性になるなど、取扱いが煩雑になるおそれがある。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−142840号公報
【特許文献2】
特開平9−183966号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、ガラス基板の研摩において要求される精密な研摩を行う際、高い研摩力で研摩できるセリウム系研摩材を提供すること、およびこのような研摩材の製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明の発明者らは、セリウム系研摩材の組成と研摩力との関係を検討した。その結果、ランタン成分を含んでいる研摩材は比較的高い研摩力を示す傾向にあることが解った。そして、ランタン成分を含む従来のセリウム系研摩材粒子は、セリウム、ランタン等の希土類元素の複合酸化物の凝集粒子であることが解った。そこで、発明者等は、粒子状態を変化させることで研摩特性を向上させることができるのではないかとの観点の下、ランタン成分を含む原料を用いて研摩材を製造する場合の研摩材製造条件について種々の検討を加えた。その結果、焙焼後の粉砕工程の条件を調節することで研摩材の研摩力を向上させることができることを見出した。そして、研摩力の向上が見られた研摩材を分析したところ、ランタン化合物からなる粒子を含有する研摩材であることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明は、セリウム化合物を主成分とする凝集粒子を研摩粒子として含むセリウム系研摩材において、ランタン化合物からなる粒子を含むことを特徴とするものである。
【0009】
従来のセリウム系研摩材は、上述したように、セリウムやランタン等の希土類元素の複合酸化物の凝集粒子であるが、本発明に係るセリウム系研摩材は、凝集粒子の他にランタン化合物からなる粒子を含むものである。凝集粒子の他にランタン化合物からなる粒子を含む状態とは、ランタン化合物からなる粒子が、凝集粒子の内部ではなく外側に、物理的に別の物質として存在する状態、あるいはランタン化合物からなる粒子が凝集粒子の外側の表面に付着している状態などである。ランタン化合物からなる粒子の形状としては、例えば粒状や、繊維状(ひげ状)を挙げることができる。
【0010】
このようなランタン化合物からなる粒子を含むセリウム系研摩材であれば、ガラス基板の研摩において要求される精密な研摩を行うために小粒径の研摩材を用いたとしても、高い研摩効率を確保できる。この理由は必ずしも明確ではないが、本願発明に係る研摩材においては、研摩材凝集粒子から独立して含有されるランタン化合物からなる粒子が研摩対象であるガラスと反応してガラス表面部分の構造を破壊し、これによりガラス表面部分の機械的強度が低下する結果として、研摩速度がより速くなると考えられる。この点、従来の研摩材においては、研摩材凝集粒子中にランタン成分が固溶体として含有されているため、上述したような効果を得ることはできないか極めて難しく、したがって研摩速度が速くならないと考えられる。このように、本発明に係る研摩材は、ガラスの精密研摩に好適な研摩材である。そして、仕上げ研摩等で用いられる研摩圧力が低い研摩方法用の研摩材として特に好適である。つまり、低研摩圧力であっても比較的高い研摩速度を確保できる。具体的には、研摩圧力が20kPa以下の研摩方法で用いる研摩材として好ましく、特に10kPa以下の研摩方法で用いる研摩材としてより好ましい。
【0011】
また、ランタン化合物からなる粒子を構成する物質は、必ずしも明確でないが、発明者らはランタン化合物は水酸化ランタンであるものと推測した。これは、焙焼により得られた原料(焙焼物)を湿式粉砕して研摩材を製造する場合に、湿式粉砕中のスラリーのpH値が上昇し、湿式粉砕工程を継続することでランタン化合物からなる粒子の量が増加することが解ったからである。また、生成されたランタン化合物について、示差熱天秤解析(室温からの昇温速度20℃/min)を行ったところ、300℃以上400℃以下程度温度域で、水酸化物の分解に伴う挙動と見られる吸熱反応および重量減少が生じたからである。従来の乾式粉砕法によって製造された研摩材ではこのような挙動はほとんど見られなかった。なお、本発明に係る研摩材を例えば300℃といった比較的低い温度でいわゆる再焙焼した研摩材について、同じ条件で示差熱天秤解析を行ったところ、上述のような挙動はほとんど見られなかった。また、従来の焙焼後の粉砕および分級工程を乾燥工程で処理して得られた研摩材、およびこのようにして得られた研摩材を同様に300℃で再焙焼した研摩材について示差熱天秤解析を行ったところ、上述のような挙動は全く見られなかった。
【0012】
そして、研摩材としては、ランタン化合物からなる粒子の少なくとも一部が析出過程を経て生成されるものが好ましい。凝集粒子中に含まれる成分が湿式粉砕工程を経て析出して得られるランタン化合物であると、研摩の際、ガラス表面部分の構造の破壊作用がより迅速に開始されると考えられるからである。析出過程を経て生成されるランタン化合物からなる粒子の代表的形状は、例えば、繊維状(ひげ状)である。そして、好ましい形態としては例えば単結晶を挙げることができる。したがって、より好ましいものとしてランタン化合物のウィスカー(繊維状単結晶)を挙げることができる。
【0013】
また、より精密な研摩を行うことができ、より研摩効率が高い研摩材とはいかなる研摩材について、さらに検討した。その結果、研摩材を構成する粒子の大きさが影響することが解った。具体的には、ランタン化合物からなる粒子の大きさが凝集粒子の平均粒径以下であるセリウム系研摩材は、ガラス基板を精密に、しかも高い研摩効率で研摩するものであり、好ましいことが解った。
【0014】
凝集粒子の平均粒径より大きいとランタン化合物からなる粒子の数が少な過ぎて、ランタン化合物が研摩対象面全体に均等に行き渡らず、研摩対象面全面を均等に精密研摩することが難しくなり、結果として必要な研摩速度を確保することが難しくなるからであると考えられる。ランタン化合物からなる粒子は、粒状、繊維状、針状等の細長形状など、種々の形状を取り得るが、その大きさを例えば次のようにして定めることができる。粒状のランタン化合物の場合、その長手寸法が「DL」、長手方向と直交する方向の寸法(短手寸法)が「DS」であれば、ランタン化合物の大きさ(粒径)「D」はD=(DL+DS)/2であるとすることができる。また、繊維状など細長形状の場合、その繊維の太さ(短手寸法)をランタン化合物の大きさとすることができる。また、粒状であるか細長形状であるか判別が難しい場合があるが、本発明に係るランタン化合物からなる粒子は微小なものであり、短手寸法をランタン化合物からなる粒子の大きさとして統一的に取扱ってもよい。
【0015】
凝集粒子の平均粒径は、用途等により種々の大きさを取り得るが、例えば仕上げ研摩などで要求される精密研摩では、0.1μm以上、3.0μm以下のものが好ましい。凝集粒子の平均粒径が0.1μmより小さくては、ランタン化合物からなる粒子が含有されているとしも、研摩材に十分な研摩力を与えることができず、必要な研摩速度を確保できないからである。その一方で、平均粒径が3.0μmより大きいのでは、ランタン化合物からなる粒子が含有されているとしても、精密な研摩を行うことが難しくなるからである。
【0016】
なお、ランタン化合物からなる粒子の大きさの下限値は、上限値に比べて問題になることはない。例えば、0.1μmより小さいものが含まれていてもよい。ただし、湿式粉砕装置を用いてランタン化合物からなる粒子を含有する研摩材を製造する場合、生産効率および研摩速度の観点から0.01μm以上の粒径のものが好ましい。つまり、具体的に好ましい範囲の一例を挙げると、ランタン化合物からなる粒子の大きさは0.001μm以上、3.0μm以下が好ましい。
【0017】
また、上述したセリウム系研摩材と共に、次のような研摩材の製造方法を想到するに至った。すなわち、焙焼工程によって得られる焙焼物を粉砕する工程を有するセリウム系研摩材の製造方法において、粉砕対象である前記焙焼物は、ランタン酸化物を含むものであり、焙焼物を粉砕する工程は、湿式粉砕であることを特徴とするものである。
【0018】
従来のセリウム系研摩材の製造方法は、概略的には、バストネサイト精鉱や炭酸希土などの原料を粉砕する工程と、焙焼時の異常粒成長の原因となるナトリウム等のアルカリ金属を除去するために必要に応じて施される鉱酸処理やフッ素成分を添加するフッ素処理などが行われる化学処理工程と、焙焼工程と、当該焙焼によって得られる原料すなわち焙焼物を粉砕する工程と、必要に応じて行われる分級工程とからなる。
【0019】
このような製造方法では、焙焼工程後に、ランタン酸化物を含む凝集粒子(焙焼物)が生成される。焙焼段階では、原料中に含まれるセリウムおよびランタンは同じランタノイド元素として同様の挙動を示すため、両元素の酸化物が固溶した凝集粒子が生成されると考えられる。
【0020】
本発明に係る研摩材の製造方法では、焙焼工程によって得られた焙焼物である凝集粒子に対して湿式粉砕を施す。湿式粉砕を行うと、凝集粒子は、より小粒径の凝集粒子に粉砕される。さらに、湿式粉砕という条件下では、メカノケミカル反応によりランタン成分が凝集粒子中から流出して、凝集粒子の外側にランタン化合物からなる粒子が生成される。このように、本発明によれば、焙焼後に湿式粉砕を行うことによってランタン化合物からなる粒子を含有する研摩材を製造できる。生成されるランタン化合物からなる粒子は、先に説明した通りであり、例えばランタン化合物からなるウィスカーを挙げることができる。このようにして製造された研摩材は、既に説明したように、ガラスを精密研摩するのに好適であり、しかも高い研摩効率を確保できるので、ガラス基板を研摩に極めて好適である。
【0021】
ところで、焙焼物を粉砕する湿式粉砕工程について具体的に検討したところ、凝集粒子の外側にランタン化合物からなる粒子をより確実に生成させるには、粉砕効率はある程度高い方が望ましいことが解った。そこで、粉砕効率を向上させる方法を検討したところ、粉砕媒体として、平均直径が0.3mm以上で、かつ最終的に製造する研摩材の平均粒径の8000倍以下のものを用いるのが好ましいことが解った。このような平均直径の粉砕媒体を用いると、焙焼物を効率よく粉砕でき、そして確実にランタン化合物からなる粒子を生成できるからである。そして、より確実にランタン化合物からなる粒子を生成できるという点で、さらに検討したところ、粉砕媒体としては平均直径が目的粉砕物の平均粒径の3000倍以下のものがより好ましく、また粉砕媒体の種類としては、例えばステンレスボール(SUS304)や超硬鋼のような鉄を主成分とするもの、α−アルミナ、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素などからなる粉砕媒体、あるいはガラスビーズなどを使用できる。これらの粉砕媒体について、特に使い分けはないが、比較的比重が小さいガラスビーズのような粉砕媒体は、長い針状晶を有する研摩材(図2参照)を製造するための粉砕媒体に向いており、これ以外の比較的比重が大きい粉砕媒体は、短い針状晶を有する研摩材(図3参照)を製造するための粉砕媒体に向いているということができる。
【0022】
ところで、焙焼後の湿式粉砕工程において、ランタン化合物からなる粒子を生成させるには、湿式粉砕対象物である中間原料の組成比(La:Ce)は、モル比において、「1:9」から「7:3」の範囲であるのが特に好ましい。この範囲から外れるほどLa含有率が少ないと、湿式粉砕工程においてランタン化合物からなる粒子を生成しにくいからである。そして、このモル比の範囲から外れるほどLa含有率が高いと、ランタン化合物からなる粒子を容易に生成できるものの、セリウムの含有量が少なくなるため、特に低加圧下の研摩において低い研摩速度しか得られないからである。
【0023】
上記組成比の範囲は、フッ素含有率が比較的低い(3質量%以下)のセリウム系研摩材を製造する場合に好ましい条件である。ただし、検討の結果、フッ素含有率が高い場合はLaの含有率を比較的高くしなければ、焙焼後の湿式粉砕工程においてランタン化合物からなる粒子を生成できないことが解った。この点を考慮してさらに検討した結果、上記組成比の範囲は、フッ素含有率が1.0質量%以下のセリウム系研摩材を製造する場合に好ましい条件であるとするのがより好ましいことが解った。
【0024】
また、検討の結果、湿式粉砕工程で粉砕中のスラリーのpH値は8以上であるのが好ましいことが解った。湿式粉砕では、スラリーのpH値(特に粉砕終了時のpH値)が7以上であれば水酸化ランタンからなると推測されるランタン化合物からなる粒子を生成でき、pH値が8以上であれば確実に当該物質を生成できるからである。また、粉砕中のスラリーのpH値の上限値は、ランタン化合物からなる粒子を生成できれば特に限定されるものではないが、生産性等を考慮するとpH値は12以下が好ましく、11以下がより好ましい。つまり、精密な研摩ができる研摩材を製造するためには、粉砕中のスラリーのpH値は8以上、12以下が好ましく、8以上、11以下がより好ましい。なお、水酸化ランタンと推測される物質は析出により生成されると考えられる。析出させることで生成できれば、ランタン成分を含む原料を用いることで、ランタン成分を追加することなく、水酸化ランタンと推測される物質からなる粒子を含む研摩材を製造できるので、この点でも本発明に係る製造方法は好ましい。粉砕中のスラリーのpH値を上記範囲に収める方法としては、例えば、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、アンモニアなどのようなpH調整剤(pH緩衝溶液)等を添加する方法を挙げることができる。ただし、このようなpH調整材を添加すると、研摩材の研摩性能が低下するなどの添加剤が研摩材に悪影響を及ぼすおそれがある。また、湿式粉砕工程においてpH調整剤が添加されて得られたスラリーをそのままガラス研摩用途に用いると、これらのpH調整剤が研摩後のガラス表面を侵食するというような問題が生ずる可能性がある。そこで、湿式粉砕中のスラリーのpH値について鋭意検討したところ、中間原料(スラリーの固形分)の組成比(La:Ce)が湿式粉砕中のスラリーのpH値に大きく影響していることが解った。そして、検討の結果、中間原料の組成比(La:Ce)が上記「1:9」から「7:3」の範囲内の原料を用い、当該原料を適宜の温度で焙焼してあらかじめランタンとセリウムとの固溶体を得ておけば、湿式粉砕工程が進むにつれてスラリーのpH値が上記好適な範囲の値(例えば9以上12以下)になると共にランタンの水酸化物と考えられる針状晶が析出過程を経て生成され、特段のpH調整剤を添加しなくてもランタン化合物からなる粒子を含むセリウム系研摩材が得られ好ましいことが解った。なお、本発明に係る研摩材の製造方法にあっては、湿式粉砕工程後に得られるランタン化合物からなる粒子を含むセリウム系研摩材のスラリーを、そのままスラリー研摩材として研摩工程に使用することが可能であり、この場合、ガラス研摩材用として公知の分散剤、固化防止剤等の各種添加剤をこの湿式粉砕工程において添加してもよい。
【0025】
また、湿式粉砕より前に行われる焙焼によってランタンやセリウム等の希土類元素の複合酸化物の凝集粒子すなわちランタンやセリウム等の固溶体をあらかじめ得た後、当該固溶体(凝集粒子)を湿式粉砕してランタン化合物からなる粒子を含有する酸化セリウム系研摩材を製造する場合においては、湿式粉砕前の焙焼時における焙焼温度は500℃以上が好ましく、800℃以上、1200℃以下であることがより好ましい。500℃より低い温度ではランタンとセリウムの固溶体を生成できず、低圧力下でのガラス研摩に有効なセリウム化合物を主成分とする凝集粒子の焼結成長が進まなかったり、湿式粉砕工程において適度なランタン化合物からなる粒子の生成が困難になったりするからである。また、焙焼時間は0.5時間以上48時間以下の間で適宜選択できる。このような条件で焙焼を行うと、研摩材粒子の凝集粒子径等を調整して適度な研摩速度を有する研摩材粒子を得ることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るセリウム系研摩材およびその製造方法の好適な実施形態を説明する。
【0027】
まず、セリウム系研摩材原料として、TREO(全希土酸化物)の割合が50重量%であり、希土類元素としてCeを70mol%、Laを30mol%含有する希土類炭酸塩を用意した。そして、この原料と純水とを、質量比「1:2」の割合で混合してスラリーを調製し、ビーズミル(粉砕媒体は直径0.8mm)を用いて粉砕を行った。得られたスラリー中の粉砕粒子の平均粒径を、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2000A)を用いて測定したところ、平均粒径D50は1.5μmであった。このスラリーを濾過して得られた粉砕粒子を、120℃で24時間、静置乾燥させた。そして、乾燥後の粉砕粒子を電気炉を用いて1000℃で4時間焙焼を行い、希土類酸化物の粉末(焙焼物)を得た。そして、得られた粉末を室温になるまで放冷した。
【0028】
第1実施形態:本実施形態では、上述のようにして得られた希土類酸化物の粉末(焙焼物)と純水とを質量比「1:2」の割合で混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをガラス製の粉砕媒体を入れたペイントシェーカー(粉砕媒体の直径は0.8mm)によって再び粉砕し、5時間後にスラリー状の研摩材を得た。粉砕終了後に測定した研摩材粒子の平均粒径D50は0.53μmであった。なお、粉砕開始時のスラリーのpH値は7.3であり、粉砕終了時のスラリーのpH値は9.5であった。pHの測定法は、「JIS K 5101」に準じ、粉砕スラリーを静置して得られた上澄みをpHメーターで測定することにより行った。
【0029】
粒子状態の観察:焙焼物に対する湿式粉砕では、粉砕開始直前および各回の粉砕後に、スラリーのサンプルを分取し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて研摩材粒子の状態を観察した。観察した状態を図1および図2に示す。
【0030】
図1および図2を比較すると解るように、粉砕を行うと、粉砕対象であるスラリー中に繊維状(ひげ状)の物質が析出した。そこで、得られた研摩材中の繊維状物質の大きさを測定したところ、直径が約5.0nm〜20nm、長さが約50nm〜400nmであった。また、粉砕媒体だけをジルコニア製(粉砕媒体の直径は2.0mm)に変えて第1実施形態と同様の条件で粉砕を行ったところ、図3に示されるような比較的短い針状晶のランタン化合物からなる粒子が得られた。
【0031】
また、TEMの電子線を絞って、図2に示される繊維状物質部分に照射してエネルギー分散法(EDS)による定量分析を行った。その結果を図4に示す。図示されるように、繊維状物質部分にはCeは含有されておらず、含まれる希土類元素はLaだけであった。この結果、繊維状部分は水酸化ランタンの結晶(ウィスカー)であると同定されることが解った。なお、分析結果中にCu,Si,P等の存在を示すピークが現れているが、これは粉砕媒体における異物混入等のコンタミネ−ションや試料台、試料作成方法の影響である。
【0032】
比較例1:本比較例は従来の研摩材を製造した例である。具体的には、まず、先に説明した手順で得られた希土類酸化物の粉末(焙焼物)をサンプルミル(不二パウダル社製)にて粉砕した。その後、風力分級機(ターボプレックス、ホソカワミクロン社製)にて分級(分級点5μm)を行い、粉末状のセリウム系研摩材を得た。得られた研摩材粒子の平均粒径D50は0.76μmであった。
【0033】
得られた比較例1の研摩材について、透過型電子顕微鏡を用いて研摩材の粒子状態を観察し(図5参照)、EDSによる元素の定量分析を行った(図6参照)。その結果、図5に示されるように、比較例1により得られた研摩材では、第1実施形態で確認された針状結晶は見られなかった。そして、図6に示されるように、EDSによる元素の定量分析によっても、希土類元素としてランタン(La)だけを含む物質は検出されず、水酸化ランタンであると同定される物質の存在は確認されなかった。
【0034】
また、第1実施形態および比較例1において得られた研摩材を用いて研摩試験を行い、研摩材の性能(研摩力、傷)を評価した。以下に、研摩試験と評価の方法を説明し、その後に評価結果を示す(表1参照)。
【0035】
研摩試験:研摩材粉末をスラリー化した研摩材スラリーを用いてガラス面を研摩する試験を行い、研摩値の測定および被研摩面の評価(傷の評価)を行った。研摩試験では、高速研摩試験機を用い、65mmφの平面パネル用ガラスの表面(被研摩面)をポリウレタン製の研摩パッドを用いて研摩した。用いた研摩材スラリーの固形分の濃度は10重量%であった。これを5リットル/分の割合で供給しながら研摩を行った。研摩面に対する研摩パッドの圧力は、19.6kPa(200g/cm2)とし、より傷がつきやすい条件を選んだ。また、研摩試験機の回転速度を100rpmに設定した。そして、研摩終了後、ガラス材料を純水で洗浄し無塵状態で乾燥させた。
【0036】
研摩値の評価:研摩前後のガラス重量を測定して研摩によるガラス重量の減少量を求め、この値に基づき研摩値を求めた。ここでは、比較例1によって得られた研摩材を用いて研摩した場合の研摩値を基準(100)とした。
【0037】
傷の評価:研摩により得られたガラス表面(被研摩面)の状態を評価したものである。ガラス表面の傷の有無を基準として傷の評価を行った。具体的には、研摩後のガラスの表面に30万ルクスのハロゲンランプを照射し、反射法にてガラス表面を観察して、大きな傷および微細な傷の数を点数化し、100点満点からの減点方式にて評価点を定めた。具体的には表1中、「98」点以上はHD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に非常に好適であることを、そして、「90」点未満はHD用・LCD用ガラス基板の仕上げ研摩に使用できないことを示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示される結果から解るように、ランタン化合物からなる粒子を含む研摩材(第1実施形態)は、比較例の研摩材と比べて著しく研摩値が高く、高い研摩力を有していることが解った。また、実施形態の研摩材を用いると研摩傷がほとんど生ずることがなく、良好な研摩面が得られ、したがって精密な研摩に好適であることが解った。
【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る研摩材によれば、精密な研摩を確保しつつ高い研摩力で研摩することができる。また、本発明に係る研摩材の製造方法によれば、精密な研摩を行うことができ、かつ高い研摩力を備えるセリウム系研摩材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施形態における湿式粉砕前の焙焼物を示す写真。
【図2】 第1実施形態においてガラス製の粉砕媒体を用いた場合の湿式粉砕終了後の粉砕物を示す写真。
【図3】 第1実施形態においてジルコニア製の粉砕媒体を用いた場合の湿式粉砕終了後の粉砕物を示す写真。
【図4】 図2に表されるランタン化合物に相当する繊維状部分に対して行ったEDSによる定量分析の結果を示すグラフ。
【図5】 比較例1の乾式粉砕終了後の粉砕物を示す写真。
【図6】 比較例1により得られた研摩材に対して行ったEDSによる定量分析の結果を示すグラフ。
Claims (2)
- 焙焼工程によって得られる焙焼物を粉砕する工程を有する、セリウム化合物を主成分とする凝集粒子を研摩粒子として含むセリウム系研摩材スラリーの製造方法において、
粉砕対象である焙焼物は、ランタン酸化物を含み、該焙焼物のランタンとセリウムとの組成比がモル比で「1:9」から「7:3」の範囲とし、
焙焼物を粉砕する工程は、純水と該焙焼物とからなるスラリーに粉砕媒体を投入し、粉砕中のスラリーpH値が8〜11となるように湿式粉砕を行うことより、前記凝集粒子の外側に結晶性の水酸化ランタンからなるランタン化合物の粒子を形成させたことを特徴とするセリウム系研摩材スラリーの製造方法。 - 請求項1に記載の製造方法により得られたセリウム系研摩材スラリーであって、
凝集粒子の平均粒径は、0.1μm以上、3.0μm以下であり、
ランタン化合物からなる粒子の大きさが、凝集粒子の平均粒径以下であるセリウム系研摩材スラリー。
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