JP3985018B2 - リグノフェノール誘導体およびリグニン由来陽イオン交換剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水溶液中の陽イオンと交換する酸性基をもつ陽イオン交換剤等として利用できるリグノフェノール誘導体およびリグニン由来陽イオン交換剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
陽イオン交換剤はその分子中の固体表面にカルボキシル基(-COOH)やスルホ基(-SO3H)等を有して、水溶液中にH+を放出する代わりに水溶液中に存在する陽イオンと交換する。従来、陽イオン交換剤は母体の殆どが石油系合成樹脂からなる高分子重合体で、廃棄処理が難しくなっている。これに限らず、石油依存社会への反省から、化学工業原料として再生産可能なバイオマスに関心が高まっている。
しかしながら、例えば木材は構造及び性質の異なる炭水化物とリグニンからなっていることから、原料として有効利用するには両者を分離しなければならない。成分分離手法としてオルガノソルブ法、ソルボリシス法あるいは前処理として爆砕法、オートハイドロリシス法などがこれまで提案されてきた。しかし、これらの方法は天然の状態に近いリグニンが得られるものの、高エネルギーを要し、しかも分離は完全には進行しない欠点があった。成分分離という観点からだけを捉えれば、完璧かつ安価で技術的にもほぼ確立されているが、リグニン成分の不活性化を伴っていた。こうしたなか、リグニン成分の有効利用が充分にできていない問題をもつ濃硫酸処理に対しては、発明者舩岡氏によってリグニンの良溶媒であるクレゾールを利用することによりリグニンの不活性化を抑える方法が提案された(特許第2895087号)。その後、舩岡氏は特開2001−261839において、使用するリグニン誘導体の有機溶剤使用量を削減する3つの方法を開示した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記方法は、いずれも環境に負担の大きいアセトンと大過剰のエチルエーテルを使用しなければならず、この方法を採用した場合の陽イオン交換剤は高コストを招く虞れがあった。他にこれまでリグニン系陽イオン交換剤としてカルボキシアルキル化リグニンからなる金属キレート剤等(例えば特許文献1参照。)が提案されているが、その製品はコスト高になっていた。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−49223号
【0005】
本発明は上記問題点を解決するもので、天然物由来のリグニンを原料に用い、アセトン等の有機溶媒も使用しない環境配慮形で、比較的簡単な製法にして低コスト化が図れ、優れた吸着能をもつリグノフェノール誘導体およびリグニン由来陽イオン交換剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、請求項1の発明の要旨はフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、セルロース成分が溶解した酸の相から相分離してリグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相へ、過剰の水を加えて不溶区分として回収される粗リグノフェノール誘導体に、塩の水溶液を加えてなる懸濁液から固液分離して得られたものであることを特徴とするリグノフェノール誘導体にある。請求項2の発明は、請求項1で、前記塩がアルカリ金属塩の中性塩又は塩化アンモニウムであることを特徴とする。請求項3の発明の要旨は、請求項1又は2のリグノフェノール誘導体が主構成要素になることを特徴とするリグニン由来陽イオン交換剤にある。請求項4の発明の要旨は、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、リグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相をセルロース成分が溶解した酸の相から相分離した後、この相分離したリグノフェノール誘導体相に過剰の水を加えて不溶区分の粗リグノフェノール誘導体を回収し、次いで、該粗リグノフェノール誘導体に塩の水溶液を加え、その後、固液分離によりリグノフェノール誘導体を分離することを特徴とするリグノフェノール誘導体の製造方法にある。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るリグノフェノール誘導体およびその製造方法とリグニン由来陽イオン交換剤について詳述する。図1はリグノフェノール誘導体のアセトンに対する溶解性の反応予想図、図2は本発明のリグノフェノール誘導体の製造方法を示し、同図左側に表示する特開2001−261839で第3の方法(本願では以下「ProcessII stepII」という。)の反応、すなわち従来法と対比表示したものである。不溶区分の粗リグノフェノール誘導体(以下、「粗リグニン」という。)を造るところまで同じになっている。図3は陽イオン吸着試験結果図、図4は陽イオン交換機構図を示す。
【0008】
(1)参考形態
本参考形態は、粗リグニンに、所定濃度の酸化防止剤を加え、さらに所定濃度のアルカリを加えて反応させて得られる懸濁液から固液分離されてなるリグノフェノール誘導体に関し、その製造方法(以下、「参考法1」という。)と共に説明する。
粗リグニンは、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、その後、過剰の水を加えて不溶区分として分離する。詳しくは、特開2001-261839にあるProcessII stepIIの方法の記載と同様、「木粉等のリグノセルロース系材料にフェノール誘導体が溶解した溶媒を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール誘導体の収着工程)。次に、このリグノセルロース系材料に酸を混合しセルロース分を酸に溶解」させる。リグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相はセルロース成分が溶解した酸の相から相分離される。その後、この相分離した反応液に過剰の水を加えて不溶区分を遠心分離により回収して粗リグニンを得る。
【0009】
前記リグノセルロース系材料とはリグニンとセルロースを含有する針葉樹,広葉樹などの植物で、例えば木材,木片,木粉、木質材料としての合板,集成材,パーティクルボード等、さらにそれらの廃材がある。また各種草本植物、農産廃棄物等も該当する。
前記フェノール誘導体は、特開2001-261839,特開2001-131201,特開平9-278904号等に記載のフェノール誘導体と同様に、1価のフェノール誘導体,2価のフェノール誘導体,3価のフェノール誘導体などを用いることができる。具体的には、フロログルシノール・ヒドロキシヒドロキノン・ピロガロール等の三価体、カテコール・レゾルシノール・ハイドロキノン等の二価体、フェノールなどを挙げることができる。リグノセルロース系材料がフェノール誘導体により合成されるリグノフェノール誘導体が疎水性の反応なので一価のフェノールをフェノール誘導体として使用するのが好ましく、コスト,安定性,取り扱い易さ等を鑑みればクレゾールがより好ましい。なお、フェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は限定されない。
前記酸とはセルロースに対して膨潤性を有する酸で、65重量%以上の硫酸(例えば、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、38重量%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。
【0010】
粗リグニンを得たら、参考法1は次に粗リグニンに所定濃度の酸化防止剤を加える。その後、粗リグニンに酸化防止剤が添加,混合されてなる処理材とアルカリ溶液と混合させる。そして、所定時間反応させて懸濁液(スラリー液,ペースト状体を含む。)とした後、固液分離によって固形粒子たる所望のリグノフェノール誘導体を分離する。
参考法1は酸化防止剤の導入後にアルカリを入れるのがポイントである。アルカリだけを導入した場合には酸化され溶解してしまう。またリグニンの直鎖を断絶する虞れがある。斯る不具合を抑えるべく酸化防止剤を導入し、その後、アルカリ溶液と混合する手順を経ることによって不溶物のリグノフェノール誘導体を得る。例えばアルカリが水酸化ナトリウムであった場合のナトリウムフェノキシドは水溶性であるが、リグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基の水素がナトリウムに置き換わった場合には、直鎖状にフェニルプロパンが配置しており高分子状であることから水溶性にはならないと考えられる。
【0011】
前記アルカリ溶液のアルカリには水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化ルビジウム,水酸化セシウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,水酸化ストロンチウム,水酸化バリウム等のアルカリ金属,アルカリ土類金属の水酸化物が可能である。前記処理材とアルカリ溶液とを混合し反応させるが、アルカリ水溶液とする水系の反応が望ましい。危険性や水への溶解度,反応効率等を鑑みれば水酸化ナトリウム,水酸化カリウムが好ましい。
【0012】
かくして、粗リグニンに所定濃度の酸化防止剤を加えてなる処理材に、アルカリ溶液を加え反応させた懸濁液から固液分離で懸濁固体粒子を分離してリグノフェノール誘導体を得る。リグノフェノール誘導体がアルカリ溶液に溶解しないよう予め粗リグノフェノール誘導体を酸化防止剤に反応させ保護しておいてから、アルカリ水溶液に反応させれば、粗リグニンに含まれる不純物はアルカリ溶液に溶解するので、その後、固液分離することによって精製された所望のリグノフェノール誘導体が得られる。粗リグニンで大半を占めるリグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基の水素がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属原子に置き換わったリグノフェノール誘導体ができる。このリグノフェノール誘導体は陽イオン交換剤として活用でき、リグニン由来陽イオン交換剤になる。
【0013】
前記酸化防止剤にはフェノール誘導体・芳香族アミン・ホスホン酸エステルなどが用いられる。具体的には亜硫酸ナトリウム,次亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩,イソケルセチン,EDTA-Ca・Na,EDTA-Na,NDGA,エリソルビン酸,オリザノール,グアヤク脂,クエン酸エステル,セザモール,トコフェノール,BHA,BHT,没食子酸,ルチン等がある。なお、無機系の酸化防止剤はリグノクレゾールの活性基を保護する能力が低く、有機系のものがより好ましい。酸化防止剤に用いるフェノール誘導体としては粗リグニンを造る段階でリグノセルロース系材料に添加されるフェノール誘導体と同様のものを用いることができ、フロログルシノール・ヒドロキシヒドロキノン・ピロガロール等の三価体、カテコール・レゾルシノール・ハイドロキノン等の二価体、フェノールなどを挙げることができる。フェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は限定されない。さらに、酸化防止剤の処理とアルカリ処理は水系の反応であるので、反応効率を鑑みれば酸化防止剤は水溶性であるのが好ましく、フェノール誘導体に関していえば前記リグノセルロース系材料に添加されるフェノール誘導体とは異なり、3価のフェノールが好適となる。水に対する溶解度という点を鑑みれば、フロログルシノール・ヒドロキシヒドロキノン・ピロガロール・カテコール・レゾルシノールがより好ましい。その他、水溶性の酸化防止剤で好ましい例としてエリソルビン酸等を挙げることができる。また、酸化防止剤と共にアスコルビン酸,クエン酸,リン酸等の補助剤を加えると、これらの補助剤が酸化防止剤と共存させることにより効力を強め、また酸化防止剤の使用量を減らすことができより好適となる。
【0014】
前記酸化防止剤とアルカリの濃度について好ましい範囲は、共に0.1N〜2Nで、より好ましくは0.1N〜1Nである。0.1Nよりも少ない場合は色差計結果での変化が少ないことや、精製の効果が薄れる一方、1N以上ではProcessII stepIIと色が変わらなくなり、保護するのに充分な量になっているからである。またその後の遠心分離による中和操作を行う手間を軽減化できるからである。酸化防止剤の量はアルカリの量と同じかそれ以上にするのが好ましい。ピロガロールやピロカテコール等の酸化防止剤の量が水酸化ナトリウム等のアルカリの量よりも低い場合には、収率が下がり、縮合による変性が進む傾向が見られるからである。
【0015】
・参考例1
次に、リグニン由来陽イオン交換剤となるリグノフェノール誘導体の製造方法の一例を示す。
1)粗リグニン
まず、図2中の不溶区分(*)たる粗リグニンまでの反応は公知で、その不溶区分を次のようにして得た。アセトンで脱脂したヒノキ木粉にリグニンC9単位あたり2mol倍量のp-クレゾールを溶解したアセトン溶液を木粉が浸るまで加えた。良く攪拌した後、一晩静置した。翌日、ろ過によりp-クレゾールアセトン溶液を除去したのち、木粉を攪拌しながら完全に留去した。ここに72%の硫酸を加え、1時間激しく攪拌したのち、大過剰の水に投入し、反応を停止させた。スターラーで十分攪拌したあと不溶区分を沈殿させた。不溶区分を遠心分離にて回収し、pH6付近まで繰り返し洗浄後、40℃で送風乾燥させて粗リグニンとした。
【0016】
2)リグノフェノール誘導体(リグニン由来陽イオン交換剤)
前記1)で得た粗リグニン10gと0.1Nから2Nのピロガロール100mlを300mlの共栓つき三角フラスコに入れ、5分間攪拌した。次いで、ピロガロールと同様の規定度に調整した水酸化ナトリウム溶液を100ml入れてさらに30分攪拌した。攪拌後、遠心分離機を用い水洗を繰り返し行いアルカリ分を洗い流す。その後40℃の送風乾燥機に入れ一晩放置し、リグニン由来陽イオン交換剤となるリグノフェノール誘導体を得た。
【0017】
こうして得たリグノフェノール誘導体(リグニン由来陽イオン交換剤)は有機溶媒に対する溶解性において特許第2895087号のものと異なりほとんど溶解しないことが分かった。アセトンに溶解しなくなった理由について鋭意研究を進めた結果、フェノールがアセトンに溶けるが、ナトリウムフェノキシドは溶けないのと同じで、ピロガロールと水酸化ナトリウムとの反応により上記特許でリグノフェノール誘導体の特徴である活性の高いフェノール性水酸基が反応し、ナトリウムフェノキシドの形になっているからと考えられる(図1)。実際、前記参考例1で得られたリグノフェノール誘導体にナトリウムが導入されていることが明らかになった(表1)。
【0018】
【表1】
【0019】
表1は蛍光X線装置による分析結果である。同表で、簡易精製とあるのは参考法1により得られたリグノフェノール誘導体を意味し、括弧内はピロガロール,NaOHの濃度を示す。粗リグニンは、Na濃度が0.05%と非常に低い値であり、ナトリウムは粗リグニンの時点では入っていなく、ピロガロールと水酸化ナトリウムの反応で導入された。ナトリウム濃度が高いほど導入量が大きくなること、その濃度は1N程度で十分であることも分かった。
【0020】
ところで、Adams及びHolmesはフェノール系化合物のホルマリン縮合物がその酸性基において陽イオンの交換を行うことを発表している(Adams,B.A.,Holmes,E.L.:J.Soc.chem.Ind.,54,1T(1935))。また樹皮の水抽出成分の一つであるタンニンは、重金属に対する吸着性能を持つという研究成果も報告されている。そこで、粗リグニン、参考法1のピロガロール1N-水酸化ナトリウム1N反応物、従来法(processIIstepII)、従来法のアセトン抽出残さについてそれらの金属吸着性能を調べた。
測定方法は以下の通りである。Al、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、As、Cd、La、Hg、Pbの原子吸光用標準試薬を各2ppmの濃度になるように調整した混合溶液50mlとそれぞれのサンプル1gを100mlの三角フラスコに入れる。30分攪拌し、0.45μmのPTFEメンブランフィルターでろ過したものを適宜希釈して0.1NのHNO3溶液に調整したものを高周波誘導結合プラズマ質量分析装置ICP-MS 分析装置(inductively coupled plasma-mass spectrometry)で測定した。
測定結果を図3に示す。水洗済み粗リグニン(水洗済)と参考法1(簡易精製)は非常に良く吸着した。一方、従来法とアセトン残さについては、全般的にあまり良い結果が得られなかった。
リグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基の水素がナトリウム等のアルカリに置き換わることによって、金属の陽イオンとの交換が非常に大きく発現すると推定される。市販イオン交換樹脂でも難しいヒ素と水銀を除き、良好な結果が得られていることから、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の幅広い陽イオンに対し充分利用できることが明らかとなった。
なお、粗リグニンの吸着能力が高いが、これは基本的な陽イオン交換樹脂としての構造がその精製段階で出来上がっているからである。ただ、粗リグニンはフェノール性水酸基が殆どOHの形で存在し、他の陽イオンが吸着したときに水素イオンを放出することとなってpHが低下する問題があり、イオン交換剤として参考法1に比し劣る。また、図3で従来法の吸着能力が著しく低いのは、構造が同じでも、製造で使うジエチルエーテルの撥水性が水系反応である陽イオンの交換を妨げているのではないかと思われる。
【0021】
(2)実施形態2
本実施形態は、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合した後、過剰の水を加えて分離された不溶区分の粗リグニンに、所定濃度の塩が加えられてなる懸濁液から固液分離されて得られたリグノフェノール誘導体およびリグニン由来陽イオン交換剤に関する。その製造方法(以下、「本法2」という。)と共に説明する。図2に本法2の製法フローを示す。粗リグニンを得る工程までは、前記参考形態と同じでその説明を省く。
【0022】
前記粗リグニンを得たら、本製法は次に粗リグニンに所定濃度の塩を加える。ここでは塩に塩化ナトリウムを用いた。その後、塩を加えてできた懸濁液を固液分離し、固形粒子のリグニン由来陽イオン交換剤となる所望のリグノフェノール誘導体を得た。
【0023】
ここで、フェノールは前記参考形態のごとく水酸化ナトリウムと反応し、ナトリウムフェノキシドとなるが(モリソンボイド有機化学(中)第5版p.1249東京化学同人)、リグニンの高活性なフェノール性水酸基が、反応条件として温和で低コストの塩化ナトリウム水溶液により進行すればコストダウンと環境負荷低減につながる。こうした考えのもとに実験を試みたところ、参考形態のごとくアルカリを使用しなくともナトリウムが粗リグニンのリグノフェノール誘導体に導入されることが判った。中性塩であれば、リグニンの主鎖を切断しないので、リグニンの直鎖が保護されより一層好ましくなる。
【0024】
塩に関しては前記塩化ナトリウムに限らず、KCl,Na2SO4,(NH4)3PO4等の酸と塩基の中和によって生じる塩であればいかなるものでもよい。NaCl等の正塩の他、NaHCO3等の酸性塩やMgCl(OH)等の塩基性塩を用いることもできる。また単塩の他、KMgCl3等の複塩や錯イオンを含む錯塩を用いることができる。ただ、リグニン直鎖の保護、さらに危険性やコスト、水への溶解度,反応効率等を鑑みれば塩化ナトリウム,塩化カリウム等のアルカリ金属塩の中性塩が好ましい。
【0025】
かくして、不溶区分の前記粗リグニンに所定濃度の塩が加えられてなる懸濁液から固液分離されて本発明の固形リグノフェノール誘導体が得られ、粗リグニンの大半を占めるリグノフェノール誘導体に係るフェノール性水酸基の水素がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素、又はアンモニウムイオンに置き換わったリグノフェノール誘導体ができる。前記水素がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属原子、又はアンモニウムイオンに置換されたリグノフェノール誘導体は陽イオン交換剤として活用できる。該リグノフェノール誘導体を主構成要素とするリグニン由来陽イオン交換剤は後述するように種々の重金属に対し吸着能力を示す。
【0026】
・実施例2
次に、本法2の実施例を次に示す。
[実施例2−1]
前記参考例1の1)で得られた粗リグニン10gと1Nから5NのNaCl水溶液100mlを300mlの共栓つき三角フラスコに入れ、30分間攪拌した。攪拌後、遠心分離機を用い水洗を繰り返し行い、反応に関与しなかったNaCl分及びナトリウムイオンと交換に溶出した水素イオンを洗い流す。その後、40℃の送風乾燥機に入れ、一晩放置し、リグニン由来陽イオン交換剤となるリグノフェノール誘導体を得た。
[実施例2−2]
参考例1と同じく段落[0015]の1)で得られた粗リグニン10gとKCl、KNO3またはNH4CL水溶液100mlを300mlの共栓つき三角フラスコに入れ、30分間攪拌した。攪拌後、遠心分離機を用い水洗を繰り返し行い、反応に関与しなかったKCl、KNO3、NH4CL分及びカリウムイオン、アンモニウムイオンと交換に溶出した水素イオンを洗い流す。その後、40℃の送風乾燥機に入れ、一晩放置し、リグニン由来陽イオン交換剤となるリグノフェノール誘導体を得た。
【0027】
こうして得た本法2のリグノフェノール誘導体(前記実施例2−1)について、蛍光X線によるNa量を分析し、参考法1のものと比較した結果を表2に示す。併せて同表にCdに対する吸着実験結果を示した。表2中、ピロガロール 1N, NaOH 1N,NaCL 1Nの量は各100mlとし、ピロガロールなし表示は水100ml注入し、ピロガロール表示箇所で「−」はピロガロールのみならず水もなしを示す。
【0028】
【表2】
【0029】
Cdの残存量は、以下の手法にしたがい測定した。5ppmのCdイオンを含む溶液とそれぞれの反応物0.1gを100mlの三角フラスコに入れ、30分間攪拌後、0.45μmのPTFEメンブランフィルターでろ過した溶液を、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置ICP-MS (inductively coupled plasma-mass spectrometry)で測定した結果である。参考法1でNaOH 1Nを100ml入れる代わりにNaClを100ml入れたものでもNaが2.05%導入され、アルカリを使用しなくてもナトリウムは、粗リグニンのなかのリグノフェノール誘導体に導入されることが分かった。これは高いフェノール性水酸基による反応性が高いことを表している。遠心分離によるアルカリ除去工程がなくなり、大幅なコストダウンと時間短縮できる。さらに、ピロガロールを入れなかったものでもNaはリグノフェノール誘導体に導入された。これによりNaOHの系では必要であった酸化防止剤(ピロガロール)も必要でなくなり、さらなるコストダウンが見込めることになる。
また、水の量を減らせないか検討するのに、水100mlを入れなかったもの、さらに塩の量と濃度を1NのNaCl100mlから2NのNaCl50mlに代えたものを比較したところ、粗リグニン10gと1NのNaCl100mlを300mlの三角フラスコに入れ攪拌した場合には、Na濃度が1.94%に上昇した。しかし、2NのNaCl50mlにした場合では攪拌が難しくなり、Na導入率は1.52%と低下したので、これ以上水の量を減らすのは難しいと思われる。Cdの吸着能力は参考法1の7.795ppbを超えるものはなかったが、本法2は参考法1を改良するものとして極めて満足する結果が得られた。
【0030】
(3)吸着試験と再生試験
表3は、参考法1の簡易精製リグノクレゾールを用いてAgの吸着を行い、Agの吸着とNaの脱着の量関係から反応モデルについて考察した実験結果である。
【0031】
【表3】
【0032】
簡易精製リグニン(1Nピロガロール、1NNaOH使用)30gと2g/LのAgNO3水溶液を3Lの三角フラスコに入れ1時間攪拌し、ろ過した時のろ液のICP-MSによるAgおよびNaの濃度結果である。簡易精製リグノクレゾール30gあたり吸着した銀のモル数は9.92mmol、脱着したナトリウムのモル数は9.25mmolであり、ほぼ1:1の交換であることが分かった。このことを踏まえたモデルを図4に示す。AgやCd等の金属陽イオンが近づくとナトリウムフェノキシド上のナトリウム原子と交換する反応が起こるため、陽イオンが吸着すると考えられる。ここではイオン交換樹脂の反応(A)とキレート形成が起きる反応(B)の両方が起きていると思われる。
強酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換性はH+<Na+<NH4+<K+<<Mg2+<Ca2+ であり、弱酸性陽イオン交換樹脂は、Na+<K+<Mg2+<Ca2+ <H+ であるが、NaClにより容易にH+型からNa+に換わることからこのOH型のイオン交換樹脂は強酸性イオン交換樹脂と同じ挙動を示す。
本発明のリグノフェノール誘導体からなるリグニン由来陽イオン交換剤は、リグノクレゾール誘導体(粗リグニン)のフェノール性水酸基にNa+、K+、H+、NH4+イオンを導入することにより、金属イオン交換能力をもった吸着剤になる。
【0033】
表4は再生処理についてのデータであり、Agが吸着することによってNaの濃度が0.29%に減少している。これは、図4の内容が正しいことを補足している。
【0034】
【表4】
【0035】
また、表4でAgが吸着した試料に対し、参考法1のピロガロールとNaOHによる反応を行ったところ、Naは1.81%に上昇した。これは、Agが吸着した試料が再びNaと置き換わり再生されていることを示す。この数値は、一度1NのHNO3で洗浄し、H型にしてからピロガロールとNaOHによる反応を行った1.73%を上回った。通常の陽イオン交換樹脂の再生では酸洗いを行ってからNaを導入しているが、リグニン由来陽イオン交換剤の場合は、直接簡易精製で済むため通常よりもコストを下げて再生が可能であることが明らかとなった。
【0036】
次に、通常強酸性陽イオン交換樹脂は、H型またはNa型で市販されているが、Na以外の塩でも導入することができるのか検討した。その結果を表5に示す。
【0037】
【表5】
【0038】
ここでは、KCl、KNO3、NH4Clについて検討した。KCl、KNO3については蛍光X線分析によりリグノフェノール誘導体へのカリウムの導入が確認され、これらの塩溶液でもフェノール性水酸基が反応することが分かり、いずれのサンプルもNaClを導入したときと同等の吸着性能を示した。さらに、他の中性塩,塩基性塩,錯塩等の塩溶液についても、フェノール性水酸基が反応し、前記NaClを導入したときとほぼ同等の吸着性能を示した。
【0039】
一般的に陽イオン交換能力は、陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity)で表される。表6にその実験結果を示す。
【0040】
【表6】
【0041】
Na濃度が同じ場合、ピロガロールと水酸化ナトリウムの系の方が、塩化ナトリウムだけの系よりも若干能力が低かった。また、塩化ナトリウム1N、2N、5NおよびKNO3、NH4Clで比較した場合、ほとんど変わらなかった。これは、陽イオン交換容量CEC (cation exchange capacity)の測定が一度全て塩酸によりフェノール性水酸基に置き換えてから、塩化ナトリウムと反応させているので、フェノール性水酸基の数は、粗リグニンのフェノールの時点で決まっているからであろうと考えられる。
【0042】
(4)効果
このように構成されたリグノフェノール誘導体及びその製造方法によれば、従来法に比べて比較的簡単に製造でき低コスト化が図れる。特に本法2の製法によって得られるリグノフェノール誘導体は塩を使用することによって大幅なコスト低減を図ることができる。加えて、本発明の製法はアセトン等の有機溶媒も使用しない環境配慮形で、取扱い,安全性にも優れたものとなっている。
【0043】
また本発明のリグノフェノール誘導体はそのまま又はこれを主構成要素とするリグニン由来陽イオン交換剤に利用できる。リグノフェノール誘導体がもつフェノール性水酸基の独特の高いフェノール活性を活かし、水中に含まれる金属イオンを効率良く除去する。本発明のリグニン由来陽イオン交換剤は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の幅広い陽イオンに対し交換能力を有し、且つ再生可能で有益なものになる。
さらにこのリグニン由来陽イオン交換剤の製品は、天然物由来のリグニンを原料に用いていることから、従来の石油合成高分子のものに比べ生分解性機能をもつ環境に優しい循環型の陽イオン交換剤となり極めて有益となる。
【0044】
尚、本発明においては、前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更した実施形態とすることができる。
【0045】
【発明の効果】
以上ごとく本発明のリグノフェノール誘導体およびリグニン由来陽イオン交換剤は、比較的簡単な製法にして低コスト化が図れ、且つその製造過程でアセトン等の有機溶媒を使用しない環境配慮形になっている他、原料も天然物由来のリグニンを用いていることから、リグニン由来陽イオン交換剤の製品にした場合など、従来の石油高分子系陽イオン交換剤に比べ生分解性に優れる環境循環形製品となり、さらに種々の陽イオンに対し優れた吸着能をもつなど極めて有益なものになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るリグノフェノール誘導体のアセトンに対する溶解性の反応予想図である。
【図2】 本発明のリグノフェノール誘導体の製造方法を従来法のProcessII stepIIの反応と対比表示したフロー図である。
【図3】 陽イオン吸着試験結果図である。
【図4】 陽イオン交換機構図である。
Claims (4)
- フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、セルロース成分が溶解した酸の相から相分離してリグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相へ、過剰の水を加えて不溶区分として回収される粗リグノフェノール誘導体に、塩の水溶液を加えてなる懸濁液から固液分離して得られたものであることを特徴とするリグノフェノール誘導体。
- 前記塩がアルカリ金属塩の中性塩又は塩化アンモニウムである請求項1記載のリグノフェノール誘導体。
- 請求項1又は2のリグノフェノール誘導体が主構成要素になることを特徴とするリグニン由来陽イオン交換剤。
- フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、リグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相をセルロース成分が溶解した酸の相から相分離した後、この相分離したリグノフェノール誘導体相に過剰の水を加えて不溶区分の粗リグノフェノール誘導体を回収し、次いで、該粗リグノフェノール誘導体に塩の水溶液を加え、その後、固液分離によりリグノフェノール誘導体を分離することを特徴とするリグノフェノール誘導体の製造方法。
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