JP3983677B2 - 樹脂含浸剤及びそれを用いた樹脂含浸加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は鋳造品、燒結金属、セラミックス等の内部に空隙を有する材料に対して、その空隙を充填又は封孔するために用いられる樹脂含浸剤及び樹脂含浸加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋳造品、燒結金属、セラミックス等の材料は、内部に多くの微細な空隙を有している。このような材料を、内部に気体や液体といった流体を収容又は流通させる目的で自動車部品、ガス器具部品、ポンプ部品用等に使用する場合は、必要に応じて含浸加工が行われる。含浸加工に用いられる含浸剤としては、無機系の水ガラスが古くから用いられてきた。しかし、封孔効果への信頼性、生産性の観点から、近年は樹脂含浸剤の使用が増加している。
【0003】
樹脂含浸剤を使用した含浸加工では、通常、真空含浸の後、多孔質体の表面に付着した余分な樹脂含浸剤を水洗により除去する水洗工程が必要である。この水洗工程で洗浄廃水が発生する。含浸加工においても、洗浄廃水の低減が、処理コストの低減とともに環境への負荷の低減の観点から求められている。
【0004】
一方、水洗工程で水溶化もしくはエマルジョン化して洗浄廃水中に溶け込む樹脂含浸剤は、油水分離又は熱重合により水から分離されているが、焼却処分されているのが現状である。そのため、洗浄廃水から樹脂含浸剤を分離回収して再利用することが、含浸加工コストの低減及び省資源の観点から求められている。そこで、例えば、水より低比重の水不溶性モノマーを含む樹脂含浸剤、及びその樹脂含浸剤を洗浄廃水から回収、処理する方法(例えば、特許文献1参照。)、透明な処理水を得る洗浄廃水処理方法(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】
特開平4―154822号公報
【特許文献2】
特開平7―24458号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の水洗工程で洗浄廃水から樹脂含浸剤を分離回収する方法では、水溶性モノマーは回収できないという問題があるため、水不溶性モノマーと水溶性モノマーからなる樹脂含浸剤では、分離回収した樹脂含浸剤の組成が変化し、硬化性能が低下するので、成分調整をしないと再利用することができない。また、水不溶性モノマーのみからなる樹脂含浸剤は水洗性が悪く、組み立て加工を行なう多孔質体の場合、余分な樹脂含浸剤が多孔質体の表面のみならずネジ孔に残り、硬化処理後にネジ孔の閉塞を起こすといった問題がある。
また、透明な処理水を得る洗浄廃水処理方法では、濾過により除去される含浸剤の回収、再使用を目的としていない。
【0007】
そこで、本発明は、硬化性能を損なうことなく洗浄廃水から分離回収でき、成分調整なしに再使用でき、水洗工程における水洗性に優れ、更に、樹脂含浸剤と同時に分離回収された処理水も水洗水として再使用することができ、水洗工程で排出される洗浄廃水量を低減することができる樹脂含浸剤、及びそれを用いた樹脂含浸加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の樹脂含浸剤は、下記式(1)
【化6】
(R1は炭素数4〜6の直鎖又は分枝アルキレン基)
で表されるヒドロキシアルキルメタクリレートと、下記式(2)
【化7】
(R2は水素原子又はCH3、R3は炭素数4〜18の直鎖、分枝又は環式アルキル基)
で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、非水溶性架橋剤と、非水溶性アゾ系重合開始剤と、0.5〜5質量%の水分とを含むことを特徴とする。
また、上記式(1)で表されるヒドロキシアルキルメタクリレートが、ヒドロキシブチルメタクリレートであることが好ましい。
また、上記非水溶性架橋剤が、下記式(3)
【化8】
(R4は水素原子又はCH3、R5は炭素数4〜10の直鎖又は分枝アルキレン基)
で表されるジ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
また、上記非水溶性アゾ系重合開始剤が、下記式(4)
【化9】
(R6は炭素数2〜4のアルキル基)
及び、下記式(5)
【化10】
(R7は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基)
で表されるアゾ系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
また、上記非水溶性アゾ系重合開始剤が、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び/又はジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートであることが好ましい。
また、本発明の樹脂含浸剤は、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含有することが好ましい。
【0009】
本発明の樹脂含浸加工方法は、樹脂含浸剤を多孔質体に含浸する含浸工程と、多孔質体の表面に付着した余分な樹脂含浸剤を水洗槽で除去する水洗工程とを有し、水洗工程で水洗槽に浮上した樹脂含浸剤を分離回収することを特徴とする。
また、分離回収された樹脂含浸剤を含浸工程で使用することが好ましい。
また、上記水洗工程で使用される水洗水が、リン酸基を有するアニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
また、上記含浸工程において、樹脂含浸剤を含浸槽に投入する直前に、樹脂含浸剤の構成成分であるヒドロキシアルキルメタクリレートと、アルキル(メタ)アクリレートと、非水溶性架橋剤との混合物に、非水溶性アゾ系重合開始剤を添加、溶解することが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の樹脂含浸剤に含有される下記式(1)
【化11】
(R1は炭素数4〜6の直鎖又は分枝アルキレン基)
で表されるヒドロキシアルキルメタクリレートの具体例としては、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート等が挙げられる。特に、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシブチルメタクリレートが好ましい。R1の炭素数が3以下の場合、水への溶解度が大きくなるため、後段で説明する水洗工程にて分離回収するのが困難となる。また、R1の炭素数が7以上の場合、水洗工程での樹脂含浸剤の水洗性が低下する。
本発明の樹脂含浸剤に含有されるヒドロキシアルキルメタクリレートは、水洗工程での樹脂含浸剤中への分離回収が容易なことから、樹脂含浸剤の組成変化が小さく、良好な封孔効果が期待できる。
【0011】
本発明の樹脂含浸剤に含有される下記式(2)
【化12】
(R2は水素原子又はCH3、R3は炭素数4〜18の直鎖、分枝又は環式アルキル基)
で表されるアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、R3の炭素数が12及び13であるアルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分枝アルキル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の環式アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは必要に応じ2種以上を組み合わせても良い。
【0012】
本発明の樹脂含浸剤に含有される非水溶性架橋剤の具体例としては、下記式(3)
【化13】
(R4は水素原子又はCH3、R5は炭素数4〜10の直鎖又は分枝アルキレン基)で表される1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じ2種以上を組み合わせても良い。樹脂含浸剤に架橋剤を含有させることにより良好な封孔効果が期待できるが、架橋剤として、このような非水溶性架橋剤を採用することにより、水洗水から分離回収した処理水の安定性が改良される。
【0013】
本発明の樹脂含浸剤に含有される非水溶性アゾ系重合開始剤としては、下記式(4)
【化14】
(R6は炭素数2〜4のアルキル基)
及び、下記式(5)
【化15】
(R7は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基)
で表される非水溶性アゾ系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。
式(4)で表される非水溶性アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。式(5)で表される非水溶性アゾ系重合開始剤の具体例としては、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等が挙げられる。重合反応性及び保存安定性の観点から、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び/又はジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートが好ましい。
また、本発明の目的を妨げない範囲において、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル等の高温分解型のアゾ系重合開始剤を適宜使用することができる。
【0014】
本発明の樹脂含浸剤は、樹脂含浸剤全量を100質量%としたときの含有水分量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする。含有水分量が0.5質量%未満の場合、樹脂含浸剤(原液)と分離回収した樹脂含浸剤との硬化性に違いが生じ、5.0質量%を超えると、樹脂含浸剤が硬化した硬化物の物性への悪影響を及ぼす傾向にある。
【0015】
本発明の樹脂含浸剤において、ヒドロキシアルキルメタクリレートと、アルキル(メタ)アクリレートと、非水溶性架橋剤との配合量は、各成分の混合物が水に浮上し、かつ各成分が分離沈降を生じない範囲で任意に選択できる。このような範囲としては、ヒドロキシアルキルメタクリレートを20〜90質量%、アルキル(メタ)アクリレートを9〜79質量%、非水溶性架橋剤を1〜10質量%とすることが好ましい。なお、これらの配合においては、ヒドロキシアルキルメタクリレートとアルキル(メタ)アクリレートと非水溶性架橋剤との合計を100質量%とした。
【0016】
非水溶性アゾ系重合開始剤の配合量は、樹脂含浸剤全量に対して0.1〜2.0質量%とすることが好ましい。このように非水溶性アゾ系重合開始剤を含有することによって、分離回収した樹脂含浸剤の硬化性能が安定し、また、水洗水から分離回収した処理水の安定性が改良される。
また、水の配合量は、樹脂含浸剤の含有水分量が0.5〜5.0質量%になるように適宜選択される。
【0017】
本発明の樹脂含浸剤は、水洗水からの分離回収操作を繰り返しても硬化性の安定性に優れているが、更に硬化性の経時安定性を確保するために、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含有することが好ましい。1,2,3−ベンゾトリアゾールの含有量としては0.01質量%〜0.5質量%とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の目的を妨げない範囲において、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メチルスチレン等の他の非水溶性の重合性単量体、カルボキシル基含有ビニル系単量体であるメタクリル酸等の水溶性の重合性単量体を適宜含有することができる。
【0019】
更に、本発明の樹脂含浸剤は、作業工程での安定性を高めるために重合禁止剤を含むこともできる。重合禁止剤としては、公知のハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキル化フェノール等が挙げられる。
【0020】
次に、樹脂含浸加工方法について説明する。
一般に、樹脂含浸加工方法は、樹脂含浸剤を多孔質体に含浸する含浸工程と、多孔質体の表面に付着した余分な樹脂含浸剤を除去する水洗工程とを含む。含浸工程では、樹脂含浸剤を投入した含浸槽中に多孔質体を浸漬し、真空又は真空−加圧にて含浸する。水洗工程では、まず、含浸槽中から引き上げられた多孔質体の液切りをする。次いで、水洗水が満たされた水洗槽中に多孔質体を浸漬し、表面に付着した余分な樹脂含浸剤を除去する。
【0021】
本発明の樹脂含浸加工方法は、上述した樹脂含浸剤を多孔質体に含浸加工する方法であって、水洗工程で水洗槽に浮上した樹脂含浸剤を分離回収することを特徴とする。また、その樹脂含浸剤を成分調整なしに、再度、含浸工程で使用することができる。
【0022】
本発明における含浸工程では、非水溶性アゾ系重合開始剤を含有する樹脂含浸剤を使用する。非水溶性アゾ系重合開始剤を含有する樹脂含浸剤は、熱により重合する性質を持つが、通常、樹脂含浸剤は屋外倉庫等の温度コントロールされていない環境に保管されるため、樹脂含浸剤を含浸槽に投入する直前に、樹脂含浸剤の構成成分であるヒドロキシアルキルメタクリレートと、アルキル(メタ)アクリレートと、非水溶性架橋剤との混合物に、非水溶性アゾ系重合開始剤を添加、溶解することが好ましい。
【0023】
本発明における水洗工程では、水洗性の観点から、水洗水中にリン酸基を有するアニオン性界面活性剤を含有させることが好ましい。リン酸基を有するアニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸等が挙げられる。これらの中でもポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩が特に好ましい。一方、αオレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩等のリン酸基を有さないアニオン性界面活性剤では、リン酸基を有するアニオン性界面活性剤と異なり、樹脂含浸剤の水中への分散性が強く樹脂含浸剤の水洗工程からの分離回収性が低下する。
このように水洗水中にリン酸基を有するアニオン性界面活性剤を含有させることによって、水洗工程における水洗性が良好となり、例えば、多孔質体がネジ孔等を有する場合、余分な樹脂含浸剤が残り硬化処理後にネジ孔を閉塞するといった問題が起こる可能性が極めて低い。また、水洗水中にリン酸基を有するアニオン性界面活性剤を含有させても、樹脂含浸剤の接着性は低下しないので、多孔質体の封孔効果も確保される。
【0024】
上記リン酸基を有するアニオン性界面活性剤の含有量は、樹脂含浸剤の水洗水への乳化を抑える点から0.5質量%以下とすることが好ましい。また、リン酸基を有するアニオン性界面活性剤の含有量を越えない範囲で、ノニオン性界面活性剤を併用しても、本発明の効果を妨げない。
【0025】
また、本発明の効果を妨げない範囲内で、水洗水中に炭酸水素ナトリウム等の弱アルカリ性無機塩を使用しても構わない。ただし、硫酸ナトリウム等の中性無機塩は樹脂含浸剤のエマルジョン化を促進し、樹脂含浸剤の油水分離を妨げるため好ましくない。また、鋳造品、燒結金属を含浸加工する場合、珪酸塩等の防錆剤を水洗水に添加しても差し支えない。
【0026】
水洗工程で水洗槽に浮上した樹脂含浸剤を分離回収する方法としては、オイルスキマー等の静置分離回収する方法、強制的に油滴を肥大化し分離回収するコアレッサー方式の油水分離方法等の工業的に実施されている分離回収方法が使用できる。油水分離方法を採用する場合は、その工程途中、若しくは油水分離回収後、必要に応じ切削粉等の濾過を行なうことができる。
このようにして回収した樹脂含浸剤は、直接含浸槽に移してもよいし、液切り槽などの貯槽にいったん貯めた後に含浸槽へ戻してもよい。また、このとき同時に分離された処理水は、再度、水洗水として使用することができる。
【0027】
なお、多孔質体については、水洗工程後、水切りして、90℃以上の熱水中、又は130℃前後もしくはそれ以上の熱風下で、含浸させた樹脂含浸剤の硬化処理を行なう。
【0028】
以上説明したように、本発明の樹脂含浸剤、及び樹脂含浸加工方法によれば、硬化性能を損なうことなく分離回収できるため、成分調整をすることなく再利用が可能である。そのため、含浸加工コスト及び資源の節約を図ることができる。また、水洗工程における水洗性が良好なため、例えば、多孔質体がネジ孔等を有する場合、余分な樹脂含浸剤が残り、硬化処理後にネジ孔を閉塞するといった問題が起こる可能性が極めて低い。
更に、同時に分離された処理水も水洗水として再利用が可能であるため、水洗工程にて排出される洗浄廃水量を低減できる。そのため、処理コストおよび環境への負荷を低減でき、工業的に非常に有用性があるといえる。
【0029】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0030】
(試験例1〜5)
樹脂含浸剤(A)〜(F)は表1の組成で配合し、均一溶液にした。
なお、配合においては、ヒドロキシアルキルメタクリレートとアルキル(メタ)アクリレートと非水溶性架橋剤との合計を100質量%とした。また、これら以外の成分については、樹脂含浸剤全体を100質量%としたときの濃度で示した。さらに水については、実際に配合した配合量と、後述する方法で測定された樹脂含浸剤の含有水分量とを記載した。
水洗水(A)〜(B)は、表2の組成で配合した。分液ロートに、表3記載の組み合わせで、水洗水85部、樹脂含浸剤(原液)15部の比率で加えモデル混合水(I)を調製した。分液ロートを30秒間振って混合し、一夜放置後、上層の樹脂含浸剤(1回目)と下層の処理水(1回目)とを分離回収した。
次に、分液ロートに、上記処理水(1回目)85部、樹脂含浸剤(原液)15部の比率で加え、モデル混合水(II)を調製した。これを上記と同様の操作を実施して、樹脂含浸剤(2回目)と下層の処理水(2回目)とを分離回収した。
分液ロートに、上記処理水(2回目)85部、樹脂含浸剤(原液)15部の比率で加え、モデル混合水(III)を調製した。これを上記と同様の操作を実施して、樹脂含浸剤(3回目)と下層の処理水(3回目)とを分離回収した。このようにして得られた樹脂含浸剤と処理水について、以下の評価を実施した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(評価方法)
(1)粘度(20℃)
樹脂含浸剤(原液)を20℃±1℃の液温にした後、JIS−Z−8803に準拠して、B型粘度計で測定した。結果を表3に示す。
【0034】
(2)樹脂含浸剤の回収率
上記の分離回収操作で得られた樹脂含浸剤の質量を測定し、下記式で樹脂含浸剤の回収率を算出した。その結果を表3に示す。
樹脂含浸剤の回収率={回収した樹脂含浸剤(g)/樹脂含浸剤(原液)(g)}×100
【0035】
(3)処理水の外観
上記のようにして得られた処理水(1回目)〜(3回目)を目視にて観察した。結果を表3に示す。
【0036】
(4)樹脂含浸剤の含有水分量
カールフィッシャー水分自動測定装置で測定した。その結果を表3、表4に示す。
【0037】
(5)比重(20℃)
樹脂含浸剤を20℃±1℃の液温にした後、JIS−K−0061に準拠して、比重フロートで測定した。その結果を表3に示す。
【0038】
(6)ゲルタイム
内径6mm、長さ200mmのガラス試験管に樹脂含浸剤を約0.5g入れ、90℃±1℃の熱水中で加熱し硬化するまでの時間を測定した。硬化は挿入した針金が固着することで確認した。結果を表3、表4、表6に示す。
【0039】
(7)硬化物外観
内壁を離型剤でコーティングした内径6mm、長さ200mmのガラス試験管に樹脂含浸剤を約1.0g入れ、90℃±1℃の熱水中で10分間加熱硬化させた。試験管から硬化物を取り出し、状態を目視確認した。結果を表3に示す。
【0040】
(8)水洗水(処理水)の安定性テスト
内径15mm、長さ165mmのガラス製試験管に、油水分離処理で回収した処理水10gと、AL合金粉又は砲金粉0.4gとを入れ、上部をラップフィルムで密閉した。この試験管を35℃±0.2℃の恒温槽に入れて液中に硬化物が発生するまでの時間を測定した。
また、30日後にAL合金粉又は砲金粉と硬化物とを試験管から取り出して濾紙で濾別し、熱風式オーブン中50℃で24時間加熱乾燥し質量を測定した。結果を表5に示す。
【0041】
(9)ゲルタイムの経時変化
内径15mm、長さ165mmのガラス製試験管に、油水分離処理で回収した樹脂含浸剤(3回目)を20g入れ、上部をラップフィルムで密閉した。この試験管を室温25℃に放置した。30日後に樹脂含浸剤を取り出しゲルタイムを測定した。結果を表6に示す。
【0042】
(10)水洗性テスト
6面にφ6mm、深さ15mmのネジ孔2個、φ4mm、深さ10mmのネジ孔2個をあけた外形50mmx50mmx30mmのアルミ合金ブロックを樹脂含浸剤(A)中に沈め、デシケータで−0.1MPa以下の真空度でネジ孔中の空気を脱泡した。尚、アルミ合金ブロックのネジ孔は、ネジ孔底が他のネジ孔と貫通しているために閉塞していないものが一部ある。
50×50mmの面を水平に保持した状態でアルミ合金ブロックを樹脂含浸剤(A)中から引き上げ、樹脂含浸剤(A)の液面の上で90°横倒しにして、50×50mmの両面の中心を結ぶ軸を中心として一回転させた。次に、50×50mmの面を水平に保持した状態で、引き上げてから30秒後まで樹脂含浸剤(A)の液面の上にアルミ合金ブロックを保持した。この液切り操作前後の樹脂含浸剤(A)の質量差を測定し、アルミ合金ブロックへの樹脂含浸剤(A)の付着量を算出した(X(g))。
次に、アルミ合金ブロックを、100ml/分の流量でエアバブリングさせた1Lの水洗水(A)又は水洗水(B)中で30秒間揺動させ、水洗を行なった。更に、アルミ合金ブロックを1Lの水道水中で30秒間揺動させ、水洗を行なった。水道水中から引き上げたアルミ合金ブロックは、上記液切りと同様な操作で水切りを行った。このアルミ合金ブロックを熱風式オーブン中110℃、30分の条件で加熱乾燥した後、冷却した。
冷却後、アルミ合金ブロックの質量を測定し、テスト前のアルミ合金ブロックの質量との差から、水洗されずに残り、熱硬化した樹脂含浸剤(A)の質量を算出した(Y(g))。下記式で洗浄率を算出した。結果を表7に示す。
洗浄率(%)={(X(g)−Y(g))/X(g)}×100
【0043】
また、熱硬化後のアルミ合金ブロック上側表面の状態を観察し、以下の基準で判定した。結果を表7に示す。
○:アルミ合金ブロック表面に油膜がない。
△:アルミ合金ブロック表面の一部に油膜がある。
×:アルミ合金ブロック表面の面全体に油膜がある。
【0044】
更に、アルミ合金ブロックを熱風式オーブン中130℃、20分の条件で加熱乾燥し、硬化した樹脂含浸剤が詰まったネジ孔の個数を数え、閉塞したネジ孔個数とした。なお、予めアルミ合金ブロックの閉塞しているネジ孔の個数を数えておきネジ孔総数とした。結果を表7に示す。
【0045】
(11)接着性テスト
外形100mmx50mm、板厚0.8mmのアルミ板をイソプロピルアルコール→水→アセトンの順番で洗浄後、常温で乾燥した。このアルミ板を2分割した片方の正方形の中心位置に樹脂含浸剤を1滴落とし、50mmx50mmの面積で重なるようにもう一枚のアルミ板を載せた。2枚のアルミ板をクリップで固定し、熱風式オーブン中120℃、10分の条件で加熱した。アルミ板を室温まで冷却した後、クリップを取り外して接着性の評価をした。
接着性の評価としては、接着した板の両端を両手で折り曲げるような力を加え、剥離させたときの力を接着強さとして以下の基準で判定した。また、剥離状況を観察した。結果を表8に示す。
○:アルミ板が変形する程の強い力で剥離した。
△:中程度の力で剥離した。
×:弱い力で剥離した。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
表3から明らかなように、試験例1、試験例2及び試験例3では、分離回収された樹脂含浸剤(1回目)〜(3回目)の回収率が、80%以上の高い値を示した。また、樹脂含浸剤の比重が、回収3回目で原液と同じ値になるという良好な結果が得られた。樹脂含浸剤のゲルタイムは、回収された樹脂含浸剤(1回目)〜(3回目)においてほぼ一定した値で、また、原液の値との差も小さく、分離回収した樹脂含浸剤の硬化性が安定していることが判明した。また、硬化物外観は透明でクラックの発生は無かった。
これに対して、ヒドロキシアルキルメタクリレートとしてヒドロキシプロピルメタクリレートを用い、アゾ系重合開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを用い、含有水分量が0.5質量%未満である樹脂含浸剤(D)を用いた試験例4は、分離回収された樹脂含浸剤の回収率が回収3回目でようやく80%を越え、試験例1に対して低い値を示した。また、樹脂含浸剤の比重が、回収3回目でも原液の値を回復しなかった。また、回収された樹脂含浸剤(1回目)〜(3回目)のゲルタイムは異なった値になって一定しなかった。また、回収された樹脂含浸剤(1回目)の硬化物にクラックの発生が認められた。
ヒドロキシアルキルメタクリレートとして2−ヒドロキシブチルメタクリレートを用い、アゾ系重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを用い、含有水分量が0.5質量%未満である樹脂含浸剤(E)を用いた試験例5では、試験例4と同様に、回収された樹脂含浸剤(1回目)〜(3回目)のゲルタイムは異なった値になって一定せず、原液の値との差も大きい。
【0053】
表4から明らかなように、水を配合していないため含有水分量が0.5質量%未満である樹脂含浸剤(F)は、含有水分量が0.5質量%以上である樹脂含浸剤(A)に比較し、ゲルタイムが長くなる。
【0054】
表5で明らかなように、試験例1の処理水(3回目)及び試験例3の処理水(3回目)を用いた場合、AL合金粉が共存しても硬化物の発生は軽微であり、また砲金粉の場合でも30日目で硬化物の発生が無く、処理水の安定性は良好な結果を示した。
これに対して試験例4の処理水(3回目)では、AL合金粉が共存した場合、硬化物を顕著に発生し、砲金粉の場合も13日目で硬化物を発生し、また金属粉が無い場合でも23日目で硬化物を発生し、処理水の安定性は悪かった。
試験例5の処理水(3回目)では、AL合金粉が共存した場合、試験例4の処理水(3回目)を用いた場合と同様に、1日目で硬化物が発生し、また砲金粉の場合も18日目で硬化物が発生し、処理水の安定性は悪かった。
【0055】
表6で明らかなように、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含む試験例2の樹脂含浸剤(3回目)は、室温30日後のゲルタイムの変化は小さく、硬化性の長期安定性が得られたことが判明した。
これに対して、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含まない試験例1の樹脂含浸剤(3回目)は、ゲルタイムが長くなり、硬化性の長期安定性が比較的低いという結果を示した。
【0056】
表7で明らかなように、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸Naを含む水洗水(A)を用いた場合は、水のみの水洗水(B)を用いた場合に対して、アルミ合金ブロックの洗浄率、アルミ合金ブロックの表面状態、及びネジ孔の詰まり(閉塞率)のいずれにおいても良好な結果を示した。
【0057】
表8で明らかなように、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸Naを含む水洗水(A)で水洗された試験例1の樹脂含浸剤(3回目)は、原液と同じ良好な接着力を示した。これに対して樹脂含浸剤(原液)にポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸Naを微量溶解した場合では、接着力が低下し、AL板と硬化した樹脂含浸剤の界面で剥離を起こした。
これは、水洗水(A)中のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸Naは、水洗工程において樹脂含浸剤に溶け込まず、接着力に悪影響を及ぼさないことを証明している。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、硬化性能を損なうことなく分離回収できるため、成分調整をすることなく再利用が可能である。そのため、含浸加工コストの低減及び資源の節約を図ることができる。また、本発明の樹脂含浸加工方法によれば、水洗工程における水洗性が非常に優れている。更に、樹脂含浸剤と同時に分離された処理水も水洗水として再利用が可能であるため、水洗工程にて排出される洗浄廃水量を低減できる。そのため、処理コストおよび環境への負荷を低減でき、工業的に非常に有用性があるといえる。
Claims (10)
- 前記式(1)で表されるヒドロキシアルキルメタクリレートが、ヒドロキシブチルメタクリレートである請求項1記載の樹脂含浸剤。
- 前記非水溶性アゾ系重合開始剤が、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び/又はジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂含浸剤。
- 1,2,3−ベンゾトリアゾールを含有する請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂含浸剤。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂含浸剤を多孔質体に含浸する含浸工程と、多孔質体の表面に付着した余分な樹脂含浸剤を水洗槽で除去する水洗工程とを有し、
前記水洗工程で水洗槽に浮上した樹脂含浸剤を分離回収することを特徴とする樹脂含浸加工方法。 - 分離回収された樹脂含浸剤を含浸工程で使用することを特徴とする請求項7記載の樹脂含浸加工方法。
- 前記水洗工程で使用される水洗水が、リン酸基を有するアニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の樹脂含浸加工方法。
- 前記含浸工程において、樹脂含浸剤を含浸槽に投入する直前に、樹脂含浸剤の構成成分であるヒドロキシアルキルメタクリレートと、アルキル(メタ)アクリレートと、非水溶性架橋剤との混合物に、非水溶性アゾ系重合開始剤を添加、溶解することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の樹脂含浸加工方法。
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