以下、添付図面に従って本発明に係るオートフォーカスシステムの好ましい実施の形態について詳説する。
図1は、本発明が適用されるレンズシステムの構成を示したブロック図である。同図に示すレンズシステムは、例えば、テレビ放送用のテレビカメラで使用されるレンズシステムであり、詳細な構成を省略した撮影レンズ(光学系)と制御系とから構成される。
レンズシステムの撮影レンズは、レンズ交換可能なカメラ本体(図示せず)にマウントによって装着され、この撮影レンズによってカメラ本体に設けられた撮像素子の受光面に被写体像が結像される。撮影レンズは、同図に示すズームレンズ(群)ZL、フォーカスレンズ(群)FL、絞りI等の光学部品を備えており、ズームレンズZLやフォーカスレンズFLは光軸方向に移動可能に配置され、それぞれモータZM、FMに連結されている。従って、モータZM、FMの駆動力によってズームレンズZL、フォーカスレンズFLが光軸方向に移動すると共に、ズームレンズZLが移動することによって、撮影レンズのズーム倍率(焦点距離)が変化し、フォーカスレンズFLが移動することによって、撮影レンズのピント位置が変化する。また、絞りIはモータIMに連結されており、モータIMの駆動力によって開閉動作することによって像の明るさが変化する。
レンズシステムの制御系は、上記撮影レンズと一体のレンズ装置に搭載されたCPU10、A/D変換器12、D/A変換器14、焦点評価値検出部18、アンプZA、FA、IA、位置センサZP、FP、IP等からなる制御部と、レンズ装置にケーブル等で接続されるズームデマンド30、フォーカスデマンド32、AF操作部(AF操作装置)34等から構成されている。
撮影レンズのズーム(ズームレンズZL)やフォーカスレンズ(FL)は、ズームデマンド30やフォーカスデマンド32のようにレンズ装置に接続したコントローラを用いてマニュアル操作できるようになっており、ズームデマンド30を用いてカメラマン等がズーム操作を行うと、その操作に従ってズームデマンド12からズーム(ズームレンズZL)の位置又は移動速度の目標値を示すズーム指令信号がA/D変換器12を介してCPU10に与えられる。
CPU10は、D/A変換器14を介してアンプZAに出力するズーム制御信号の値によってモータZMの回転速度を制御し、モータZMに連結されたズームレンズZLをズーム指令信号によって指令された目標値の状態となるように制御する。尚、CPU10はズーム制御において必要となるズームレンズZLの現在位置の情報を位置センサZPからA/D変換器12を介して取得している。
また、後述するフォーカスモードがマニュアルフォーカス(MF)モードの場合に、フォーカスデマンド32を用いてカメラマン等がフォーカス操作を行うと、その操作に従ってフォーカスデマンド14からフォーカスレンズFLの位置又は移動速度の目標値を示すフォーカス指令信号がA/D変換器12を介してCPU10に与えられる。
CPU10は、ズーム制御と同様にD/A変換器14を介してアンプFAに出力するフォーカス制御信号の値によってモータFMの回転速度を制御し、モータFMに連結されたフォーカスレンズFLをフォーカス指令信号によって指令された目標値の状態となるように制御する。尚、CPU10はフォーカス制御において必要となるフォーカスレンズFLの現在位置の情報を位置センサFPからA/D変換器12を介して取得している。
一方、撮影レンズの絞りIは、例えば撮影レンズが装着された図示しないカメラ本体からのアイリス指令信号によって制御されるようになっており、カメラ本体の撮像素子により得られた映像信号に基づいて像の明るさを適切にする絞り位置の目標値がアイリス指令信号としてカメラ本体からA/D変換器12を介してCPU10に与えられるようになっている。
CPU10は、D/A変換器14を介してアンプIAに出力するアイリス制御信号の値によってモータIMの回転速度を制御し、モータIMに連結された絞りIをアイリス指令信号によって目標値として指令された絞り位置となるように制御する。尚、CPU10は絞り制御において必要となる絞りIの現在位置の情報を位置センサIPからA/D変換器12を介して取得している。
また、本レンズシステムではオートフォーカスシステムが構築されており、レンズ装置の筐体やレンズ装置に接続されたコントローラ等に配置されるAFスイッチS1によって上記マニュアルフォーカス(MF)モードからオートフォーカス(AF)モードに切り替えると、撮影レンズのピント調整を自動で行うAF制御がCPU10等によって実行されるようになっている。尚、本システムでは、被写体像のコントラストを検出してコントラストが最大となるようにフォーカス制御を行うことによってフォーカスを合焦状態に設定するコントラスト方式のAFが採用されている。また、自動復帰式のAFスイッチS1が一度オンされてMFモードからAFモードに切り替わると、AF制御が実行されてフォーカスが合焦状態に設定され、一旦合焦状態に設定されるとAF制御が停止し、MFモードに復帰するいわゆるワンショットAFが採用されている。
上述したようにCPU10はMFモードでは、フォーカスデマンド32等でのマニュアル操作に従って与えられるフォーカス指令信号に基づいてモータFMを制御し、フォーカス指令信号により指令された状態(位置又は移動速度)となるようにフォーカスレンズFLを制御する。一方、MFモードにおいてAFスイッチS1がオンされると、CPU10はその操作を検出することによってAFモードに移行し、以下のようなAF制御を実行する。
カメラ本体では撮影レンズにより結像された被写体像を撮像素子により光電変換して各種処理回路で処理して所定形式(例えば、本実施の形態ではNTSC形式とする)の映像信号を生成しており、その映像信号(輝度信号)がカメラ本体からレンズ装置の焦点評価値検出部18に与えられるようになっている。AF制御時において、焦点評価値検出部18はカメラ本体から与えられた映像信号に基づいて被写体像のコントラストの高低を焦点評価値として検出し、その焦点評価値をCPU10に与える。
ここで、焦点評価値検出部18は、A/D変換器20、ハイパスフィルタ(HPF)22、ローパスフィルタ(LPF)24、ゲート回路26、加算回路28等から構成されている。焦点評価値検出部18に入力した映像信号は、まずA/D変換器20によってアナログ信号からデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された映像信号はHPF22に入力され、図2(A)に示すようなフィルタ特性を有するHPF22により所定のカットオフ周波数fCLよりも低い周波数成分の信号が遮断され、カットオフ周波数fCLよりも高い周波数成分の信号が抽出される。
続いて、HPF22によって抽出された映像信号は、図2(B)に示すようなLPF24に入力され、LPF24により所定のカットオフ周波数fCHよりも高い周波数成分の信号が遮断され、カットオフ周波数fCHよりも低い周波数成分の信号が抽出される。
これらのHPF22及びLPF24のフィルタ特性を重ね合わせた図2(C)の特性図に示すように、HPF22及びLPF24によってカメラ本体から与えられた映像信号のうち、低域側カットオフ周波数fCLよりも高く、高域側カットオフ周波数fCHよりも低い周波数成分の映像信号が抽出される。尚、HPF22やLPF24は、例えばフィルタ特性が電気的な信号で与えられるフィルタ係数によって変更可能なデジタルフィルタであり、後述のようにCPU10によって設定されるフィルタ係数によってHPF22のカットオフ周波数fCLや、LPF24のカットオフ周波数fCH等のフィルタ特性が変更されるようになっている。また、HPF22及びLPF24を1つのバンドパスフィルタによって構成してもよい。
HPF22及びLPF24で抽出された周波数成分の映像信号は、続いてゲート回路26に入力される。ゲート回路26では、各フィールド画像を構成する画面上においてAFの対象とする被写体の範囲(例えば、画面中央部の矩形範囲であってAFエリアという)の映像信号のみが抽出される。これによって抽出されたAFエリア内の映像信号は、加算回路28に入力され、1フィールドごとに積算される。
このようにして加算回路28によって各フィールドごとに得られた積算値は、各フィールドでの被写体画像のコントラストの高低を示し、その積算値が焦点評価値としてCPU10に与えられる。
一方、CPU10は、AF制御時において、上述のように焦点評価値検出部18によって算出された焦点評価値を取得すると共に、MFモード時と同様にフォーカス制御信号をアンプFAに出力してモータFMの回転速度を制御する。これによって、焦点評価値が最大(極大)となる位置にフォーカスレンズFLを移動させる。
焦点評価値が最大(極大)となる位置にフォーカスレンズFLを移動させる制御方法として周知の山登り方式が適用される。例えば、CPU10はAF制御を開始するとフォーカスレンズFLをそのとき設定されている位置を基準位置として前後(至近方向と無限遠方向)に微小量変位(いわゆるワブリング)させ、基準位置と各変位点での焦点評価値を焦点評価値検出部18から取得する。これによって基準位置に対して焦点評価値が増加する方向を検出する。もし、増加する方向が検出されない場合には初期にフォーカスレンズFLが設定されていた基準位置が合焦位置としてフォーカスレンズFLをその基準位置に停止させた状態でAF制御を終了する。
これに対してワブリング時に取得した焦点評価値によって焦点評価値が増加する方向を検出した場合には、その方向に所定の速度でフォーカスレンズFLを移動させる。そして、フォーカスレンズFLを移動させながら、又は、適宜停止させて、焦点評価値検出部18から焦点評価値を取得し、新たに取得した焦点評価値が前回取得した焦点評価値より増加しているか否かを判断する。尚、このときのフォーカスレンズFLの移動速度をAFスピードという。AFスピードは加速時や減速時において変化するため一定ではないが、ある特徴的な速度値、例えば、最高速度の値や、平均速度の値などによって表されるものとする。
上記判断において、もし、焦点評価値が増加していると判断した場合には、同一方向に継続してフォーカスレンズFLを移動させる。一方、焦点評価値が減少したと判断した場合には、焦点評価値のピーク点、即ち、合焦位置を通過したと判断し、フォーカスレンズFLの移動方向を反転させると共に低速で移動させる。そして、順次得られる焦点評価値の変化量が一定とみなせる程度に小さくなった場合にはそのときの位置を合焦位置としてフォーカスレンズFLをその位置に停止させる。
CPU10は、このようにしてフォーカスレンズFLを合焦位置に設定すると、AF制御を終了し、MFモードの制御に移行する。
次に、AF制御時における焦点評価値検出部18のHPF22、LPF24のカットオフ周波数fCL、fCH、及び、フォーカスレンズFLの移動速度(AFスピード)に関して説明する。レンズ装置には図1に示すようにAF操作部34が接続されており、そのAF操作部34での操作によってユーザが上記AFスピードと、HPF22及びLPF24のカットオフ周波数fCL、fCHを所望の値に調節することができるようになっている。図3は、AF操作部34の外観を示した正面図である。同図において、A/Mスイッチ50は、HPF22及びLPF24のカットオフ周波数fCL、fCHをオートで設定するフィルタ自動設定と、マニュアルで設定するフィルタ手動設定のいずれかのモードを選択するスイッチである。オフの状態ではフィルタ自動設定のモードが選択された状態であり、内蔵のランプが消灯し、オンの状態ではフィルタ手動設定のモードが選択された状態であり、内蔵のランプが点灯する。
CPU10は、AF操作部34と通信を行い、A/Mスイッチ50のオン/オフ状態を取得することによって、フィルタ自動設定とフィルタ手動設定の何れのモードが選択されているかを検出する。フィルタ自動設定モードが選択された場合、CPU10は、HPF22及びLPF24に与えるフィルタ係数を撮影レンズの焦点距離(ズームレンズZLの位置)や絞り値(絞りIの位置)を考慮した値に設定し、図2に示したHPF22のカットオフ周波数(低域側カットオフ周波数)fCLとLPF24のカットオフ周波数(高域側カットオフ周波数)fCHを撮影レンズの焦点距離や絞り値を考慮した標準的な値(標準値)に設定する。尚、これについては後述する。
一方、AF操作部34のA/Mスイッチ50によってフィルタ手動設定モードが選択された場合、CPU10は、HPF22及びLPF24に与えるフィルタ係数をAF操作部34での手動操作に応じて変更し、HPF22のカットオフ周波数(低域側カットオフ周波数)fCLとLPF24のカットオフ周波数(高域側カットオフ周波数)fCHを手動操作により指定された値に設定する。図3において、ダイヤル52、54は、それぞれフィルタ手動設定モードにおいて、HPF22のカットオフ周波数fCLとLPF24のカットオフ周波数fCHを指定する回転操作部材であり、フィルタ手動設定モードが選択されている場合には、それらのダイヤル52、54の回転位置がポテンショメータによって検出されてCPU10に与えられる。
CPU10は、ダイヤル52の回転位置に応じたフィルタ係数をHPF22に与えることによってHPF22のカットオフ周波数fCLをダイヤル52の回転位置に応じた値(手動設定値)に設定する。同様にダイヤル54の回転位置に応じたフィルタ係数をLPF24に与えることによってLPF24のカットオフ周波数fCHをダイヤル54の回転位置に応じた値(手動設定値)に設定する。
これによって、HPF22とLPF24のカットオフ周波数が次のように変更される。図4は、HPF22とLPF24の両フィルタによるフィルタ特性を示した図である。同図に示すように、HPF22のカットオフ周波数である低域側カットオフ周波数fCLは、ダイヤル52が回転範囲の中間位置に設定されているときにはfCL0の値に設定される。この位置からダイヤル52を時計回りに回すと、低域側カットオフ周波数fCLはfCL0の値から周波数が高くなる方向にシフトする。ダイヤル52を反時計回りに回すと、低域側カットオフ周波数fCLはfCL0の値から周波数が低くなる方向にシフトする。同様に、LPF24のカットオフ周波数である高域側カットオフ周波数fCHは、ダイヤル54が回転範囲の中間位置に設定されているときにはfCH0の値に設定される。この位置からダイヤル54を時計回りに回すと、高域側カットオフ周波数fCHはfCH0の値から周波数が高くなる方向にシフトする。ダイヤル54を反時計回りに回すと、高域側カットオフ周波数fCHはfCH0の値から周波数が低くなる方向にシフトする。
尚、ダイヤル52、54が回転範囲の中間位置に設定されているときのカットオフ周波数fCL0、fCH0は、本実施の形態では所定の一定値とするが、フィルタ自動設定モードにおいて撮影レンズの設定状態に応じて変更されるHPF22、LPF24のカットオフ周波数(標準値)としてもよい。
以上のようにフィルタ手動設定モードによりHPF22とLPF24のカットオフ周波数を変更できるようにしたことによって焦点評価値曲線の山型分布の急峻さを個別の撮影での撮影レンズの設定状態、被写体の条件、AFの使用目的等を考慮して最適な状態に設定することができるようになる。
ここで、HPF22のカットオフ周波数fCLを変更した場合の一般的な効果を図5(A)、(B)に示す。図5(A)、(B)は、横軸にフォーカスレンズFLの位置、縦軸に焦点評価値を示した焦点評価値グラフであり、ある一定の被写体に対してフォーカスレンズFLを至近端から無限遠端まで動かしたときの焦点評価値の変化をHPF22のカットオフ周波数fCLが高い場合と低い場合とで示している。これらの図から分かるように一般的にはHPF22のカットオフ周波数fCLを高くする程、焦点評価値曲線の山型分布を急峻にすることができ、カットオフ周波数fCLを低くする程、焦点評価値曲線の山型分布をなだらかにすることができる。
一方、フロントフォーカスタイプの撮影レンズの場合(本実施の形態の撮影レンズはフロントフォーカスタイプとする)、一般に焦点距離が長い程、また、絞り値が小さい程、焦点評価値曲線の山型分布は急峻になる。焦点評価値曲線の山型分布が極めて急峻となる場合には、AFスピードを十分に低速にしないと、フォーカスレンズFLが焦点評価値のピーク点で停止せずにピーク点近傍でハンチングを生じるおそれがあるが、AFスピードを低速にしすぎると合焦に要する時間が長くなる。
そこで、焦点距離が長い程、また、絞り値が小さい程、HPF22のカットオフ周波数fCLを自動的に低くすることによって、焦点評価値曲線の山型分布を適度な急峻さにすることができれば、AFスピードを低速にし過ぎることなくハンチングを防止することができ、また、ユーザの手間もないため有効である。フィルタ自動設定モードでは、このように撮影レンズの焦点距離、絞り値が考慮され、一般的に焦点評価値曲線の山型分布が適度な急峻さとなるようにHPF22やLPF24のカットオフ周波数(標準値)が設定されるようになっている。
しかしながら、焦点評価値曲線の山型分布の急峻さや、HPF22とLPF24のカットオフ周波数を変更することによる効果は、単に焦点距離や絞り値のような撮影レンズの設定状態のみでなく被写体の条件等によって異なるため、撮影レンズの設定状態のみを考慮してHPF22やLPF24のカットオフ周波数を自動設定するようにすると、被写体の条件によってハンチングが生じるおそれや、AF精度が悪くなりすぎるおそれがある。
従って、個別の撮影での撮影レンズの設定状態、被写体の条件等などに適応するようにユーザがHPF22やLPF24のカットオフ周波数を手動で調整してハンチングを確実に防止し、また、AF精度が悪くなり過ぎないようにすることができるフィルタ手動設定モードは非常に有効である。
尚、フィルタ自動設定モードのHPF22やLPF24のカットオフ周波数は、撮影レンズの設定状態にかかわらず一定であってもよい。また、HPF22、LPF24のフィルタ係数を変更することによってカットオフ周波数以外のフィルタ特性も意図的に変更することもできるが、本実施の形態ではカットオフ周波数を変更することを主目的とし他のフィルタ特性については言及しないものとする。
続いてAF制御時におけるフォーカスレンズFLの移動速度を示すAFスピード設定に関して説明する。図3において、A/Mスイッチ56は、AFスピードをオートで設定するAFスピード自動設定と、マニュアルで設定するAFスピード手動設定のいずれかのモードを選択するスイッチである。オフの状態ではAFスピード自動設定のモードが選択された状態であり、内蔵のランプが消灯し、オンの状態ではAFスピード手動設定のモードが選択された状態であり、内蔵のランプが点灯する。
CPU10は、AF操作部34と通信を行い、A/Mスイッチ56のオン/オフ状態を取得し、AFスピード自動設定とAFスピード手動設定の何れのモードが選択されているかを検出する。AFスピード自動設定モードが選択された場合、CPU10は、AFスピードを自動で設定する。AFスピードを自動で設定する場合、焦点距離と絞り値が考慮され、CPU10は、AF制御時において、図1に示した位置センサZPと位置センサIPからズームレンズZLの位置と絞りIの位置を検出し、それらの位置に基づいてAFスピードを標準的な値(標準値)に設定する。
図6(A)、(B)は、それぞれ焦点距離が長い場合と、短い場合との一般的な焦点評価値曲線の山型分布を示しており、焦点距離が長い程、焦点評価値曲線の山型分布が急峻となり、焦点距離が短い程、焦点評価値曲線の山型分布がなだらかとなる。これによれば、焦点距離が長い程(また、絞り値が小さい程)、ハンチングが生じやすくなるため、AFスピード自動設定モードでのAFスピードは、同図(A)の矢印aと同図(B)の矢印bで示すように焦点距離が長い程(また、絞り値が小さい程)低速に設定され、焦点距離が短い程(また、絞り値が大きい程)高速に設定される。
これに対してAF操作部34のA/Mスイッチ56によってAFスピード手動設定モードが選択された場合、CPU10は、AFスピードを手動操作により指定された値に設定する。図3において、ダイヤル58は、AFスピード手動設定モードにおいて、AFスピードを指定する回転操作部材であり、AFスピード手動設定モードが選択されている場合には、そのダイヤル58の回転位置がポテンショメータによって検出されてCPU10に与えられる。
CPU10は、ダイヤル56の回転位置に対応した値を手動設定値とし、AFスピード自動設定モードの場合にズームレンズZLと絞りIの位置で決まるAFスピード(標準値)に手動設定値を加算した値をフォーカス手動設定モードでのAFスピードとして設定する。
これよってAFスピードが次のように変更される。ダイヤル56が回転範囲の中間位置に設定されているときには手動設定値は0であり、このときのAFスピードは、AFスピード自動設定モードで自動設定される標準値に設定される。この標準値は、図6(A)、(B)の矢印a、bで示したようにAF制御時の焦点距離や絞り値によって異なる。ダイヤル56を中間位置から時計回りに回すと、手動設定値が0から正方向(図6(A)、(B)におけるH方向)に増加し、その値が標準値に加算されてAFスピードが速くなる方向に変更される。ダイヤル56を中間位置から反時計回りに回すと、手動設定値が0から負方向(図6(A)、(B)におけるL方向)に増加(減少)し、その値が標準値に加算されてAFスピードが遅くなる方向に変更される。
AFスピード自動設定モードとAFスピード手動設定モードとを比較すると、AFスピード自動設定モードでは、標準的な被写体の条件に対してハンチングを防止することができると共に、ユーザの手間もない点で効果的である。しかしながら、上述のように焦点評価値曲線の山型分布の急峻さは、撮影レンズの設定状態からだけでは決まらず、被写体の条件等によっても異なるため、ハンチングが生じるおそれがあり、また、AFスピードが不要に遅くなり過ぎるおそれがある。これに対して、個別の撮影での撮影レンズの設定状態や被写体の条件等に適合するようにAFスピードを設定できるAFスピード手動設定モードは、ハンチングを確実に防止することができると共に、AFスピードが不要に遅くなりすぎる不具合を回避できるため非常に有効である。また、フィルタ手動設定モードとAFスピード手動設定モードとの併用によって、ハンチングを生じさせないという制限の元でAFの使用目的等に適合したAF精度とAFスピードを実現することができる。
例えば、撮影本番時にはフォーカスをほとんど変化させる必要がないというような場合、初期のピント調整は撮影本番前に行っておけばよいためAFスピードは遅くても問題がない。従って、この場合、AFスピードよりもAF精度を優先することができる。また、高い精度でのピント合わせが要求される場合もある。このような場合、高いAF精度でのピント合わせを目的としたAFが望まれる。そこで、HPF22やLPF24のカットオフ周波数を手動で調整して焦点評価値曲線の山型分布ができるだけ急峻となるようにし、それに対してAFスピードをハンチングが生じないレベルまで遅くするというような設定を行うと、目的に適したAFを行うことができる。
また、スポーツ中継のようにフォーカスを瞬時に動かしたり、頻繁に動かす場合には、AF精度よりもAFスピードが優先される。このような場合には、AFスピードを手動で調整して要求を満たす速度に設定し、そのAFスピードにおいてハンチング等の不具合が生じないようにHPF22やLPF24のカットオフ周波数を調整すると、目的に適したAFを行うことができる。尚、ここで説明したAFスピードやHPF22、LPF24のカットオフ周波数の設定方法は一例であって当然これに限らない。
また、AF操作部34には、ダイヤル52、54、58の回転位置を記憶し、また、記憶した回転位置をレンズ装置のCPU10に出力するためのメモ機能を搭載するようにしてもよく、この場合に対応して、図3に示したAF操作部にはメモスイッチ60や、1〜4までの選択スイッチ62が設けられている。メモスイッチ60をオンして内蔵のランプを点灯させた状態で所望の選択スイッチ62を押すと、そのとき設定されているダイヤル52、54、58の回転位置のデータが内蔵のメモリに記憶保持される。尚、AFスピードとカットオフ周波数のいずれかが自動設定モードとなっている場合、自動設定モードとなっている方もダイヤルの回転位置のデータを記憶するようにしてもよいが、ダイヤルの回転位置ではなく自動設定モードであること(A/Mスイッチ50又はA/Mスイッチ56がオフ(自動設定)であること)を示すデータを記憶してもよい。
一方、メモスイッチ60をオフにして内蔵のランプを消灯させた状態で上記データを記憶済みのいずれかの選択スイッチ62を押すと、その選択スイッチ62に記憶させたダイヤル52、54、58の回転位置のデータ(又は、A/Mスイッチ50又はA/Mスイッチ56がオフであることを示すデータ)を、実際のダイヤル52、54、58の回転位置のデータに代えてレンズ装置のCPU10に出力する。これによって、ダイヤル52、54、58の回転位置のデータを記憶させたときのAFスピードやカットオフ周波数の設定を容易に再現することができるようになる。尚、このようにAFスピードとHPF22、LPF24のカットオフ周波数の組み合わせを何種類か記憶させておき、高速AFモードや暗い被写体モード等、名前を付けて読み出せるようにしてもよい。また、各選択スイッチ62に対応させて記憶させるデータは、AF操作部34ではなく、CPU10によって直接参照できるEEPROM16(図1参照)に記憶させるようにし、AF操作部34から取得するメモスイッチ60や選択スイッチ62等の操作に従ってCPU10がAFスピード等のデータの記憶や読出しを行うようにしてもよい。
次に、CPU10におけるAFスピード、HPF22及びLPF24の一連の設定手順を図7のフローチャートを用いて説明する。CPU10は、まず、所要の初期設定を行った後(ステップS10)、AF制御以外の処理を実行し(ステップS12)、続いて、AFスイッチS1がオンされたか否かによってAFモードか否かを判定する(ステップS14)。尚、本実施の形態のAFはワンショットAFであるが、合焦状態となった後もユーザが意図的にMFモードに切り替えない限りAFの制御が継続して行われるいわゆる連続AFにおいてAFスピードやカットオフ周波数を手動設定できるようにする場合には、例えば、AFスイッチS1を一度オンすると、もう一度オンするまでMFモードに切り替わらずにAFモードが継続するものとし、AFモードが継続している間、以下で説明するワンショットAFと同様のAFモードの処理を繰り返し行うようにすればよい。
CPU10は、上記ステップS14においてNOと判定した場合には、ステップS12の処理に戻る。一方、ステップS14においてYESと判定した場合には、AFモードの処理に移行し、まず、絞りIの位置(絞り位置)IPと、ズームレンズZLの位置(ズーム位置)ZPを読み込む(ステップS16、S18)。
次に、AF操作部34での設定を読み込み(ステップS20)、フィルタ手動設定モードか否かを判定する(ステップS22)。
NO、即ち、フィルタ自動設定モードと判定した場合には、絞り位置IPとズーム位置ZPに対応したHPF22、LPF24の各々のフィルタ係数を求め、HPF22、LPF24に設定する(ステップS24)。一方、YES、即ち、フィルタ手動設定モードと判定した場合にはAF操作部34のダイヤル52、54の回転位置によって指定されるHPF22、LPF24のカットオフ周波数の手動設定値を読み込み、それに対応したフィルタ係数をHPF22、LPF24に設定する(ステップS26)。
ステップS24、又は、ステップS26の処理の後、次に、CPU10は、絞り位置IPとズーム位置ZPに対応したAFスピードの標準値FSを求める(ステップS28)。続いて、AF操作部34の設定によりAFスピード手動設定モードか否かを判定する(ステップS30)。
NO、即ち、AFスピード自動設定モードと判定した場合には、ステップS28で求めたAFスピードの標準値FSをAFスピードに設定し、焦点評価値検出部18から焦点評価値を読み込みながらそのAFスピードでフォーカスレンズFLを移動させて焦点評価値がピークとなるように上記AF制御を実行する(ステップS34)。
一方、ステップS30においてYES、即ち、AFスピード手動設定モードと判定した場合には、AF操作部34のダイヤル58の回転位置に対応した手動設定値を読み取り、その値をステップS28で求めたAFスピードの標準値FSに加算してAFスピードを設定する(ステップS32)。そして、焦点評価値検出部18から焦点評価値を読み込みながらステップS32で設定したAFスピードでフォーカスレンズFLを移動させて焦点評価値がピークとなるように上記AF制御を実行する(ステップS34)。
以上の処理が終了すると、ステップS12からの処理を実行する。
以上、上記実施の形態において、AF操作部34によってフィルタのカットオフ周波数やAFスピードを手動設定できるようにしたが、AF専用の撮像素子を備えたオートフォーカスシステムの場合は、その撮像素子から得られる映像信号の輝度調整や輝度の加減算調整を手動で行う機能を追加してもよい。
また、AF操作部34は、レンズ装置にケーブルで接続する場合に限らず、レンズ装置やフォーカス操作部に一体的に配置してもよい。
次に、AF制御時におけるAFスピードの設定に関する他の実施の形態を示すオートフォーカスシステムについて説明する。図8は、本実施の形態のオートフォーカスシステムが適用されたレンズシステムの構成を示したブロック図である。同図において、図1に示したレンズシステムと同一又は類似作用の構成ブロックには、図1と同一符号を付し、その説明は省略する。
図8のレンズシステムにおいて、レンズ装置には、図1のAF操作部34が接続されておらず、AFスピード調整ツマミ80が設けられている。
同図のレンズ装置が図9に示すように主にスタジオで使用されるEFPレンズの場合、その周部は箱型のカバー90で覆われており、AFスピード調整ツマミ80は、例えば、そのカバー90の側面に回動可能に設けられる。レンズ装置が、図10に示すように主に取材等に携帯して使用されるENGレンズの場合、撮影レンズのレンズ鏡胴100にフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIの各々の位置を操作するための回動可能な操作リング102、104、106が設けられると共に、レンズ鏡胴100の側部にそれらの操作リング102〜106をモータ駆動するための駆動ユニット108が設けられている。AFスピード調整ツマミ80は、例えば、その駆動ユニット108の背面に回動可能に設けられる。
図8においてCPU10は、AF制御時に上記実施の形態で説明したフィルタ自動設定の処理と、AFスピード自動設定の処理とを行っており、撮影レンズの焦点距離(ズームレンズZLの位置)と絞り値(絞りIの位置)とに基づいてHPF22及びLPF24のカットオフ周波数fCL、fCHやAFスピードがオートで設定される。
AFスピード自動設定では、AFスピードが焦点距離と絞り値に応じた標準的な値(標準値)に設定され、焦点距離と絞り値によって異なる値に設定されるが、その焦点距離と絞り値に応じた標準値をAFスピード調整ツマミ80によって全体的に大きくし、又は、小さくすることができるようになっている。
一方、フォーカスデマンド32にはAFスピード切替スイッチが設けられる。フォーカスデマンド32は、例えば図11に示すように構成されており、各種回路が内蔵された円筒状の本体部120に、MF制御時においてフォーカスレンズFLをマニュアル操作するためのフォーカスノブ122が回動可能に設けられている。その本体部120の周面には、AFスピード切替スイッチ82、AFスイッチ124(図8におけるAFスイッチS1)、ジョイスティック126等が設けられている。AFスイッチS1は、上記実施の形態で説明したようにMFモードからAFモードに移行してAF制御を実行させるためのスイッチであり、ジョイスティック126は、AFの対象範囲であるAFエリアの位置を撮像範囲において上下左右に移動させるための操作部材である。
AFスピード切替スイッチ82は、標準モードと高速モードの2位置で切り替えられるスライドスイッチであり、図中左側の標準モードの位置に設定されている場合には、AFスピードが上記AFスピード調整ツマミ80で設定された標準値に設定される。一方、AFスピード切替スイッチ82が図中右側の高速モードに設定されている場合には、AFスピードが上記標準モードでの標準値に対して所定の倍率を掛けた速度に切り替えられるようになっている。例えば、その倍率として2倍から4倍までの間の倍率が好適である。これによって、AFスピードを標準の速度よりも速くしたい場合にAFスピードを瞬時に高速化することができるようになっている。
図12は、本実施の形態のCPU10におけAFスピードの設定手順を示したフローチャートである。CPU10は、まず、所要の初期設定を行った後(ステップS50)、AF制御以外の処理を実行し(ステップS52)、続いて、フォーカスデマンド32のAFスイッチ124(S1)がオンされたか否かによってAFモードか否かを判定する(ステップS54)。NOと判定した場合には、ステップS52の処理に戻る。一方、YESと判定した場合には、AFモードの処理に移行し、まず、絞りIの位置(絞り位置)IPと、ズームレンズZLの位置(ズーム位置)ZPを読み込む(ステップS56、S58)。続いて、AFスピード調整ツマミ80の設定値VRを読み込む(ステップS60)。また、フォーカスデマンド32のAFスピード切替スイッチ82の設定を読み込む(ステップS62)。
次に、CPU10は、絞り位置IPとズーム位置ZPとに対応したHPF22、LPF24の各々のフィルタ係数を求め、HPF22、LPF24に設定する(ステップS64)。続いて、CPU10は、絞り位置IPとズーム位置ZPとAFスピード調整ツマミ80の設定値VRとに対応したAFスピードの標準値を求め、その値をAFスピードの設定値(移動速度)FSとする(ステップS66)。そして、AFスピード切替スイッチ82によって設定されているモードが高速モードか否かを判定する(ステップS68)。
NO、即ち、標準モードと判定した場合には、焦点評価値検出部18から焦点評価値を読み込みながらステップS66で設定した設定値FSのAFスピードでフォーカスレンズFLを移動させて焦点評価値がピークとなるように上記AF制御を実行する(ステップS72)。
一方、ステップS68においてYES、即ち、高速モードと判定した場合には、AFスピードの設定値FSを、ステップS66で設定したAFスピードの設定値FSに対してk倍した値に変更する(ステップS70)。即ち、AFスピードの設定値をFS=FS×kに変換する。尚、kは2〜4の間の値が妥当である。そして、CPU10は焦点評価値検出部18から焦点評価値を読み込みながらステップS70で設定した設定値FSのAFスピードでフォーカスレンズFLを移動させて焦点評価値がピークとなるように上記AF制御を実行する(ステップS72)。以上の処理が終了すると、ステップS52からの処理を実行する。
以上、図8乃至図12を用いて説明した実施の形態において、AFスピード調整ツマミ80はレンズ装置でなくても所望の装置(例えば、フォーカスデマンド32等)の所望の箇所に設けることができると共に、AFスピード切替スイッチ82もフォーカスデマンド32でなくても所望の装置(例えば、レンズ装置等)の所望の箇所に設けることができる。また、AFスピードの高速モードでは、標準モードでのAFスピードに対して2倍から4倍の速度にするのが好適としたが、それ以外の倍率(1倍以下でも可能)に変換するようにしてもよいし、また、所望の倍率に設定、変更できるようにしてもよい。更に、標準モードでの速度設定用の調整ツマミと、高速モードでの速度設定用の調整ツマミとを別個に設けてもよい。また、AFスピード切替スイッチ82は標準モードと高速モードの2つのモードを選択する場合に限らず、標準モードと標準モードに対して幾つかの異なる倍率の速度に切り替える2種類以上のモードを選択できるようにしてもよい。
また、図1乃至図7で説明した実施の形態のようにAFスピード自動設定モードとAFスピード手動設定モードの選択が可能な場合であっても図8乃至図12で説明した実施の形態の技術を適用することが可能であり、図1乃至図7で説明した実施の形態におけるAFスピードの標準値をAFスピード調整ツマミ80の設定値によって変更できるようにしてもよい。また、AFスピード自動設定モードかAFスピード手動設定モードかにかかわらず、又は、特定のモードにおいて、AFスピード切替スイッチ82によって標準モードから高速モードに切り替えると、AFスピードが標準モードのAFスピードに対して所定倍に切り替えられるようにしてもよい。
また、図8乃至図12で説明した実施の形態では、焦点距離や絞り値に応じてAFスピードが変更される場合について説明したが、焦点距離や絞り値によってAFスピードが変更されない場合であってもAFスピードを標準モードと高速モードで切り替えられるようにすることや、標準モードでの標準の速度を変更できるようにすることが可能である。
10…CPU、12、20…A/D変換器、14…D/A変換器、18…焦点評価値検出部、22…ハイパスフィルタ、24…ローパスフィルタ、26…ゲート回路、28…加算回路、30…ズームデマンド、32…フォーカスデマンド、34…AF操作部、50、56…A/Mスイッチ、52、54、58…ダイヤル、60…メモスイッチ、62…選択スイッチ、80…AFスピード調整ツマミ、82…AFスピード切替スイッチ、ZL…ズームレンズ、FL…フォーカスレンズ、I…絞り、ZM、FM、IM…モータ