JP3981159B2 - 金属加工油組成物 - Google Patents

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は金属加工油組成物に関し、さらに詳しくは、切削・研削加工や塑性加工など、幅広い金属加工において工具寿命を延長できると同時に、工作機械部品や被削材における銅や銅合金部材の腐食を防止することができ、生産性の向上をもたらす金属加工油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、不水溶性切削油をはじめとする金属加工油には、加工性の向上を目的として、極圧剤や油性剤などが添加されている。一方、金属加工油を使用するユーザーは、生産性の向上や省エネルギーの観点から、一層加工性を向上させることのできる油剤を望んでいる。また、従来から極圧剤として幅広く使用されてきた塩素系極圧剤は、錆やかぶれなどの作業環境の悪化を招くため、近年その使用を控える傾向にある。
上記ユーザーの要望にこたえる加工油として、基油に活性イオウを含有する硫化オレフィンと、過塩基性スルホネートを添加した油剤が市販されている。しかしながら、このような油剤は、耐溶着性に優れ、工具の欠けなどの異常摩耗は防止できるものの、腐食摩耗を促進し、工具すくい面など、マイルドな潤滑箇所が摩耗し、工具寿命を低下させるという問題を有している。また、活性イオウを含有するために、工作機械部品や被削材の銅や銅合金部材を腐食、変色し、むしろ生産性を低下させる場合がしばしば生じることから、不活性タイプのものが望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況下で、切削・研削加工や塑性加工など、幅広い金属加工において工具寿命を延長できる上、工作機械部品や被削材における銅や銅合金部材の腐食を防止することができ、生産性の向上をもたらす金属加工油組成物を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記の好ましい性質を有する金属加工油組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基油に対し、活性イオウを含まない不活性イオウ系化合物と過塩基性金属スルホネートと特定のアルキル基を有する亜鉛ジチオホスフェートを配合することにより、腐食摩耗を抑制しうるとともに、市販の活性タイプ並みの耐溶着性を有する油剤が得られ、その目的を達成しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は(A)鉱油及び/又合成油からなる基油に対し、(B)活性イオウを含まず、JISK−2513の銅板腐食試験(100℃,1時間)において、判定が3a以下である不活性イオウ系化合物〔ただし、(D)成分に該当する亜鉛ジチオホスフェートを除く〕、(C)過塩基性金属スルホネート、及び(D)下記の一般式( II
【化3】
Figure 0003981159
[ただし、R 3 〜R 6 は、それぞれ炭素数3〜10の第一級又は第二級アルキル基を示し、該R 3 〜R 6 はたがいに同一でも異なっていてもよい。]
で表される亜鉛ジチオホスフェートを配合したことを特徴とする金属加工油組成物を提供するものである。
本発明の金属加工油組成物においては、(A)成分の基油として鉱油や合成油が用いられる。上記鉱油としては、様々なものを使用することができるが、40℃における動粘度が1.5〜100cSt、特に5〜50cStのものが好適に用いられる。動粘度が1.5cSt未満では、引火点が低く、ミストによる作業環境を悪化させる場合があり好ましくない。また、100cStを超えると、油剤がワーク(被加工物)に付着して持ち去られる量が多くなり、経済的でなくなる場合があり好ましくない。なお、5〜50cStの範囲のものは、作業性や経済性の向上の点で一層好ましい。
このような鉱油としては、種々のものを挙げることができる。例えば、パラフィン基系原油,中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、又はこれを常法に従って精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油,水添精製油,脱ロウ処理油,白土処理油などを挙げることができる。
【0005】
また、合成油としては、例えば低分子量ポリブテン,低分子量ポリプロピレン,炭素数8〜20のα−オレフィン,前記α−オレフィンのオリゴマー及びこれらの水素化物、さらにはポリオールエステル(トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル,ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)や二塩基酸エステルなどのエステル系化合物、アルキルベンゼンなどを用いることができる。
【0006】
本発明においては、基油として、上記鉱油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いることもできる。
ところで、本発明の金属加工油組成物において、(A)成分の基油として40℃における動粘度が約10cSt 以下の比較的低粘度のものを用いる場合には、(A')成分として高分子化合物を上記(A)成分である基油に配合することが有効である。この高分子化合物を配合することによって、金属加工時のミストの発生を効果的に抑制することができる。
上記高分子化合物は、通常、分子量(数平均)が2,000〜300,000のものが好ましく用いられる。
このような高分子化合物としては、種々のものがあるが、例えば、ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリイソブテン,オレフィンコポリマー(例えば、エチレン−プロピレンコポリマー,スチレン−ブタジエンコポリマー,スチレン−イソプレンコポリマーなど)などが挙げられる。
この(A')成分の配合割合については、高分子化合物の分子量や(A)成分である基油の性状などにもよるが、特に限定されることはなく、通常、金属加工油組成物全体に対して、0.05〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%の割合で配合することができる。高分子化合物の配合量が0.05重量%未満では、ミスト発生を充分抑制できない場合がある。また、20重量%を超えると、粘度上昇により、油剤がワークに付着して持ち去られるなどのおそれがあり経済的にも好ましくない。なお、0.1〜5重量%の範囲では、特に経済性の点で一層有利であり、また0.2〜3重量%の範囲では、さらに加えて加工性や作業性の点でとりわけ有利である。
【0007】
本発明の金属加工油組成物においては、(B)成分として不活性イオウ系化合物が配合される。この不活性イオウ系化合物とは、活性イオウを含まず、JISK−2513の銅板腐食試験(100℃,1時間)において、判定が3a以下の化合物を指す。このようなものとしては、例えば硫化油脂(硫化ラード,硫化エステルなど),硫化脂肪酸,ポリサルファイドなどが好ましく挙げられる。この化合物中のイオウが活性であると、工具の腐食摩耗が増加し、工具寿命が低下する場合がある。また、銅や銅合金部材を加工する際に、ワークの腐食による変色をもたらし、不適当である。
【0008】
上記硫化油脂は、動植物油の硫化物を指し、例えば硫化ラード,硫化なたね油,硫化ひまし油,硫化大豆油などがある。また、この硫化油脂は、硫化オレイン酸などの二硫化脂肪酸、硫化オレイン酸メチルなどの硫化エステルも包含する。該硫化油脂としては、硫黄分を5〜30重量%を含有するものが好適である。
また、ポリサルファイドとしては、オレフィンポリサルファイドやジアルキルポリサルファイドなどを挙げることができる。オレフィンポリサルファイドは、様々な方法によって製造することができるが、例えば、炭素数3〜20のオレフィン又はその2〜4量体と硫化剤とを反応させることによって得られるものである。
ここで、炭素数3〜20のオレフィンとしては、例えば、プロピレン,イソブテン,ジイソブテンなどが好ましく用いられる。一方、硫化剤としては、例えば、硫黄,塩化硫黄,ハロゲン化硫黄などが挙げられる。
上記反応によって得られるオレフィンポリサルファイドのイオウ含有量としては、通常、10〜50重量%のものが、溶解性,安定性,経済性の点で望ましい。
【0009】
一方、ジアルキルポリサルファイドは、例えば一般式(I)
1 −Sx −R2 ・・・(I)
〔式中、R1 及びR2 は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基又は炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。xは2〜8の実数(詳しくは有理数)を示す。〕
で表される化合物である。
上記一般式(I) におけるR1 及びR2 の具体例としては、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,t−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ドデシル基,シクロヘキシル基,シクロオクチル基,フェニル基,ナフチル基,トリル基,キシリル基,ベンジル基,フェネチル基などが挙げられる。
このジアルキルポリサルファイドとしては、特にイオウを5〜30重量%の割合で含有するものが好ましい。
【0010】
この(B)成分の不活性イオウ系化合物としては、硫化ラードや炭素数6〜15のアルキル基を有するジアルキルポリサルファイド(例えばジノニルポリサルファイド,ジドデシルポリサルファイドなど)が特に好適である。
本発明においては、この(B)成分の不活性イオウ系化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、特に制限はないが、通常は組成物全量に基づき、イオウ分として0.05〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲で選ばれる。この配合量が0.05重量%未満では、極圧性不足となり、工具類の異常摩耗が生じる場合があり好ましくない。また、20重量%を超えると、腐食摩耗の進行を抑制しきれず、生産性に悪影響を及ぼすおそれがあり好ましくない。
【0011】
本発明の金属加工油組成物においては、(C)成分として、過塩基性金属スルホネートが配合される。この過塩基性金属スルホネートとしては、塩基価(JIS K−2501過塩素酸法による)が100mgKOH/g以上、好ましくは200〜600mgKOH/gの範囲にある、カリウムスルホネート,ナトリウムスルホネート,カルシウムスルホネート,マグネシムウスルホネート,バリウムスルホネートなどが用いられる。該塩基価が100mgKOH/g未満では、使用中に劣化により発生する酸性物質に起因する被加工物の錆を充分に防止できない上、廃油の焼却の際には、腐食により炉の破損を生じるおそれがある。
【0012】
この(C)成分の具体例としては、塩基価300mgKOH/gの石油スルホン酸カルシウムや石油スルホン酸ナトリウム、塩基価400mgKOH/gのジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウムやジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。 この過塩基性金属スルホネートは一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は適宜定めればよいが、通常は、組成物全量に基づき、0.05〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%の範囲で選ばれる。この配合量が0.05重量%未満では、(B)成分の不活性イオウ系化合物との併用効果が充分に発揮されず、工具類の異常摩耗を引き起こす場合があり好ましくない。また、50重量%を超えると、油剤の粘度が上昇したり、貯蔵安定性が低下するなど、好ましくない事態を招来する。さらに、油剤の価格上昇の割りに、性能の向上が認められず、この量を超えてまで配合することは経済的に不利となる。
本発明の金属加工油組成物においては、(D)成分として、第一級アルキル型や第二級アルキル型の亜鉛ジチオホスフェート(以下、ZnDTPと略記する)が配合される。このようなZnDTPは、通常一般式(II)
【0013】
【化1】
Figure 0003981159
【0014】
で表される。
上記一般式(II)において、R3〜R6は、それぞれ炭素数10の第一級又は第二級アルキル基(酸素原子が結合している炭素原子が第一級又は第二級である。)を示し、具体的には、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,n−ペンチル基,イソペンチル基,n−ヘキシル基,イソヘキシル基,n−オクチル基,イソオクチル基,n−デシル基,イソデシル基などである。該R3〜R6はたがいに同一でも異なっていてもよい
このZnDTPとして、アリール型DTPを用いると、(B)成分の効果を阻害し、工具類の異常摩耗などを引き起こすおそれがある。
【0015】
本発明においては、この(D)成分の第一級アルキル型ZnDTPや第二級アルキル型ZnDTPは一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、特に制限はなく、各種状況に応じて適宜選定すればよいが、一般的には金属加工油組成物全体に対して、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の割合で配合される。その配合量が0.05重量%未満では、腐食摩耗を抑制する効果が必ずしも十分でなく好ましくない。また、10重量%を超えると、(B)成分の不活性イオウ系化合物及び(C)成分の過塩基性金属スルホネートによる極圧性を阻害する場合があり、工具類の異常摩耗を引き起こすおそれがあって好ましくない。
【0016】
本発明の金属加工油組成物は、前記の各成分(A),(B),(C)及び(D)あるいは(A),(A'),(B),(C)及び(D)から構成されるが、その他に、必要に応じて、(E)成分として、通常切削油や研削油に用いられる各種添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
ここで、必要に応じて用いられる(E)成分の添加剤としては、例えば、塩素化パラフィン,塩素化油脂,塩素化脂肪酸,リン酸エステル,亜リン酸エステルなどの極圧剤、オレイン酸,ステアリン酸,ダイマー酸などのカルボン酸及びそのエステルなどの油性剤、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC),硫化オキシモリブデンジチオホスフェート(MoDTP),硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC),ジチオリン酸ニッケル(NiDTP),ジチオカルバミン酸ニッケル(NiDTC)などの耐摩耗剤、アミン系やフェノール系などの酸化防止剤、チアジアゾール,ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤、アルケニルコハク酸及びそのエステルやイミド、酸アミドなどのスラッジ分散剤、ソルビタンエステル,中性アルカリ土類金属スルホネート,フィネート,サリチレートなどの防錆剤、ジメチルポリシロキサン,フルオロエーテルなどの消泡剤などが挙げられる。
【0017】
なお、本発明の金属加工油組成物は、銅板腐食試験(JIS K−2513,100℃×1時間)の結果が2以下であるものが好適である。2を超えると工具類の異常摩耗を引き起こすおそれがあり、好ましくない。
本発明の金属加工油組成物は、特に切削加工油や研削加工油として好適である。切削加工油の場合、例えば、旋削加工、ドリル,タップ,リーマ,中ぐりなどの穴加工、ブローチ加工、歯切加工、自動盤加工などに好適に用いられる。また、研削加工油の場合、例えば、荒仕上げおよび仕上げ研削加工、クリープフィード研削加工、超仕上げ加工などに好適に用いられる。
【0018】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例,比較例で用いた加工方法は次のとおりである。
Figure 0003981159
実施例1〜8及び比較例1〜5
第1表に示す配合割合で各成分を配合して、各金属加工油を調製した。各金属加工油について、前記加工方法を実施して、その性能を評価した。結果を第2表に示す。
【0019】
【表1】
Figure 0003981159
【0020】
【表2】
Figure 0003981159
【0021】
【表3】
Figure 0003981159
【0022】
注1)S=15重量%(銅板腐食1b)
2)S=20重量%(銅板腐食2b)
3)過塩基性カルシウムスルホネート:TBN=400mgKOH/g
4)過塩基性ナトリウムスルホネート:TBN=500mgKOH/g
5)第一級アルキル型亜鉛ジチオホスフェート
6)Cl=50重量%
7)S=15重量%(銅板腐食4c)
8)S=32重量%(銅板腐食4c)
【0023】
【表4】
Figure 0003981159
【0024】
【表5】
Figure 0003981159
【0025】
【表6】
Figure 0003981159
【0026】
【発明の効果】
本発明の金属加工油組成物は、切削・研削加工や塑性加工など、幅広い金属加工において工具寿命を延長できると同時に、工作機械部品や被削材における銅や銅合金部材の腐食を防止することができ、生産性の向上をもたらすなどの効果を奏する。
したがって、本発明の金属加工油組成物は、特に切削加工油や研削加工油として好適に用いられる。

Claims (4)

  1. (A)鉱油及び/又は合成油からなる基油に対し、(B)活性イオウを含まず、JISK−2513の銅板腐食試験(100℃,1時間)において、判定が3a以下である不活性イオウ系化合物〔ただし、(D)成分に該当する亜鉛ジチオホスフェートを除く〕、(C)過塩基性金属スルホネート、及び(D)下記の一般式(II)
    Figure 0003981159
    [ただし、R3〜R6は、それぞれ炭素数3〜10の第一級又は第二級アルキル基を示し、該R3〜R6はたがいに同一でも異なっていてもよい。]
    で表される亜鉛ジチオホスフェートを配合したことを特徴とする金属加工油組成物。
  2. さらに、(A′)ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリイソブテ
    ン及びオレフィンコポリマーの中から選ばれた少なくとも一種の高分子化合物を配合してなる請求項1記載の金属加工油組成物。
  3. (B)成分の不活性イオウ系化合物が、硫化油脂,硫化ラード,硫化エステル,硫化脂肪酸及びポリサルファイドの中から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2記載の金属加工油組成物。
  4. 金属加工が切削加工及び/又は研削加工である請求項1又は2記載の金属加工油組成物。
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