JP3979518B2 - 高純度金属の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、O、C、N、H、F、S等(以下、特に記載しない限り、「ガス成分」と記載する。)を多量に含有する粗金属から、該ガス成分を大幅に減少させることのできる高純度金属の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、磁性材料、磁気記録材料、高弾性材料、半導体材料等に高純度クロム、マンガン等の高純度金属が使用されるようになってきたが、これらの粗金属には、O、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有されている。したがって、上記のような用途に使用する場合には、このような不純物を含有する粗金属から該ガス成分等を減少させることが要求される。
例えば、高純度クロムを製造する方法として、通常6価の粗クロムを電解精製して高純度クロムを得る方法や水素や炭素等の還元剤あるいは脱硫剤を添加して高純度化する方法が提案されているが、6価の粗クロムは有毒であり取扱いに危険が伴うという問題があり、また還元剤及び脱硫剤を使用する方法は工程が煩雑となりコスト高となる欠点があった。
【0003】
このようなことから、安全にかつ低コストで製造できる方法の検討がなされてきた。そこでクロム等の金属特有の蒸気圧が高いことを利用して、高周波溶解炉を使用して真空蒸留を行った。しかし、クロム等を真空蒸留する場合、2000°C程度まで高温に加熱する必要がある。
溶解する坩堝を2000°Cに上げるためには、坩堝材料や溶解装置を耐熱性に優れた特別なものを使用しなければならず、また坩堝材料からの汚染の問題もあり、かえってコスト高になるという問題があり、高周波溶解炉を使用して真空蒸留する高純度化は断念せざるを得なかった。
【0004】
【発明が解決しょうとする課題】
以上から、本発明はO、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗金属から、該ガス成分を大幅に減少させることのできる高純度金属の製造に際し、クロム等の金属特有の蒸気圧が高いことを利用するとともに、低コストでかつ安全性が高い金属の製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
1.O、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗金属を電子ビーム溶解し、揮発した金属を凝縮して高純度金属を得ることを特徴とする高純度金属の製造方法。
2.金属がクロム又はマンガン、カルシウムであることを特徴とする上記1記載の高純度金属の製造方法。
3.坩堝中に粗金属を入れ、該粗金属に電子ビームを照射して金属を溶解揮発させ、凝縮容器の天井等に凝縮した高純度金属を回収することを特徴とする上記1又は2記載の高純度金属の製造方法。
に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の一例について、図を使用して説明する。図1は本発明に使用する電子ビーム溶解装置の断面概念説明図であり、銅製等の水冷坩堝1に精製前のO、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗金属2を導入する。
坩堝1の上部に凝縮容器3を設置する。凝縮容器3の材料としては、鉄、ステンレス、グラファイト等の材料を使用することができる。しかし、特に汚染物質が存在しない限り、特に上記材料に制限される必要がなく、他の材料を使用することもできる。
該凝縮容器3の一部には粗金属2に電子ビーム4等を照射する窓5が開けられている。電子ビーム溶解装置の真空度は1×10−2〜1×10−5mmHg程度に維持する。電子ビームによる溶解は0.1A〜10Aで実施する。なお、この電子ビーム溶解の出力は、溶解蒸発させ精製する金属の種類等に応じて適宜制御することができ、必ずしも上記に制限される必要はない。
【0007】
電子ビーム4の粗金属2への照射により、電子ビームスポットに金属の溶融プールが形成されるが、クロムやマンガン等の金属は蒸気圧が極めて高いので直ちに蒸発し、主として1500°C以下に保持された凝縮容器3の天井や側壁に金属クロム、金属マンガン等の蒸留金属6が付着する。この凝縮容器3の保持温度は高純度化する粗原料金属材料によって、適宜調節する。
上記のように、蒸気圧が極めて高いクロム、マンガン等の金属は直ちに蒸発するので、粗原料を保持する坩堝は上記のように、銅製等の水冷坩堝1を使用することができる。したがって、高周波溶解等で使用するような高耐熱性の坩堝材料を使用する必要はない。
そして、粗原料中に含まれる酸化クロム、二酸化マンガンやその他の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物等の蒸発し難い物質は坩堝1内に残存し、また揮発するガス成分は凝縮容器3外に排出される。
以上の結果、凝縮容器3の天井や側壁に付着した金属クロム、金属マンガン等の蒸留金属6は蒸気圧の差異から優先的かつ選択的に、O、C、N、H、F、S等のガス成分含有量が総量で200ppm以下の極めて純度の高い5Nレベルの高純度クロム、金属マンガン等の金属が得られる。
なお、凝縮容器3の坩堝に近い側壁にはスプラッシュによる低純度の物質が付着する場合があるが、その場合にはその部分は回収高純度クロム、高純度マンガン等の金属から除外する必要がある。
【0008】
この凝縮容器3の天井や側壁に付着した金属クロム、金属マンガン等の金属6は電子ビーム溶解後、冷却して取り外す。この金属クロム、金属マンガン等の蒸留金属6は容易に剥がすことができる。このようにして得たO、C、N、H、F、S等のガス成分含有量が総量で200ppm以下である高純度クロム、金属マンガン等の蒸留金属を、真空溶解、鋳造等の工程を経て電子部品等に使用するクロム、マンガン等の薄膜を形成するスパッタリングターゲットに加工することができる。
このような高純度ターゲットは薄膜の特性を改善するだけでなく、O、C、N、H、F、S等のガス成分に起因するスパッタリング中のスプラッシュ、異常放電、パーティクル等の発生が減少するという著しい特長を有する。
以上については、主としてクロム及びマンガンの高純度化について説明したが、本発明の電子ビームによる精製によるO、C、N、H、F、S等のガス成分の除去、すなわちクロムやマンガンと同様に蒸気圧の高いCa、Pb、Sn、Be、Ni、Si等の金属の精製に有効である。
【0009】
【実施例】
次に、実施例に基づいて説明する。なお、これらは本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0010】
(実施例1)
図1に示すような電子ビーム溶解装置を使用し、銅製の水冷坩堝に精製前のO、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する3Nレベルの粗クロム(原料)5kgを導入した。この原料の化学分析値を表1に示す。
坩堝の上部に位置する凝縮容器の材料としては、純鉄を使用した。該凝縮容器の一部に開口した窓から原料粗クロムに電子ビームを照射した。電子ビーム溶解装置の真空度は1〜2×10−4mmHg(≒1.33〜2.66×10−2Pa)に維持した。電子ビームによる溶解を1.2Aで1時間、実施した。
【0011】
粗クロム原料への電子ビーム照射により、電子ビームスポットに金属クロムの溶融プールが形成されたが、その範囲は小さく、クロムは直ちに蒸発し、1500°C以下に保持された凝縮容器の天井や側壁に金属クロムが付着した。
上記のように、金属クロムは蒸気圧が極めて高く直ちに蒸発するので、原料を保持する銅製の水冷坩堝が溶損や破壊することは全くなかった。
そして、粗原料中に含まれる酸化クロムやその他の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物等の蒸発し難い物質は坩堝内に残存した。またその他の揮発したガス成分は凝縮容器外に排出された。
凝縮容器の天井や側壁に付着した金属クロムは蒸気圧の差異から、O、C、N、H、F、S等のガス成分含有量が総量で200ppm以下の極めて純度の高い5Nレベルの高純度クロムが約1kg得られた。
【0012】
電子ビーム溶解後冷却し、凝縮容器の天井や側壁に付着した金属クロムを剥がした。この剥離は極めて容易であった。
このようにして得た金属クロムの化学分析により測定した。その結果を同様に表1に示す。表1に示すように、酸素の低減が著しく、またO、C、N、H、F、S等のガス成分の総量は200ppm以下の4Nレベル以上の高純度クロムが得られた。
このようにして得た高純度クロムを、真空溶解、鋳造等の工程を経てスパッタリングターゲットに加工した。このターゲットを使用してスパッタリングを実施したところ、3Nレベルの粗クロムに比べ、O、C、N、H、F、S等のガス成分に起因するスパッタリング中のスプラッシュ、異常放電、パーティクルの発生が著しく減少した。
【0013】
【表1】
【0014】
(実施例2)
実施例1と同様に、図1に示すような電子ビーム溶解装置を使用し、銅製の水冷坩堝に精製前のO、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗マンガン(原料)5kgを導入した。この原料の化学分析値を表2に示す。
実施例1と同様に、坩堝の上部に位置する凝縮容器の材料として純鉄を使用した。該凝縮容器の一部に開口した窓から原料粗マンガンに電子ビームを照射した。電子ビーム溶解装置の真空度は1〜2×10−4mmHg(≒1.33〜2.66×10−2Pa)に維持した。電子ビームによる溶解を1.2Aで1時間、実施した。
【0015】
粗マンガン原料への電子ビーム照射により、電子ビームスポットに金属マンガンの溶融プールが形成されたが、その範囲は小さく、マンガンは直ちに蒸発し、1500°C以下に保持された凝縮容器の天井や側壁に金属マンガンが付着した。実施例1と同様に、金属マンガンは蒸気圧が極めて高く直ちに蒸発するので、原料を保持する銅製の水冷坩堝が溶損や破壊することは全くなかった。
そして、粗原料中に含まれる二酸化マンガンやその他の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物等の蒸発し難い物質は坩堝内に残存した。またその他の揮発したガス成分は凝縮容器外に排出された。凝縮容器の天井や側壁に付着した金属マンガンは蒸気圧の差異から、O、C、N、H、F、S等のガス成分含有量が総量で100ppm以下の極めて純度の高い5Nレベルの高純度マンガンが約1kg得られた。
【0016】
電子ビーム溶解後冷却し、凝縮容器の天井や側壁に付着した金属マンガンを剥がした。実施例1と同様に、この剥離は極めて容易であった。
このようにして得た金属マンガンの化学分析により測定した。その結果を、同様に表2に示す。表2に示すように、酸素の低減が著しく、またO、C、N、H、F、S等のガス成分の総量は100ppm以下の4Nレベル以上の高純度マンガンが得られた。
実施例1と同様に、このようにして得た高純度マンガンを、真空溶解、鋳造等の工程を経てスパッタリングターゲットに加工した。このターゲットを使用してスパッタリングを実施したところ、粗マンガンに比べ、O、C、N、H、F、S等のガス成分に起因するスパッタリング中のスプラッシュ、異常放電、パーティクルの発生が著しく減少した。
【0017】
【表2】
【0018】
【発明の効果】
O、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗金属から、電子ビームによりクロム、マンガン等の金属特有の蒸気圧が高いことを利用し、高純度化を目的とするクロム、マンガン等の金属を選択的に蒸発・凝縮させて該ガス成分を大幅に減少させ、低コストでかつ安全性が高い金属の製造方法を提供するものであり、さらに、これによって得られた高純度金属、高純度金属からなるスパッタリングターゲット及びスパッタリングにより形成した薄膜を提供することができるという優れた効果を有する。
また、これによって得られた高純度ターゲットは、薄膜の電気・磁気的特性又は化学的特性を改善するだけでなく、O、C、N、H、F、S等のガス成分に起因するスパッタリング中のスプラッシュ、異常放電、パーティクル等の発生が減少するという著しい特長を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用する電子ビーム溶解装置の断面概念説明図である。
【符号の説明】
1 坩堝
2 粗金属
3 凝縮容器
4 電子ビーム
5 窓
6 金属クロム、金属マンガン等の蒸留金属
Claims (3)
- O、C、N、H、F、S等のガス成分を多量に含有する粗金属を電子ビーム溶解し、揮発した金属を凝縮して高純度金属を得ることを特徴とする高純度金属の製造方法。
- 金属がクロム又はマンガンであることを特徴とする請求項1記載の高純度金属の製造方法。
- 坩堝中に粗金属を入れ、該粗金属に電子ビームを照射して金属を溶解揮発させ、凝縮容器の天井等に凝縮した高純度金属を回収することを特徴とする請求項1又は2記載の高純度金属の製造方法。
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