JP3978014B2 - 形状記憶ポリマーの塑性加工方法 - Google Patents

形状記憶ポリマーの塑性加工方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、部品を本体に組み付けたり、部材同士を結合させたりするなど、物と物との締結を行う締結部品、特にねじ、ボルト、ナット、リベット、クリップ、クランプ、スナップフィット等のファスナー、などの締結体類に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子機器、家電製品をはじめとする電化製品、機械製品等は多くの部品から成り立ち、ねじやリベットを始めとする多くの締結部品で組み立てられている。ところが、これら製品を分解・リサイクルして資源を有効利用するためには、分解コストが大きな問題となっている。形状記憶材料(合金およびポリマーなど)からなる締結体を用いれば、ある温度を境に形状を変化させ、締結力を無くすことも原理的には可能となるので、分解・リサイクルと前提とした製品の締結体としては非常に優れている。よって、このような加熱分解コンセプトに基く締結体の実現が待望されていた。
【0003】
形状記憶材料を用いた締結体としては、加熱形状回復特性を用いて締結を行う締付ピンへの応用が、合金、ポリマーとも既に掲載されている(入江正浩監修:「形状記憶ポリマーの材料開発」、CMC、p.25、1989.)。さらには、同様な特性を利用して締結とは逆の分解機能を実現する締結体に関しても、基本的な提案は既に開示されている(例えば、特開平7−4407)。しかし、このような締結力に温度依存性を持たせた締結体に関しては、基本的な提案こそなされてはいるものの、未だに実用化はなされていない。これは、合金であれ、ポリマーであれ、従来試作が行われてきた材料では、その形状回復特性が小さかったり、加工(2次賦形あるいは2次成形)が難しかったからである。したがって、十分な成形性と形状回復特性とを有する材料を見出すことが実用化へ向けての第1ステップとなり、最終的にはコスト評価も必要となる。
【0004】
この材料選択に関して、合金とポリマーを比較した場合、形状回復特性はポリマーの方が圧倒的に大きい。合金ではその値は通常10%に満たないが、ポリマーでは100%を超えるものも存在する。また、コスト的にも圧倒的に有利である。代表的な形状記憶合金であるTi−Ni系合金が数十万円/kgなのに対して、形状記憶ポリマーは概ね5000円/kgと安い。このように形状記憶ポリマーは、形状回復特性に優れているため設計の自由度が大きく、低コストであるため現行の締結体を置き換える場合にも圧倒的に有利である。したがって、本発明者らはかかる理由から材料としては形状記憶ポリマーを選択し、締結体への適用を検討した。上記したように材料的に優れた形状記憶ポリマーではあるが、加工(2次賦形)技術に関しては、実用上大きな問題が存在していた。
【0005】
形状記憶ポリマーの成形法は、一般に射出成形、押出し成形、注型成形、ブロー成形等であり、これらの手法により所望の形状を成形・記憶することができる(1次賦形あるいは1次成形)。この状態から変形を行うためには、ガラス転移温度Tg以上に加熱し、ポリマーをゴム領域に遷移させる。一旦ゴム状態にしてやれば、容易に変形させることが可能となり、変形状態を保ったままTg以下に冷却すれば、その形状を固定化することができる。通常はこのようにして1次賦形した形状に対して新たな形状を付与している(2次賦形あるいは2次成形)。2次賦形後の成形品は、一時的に強制固定されている可逆相(ソフトセグメント)によりその変形状態が保たれているだけなので、再びTg以上に加熱してやれば、ゴム状態になり記憶形状(1次賦形の形状)を回復させることができる。
【0006】
ところが、加熱後に塑性変形を施し、冷却によって形状を固定するこの2次賦形法(加熱成形・冷却固定法)は、昇温・降温のヒートサイクルを必要とするために時間がかかり、生産性が低く、コストもかかる方法であり、量産には用いられていなかった。そこで本発明者らは、生産性は劣るものの成形精度が比較的高い加熱成形・冷却固定という手法に加えて、ポリマーに対しては従来ほとんど試みられていなかった生産性の高い冷間塑性加工法を、2次賦形法として検討するに至った。しかし、形状記憶ポリマーは粘弾性体であるために金属に比べて塑性変形能が小さく、また変形によって容易に白化・脆化を起こすために冷間塑性加工自体、非常に困難を伴う手法であることが予想され、事実、その通りであった。具体的には代表的な塑性加工方法であるプレス加工、圧造加工、転造加工を実際に試みたが、金属で従来用いられてきた条件では十分な変形量を得ることができなかった。
【0007】
塑性加工が難しいことを具体的に説明するために、転造加工法を取り上げる。この成形法は、転造素材を複数(通常2つ)のダイスの間で転がすことによってダイスに刻まれた形状を転写する方法であり、代表的な締結体であるねじ製造に用いられている。この転造法は転造速度がひとつの指標になっており、金属ねじの場合、平ダイス(板ダイス)転造盤による生産速度(ダイスのストローク速度に相当)は通常100〜400本/分程度である。このように高速で転造を行うのは、生産性を確保するためでもあるが、高速転造の方が表面が平滑になるとも言われている。また、低速転造は、フライホイールの慣性を利用できないのでモーターに大きな負荷がかかってしまい、構造上好ましくない。このときの素材の転造速度(素材転がりの外周の速度)は、JISによるM6クラスのねじでは、20〜80cm/sec程度のスピードとなっている。
【0008】
ポリマーの転造に関しては、報告例が非常に少ないが、例えば、ポリプロピレンでは、あまりにも低速ではねじ山が立たず、望ましくは20cm/sec程度以上の転造速度が必要である(斉当健一:「プラスチックねじの現状と研究の動向」、日本ねじ研究協会誌、22巻、12号、p.385、1991.)。これは、塑性変形能に転造速度依存性があることを示唆するものであり、転造速度を下げていくと塑性変形しにくくなるという材料特性を示しているものと思われる。また、それ以下の低速転造では、ねじ山が立たないことはもちろん、転造時に滑りが生じてしまい、転造成形そのものができなくなってしまうという機構上の問題点も指摘されている。したがって、ポリマーを転造する場合には、転造速度に下限がある可能性を考慮しなければならない。
【0009】
一方、高速転造では、変形熱・摩擦熱によって素材温度が上昇してしまうので、発熱の問題も考慮しなければならない。このような発熱による温度上昇はポリマーにとっては金属よりも影響が大きいはずであり、発熱を抑えるためにも転造速度はある程度遅い方が望ましいと思われる。というのは、ポリマーでは熱伝導率が金属よりも低いために熱が拡散しにくく、さらに温度上昇により材料特性が大きく変化してしまうからである。特に熱可塑性樹脂である形状記憶ポリマーの場合には、素材がガラス転移温度Tg以上に昇温してしまうと、転造時に一旦成形されたねじ山が転造ダイスから離脱直後に形状回復してしまい、ねじ山が十分に立たない可能性が予想され得る。
【0010】
以上の検討に基き、ねじ外径の転造速度依存性を測定したところ、前記報告に記載されたポリプロピレンにおける望ましい転造速度(20〜50cm/sec程度)であってもねじ山はほとんど立たなかった。なお、この実験で用いた形状記憶ポリマーはポリウレタン系のものであり、ガラス転移温度は55℃と室温よりも十分に高いものを選んだ。また、発熱を考慮して冷却を行った。この転造における実例が示す通り、形状記憶ポリマーを塑性加工するためには、金属とは異なる効果を考慮しなければならず、当然ながら金属とは加工条件も異なる。さらに、報告例があるポリマーの加工条件を直接適用することもできなかった。このように従来技術では、形状記憶ポリマーに効率よく二次賦形を施すことができず、結果として、加熱分解機能を有する締結体を形状記憶ポリマーで実用化することはできなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べてきたように、ある温度を境に形状を回復する形状記憶材料を用いて、締結力に温度依存性を持たせた締結体に関しては、形状回復特性、コスト、成形法、全ての点でそれを実用化し得る具体的な材料が未だ明らかになっておらず、形状回復度、材料コストの点で形状記憶ポリマーを選んでも生産性の高い二次賦形方法はなかった。
したがって、室温で十分な締結力を持ちながらも、ガラス転移温度Tg以上で締結力を失う締結体は未だ実現されておらず、量産はもちろんのこと、上記分解機能を有する締結体の実現そのものが大きな課題であった。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、室温では十分な締結力を持ちながらも、ガラス転移温度Tg以上で締結力を失う締結体の実現を目的にしている。具体的にはこのような締結体に適した形状記憶ポリマーを選定・開発するとともに、二次賦形法として加熱成形・冷却固定法を適用したり、冷間塑性加工方法を新たに開発することである。
さらには、これら材料や加工方法を用いて現実的な締結部品および分解方法を提供することである。後者に関しては、さらに次のような課題が考えられる。例えば、形状回復特性が不完全な場合には、加熱しただけでは分解は達成されないので、そのような場合でも分解を実現する手法も必要となることが予想される。
【0013】
【課題を解決するための手段】
以上述べてきた課題を解決し、本発明の目的とするところを達成するために、本発明においては加熱によって容易に分解が可能な締結体というコンセプトを実現し得る材料の選定・開発を第一に行った。本発明者らが選定した形状記憶ポリマーは、ポリウレタン系形状記憶ポリマー(三菱重工業(株)開発、商標名ダイアリィ)である。400%もの形状回復特性を有し、材料コストも3000円/kg程度と安い。また、表1に示す通り、形状回復温度(ガラス転移温度Tg)の範囲が他の形状記憶ポリマーに比べて広いので、分解温度を設定する際の自由度が大きく、異なるTgを持つ締結体を用いれば、分解温度を段階的に上げることによって選択的な分解も可能になる。また、高温側までその範囲が伸びているため、製品の通常の使用温度と分解温度との差を大きく取ることができ、誤分解の危険性を極力小さくすることができる。
【0014】
【表1】
Figure 0003978014
【0015】
第二の課題、すなわち、この材料の塑性加工方法に関しては、実際に実験・試作を行い、その条件を新たに見出した。二次賦形法としては、転造をメインに用い、直径Φ5.2mmの丸棒素材を用いてM6クラスのねじへの成形性を詳細に検討した。結果として、塑性変形量は、転造速度(歪み速度)と加工温度に大きく依存していることを見出し、それぞれに対して加工に必要な条件を導き出した。以下、課題を解決するための手段をその作用とともに記述する。
【0016】
図2は、ねじ外径の張り方に転造速度依存性があることを明らかにしたグラフである。実施例での説明の通り、ねじ山を立たせるためには、少なくとも転造速度が20 cm/sec以下でなければならず、特に好ましい転造速度は、成形性から5cm/sec以下である。なお、ねじサイズをM6クラスから変更した場合を考えると、実施例での説明の通り、加工前の素材軸外径をd0とすると、上述した転造速度条件は、20×(d0/5.2)cm/sec以下と書き換えることができる。また、特に好ましい条件は、5×(d0/5.2)cm/sec以下となる。
【0017】
図3は、転造における応力−歪み特性に一軸近似を適用して、図2の転造速度を歪み速度に変換したグラフである。実施例での説明の通り、少なくとも14sec-1以下の歪み速度で塑性加工を行わなければならず、特に好ましい条件は、成形性から4sec-1以下の歪み速度である。したがって、発明は、本形状記憶ポリマーの塑性加工法において、上記歪み速度の条件を設定することによって、塑性加工の実現を図ったものである。
【0018】
また、発明は、前記形状記憶ポリマーの転造加工法において、転造速度の条件を設定することによって、転造加工の実現を図ったものである。本条件は雄ねじ部品ばかりではなく、ナットなどの雌ねじ部品に関しても同様に成り立つ。
図4は、ねじ外径(ねじ山の成形性)に現れる冷却の効果を示したグラフである。実施例での説明の通り、ねじ山を立たせるためには、少なくともTg−(55−10) ℃以下の冷却が必要になり、特に好ましい条件は、成形性からTg−80 ℃以下である。
【0019】
したがって、本発明は、前記形状記憶ポリマーの塑性加工法において、上記冷却温度の条件を設定することによって、塑性加工の実現を図ったものである。
以上述べてきたように、本発明者らは、加熱によって容易に分解が可能な締結体を実現するための具体的な手段として、ポリウレタン系の形状記憶ポリマーを選定し、さらに、任意の形状に成形するための塑性加工方法を新たに開発した。また、加熱成形・冷却固定法によっても十分な二次賦形が可能なことを確認した。実用上は、第三の課題として、本材料および本加工方法の組合わせによる成形品が実際に十分な形状回復特性を示し、加熱による分解が容易に行えるかどうかが重要であるが、これは試作によって確認しており、実施例の中で詳しく述べる。
【0020】
これら材料、加工方法を組合わせて実現でき、加熱分解機能を有する締結体の典型的な例を図1に示す。図はポリウレタン系形状記憶ポリマーからなるねじと金属ナットによって構成される締結体を示したもので、図1(a)は室温における嵌合状態を示したものである。二次賦形によって形成され締結機能を担う雄ねじと金属ナットの雌ねじが嵌合している。この締結体をTg以上に加熱すると雄ねじがほぼ完全に消滅し、ナットが脱落して分解が完了する。この状態を図1(b)に示す。本発明は、このような加熱分解機能を有する締結体の作製方法と様々な構造について開示していく。
【0021】
前述した本発明の作用をまとめると以下のようになる。本発明によれば、ポリウレタン系形状記憶ポリマーの材料特性を反映した塑性加工条件を指定することにより、従来困難であった冷間塑性加工による2次賦形を可能できる。そして本発明によれば、ポリウレタン系形状記憶ポリマーを用いることによって、加熱によって容易に分解できる締結体を実現することが可能であり、さらに、上記加工方法を用いた締結体の基本構成を与えることにより、締結機能部分が加熱によって形状回復し、締結力を失う締結体を実現できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を、具体的な実施例として図面を用いて説明する。
まず、本発明の第一の実施例に係わる形状記憶ポリマーの加工方法および製造装置を説明する。本発明者らが選択したポリウレタン系形状記憶ポリマーに関しては冷間塑性加工方法のデータがなく、実際に実験・試作を行い、その条件を新たに見出した。二次賦形法としての冷間塑性加工方法としては、転造をメインに取組んだ。転造に用いた素材は直径がほぼΦ5.2mmの軸部をもつ丸棒もしくはねじとしての頭部を有する素材であり、M6クラスのねじへの成形性を詳細に検討した。結果として、残留歪み量(塑性変形量、永久変形量)は、転造速度(歪み速度)と加工温度に大きく依存していることを見出し、それぞれに対して加工に必要な条件を導き出した。
まず、図2は、ねじ外径の張り方に転造速度依存性があることを明らかにしたグラフである。データは平ダイス(板ダイス)転造盤、丸ダイス転造盤によるものであり、転造速度を変えた以外は標準的な条件で転造を行った。転造速度(素材転がりの外周の速度)が20cm/sec以上では、ねじ山がほとんど立っていないので、ある程度ねじ山を立たせるためには、少なくとも20cm/sec以下の転造速度でなければならないことが明らかとなった。また、特に好ましい転造速度は、最大塑性変形量のおよそ7割を確保でき、十分な締結力が得られる5cm/sec以下である。これは、塑性変形能が歪み速度によって変わるという材料特性を反映したものであり、本材料では、歪み速度を低減することによって塑性変形能が改善され、成形性が向上することが明らかとなった。
【0023】
なお、ねじサイズをM6クラスから変更した場合を考えると、ねじ形状、したがってダイス形状ともJISに規定されたメートルねじでは、ねじサイズの大小によらずその形状はほぼ相似の関係を示すため(ねじ外径と素材径との比は1.1程度になる)、歪み速度は回転速度によってほぼ決定される。したがって、ねじサイズを考慮して加工前の素材(ブランク材)の軸径(ブランク径)をd0とすると、上述した転造速度条件は、20×(d0/5.2)cm/sec以下と書き換えることができ、特に好ましい条件は、5×(d0/5.2)cm/sec以下となる。したがって、効果的な加工のためにはこれらの条件を含む速度で加工を行なう必要がある。なお、これらの条件には転造速度を0に保持する場合も含まれる。
【0024】
図3は、図2の転造速度を歪み速度に変換したグラフである。ダイスで圧縮された素材のスプリングバックを十分に小さいとみなし、一軸変形の近似を適用すると、歪み速度は転造速度と素材軸中心に対するダイス面(山部)の圧縮速度を用いて、以下の(7)式のように表すことができる。
【数1】
Figure 0003978014
このグラフより、ねじ山を立たせるためには、少なくとも14sec-1以下の歪み速度で塑性加工を行わなければならないことがわかる。特に好ましい条件は、転造速度の場合と同様な理由により4sec-1以下の歪み速度である。したがって、効果的な加工のためにはこれらの条件を含む速度で加工を行なう必要がある。なお、これらの条件には歪み速度を0に保持する場合も含まれる。ここでは、圧縮速度νに関して、平ダイスの場合は食付き部の角度、丸ダイスの場合はダイスの寄り速度を用いて計算を行った。このように、一旦、歪み速度に換算し、これを指標にすれば、標準的な条件から外れた転造加工、さらには、転造以外の塑性加工法にも容易にその条件を適用することができ、非常に有用である。実際に、圧造やプレス加工といった他の塑性加工法で残留歪み量(塑性変形量)の歪み速度依存性を確かめたところ、転造と同様な傾向が得られた。したがって、本条件は本材料に対する塑性加工法一般に適用可能である。
【0025】
図4は、ねじ外径(ねじ山の成形性)に現れる冷却の効果を示したグラフである。実験に用いた形状記憶ポリマーのガラス転移温度Tgは55℃である。このグラフより、ねじ山を立たせるためには、少なくとも10℃程度以下と室温よりも低い温度に強制冷却することが効果的であることがわかる。これは転造によって生じた発熱を強制的に取り除く効果に加え、塑性変形直後に生じるスプリングバック量の温度依存性を利用してスプリングバック量を減少させた結果とも考えられる。本形状記憶ポリマーはTgの移動によって応力−歪み特性の温度依存性もほぼ平行に移動すると考えられるので、異なるTgの材料に対しては、少なくともTg−(55−10) =Tg−45℃以下の冷却を行う必要がある。特に好ましい条件は、最大変形量の7割を確保できるTg−80 ℃以下である。この条件は、言うまでもなく、他の塑性加工法にも適用可能である。したがって、本ポリウレタン系形状記憶ポリマーの塑性加工を行うためには、転造速度(歪み速度)を低減するとともに、素材を十分に冷却することが非常に効果的であるということがわかった。
【0026】
図5は、この加工法を実現する製造装置の説明図である。図5においては、加工方法として丸ダイス転造盤による転造加工法を取り上げているが、転造装置としては平ダイス(板ダイス)転造盤やプラネタリー転造盤、あるいは雌ねじ転造盤(タッパー)でもかまわない。丸ダイス転造法は回転する二つの丸ダイス51A、51Bの間に形状記憶ポリマーからなる素材52(ここでは丸棒材)を挟み込み、ダイス面を押し当てることによりダイスに刻まれた形状を転写する加工方法である。最終的に締結体に加工する場合の素材は頭部を含めて注型や射出成形で作製しておく。
【0027】
既に、図2、図3で示したように、歪み速度14sec-1以下、および転造速度3.8×d0cm/sec以下(d0は素材軸径)を実現するためには、駆動モーターとして低速タイプのものを用いるか、あるいはギア機構を設けて速度を低減しなければならず、ここでは高速仕様との互換性を考慮してギア機構を用いている。ダイスの回転移動速度は数値制御されるが、転造速度(素材の転がり速度)としては、成形性からして特に0.96×d0cm/sec以下の転造速度が望ましく、これは金属素材の転造速度と比較すると超低速である。しかし、素材が柔らかいポリマーであるため、大きなトルクは必要としない。
【0028】
53は冷却ガス吹き付けタイプの冷却装置であり、図4に示した冷却温度条件(Tg−45℃以下)をクリアできる能力を有し、断熱冷却によるマイナス数十℃の冷却ガス54を吹き付けることができる。温度センサー55は吹き付けノズル56に装備されており、ほぼ素材の温度を表示することができる。ここでは、冷却材としてガスを用いたが、液体を滴下してもよい。また、素材を搬送系の供給口付近57で同様な手法を用いて冷却し、かつダイスをペルチェ素子などの冷却デバイスで冷却するなど、素材とダイスを個別に冷却してもかまわない。さらに、室温以下に冷却する場合には、転造盤の結露を防ぐため、素材、ダイス周辺に乾燥エアーを流す。
【0029】
ここでは、転造盤について本加工法を実現する機構を示したが、圧造ヘッダーやプレス成形機でも同様に考えることができる。以上、本発明の第一の実施例、製造方法に関する実施例を記述した。
【0030】
次に、本発明の第二の実施例に係わる形状記憶ポリマーからなる締結体について説明する。まず、図6は第一の実施例に従って作製した雄ねじの形状を示す図であり、用いたポリウレタン系形状記憶ポリマー(商標名ダイアリィ)のガラス転移温度は55℃である。鋼製ねじと同様な転造条件(転造速度:33cm/sec、転造温度:室温)では、素材軸外径Φ5.24mmに対して加工後の軸外径はΦ5.26mmとほとんどねじ山は立たなかったが、転造速度を1cm/secまで落し、−45℃の強制冷却を行った結果、図6に示す雄ねじ形状が得られた。形状記憶ポリマーに二次賦形で締結機能を有する形状を付与したのは、恐らくこれが初めてだと思われる。また、70℃に1分間保持して形状回復特性を確認したところ、図に示した通り、ほぼ完全に形状回復した。数値データを表2に示す。
【0031】
【表2】
Figure 0003978014
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリウレタン系形状記憶ポリマーの材料特性を反映した塑性加工方法により、従来困難であった冷間塑性加工法を可能にした。これによって、ポリウレタン系形状記憶ポリマーの二次賦形が量産レベルで可能になり、複雑な形状を持ち、加熱形状回復特性を有するなど付加価値の高い形状記憶ポリマー製品を安価で大量に供給できるようになる。また、本発明によれば、加熱によって形状を回復する製品、特に締結体を製造することが可能となり、これによって、室温では十分な締結力を持ちながらも、ガラス転移温度Tg以上で締結力を失う締結体の実用化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 形状記憶ポリマーからなる加熱分解機能を有する締結体の概念図である。
【図2】 ねじ外径の転造速度依存性を示す特性図である。
【図3】 ねじ外径の歪み速度依存性を示す特性図である。
【図4】 ねじ外径の転造温度依存性を示す特性図である。
【図5】 本発明の第一の実施例に係わる製造装置の説明図である。
【図6】 本発明の第二の実施例に係わる雄ねじの形状と加熱形状回復後の形状を示す説明図である。
【符号の説明】
11 形状記憶ポリマーからなるねじ
12 二次賦形によるねじ
13 形状回復して消滅したねじ部
14 ナット51A、51B 丸ダイス
52 転造素材
53 冷却装置
54 冷却ガス
55 温度センサー
56 吹き付けノズル
57 搬送系

Claims (1)

  1. ポリウレタン系形状記憶ポリマーの転造加工を含む塑性加工において、4sec -1 以下の歪み速度を用い、加工前の素材径をd0としたときに軸回転の周速に関して5×(d 0 /5.2)cm/sec以下の周速を用い、上記ポリウレタン系形状記憶ポリマーのガラス転移温度をTgとしたときに、Tg−80℃以下に該ポリマーを冷却し、上記素材が軸部をもつ丸棒であることを特徴とする形状記憶ポリマーの塑性加工方法。
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