JP3977262B2 - コンクリートパネル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリートパネル吊り上げ用のパネル吊り具が埋設されたコンクリートパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術として、特開平5−51996号公報(特許文献1)に記載されたコンクリートパネル(以下、パネルという。)の吊り具および吊り上げ方法が知られている。
すなわち、図5に示すように、パネル10の上小口面に垂直な縦孔13と、パネル壁面にその縦孔13へ連通する横孔14とがドリル等により形成されている。
そして、吊上げ部材18が上端に螺合された棒状部材12を、縦孔13内へ上方から挿入する。そして、固定ボルト15にワッシャ、パネル取付金具16及び筒状部材11を挿通させて、この固定ボルト15の先端部を棒状部材12の側面に設けられたねじ孔に螺合させる。
【0003】
これにより、縦孔13内の棒状部材12と横孔14内の固定ボルト15とが係合された状態となり、クレーンのフックを吊上げ部材18に係止させてパネルを吊上げることができるようになる。
なお、図5は、パネル吊り上げ時に用いた固定ボルト15、筒状部材11および取付金具16を利用して、建物躯体20に固定されたアングル21にパネルが取付けられている状態を示している。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−51996号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記パネル吊り上げ方法において以下の問題点があった。
すなわち、図5に示すような棒状部材12と固定ボルト15とを係合させた状態でパネルを吊上げると、筒状部材11の上部が当接する横孔14の内側面にパネル10の全荷重が負担されるようになる。
このため、筒状部材11上部が当接して荷重集中するパネル内側面の近傍にひび割れや亀裂が発生することがあり、また、筒状部材11に対する十分な引き抜き荷重を備えているとは言えなかった。
さらに、横孔が上小口面近くに穿孔されていたり、パネル厚が薄かったり、また、パネル材質が脆弱な軽量気泡コンクリートであったりすると、前記ひび割れや亀裂の発生状況が大きく影響を受けていた。
そこで、本発明の目的は上記問題点を解決して、パネル吊り具に対する十分な引き抜き荷重を備えたコンクリートパネルを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するために、棒状体と挿通部材とからパネル吊り具が構成されており、コンクリートパネルの上小口面に縦孔とその壁面に前記縦孔に連通する横孔とが形成され、該縦孔に挿通された前記棒状体と該横孔に挿通された前記挿通部材とがパネル内部で係合されているパネル吊り具を埋設したコンクリートパネルであって、前記パネル吊り具は、前記棒状体の一方端の内部に吊り上げ用係合部が設けられており、さらに、その棒状体の外周面が前記横孔と上小口面との間に設けられて縦孔に連通する注入孔から注入された接着材により前記縦孔の内側面に固着されているコンクリートパネルとした。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1はパネル吊り具2がパネル1の上小口面に埋設される状態を示す斜視図、図2はパネル吊り具2を埋設したパネル1の断面図、図3はパネル吊り具2の平面図、図4はパネル吊り具2の正面図をそれぞれ示す。
図1に示すように、本発明は、パネル1の上小口面1aに縦孔3、およびパネル壁面1bにその縦孔3に連通する横孔4が形成され、縦孔4に挿通されたパネル吊り具2の棒状体2bと横孔4に挿通された挿通部材5とがパネル1の内部で係合されているパネル1である。
【0008】
図4に示すように、パネル吊り具2の棒状体2bの中間部には挿通部材5が挿通される挿通孔2bcが設けられている。
そして、図1および図2に示すように、パネル1の上小口面1aの縦孔3から棒状体2bが挿通された状態で、パネル壁面1bの横孔4から挿通部材5がその挿通孔2bcに挿通される。これにより、パネル吊り具2の棒状体2bと挿通部材5とがパネル1の内部で係合される。
【0009】
さらに、パネル吊り具2は、図1、図3及び図4に示すように、吊り上げ部材8を係合させる吊り上げ用係合部2baがパネル1の上小口面1a側の内部に設けられている。
また、図1及び図2に示すように、棒状体2bの外周面の1/2以上が縦孔3の内側面に接着材7により固着されている。
棒状体2bの外周面が接着材7により縦孔3の内側面に固着されているため、パネル1が吊り上げられた時に、挿通部材5の上部が当接する横孔4の内側面にパネル1の全荷重が掛かることがなくなる。
すなわち、棒状体2bが固着されている縦孔3の内側面にもパネル1の荷重が分散して負担されるようになり、パネル吊り具2の引き抜き荷重が大幅に増大する。これにより、パネル幅が広く重量のある大型パネルであっても吊り上げることが可能となる。
【0010】
そして、挿通部材5上部に当接する横孔4の内側面に荷重が集中しないため、その近傍にひび割れや亀裂が発生しなくなる。
また、横孔4の穿孔位置、パネルの厚さ、またはパネルの材質等により、パネル吊り上げ時に発生していた挿通部材5上部におけるパネルのひび割れや亀裂もなくなる。
また、縦孔3に拡径部3aが設けられているため、横臥されたパネル1を引き起こす際に、棒状体2bが縦孔3の内側面の一部にのみ当接して荷重集中することがなくなるため、パネル1のひび割れや亀裂の発生を防ぐことができる。
【0011】
また、棒状体2bの外周面の1/2以上が接着材7により縦孔3の内側面に固着されていると、縦孔3の固着部分全体にパネル1の荷重が十分に分散されて支持されるようになり望ましい。なお、同様に、挿通部材5が横孔4の内側面に接着材により固着されていると望ましい。
さらに接着材7が弾性接着材であると、パネル横孔4の粗い内側面と棒状体2bとの接着強度を向上させるともに、吊上げ時の荷重が特定部位に集中することがなくなり、パネルの縦孔3または横孔4の内側面に広く分散して伝達されるようになる。
これにより、縦孔3または横孔4の内側面と接着材7との境界面での剥離や、荷重集中によるそれら内側面付近におけるひび割れ、亀裂などをさらに防ぐことができる。
接着材7は変成シリコーン系、エポキシ系の弾性接着材であって、その粘度が10〜300Pa・s/20℃であると流動性が良く充填作業が容易となる。また、その硬さ(ショア−A)は10〜100が好ましく、さらに15〜25が最も好ましい。
【0012】
なお、棒状体2bは直径15mm〜50mm、長さ100mm〜500mmであると本発明の効果がより発揮され、さらに直径25mm〜35mm、長さ250mm〜450mmであると最も好ましい。また、棒状体2bが筒状であると軽量となり望ましい。
挿通部材5は、直径5mm〜20mm、長さ40mm〜130mmである中実な鋼棒、ボルト、ピン、あるいは、筒状のものが使用できる。
棒状体2bの外周面と縦孔3の内側面との隙間は0.2mm〜4mm程度が適切で、0.5〜2mmであると、縦孔3へ棒状体2bを挿通し易いとともに少量の接着材7により強固な接着強度が得られるようになり好ましい。
【0013】
図4に示すように、縦孔3の内側面に固着される棒状体2bの外周面に凹凸部2bbが形成されていると、棒状体2bの外周面への接着材7の掛かりが大きくなるとともに、接着強度も大きくなる。これにより、パネル吊上げ時にパネル吊り具2の引き抜き荷重がさらに向上するようになり好ましい。
この凹凸部2bbが棒状体2bの全長に対して50%〜80%であるとともに棒状体2bの下方に設けてあると、棒状体2bの外周面と縦孔3の内側面との固着面積が十分に得られる。
そして、棒状体の外周面に形成された凹凸部2bbは、深さ0.05mm〜2.0mmの複数溝であると、接着強度が十分に得られて望ましい。
また、その複数溝が、深さ0.1mm以上、溝ピッチ0.5〜2.0mmのローレット目であると、加工作業が一般的で容易であるとともに本発明における効果が大きくなりさらに好ましい。
【0014】
接着材7は、棒状体2bの外周面に予め塗布した状態で縦孔3に挿入する方法がある。しかし、図1または図2に示すように、パネル上小口面2aと横孔4との間の任意のパネル壁面1bの位置に縦孔3内へ連通する注入孔6を設けて、その注入孔6から接着材7を注入することにより、接着材7が縦孔4の内部へ十分に充填されて接着強度がより増加するようになる。
この方法によれば、注入孔6から注入された接着材7は、縦孔3内部において上小口面2aの方向と横孔4の方向との両方向へ隙間なく均等に拡がって行き、さらに、縦孔3の終端に達した接着材7は、挿通部材5と横孔4との隙間を通って横孔4の開口部へと流動してくる。
【0015】
このため、横孔4の開口部の接着材7を観察することにより、縦孔3内部における接着材7が十分に拡がり棒状体2bの外周面に充填されている状況を確認することができる。また、これにより少量の接着材7の注入により棒状体2bを縦孔3に効果的に確実に固着させることができる。
この機能を発揮させるために、縦孔3の終端部付近に横孔4を設けるとともに、棒状部材2bにおける接着材7を充填させたい上小口面2a側の位置と前記横孔4の位置との中央付近に注入孔6を設けることが好ましい。
注入孔6の直径は7mm〜20mmであると、接着材7の注入作業および注入後の注入孔6の埋め戻し補修作業が容易となり好ましい。
【0016】
また、図1または図2に示すように、上小口面2aの開口近傍に近づくにつれて、その直径が除々に拡がる円錐状の拡径部3aが縦孔3に設けられていると、横臥されたパネル1を引き起こす際に、上小口面2aの近傍において棒状体2bが縦孔3の内側面に強く当接することがなくなり、パネル1のひび割れや亀裂の発生がなくなる。
拡径部3aは棒状体2bの全長の20%〜50%設けてあると有効に機能する。
さらに、図1〜図3に示すように、上小口面2a側となる棒状体2bの端部に鍔部2aが設けられていると、縦孔3に棒状体2bを挿通したときに挿通孔2bcの深さ位置が確定される。これにより、横孔4を形成する際の位置決めおよび挿通部材5の挿通作業を容易に行うことができるようになる。
【0017】
【実施例】
本実施例は吊り具が小口面に2つ埋設された大型パネルとした。なお、2つの吊り具の埋設構造は、共に同様であるため、図1〜図4に基づいて説明する。
【実施例1】
本実施例の大型の軽量気泡コンクリートパネル1(長さ:3000mm、幅:1500mm、厚さ:120mm、重量:350kg)は、上小口面1a(吊上げ時に上側となる短辺小口面)に縦孔3(直径:30mm、長さ:300mm)とパネル壁面1bに縦孔3へ連通する横孔4とが形成されている。
縦孔3は、パネル厚さの中心であってパネル幅方向の中心と両幅端との中央位置に1つずつ(計2カ所)に穿設されている。さらに、縦孔3の開口部の直径を35mmとする円錐状の拡径部3aが、上小口面1aから100mmの深さ位置まで設けられている。
横孔4(直径:14mm、長さ:95mm)は、それぞれの縦孔3へ連通するように上小口面1aから280mmの位置の壁面1bに穿設されている。
【0018】
そして、図1および図2に示すように、縦孔3から挿通された棒状体2bの挿通孔2bcに、横孔4から挿通された挿通部材5が係合されている。
棒状体2bは直径:28mm、長さ:300mm、厚み:3mmの鋼管とした。
そして、棒状体2bの上端には上小口面1aに当接させる鍔部2a(直径:50mm、板厚3mm)が設けられている。
さらに、パネル吊り具2は、図4に示すように、吊り上げ部材8を係合させる吊り上げ用係合部2baがパネル1の上小口面1a側の棒状体2b内部に設けられている。
また、挿通部材5は直径:12mm、長さ:80mmの棒鋼鉄とした。
【0019】
さらに、接着材7の注入孔6(直径:13mm、長さ:95mm)は、上小口面1aから200mmの位置で縦孔3へ連通して穿設されている。
接着材7は、変成シリコーン系の1液カートリッジタイプ(粘度25:Pa・s/20℃、硬さ(ショア−A):20)の弾性接着剤を使用した。そして、横孔4の開口に接着材7の上昇が確認されるまで注入孔6から接着材7を圧入し続けた。
後述のパネル吊り具1の引き抜き試験終了後に、接着材7の充填状況を確認したところ、棒状体2bの凹凸部2bbの全域(すなわち、200mm/300mm=66% > 1/2 )にわたって接着材7が固着していた。
【0020】
【実施例2】
実施例1との相違は、棒状体2bbの外周面に凹凸部2bbが設けられていることのみであり、その他の条件は実施例1と同様とした。
すなわち、図4に示すように、棒状体2bの下端から200mmまでの外周面にローレット加工による凹凸部2bb(種類:あや目、ピッチt:1.27mm、深さ:0.15mm)を設けた。
【0021】
上記実施例1および実施例2の各パネル1を用いて、引き抜き荷重を1枚のパネルに埋設された2つの吊り具1に負担させて、吊り具1の引き抜き試験を実施した。
このとき、2つのパネル吊り具1には、その中心軸方向に沿ってその引き抜き荷重がかかるようにする。
この試験方法により、どちらか一方のパネル吊り具1の抜け出た変位が1mmとなった時の引き抜き荷重を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1からも明らかなように、実施例1および実施例2のパネルにおいて、吊り具の引き抜き荷重は900kgf以上となり、大きな値が得られた。
なお、接着材7を充填しない状態で実施例と同じ吊り具1を埋設させたパネルにおいて、パネル吊り具の引き抜き荷重を測定したところ、500kgf以下であった。
また、横臥したパネル1を引き起こして吊り上げた際にも上小口面におけるパネルの損傷は見られなかった。
この結果より、本発明の構造であると、重量のある大型のパネルであってもパネルを損傷させることなく、かつ安全に吊り上げることが可能となる。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、パネルの吊上げ時に発生する吊り具によるパネルの損傷を防止するとともに、パネル吊り具の引き抜き荷重を大幅に増大させることができる。
従って、本発明がパネル幅が広く重量のある大型パネルに適用された場合、その効果は一層発揮される。
また、脆弱な軽量気泡コンクリートパネルであっても、パネル吊り具の引き抜き荷重を増大させるとともに、パネル吊り具によるパネルの損傷を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図。
【図2】本発明の一実施例を示す断面図。
【図3】本発明に係るパネル吊り具を示す平面図。
【図4】本発明に係るパネル吊り具を示す正面図。
【図5】従来のパネル吊り具を埋設したパネルを示す断面図。
【符号の説明】
1 コンクリートパネル
1a 上小口面
1b 壁面
2 パネル吊り具
2a 鍔部
2b 棒状体
2ba 吊り上げ用係合部
2bb 凹凸部
2bc 挿通孔
3 縦孔
3a 拡径部
4 横孔
5 挿通部材
6 注入孔
7 接着材
8 吊り上げ部材
10 コンクリートパネル
11 筒状部材
12 棒状部材
13 縦孔
14 横孔
15 固定ボルト
18 吊り上げ部材
20 建物躯体
21 アングル
Claims (8)
- 棒状体と挿通部材とからパネル吊り具が構成されており、コンクリートパネルの上小口面に縦孔とその壁面に前記縦孔に連通する横孔とが形成され、該縦孔に挿通された前記棒状体と該横孔に挿通された前記挿通部材とがパネル内部で係合されているパネル吊り具を埋設したコンクリートパネルであって、前記パネル吊り具は、前記棒状体の一方端の内部に吊り上げ用係合部が設けられており、さらに、その棒状体の外周面が前記横孔と上小口面との間に設けられて縦孔に連通する注入孔から注入された接着材により前記縦孔の内側面に固着されていることを特徴とするコンクリートパネル。
- 前記棒状体の外周面の1/2以上が縦孔の内側面に固着されている請求項1記載のコンクリートパネル。
- 前記接着材は弾性接着材である請求項1または2記載のコンクリートパネル。
- 前記棒状体の外周面には凹凸部が形成されている請求項1、2または3記載のコンクリートパネル。
- 前記凹凸部は、深さ0.05mm以上の複数溝である請求項4記載のコンクリートパネル。
- 前記複数溝は、深さ0.1〜0.4mm、溝ピッチ0.5mm〜2.0mmのローレット目である請求項5記載のコンクリートパネル。
- 前記コンクリートパネルは、軽量気泡コンクリートパネルである請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリートパネル。
- 前記コンクリートパネルは、軽量気泡コンクリートパネルである請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンクリートパネル。
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