JP3976214B2 - Ni基超耐熱鋳造合金およびNi基超耐熱合金製タービンホイール鋳物 - Google Patents

Ni基超耐熱鋳造合金およびNi基超耐熱合金製タービンホイール鋳物 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に自動車用ターボチャージャーを構成する部品であるタービンホイール等の製造に利用するのに適した高強度Ni基合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
ターボチャージャーは排出ガスのエネルギーを利用してエンジンの出力性能を向上させる為の自動車部品であり、これを搭載することにより未搭載の場合に比べ中速域から高速域にかけて圧倒的な加速感を得ることができる。タービンホイールはターボチャージャーを構成する部品の一つで、ターボチャージャーに送られた排出ガスのエネルギーにより10万rpm以上の高速回転をし、その回転軸と同軸上に結合されたコンプレッサーを駆動させる働きをするものである。
【0003】
タービンホイールは約1000℃にもなる排出ガスに晒されながら高速回転をする為、それを形成する材料には優れた耐熱性を有していることが必要不可欠であり、代表的なものとしてはAlloy713C、Mar−M247などのNi基超耐熱合金が挙げられる。Alloy713Cはタービンホイール材料の中では比較的安価で、汎用として広く使用されており、またMar−M247はコスト的にはAlloy713Cの数倍と高価な材料ではあるが、クリープ破断強度に特に優れている為ラリー用などの特殊な車両に使用されている。また近年では軽量化による効率向上を目的としたTi−Al金属間化合物なども知られている。
【0004】
また近年では希薄な混合気を効率良く燃焼させることで燃費の向上を図ることを目的としたエンジンのリーンバーン(希薄燃焼)化が進められており、リーンバーンエンジンは最近では一般車にも搭載されるようになり、今後更に普及していく傾向にある。しかし、リーンバーン化することにより排気温度は通常のエンジンよりも更に上昇し、タービンホイールは更に過酷な環境で使用されることになる。
【0005】
目的用途は異なるが、高温での諸特性を改善したNi基超耐熱合金鋳物の開発例として、特公昭57−15654号では従来合金に希土類元素のうちのCe、LaおよびNdからなる群の1種または2種以上を0.001〜0.030重量%含有させることによって、航空機用ジェットエンジンや発電用ガスタービン鋳物の高温延性の向上を図ることを開示している。また、特公昭51−10574号では耐衝撃性および延性に優れたガスタービン用タービン翼用Ni基合金を開示している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
Alloy713C製のタービンホイールは、通常の一般車用エンジンに搭載するには十分な高温強度を有している。しかし、前述したリーンバーンエンジンは排気温度が通常のエンジンより更に上昇する為、Alloy713Cではその過酷な環境に耐えることができない。そこでAlloy713Cを上回る高温強度を有する材料が必要とされている。Alloy713Cを上回る高温強度を有するNi基超耐熱鋳造合金としてはMar−M247等が知られており、また、高温特性を改善した事例としては先に述べた特公昭57−15654号および特公昭51−10574号などが挙げられる。しかしこれらの合金は希土類元素やTa、Hf等の高価な合金元素を多量に含有しており、材料コストはAlloy713Cの数倍となる。更にMar−M247は鋳造後の凝固収縮によって鋳物内部に引巣が発生し易くHIP処理を施す必要がある為、Alloy713Cと比較すると非常に高価である。この為これらの合金では生産コストが上昇してしまい、一般車用リーンバーンエンジンには不向きである。このことから、Alloy713C以上の高温強度を有する安価な耐熱性合金材料の開発が強く望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者はかかる問題を解決する為、Mar−M247等の高温強度に特に優れた合金からTa、Hfなどの高価な元素を取り除き、材料単価を低減させることを考えた。また、タービンホイールなどの回転体に用いる場合、遠心力を低減させるために比重が小さいことが有利である。そのため材料の比重増大に大きく影響するWを取り除き、比重を低減させることも考えた。しかし、特開平6−57359号において高温強度を向上させる為の手段の一つとしてTaを3.0〜5.5重量%添加することを開示しているように、Ta,Hfには高温強度を向上させる効果があり、単に除去しただけでは高温強度が大きく低下する恐れがある。また、Wにも高温強度を向上させる効果があるため、やはり単に除去するだけでは強度が大きく低下するものと考えられる。
【0008】
本発明者は鋭意研究の結果、これらの中でも特に高価なTa、Hfおよび比重を増加させるWを添加しなくても、主としてMoおよびTi、Nbの元素の添加量を調整することで、Alloy713Cを上回る優れた高温強度を有するNi基超耐熱合金を開発するに至った。
【0009】
即ち本発明は、重量%でCr:7.0〜9.5%、Al:2.5〜6.0%、Mo:1.0〜5.5%、Nb:6.0〜8.0%、Ti:2.0%以下、Co6.0%以下、C:0.02〜0.2%、B:0.03%以下、Zr:0.1%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下を含有し、残部はNiおよび不可避不純物からなるNi基超耐熱鋳造合金である。
この合金は、タービンホイールの一部または全部に使用することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
その基本的な考え方は以下の通りである。
まず、Alloy713CはNi Alを基本とする金属間化合物γ’相の析出によって強化される。γ’相中にはAl以外に主としてTi、Nb、あるいはW,Moが固溶することで更に強度が向上するが、過度に添加すると異相が析出し却って強度を低下させる。
【0011】
以上のことを考慮して、本発明においては、Nb、Moのγ’相への固溶強化量を適正に増大させることにより、高価な合金元素であるTa,HfおよびWを含まない合金でAlloy713Cを上回る高温強度を得ることを検討した。
【0012】
また、合金の高温強度にはγ’相の格子定数も関与しており、γ’相の格子定数が大きいと高温強度は向上する傾向にある。
格子定数を増大させる具体的な方法としては、Cr、Mo、Al、Nbの量を増やすこと、あるいはTi、Coの添加量を増やすことが挙げられるが、本発明者は、特にNbは他の元素よりもその効果が大きいことを知見した。そのため、本発明では従来の合金よりもNbを多量に含有させ、高温強度を高める手法を採用した。
【0013】
本発明において、Nbは、上述したように、本発明合金における高温強度確保のための固溶元素および格子定数を拡大する元素として最も重要な作用を有する元素である。
本発明においてNbは、重量%で6.0%以上の添加を必要とするが、重量%で8.0%を越えると組織を不安定化させ、合金の延性および靭性が低下する。よってNb量は重量%で6.0〜8.0%とする。
【0014】
本発明において、Moは一部γ相に固溶して、高温強度を高める重要な元素である。Moはさらにγ’相にも固溶して高温強度を上昇させる作用がある。このためMoは重量%で最低1%必要であるが、過度の添加はσ相などの有害相の析出を生じる為に、常温延性の低下を招く為、上限は5.5%とする。
【0015】
本発明においてCrは、高温加熱中に合金の表面に密着性の高い酸化皮膜を形成し、耐酸化性を高める。タービンホイール用としての耐酸化性を保証する為に重量%で最低7.0%は必要であるが、9.5%を越えると組織が不安定となり、硬くて脆いσ相などの有害相を生成し、クリープ破断強度と常温延性の低下を招くので、Cr量は重量%で7.0〜9.5%の範囲とする。
【0016】
γ’相はNi Alを主体とする金属間化合物であり、それ自身の高温強度が大きく、金属間化合物の中では延性が大きい為、多くの超耐熱合金の強化に用いられているが、Alは安定なγ’相を析出させてクリープ破断強度を得る為に不可欠な元素であり、重量%で最低2.5%を必要とする。ただし6.0%を超えてあまり多量に添加しすぎると、粗大な共晶γ’相を生じて逆にクリープ破断強度は低下する為Al量は重量%で2.5〜6.0%の範囲とする。
【0017】
TiはNbと同様γ’相に固溶し、γ’相を固溶強化して高温強度の向上に役立つので必要に応じて添加できる。しかしながら2.0%を越える過度の添加はγ’相を不安定化して、高温長時間使用後の強度の低下を招き、また延性をも阻害するので、Tiを添加する場合は重量%で2.0%以下とする。
【0018】
Coは基地のγ相中に固溶し、固溶強化作用を有すると共に、γ相を高温まで安定化させることにより高温強度を向上させることができるが、過度の添加は耐酸化性を低下させるため、添加する場合は、上限を重量%で6.0%以下とする。
【0019】
Cは炭化物を形成し、特に結晶粒界、樹枝状晶境界に析出して粒界や枝状晶境界を強化し、高温強度の向上に寄与する為重量%で0.02%以上必要であるが、0.2%を越えて添加すると延性を阻害する恐れがある為、C量は重量%で0.02〜0.2%の範囲とする。
【0020】
B、Zrは共に結晶粒界強化作用により基地を強化し、高温強度の向上に寄与するが、Bの場合重量%で0.03%、Zrの場合0.1%を越えて添加すると延性を阻害する恐れがある為、B量は重量%で0.03%以下、Zr量は0.1%以下の範囲とする。なお、以下の元素は下記の範囲内(重量%)で本発明合金に含まれてもよい。
本発明の基本的な特性に影響しない範囲で、製造工程で混入、あるいは残留する元素が合って良いのはもちろんである。たとえば典型的には、以下の範囲の元素が存在していても構わない。
P≦0.04%、S≦0.03%、W≦1.0%、Cu≦0.30%、V≦0.3%、Ta≦0.5%、Mg≦0.02%、Ca≦0.02%、Fe≦3%、Hf≦0.2%
【0021】
【実施例】
表1に示したNo.1からNo.7は本発明合金、No.8からNo.11は比較合金、No.12は従来合金のAlloy713Cであり、これらの合金について高温引張試験およびクリープラプチャー試験を実施し、その特性を比較した。
【0022】
【表1】
Figure 0003976214
【0023】
先ずNo.1〜No.12について各合金を真空炉内で溶解し、同炉内に設置したロストワックス用セラミック鋳型に鋳造して、φ12mm×82mmの棒材を作製した。これを平行部がφ6.4mmの鍔付引張試験片、および平行部がφ5.0mmのクリープラプチャー試験片に機械加工した後、引張試験については720℃および820℃の2条件、また、クリープラプチャー試験については720℃雰囲気中で負荷応力700MPa、820℃雰囲気中で負荷応力500MPa、および1000℃雰囲気中で負荷応力180MPaの3条件で試験を行なった。尚、試験片には熱処理は施さなかった。
【0024】
【表2】
Figure 0003976214
【0025】
表2は高温引張試験の結果を示している。720℃では従来合金と比較して本発明合金が0.2%耐力で3%〜6%、引張強度で8%〜11%向上しているが、比較合金は0.2%耐力で約1%、引張強度で約3%程度の向上であった。また、820℃では従来合金と比較して本発明合金が0.2%耐力で11%〜29%、引張強度で4%〜7%向上したのに対し、比較合金は0.2%耐力が最大のもので3%、引張強度は従来合金と同等であり、比較合金は800℃以上の高温域でAlloy713C以上の高強度が得られなかったことが判る。
【0026】
【表3】
Figure 0003976214
【0027】
表2に示すように、本発明合金および比較合金は破断寿命において従来合金を大きく上回っている。特に本発明合金は720℃では従来合金の4〜5倍、820℃では1.5〜2.5倍、更に1000℃では2.5〜3倍とその差は顕著である。比較合金の破断寿命は720℃では従来合金の約3倍であり、特性は向上しているが、820℃以上の高温域では本発明合金ほどの向上は見られなかった。
【0028】
これはNo.8の場合、Nbが低く、固溶強化が不十分であるとともに、γ相の格子定数に所望の値よりも低くなっている。比較合金No.9およびNo.10の場合はそれぞれTi、およびNbが高すぎて高温強度が低下している。比較合金No.11はMoが低く、クリープ破断強度が小さくなっている。
【0029】
次に、実際に重要なのは従来よりどれだけ高温の環境で使用することができるかということである。つまり同等の応力下において同等の破断寿命を得る場合の各合金の温度(耐用温度)が従来合金に対してどれだけ向上しているかということが重要となる。各合金の耐用温度を確認する為、先ず主な合金(No.1、6、7、10、12)についてクリープ破断応力とラーソンミラー指数の関係を表す図1のグラフ作成した。ラーソンミラー指数Pは温度T(℃)と破断時間t(hr)の要素を含んでいる指数であり、次の数式(1)で求められる。
【0030】
P=1.8(T+273)(20+logt)・・・・・・・(1)
【0031】
次に従来合金の720℃および1000℃における100hr破断応力を読み取る。具体的には数式1から720℃、100hrおよび1000℃、100hrを示すラーソンミラー指数を計算し、図1からこれらのラーソンミラー指数における従来合金のクリープ破断応力(図1中に“720℃−100hr”および“1000℃−100hr”で示した直線と従来合金を示す線との交点における応力である680MPaおよび110MPa)を読み取る。そして、これらの応力下での各合金のラーソンミラー指数を読み取り、数式1より逆算してそれぞれ100hr破断温度を算出した。その結果および各合金の従来合金に対する耐用温度差を表4に示した。
【0032】
【表4】
Figure 0003976214
【0033】
表3から本発明合金および比較合金の耐用温度は、共に従来合金よりも向上しており、特に本発明合金は高温域において30℃以上の向上が認められた。
【0034】
【発明の効果】
本発明合金はTa、Hfなど高価な合金元素を含まない為、材料単価は従来のAlloy713C並みの安価であり、しかもその耐用温度は従来以上に優れているので、自動車用タービンホイールに使用することによって、これまでMar-M247など高価な材料でしか使用されていなかったリーンバーンエンジンへの搭載が可能となり、従来よりも低コストでリーンバーンエンジン搭載車が生産できる。また、通常のエンジンに搭載することによって、タービンホイールの寿命を従来より大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明及び比較合金のクリープラプチャー特性を示す。

Claims (2)

  1. 重量%でCr:7.0〜9.5%、Al:2.5〜6.0%、Mo:1.0〜5.5%、Nb:6.0〜8.0%、Ti:0〜2.0%、Co0〜6.0%、C:0.02〜0.2%、B:0.03%以下、Zr:0.1%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、残部はNiおよび不可避不純物からなることを特徴とするNi基超耐熱鋳造合金。
  2. タービンホイールの一部または全部が請求項1に示すNi基超耐熱鋳造合金からなることを特徴とするNi基超耐熱合金製タービンホイール鋳物。
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