JP3975780B2 - 収縮抑制方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、大気汚染などの地球環境問題や作業環境の安全衛生面での問題が指摘されている揮発性有機化合物(VOC)を殆ど或いは全く含有しない、植物油を溶剤成分の主成分とした環境対応型印刷インキにおいて、安定した乾燥性及び機上乾燥性を保持し、印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮(痩せ・細り)を極力抑制させることができる浸透乾燥型の印刷インキを使用したゴムロール及びブランケットの収縮(痩せ・細り)抑制方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、オフセット印刷インキに用いる溶剤は含有している芳香族炭化水素を水添により非芳香族成分としたものが主体となっている。特に三環以上の多環式芳香族炭化水素を含む溶剤は大気汚染などの環境問題や作業環境の安全衛生面での問題点が指摘されている。
【0003】
浸透乾燥型印刷インキは高速印刷時のインキの安定性保持のため、印刷機上での溶剤の蒸発を抑制することが必要であり、高沸点の溶剤を使用することが不可欠であった。このため従来の溶剤は、石油精製の際の高沸点留分が主に用いられていたが、これらの溶剤は芳香族成分含有率が高く、近年は環境面から非芳香族成分を主体とする溶剤への置換が進み、印刷メーカー各社で使用されている。更に、最近では大気汚染などの環境問題や作業環境の安全衛生面をより重視して、芳香族や非芳香族等の溶剤を含む揮発性有機化合物(VOC)を殆ど或いは全く含有しない、印刷インキも開発されている。
【0004】
安全衛生面の点から使用されている非芳香族成分を主体とした溶剤は従来の芳香族系溶剤(以下、鉱物油と称す)に比べ、樹脂との溶解性が問題となる。特に高沸点の非芳香族溶剤では、インキ化した場合に樹脂の溶解性の不良により、流動性が劣化し、転移不良等の問題が発生する。その樹脂の溶解性を補うものとして、植物油は樹脂溶解性が良好であり、揮発成分を殆ど或いは全く含有しない。
【0005】
酸化重合型乾燥方式をとる印刷インキでは、乾性油と称する不飽和脂肪酸エステルを主成分とする植物油が利用されており、印刷後に脂肪酸中の不飽和部分の酸化重合で皮膜を形成してインキを定着させている。しかし植物油の含有率を高めていくと、樹脂溶解性過多により溶剤離脱が起こりにくくなり印刷直後の表面乾燥性(以下セットと称する)が劣化する。また、インキ中の不飽和成分の比率が高くなるので、インキ自体は表面に乾燥皮膜を形成しやすくなり作業性も劣化する。
【0006】
浸透乾燥型乾燥方式をとる印刷インキでは、植物油の含有率を高めていくと機上安定性の向上には寄与するものの、樹脂からの溶剤離脱が遅くなることによるセットの劣化は酸化重合型インキと同様である。機上安定性とは、インキの印刷機上での溶剤蒸発による流動性の劣化の程度を表す。流動性劣化が少ないこと、もしくは流動性が劣化するまでの時間が長いことがインキ性能として優れている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明で使用されている環境対応型インキは、大気汚染などの地球環境問題や作業環境の安全衛生面での問題が指摘されている揮発性有機化合物(VOC)を殆ど或いは全く含有していないことから、印刷現場での印刷作業者あるいは、印刷物を見る読者に対して安全で環境に優しく設計されているということで、地球環境保全へ貢献している。
【0008】
しかしながら、この環境対応型インキに使用しているインキ成分の内、植物油は、印刷機のゴムロール及びブランケットを収縮させやすい傾向がある。印刷機のゴムロール及びブランケットが収縮していまうと、ロール間のニップ幅が狭くなり、着肉不良等が発生し、良好な印刷紙面が得られない。
【0009】
ゴムロール及びブランケットの収縮に関するメカニズムは、環境対応型インキに含まれる植物油が、ゴム中の可塑剤を抽出させることにより空隙ができる。これらはゴムとの親和性が劣るため、できた空隙に補充が行われず、収縮が起きる。従来の鉱物油でも同じ様にゴム中の可塑剤を抽出し、空隙ができるが、芳香族系の溶剤はゴムとの親和性があるため、その空隙を補充する(膨潤)効果があり、収縮を和らげる。
【0010】
そこで、インキ面からゴムロール及びブランケットの収縮を極力抑える検討をインキ各社で行っているが、未だ十分な解決策は見出されていない。一方、ゴムメーカーにおいても、環境対応型インキに対するゴムロール及びブランケットの改良は進められているものの、未だ完全ではない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の印刷インキと同様な印刷における機上安定性と乾燥性のバランスを保ちつつ、印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮をインキ面から極力抑えることのできる印刷インキ組成物によるゴムロール及びブランケットの収縮(痩せ・細り)抑制方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、顔料とワニス用樹脂と植物油とを含む印刷インキにおいて、油脂類を1価または多価アルコールでエステル交換して得られる脂肪酸エステルを全印刷インキ中5〜30重量%添加してなることを特徴とする浸透乾燥型印刷インキに関する。
【0013】
更に本発明は、顔料とワニス用樹脂と植物油とからなる浸透乾燥型インキに、油脂類を1価または多価アルコールでエステル交換して得られる脂肪酸エステルを全印刷インキ中5〜30重量%添加することを特徴とする印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮抑制方法に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する脂肪酸エステルの原料となる油脂類としては、例えば、大豆油、アマニ油、コーン油、米糠油、菜種油、脱水ヒマシ油、小麦胚芽油、ゴマ油、トール油、麻実油、エノ油、ひまわり油、桐油、シナギリ油、サフラワー油、綿実油、等の植物油、秋刀魚油、鰯油、鯖油、イカ油等の魚油、鯨油等の天然油脂が挙げられる。
【0015】
本発明における1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−又はiso−プロパノール、n,sec又はte t−ブタノール、ヘプチノール、2−エチルヘキサノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等の飽和アルコール、オレイルアルコール、ドデセノール、フイセテリアルコール、ゾンマリルアルコール、ガドレイルアルコール、11−イコセノール、11−ドコセノール、15−テトラコセノール等の不飽和脂肪族系アルコールが挙げられる。
【0016】
本発明における多価アルコールのうち2価アルコール(グリコール)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ジペンタメチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサデカン−1,2−ジオール、オクタデカン−1,2−ジオール、イコサン−1,2−ジオール、ドコサン−1,2−ジオール、トリコサン−1,2−ジオール、テトラコサン−1,2−ジオール、オクタデカン−1,3−ジオール等が挙げられ、3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0017】
上記油脂類を上記アルコールでエステル交換する反応は、例えば、両者を無触媒好ましくは酸触媒又はアルカリ触媒の共存下、常圧又は加圧下に加熱する方法が挙げられるが、他の方法であってもよい。上記エステル交換反応生成物は、そのままでも使用でき、又、エステル交換物を蒸留によって脂肪酸のエステルを分留して使用してもよい。この様なエステル交換物は、全印刷インキ中5重量%〜30重量%、好ましくは10重量%〜20重量%を占める割合で使用される。5重量%以下では印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮を抑制することはできず、30重量%以上では、ゴムロール及びブランケットが膨潤してしまい、印刷時に問題となる。
【0018】
本発明で使用する植物油は、アマニ油、桐油、エノ油等の乾性油や大豆油、米糠油、菜種油、ゴマ油等の半乾性油が望ましいが、必要に応じてヤシ油、オリーブ油、パーム油等の不乾性油を併用することも可能である。添加量としては、全印刷インキ中10重量%〜60重量%が望ましい。10重量%以下では樹脂との溶解性不足によりインキの流動性が不足し、場合によっては機上安定性に問題を生じる。また、60重量%以上ではセットが劣化する。
【0019】
本発明で使用するワニス用樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂が好ましく、必要に応じて石油樹脂、アルキッド樹脂との併用も可能である。ロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量としては、1万〜40万のものが望ましい。1万以下ではインキの粘弾性が不足し、40万以上ではインキとしての流動性が不充分となる。ロジン変性フェノール樹脂の溶解性としては、日本石油(株)製0号ソルベント溶剤でのトレランスが10%〜40%のものが望ましい。10%以下ではインキのセットが劣化し、40%以上ではインキの流動性が低下する。
【0020】
トレランスとは樹脂Xgを試験管に取り、溶剤で加熱溶解させたのちに25℃に冷却したときの白濁しない最小樹脂濃度であり、数値が小さいほど溶解性が優れている。
【0021】
トレランス(%)=樹脂(Xg)/[樹脂(Xg)+溶剤(Yg)]×100
本発明で使用される顔料は、従来の印刷インキに使用されているものであって、従来公知の顔料は本発明の印刷インキ用顔料として、何れもそのまま使用することができる。又、その使用量も従来公知の印刷インキと同様、全印刷インキ中10重量部〜40重量部を占めるものである。
【0022】
本発明の印刷インキに配合できる、他の助剤としては、ドライヤー、ゲル化剤、乾燥抑制剤(遅延剤)、酸化防止剤等の添加剤を適宜用いることができる。
【0023】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。例中、「部」「%」は、それぞれ「重量部」「重量%」である。
[ワニス製造例]
(ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスの製造1)
コンデンサー、温度計、及び攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製、重量平均分子量22万、酸価20、軟化点162℃)38.5部、大豆油30部、6号ソルベント(日石三菱(株)製)30部を仕込み、180℃に昇温し、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間攪拌してロジン変性フェノール樹脂ゲルワニス1を得た。6号ソルベントは従来の芳香族系石油溶剤で、一部有害であると言われている、三環以上の多環式芳香族炭化水素を含んでいる。
【0024】
(ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスの製造2)
コンデンサー、温度計、及び攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製、重量平均分子量22万、酸価20、軟化点162℃)38.5部、大豆油30部、AFソルベント6号(以下AF6と称す)(日石三菱(株)製)30部を仕込み、180℃に昇温し、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間攪拌してロジン変性フェノール樹脂ゲルワニス2を得た。
【0025】
(ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスの製造3)
コンデンサー、温度計、及び攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製、重量平均分子量22万、酸価20、軟化点162℃)38.5部、大豆油60部を仕込み、180℃に昇温し、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間攪拌してロジン変性フェノール樹脂ゲルワニス3を得た。
【0026】
[インキ製造例]
実施例1〜4および比較例5〜8
得られたロジン変性フェノール樹脂ワニス1を60部、藍顔料(リオノールブルーFG−7330、東洋インキ製造(株)製)17部を配合し三本ロールで練肉し、藍インキベース1を得た。
【0027】
続いて得られたロジン変性フェノール樹脂ワニス2を60部、藍顔料(リオノールブルーFG−7330、東洋インキ製造(株)製)17部を配合し三本ロールで練肉し、藍インキベース2を得た。
【0028】
続いて得られたロジン変性フェノール樹脂ワニス3を60部、藍顔料(リオノールブルーFG−7330、東洋インキ製造(株)製)17部を配合し三本ロールで練肉し、藍インキベース3を得た。
【0029】
次いで、該藍インキベース1、2及び3に対して、表1の配合で溶剤を添加して粘度5.0〜5.5Pa・sに調整し、実施例1〜4、比較例5〜8の印刷インキ組成物を得た。
【0030】
【表1】
【0031】
評価結果
上記実施例及び比較例の印刷インキ組成物について機上安定性・セット及び印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮性について評価を実施し、結果を表2に示した。
【0032】
【表2】
【0033】
機上安定性は東洋精器(株)製デジタルインコメーターにて、40℃、インキ0.1cc、1000rpmの条件でのタック値の最大値と初期値の差(以下△T値と称す)と最大値を示すまでの経過時間(以下Tmax値と称す)により評価を行った。△T値が小さく、Tmax値が大きいほどインキのタック値変動が少なく、インキ性能として優れている。
【0034】
セットは新聞用更紙を用いて濃度1.00の展色刷を作成し、展色直後から展色面にコート紙をあて、少しずつずらしながら圧力10barをかけ、更紙からコート紙へのインキの転移を観察、転移しなくなった時間(以下セット時間と称す)により評価を行った。セット時間が短いほどセットは優れているが、セット時間が短すぎる場合には、実印刷ではガイドローラー汚れの原因となる。
【0035】
印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮性の評価は、以下のゴム浸漬試験にて行った。ゴムシートA((株)金陽社製.硬度30)及びB(明和ゴム工業(株)製.硬度25)を100mm×15mm×2mmにカットし2個1組とする。これらのゴムシートを浸漬前に重量、体積、硬度を測定する。定量容器にインキを100g入れ、ゴムシートを浸漬させる。40日浸漬後に取り出し、ゴムシートに付着したインキを溶剤を使わず、布等でよく拭き取る。1時間放置後、重量、体積、硬度を測定する。浸漬前に測定した重量、体積、硬度に対し、浸漬後どれだけ変化したかの割合を、重量変化率、体積変化率、硬度変化率とし百分率で表す。ゴム中の可塑剤が抽出されると、重量及び体積は減少し、重量変化率及び体積変化率はマイナスになる。また硬度は硬くなり、硬度変化率はプラスになる。
【0036】
【発明の効果】
本発明で得られるインキは従来の環境対応型インキと比較して、機上安定性及びセットを向上させることができる上に、問題であったゴムの伸縮に関しても大きく抑制された。したがって、本発明により、大気汚染などの地球環境問題や作業環境の安全衛生面での問題が指摘されている揮発性有機化合物(VOC)を殆ど或いは全く含有しない印刷インキでも、比較例8の一部有害性が指摘される多環式芳香族成分を含んだ鉱物油タイプのインキと同レベルのゴムの伸縮度合いまで抑制させることができるインキ組成物を提供することができた。
Claims (1)
- 顔料とワニス用樹脂と植物油とからなる浸透乾燥型インキに、油脂類を1価または多価アルコールでエステル交換して得られる脂肪酸エステルを全印刷インキ中5〜30重量%添加することを特徴とする印刷機のゴムロール及びブランケットの収縮抑制方法。
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